大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・040『のりちゃんと頼子さん』

2019-07-21 15:30:12 | ノベル
せやさかい・040
『のりちゃんと頼子さん』 

 

 


  つまらないところに意義があるのよ。
 
 一学期最後のお茶を淹れながら頼子さんが言う。

 今日は終業式。

 体育館での終業式が終わって教室に戻り、担任の菅ちゃんから、いろいろの配布物をもらっておしまい。
 配布物のメインは通知表やねんけど、これも出席番号順に配って、特に論評も説教も夏休みの意義とか諸注意とかもなしで、解散。体育館での校長先生の話もつまらんかったから、菅ちゃんの話もつまらんと覚悟してた。
 それが、なんにもなしで「はい、解散」でおしまい。
「学年末ならともかく、一学期の終わりってだけでしょ。菅井先生って、お話へたという噂だし、いっそ言わないほうが気持ちよく夏休みが迎えられるって、先生なりの気配りだと思えば意義があるわよ」
 う~ん、そういう考え方もありか。そういえば、菅ちゃんが喋ることって——あ、それ言わなきゃいいのに——ということが多かった。ポーカーフェイスを決め込んでいたけど、菅ちゃん本人も、自覚があったのかもしれない。

 つまらない原因は、もう一つある。

 留美ちゃんが休みや。

 お家の都合で、パスポートの手続きが終業式の日になってしまい、朝からお休み。
 八月になったらエジンバラ合宿。これは、めっちゃ楽しみやねんけど、三人だけの部活が二人になるのは寂しい。
「え、二人だけですけど?」
 頼子さんは、いつものようにティーカップを三つ出してる。
「さくらちゃんが連れてきた人、どうぞ、座って」
「え?」
 頼子さんの視線を追うと、入り口のとこにのりちゃんが立ってる。
「え? 頼子さん見えるんですか?」
「うん、ぼんやりと。うちの制服。幽霊さんよね?」
『あ、あわわわ』
 のりちゃんが慌てる。
「あ、消えちゃった。桜ちゃんには見えてるんでしょ?」
「は、はい。さきに家に帰るって言うてます」
「お茶も淹れたことだし、居てもらってよ。わたし、部長の夕陽丘・スミス・頼子。さくらちゃんほど能力高くないから、いつでも見えるってわけじゃないけど、よろしく」
 のりちゃんも恐縮して頭を下げる。
「こちらこそよろしく。と、言うてます」
「えと、悪い幽霊さんじゃないことは分かる。よかったら、事情聞かせてもらえるかなあ?」
『「それは」』
 のりちゃんと声がそろうが、のりちゃんの声は頼子さんには聞こえない。
「わたしが説明するわね」
 のりちゃんが頷いて、かいつまんで説明する。

「え? え!? じゃ、法子さんは記憶が無くなっちゃったの?」

 わたしの蘇生法が遅れて、酸欠みたくなって記憶がおぼろになったことを説明する。
「そう、なにかやり残したことがあるのね。こうやって気配を感じられるのも何かの縁。わたしで役に立つことがあったら言ってね」
「あ、そこの千羽鶴はなにかって聞いてます」
「あ、それそれ。千羽鶴、数えたら二百ほど足りないのよ! ちょっとがんばって折ってくれる!」
『「は、はい!」』
 のりちゃんといっしょに返事する。のりちゃんが返事しても仕方がないんやけど……と思ったら。

 ビックリした!

 のりちゃんは、ちゃんと折り鶴が折れているではないか!

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・32〔え、あんたが!?〕

2019-07-21 06:39:42 | 小説・2

高安女子高生物語・32
〔え、あんたが!?〕         


 試験が終わった!!

 なんちゅう開放感やろ。最後の数学の終了を告げる鐘が鳴ったとき、クラスが、いや学校中が開放感に満ちた。
 なんて例えたらええねんやろ。そう思て頭に浮かんだんは、五日ぶりぐらいに便秘が治って、ドバっと出たときの感触……我ながら品も色気もない。せめてパリの解放とか『三丁目の夕日』で観た東京オリンピックの開会式の抜けるような青い空……ぐらいは、後から考えたら出てくるねんけど。これは映画とかで観た二次体験にすぎひん。ま、人に言うわけやないさかい、便秘からの解放でもええやろ。

 とにかく、あとは二十日の終業式に来たら、四月の八日まで、学校に来んでもええし、宿題もなし。完全無欠の「お・や・す・み」
 クラブも辞めたし、なんの義理もないけど、直ぐに学校出る気もせえへん。

