大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・039『大雨の来訪者』

2019-07-04 13:18:00 | 小説
魔法少女マヂカ・039  
 
『大雨の来訪者』語り手:マヂカ  

 

 

 よく降るなあ……ゲフ。

 

 タンクトップに突っ込んだ手で、ポリポリ背中を掻きながら姉の綾香が呟く。ラフな短パンで胡坐をかいているものだから下着が丸見え。

 風呂上がりとはいえ、女を捨てたとしか思えない寛ぎようだ。

「もうちょっと、おしとやかにしなさいよ」

「ああ、すまんすまん。仕事で畏まってると、疲れや凝りが溜まりまくっちゃってさ。まあ、自分ちの風呂上りくらいは大目に見ろ」

「ったく……」

 姉といっても世を忍ぶ仮の姿、本性は魔王の使い魔にして地獄の番犬ケルベロスだ。一日中畏まってもいられないのは分かるんだけど。まあ、こういう愚痴が出るのも、本物の姉妹の感覚になってきたと言えなくもない。

「百万人に避難勧告だって、九州……ったく、異常だね……真智香、ビールとってえ」

 飲み干した空き缶をプルプル振って催促。

「自分でとんなさいよ、そこからなら、立ち上がって三歩で冷蔵庫」

「立ち上がんの、めんどいよ~」

「グータラしてっと、義体の美貌にも影響出ちゃうわよ。美人でしっかり者の綾香さんなんだから」

「やれやれ……」

 プータレながら、三歩のところを五歩かけて冷蔵庫を開ける綾香姉。

 カチャリ。なぜか、開けたところで固まってしまう。

「あるでしょ、奥の方に二缶ほど……」

「……いま、よからぬ者がマンションのエントランスを開けた……来るぞ!」

 言うが早いか、綾香姉はケルベロスの本性に戻り、開け放ったベランダから飛び出した。侵入者の背後を突くつもりだ。

 入れ違いにうちの玄関が開く音がした。むろん綾香姉ではないし、ドアには二重の鍵とドアチェーンが掛かっている。

「だれだ!?」

 さすがに身構える。

「やあ、お久しぶり」

 気楽に手を挙げたそいつの後ろで、綾香姉が――おまえかあ――という顔で立っている。

「大統領は交代したんだろ?」

「ぼくは優秀だから再雇用さ、共和党だしね」

「勝手に人の家に入って来るしなあ、おまえにかかったら、魔界の鍵もかたなしだ」

 ドアノブをカチャカチャさせながら綾香姉がぼやく。

 そう、この世だろうがあの世だろうが、こいつにかかればどんな鍵でも無効化してしまう。

 そいつは、ドラえもんと同じ身長、同じ体形のテディベアであったりするのだ……。

 

「テディが、なんでお迎えなんだあ!?」

 

 こいつはテディベアのテディで、かつては臨時招集とか緊急招集の時に活躍した、見かけの可愛さによらず、かなり強引な奴だ。七十年以上会っていないのに、三日ぶりくらいの気安さだ。

「窓の外に乗り物を用意してるから、すぐに乗って」 

 テディベアのオートマルタ(自動運転の丸太)に跨りながらモフモフの耳に怒鳴ってみる。

「緊急事態なんだよ、ベースとメンバーのリンクも済んでないんで、オールバリアフリーのぼくが招集係をやってるわけ」

「なんの招集よ?」

「特務師団さ、緊急招集なんだ」

 そう言うと、オートマルタは助走を終え、雨雲が低く垂れこめる空に飛び上がった。

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん⑩』

2019-07-04 06:34:18 | 戯曲
 連載戯曲『梅さん⑩』             
 

 
 
 

ふく: わかった?
二人: ふくさん!?
ふく: 平四郎さんて、梅さんの初恋の人。
梅: ちょ、ちょっとふくさん! 
ふく: 話しには聞いてたけど、いい男だったわね。
梅: あ、さっき感じた気配?
ふく: あ・た・し、ヘヘ、でも渚ちゃんも良い勘してるよ、梅さんの決心間違ってないと思うよ。 
渚: ありがとう。で、平四郎さんて?
ふく: 旧制一高の学生さん……いつも通学途中の坂道ですれちがっていた……そうだったよね?   
梅: ……
渚: デートとかは?
ふく: とんでもない……一度だけ……ね(n*´ω`*n)
渚: 一度だけ?……
ふく: 変なこと想像したでしょ(ー_ー)!?
渚: う、うん……
ふく: 正直でよろしい。でも、そういう刺激的な想像が先にたつようじゃまだまだね。
渚: は、はい。
ふく: 一度だけ……平四郎さん、脇に抱えた辞書をおっことして、それを梅さんが拾ってあげたことがある。
渚: 勉強家なんだ。
梅: さあね……でも、それで間垣平四郎いう名前が知れた。
 「あの……落としましたわ……」
 「ありがとう……君、白梅女子の?」
 「はい、佐倉梅と申します(*ノωノ)」
 「そう……ありがとう佐倉君」
 「どういたしまして……」
 「じゃ」



