大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・043『そのあくる日』

2019-07-12 15:42:06 | 小説
魔法少女マヂカ・043  
 
『そのあくる日』語り手:マヂカ  

 

  お、おはよう。

  声が裏返りそうになる、いつもの挨拶なのに。

「どうかした?」

「ううん、てか、友里、昨夜は試験勉強とかがんばった?」

「え、あ……アハハ。やろうと思ったんだけどね、お風呂あがったら、そのままバタンキューでさ。でも、まあ、現国だから、なんとかなるっしょ」

 やっぱ、昨夜の出撃が応えてるんだ。

 傀儡になっていたから、当然昨夜の記憶はないだろう。でも、初出撃の疲労は残っているはずだ。

 ひょっとしたら、今日は休むかもしれないと思った。

 期末考査に入っているので、万一待ち合わせに間に合わなかったら、そのまま学校に行くと決めてある。へんにメールとかして気の遣い合いをしていると共倒れになる、友里とは申し合わせてある。ポリコウ(日暮里高校)は進学校なんかじゃないけど、勉強とか試験とかいうことになると、昭和的な生真面目さのある学校なのだ。だから、友里と二人の取り決めは自然なことなんだ。

 あ……友里。

 交差点の向こうに友里の姿が見えたときは、大げさだけど感動した。

 魔法少女のわたしでも、昨夜の出撃は堪えた。乙一の水龍だったけど、最初は押され気味になってしまった。ブリンダと呼吸が合わなかったんだ。数回アタックして広島沖の瀬戸内海で撃破したときは、二人ともズタボロになっていた。バトルスーツは初出撃でお釈迦になってしまった。綾香姉(ケルベロスの義体)が作ってくれたドリンクが無ければ、疲労と興奮で朝まで眠れなかっただろう。

 わたしでも、こうなんだ。だから、人間の友里がいつものように大塚台公園の前で待ってくれているのを見て、ウルっと来てしまったんだ。

「えと……なんで、蒸気機関車見てんだろう?」

 気が付くと、公園の中で静態保存されているC58の前で立ち尽くしていた。

「アハハ、これって、もとは北海道走ってたSLだから、北海道とか旅行に行けるといいかなって? 潜在意識かな?」

 我ながら苦しい言い訳をする。

「そだね、こんなのに乗って調理研のみんなで旅行とか行けるといいね」

 なんとか誤魔化せた。たった一度の出撃だったけど、師団気動車『北斗』には愛着が出てきたんだ。

 

「三両目じゃないの?」

 

 ホームの乗車位置を変えた。五両目なら友里一人分座席が空いていることをサーチしたから(反則なんだけどね)。

 シートに座ると、友里はノートを出したまま寝てしまった。少しでも勉強しておこうという気持ちも大事にしてあげたかったけど、日暮里に着くまで寝かせてやった。

 学校に着くとノンコが遅刻。清美は休みだ。清美は砲雷手で、一番神経が張り詰めていたからなあ……申し訳ない。

 試験が始まると、十分で友里は寝てしまった。答案は半分ほどが空白のままだ。

 いけないことなんだけど、七十点くらいになるようにテレキネシスで答えを書いておいてやる。ノンコにはなにもしてやらない。意地悪なんかじゃない。最初から寝てしまったノンコの答案を書いてしまったら、怪しすぎるでしょ。

 

 来栖師団長のゴリ押しで始まった特務師団。始めざるを得ない状況なのは分かる。でも、このままじゃもたないぞ……。

 書き終えて裏返しにした答案の上にサッと日差しが被る。

 窓の外、空を見上げると梅雨末期の雨雲が切れて、お日様が顔を出したのだ。

 きっといい方向にいくさ! そうゲン担ぎをしなおした。

 

 

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・23〔佐渡君……〕

2019-07-12 06:31:12 | 小説・2

高安女子高生物語・23
〔佐渡君……〕        



 今日は休日。

 何の休日?……建国記念の日。カレンダー見て分かった。英語で言うたらインディペンスデー。昔観たテレビでそういうタイトルの映画やってたんで、うちの乏しい「知ってる英単語」のひとつになってる。
 建国記念というわりには、それらしい番組やってへんなあ……そう思て新聞たたんだらお母さんのスマホが鳴った。
「お母さん、スマホに電話!」
 そう叫ぶと、お母さんが物干しから降りてきた。

