大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・044『阿部晴美の仕事が増える・1』

2019-07-14 14:21:03 | 小説
魔法少女マヂカ・044  
 
『阿部晴美の仕事が増える・1』語り手:阿部晴美  

 

 

 講師を長く勤めていると独特の勘が働く。

 この先生は休みそうだとか、この生徒は留年しそうだとか。

 まあ、岡目八目的な勘よ。

 岡目八目とは、将棋を指している本人たちよりも、はたで見ている者のほうが八目先の手間で見えてしまうという意味。

 

 二年B組の担任、田中先生がグロッキーだ。

 夏休みまでもてばいいと思ったが、今朝教頭を通じて校長室に呼ばれた。

「阿部先生、申し訳ないが、B組の担任代行を頼まれてくれないか」

「ご病気ですか田中先生?」

「肝臓を傷めて、とりあえず半年の病欠です」

「……ですか」

 心配と安堵両方の気持ちがわいてくる。

 心配は——学校大丈夫か——という気持ち。

 すでに、二人の先生が病休と育児休暇に入っている。長欠の先生が出ると講師が穴埋めに入るが、やはり本職ほどの仕事はできない。ま、わたしごときが気を回しても仕方がないんだけど、心配にはなる。将来本職になるためにも現場を心配する気持ちは持っていたいと思う。

「でも、副担任の三橋先生は?」

「阿部先生にお願いしたいんだが」

 三橋先生には故障があるんだろうが 聞かないほうがいいというオーラを校長に感じる。

 安堵のほうは収入よ。

 国語の講師は十一月に切れてしまうので、年末のボーナスはもらえない。担任代行に入れば任期は年度末までなのでボーナスは保証される。

 あ、もう一つ確認しておかなければ。

「教科は、国語と社会の兼任ですか?(田中先生は社会科のはずだ)」

「国語は非常勤講師の先生に来てもらいます。先生には世界史を持ってもらおうと思ってます」

「承知しました」

 免許は国語、地歴、公民、保健体育の四つをもっとぃるけど、一教科に絞ってもらえるのはありがたい。

「それでは、試験明けの授業からお願いします」

「承知しました」

 

 重ねて承知して校長室を出る。

 

 世界史なら受験科目でもない、気楽に世界史のエピソードを語ってやればいいだろう。

 間もなく夏休みでもあるし、調理研の三人娘と調理実習でもやるか……。

 鼻歌交じりで昼食に出る。

 いつもは、学食のB定食あたりで済ますのだが、年末のボーナスが確定したので、外に食べに出る。駅前まで出れば、安くて美味しい店がいっぱいある。吉野家の新メニュー『牛丼超特盛780円』を試してみようかなあ(^^♪

 吉野家に向かって足どりが軽くなる。

「わたしに奢らせてもらえませんか」

 後ろから声がする。

「あ、あなたは……」

 それは、阿佐ヶ谷の自衛隊メシで一緒になった来栖一佐だ。

 ただの幹部自衛官ではないことは薄々承知している。

「ご承知のようですな……あなたに特務師団の臨時教官をお願いしたい」

 

 な、なんだと!?

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・25〔心に積もりそうな雪〕

2019-07-14 07:10:09 | 小説・2

高安女子高生物語・25
〔心に積もりそうな雪〕   
    


 生まれて初めて学校をズル休みした。

 ズルやいうのんは、お父さんもお母さんも分かってるみたいやったけど、なんにも言わへんかった。
 夕べ、うちは、ネットで布施近辺の葬儀会館調べて電話しまくった。

「そちらで、佐渡さんのご葬儀はありませんか?」

 六件掛けて、全部外れやった。自宅葬……いまどき、めったにあれへん。それに佐渡君の家の様子を察すると絶対無い。あとは、公民館、地区の集会所……これは、調べようがない。

「ほとけさんは、必ず火葬場に行く、あのへんやったら、○○の市営火葬場やろなあ」

 お父さんが、呟くようにして言うた。時間も普通一時から三時の間やろて呟いた。
「うち、行ってくる……」
 お父さんは、黙って一万円札を机の上に置いた。
「最寄りの駅からはだいぶある。タクシー使い」
「ありがとう。けど、ええわ」
 そない言うと、うちは、三階から駆け下りて、チャリにまたがって、火葬場を目指した。佐渡君は、あんな死に方したんや。タクシーなんてラクチンしたらあかん。家から一時間も漕いだらいける。