渚: ……それで?
梅: それだけ。
渚: それだけ?
梅: 卒業間近い、ちょうどこんな梅の季節……
ふく: そして、それが桜に替わり、八重桜も散った新緑の頃……お見合い、そして結婚。
 そして次の梅の季節に雪ちゃんが生まれて、そして、その年の新緑のころ死んじゃったのよね。
渚: ……そんなにあっけなく。
梅: よくあった話よ、昔は。
渚: 梅さん……
梅: え?
渚: サクラって苗字だったんだ……
ふく: そう、佐倉惣五郎の佐倉。
渚: え?
梅: 人偏に左って書く佐と、倉敷の倉。わたしの旧姓。
渚: でも、耳で聞くとサクラウメ、春の妖精みたいだね……
梅: ありがとう、でもわたしは水野梅よ。たった一年ちょっとだったけど、わたしは今でも水野梅……渚のひいひいお婆ちゃんよ。
渚: ありがとう……
ふく: じゃ、私はこれで……
梅: マレーネは、うまくいった?
ふく: ヘヘ……また二人きりの時にでも……じゃあこれで、大事に生きるんだよ渚ちゃん。
渚: はい……
梅: 一つだけ聞くね。
ふく: なに?
梅: ドイツにもその格好で行ったの? たしかブランデンブルグ門の近くだったわよね?
ふく: もちろん。
梅: やっぱし……
ふく: じゃあね(消える)。
渚: ふくさん……悲しそう。
梅: そう分かっただけでも成長ね。でも、渚が同情しても解決にはならないからね。
 今夜はよっぴき二人で飲み明かすわ……それより平四郎さんはね……
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・15〔佐藤明日香の絵〕

2019-07-04 06:27:51 | 小説・2
高安女子高生物語・15
〔佐藤明日香の絵〕        


 君の絵が描けた

 トースト食べながらメールをチェックしてたら、馬場先輩のメッセが入ってたんでビックリした。
 ここんとこ、毎朝十五分だけ絵のモデルをやりに美術室に足を運んでる。まだ一週間ほどで、昨日の出来は八分ぐらい、完成は来週ぐらいや思てたんで、ビックリしたわけ。

「うわー、これがあたしですか!?」

 イーゼルのキャンパスには、自分のような自分でないような女の子が息づいていた。
「すごくいい表情してたんで、昨日遅くまで残って一気に仕上げたんだ。タイトルも決まった」
「なんてタイトルですか?」
「『あこがれ』って付けた」
「あこがれ……ですか?」
「うん。もともと明日香は、なにか求めてるような顔をしていた、野性的って言っていいかな。動物園に入れられたばかりの野生動物みたいだった」
 あたしは、天王寺動物園の猿山の猿を想像して、打ち消した。
 
 小学校の頃のあだ名は「猿」やった。
 
 ジャングルジムやらウンテイやら、とにかく上れる高いとこを見つけては挑戦してた。
 最後は四年のときに、学校で一番高い木の上に上って、たまたま見つけた校長先生にどえらい怒られた。
「ハハ、そんなことしてたんだ。でも……いや、それと通じるかもしれないなあ。木登りは、それ以来やってないだろ?」
「はい、親まで呼ばれて怒られましたから。それに木ぃには興味無くなったし」
「でも、なにかしたくてウズウズしてるんだ。そういうとこが明日香の魅力だ。こないだまでは、それが何なのか分からない不安やいら立ちみたいなものが見えたけど。昨日はスッキリした憧れの顔になってた。それまでは『渇望』ってタイトル考えていた」

 思い出した。一昨日の帰り道、女優の坂東はるかさんに会うて、真田山高校まで案内したことを。
 あたしは、坂東はるかに憧れたんや。それが、そのまま残った気持ちで、昨日はモデルになった。

