大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・048『原宿空中戦』

2019-07-22 15:02:33 | 小説
魔法少女マヂカ・048  
 
『原宿空中戦』語り手:安部晴美  

 

 

 コスプレ少女かと思ったのは原宿という土地柄のせいかもしれない。

 

 盛大な水しぶきを上げて躍り出てきたのは『艦これ』に出てきそうな美少女だ。

 背中には三本の煙突を背負い、両手と肩には大砲と魚雷発射管がついている。

 殺気に満ちた瞳! 裂ぱくの気合! ただのコスプレ少女ではない!!

「ドガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 気合を入れると、地上二十メートルほどのところで大砲を構えた。

「「させるかーーー!!」」

 二人の魔法少女は橋の欄干を蹴って空中に飛翔し、コスプレ少女を挟んで対峙した。

 ズガーーーン!

 両手の大砲を発射するが、マヂカもブリンダも素早くかわして距離をとる。

「わたしは、バルチック艦隊二等巡洋艦イズムルート! 東郷提督に一矢報いんと百余年の時空を超えてきた。邪魔するものはぶっとばす!」

「霊魔の憑依体か、マヂカ、やるぞ!」

「おお!」

 これは放ってはおけない! そう思うと、どこからかライオンオブジェが現れ、さらうようにして私を乗せると、ブーストをかけて空に舞い上がった!

 数秒で千メートルの高度に達する。眼下には神宮の森が黒々と静もっている。

 いつのまにか二人もそれぞれのオブジェに跨り、イズムルートを取り巻いている。

 取り巻かれるのを嫌がって、イズムルートは上下左右に飛び回るが、二人は連携を保ちつつ方位の輪を縮めていく。

 これまでの幼体と違って、実態と思えるほどに姿が明瞭だ。

 イメージが浮かんだ。隙を突いたイズムルードが地上すれすれを飛んで二人の攻撃をかわす。二人は上空から攻撃することになって、下手をすると、地上の原宿の街を破壊しかねない!

 思うと体が動いた。

 三人が描く円弧の下に潜り込む! よし、これでブロックできた!

 ズドドドーーン! ズガガガガーーーン! ズガガガガーーーン!

 イズムルートの砲撃をかわしながら、突き出した両手からビーム攻撃を加える二人。

 だが、微妙にタイミングが合わないようで、あちこちかすりながらも身をかわすイズムルート。

「呼吸を合わせて!」

 檄を飛ばすが返事はない。イズムルートに追随するのに精いっぱいなのか?

 

 セイ!

 

 気合を入れると、同時にダッシュしてイズムルートに突撃! あわや激突というところで左右に散開! その衝撃でスピンするイズムルート。

 ズゴーーーーン!!

 散開の頂点で放ったビームが対極から直撃し、装備品をまき散らしてイズムルートは爆発してしまった。

 破片が落ちる!

 杞憂であった。破片は地上に到達する寸前に、次々と掻き消えて、地上は何事もなかったように週末の賑わいを見せる原宿の街だ。

 

 連携がとれるのに時間がかかる。

 

 この戦いで得た教訓だ。

「ちょっとちがうかも」

 マヂカが腕を組む。

「でも、たしかに時間はかかってたぞ」

「いや、オブジェに乗っているとタイムラグができるような気がするのよ」

「昔は、オブジェなんか使わなかいで戦っていたしな」

「そうなの?」

「ああ、じっさいとどめのビームは、こうやったしな」

 ブリンダがウルトラマンのようなポーズをとる。竹下通りを行く観光客たちが笑っている。ちょっと恥ずかしい。

「オブジェか、慣れの問題か、それぞれの技量か、やっぱ連携か……」

「ここは、やっぱりクレープを食べなおさなければ考えがまとまらんなあ……」

「そうよね……」

 もう一度クレープを奢るハメになった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・33〔啓蟄(けいちつ)奇譚〕

2019-07-22 06:18:43 | 小説・2

高安女子高生物語・33
〔啓蟄(けいちつ)奇譚〕       



 関根先輩の話によると、こうらしい。

 先輩が昼前に二度寝から目覚め、リビングに降りると、リビングに続いた和室の襖が密やかに開いた。何事かと覗くと、和室の奥に十二単のお雛さんのような女の子がいて、目が合うとニッコリ笑って、こう言った。

「おはようさんどす……言うても昼前どすけど、お手水(ちょうず)行かはって、朝餉(あさげ)がお済みやしたら、角の公園まで来とくれやす……なにかて? そら、行かはったら分かります。ほなよろしゅうに……」

