大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・038『千駄木女学院・2』

2019-07-01 14:17:33 | 小説
魔法少女マヂカ・038  
 
『千駄木女学院・2』語り手:マヂカ  

 

 

 特務師団への出向を打診されているんだ。

 女子高生に会ったかの返事も待たずに話題が飛ぶ。

 ソファーに浅く座って、投げ出した脚を気ままに組んだ姿は、いかにも小悪魔的な魔法少女ぶりなんだが、眉間に寄せた皴が、心底から悩んでいる様子がうかがわれる。

「なんで、ブリンダが特務に?」

 わたしも、内心ではブッタマゲテいる。

 アメリカの魔法少女が日本の特務に入るなんて前代未聞だ。

「魔物たちが千年に一度の活動期に入ったんだそうだ。それも、国や民族の垣根を超えたインターナショナルのものになっちまってる。流行りの言葉ならグローバル化とも言える。とにかくかさにかかって人類社会に挑んでくるんだそうだ。G20が大阪であったろう……あれの本当のテーマはグローバル化した魔物への対応だったのだ。結果は、特務師団の強化と国際的な支援。そんで大統領の鶴の一声で『ブリンダの出向』が決まったというわけさ」

「トランプの指示?」

「魔界のアメリカ大統領ロナルド・レーガンさ」

「レーガン!?」

 魔界のアメリカ大統領は、ずっとF・ルーズベルトがやっていたはずだ。

「ああ、空母レーガンが横須賀を基地にしたときにな。二十一世紀、魔界の脅威は極東にあるという判断からだ。むろん依り代は空母レーガンだ」

「あんたといっしょにやるのは気が進まないわね」

「わたしもだ」

「危なくって、おちおち戦っていられないか?」

「いいや、いちど戦友になってしまったら、戦いにくくなる。マヂカは永遠の敵(かたき)だからな」

「そういう言い回しは、屈折した友情を現わすもんだが、ブリンダのは心底のヘイトだもんな」

「神田明神の横やりが入らなかったら、今ごろは、そこの石膏モデルの代わりにマヂカの首がおったっているところだ」

 

 コツコツ……窓ガラスを叩く音がした。また、ガーゴイルか? 違った、窓の外には、さっきの女子高生がいて、しきりに美術室の奥を指さしている。

 部屋の奥……そこには石膏モデル……と思ったら、強烈な殺気を感じた!

「「敵だ!」」

 いっしょに叫んだかと思うと、体が動いていた。

 グワッシャーーーン!

 ブリンダと二人、ガラスを突き破って、突き破った勢いのまま空高く舞い上がった。

 連携したわけではないが、上空で二つに分かれる。敵の勢力を分散させるためのセオリーだ。

 モリエールが、ヴィーナスが、ヘルメスが、サモトラケのニケが、ラオコーンが、アポロが、ブルータスが、マルスが、男の足が、女の手が、唸りを上げて追いかけてくる。

 バシッ! ベシッ!

 こんなものに後れを取る魔法少女ではない。わたしもブリンダも、またたくうちに数体の石膏像を撃破する。

「気を付けろ! こいつらは破片で目つぶしを食らわせてくるぞ!」

「イェイ!」

 右手でピースサインをつくり、横ざまに目の前をスライドさせる。いわゆる――イェイ!――の横ピースサインだが、カワイコブリッコを狙っているわけではない。目を保護するためにバリアーを張っているのだ。

 トリャー! セイ! アチョ-!

 百体はあろうかと思われた石膏像は、数分で粉砕することができた。

 大した敵ではなかったが、ブリンダと共同でやっつけたことが気持ちい。

 残敵が居ないことを確認して地上に降りる。

 

 ウ……!

 

 ブリンダが顔をしかめた。

「かけらが目に入った! 気を付けろ、地上付近に滞留してるぞ」

 バリアーを早く解除しすぎたのか、奴らの手なのか、ブリンダは両目をやられてしまった。

「ブリンダ、わたしが!」

 件の女子高生が駆け寄ると、ブリンダの首をホールドし、舌を伸ばして石膏の欠片を舐めとる。

 可愛い顔をしているが、その舌は、人間のものとは思えないような動きで舐めとってしまった。

「わたしでも役に立ちます……ごいっしょさせてください」

「ちぇ、仕方がないなあ……マヂカ、こいつ、須藤公園の河童だ。こいつも仲間にするから、よろしくな!」

 