「あたし、今でも、こんな顔してます?」
「う~ん……消えかけだけど、まだ残ってるよ」
「消えかけ……?」
「心配しなくても、この憧れは明日香の心の中に潜ってるよ。また、なんかのきっかけで飛び出してくるかもしれない」
「うん。描いてもろて良かったですわ。あたしの中に、こんな気持ちが残ってるのん再発見できました」
「オレもそうさ。増田って子も良かったけど……」
「けど、なんですか?」
「あの子のは自信なんだ。それも珍しい部類だけどね。満ち足りた顔より、届かないなにかに憧れている顔の方がいい」

 理屈から言うと、増田さんの方が自信タップリでええけど、馬場さんの言い方がええせいか、あたしの方がええように思えた。

「これ、卒業式の時に明日香にあげるよ」
「え、ほんまですか!?」
「ああ、絵の具が完全に乾くのにそれくらい時間がかかるし、この絵を描いたモチベーションで次のモチーフ捜したいんだ」

 あたしは、高校に入って一番幸せな気持ちになれた。
 坂東はるかといい、馬場先輩といい、短期間にええ人に巡り会えたと思た。

 この気分は、放課後まで残って、気持ちを小学四年に戻らせてしもた。

「こら、アスカ! パンツ丸見えにして、どこ上っとるんじゃ!」
「あ、ちゃんとミセパン穿いてますよって」
 
 あたしは、小学校の気分に戻って、グラウンドの木ぃに上って顧問の南風先生に怒られた。
「もうすぐ本番や言うのに、怪我したらどないすんねん!」

 芝居の稽古をすっかり忘れた放課後でした。
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高校ライトノベル・里奈の物語・14『挑戦的引きこもり・2』

2019-07-04 06:19:18 | 小説3
里奈の物語・14
『挑戦的引きこもり・2』



 十年ぶりの大阪城はとても大きかった。

 でも、記念樹のようににょきにょき大きくなったという意味ではない。お城が成長するわけないもんね。
 
 お城が成長……中学の頃だったら、この発想に笑ったかもしれない。どうも、笑うという感覚が鈍くなってるのかもしれない。
 
 七歳のころは、今の2/3も身長がなかったから、堀も深く石垣も高かった。 簡単に言えば、今見てる1・5倍の大きさがあった。だから小さく感じるのが普通なんだけどね。
 
 十年ぶりに見て大きいと思うのは、大阪城は大都市の一部になり果てたから。人は多いしうるさいし、あちこちの施設が新しくなって、テーマパークのパビリオンみたい。テーマパークは大都市と同じ。嫌いだ。

 その大都市の一部に出向いたのは、こないだ買ったハイカットスニーカーともう一つのせい。

「おまたせ」

 そのもう一つがおでんのカップを持ってきた。
「ありがとう、ごめんね、外で食べさせて」
「ううん、食堂の中いっぱいや。オレでもいややな」
 そう言って、拓馬はあたしの横に腰かけた。
 お尻の下には週刊誌、これも拓馬が持ってきた。
「同じニオイだと思ったんだけど……」
 そう言いながら、お出汁をすする。
「両方とも同じおでんやけど」
「あ、二人のニオイ」
「え……!?」
 拓馬は分かりやすく頬を染める。
「同じ引きこもりだから……大根おいしいよ」
「熱いのん平気やねんな」
「ウフ、昨日もいっしょにすき焼き食べたじゃない」
「ハハ、そうやったな」

 それから食べることに没頭した。やっぱり男の子なんで、猫舌のくせに食べ終わるのは同時だった。

「拓馬君、明るいから、日差しの中で会ってたら気づかなかったかも」
「え、ああ、根がアホやからなあ。里奈もジトジトしてへんやんか」
「そんなことない、奈良にいるころは外になんか出られなかった。今里に来るのだって13日の金曜だったし」
「え、なにそれ?」
「13日の金曜なら、失敗して戻っても……言いわけできるじゃん」
「ハハ、そやな。そやけど成功したんや」
「うん、準急と快速乗り間違えちゃって、降りようにも鶴橋まで一直線だった」
「ハハハ」
「……ウフ、準急と各停の乗継だったら挫折してた」
「それも運のうちやなあ…もちろん幸運のな」
「幸運なんだろうか」
「そら、絶対や!」
「えらい自信なんだ」
「そやかて、こうして会えたやんか……て、嫌なんか?」
「…………」
「冗談、冗談、俯くなや!」
 あたしが乗りきれないので、拓馬は明るく混ぜっかえした。

