大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・039『のりちゃん危機一髪!』

2019-07-19 13:55:45 | ノベル
せやさかい・039
『のりちゃん危機一髪!』 

 

 

 え? え?

 目の前ののりちゃんが消えてしもた!?

 キョロキョロしてみると、経机の香炉も消えてる。

 お葬式いうのは、参列者がお焼香するための香炉がある。一般焼香用は式が終わったら片付けてしまうねんけど、親族用のは骨上げの後、初七日もやってしまうので残ってる。けっこうな量のお香がくべてあるねんけど、それが、きれいさっぱり灰になってしもてる。

 ひょっとして……中二病的ヤマ勘やねんけど、お香入れからお香を継ぎ足して火をつけてみる。

 お香の煙が三十センチほど立ち上ると、のりちゃんの声がした。

——お、お香やと声しか出されへん——

「どないしたらええのん?」

——えと……お経唱えてみて——

「お経て、知らんし」

 坊主の孫やけど、お経なんて唱えたことない。

——そこらへんに、お経の本あらへん? 法事とかで使うアンチョコみたいな、正信偈とか仏説阿弥陀経とか——

「え? ええと……」

 とっさに探すと見つからへん。

——あ、あ、息が苦しなってきた……お、お経を……——

「ちょ、ちょ、待ってえ!」

——座布団積んだあるとこの、よ、よこ!——

 本堂の隅、座布団の山の横のテーブルにオレンジ色のお経が積んである!

「見つけた! ちょ、待っててね!」

 ダッシュで一冊とって、唱える気持ち満々でページを開く。

「えと、どのお経?」

 目次には、いろんなお経の表題があって、どれやら分からへん。

——ど、どれでも……はよ、して……——

 そない言われても、というか、どれもむつかしい漢字ばっかりや!

 しゃ、しゃあない! どのお経でも共通の六字を唱える!

「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」

——よ、読み方……ちゃう……——

 よ、読み方て、南無阿弥陀仏は「なむあみだぶつ」やろが?

——い、いつもの……読み方……——

 お祖父ちゃんやら、伯父さんやらのを思い出す……分かった!

「なまんだぶ なまんだぶ……」

 

 バチバチバチ!

 

 さっきと同じ音がして、のりちゃんが現れる。

 仰向けにひっくり返って、息も絶え絶え、金魚みたいに口をパクパクさせてる。

 これは、人工呼吸や!

「い、いや、幽霊に人工呼吸は……」

「どないしたら、ええのん?」

「もうしばらく、お念仏を……」

「うん、分かった!」

 なまんだぶを百回ほど唱えると、やっとのりちゃんは落ち着いた。

「よかった、のりちゃんが生き返って!」

「生き返るは、ちょっとちゃうと思うねんけど……とりあえず、ありがとう」

「うん、それで、やり残したことて?」

「うん、それは……えと……えと…」

「えと……忘れてしもた……アハハハ」

「アハハハ……」

 二人で笑うしかない、お葬式の昼下がりでありました。

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・30〔最後の授業〕

2019-07-19 06:56:07 | 小説・2

高安女子高生物語・30
〔最後の授業〕



 授業が次々に終わっていく。

 三学期の最終週やさかいに、ほんまに二度と帰ってけえへん授業たち。
 と……特別な気持ちにはなれへん。強いて言うなら「サバサバした」いう表現が近い。

 学校で、うっとしーもんは人間関係と授業。両方に共通してんのは、両方とも気い使うこと。しょーもないことでも、しょーもない顔したらあかんこと。
 学校でのモットーは、休まずサボらず前に出ず。一番長い付き合いがクラス。完全にネコ被ってる。おかげで、一年間、シカトされることも、ベタベタされることもなかった。

 授業もいっしょ。

 板書書き写したら、たいがい前向いて虚空を見つめてる。それが、時に大人しい子やいう印象を持たれ、こないだの連山先生みたいに「黒木華に似てるねえ」なんちゅう誤解を生む。あの月曜日の誤解から、うちはいっそう自重してる。せやから昨日はなんともなかった。ただ虚空を見つめてると意識が飛んでしもて、関根先輩と美保先輩は夕べ何したんやろ……もっと露骨に、ベッドの上で、どんなふうに二人の体が絡んでるのか、美保先輩が、どんな声あげたんやろと妄想してしまう。

