大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・034『聞きそびれる』

2019-07-09 13:06:55 | ノベル
せやさかい・034
『聞きそびれる』 

 

 

 長和殿というんや……。

 ほら、正月の新年参賀とか天皇誕生日とかに天皇陛下を真ん中に皇族の皆さんがお並びになって手ぇ振ってはるとこ。

 京都の三十三間堂みたいに長細くって、二階のとこがガラス張りになって、参賀に来た人らが日の丸の小旗をワサワサ振ってる。日本人やったら、自然に穏やかで嬉しい気持ちになれる光景。

 天皇陛下の右に皇后陛下が寄り添われ、両陛下の横には何人もの親王、内親王、女王の皇族方。

 その皇族方の中に頼子さんがブロンドに青い瞳で手を振ってる。いや、手を振っておられます。

 頼子さんの母君は○○宮女王殿下で、法律や皇室典範の改正で女性宮家が認められ、その第一号として○○宮の継嗣にならはったんや。

 史上初めてのハーフの皇族、ブロンド美少女のそれも堺市出身の女王殿下の誕生に日本中が湧いた!

 大阪は、万博開催決定以上の喜びに、地元堺では古墳群の世界遺産登録がかすんでしまうほどの歓喜に溢れた!

 

 パンパカパンパンパーーーーーー!

 

 そこでファンファーレが鳴ったと思うと、頼子さん一人をおいて、バッキンガム宮殿に変わった。

 プラチナ色のローブにティアラを頭に頂いた姿は『ローマの休日』のアン王女を彷彿とさせる。

 トランプのキングみたいなオッサンが出てきて、巻物を縦にしたようなんを掲げて、シェークスピア劇みたいに読み上げる。

「レィディ~ス アンド ジェントルメ~ン! 女王陛下並びに議会の決定により、スミス・エディンバラ公の第一王女にして、日本国○○宮女王であるヨリコ殿下を我がグレートブリテン及び北アイルランド連合王国のロイヤルファミリーに列することを宣言いたしま~す!」

 パンパカパンパンパーーーーーー!

 再びファンファーレが鳴り響き、プリンセス頼子はオードリーヘップバーンみたいに満面の笑みで日英両国民に微笑みかけるのであった!

 

 アハハハハハハハ……

 

 頼子さんは腹を抱えて笑い、留美ちゃんは――ほんまにアホやなあ――という顔で苦笑い。

「いやあ、せやさかいに、そういう夢を見た言う話なんですぅ!」

「いまの夢で当たってるのは、わたしが美少女というとこだけね。でも、いくら美少女でも父親が外人だったら皇族になんてなれないんだよ」

「いえ、なれます!」留美ちゃんが断言する。

「え、なんで?」

「皇族と結婚した女性は皇族になれるんです。皇后陛下も秋篠宮妃殿下も民間人でした。あ、上皇后陛下も民間人。日清製粉社長の娘さんだったんで『粉屋の娘プリンセスに!』って見出しでアメリカの新聞にも載りました!」

「そうなんだ! 留美ちゃんて物知りだ!」

「すっごい、尊敬する!」

「そ、尊敬なんかいいですから、チャッチャと手を動かしましょう!」

 留美ちゃんの忠告で、再び文芸部の三人はチマチマと手を動かす。

 わたしらは、エディンバラ合宿を控えて千羽鶴を追ってるとこ。

 なんで千羽鶴?

 アホな夢の話をしてたら、肝心の事聞きそびれてるあたしでした。

 ちゃんちゃん。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・4』

2019-07-09 06:27:01 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・4
ゼロからの出発
 
 
 