 図書室に行ってみた。ざっと新刊本の背中を見る。去年の十二月に入った本が、まだ新刊に並んでる。
 予算のせいもあるんやろけど、なんや興ざめ。
 うちは、一つだけ確認しときたい本があった。

 アンネの日記

 東京の方で、だいぶ破られて、国際問題にまでなってる。イチビリの生徒が真似して、破っとおるかも知れへん。
 文学書の棚に行って、たった一冊だけ有る『アンネの日記』を手に取る。

 大丈夫、まっさら同然。

 うちは、そのまま『アンネ』を借りてしもた。安全を確認したら、そのまま書架に戻すつもりやったんやけど、発作的に借りてしもた。まあ、ええわ。もう二回も読んだ本やけど、高校生になってからは読んでへん。

 そういうたら、アンネは十五歳で死んでしもた。

 うちは十六やけど、まだ死ぬつもりも予定もない。うちなりに、ささやかやけどアンネを守ったげる。
 
 パソコンのコーナーに行ってみる。これには特に目的はない。習慣で浪花高等学校演劇連盟を引いてみる。第七地区のO高校の演劇部のブログが目に止まる。クラブでブログを持つことはええことやと思う。しかし、うちの演劇部はブログどころか、クラブそのものが実質あれへん。美咲さんに、もうちょっとやる気あったらなあ……と、思う。

 O高校のブログは、一見充実してるように見えた。きれいやし、アクセスカウントもできるようになってて、うちが53465番目。いつから始めたんかしらんけど、大したもんや。
 でも、中味がショボイ。公演やら、クラブやって楽しかったことばっかり書いたある。演劇部やったら、もっと芝居のこと書けよなあ……本読んでる形跡もない。閉じよ思たら、審査のことが書いたあるのが目に入った。

――よその地区では審査をめぐって混乱があったところもあるらしい。確かに、なんでと思うようなことも無いではない。しかし、コンクールを競技会のように捉えるのはどうだろう。勉強の場ととらえれば、もっと見えてくるものがあると思う……審査基準を作れという話もあるらしい。そんなことをやったら、審査基準狙いの芝居が増えるだけだろう……――

 アホかと思た。

 大阪の高校演劇は、創作劇を奨励しすぎて、創作率が90%を超えてる。すでに、審査受け狙いは始まってる。審査基準がないさかい浦島太郎みたいな審査員が出てきて、うちが期せずして、地区総会で演説するハメになってしもた。よその地区で混乱……うちのことか?

――審査員は連盟が選んだのだから、立派な人たちで、キチンと審査をされているのに違いない――

「ドアホか!」

 思わず声が出てしもた。そのとき後ろで気配がした。振り向くと……なんとうちが立って笑うてた。
「あ、あんたは……?」
「佐藤明日香」
「……明日香は、うちや」
「まだ気づかない? あ・た・し・馬場先輩の明日香よ」
「え、あんたが!?」

 あの絵ぇから抜け出してきたて……。

「怪しまれないように、ポニーテールじゃなくて、セミロングにしてきたから。ま、ときどきしか出てこないから安心して」
 そない言うと、馬場明日香は図書館から出て行った。ドアも開けんと。司書のオバチャンがびっくりしてる。

 帰りの電車で、布施で気いついたら、また馬場明日香が横に座ってた。
「あんたね、司書のオバチャン、びっくりしてたで。部屋出るときは、ちゃんとドア開けなら」
「まだ、慣れないもんで。アハハ」

 なんや、うちの春休みはけったいなことになりそうや……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・31『猫の恩返し・2』

2019-07-21 06:32:45 | 小説3

里奈の物語・31
『猫の恩返し・2』



 猫を追いかけて角を二つ曲がると公園だった。

――こんなとこに、公園あったっけ?――

 記憶と目の前の景色を照合してるうちに猫を見失った。
 小さいころに、お祖父ちゃんの(今は伯父さんの)家の周囲は遊び倒していたけど、この公園には記憶が無い。

 えーと……たしか工場があったよね。

 付近の道に見覚えがある。工場が無くなった跡に公園が出来たようだ。
 赤ちゃん連れのママトモたちとお年寄りが、日差しの中、穏やかに寛いでいる。
 ママトモもお年寄りも地元の人、その近しさにたじろぐ。
 拓馬と行った大阪城公園は広いし観光客も多く、匿名さんでいられる。美姫と行った公園は女子高生の二人連れというカテゴリーでいられる。
 この地元公園、平日の昼下がり、私服の女子高生が入っては、変に注目される。つい臆してしまい、気持ちを残したまま素通りしようとした。