 で、またお祖母ちゃんの病院へ行くハメになった……。

「病院の枕は安もんで寝られへん!」

 ババンツのわがままで、布施のお祖母ちゃん御用達の店で、新品の枕買うて病院に行くことになった。
 今日は、一日グータラしてよ思たのに……。

 お母さんが一人で行く言うたんやけど、途中でどんなわがまま言うてくるか分からへんので、うちも付いていく。うちがいっしょやとババンツは、あんまり無理言わへんから……言うても、インフルエンザの影響で、会えるわけやない。ナースステーションに預けておしまい。それでも「明日香といっしょに行く」いうだけで、お祖母ちゃんのご機嫌はちゃうらしい。

 商店街で枕買うて、表通りで昼ご飯。回転寿司十二皿食べて「枕、食べてから買うたほうがよかったなあ」と、母子共々かさばる枕を恨めしげに見る。枕に罪はないねんけどなあ。
 西へ向かって歩き出すと、車の急ブレーキ、そんで人がぶつかる鈍い音!

「あ、佐渡君(S君のことです)!」

 佐渡君はボンネットに跳ね上げられてた。車はあろうことかバックして佐渡君を振り落とした!
 うちは、夢中でシャメ撮った。車は、そのまま172号線の方に逃げていきよった!
 佐渡君は、ねずみ色のフリースにチノパンで転がってた。まわりの人らはざわめいてたけど、だれも助けにいけへん。
 うちは、昨日のことが蘇った。
 どこ行くともなくふらついてた佐渡君に、うちは、よう声かけへんかった。偽善者、自己嫌悪やった。

「佐渡君、しっかりし! うちや、明日香や、佐藤明日香や!」

 気ぃついたら、駆け寄って声かけてた。

「佐藤……オレ、跳ねられたんか?」
「うん、車逃げよったけど、シャメっといたから、直ぐに捕まる。どないや、体動くか?」
「……あかん。口と目ぇしか動かへん」
「明日香、救急車呼んだから、そこのオッチャンが警察いうてくれはったし」
 お母さんが、側まで寄って言うてくれた。
「お母さん、うち佐渡君に付いてるさかい。ごめん、お祖母ちゃんとこは一人で行って」
「うん、そやけど救急車来るまでは、居てるわ。あんた、佐渡君やな。お家の電話は?」
「おばちゃん、かめへんねん。オカン忙しいよって……ちょっとショックで動かへんだけや、ちょっと横になってたら治る」
 佐渡君は、頑強に家のことは言わへんかった。

 で、結局救急車には、あたしが乗った。

「なあ、佐藤。バチ当たったんや。佐藤にもろた破魔矢、弟がオモチャにして折ってしまいよった。オレが大事に……」
「喋ったらあかん、なんや打ってるみたいやで」
「喋っといたって。意識失うたら、危ない。返事返ってこんでも喋ったって」
 救急隊員のオッチャンが言うんで、うちは、喋った。
「バチ当たったんはうちや。昨日……」
「知ってる。車に乗ってたなあ……」
「知ってたん!?」
「今のオレ、サイテーや。声なんかかけんでええんや……」
「佐渡君、あれから学校来るようになったやん。うち嬉しかった」
「嬉しかったんは……オレの方……」
「佐渡君……佐渡君! 佐渡君!」

 あたしは病院に着くまで佐渡君の名前を呼び続けた。返事は返ってこうへんかった……。

 病院で、三十分ほど待った。お医者さんが出てきた。

「佐渡君は!?」
「きみ、友だちか?」
「はい、クラスメートです。布施で、たまたま一緒やったんです」
「そうか……あんたは、もう帰りなさい」
「なんで!? 
佐渡君は、佐渡君は、どないなったんですか!?」

「お母さんと連絡がついた。あの子のスマホから掛けたんや」
「お母さん来はるんですか?」
「あの子のことは、お母さんにしか言われへん。それに……実は、あんたは帰って欲しいて、お母さんが言うてはるんや」
「お母さんが……」
「うん、悪いけどな」
「そ、そうですか……」

 そない言われたら、しゃあない……。

 うちは泣きながら救急の出口に向う、看護師さんがついてきてくれる。

「跳ねた犯人は捕まったわ。あとで警察から事情聴取あるかもしれへんけどね」
「あ、うち住所……」
「ここ来た時に、教えてくれたよ。警察の人にもちゃんと話してたやないの」