 河童こみで、ブリンダの特務入りが決まってしまった……。

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん⑦』

2019-07-01 07:01:19 | 戯曲

連載戯曲『梅さん⑦』      

 

: おふくさーん……行っちゃった……
: 忙しいのよみんな。
担当の数も多いし、身内のこととなると、やっぱり人任せにはできない。明治女の業かもね……
: ……
: 少子化って問題になってるでしょ。あれ、半分ちかくはわたし達の仕事。
 そこの池田さんちの勇君、説明したら、わりとあっさり受け入れたわよ。
 「ああリセットできるんだ」そう言って、うっすら笑って消去。
 ハリのないことおびただしい「じゃ、やるわよ」「うん」「プシュッ!」それでおしまい。
 逆に、こちらが口を挟む間もないくらい、言い訳しゃべりまくる人もいる「海外旅行行き損ねたところがあるから……」「まだ本当の恋をしたことがないから」「いっぺん万馬券をあててみたい……」「阪神の優勝をもう一度」
 紙屑が燃えるときみたたいに、ペラペラと良く喋る……でも両方とも一緒。まっとうに生きようという気持ちがない。渚は……
: 一つ聞いていい?
: なに?
: 梅さんはどうしてあたしの体を……?
梅: 言ったでしょ、わたしにも情があるって。たとえ体だけでも渚を生かしてあげたい……それと、正直に言うね。
 わたし、もう一度やり直したい……やり続けたい思いが山ほどあるの、文章を書いてみたい。心の想いを形にしたい。
 わたしが雪を生んで、あの歳で死ななかったら、五千円札の肖像は、私だったかもしれない……
 わたしの心の中には、この源七の盆栽のように開く寸前だった蕾がいくつもあった。
 人の一生は短い、渚の体を受け継いでも、四十年がいいとこ……(それほど痛めつけてるのよ、自分の体を)……
 それでも、せめてその蕾の一つでも花を咲かせたい、そう言う想い……これ以上は酷だからよすわ。それともう一つ…
: それってもっともらしいけど、自分勝手じゃね?
: どうして?
: だって、あたしの体だよ。
 どうしてもっていうんなら、その池田なんとか君みたいにあっさり消してもらったほうがさっぱりするよ!  
: だってもったいないでしょう、あと四十年はもつんだから、その体。
: だって、だってあたしの体だよ。どうしようとあたしの勝手じゃん!
: その勝手で迷惑をかけられる世間は渚のものじゃないんだよ。渚は、木に咲く一つの花にすぎないんだからね。
: でも、やだ! あたしの体はあたしの体だよ!
: そう……そこまで言うんじゃ仕方がない(消去用の銃をとり出す)
: あたしの体なんだ、たとえひいひい婆ちゃんだからって……
: みんな忘れちゃうんだよ、お父さんもお母さんも、友だちも先生も、コンビニのおねえさんも、となりのポチも。
 この引き金をひいた瞬間に……渚って子を忘れちゃう……ううん、存在しなかったことになる。
 渚の持ち物も、関係したものも全て消える。
 小学校の卒業記念に壁のタイルに残した手形も、ぬりたてのコンクリートにいたずらで残した靴のあとも……いいのそれで? 
 水野家は、この盆栽と同じように、渚が存在しないことが、ごく自然な中年夫婦だけの家になる、池田さんちのようにね。
 むろんわたしも人生のやり直しをあきらめなくっちゃならないけどね。
: (梅の懐剣をとっさにとる)なら死んでやる! そうすれば、渚が死んだ悲しみをみんな憶えてくれるじゃないか。
 そして、後悔すればいいじゃないか、ああもしてやればよかった、こうもしてやればよかったって!
: 最低ね、あてつけに命を絶って、みんなが悲しむ方がいいの?
: あたし……だってあたし…… 
: やり直そうよ二人とも、わたしは渚になって、渚はまた赤ちゃんにもどって……
: ウヮー(泣く)やだよそんなの、どこの家に生まれるかわからなくって、あたしがあたしでなくなって……
 そんなのやだよ、怖いよう、ウワーン……
: 安心おし、わたしが渚を産みなおしてあげることになっているから……きちんと育てて、
 夢と思いやりのある子に育ててあげる……元締めとのやりとりで、そういう約束になっているの……
 これ、本当は言っちゃいけないことなんだよ。インサイダー取引と同じだから。
: ……あたしは……あたしは、ほんとうにこのままでいると……沢山人に迷惑をかけるんだね……
: うん、酷なようだけど……明日の天気予報よりも確かなことよ……
: ……渚のこと、かわいがって育ててくれる? 夜遅くまで保育所にいれっぱなしにしない? ちゃんとダッコとかしてくれる? 
 学童保育で渚がいじめられてることを知りながら「やられたらやりかえしな」って無責任につき放して、鍵っ子にしたりしない?
: あたりまえじゃないか、四代先のやしゃごが、今度は自分の娘になるんだから……
 自分の子供がかわいくない親なんて、わたしの時代にはいなかった。
 「できたみたい」そう言ったら「二人の子供だ、しっかり産めよ!」わたしの時代の男は、みんなそう言った……
 そういう男を見る目は確かだからね……いい男を亭主に見つけるよ……だから、やり直そうね……
: うん……
: じゃ、いくよ(懐剣をかまえる)……覚悟!
: ちょっと待って!(梅ずっこける)
: な、なによ?!
: 最後に会っておきたい人がいるの、その人に一目会ってから……
: いいよ、それくらいのこと。会ってくればいいよ。どこにいたって、渚の居場所はわかるから。
: ほんと? 三丁目の八百屋さんなの。梅さんもついてきて!(立ちあがる)
: え、あたしも!?