 あかんあかん、顔が赤うなってくる。適度に授業聞いて意識をそらせよ。

 で、これが裏目に出てしもた。現代社会の藤森先生が、なんと定年で教師生活最後の授業が、うちのクラスやった。
「ぼくは、三十八年間、きみらに世の中やら、社会の出来事を真っ直ぐな目で見られるように心がけて社会科を教えてきました……」
 ここまでは良かった。適当に聞き流して拍手で終わったらええ話。授業の感想書けて言われたら嘘八百書いて、先生喜ばしたらええ話。

 ところが、先生はA新聞のコラムを配って、要点をまとめて感想を書けときた。コラムは政府の右傾化と首相の靖国参拝を批判する内容……うちは困ってしもた。うちは政府が右傾化してるとも思えへんし、靖国参拝も、それでええと思うてる。「そこまで言って委員会」の見過ぎかも、お父さんの影響かもしれへんけど。A新聞は大嫌いや。

 困ったうちは、五分たっても一字も書かれへん。そんなうちに気いついたんか、先生がうちのこと見てる。
「藤森先生は、いい先生でした!」
 苦し紛れに、後ろから集める寸前に、そない書いた。

 先生は、集め終わったそれをパラパラめくって、うちの感想文のとこで手ぇ停めた。

「佐藤。誉めてくれるのは嬉しいけど、先生は、コラムの感想書いて言うたんやで。ま、ええわ。で、どないな風に『いい先生』やねん?」
「そ、それは……」
 あかん、またみんなの視線が集まり始めた。
「なにを表現してもええ、せやけど、これでは小学生並みの文章や」
 ちょっとカチンときた。せやけど、教師最後の授業や。丸うおさめならあかん……あせってきた。
「先生は、どうでも……」
 あとの言葉に詰まってしもた。どうでもして、生徒に批判精神をつけてやろうと努力された、いい先生です……みたいな偽善的な言葉が浮かんでたんやけど、批判か批評かで、ちょっと考えてしもた。
「先生は、どうでも……」
 先生が、促すようにリフレインしてくる。切羽つまって言うてしもた。

「先生は、どうでも……いい先生です!」

 この言葉が誤解されて受け止められたことは言うまでもない。藤森先生は真っ赤な顔をして、憮然と授業を終わった。
 放課後、担任の毒島(ぶすじま)先生に怒られた。せやけど、言われたように謝りには行かれへんかった。

 ブスッとして帰ったら、高安の駅前で、くたびれ果てた関根先輩に会うた。

「どないしたんですか?」

 思わず聞いてしもた。心の片隅で美保先輩と別れたいう言葉を期待した。
「自衛隊の体験入隊はきついわ……」
 思わぬ答が返ってきた。
「美保は、いまお父さんが車で迎えにきはった……オレは、しばらくへたってから帰るわ」

 うちの妄想は、いっぺんに吹き飛んだ……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・29『互いの演技力』

2019-07-19 06:49:17 | 小説3

里奈の物語・29
『互いの演技力』
             


「そうなんや、里奈にもそんなことがあってんね」

 たこ焼きを咀嚼しながら、美姫は器用に感想を述べた。
 ATMで仕送りを下ろした時のシケた顔をもろに見られた。美姫は、こういう表情には敏感なよう。
「玉造に美味しい店あるから、行ってみいひん?」
 で、銀行を出て308号線から長堀通に進んで玉造に出た。

 玉造駅の東側には環状線の電車にソックリな二階建てのビルがあった!