 うちの記憶は飛んでしもてた。全然覚えてへん。うちは、救急の出口で、しばらく立ってた。

 タクシーが来て、ケバイ女の人が降りてきた。直感で佐渡君のお母さんやと感じた。
「あ……」
 言いかけて、なんにも言われへんかった。ケバイ顔の目ぇが、何にも寄せ付けへんほど怖うて、悲しさで一杯やったさかいに。

 ヘタレやさかいやない。うちの心の奥で「声かけたらあかん」という声がしてたから……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・22『骨董屋の里奈ちゃん』

2019-07-12 06:15:28 | 小説3

里奈の物語・22
『骨董屋の里奈ちゃん』

 
 
 

 

 アンティーク葛城は繁盛している。

 中国を始めとする外国人観光客の取り込みに成功しているのだ。
 外国人観光客の多くは、純然たる骨董ではなく、実用になるものや、出来のいいレプリカを買っていく。

 中国の団体さんは、わびさびとかじゃなくて、
自然な形で鉄分が補給できるということで鉄瓶を買っていく。大型の観光バスでやってきて、嵐のように爆買いしていく。

 欧米の人は個人旅行が多く、二三人でやってきては根付や浮世絵のレプリカ(伯父さんは「新古美術」という)を買っていく。
 根付はスマホのストラップに、浮世絵は額に入れて飾って楽しむ。
 日本人のように値段の高い時代物を買って仕舞い込んでおくようなことはしない。

 伯父さんは、そういう外国人をうまく取り込んで、お祖父ちゃんの時よりもお店を繁盛させているんだ。

「せやけど、日本のお客さんにも来てほしいなあ」

 ということで、春画に目を付けた。
 

 春画は浮世絵の主流だったそうだ。歌麿も写楽も北斎も春画を描いている……ってか、主な仕事は、そっちの方だったらしい。
 明治になってから春画は「いかがわしいもの」という烙印を押され、日陰者になってしまった。
「考えたら分かるじゃない。富士山や東海道の名所なんかだけ描いてて儲かるわけないじゃん」
 女三人連れのお客さんに教えてもらった。
「こないだは、細川元総理のコレクションが展覧会に出てたんだよ」
 と、フェミニンボブさん。
「フランスじゃ、春画は芸術品よ」
 と、ポニテさん。
「文春で春画特集やるんだもんね、もうメジャーよ」
 ヒッツメさんが締めくくる。
 価値基準が自分の感性にないことは「あれ?」だったけど、女の人が大っぴらに春画を見たり買ったりできるのは、いいことだと思う。

 伯父さんは、春画のレプリカにパンフレットを付けたのをセットにして3990円で売りだした。

 拓馬んちから帰って、袋詰めを手伝ったのが、それ。
 

 昨日は15セット、今日は33セットが売れた。
 夕方には中国の団体さん同士がガチンコして、店の外まで混雑。あたしがお客なら、この混雑を見ただけで気後れして帰る。
 でも、根付目当ての外人さんや、春画女子の人たちは臆せずに目当ての品物にアタック。
 あたしも、そういうお客さんを相手にレジを打てるようになった。さっきの三人連れさんみたくお話しもできる。
 今里に居る限り、普通の女の子で存在できる。
 お客さんもご近所も『骨董屋の里奈ちゃん』というカテゴライズで接してくれる。

 カテゴライズは嫌いだ。でも『骨董屋の里奈ちゃん』というのは有りだと思う。

――こないだはゴメン。また、そっち行っていい?――

 お店が終わって『骨董屋の里奈ちゃん』のテンションが弛まないうちに、拓馬にメール。
――オレが、そっちに行くってのはどうかな?――
 と、返って来た。
 拓馬は、いつもあたしの一歩先に出てくる。びっくりして腰が引けることが多かった。
 今度は素直に――どうぞ――と返事ができた。

 とりあえず、あたしは『骨董屋の里奈ちゃん』さ!