「ワ!」
「キャ!」

 同時に声が上がった。
 あたしってば公園に気を取られ、前から来た小母さんに気が付かず、ぶつかりそうになってしまった。
「あ、すみません!」
「オバチャンこそごめんね」
 小母さんは段ボール箱を抱えて、公園の中に。すると、お年寄りもママトモも小母さんの周りに集まった。小母さんは灰皿の大きいようなのをいくつも出して、みんなに配り始めた。

 エ?……と思ってると、公園の植え込みの中から、どこに居たんだというくらいの猫が集まりだした。

「さあ、みんなご飯やで、たんとお上がり」

 小母さんの声を合図にしたみたく、猫たちは、それぞれにエサ皿に首を突っ込んでランチタイムになった。
――ウ、野良猫の餌付けしてんだ――
 そんなことしたら、野良猫の猫害になっちゃう!
 嬉々としてエサをやっている人たちに非難がましい気持ちになる。

「あんた、骨董屋さんのお嬢ちゃんやろ、こっちおいでよ!」

 小母さんの一声で、みなさんの注目が集まる。逃げたら「骨董屋の変な娘」ということになりそうので、餌付けの輪の中に入る。
「野良猫の餌付けしてるみたいに見えるでしょ?」
「あ、いえ……」
 図星なので、たじろいでしまう。
「この子らは……ほら、耳が桜の花びらみたいでしょ」
 言われて気づいた。猫たちの耳は、先っぽがV字型に切り込みが入っていた。
「これは、街猫のシルシ」
 ママトモの一人が、ランチに入れてもらえない猫を輪の中に入れてやりながら説明し始めた。
「元は、みんな野良猫やったんやけどね、猫害やら猫自身の健康のために保護してね、不妊手術して、街のみんなでみてんのん」
「そんで、野良猫と区別するために、耳をV字にカットしてるの」
「これで殺処分される猫減るし、猫飼われへんでも、猫と仲良くなれるでしょ」
「そういう猫を、街猫て言うんよ」

 いい取り組みだと思った。高校生にも、それくらいの気配りを……と思うのは、ひがみかな?

「猫田さん、ほら、あそこ!」
 ママトモの一人が小母さんの肩を叩いた。小母さんは猫田さんというようだ。
「あ、ウズメ!?」
 小母さんとママトモさんの目の先、奥の植え込みに、あの銀色の猫がいた。
「あ、あの猫!?」
「なんや、あんたも知ってんのん?」
「あの猫追いかけてたら、ここに来たんです」
「あとは、あのウズメだけやねんけどね……」
 猫田の小母さんの言う意味は、すぐに分かった。ウズメには耳の切れ込みがない。

 ウズメは野良猫なんだ。

 そう分かると、ウズメは身をひるがえして逃げてしまった。

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高校ライトノベル・須之内写真館・4【杏奈の告白・2】

2019-07-21 06:24:27 | 小説4

須之内写真館・4
【杏奈の告白・2】        


 この明るさは生まれつきだと思った。

 松岡の話は、杏奈のことにしろ、その背景の事情にしろ、なんだか子どもが秘密の話やイタズラに熱中するような無邪気さがあった。
「最初は、親父のヒガミだと思ってたんです。ハハ、一度心理テストをしてやったんですよ……ちょいと失礼。お台所借りますね」
 松岡は、飲み干した湯飲みを、我が家のように台所に持っていき、水を満たして持ってきた。初対面でここまでやって違和感がないのは、人徳か……よほどの無神経だろう。

「ここに、湯飲みにちょうど半分の水が入っています。これをどう評価しますか?」
「はあ……湯飲みに半分水が入っている」
「なるほど……杏奈は、どうだった?」
「まだ、半分残ってる」
「この言葉で、杏奈をバイトに採用したんです。親父は、こう言いました……もう半分しかない」
「分かり易いテストですね」
「親父は経済的には恵まれていましたが、精神的には苦労したようです。ジイサンもバアサンも厳しい人でしたから」
「確か、お祖母様がアメリカの方なんですよね」
「ええ、サウスダコタの出です。ヤンキー魂バリバリのバアサンです。で、ジイサンがバリバリのヤマト男の子。両方から仕込まれ、学校じゃハーフは、まだ市民権が無い時代でしたから。でも須之内さん……直美さんでいいですか?」
「ええ、もちろん」
「直美さんの反応は珍しいんですよ。半分の水が入っている……これは、とても客観的なとらえ方です」
「うーん、写真やってるからですかね?」
「素敵な写真家だと思ってます。八百人の生徒が居るのに杏奈のこと覚えていてくださったんですから」
「それは、杏奈ちゃんの魅力です」
「ボクは、心理テストで確信したけど、直美さんはファインダー覗いただけで分かっちゃうんだからエライ!」