大橋むつお
 
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
少女: まあ、そこに掛けたまえ。これを飲むといい、百味ボーンズを溶かしたお茶だ。心配せんでも鼻くそ味とか耳くそ味じゃないはずだ(飲む)うん、初恋の味だ。
パリー: ……(飲む)
少女: どうだい?
パリー: 初恋の……でも失恋味です。
少女: こりゃ、重症だな。
パリー: はい……先生は、どうしてそんな一昔前のコギャルの姿に?
少女: 底意地の悪い校長のせいさ。
パリー: ひげもぐらの?
少女: ああ、実は、学校をおはらい箱になっちまってな。
パリー: ひげも……校長先生がクビにしたんですか?
少女: 名目は転勤だけどな、ファグワーツへ。
パリー: ファグワーツ……魔法界の名門校。大栄転じゃないですか!
少女: 本人が望んでおればな。ひげもぐらはわしに転勤を申し渡すと同時に、ライセンスをとりあげ、ファグワーツに送ってしまいおった。ファグワーツに着くまで、わしは魔法がつかえん。
パリー: で……そのお姿は?
少女: 化学(ばけがく)の時間に話が脱線してな。非模範的な人間の姿に化けて見せてやったんだ。学校や、ここの近所にも暴走族が出始めたり、援助交際のまねごとに興味を示す女生徒がいたりするからな。
パリー: 箒にオートバイの爆音をおぼえさせて喜んでる男の子もいますからね。
少女: そのとおり。そして、この姿に化けたまんまでひげもぐらに呼びだされ、転勤を申し渡されちまった。
パリー: その時、ライセンスも?
少女: 一瞬遅ければ、奴を本物のひげもぐらにしてやれたんだがな……おまえさんは、いつ魔力を失ったんだ?
パリー: えと……夏のおわりごろから魔法がかかりにくくなって、先週の薬学の時間、笑い薬の調合ができなくなってからは、さっぱり……
少女: 薬学……ジェシカ婆さんの時間だな。
パリー: その時は、隣の席のシンディー、ウォールをくすぐって……あの子、クラス一番のゲラだから、なんとかごまかせたけど、今週隣に座るのはパティー・デューク・ジュニアなんです。
少女: ああ、あの入学以来一度も笑ったことのない……
パリー: いいえ、生まれてこのかた一度も笑ったことのない……
少女: なんと……
パリー: 先生におうかがいしたいことがあるんです。
少女: わたしで間にあうことなら。
パリー: 賢者の石をご存知ですか?
少女: 魔界重要文化財に指定されてる……あれかい?
パリー: そう、あれです!
少女: たしか、ファグワーツの校長が災いを恐れて粉々にくだいたはずだが。
パリー: 本当は、まだどこかにあるんじゃないんですか!?
少女: どうして?
パリー: わたし、あれが必要なんです!
少女: ……なんだと?
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・20〔明日香の道草〕

2019-07-09 06:20:52 | 小説・2
高安女子高生物語・20
〔明日香の道草〕  
         
 
 
 
 放課後、直ぐに帰れるのは嬉しい!

 今までは部活で時間とられて、学校出るのは日が落ちてからやった。
 それが、明るいうちに出られる。なんという開放感!
 混みまくりの下足室も電車の中も、行きはあんなにウットシイのに、帰りは嬉しい!

 鶴橋で準急が出てしもた後の高安止めの各停。次の準急が先着やのん分かってたけど乗る。
 車両が急行仕立てで、二人がけの前向きシート。進行方向に向かって座ると、ちょっとした旅行気分。上六から来た急行が高安の操作場までカラで戻すのんもったいないさかい、高安まで各停に使てる。近鉄の無駄のないダイア編成っちゅうか、商売ぶり。

 鶴橋を出て、すぐ今里。お婆ちゃんの家があるけど、やっぱり電車の中からでは見えへん。
 空で飛行機が止まってる……ように見える。動いてるものから、動いてるもの見ると止まってるように見える。物理で習うた。ナンチャラいう現象で、田舎の見通しのええ田んぼの中の交差点で交通事故が起こるのは、このせいらしい。しかし、ジェット機が空中で止まってるのは、なんともシュール。

 布施で、ドカドカと人が乗ってくる。

 オケツの大きいオバチャンが「ごめん」も言わんと、横に座ってきた。ウットシイ。オバチャンの温もりを肌で感じる。まあ、オッサンが座るよりはええけど……「ごめん」の一言があったら、お互い様と思えて、温もりも、こんなにキショイとは思わへんねんけどなあ。ほんまに大阪のオバハンは……うちは、こうはならんとこ。