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・56≪帰還 コビナタの願い≫

2019-07-12 06:04:06 | 時かける少女

時かける少女BETA・56 
≪帰還 コビナタの願い≫ 


 目の前にハーブティーのほのかな湯気、湯気の向こうにコビナタの済まなさそうな顔。

「お疲れ様。今度は十年もがんばってもらったわね……」
「世界は変わりましたか」
「そうね……」

 二人は、庭の世界の樹を四阿(あずまや)の窓越しに見上げた。

「……なにも変わっていないように見えますね」
「ミナにも分かるようになったのね」
「はい、タイムリープする理由も分かってます。今回のは秀吉の朝鮮侵略を止めるものだったんですね」
「ええ、それは成功したわ。豊臣の政権は、史実通り1615年に秀頼の代で滅んでしまったけどね」
「やっぱり、あの子は秀頼って名づけられたんですね……」
「文禄慶長の役が無くなれば、半島との関係は良くなるだろうと思ったんだけどね」
 コビナタは一本の枝の節くれを、ため息をつきながら見た。
「節の位置が変わってますね」
「十七世紀、明と清が遅れて衝突した。史実より十年も遅れて。遅れた分、清は力を付けてきた。その分歴史が変わった」
「清が明にとって代わるだけじゃないんですか?」
「半島にまで手を伸ばして、半島の北半分を清国領にしてしまった。半島の政権は三代家光のころに江戸幕府に援軍を頼んできた」
「援軍を頼んできたのは明じゃないんですか?」
「援軍を依頼する間もなく、明は滅んでしまったわ。歴史は代わりのものを用意する。それが半島の王朝」
「……たしか、柳生や老中の反対で救援を拒否するんですよね」
「そう。この映像を観て」

「……老中評議の結果。朝鮮への援軍はいたさぬこととあいなりました」

 酒井雅楽頭(うたのかみ)が老中の総意を家光に奏上した。一瞬家光の顔は朱を刷いたようになったが、深呼吸すると、冷静に頷いた。
「組織として、幕府は出来上がっているんですね……でも、これで半島からは?」
「倭の裏切りって、教科書には載ってるわ」
「え、そんな……」
「国が半分取られたからでしょうね。日本は助ける力がありながら半島の悲劇を見殺したことになってる」
 ハーブティーの香りがいっそう強くなったような気がした。
「あの枝の先には、もう節くれを作りたくないの」
 香りの強くなったハーブティーを飲み干して、ミナは聞いた。
「今度は、なにを?」
「今度は明治と大正……日韓併合を阻止してほしいの」

 コビナタが、リープの前に目的を明確に示すことは珍しかった。今度は意気込みが違うとミナは思った。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・63』

2019-07-12 05:56:40 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・63



『第七章 ヘビーローテーション1』


「ヘッヘー、どんなもんや!」

 再生し終えたスマホから、メモリーカードを取り出して、由香はユカイそうに胸を反らせた。

 アリバイとしては十分過ぎるものであった。
 お母さんのリストにあったものは、全て撮ってある。
 タマゲタのは、いくつかのスナップ写真にわたしと由香がツーショットで収まっていることだ。
「これって合成?」
「まあね。苦労したわ、はるかはめ込むのん」
 由香はミルク金時の最後のひとすくいを口に放り込んだ。
 由香にアリバイ工作を頼んだ甘いもの屋さんに、新大阪から直行してきたのだ。
「由香って、こんなこともできたんだ……」
「まあね……」
 中之島公園のバラ園の花言葉のときの十倍くらいタマゲタ。
 そして気づいた。
「あ……これって、もう一人いないと撮れないよね?」
「え?」
「だって、由香自身は実写でしょ……ってことは、だれかがいっしょにいて撮ったってことじゃないの」
「そ、それはやね……」
「白状しちゃえ、吉川先輩と行ったんでしょ?」
 由香は照れ隠しと、なんだかわかんない気持ちを隠し、スプーンをマイクのようにして言った。
「……そうです。そのとーりです。ほんでからに合成は吉川先輩が、パソコンで横浜の友だちのとこにデータ送ってやってもらいました。なんか文句ある!?」
「ないない。こっちは頼んだ側なんだから」
 わたしもブル-ハワイの最後のひとすくい。
「ほんまにかめへんのん?……あたし、もう本気やで!」
「ぜんぜん、わたしと先輩は互いにワンノブゼムなんだから」
 正直、吉川先輩とは、人生観ってか、根本的なところで埋めがたいものを感じはじめていた。オチャラケタ話ならともかく、人や物事に取り組む話や付き合いになると、どうしようもなく傷つけてしまいそう。

 こないだ、いっしょしたJ書店でもミーハーなうちはよかった。
 でも、演劇書のコーナーの片隅に大橋先生の本を見つけたときの彼の態度。
「ま、ご祝儀だ」とレジに持っていき、精算がすむと「ほれよ」と、わたしに放ってよこした。
 大橋先生は、けっして売れてる劇作家なんかじゃない。でも、ぞんざいに上から目線で扱っていいことにはならない。ミーハー感覚はすっとんでしまった。
「どうしたんだよ」
「なんでも」
 けっきょく、気まずく書店の前で別れた。

――やばい!――

 思わず声に出るところだった。
 念のため、電車の中で再生してみて気がついた。写メの中のわたしが着ているキャミは、こないだ由香とワーナーの映画を観にいったときのだ。
 このキャミは、東京に行く前に洗濯して……干したままだ。
 お母さんがもう取り込んでいるはず。そこにこのキャミの写メを見たら……トリックがばれてしまう!