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・12〔もう、あなたの……〕

2019-07-01 06:52:28 | 小説・2
高安女子高生物語・12
〔もう、あなたの……〕
       


 なんで目覚ましが!?

 頭が休日モードになってるんで、しばらく理解でけへんかった。
 せや、今日はドコモ文化ホールで、裏方の打ち合わせ兼ねてリハーサルやったんや!

 朝のいろいろやって……女の子の朝ていろいろとしか言えません。こないだリアルに書いたら自己嫌悪やったから。
 高安から鶴橋まで定期で行って、鶴橋から地下鉄千日前線。NN駅で降りてすぐ。
 ちょっと早よ着き過ぎて、ホールの前で待つ。南風先生と美咲先輩がいっしょに来た。
「お早うございます」
「なんや、まだ開いてないのん?」
 ほんなら、玄関のガラスの中から小山内先生が、しきりに指さしてる。
「え……」
「ああ、横の関係者の入り口から行けるみたいですよ」
 美咲先輩が言う。こういうことを読むのは上手い。

――ほんまは、美咲先輩の芝居やったんですよ!――

 思てても、顔には出ません出しません、勝つまでは……ただの思いつきの標語です。
 ちょっと広めの楽屋をとってもろてるんで、直ぐに稽古。
 台詞も動きもバッチリ……そやけど、小山内先生は「まだまだや」言わはる。
「エロキューションが今イチ。それに言うた通り動いてるけど、形だけや。舞台の動きは、みんな目的か理由がある。女子高生の主人公が、昔の思い出見つけるために丘に駆け上がってくるんや。十年ぶり、期待と不安。ほんで発見したときの喜び。そして、そのハイテンションのまま台詞!」
「はい」
 ほんまは、よう分かってへんけど、返事は真面目に。稽古場の空気は、まず自分から作らならあかん。
 稽古が落ち込んで損するのんは、結局のとこ役者や。ほんで、今回は役者はあたし一人。

 よーし、いくぞ!

 美咲先輩は気楽にスクリプター。まあ、せえだいダメ書いてください。書いてもろて出来るほど上手い役者やないけど。

 もう、本番二週間前やさかい、十一時までの二時間で、ミッチリ二回の通し稽古。
「もうじき裏の打ち合わせやから、ダメは学校に戻ってから言うわ」
 小山内先生の言葉で舞台へ。南風先生はこの芸文祭の理事という小間使いもやってはる。ガチ袋にインカム姿も凛々しく、応援の放送部員の子らにも指示。
 本番通りの照明(あかり)作って、シュートのテスト。
「はい、サスの三番まで決まり。バミって……アホ、それ四番やろが。仕込み図よう見なさい!」
 南風先生の檄が飛ぶ。放送部の助っ人はピリピリ。美咲先輩はのんびり。
 美咲先輩は、本番は音響のオペ。で、今日は、まだ音が出来てないから、やること無し。