 よく見ると、あまりお金のかかった建物じゃないし、中に入っているテナントも珍しい物はない。
 でも、環状線の電車とソックリということで、とてもワクワクしてくる。
「え、この中にあるんじゃないの?」
 美姫は、あたしを連れて駅ビルの中を素通りして、商店街の方に向かった。
「ヘヘ、話のタネ。本命はこっち」
「あ、待って!」
 

 子どものようにスキップする美姫に続いて商店街の玉たこというお店に入った。

「へー、300円で7個もあるんだ!」

 たこ焼きの相場は6個で300円。1個多いのはとっても嬉しい。大きさもジャンボとか大玉とかじゃなくて、一口で口に収まるサイズ。美姫のように一気に咀嚼はできないけど、ホロホロと口の中で転がしながら一口で食べられるのも嬉しい。
 たこ焼きを二つに割って食べるのは味気ないもんだ。
 そんなたこ焼き談義をしているうちに、あたしの不景気な顔の事が話題になってしまった。

 引きこもりやお母さんのことは、美姫に話せるほどこなれてはいないので、去年の演劇部の話をした。で「そうか、里奈にもそんなことがあってんね」になったわけ。

「滅びるね、高校演劇は」

 仲間にも言ったことがないことを、サラリと言ってしまった。
「滅びはせえへんでしょ。いつの時代にもスキモンはおるさかいに」
「そう?」
 奈良県の演劇部は23校、今年のコンクールに参加したのは19校でしかない。
「ただ下手の横好きやから、軽音とかダンス部みたいに発展はせえへんやろね」
「下手なの?」
「うん、素質は悪ないねんけどね、とにかく練習せえへんね。文化祭の取り組みで一番人気ないのんは演劇部の芝居やねんもんね……部員もたいがい他のクラブやらバイトと掛け持ち。あ、あたしもそうやけど、あたしは上手いさかいね!」
「フフ、そうなんだ」
「そうや!」

 なにか思いついたようで、最後のたこ焼きを頬張ると、あたしの腕を掴んで大通りに出た。

「なあ、お茶でもせえへん?」
 
 信号の横で、チマチマ食べていたら、気楽なオニイチャンが声をかけてきた。

「えと……それってナンパ?」
「え、ハハ、自分とは話合いそうやなあ」
 砕けた反応をすると、オニイチャンはズンと距離を詰めてきた。髪をかきあげる仕草が軽薄。
「ここじゃ、なんなんだけどな……」
「ほんならミナミにでも行こか、地下鉄ですぐやで!」
 地下鉄とはケチなナンパだ。
「そーだな……」
 と、道の向こう側に目をやる美姫。キリっとしたオネーサンが姿勢よく歩いてくる。
「お嬢、お父さんのお付きで来てるんですから、控えてください」
「あ、えと……」
「大阪じゃ客なんですから、こちらの御一統さんにご迷惑かかるようなことはお控えを。ボクも、相手見てね。あたしもお嬢も、あっちから来てるんだから」
 オネエサンは、道一筋入ったところに目をやった。そこには金色の代紋が入った四階建てがあった。
「あれは……あ、オレ道聞いてただけやから、あ、あ、地下鉄はあっちの方やね、あ、ど、どうも、ありがとう(;'∀')」
 アタフタとニイチャンは行ってしまった。

 駅に戻って、美姫と大笑いした。お互いの演技力を認め合った師走の午後だった。

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高校ライトノベル・須之内写真館・2【杏奈……再発見】

2019-07-19 06:38:43 | 小説4

須之内写真館・2
【杏奈……再発見】
        


 直美は写真館の四代目で終わる気はなかった。

 というより写真館の将来は明るくない。

 スマホやデジカメ、自家用のプリンターが普及した現在、須之内写真館の仕事の半分であるDPE[Development - Printing - Enlargement]の仕事は、ほぼ絶滅していた。
 直美の父は、それなりに先見の明があり、前世紀の80年代に爆発的に普及したインスタントカメラのDPEの仕事を取り入れた。
「うちは、写真屋じゃねえ、写真館なんだ」という祖父の反対を押し切り、若かった父は、それなりに成功した。
 しかし、二十一世紀に入って5年ほどで、行き詰まった。原因は、さっき述べたようなことである。
 四代目を引き継ぐ条件として、直美は「将来は、写真家になる」ことを条件とした。
 芸大の映像学の写真科を出た直美には、それだけの自負があった。

 しかし、現実は厳しい。

 最初から大手の専属カメラマンなど望んではいなかった。フリーのカメラマンとしてそこそこやっていけると思っていたのである。学生時代、写真のコンテストで、何度かいい結果が出せたことが自信に繋がっていた。
 なんとか、気まぐれに回ってくる仕事をこなすことで、プロ写真家としての自分をキープしている。