 スマホのナビで、五十分で着いた。補導されるかもしれへんけど、ウィンドブレーカーの下に制服着てきた。いつもせえへんリボンもちゃんとしてきた。

 こんなぎょうさん人て死ぬんかいうほど、霊柩車を先頭に葬儀の車列がひっきりなしにやってくる。うちは霊柩車とマイクロバスの「なになに家」いうのんをしっかり見てた。

 ほんで、八台目で見つけた。

 霊柩車の助手席に、お母さんが乗ってた。事故の日とちごて、ケバイことは無かった。霊柩車の後ろのマイクロバスは、半分も乗ってへん。ワケありやねんやろけど寂しいなあ。
 窓ぎわに佐渡君に、よう似た中坊が乗ってた。弟やねんやろなあ……。

 火葬場に着いたら、だいたい十五分ぐらいで火葬が始まる。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの葬式で見当はつくようになった。

 えと、お父さんの方の祖父母。今里のババンツは健在です。

「十五分。いよいよやなあ……」

 数珠は持ってけえへんかったけど、火葬場の煙突から出る湯気みたいな煙に手を合わせた。待ってる間はチャリ漕いできた熱と、見逃したらあかんいう緊張感で寒なかったけど、足許から冷えてきた。
 焼けて骨になるのに一時間。一時間は、こうしとこと思た。佐渡君は、たった一人で逝ってしまうんやさかいに……。

「ありがとう、佐藤」

 気ぃついたら、横に佐渡君が立ってた。

「佐渡君……」
「学校のやつらに来てもろても嬉しないけど、佐藤が来てくれたんは嬉しい」
「うち、なんにもでけへんかった」
「そんなことないよ。破魔矢くれたし、救急車に乗って最後まで声かけてくれた。女子にあんな近くで何遍も名前呼んでもろたん初めてや。そんで、手ぇ握ってくれてたなあ」
「え、そうやったん?」
「そうや。佐藤の手、温うて柔らかかったなあ……しょうもない人生やったけど、終わりは幸せやった。ナイショやけどな、夕べ、オカンが初めて泣きよった。オカンはケバイ顔と、シバかれた思い出しかなかったけどな。オレ、あれでオカンも母親やいうのが初めて分かった」
「佐渡君……」
「ハハ、せやけど、ほんの二三分や。オカンらしいわ……ほな、そろそろ行くわな」
「どこ行くん?」
「わからへん。天国か地獄か……無になるのんか。とにかく佐藤にお礼が言えてよかった……」

 佐渡君の姿は、急速に薄れていった。あたしの意識とともに……。

「おう、やっと気ぃついたか」

 気が付いたら、火葬場の事務所で寝かされてた。
「なんか、ワケありの見送りやってんな。冷とうなってただけやから、救急車も呼ばへんかったし、学校にも連絡はせえへんかったで。まあ、これでもお飲み。口に合うかどうかわからんけどな」
 事務所のオッチャンが生姜湯をくれた。暖かさが染み渡る。
「ありがとう、美味しいです」
「もっとストーブのネキに寄り。もう、おっつけご両親も来はるやろから」
「え、親が?」
「堪忍な。ほっとくわけにもいかんのでなあ、生徒手帳とスマホのアドレス見せてもろた」
「いいえ、ええんです。あたしの方こそ、お世話かけました」

 オッチャンは、それ以上は喋らへんし、聞きもせえへんかった。佐渡君も、いろいろあったんやろけど、それは言わへんかった。

 ほんで、うちの向かいのオバチャンのボックスカーで、お父さんとお母さんが迎えに来てくれた。

 車の窓から外見たら、心に積もりそうな雪がちらほら降ってきた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・24『拓馬の彼女・2』

2019-07-14 07:02:30 | 小説3

里奈の物語・24
『拓馬の彼女・2』



 恋愛シミレーションというジャンルのゲームがある。

 主役は、たいて男の子。転校してきた学校で、何人かの女の子と知り合い、イベントや事件が起こる。
 そのイベントや事件の中で、女の子とどう関わるかによって告白したりされたり。
 上手くいくと、そこから恋人として付き合いが始まる。
 全ての女の子にいい顔をしたり、情にほだされて面倒をみていると、誰とも付き合えずに規定の日数が終わってゲームオーバーになる。
 恋愛というのは、時にエゴに走らなければ成就しない。
 恋人同士になっても、相手の気持ちや生活に関わって、良い彼氏でいなければ、彼女の気持ちは冷めていく。
 ゲームと言えどもシビアだ。