 長瀬で、近大の学生やら近高の子ぉらが乗ってくる。さすがにギュ-ギュー。せやけど、次の弥刀で、ぎょうさん降りる。駅の改札が南側にしかないよって、先頭車両は、ここでゴソッと空く。隣のオバチャンも降りた。二人用シートを独占。ちょっとええ気持ち。
 二本電車の通過待ち。けど気にならへん。早よ帰れるいうのは、こないに精神衛生にええもんやとしみじみ思う。

 久宝寺口、八尾と過ぎて、山本。急に図書館寄りとなって、ふらりと降りる。
 北の改札から出て、山本八幡を横目に殺して、向かいの道路に。マクドの前を通って、ミスドの手前で右に曲がる。直ぐにコミセン(市役所の支所)その一二階が図書館。
 一階の新刊書コーナー……なんかないかなあ。

 え、うそ、あった!

「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」

 この本は、中味はええらしいねんけど、表紙が今イチ。それにラノベとしては高すぎる1200円プラス税。一回ジュンク堂で見たけど、以上の二つの理由でやめた。他にも二冊借りよ思たけど、読まんと返す確率高いよって、これだけにしとく。
 
 図書館出て、市営駐輪場を南に曲がると近鉄信貴線。運の悪いことに一時間に八本しか通らへん踏切が閉まってる。二両連結の二両目に目が止まった。

――  関根先輩!  ――

 なんで関根先輩、信貴線に……それも、美保先輩と仲良しそうに。
 気ぃついたら、制服のまま自分のベッドでひっくり返ってた。涙が一筋横に流れていく。

 しょうもない道草になってしもた。
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高校ライトノベル・里奈の物語・19『桃子といっしょに』

2019-07-09 06:13:19 | 小説3
里奈の物語・19『桃子といっしょに』


 桃子とばかり遊んでいる。

 桃子というのは、伯父さんがプレゼントしてくれたピンクのパソコン。
 F社製で、ハードディスクの容量は2テラバイトもある。買ったら二十万近くはする。
「桃子って、すごいんだ!」
 アマゾンで色違いの同型を調べて、思わずガッツポーズしてしまった。
 ノート型パソコンでピンク色というのは、どのメーカーでも人気。
 でもデスクトップとなると人気が無い。
 女の人はデスクトップを使わないんだろうか? それともデスクトップは業務用が多く、ピンク色というのは業務用には相応しくなんだろうか?
 あたしの十七年の人生経験ってか知識では分からない。

 ともかく、スマホとは比べものにならないくらい画面が大きいし、サクサク動く。

 ユーチューブとニコ動のアカウントをとって、いろいろ観てみる。
 クリスマスソングで始めて気が付いたら、シャンゼリゼ通りにたどり着いていた。こういうのネットサーフィンていうんだろうか、なんだか夢を見ているみたいでおもしろい。
 目が疲れたので、桃子をツケッパにして顔を洗う。
「お母さんから手紙きてるわよ」
 おばさんが封筒を渡してくれる。いきなり現実に引き戻される。
「なんだろ……」
 封筒の中にハガキの手触り。放っておいてもいいんだけど、いずれ開けなきゃならない。桃子で元気になったうちに開けてしまおう。

――真央ちゃんからハガキが着てました――

 メモと一緒に入っていたのは、お祖母ちゃんが亡くなったので年賀状出せませんという喪中葉書。

 そういや、去年は、まだ年賀状なんて出していたんだ。

 グーグルアースで奈良の街を歩いてみた。
 更新されていて、今年の四月の画像。
「あ、あたしが写ってる!」
 N女子大から鍋屋町に向かう道で制服姿のあたしが写っていた。
 むろん顔にはボカシがかけられているけど、髪形と靴と鞄、なによりもオーラで自分だと分かる。
 五月には学校に行かなくなっていたので、真っ当なあたしの最後の姿。
 ひょっとして……閃いて通りを北に進んでみる。