 ここから話は核心に入った。

「実は、杏奈がうちでバイトしてることをU高の偉い先生に見つかってしまいましてね」

「それで退学、ひょっとして……?」
「うちはガールズバーですが、渋谷じゃ一番健全です。ハーフで困っている子を優先的に雇っています。まあ、それを売りにもしてるんですがね。渋谷のような激戦区じゃ、なにかオンリーワンの特徴もちませんとね」
「写真も似てますね。うまいだけの写真じゃだめなんです……で、杏奈ちゃんはそれだけのことで?」
「実は、その偉い先生、お持ち帰りの途中だったんですよ」
「お持ち帰りって……!?」
「そう、直美さんが想像したような意味です」
「わたし、いっしょに居てる女の子が、そんなだとは思わなかったんです。ボヘミアンはしっかりしたお店で、あたしたちティッシュ配りにも、ちゃんとガードが付いてるくらいなんです。そのガードの人が注意したんです」
「その日は警察の取り締まりがきつい日でしてね。連れていた女の子はマークされていました。それをうちのが、こそっと教えたんですよ『**ちゃん。今日はヤバイよ』それで女の子はお見送りしただけで、店に帰りました」
「そのとき、その女の子がすごく馴れ馴れしく『あんたもがんばってね』て言って肩撫でて行ったんです」
「八つ当たりですわ。うちのガードに当たるわけにもいきませんし、杏奈を同じように見せることで店と、杏奈の評判を落としたかったんでしょう。真に受けたのはU高の先生だけです。張ってた私服は苦笑いしてましたからね」
「念を押したあたしも、バカなんです『あたし、何も知りませんから』って」
「まあ、こういう子ですから、穏やかに言ったようですが、その先生には威嚇と取られたようですね」
「で、明くる日、呼び出されました。風俗のアルバイトは著しく学校の名誉を傷つける。自主退学してくれたまえって」
「で、まあ、ちょっとイタズラ半分で。全ては、わたしの責任です」

 それから世間話をちょこっとして、杏奈の制服姿の記念写真を撮った。松岡は、ディスプレーになっている、古いカメラやマグネシウムのフラッシュを子どもみたいに喜んで見ていた。

「あ、これ、心理テストの続きです」

 そう言って二枚の風景写真を袋に入れて置いていった。
「どっちが好きか、今度教えてください」
         
 あとで、袋を開けると、心理テストの他に、心臓が止まりそうな写真が混じっていた。
 直美が、その写真をどう使うか試しているように思えた……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・72』

2019-07-21 06:17:33 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・72



『第七章 ヘビーローテーション 10』 

「わあ、メッチャかわいい!」

 その一言で、モニターの三分の二は由香が引き受けてくれた。

「……いけてるかなァ」

 意外にも、タキさんがその気になった。
 東京に行ったときの借金を、お母さんから借金して返しに行ったとき、半分怒られるかなあと思いながら、黒地に紙ヒコーキのチェック柄のシュシュを渡してみた。
 常連さんで、近所のラジオ局のオネエサンが「いいよタキさん!」と言ってくれたからだけど。
 でも、このときに瓢箪から駒。
「ねえ、バンダナと揃えたら、ええかもよ!」
 と、ラジオ局のオネエサン。


「バンダナとのセットなあイケルかもなあ……イテテ」

 お父さんは、三週目の三分の一部分荷重歩行練習(ま、松葉杖です)に入っていた。
 タキさんのシュシュのポニーテールの写メは、由香やタマちゃん先輩のそれといっしょに東京に転送され、NOTIONSのホームページに載せられ、世界中にばらまかれ、この物語が終わるころには、ポニーテールの志忠屋で名前が通り、テレビの取材がくるほどになった。もちろんシュシュとバンダナのセットでね。

 お父さんのヘビーローテーションにも慣れてきた。最初はトイレの介助なんか、父娘共に抵抗があったけど、三週目に入って、トイレもお父さん一人でできるようになり、大助かりなような、寂しいような。この日は洗濯物が溜まっていたので部活は休んだ。
「はるかといっしょに、こんな長時間過ごすの初めてだな」
「うん、こんなにおしゃべりしたのも」
「叱れっぱなしだったけどな」
「文句言われっぱなしだったけどね」
 