 この恋愛シミレーションに、二宮果歩という子がハマった。

 しばらくやって、果歩は疑問に思った。
――このシュチエーションなら、キスだけじゃ終わらへんよね?――
 で、果歩は友だちに聞いた。
「そりゃ、C指定のゲームなら、キス以上のことはでけへんでしょ」という答えが返ってくる。
「じゃ、実際はどうなん?」
 果歩の疑問にまともに答えてくれる者はいなかった。
 拓馬も面白半分で、キス以上のことに進むゲームを貸してやった。

「あり得ない世界だけど、とってもピュアや!」

 果歩の反応に拓馬は面食らったが、シャレで持っていたエロゲを見直すきっかけになった。
 休日には、大学生のようなナリで日本橋のゲーム屋を二人で見て回るようになった。ネット通販で買うこともできたが、足を運んでこその好き者であると拓馬は自認していた。これは、拓馬の家の稼業が骨董屋ということが大きく影響している。
 骨董屋は、品物を仕入れる時には、必ず現場に行って現物を見て判断する。拓馬には、それが物との自然な関わり方であった。
「谷崎潤一郎みたいなゲームがいい」
 果歩は元来が文学少女なので、魔界や異界じみたSFやファンタジーものよりも、純愛系で、ちょっとアブノーマルなものを好んだ。

 二学期の終わりには、趣味の合う恋人同士という感じになった。

 恋人同士という自覚もあり、そういいうゲームが好きな者同士ではあったが、拓馬と果歩は手を握ったこともない。
 二人の間ではリアルとゲームの世界はキチンと区別がついていたし、晩稲であるとも言えた。

「あの二人はいかがわしい」という噂がたった。

 休日ごとにミナミに出かけ、いかがわしいところに出入りしていると、まことしやかにイジラレた。
 ゲーム屋の中には、その種のホテルの前を通らなければたどり着けない店がある。たまたまそこを通っているところを写メられた。
 それに尾ひれが付くのはあっと言う間だった。
 ついには生活指導室に呼ばれて、事情聴取と指導を受けるハメになった。

 ここまで話して、拓馬は大きくため息をついた。

「この先は、また……話せるようになったら話すよ」

 そう言って、拓馬は冷え切ったお茶を美味そうに飲み干した。
 里奈は鶴橋まで見送った。喋り過ぎたのか、拓馬は無口だった。
――なにか話さなきゃ――
 そう思ったが、城東運河を渡るころには――こういうのも有りなんだ――そう思えて、正面からの夕日を持て余したような表情をした。
 

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・58≪ビリケン攻略方・2≫

2019-07-14 06:54:05 | 時かける少女

時かける少女BETA・58
≪ビリケン攻略方・2≫


 雪子は髪形と化粧を少し直すだけで、アメリカかイギリスのハイソサエティーの娘に見えた。

 いま雪子は、そのなりで当時まだ珍しいアメリカの高級車に乗って、高級軍人や官僚の屋敷が並ぶ山の手を目指している。
「やっぱ、このナリの方が、しっくりいくかなあ?」
 運転手のトマスに聞いた。
「お嬢様は、おばあ様似でいらっしゃいますから、見る者が見れば、モス・チャイルドの人間だと分かります。わたしは、そのお姿の方が好きです」
「ハハ、トマスったら、こないだは日本人のナリをアジアンビューティーだって誉めてたじゃないの」
「ハハ、そうでしたか。とにかく、このトマスは、アリスお嬢様が一番生き生きされているのが何よりだと思います」

 坂道に差し掛かった。この坂を上ったところにビリケンこと寺内正毅の屋敷がある。

 寺内は、顔が、当時流行しはじめたアメリカ渡りの幸福の神さまに似ているので、国民からは、その神さまの名前で通っていた。
「フフ、ほんとうにビリケンに似ておられますこと。閣下は、きっと東アジアに幸福をもたらす神さまのような人なんですね」
 初対面の寺内に、オチャッピーな東京娘のように言った。
 寺内は、みかけのわりには、よく言えば剛直で一徹な陸軍大将。冷静な目で見れば、昭和の軍人の祖型とも言える。権威主義、誇大妄想的な人物で、つい先日も、ある師団司令部を訪れた際、師団のブロンズの看板が錆びていたので、それをまっさきに師団長に指摘したという男である。看板は、さる皇族の揮毫によるもので、自分の偉さを示すために天皇や皇族を持ち出す、昭和軍人の悪弊をすでに持っていた。
 ただ長州閥というだけで、取り柄の無い男であったが、朝鮮併合の旗振り役で、そのビリケンに似た容貌で存外国民に人気がある。