 あたしを二日間も外に連れ出すほど拓馬は明るい。わたしも、ちょっとだけだけど笑った。笑った自分に驚いた。

 こんな明るい奴が引きこもり……直観が揺らいだ。


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高校ライトノベル・時かける少女BETA・48≪国変え物語・9・秀吉の、ああ残念!≫

2019-07-04 06:03:46 | 時かける少女
時かける少女BETA・48 
≪国変え物語・9・秀吉の、ああ残念!≫


 こんなに簡単に断られるとは思わなかった。

「元は坊主だった。それが細川や明智にかつがれて将軍になったまでのこと、元の坊主に戻るだけのことよ」
 礼を尽くした秀吉に義昭は出された茶を遠慮するような気軽さで言った。
 だが秀吉は顔には出さない「あっぱれ天下の将軍であられる!」と大げさに日輪の扇を出して感動して見せた。
 室町幕府の最後の征夷大将軍である足利義昭が、将軍職を正式に辞し出家してしまったのである。
 九州平定の目出度い凱旋の帰りである。不景気な顔はできない。

 秀吉は、義昭の養子になり、源氏を称し幕府を開こうと思っていた。幕府は源氏でなければ開けない決まりになっていたからだ。

「まあ、わしも五十を出ていくらにもならん。関白でも治まる方法を考えるさ」
「九州平定も終わったことですから、パッとやりませんか!?」
「そうだ、聚楽第もできたことだしな!」
 美奈が言いだすのを勘定に入れて、秀吉は義昭にそでにされたことなど意に介さないよう、高らかに笑った。

 美奈は、ひょっとしたら、秀吉は、このまま気楽に天下をまとめ上げ、無事に日本を平穏にするのではないかと思った。

 聚楽第には、臣従した大名ばかりではなく、後陽成天皇まで行幸されて、かつての信長の馬ぞろえよりも明るく盛大なものになった。
 その余韻は、河内国まで及んでいた。
 数日後美奈は道頓といっしょに河内の久宝寺を目指して帰る途中であったが、つまらないケンカの仲裁をしてしまった。
「おんどりゃ、いてまうぞ!」
「おお、そりゃ、わしが言う台詞じゃ!」
 どうやら、見たところ博打の末の口論と分かったが、道頓が間に入ったころには、取り巻きも含め、十数人ずつが太刀を抜き、切り合いの寸前であった。
 道頓も、戦国の中を生きてきた人間である。刀を抜き合ってのケンカの危うさ、愚かしさは十分に分かっていた。
「こら、止めさらさんかい!」
 飛び出すきっかけがわずかに遅れた。止めに出した右手を切られてしまった。

「何をさらすんじゃ!」

 結果的に、久宝寺の大旦那である道頓を傷つけたことで、男どもの頭に上った血が引いた。
 この程度の怪我ならば、美奈にはすぐに跡形も残さずに治すことができたが、このままでいいと思った。
 道頓は芝居がかった所作で、切り裂いた手拭いで傷の腕を縛り上げた。衣服や顔にも血しぶきが付いたままの説教に、男たちは恐れ入ってしまった。

「なるほどのう……」

 秀吉は縁の緋毛氈の上で淀君に膝枕をさせながら、独り言ちた。目の前の桜は大半が葉っぱを落としていた。
「この桜のように、百姓どもから刀や槍を捨てさせることはできんものかな……淀、美奈、なにか良い試案はないものかのう」
「取り上げればよろしゅうございます。従わぬ者は切ればよろしい、関白殿下のご威光ではたやすいことではありませぬか」
 淀は呑気だが、力づくなことを言う。あの峻烈な信長の姪だけのことはある。
「わしは信長様のような厳しさは似合わんでのう……こら、そちら百姓の分際で戦道具など、もってのほかじゃ!」
 立ち上がって言ってみたが、居並ぶ小姓や侍女たちは笑うばかりである。
「のう、わしには似合わん」
 捨て鉢に言うと、秀吉は皆と一緒に笑い出した。
「信長公と逆のことをおやりになれば?」
 美奈はカマをかけた。
「信長公は、寺社仏閣には厳しいお方でした。明るい殿下には似合いません」
「……その言葉、閃くぞ!」

 ここまで言ってやれば、秀吉は自分で考える男である。

「そうだ。京に天下一の大仏を作ろう!」
 あとは簡単であった。宗派を超えた大仏の造立、そのための材料として、刀を差しださせる。

  征夷大将軍に成れなかった残念を「刀狩」に昇華させた秀吉であった。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・55』