 溺れる者は藁をつかんで沈んでいく……のかもしれないが、高安の二つ手前の駅で降りて、あのキャミを買った量販店に向かう。
 もう秋物が出始める時期、もうあのキャミはないだろうけど……。

「あった!」

 それは、夏のクリアランスで、バーゲンのワゴンの中に一枚だけ残っていた。お父さんのポロシャツといい、このキャミといい、わたしはバーゲンにはついているのかも知れない。
「あ……」
 手を出そうと思った瞬間、横からさらわれてしまった。
 二十代前半くらいのオネエサン。

「それ、ゆずってください!」

 由香のような生粋の大阪の女子高生なら平気で言えるんだろうけど、大阪に来てまだ五ヶ月足らず。それも今朝までは東京の女の子にもどってしまっていた。
 とっさには声が出ない。
 オネエサンはキャミを手にはしたが、目はまだワゴンの商品の上をさまよっている。
 わたしは、オネエサンがしばし目を停めたワンピをサッととって体に合わせてみた。
「これいいなあ……」
 鏡に映しスピンしてみた。
「ううん……どうしようかな」
 オネエサンの目がこちらに向いた。
 五秒ほどじらして、ワンピをワゴンにもどし、別のを手に取る。
 オネエサンは、そのワンピを手に取った。わたしは「あ!」という顔。するとオネエサンは、手にした他のバーゲン品をワゴンにもどし、ワンピを手に鏡に向かった。
 チャンス! 
 さりげにキャミをゲットして、レジに向かった。
 演技が初めて役に立った(後日この話をすると、乙女先生は爆笑。大橋先生は、「舞台で、そこまでリアリティーのある芝居をやってみろ」と、意見された)

 お店の化粧室で着替えて、やっと帰宅。
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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・7』

2019-07-12 05:42:56 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・7
ゼロからの出発

 

大橋むつお

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

二人、下手の袖に入りごそごそする。やがて、ピンク色のドアを押しながらあらわれる。

少女: たぶんこれだな。
パリー: まちがいありません。ピンク色の片びらき、おなじみの「どこもでもドア」です!
少女: よし、「どこもでもドア」よ、魔王の名にかけて命ず、我ら二人を魔法博物館の……
パリー: あの……魔法じゃないんですから、これは。
少女: すまん、いつものくせが出た。
パリー: 魔法博物館地下百階の大金庫!(キンキラキーンとか電子音がする)
少女: ……賢者の石と御対面だな。
パリー: き、緊張しますね。
少女: わしも、現物にお目にかかるのは初めてだからな。
パリー: せ、先生からどうぞ。
少女: 君から先にいきたまえ。
パリー: いえ、先生から。
少女: じゃ、二人いっしょに入ろう。(二人でノブに手をかける)
パリー: 二人同時には無理なようです。
少女: では、わしから(ドアを開けて入る)……おお、これが魔法博物館地下百階の大金庫か!
パリー: せ、先生……
少女: 家の前の道路にそっくりだ!
パリー: 家の前の道路です(少女ずっこける)
少女: そんな馬鹿な……
パリー: 先生、ここにマニュアルが(ドアの枠を示す)
少女: なに……「どこもでもドアの使用説明」……
パリー: ちょっとちがいます「こどもでもドアの使用説明」
少女: 「こどもでもドア」?……「こどもにドアの開け閉めのしつけをするための練習用のドアです。完全なドアの開閉には、まず……」
パリー: まちがえたようですね……
少女: やりなおそう……

 ドアを押して再び袖へ、すぐに別のドア(開きが左右逆。つまり、さきほどのドアを裏がえしにしたもの)

少女: さあ、今度こそ本物の「どこもでもドア」だぞ。
パリー: さっきのと同じようですけど。
少女: ようく見なさい。さっきの「こどもでもドア」は右びらきだが、これは左びらきだ。
パリー: なるほど……
少女: さあ、いくぞ。魔法博物館地下百階の大金庫おおおおおおおおおお!!

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