 正直言うて、迷惑するのは舞台に立つあたしやねんけど、学年上やし……ああ、あたしも盲腸になりたい。

「ほんなら、役者入ってもろてけっこうです」
 舞台のチーフの先生が言わはる。
「はい、ほなら、主役が観客席走って舞台上がって、最初の台詞までやりましょ。明日香いくぞ!」
「はい、スタンバってます!」

 一応舞台は山の上いう設定なんで、程よく息切らすのに走り込むことに、先週演出変えになった。

「……5,4,3,2,1,緞決まり!」
 あたしは、それから二拍数えて駆け出す。階段こけんように気ぃつけながら、自分の中に湧いてくるテンション高めながら、走って、走って、舞台に上がって一周り。

「今日こそ、今夜こそあえるような気がする……!」

 ああ、さっきまでと全然違う。こんなにエキサイティングになったんは初めてや! いつもより足が広がってる! 背中が伸びてる! 声が広がっていく!

「よっしゃ、明日香。その声、そのテンションや、忘れんなよ! 舞台の神さまに感謝!」

 小山内先生は、舞台には神さまが居てるて、よう言わはる。ただ、気まぐれなんで誰にでも微笑んではくれへん。
――あと二週間、微笑んどいてください――
 心の中で、そないお願いした。

 さあ、昼ご飯食べたら、学校で五時まで稽古。がんばろか……。

 そない思うて、観客席みると美咲先輩が他人事みたいに大あくび。

「もう、あなたの毛は生えたのだろうか!?」

 美咲先輩めがけてアドリブを、宝塚の男役風にかます。
 さすがにムッとした顔……舞台のチーフの先生が。

――え、なんで?――

「あの先生はアデランスや、アホ!」

 南風先生に怒られてしもた。
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高校ライトノベル・里奈の物語・11『同じニオイ』

2019-07-01 06:41:23 | 小説3

里奈の物語・11『同じニオイ』
               


 枕元にハイカットスニーカーを置いた。

 お母さんは、こういうことは嫌がる。だから、枕元に置くのは初めて。
 新品の匂い……ゴムとか接着剤の匂いなんだろうけど、臭いとは書かない、匂いだ。

 あたしは臭いフェチじゃない。
 匂いが頼もしいんだ。これから何百万歩も歩く脚を包んでくれる、頼もしいあたしの相棒。
 匂いは、その相棒の体臭……やっぱ変かな?

 明日から、これを履いて日に二万歩ぐらい歩くんだ!

 で、目が覚めたら雨が降っていた。
 

 引きこもり最初のころ「明日は学校に行くんだ!」と決心したことがある。
 でも、決心したあくる朝は雨。で、ズルズルになってしまった。
――今度も、またか……――

 自己嫌悪。

 でも、あの時は新品の靴じゃなかった。
 今日出かけると、ハイカットスニーカーを汚してしまう。いずれは汚れるんだけど、初日にベチョっと汚れるのは御免だ。
 ネットで週間予報を見る。ここしばらくはぐずついた天気。クソっと思いながら安心している自分がいる。
 そんな自分は嫌なんで、妥協して、お店の前の掃除をする。
 掃除しながら歩数を数える。八十八歩で終わった。少ないけど八が重なってるんでラッキー。

「里奈ちゃん、配達に回るんやけど、付いてくるか」
「あ、はい」

 店先でしょぼくれているのも迷惑かなと思って返事。返事はしたけど車でなかったら嫌だなあ、古い靴で雨の中は御免だ。

 心配したけど車だった。阿倍野区の骨董屋さんまで品物を届けに行く。
「かいらしい靴やなあ」
「ポストの近所の靴屋さんで買ったの」
「ああ、ボストン靴店」
「うん、お店大変そうだけど、品物はいいみたい」
 助手席の下で行儀よく靴先をそろえる。
「そうか……ええ買い物したなあ」
 気のせいか、伯父さんは言葉を言いよどんだような気がした。
「今日下ろすって決めてたから、この配達ラッキー!」
「そら、よかった」
 伯父さんは笑顔で応えてくれた。ほんとは事情なんて知ったうえで声を掛けてくれたんだろうけど、気配りが嬉しい。