「居た……」

 押小路町が右手に見えるあたりに同じ制服を着た三人の女子が写っている。
「やっぱ、つけられてたんだ……」
 彩芽と美和……もう一人は…………うそ、真央!?
 もちろんボカシ顔だけど、オーラは、あの三人。彩芽と美和はヒールって言っていいやなやつ。
 だけど、真央は数少ない友だちだった。たった今も真央の喪中葉書を受け取ったとこだ。
 グーグルアースを閉じる。画面はヤフーの奈良のニュースに切り替わる。

――奈良の男子高校生、学校の窓から飛び降り――

 こういうニュースの気分じゃないので、メニュー画面に。
「もう切ろうかな……」
 思いながらシャットダウンできずに、スカイプのアイコンをクリック。
「そんなに都合よく繋がらないよね……」
 ダメ元でやったら、すぐに拓馬が出た。
「オレも、いま立ち上げたとこ」
 やつのニンマリ顔がアップで出てきた。心の準備が出来ていない。
「あ……えと、拓馬が挑戦してることって何なのよ? もう教えてくれていいでしょ?」
「スカイプでは言いにくいなあ、そや、里奈、今からうちに来いや!」
「あ、それは……」
 
 引きこもりとは思えない飛躍に、だたじろいでしまった。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・53≪国変え物語14・秀吉の公開大夫婦喧嘩≫

2019-07-09 06:06:19 | 時かける少女
時かける少女BETA・53
≪国変え物語14・秀吉の公開大夫婦喧嘩≫ 


 唐天竺を攻めとりたい!

 大物産会のフィナーレの宴で、秀吉は何万という諸大名や商人、町人の前で吠えるように言った。
「何を言いやす、おみゃーさまは?」
 傍らの政所の寧々が、のびやかな尾張弁で返した。
「そやかて、おみゃー。こうやって全国物産の流れの道はつけたでよ。あとは唐天竺しかにゃーだろーがい!」
 秀吉も早口の尾張弁で返し、尾張出身の大名以外は分からない、言い合いから夫婦げんかになってしまった。ただ、会話の早いテンポと、調子の面白さだけが、衆人に伝わり、西ノ丸の六万人収容の会場は大いに沸いた。

 衆人が喜んでくれたことと(大ウケしたこと)政所の寧々と、何年かぶりの尾張弁での、大げんかができたことで唐天竺は、どこかへ吹っ飛んでしまった。

「のう、一座の者たち。今の話、わしの方がただしかろう?」
「いや、大変なお国ことばであられましたので、それがしどもには判断がつきかねまする」
 徳川家康が真面目腐った口調で言うので、また万座の中で笑い声がおこる。
「これで、分からんだったら、わしの面目にゃーでにゃーか」
 秀吉が尾張弁で子供のようにすねると、加藤や福島などの尾張時代からの、いい歳をした大名どもが少年のように爆笑した。
「こりゃ、市、虎、いい歳こいたひげずら大名が、わっぱのように笑うでにゃーわ!」
「そりゃ、無理ですわ。こぎゃーに、尾張の昔を思い出さされては、わしらものう、おかしいでかんわ!」
 近江閥の石田三成らには分からない言葉であったが、その対比の面白さに、万座の笑いは、さらに大きくなっていく。秀吉の妄想は、一大余興になった。
「そろりよ。今のわしらのケンカをなんととく?」
 秀吉は、お伽衆の中で、一番機知にとんだそろり新左エ門に聞いた。
「さようでございますなあ……田楽の笛とときまする」
「お、そのこころは?」
「は、どちらがリーやらヒーやら(理やら非やらの洒落)」

 六万人の大爆笑で、大物産会は幕を閉じた。

「ありがとう、美奈さん。あなたの指示通りやって、事なきを得ました」
 自分の居室に美奈を呼んで寧々は礼を言った。
「いいえ、政所様の機智あるご返答のたまものでございます」
「そうかしら……わたしも懐かしかったの。ああやって尾張弁でご近所のご迷惑も顧みずに夫婦喧嘩していたころにもどったようで……で、いよいよですか?」
「それは……」