「伊藤閣下は、ハルピンで命拾いされたとか」
「憎まれっ子はナントカと、言っておきました」
「ハハ、伊藤閣下も雪子さんにかかると、子供同然ですな」
「では、伊藤閣下の秘書としての仕事から入らせていただきます。まず、これが伊藤閣下のお手紙です」
 雪子は、伊藤の手紙を渡し、ビリケンが読んでいる間、窓から庭を眺めていた。
「桜や松などに、藁が縛りつけてあるのはなんですか?」
「菰巻です。ああやっておくと、冬の間に虫が藁の中に入って、春に外して菰ごと焼いて駆除するんです」
「閣下がなさるんですか?」
「ハハ、年寄りのささやかな趣味です……伊藤閣下は、やはり朝鮮の併合にはご反対のようですな」
「はい、半島の統治は、お金ばかりかかって日本の持ち出しが多く、得にならない。これが、伊藤閣下の論点です」
「手紙にも、そのように書いてありますな」
「もう一つは、ムクゲのことを書いてございません?」
「ああ、二枚目に追伸で書いておられますな。朝鮮からムクゲを移植したが、うまく育たず、枯らしてしまったので、うまい育て方があったら教えて欲しいと書いておられますな」
「ムクゲって、難しんでしょうか?」
「なあに、簡単なはなですが、土が合わんかったんでしょう。ムクゲは朝鮮に限ります」

 そこまで言って、あまり勘のよくない寺内にも分かった。ムクゲは朝鮮の国花である。ダメ押しの併合反対の意志である。

 寺内が理解したところで、雪子はアリス・モスチャイルドの表情になって口を開いた……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・65』

2019-07-14 06:44:06 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・65



『第七章 ヘビーローテーション 3』

 その連絡が入ってきたのは、明くる朝の十時ごろだった。

「はい、はるか」
 由香かな……ぐらいに思い、画面も見ず軽く出た。
「T署交通課の秋本と申します。坂東はるかさんですか?」
「は、はい、はるかですが」
 なんだろういったい?
「伍代英樹さん、ご存じですか?」
「はい……父ですが」
「じつはですね……」

 あとは上の空だった。気がついたら、オレンジ色の愛車に乗って、T会病院を目指して走っていた。
 踏切は閉まっていて、駅の跨道橋を愛車をかついで渡った。
 重いとも思わなかった。

――お父さんが、交通事故! なんで? なんで高安で!?――

「免許証で、東京の方には連絡したんですがね。手術もやることやし、他に近所にお知り合いの方がと思て、携帯のアドレスを見せていただいたんですわ。ほんならトップにあんたさんのアドレスがあったんでかけさせてもろたんです。娘さんなんですね」
 白髪交じりのお巡りさんが、いたわるように言った。
「はい、離婚したんで苗字は違いますが、父です。で、容態はどうなんでしょうか……」
「右大腿課上骨折。あ、右脚の太ももの骨ですわ。意識がおぼろげやったんで、まあ、事故の直後はようあるもんです。CTでも異常が無いんでオペの最中です。一応所持品とか見てもろて確認いいですか?」
 群青のポロシャツが切り裂かれ、血で黒く染まっていた。胸の紙ヒコ-キだけは血に染まらず、その白いワンポイントが際だっていた。
 他の所持品も全て見覚えのあるお父さんの物だった。