「商品入れるの手伝うてくれるか」
「はい」

 阿倍野の骨董屋さんは規模は大きいけど駐車場が無い。
 五十メートルほど離れたコインパーキングに留めて、伯父さんが二つ、あたしが一つ持ってお店に。
「まいど、葛城アンティークです」
「やあ、これはわざわざ。おや、娘さんですか?」
「妹の娘の里奈です。ご挨拶しい」
「あ、里奈です……ど、どうも」
 自分でも分かるくらいに顔を赤くして、ぎこちない挨拶。
「ほんなら交換の商品はあっちですけど、ちょっと休んでいっとくなはれ」
 店のご主人がみずからお茶を入れてくださる。伯父さんとご主人は最近替わった阪神の監督の話で盛り上がる。

「ほな、そろそろ失礼しますわ」

 阪神の選手を十人近く話題にしたところで、伯父さんが腰を上げた。
 交換の商品を見てびっくり。持ってきた商品の倍はある。
 骨董というのは大きさや量には関係ないけど、これほど違うとは思わなかった。
「孫に手伝わせますわ。おーい、拓馬あ!」
「……はーい」
 店の奥から男の子が出てきた。あたしと同年配の高校生……。

 そいつはジャージ姿で、あたしと同じニオイがした……。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・45≪国変え物語・6・大泥棒の成れの果て≫

2019-07-01 06:33:38 | 時かける少女
時かける少女BETA・45 
≪国変え物語・6・大泥棒の成れの果て≫


 美奈は、秀吉のヘルニアを治し、女の身でありながら、お伽衆を兼ねた殿中の医師になった。

「儂の周りは年寄りが多いでな、時々来ては、そちの申す健康診断とやらをやってくりゃれ」
 と言う程度のもので、縛りはなかった。秀吉にすれば茶碗のように集めている人間コレクションの一つのつもりであった。
 が、美奈にとっては秀吉への接近という大きなステップを踏んだことになる。

 天正十三年(1585)の初雪の頃、美奈は五右衛門に呼ばれた。

 使いの者は蜂須賀家の家来を名乗っていた。美奈を乗せた駕籠は、かなりややこしい道をたどったが、着いたところは人を喰ったことに道頓屋敷から辻二つ後ろの空屋敷であった。美奈は体内にGPS機能があるので承知していたが、騙されたふりをしておいてやった。
「ずいぶん遠くまですまなかったな」
 五右衛門はケロリと言った。
「蜂須賀さまを騙ったのは、なにかご縁があって?」
「ああ、小六さんは大先輩の大泥棒だ。迷惑を掛けない範囲で黙認してもらっている」

 そう言えば、蜂須賀小六は従四位下修理太夫などというたいそうな大名になっているが、元は美濃の国の大泥棒で、秀吉との縁で大名にまで上り詰めた。心の中に封じてはいるが、五右衛門とは浅からぬ縁がある。
「どうだ美奈。この半月で大名やら豪商から頂戴したお宝だ。ざっと百はある」
「こんなものを自慢したかったの?」

「この半月以内に、東海から近江、畿内にかけて大地震がおこる。放っておけば瓦礫の下になってオシャカになるものばかりだ。これはマブだぜ」
「この十日ごろにおこるわ。お互い似たような力があるようね」
「美奈も分かんのかよ……?」
「うん、大体のとこは……亡くなる人も見当がつくけど、地震で死ぬのも定命。手を尽くしても亡くなる人は亡くなるわ」
「なんだか、つまらんような楽しいような、妙な気分だ」
「ごめん。正直に驚いてあげれば良かったんだろうけど、五右衛門さんの狙いは別のところにありそうだから。ずばり聞かせて」
「そうか……実は、蜂須賀の兄貴があぶねえ。盗みにかけてはなんでもやるが、人の命ばかりはどうにもならねえ。美奈、なんとか蜂須賀の兄貴を助けてやってはくれまいか」
 五右衛門は、裏も表もない真剣な顔で言った。

 五右衛門と美奈の予見通りに十二月の十日に東海から畿内にかけて大地震が起こった。
 名だたる者でも前田利家の弟や、山之内一豊の八つになったばかりの娘などが亡くなった。
 蜂須賀小六の屋敷は、五右衛門が主も知らぬ間に耐震補強をやって事なきを得たが、当主の小六は日ごとに体調が悪くなり、桜が散ったころには寝床から起き上がることもできなくなった。
 五右衛門の頼みの他にも、秀吉自身からも小六の治療をするように頼まれていたが、小六は固辞した。