 そう言うと、女の子は扇を広げて、顔の下半分を隠し「オホホホ……」と笑い、笑っているうちに襖が閉まったそうな。
「……なんだ、今の?」
 そう呟いて襖に耳を当てると、三人分くらいの女の子のヒソヒソ声が聞こえる。そろりと二センチほど襖を開けてみると、声はピタリと止み、人の姿が見えない。

 そこで、ガラリと襖を全開にすると、暖かな空気と共に、いい香りがした。

 訳が分からず、ボンヤリしていると、ダイニングからトーストと、ハムエッグの匂いがした。

「じれったい人なんだから。ほら、朝ご飯。飲み物は何にする。コーヒー? コーンポタージュ? オレンジジュース?」
「あ、あの……」
「その顔はポタージュスープね。いま用意するから、そこに掛けて。それから、あたしは誰なのかって顔してるけど、名前はアンネ・フランク。時間がないの、さっさとして。着替えは、そこに置いといたから、きちんと着替えて、公園に行ってね」

 先輩がソファーに目を向けると、着替えの服がキチンとたたんで置いてあった。

「あの……」

 アンネの姿は無かった。

 のっそり朝食を済ませ、トイレに行って顔を洗うと、なぜか、もう着替え終わっていた。なにかにせかされるようにして外に出ると、桜の花びらが舞って四月の上旬のような暖かさ。花びらは公園の方から流れ飛んでくる。

 そして、誘われるように公園に行くと、満開の桜を背にし、ベンチにあたしが座っていた。

「なんや、明日香やないか。公園まで来たら何か有る言うて……いや、説明しても分かってもらわれへんやろな」
「分かるわよ。あたしのことなんだから」
「え……」
「今日は、啓蟄の日。土に潜っていた虫だって顔を出そうかって日なのよ。心の虫だって出してあげなきゃ」
「明日香、難しいこと知ってんだな」
「先輩、朝寝坊だから時間がないの。先輩が好きなのは一見美保先輩に見えるんだけど、ほんとは、あたしが好きなんじゃないの?」
「え……?」
「ちなみに、あたしは保育所のころから先輩が……マナブクンが好き。どうなの、答を聞かせて!」
「そ、それは……てか、なんで明日香、東京弁?」
「どうでもいいじゃん。時間がないの、ハッキリ言って!」
「どうしても、今か?」
「もう……時間切れ。明日返事を聞かせて」

 で、桜の花びらが散ってきたかと思うと、あたしの姿はかき消えて、ようやく梅が咲き始めた、いつもの公園に戻ってしまっていた。

「なんかバカみたいな話だけど、夢なんかじゃないんだぜ」

 そうやろ、せやなかったら、わざわざうちを高安銀座の喫茶店に呼び出したりせえへんわな……うちは、お雛さんと馬場先輩の明日香と、アンネの仕業やと思た。けど、そんなん言われへん。

「そら、やっぱり夢ですよ。卒業して気楽になって、三度寝して見た夢ですよ。だいいち、うちが東京弁喋るわけあらへん」
「そうか……でも、明日香、演劇部やから、東京弁なんか朝飯前やろ」
「そら、芝居やからできるんで、リアルは、やっぱり大阪弁です。だいいち演劇部は辞めてしもたし」
「そうか……オレ、一応考えてきたんやけど」
 先輩が真顔で、うちの顔を見つめた。心臓が破裂しそうになった。
「そ、そんな、無理に言わんでもええですよ!」
「……そうか、ほなら言わんとくわ」
「ア、アハハハ……」

 うちは赤い顔して笑うしかなかった。

 うちに帰ると、敷居にけつまづいて転けてしもた。拍子で本棚に手が当たって『アンネの日記』が落ちてきて頭に本の角が当たった。
「あいたあ……」

『アンネ』を本棚に仕舞て、ふと視線。お雛さんと明日香の絵が怖い顔してるような気がした。

「怒りなや。花見の約束だけはしてきたんやさかい」

 それでも、三人の女の子はブスっとしてた。

 うちと違うて、ブスっとしてもかいらしい……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・32『猫の恩返し・3』

2019-07-22 06:11:16 | 小説3

里奈の物語・32
『猫の恩返し・3』

 
 