「まちがいありません……」

 お父さんは、駅前を一筋入った小さな交差点でバイクとぶつかったようだ。事故の様子は実況見分中だそうだが、目撃した人の話では、赤信号なのに、お父さんがふらふらと交差点に入ってきたそうだ。
 初めての街、細い道路、信号に気づかなかったのかもしれない。わたしも越してきたころ、何度かヒヤっとしたことがある。
 この病院の窓からも、目玉親父大権現が見える。
 思わず「お願いします……」という気持ちになる。
 それを察してか、お巡りさんは、
「大丈夫ですよ、脚の骨折っただけやさかい。すぐ元気にならはります。ほんなら署に戻りますんで、なんかあったら、ここに」
 とメモをくれて病院を出て行った。廊下を曲がって姿を消す直前に、瞬間振り返って笑顔。後ろに若いお巡りさんが付いていたけど、これは無表情。こんなとこにもキャリアの違いって出るんだ……少しホッとした。
 看護師のオネエサンがやってきて、入院の手続きやら、なにやらの承諾書を持ってきた。
「すみません、親が離婚してて、戸籍上の関係が……」
「分かりました、東京の方がこられてからでけっこうですから。大丈夫、意識もすぐにもどりますよ。麻酔が覚めたら、大騒ぎやと思いますから、側にいといたげてください」
「はい」
 看護師のオネエサンはバインダーを持って立ち上がって、こうもらした。
「お父さん、あなたに会いに来られたんじゃないかしら……」
「え……」
「『はるか……』って、うわごとでそればっかし。で、スマホにあなたのアドレスもあったんで……ごめんなさい、余計なこと言うてしもて」
「いいえ、ありごとうございました」

 わたしが余計なことをしたから……血染めのポロシャツが頭をよぎった。
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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・9』

2019-07-14 06:33:16 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・9
ゼロからの出発

大橋むつお

 

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

少女: どうだ……?
パリー: ……すみません。やっぱり……
少女: あきらめるな! もう一度やってみよう。今度はアッコ風にやってみなさい。
パリー: 和田アキコ? えと……オリャアアアア!!
少女: バカ、ここでスゴミをきかせてどうする。秘密のアッコちゃんにきまってるだろ! 一年の一学期に習っただろうが。
パリー: はい、いきます! テクマクマヤコン、テクマクマヤコン……
少女: バカ、それは化ける時だろ。元にもどる時の呪文だ!
パリー: は、はい。ええと……ラミパス、ラミパス、ルルルルル……
少女: 元のロックウェルにも~どれ……!

   間

少女: どうだ……?
パリー: やっぱり駄目です……(しおれる)
少女: 駄目かぁ……(落ち込む)
パリー: 落ち込まないでくださいよ、先生。
少女: まちがうな。オホン、こうなっちゃいかんという見本を示したんだ。これで永久に魔法が使えないときまったわけじゃない。
パリー: ……
少女: 魔法とは、とても精神的な技術だ。超一流の芸術と言ってもいいだろう。もし、君の、君にも気づかない心のどこかで、魔法や魔法を使う自分に迷いや疑問があるとしたら、魔法は使えない。しかし、それは、超一流の芸術家によくあるスランプのようなものだ。いつか迷いが解けたら、また使えるようになるだろう。
パリー: そんな時がくるんでしょうか?
少女: くるさ……見てごらん、この賢者の石はレプリカ、よくできた複製品だ、端っこの方にメイドインジャパンと書いてある。
パリー: じゃ、本物は?
少女: たぶん、もう存在しないんだろう。しかし、迷いが解ければ、こんなものがなくても、魔力は自然にもどってくる。
パリー: 本当でしょうか?
少女: 本当だとも、しかし……
パリー: しかし?
少女: パリーの迷いが底なしならば、二度と魔力はもどってこないだろう。
パリー: ……
少女: しかし、それはそれでいいじゃないか。新しい人生を見つければいい。勉強もよし、遊びも仕事も、恋もよし。そこから始めればいい。わしなんぞ、ライセンスをたよりに魔法を切り売りしていくしかないイマイチの魔法使いだ。成功した人生に見えるかもしれんが、これは、実りのない淀んだ人生だ。もう八百……いや千年だったかな……生きていると、もうこの淀みは流れようがない。ブツブツとメタンガスのようにグチをこぼすだけさ。パリー、淀んだ安定より、不安定でもいい、前進し、流れ続けることが大事だぞ。
パリー: はい……
少女: うつむくんじゃないパリー! 胸を張り、あごをあげ、地平の彼方まで見渡すんだ、そして考えろ、見落としはないか、次の一歩をどこに降ろしたらいいかを!
パリー: ……先生。「どこもでもドア」で、もう一度わたしを校長室へ連れていってください。
少女: ひげもぐらの部屋に?
パリー: あのパソコンをもう一度見てみたいんです。賢者の石のデータ、まだピリオドのあるところまで読んでいないんです。無駄かもしれませんが、そこから始めてみたいんです。
少女: ……よし、行ってみるか!
パリー: はい!

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