 五月に入って、秀吉はたまらなくなり、美奈を連れて小六の屋敷を訪ねた。

「頼む、小六は、儂が土くれ同然の頃からの朋輩じゃ、なんとしても助けてやってくれ」
 秀吉も五右衛門と同じような顔で美奈に頼んだ。
「修理太夫さま、肝の臓に腫れものができております。すぐにお直ししますから」
 治療用具を取り出そうとすると、小六は病人とは思えぬ力で遮った。
「美奈どの、ありがたいが、儂は定命だと思っている。これだけの悪事を働きながら六十路まで生きながらえた。これ以上は、もういい。もし助かるのなら、その分を藤吉郎(秀吉)の定命に付け足してやってくれ。あいつも若いころに、かなりの無理をしている。しかし、あいつは天下に無くてはならん男だ。よろしく頼む……」

 小六の決意は固かった。

 美奈は、ありのままに秀吉に話した。秀吉は子供のように泣いた。
 こんなに人間的で情に厚い秀吉が数年後人替わりしたように残虐無常になるとは信じられなかった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・52』

2019-07-01 06:24:09 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・52 



『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない1』

 あ……

 思わず声になるところだった。

 ピノキオの公演が終わり、環状線に乗り換えようと電車を降りて、それが視界に入ってきた。
 二つ向こうの環状線のホームに入ってきた外回りの電車に由香が乗り込もうとしているのを。
 そしてそれを見送る吉川先輩。
「わたしK書店に寄るから」
 みんなと分かれて階段を下りる。
「本の虫やのう」
 大橋先生の声と、みんなの笑い声が喧噪の中に際だった。本屋さんに行くんじゃない。このまま環状線のホームに向かったら、吉川先輩と鉢合わせしてしまう。そのための緊急避難。
 中央改札まで出て先輩とみんなをやりすごそうと思った。改札近くに大阪城のジオラマがアクリルのケースの中に見えた。
「そういえば、まだ行ったこと無いなあ……」
 という感じでのぞき込んでいたら。

「お、主演女優!」

 というわけで、吉川先輩とコーヒーショップのカウンターに並んで座っている。
 しばらく沈黙。カウンターは一面ガラスの壁を隔てて通路に面しているので、動物園のパンダみたい……って、どこにでもいる高校生の二人連れ、パンダほど目立ちゃしないけど。
「わたし主演じゃありませんからね。主演はタマちゃん先輩のスミレです」
「いいじゃんか、どっちでも。あの芝居は二人とも主演だよ」
「ども……」

 ココアをすする。

「思ったより、ずっとイイできだったよ。正直もっとショボイかと思ってた」
「どうして、来たんですか」
「電車で」
「もう、そんなズッコケじゃなくって」
「由香が誘ってくれたんだ。はるかの初舞台だしさ……いけなかった?」
「自信がないから、先輩には声かけなかったんです」
「どうしてさ、あんなにイイできだったのに」
「演ってみるまではわかんないもん。それに先輩だって、自分のコンサート言ってくれなかったじゃないですか」
「はるかには大口たたいちゃったからさ、見られてショボイと思われんのやだから」
「わたし、サックスなんて解りませんよ」
「いいや、はるかは解ると思う。ジャンルは違うけど」
「ありがとうございます。とりあえずお礼言っときます」
「とりあえずかよ」
「だって、先輩の基準て、仲良しグループのレベルなんでしょ」
「そうだけど、いいものはいい。それでいいじゃん。はるか、文学もいいけど、役者もいいよ。はるかには華があるよ」
「こないだは文学がいいって、言った」
「あのときは、まだ、はるかの芝居観てなかったもんな」
「……ども」
「でも、華の下には、何かが隠れてんだよな……」
「隠してませんよ、ハナの下は口。見えてるでしょ」
「ハハ、そういうとこがさ。ハナの下は自分じゃ見えない。ココアの泡付いてんぞ」
 イヤミったらしく、ペーパーナプキンが差し出される。慌てて拭くと何も付いていない。
「もう、帰ります」

……と立ち上がったら、それから行くところは同じだった。本屋さん。

 もう見つかちゃったんだから、本当に行ってみようと思った。
 ただ、わたしは駅の近くのK書店しか知らなかったけど、先輩は少し離れたところのJ書店。少し離れてるかと尻込みしたが。
「品揃え二百万冊だぜ」
 そうささやかれて、あっさり宗旨替え。このへんは母親譲りのようだ。
 二百万冊~♪ 東京の本店よりすごいかも!?

 基本は、やっぱ、ミーハーなんです。はい。
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