2019-07-04 05:54:36 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・55 

 


『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない4』

 一度……東京に戻ってみる、お父さんにもう一歩踏み出してもらうために。

 でも問題が残っている。
 たった二つだけど、とても重要な問題が。
 アリバイ工作……そして致命的なのは資金不足。
 わたしの有り金は、佳作の賞金も合わせて三万ちょっと。
 一泊することを考えると、もう三万は欲しい。
 あれこれ考えているうちに眠ってしまった……。

 目が覚めると結論が、というか覚悟が決まった。
「お母さん、明日から一泊で神戸に行ってくる。由香といっしょ。異人館とかじっくり回ってみたいの、賞金も入ったことだし。」
 わたしってば、順序が逆さま。アリバイと資金の問題は、まだ解決していない。
「そういや、前から神戸のガイドブックなんか見てたわね」

 伏線は、とっくの昔に張ってある。 

「わたしも神戸には関心があるの、はるかのガイドブックで触発されちゃった。ねえ、一週ずらして、わたしと三人で行かない?」
「え……」
 想定外だよ。
「明日からだと帰りが月曜になっちゃう。横浜と神戸を比較して一本書いてみたいの。ね、来週の土曜からにしようよ」
「だめだよ、来週は部活が始まってる」
「そうか残念。まあ、わたしがいっしょじゃ窮屈だろうしね」
「そんなこと……」
「あります。って顔に書いてある。そのかわり写真撮ってきてよ。旧居留地とか異人館とか、リスト作っとくからよろしく」
 取材費ということで五千円のカンパ。やばいよ……。


 と、いうわけで、由香を訪ねて黒門市場。

 アーケードの下にずっと魚屋さんが並んでいる。お魚を焼くいい匂いが立ちこめている。ご飯のすすみそうな街だ。
 由香の勧めで、フグ専門店の横の甘いもの屋さんに入った。
「そうか、そういう訳やったんか……まかしとき、親友の一大事。一肌脱ぐわ」
 夕立のような勢いで全てを話すと、雲間から出てきたお日様のような笑顔で引き受けてくれた。
「まあ、泊まりは無理やけど、日帰りで行ってくるわ。どれどれ、これがリストか……」

 アリバイはこれでなんとか、取材費は四千円に値切った。わたしも大阪人らしくなってきた。


 資金は「当たって砕けろ」タキさんに泣きついた。
 映画館横のカフェテリアで一通りの説明……というより想いを吐き出した。由香に話すより十倍はエネルギーが要った。
「大人のことに首つっこむもんやない……」
 おっかない……これは失敗かとうつむいてしまった。

「うい……」
 タキさんが、アゴをしゃくった。
 気づくと、二つ折りにした映画のチラシ……そっと開いてみる。
「こんなには要りません……」
「どこで何あるか分からへん、持っていき……そのかわり」
「はい、お皿洗いでもなんでもやります!」
「そんなことやない……」
 タキさんはニヤニヤとわたしの身体をねめまわした。
「な、なにを……」
「無事に帰ってくること。無茶はせんこと……それから、スマホ出し」
「は、はい」
「なにかあったらこの人のとこに電話しい。オレからも電話しとくさかいに」
 と、アドレスを送ってくれた。
「この人は?」
「トモちゃんをオレのとこに紹介してきたやっちゃ」
「お母さんを?」
「共通の知人いうとこや、ちょっと伝法やけど頼りになるオバハンや。写メも送っとくわな」
 送られた写メは、モデルさんのようにきれいなオネエサンだった。
「この人が電報?」
「アホ、そのデンポウとちゃう」
「分かってますって、イナセで男気があるってことでしょ。わたしだって江戸っ子のはしくれなんですから」
「大人をなぶんのやない!」
「いて!」
 パンフを丸めたので、頭をポコンとやられた。大橋先生のときと同じ音がした。

 それから、乗る新幹線と泊まりのホテルを決めさせられた。手配はその場でタキさん自身がやった。ホテルの予約は、まるで身内の人に言ってるみたいに横柄。新幹線とホテルの情報を送ってもらって、やっと解放。

 天六の商店街に寄ってあのポロシャツを買って。よくぞ売れずに残っていてくれた(父へのプレゼントだというと、さらに二割引になった♪)それを高安駅のコインロッカーに放り込み、目玉オヤジ大権現を片手拝みにして家に帰った。
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