 大阪市には『街ネコ制度』というものがある。

 猫田の小母さんに教えてもらって、桃子で検索してみた。
 三人以上のグループで登録ができて、野良猫を捕獲するのを手伝ったり、去勢されて戻ってきた猫の面倒を見るんだ。
 エサやトイレの管理をしながら、地域住民が安心して猫と付き合えるようにするボランティア活動。
 猫田の小母さんたちの努力で、地域の野良猫の大半が街猫になった。

 その中で、たった一匹野良猫のままで残っているのがウズメ。

 野良猫なのに毛並みが良くて、灰色の毛はほとんど銀色と言っていいほどの艶があり、頬から顎にかけて絞り込まれたシルエットがクール。他の猫たちからも一目置かれているようで、早朝に公園で行われる猫会議では、いつも上座にいる。
 猫の集会で、どこが上座かと思うんだけど、猫田さんには上座と分かるそうな。
 時にウズメは、猫会議の輪の中で、まるで踊っているように優雅に回る。それを、他の猫たちはウットリと、あるいは興奮気味に見ている。その姿が、まるで天岩戸の前で踊りまくったアメノウズメなので、猫田さんは「ウズメ」と名付けたのだ。

 ウズメは人の前では、他の猫たちの輪の中には入らない。罠を仕掛けてもかかることが無く、他の猫のように捕獲もできない。

「ウズメって、小さな箱咥えてますよね?」
 そう聞いてみた。
「え、それは見たことないなあ」
 という返事が返ってくる。
「……そう言うたら、一回だけ見たかなあ、遠くからやったけど、なにか咥えとった。でも、箱かどうかまでは分からへんかったけど」
 猫田さんでも、詳しくは分からない。

 そのウズメが、ときどき店の前に現れるようになった。

 最初は、小箱を咥えて通過するだけだった。
 それが、立ち止まって店の中を窺うようになった。もちろん小箱を咥えて。
「あ、ウズメ……」
 あたしが気づくと、サッと居なくなる。公園に居ることは分かっているので、店番が終わるころに公園に行ってみる。
「エサやりにも慣れたねえ」
 エサ皿を渡してくれながら、猫田さんがにっこりほほ笑む。
「のらくろは美奈ちゃんが好きみたいやね」
 田川のおばあちゃんが言う。
 のらくろは、足の先だけが真っ白な黒猫。あたしは宅急便を連想したけど、お年寄りたちは「のらくろ」と呼ぶ。あたしがエサ皿を置くと、他のエサ皿に居ても、あたしのところにやってきて、あたしに一番近いところでエサを食べる。一度ほかの猫が意地悪をして、エサ皿からのらくろを弾いたことがある。
「意地悪しちゃダメでしょ!」
 あたしは、意地悪を張り倒し、のらくろをエサ皿の輪の中に戻してやった。どうやら、それでなつかれたようだ。
「ニャー」
 のらくろがゴチソウサマの挨拶。かわいいので喉をナデナデしてやる。ひとしきりのらくろはオーバーオールの膝にスリスリ。
「愛い奴じゃ」
 頭を撫でてやろうとすると、のらくろは、フイと奥の植え込みに目をやる。

「あ、ウズメ……」

 植え込みから半身だけ身を乗り出して、ウズメは口の動きだけでのらくろに呼びかける。
「はい、ただいま」という感じでのらくろはウズメのもとに、首を振りながら、なんだか話をしているみたい。
「やっぱり、ウズメは特別みたいやね……」
 田川さんが呟く。

 あたしは、ウズメには特別以上の秘密があるような気がした……。
 

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高校ライトノベル・須之内写真館・5『島本理事長の顔色』

2019-07-22 06:04:50 | 小説4

須之内写真館・5
『島本理事長の顔色』       


 写真には自信があるが、こういうのは苦手だ。

 だから、単刀直入に本人に当たってみることにした。
 本人とはU高校理事長の島本耕作である。ワンマン理事長として、東京の私学の中では有名。
 ちょうど卒業アルバムの理事長の肖像写真の打ち合わせがあったので、都合がよかった。

「じゃ、こちらのお写真で決めさせていただいて結構ですか?」
「ああ、去年は、震災のこともあってクールビズでやってみたが、もう今年はもとに戻してもいいと思うんだ」
 島本理事長は、校旗を背景にブリトラスーツで決めた写真を選んだ。
 ファッションについては……最低である。
 イギリス留学が長かったということで、あちこちに英国風のこだわりがあり、いま目の前に出されている紅茶も専門店から取り寄せた英国王室御用達のものである。
 正直ブリトラのスーツは似合わない。胴長短足なので、丈の長いブリトラでは余計に足が短く見える。みんな知って居るんだけど、面と向かっては誰も言わない。むろん直美も。U高は、大事なお客さんだ。