 美奈は、言いよどんだ。

「いいのです。美奈さんが薬で抑えてくださっていますけど、あの人の病が進んでいるのは、わたしには一番よく分かります。貴女の手にかかれば皆命が延びると言われておりますが、藤吉郎殿には無用です。あの人の長命は天下の大乱を招きます」
「では……あと四五年かと」
「そう……四五年も尾張漫才でやっていくこともできますまい……」
「一計がございます」

 美奈の目が輝いた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・60』

2019-07-09 05:58:52 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・60 




『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない9』


「視界没やったんだね」

 東京のホンワカ顔で言った。
「あ、あれは、風がよかったんでな。はるかも元気に自立したようだし……お父さんが自慢できることってこれくらいだからな。オレはオレでやってるって、あんなカタチでしか示せなくってな……もっと早く連絡とりゃよかったんだけど、いろいろあってな」
 ……わたしは、そんなふうには受け取らなかった。家族再生へのお父さんの意思表示だと思ったんだよ……わたしって、まるでダメダメのオバカちゃん……。
「最近やっと落ち着いて、ね……」
 にこやかにお父さんを見る秀美さんの目は、仕事仲間へのそれではなかった。
 ぜんぜんの想定外だよ。
 なんかわかんない、社交辞令みたいなことを言い合っているうちに、ホンワカが引きつりはじめた。
「じゃ、そろそろ時間だから」
「あら、そう」
「秀美さん、お父さんのことよろしく」
 心にもないことを口走った。
「はい、まかせてちょうだい」

 シゲさんや、仲鉄工のおじさんがかけてくれた声にもろくに返事もできないで図書館に戻った。

 大橋先生の姿が見えない……こんなときに!
 二階の児童図書のコーナーまで捜した。
 念のため、一階の文化会館まで下りてみると、ちょうど先生が入ってくるのが目に入った。
「なんや、えらい早かったなあ」
「どこ行ってたんですか!」
「人多いさかいに、隣の神社 散歩してた」
「ちょっと、いっしょに来て」
「お、おい、はるか……」
 先生を引っ張るようにして表通りまで出た。
 運良くタクシーをつかまえられた。
「荒川の土手道、H駅の三百メートル手前のあたりまで」
 それだけ言うと、わたしは無言になった。
 先生も無言につき合ってくれた。
 着くやいなや、わたしは転げ出すように、タクシーを降り、道ばたで、シフォンケーキをもどしてしまった。
「大丈夫か、はるか?」
「……大丈夫、ちょっと車に酔っただけ」
「真由のネーチャンの車でも酔わへんかったのに……ま、これで口ゆすぎ」
 目の前にスポーツドリンクが差し出された。
 土手を下りた。先生はほどよい距離をとって付いてきてくれた。
 写メと同じ景色。
 青空の下に荒川、四ツ木橋と新四ツ木橋が重なって京成押上線が見える。
 身体が場所を覚えていた。
 そして、急にこみ上げてきた……。

「ウ、ウウ……ウワーン!!」

 四五歳の子どもにもどったように、爆発的に泣いた。
「こんなの、こんなのってないよ。ないよ……ウワーン!!」
 先生は、おそるおそる肩に手を置き、それから、不器用にハグしてくれた。
 わたしが泣きやむまで、そっと、ずっと……。

 このときの泣き方が、あとでわたしと先生の間で少し論争になった。

 わたしは、かわいらしく子どものように「ウワーン」と泣いていたつもりだったけど。先生は動物のように「ウオー」と泣き叫んでいたという。
 むろん、この論争は、この物語が終わってわたしが卒業するころのことなんだけどね……。
 わたしには、このときの情緒的な記憶がない。
「このことも物理的にメモして残しときますね」
 と、泣きじゃくりながら言ったら。
「今日のことはメモせんでええ、覚えとかんでもええ……」
  と、先生が言ったから。
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