 今日も、店の手伝いをさっさと済ませ、勘だけを頼りに、東京の街を愛車ナオでロケハンしている。

 ナオは車ではない。特注の折りたたみ自転車で、重さは、たったの7キロ。たたんでしまえば高校時代のサブバッグに収まってしまう。自分よりちっこくて軽いので直美をカタカナにしてミを取った。それにカメラ二台だけ持って出かける。
 先月は、地下鉄の入り口に軽自動車が頭から突っこんでいくところに出くわし、さっそく、いいアングルで十枚立て続けに撮って、新聞社と週刊誌に売れた。むろん警察に通報もし、乗っていた人たちの救出にも手を貸した。
 原因は、無理な追い越しをかけた車を除けようとしたこと。直美は連写でそれも撮っていたので、その車の運転手は、すぐにご用になり、警察から感謝状までもらった。
 しかし、それは単なるスクープ写真としか取り上げてはもらえなかった。運転していたオネエサンの当惑と怒りと、笑っちゃうシチュエーションへの微妙な表情はいけていたが、本人の許可がもらえず、お蔵入りになってしまった。
 お父さんのアドバイスで、新宿の下町、裏町をナオで走ってみたが、父の記憶にある下町はどこにもなく。裏町は表の歌舞伎町を含め、おっかなくって入り込めなかった。
 それでも、あれこれ百枚ほど撮ったあと、オーラを感じた。幸せのオーラである。
 カメラマンには予感に似たオーラの感知能力がある。良きに付け悪しきにつけではあるが。

 カメラのレンズの先には、OLがスマホを手に、とびきりの幸せを体中から発散させ、無意識の幸せダンスを踊っていた。なんだかAKBの『恋するフォーチュンクッキー』のフリに似ていなくもない。
「すみません。今の貴女を写真に撮ったんですけど、作品にさせていただいていいですか?」
 決まり文句を言う。相手を警戒させない適度な明るさも自然に出てくる。また、直美自身の人なつっこさもあって、たいてい、この一言でOKが出る。
「え、あたし撮ってたんですか、やだ」
 と、言いながら、顔は幸せモードのままである。
「ひょっとして……プロポーズの電話?」
 瞬間OLさんの顔は、頬を染めたニコニコマークのようになった。直美は、すかさず、「おめでとう」と言いながら五枚ほど撮った。
 写真をモニターで見せると喜んでくれた。別にスマホで数枚撮って、最後の一枚は通りかかった学校帰りの女子高生に二人で撮ってもらった。そして、それはOLさんのスマホに転送してあげた。
「入選したら、作品送って下さい」
 それだけが、彼女の条件で番号を交換した。

――さあ、ショバ変えようか――

 いい被写体は、そうそう転がってはいない。潮時というものがある。
 でも、今日はついているような気がして、ショバを暮れなずむ渋谷に求めた。
 まずは、ご挨拶にハチ公を撮る。こいつはなんの考えもなく撮る。すると、数百枚に一枚ほど、とてもいいハチ公が撮れる。
 ダメモトで、駅前の風景を撮る。その流し撮りの中に、見えてしまった。

 ガールズバーのコス姿で、ティッシュを配っている杏奈の姿が……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・70』