「実は、こんな写真がまいりまして……」

 長い自慢話が始まる前に、直美はクラフト紙の封筒を取りだした。松岡が持ち込んだ写真だ。
 マンマでは直美自身が疑われるのではないかと、改めて別の封筒に入れ直し、須之内写真館宛の速達にしてある。投函はわざわざ千代田区のポストからした。千代田区の消印なら、国会や議員宿舎も、大企業も多くあり、想像力が膨らむ。

「……これは!?」

 ブリトラが、椅子から五センチほどとびあがった。
 それだけショッキングな写真である。
 島本理事長が、ガールズバーの女の子をお持ち帰りして、ホテルに入っていくところがしっかり写っている。五枚目の下には、どうやって撮ったのか、まさに行為の真っ最中の写真が入っていた。
「悪質な合成写真だと思うんですが」
「合成写真?」
「はい、良くできていますが、理事長先生は、こんなにお腹が出てらっしゃいませんし、おみ足も、もっと長いと思うんです」
「そ、そうだよ。顔はともかく、体は別人だ」
「表情もよく選ばれていますね。おそらく、この恍惚としたお顔は、クシャミをなさる寸前の写真から抜いてきたものだと思うんです」
「そ、そうだよ、クシャミをなさる寸前てのは、こんな顔になるもんだよ」
「あら、こんな小さな写真が……」
 直美は、封筒の中味を確認するようにして、サービスサイズの写真を出した。そこにはティッシュ配りの杏奈と、お持ち帰りの女の子を上手く外した理事長の横顔が写り混んでいた。
「あ……」
「……あ、この子、この一学期までいた杏奈って子ですね」
「よく知ってるね」
「この子、集合写真の中でも栄えるんです。合格発表の時にポートレート撮って表情の良い子だと思ったんで、入学案内の写真に使いました。先生もご存じですよね……これは、ガールズバーのティッシュ配りですかね……先生、お気づきになったんですか。心当たりがあるようなご様子でしたが?」
「渋谷を道玄坂の方に行こうとして見つけてしまったんですよ。風俗のバイトは見過ごせませんからね」
「退学になったんですか?」
「え……」
「修学旅行で、見かけなかったもんですので」
 理事長は、せわしなく足を組み替え、目が泳いだ。

 その後は、簡単だった。例の佐伯先生が呼ばれて、佐伯先生が停学と退学を間違えて聞いてしまったことになった。直ぐに杏奈のお父さんに電話して、佐伯先生が平謝りすることで幕が降りた。

「なんでしたら、合成の分析やってみましょうか。警察に届けた方が……」
「い、いや、それには及びません。ハハ、こういう立場におるといろいろありますよ、アハハハ」

 その夜は、杏奈はバイトを休み、須之内写真館のスタジオで、ささやかな、杏奈の復学パーティーをやってもらった。
「あの理事長は、いろんなところに顔が利きましてね。仕事上逆らうわけにはいかなかったんです。すまなかったな、杏奈」
 杏奈のお父さんが頭を下げた。
「いいよ、お父さん。もう片づいたことなんだから」
「修学旅行にも、行かせてやれなかった」
「いいったら。もうちょっと大きくなったら、自分の甲斐性でいってくるから」
 杏奈は、本来の明るさを取り戻していた。
「しかし、松岡さん、いったい何者なの?」
「ただのガールズバーの親父ですよ。直美さんこそ、ラッキーフォトじゃないですか。ここで写真撮って、杏奈の運命が回り始めたんだから」
「まあ、お上手ね」

 ま、結果良ければ全てよし。素直に喜んでおいた直美であった。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・73』

2019-07-22 05:57:03 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・73


『第七章 ヘビーローテーション 11』 

 

 転院の日は平日の昼前、お母さんは、やっぱり来なかった。

「はるかちゃん、ほんとうにありがとう」
 車椅子を押しながら、秀美さんが言う。
 静かで、短い言葉だったけど、万感の想いがこもっていた。
 わたしは、群青に紙ヒコーキのシュシュでポニーテール。
「シュシュの企画当たるといいですね」
「もう当たってるわよ。さっきから何人も、はるかちゃんのことを見ている」
「え……車椅子の三人連れだからじゃないんですか?」
「視線の区別くらいはつかなきゃ、この仕事は務まりません。むろん、はるかちゃん自身に魅力が無きゃ、誰も見てくれたりしないけどね」
「はるかの器量は学園祭の準ミスレベル。父親だからよくわかってる」
「それって、どういう意味」
「客観的な事実を言ってるんだ」
――それって、わたしのウィークポイントにつながっちゃうんですけど、父上さま。
「今のはるかちゃんは、東京で会ったときの何倍もステキよ。そのシュシュが無くっても」
――それは、秀美さんの心映えの照り返しですよ。
 発車のアナウンス。
 車窓を通して、笑顔の交換。
 発車のチャイム。

