魔法使いになれるかも!
廊下を隔てた部屋から詩(ことは)ちゃんの陽気な声。
わたしに向けられた言葉やと気ぃつくのに一瞬の間が開く。
詩ちゃんは、落ち着いたベッピンさんで、廊下を挟んだ部屋から声をかけてくるような子ぉやない。一瞬の間に、わたしの後ろに来て「エクスペクト・パトローナム!」と言うまで気ぃつけへんかった。
「え、えと……」
「守護霊よ守りたまえ! という呪文。エディンバラはハリーポッター発祥の地なんよ。知らんかった?」
「え、ほんと?」
「えーー!? 明後日からエディンバラに行こっていう人が!」
「あー、頼子さんにまかせっきりから(;^ω^)」
「少しは調べな、ごりょうさん(仁徳天皇陵)だって、知らずに近寄ったら、ただの森だもんね。はい、これあげる」
目の前に差し出されたのは、映画でも見たハリーポッターの魔法の杖、たしかニンバスなんちゃら。
真理愛女学院はキリスト教系の学校やけど、選択科目とかに魔法の授業でもあるんやろか?
「あーー、それ違うから。魔法はキリスト教以前の土着文化の産物。だからこそ面白い。杖はUSJのお土産だから~」
それだけ言うと、詩ちゃんはお風呂セットを抱えて一階へ降りて行った。
ちょっとびっくりした。
詩ちゃんは、真面目なお嬢様タイプで『けいおん!』の澪ちゃんという感じ。
今みたいに、魔法の杖を振り回して従妹にチョッカイかけてくるような子ぉやない。
どうも、一昨日の部活で次期部長に指名されたことが影響してるみたい。
もう一つビックリしたんは、文芸部の合宿が明後日に迫ってるいうこと。
頼子さんが、しっかりしすぎてるんで、わたしはお母さんからパスポートもろて、着替えとかをキャリーバッグに詰め込んだらしまいやとタカをくくってる。
そうや、ちょっとくらい調べとかならなあ。
パソコンを立ち上げてググってみる。
エディンバラ……エディンバラ……と……え!?
エディンバラて、てっきりアメリカやと思てた。イギリスなんですわ。ハリーポッターて、イギリス人やったんか!
京都府と姉妹都市……「きょうちゃん! エディー!」 ムフフ、黒髪とブロンドの姉妹都市が萌えキャラになって頭に浮かんでくる。
浮かぶと、ゴニョゴニョとイラストを描いてみたりする。エディーは、なんやフェイトみたいな甲冑乙女になってしまう。
あかんあかん、もっとググっておかなければ。
なになに……秋篠宮家の真子様がご留学になってた?
オオ、ロイヤルプリンセスやんか!
エディンバラ城は、フォグワーツの魔法学校みたいに岩山に屹立してるし、これはもう、ファンタジー全開になってきた!
しかし、文芸部の夏季合宿て、なにやるんやろか?
そういえば、市の図書館に本を借りに行ったぐらいで、文芸部らしいことはほとんどやったことがないことに思い至った。