2019-07-19 06:26:17 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・70



『第七章 ヘビーローテーション 8』


 山中先輩が、新たに五曲を選び、合計六曲入りの本格的なミュージカルになった。栄恵ちゃんも音響係で復活した。
 台本も、あちこち手が加えられ、二ページほど増えた。

 まいったのは、教育勅語。

 全文ではないが、全体の三分の一ほど。
「朕惟フニ我皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト……」まるでオマジナイ。わずか四行を覚えるのに二日かかった。
 しかし覚えて意味を知ると、「なるほど」と思われるところもあり、リズムも良く、スミレとカオルの会話が自然になった。
 カオルが昔の女学生は大変だったことを分かってもらうために、スミレと教育勅語を実演する。
 最敬礼で「……朋友相信ジ」という下りで鼻水が垂れる。
「やってらんないよ」
 と、スミレ。
「アハハ、ね、でしょ。二三分もすると、あちこちで、鼻をすする音がズズー、ズズーって。まるで壊れた水道管」
 しかし「朋友相信ジ」を、カオルが「FOR YOU 愛信じ」と感じたことが新川でのお別れで生きてくる。
 川の中で消えていこうとするカオルにスミレが叫ぶ。
「おねがい、わたしに取り憑いて! FOR YOU 愛信じて……」
 つまり、「君のために愛を信じて」ということで、このお芝居のテーマにもつながっていく。
 次にってか、一番戸惑ったのは、
「今までの演技は全部捨てて、感じたままで動いてみぃ」
 それまでは、先生が解釈を言ってくれて、それに見合う演技をつけてくれた。
「これではお人形さんや」
 と、先生が言う。
 何度も同じところを繰り返させられた。
 まさにヘビーローテーション。
 置き換えや、感情の物理的記憶など、未熟だけど試してみた。
 簡単なところは三日ほどで変化がでてきた。
 スミレが進一(原本では、ユカという女の子)と、けんか別れするところ。
 それまでは、
「じゃ、おれ一人で行くよ、たった一人の文芸部さん。バイバイ」
「イーだ!」
 だけだった。それが、
「イーだ!」
「ウーだ!」
「せっきょう屋!」
「きまぐれ屋!」
「フン!」
 と、二人で同時に言って、別れることになった。で、これは、稽古のテンションが上がり、スミレのタマちゃん先輩も進一のタロくん先輩も、その気になって出てきたアドリブである。

「それ、生きてる!」
 という大橋先生の言葉。
「アハハハ!」
 という乙女先生の爆笑で決まった。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・1』

2019-07-19 06:08:01 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)

大橋むつお

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します


時   ある日ある時
所   あるところ
人物……女3  

    赤ずきん
    マッチ売りの少女
    かぐや姫

 

                                                                  
ジーコ……ジーコ……とネジを巻く音がして、オルゴールのメロディーが拡がる。曲目は「月の沙漠」 幕が開く。舞台には何もない。赤ずきんが手に四角いバスケットを持ち、ニコニコとオルゴールの音色に合わせてクルクルとまわっている。オルゴールのネジがゆるんで、ややななめの角度(少し後ろ向き)でとまる。キッと顔だけ正面に向ける……その顔は、もう笑ってはいない。

赤ずきん: ……遅い!

上手から、マッチ売りの少女、マッチとケーキの入った丸っこいバスケットを手に駆けてくる。

マッチ: ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。ごめん、ごめんね。
赤ずきん: 何してたんだ。あたし、ばあちゃんの世話でいそがしいんだからね。だいいち時間指定したのはそっちの方だろが!
マッチ: ごめんね。バイト遅くなっちゃって、相方の子が急に辞めちゃったもんだから、ちょっと大変だったの。
赤ずきん: まだマッチ売りのバイトやってんのか?
マッチ: ……うん……ごめん。
赤ずきん: なにかほかにあるだろ。もっと手軽で時給のいいやつ。
マッチ: そんな……
赤ずきん: オッサン相手にあやしげなことをしろって言わないけどさ。マックとかケンタとファミマとか普通のがあるだろが。 
マッチ: わたし、これしか能がないから……ごめんね。
赤ずきん: ……それって、あんたのトレードマークでもあるんだろうけど……
マッチ: ごめん……
赤ずきん: 何度もごめんていうのはよしな、もう十回くらい言ってるぞ。
マッチ: うそ……七回だよ。
赤ずきん: おまえのそーいうところって、しめ殺したくなる!
マッチ: ごめん……
赤ずきん: で……なんなんだ、用は?
マッチ: あの……先月転校してきた……
赤ずきん: え?
マッチ: あんまし学校に来ない子。
赤ずきん: あ、ああ、かぐや姫!
マッチ: すごい、名前憶えてんだ!
赤ずきん: あたりまえだろ。
マッチ: わたしなんか、思い出すのに商店街一周しちゃったよ。
赤ずきん: なに、それ?
マッチ: ほんやさん、そばやさん、やおやさん、さかなやさん、くぎやさん、かぎやさん、……かぐやさん。
赤ずきん: しめ殺したろか!
マッチ: ご、ごめん!

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