 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。

 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。
 振り返ると、スマホを構えたオネーサンが二人、わたしの写真を撮っていた。
「ごめんなさい、あんまり可愛かったから」
「ども……」
「よかったら、この写メ送ろうか。スマホとか持ってるでしょ」
「はい、ありがとうございます」
 送ってもらった写真は、とてもよく撮れていた。
 一枚は、ちょっと寂しげに、のぞみを見送る全身像。
 もう一枚は、振り向いた刹那。ポニーテールがなびいて、群青のシュシュがいいワンポイントになって、少し驚いたようなバストアップ。
「このままJRのコマーシャルに使えるわよ」
 と、オネーサン。聞くと写真学校の学生さんだった。
 オネーサンたちと別れてしばらく写真を見つめて……ひらめいた!
――これだ、『おわかれだけど、さよならじゃない』
 わたしは、ベンチに腰を下ろし、写メを見ながら、そのときの物理的記憶を部活ノートにメモった。

 この写真が、後に大きな波紋を呼ぶとは想像もしなかった。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・4』

2019-07-22 05:48:13 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・4

大橋むつお

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します


時   ある日ある時
所   あるところ
人物……女3  

    赤ずきん
    マッチ売りの少女
    かぐや姫

 

 

下手から、コンビニの袋を持ってかぐやがやってくる。

 

かぐや: あら、わたくしに御用?
赤ずきん: あら。
マッチ: かぐやさん!
かぐや: マッチ売りの少女さん……と、こちらは……郵便ポストさん?
赤ずきん: あのね……
かぐや: あ、サンタさんのお嬢さん。お父さんのお手伝い?
赤ずきん: そのね……
かぐや: 知ってるわ、赤ずきんちゃんさんでしょ? 生徒会長さんですよね。どうぞ中へ。きたなくしてるけど、お茶でもいれましょう。
マッチ: わたしたちね、呼び方かえたの。赤ずきんちゃんとか、マッチ売りの少女とか、長くて呼びにくいから。わたしはマッチで……
かぐや: まあ、かっこいい。赤ずきんちゃんさんは?
赤ずきん: それがね……
マッチ: 赤ちゃん!
かぐや: まあ、かわいい! じゃ、わたしもそう呼ばせてもらっていい、赤ちゃんさんて。
赤ずきん: さん抜きでいい。
かぐや: そんな不しつけな。わたしは「さん」をつけさせていただきます。いいでしょ?
赤ずきん: ま、いいけど……
マッチ: こないだも来たのよ、金八郎先生といっしょに。
かぐや: まあ、そう。それでね……このお家が急にお散歩に出かけてしまったのは……
マッチ: ああ、やっぱりお散歩だ。
かぐや: はい。このお家、すききらいがはげしいんですぅ。
赤ずきん: きらいなのか、この家?
かぐや: にがてなんですの。熱心でいいお方なんですけど……むき出しでいらっしゃいますでしょ、いつもエンジン全開で……
赤ずきん: あたしも元気な方だけど、それでも持てあましちゃうもんね。
かぐや: どうぞ……(お茶を出す)あの先生悪いかたじゃございませんのよ、ご兄弟もいい方ですし。
マッチ: 兄弟いたの?
かぐや: はい、お兄さんたちとは古いおつきあいよ。
赤ずきん: お兄さん?
かぐや: 金太郎さん。動物好きの、マッチョだけれどもおだやかなお方。その下が金二郎さん。いつも柴を背負って、お勉強ばかり。その下は早くに亡くなられたけど。四番目が金四郎さん。桜ふぶきで入れ墨がとってもおにあいのナイスガイ。以下省略。
赤ずきん: どうして、あの先生この世界にいるんだろう?
マッチ: あ、さっきのわたしの質問!?
かぐや: それは……あの先生のおつむりの回路がメルヘンみたいだから……でも本当のメルヘンて……よしましょう、こんなヤボな話は。

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