 暮れなずむ病院の屋上は、もう秋を感じさせる。今年の秋は早そうだ。

 三週間前、わたしはここで、開いた心の傷を持てあましていた。
 寄り添うお母さんの顔をまともに見ることもできなかった。
 今は、静かでしみじみとしている。
 なんだろう、この穏やかさは……。
 三週間前は、半分強がりで、
『おわかれだけど、さよならじゃない』ってフレーズ気に入ってるって言った。
 今は、ほとんど素直にそう思える。
「はるか、お母さんに似てきたな」
「ゲ……」
「ハハハ、その『ゲ……』ってのもいっしょだ。あいつは受け流すのがうまい」
「陰じゃ、泣いてたんだよ」
「知ってるよ、でも最後は受け流すんだ。倒産したときも……今度のことも。女の強さかな。男はダメだ」
「どうして?」
 気の早いなんかの葉っぱが、ソヨソヨと落ちてきた。
「男は、受け流せない。力をこめて受け止める……そして枯れ葉のように心に積み重ねてしまうんだ」
「わたし受け流せなかったよ……だから、あんなタクラミ」
「そりゃあ、まだ子どもだもの。いや、子どもだった。この三週間で、はるかははるかに強くなった」
「プ……おやじギャグ」
「揚げ足とんなよ。たまたまだよ、たまたま」
「そっか、たまたまなんだよね。人生も、たまたまが積み重なって変わっていくんだね」
 わたしは気の早い落ち葉を指でクルリと回した。
「あれだよな、目玉オヤジ大明神は」
「ちがうよ。目玉オヤジ大権現」
「ん、どこが違うんだ?」
「ちがうったら、ちがうの……」

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・3』

2019-07-21 06:09:04 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・3

大橋むつお

 

 

時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん  マッチ売りの少女  かぐや姫

 

赤ずきん: 家がない!?
マッチ: うん、住所もあってるし、そこにちゃんと一軒分の土地もあるんだけど……家がないの……ひょっとして、家ごと散歩してたのかな……?
赤ずきん: そういうこともあるかな……って、んなわけないだろ!
マッチ: だって、そうなんだもん。金八郎先生スマホのナビでなんども確認してたもん。ほんとだって。
赤ずきん: ドロシーんちみたいに風にとばされたってのはあるけどよ。
マッチ: ほんとだって。ほら、これがそんときの写メ。
赤ずきん: え……あ、ほんと!?
マッチ: こんなのもあるよ。
赤ずきん: あははは、金八郎のびてやんの。
マッチ: 必死にさがしてるうちにパニくっちゃって、電柱に頭ぶっつけたの。介抱すんのたいへんだったんだから。どう、信じてくれた?
赤ずきん: まあ、家がないってのはな。ファンタジーの世界はなにおこるかわかんねえからな。
マッチ: さすが赤ちゃん。のみこみが早い!
赤ずきん: 金八郎ほど頭かたくねえからな。
マッチ: 金八郎先生は人間なのに、どうしてこの世界にいるんだろう?
赤ずきん: ま、そういうこともあるよ。逆の場合もあるしね、鬼太郎の場合とか……
マッチ: あ、鬼太郎さんのチャンチャンコってかっこいいよね!
赤ずきん: どこがよ。あの遮断機のダンダラもようみたいなのが!?
マッチ: だって……
赤ずきん: だいたい、おまえの趣味はな……
マッチ: あんたじゃないよ、マッチだよ。赤ちゃんが決めたとこじゃないよ。
赤ずきん: ガルル~!
マッチ: あ、オオカミさんだ!
赤ずきん: いちいちひとのあげ足とんな!
マッチ: ごめん。 
赤ずきん: マッチとあたしは似たキャラだけど、どうしてこうもちがうんだろうね。持ってるバスケットだって、あたしのは四角くて実用的だけど、マッチのは丸っこくて使いにくそうじゃん。 
マッチ: だってこのほうがかわゆいもん。
赤ずきん: あ、それってあたしがかわいくないってことか?
マッチ: そういう意味じゃないよ。
赤ずきん: じゃ、どういう意味だ?
マッチ: それは……
赤ずきん: だいたいな、マッチすりまくって凍え死ぬってのが、お涙ちょうだいのナルシスチックで、やなんだよな。
マッチ: しかたないよ、アンデルセン先生がそう書いてるんだから。
赤ずきん: 先生のせいにするかあ? なんだか今どきの高校生みたいだぞ。
マッチ: あ、今日はちゃんと家があるよ(^_^;)!
赤ずきん: うまいタイミングで見つけるもんだなあ。
マッチ: もう~!
赤ずきん: こんどは牛かよ。家がお散歩してたってのは、ほんとみたいだな。
マッチ: でしょ。
赤ずきん: さ~て、本人がいるかどうか……(ドアベルを鳴らす)ほらな、留守みたい。
マッチ: ごめん、無駄足だったかな……

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