アンリ・メルケル(Vn)ミュンシュ指揮パリ音楽院管弦楽団(warner/EMI/lys/dutton/grammophone/columbia他)1941/7/21,22・CD
この曲は三楽章からなるしっかりした協奏曲で、この時期のフランス音楽の世俗性、そのまわりの暗雲たちこめる気配を反映した、とても映画音楽的な作品である。個性的なところもあるが、おおむね一般にアピールするヴァイオリン協奏曲のタイプであり、ウォルトンを弱めたようなものである。最小限の管楽器、とくにミューティングされたトランペットなど、効果的に扱われている。先鋭なところはほとんどなく、ソロはアマチュアも挑めるような書法で、甘い旋律が目立つ(ラフマニノフぽいものまで現れる)。三楽章はラテン風味があるが、そのものではなく、リズムと音の動きの一部で、みずみずしい透明感のある響きがアク抜きをしている。中でもハープのつまびきはこの人に特徴的でアクセントになっている。メルケルの音は安定した上で感傷的だが少し線が細い。そのため旋律をおおいに歌うというところまではいかず、はからずも節度があらわれている。ミュンシュは職人的に曲想にあわせた幸福な音の交錯をさばき、後年とは違う美観を示している。
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