大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・1・そぼ降る雨のなか』

2019-07-31 06:59:13 | 戯曲

1『そぼ降る雨のなか』 

大橋むつお

 

  • 時       現代
    所       ある町
  • 人物(女3)  のり子  ユキ  よしみ

 

 そぼ降る雨のなか、バス停の横に貧相な少女ユキがたたずんでいる。さした傘に押しつぶされそうになりながらも手にはもう一本、大きめの古い男物の傘。背中には、小さな子どもを背負っているように見える。

 バス停の下手よりに古ぼけた街灯。それが懐かし色にバス停の周囲を包んでいる。背後には鎮守の森。雨音しきり。ときにカエルの鳴き声。

 ややあって、下手から、のり子がスケッチブックを頭にかざし、ボストンバッグを抱え、雨をしのぎながらやってくる。バス停の時刻表と携帯の時間を見比べ、雨のしのげそうなところをさがす。二三度場所を変えるが、どこも大して変わりはない。

 この間ユキは無関心。

 やがて……

 

のり子: ……えと、一本貸してもらえないかしら……
ユキ: ……(一瞬ドキリと身じろぎするが、聞こえないふりをする)
のり子: ……バス……来るまででいいんだけどね……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: あなたも、バス……待ってんでしょ?
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 次のバス……だいぶある……よな……
ユキ: …………………………………………………………………………

のり子: よく遅れるんだよな……ここ……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 二本持ってんでしょ。今さしてんのと、手に持ってんのと(`Д´)!
ユキ: ……(黙って、さしていた傘をのり子にさしかけて、渡してやる)
のり子: え……あ、ありがと(^_^;)。
ユキ: ……(傘を渡すと、またもとのところへもどり、もう一本の傘はささずに大事そうに持ち、黙って濡れている)
のり子: え……ささないの、その傘。
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 怒った?
ユキ: ……(かぶりをふる)
のり子: じゃあ、さしなよその傘。
ユキ: いいんです。
のり子: よかないよ。
ユキ: いいんです。
のり子: なんだか、これじゃ、あたしがむりやり傘とりあげて、いじめてるみたいじゃないよ……返すよ。
ユキ: いいの、それはあなたに貸したんだから。
のり子: 返すよ!(傘の押し付けあいになる。ユキの背中の子どもの異常に気づく)あんた、その背中の……ブタ?
ユキ: 人形、ぬいぐるみの人形……
のり子: うそ。今あたしのことギロってにらんで、牙むいてうなったわよ。ガルル……って。
ユキ: 気のせいよ。ブタさんのぬいぐるみがそんなこと……
のり子: でも、ほんとうにそう見えたんだから…………あれ? ほんと。やっぱしぬいぐるみ(^_^;)。
ユキ: でしょ。
のり子: でも、やっぱし生きてるみたいな感じがする。
ユキ: そんなことないわ……
のり子: …………ううん、やっぱし生きてるよ。そのぬいぐるみ!

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・42〈高安幻想・1〉

2019-07-31 06:41:23 | 小説・2

高安女子高生物語・42
〈高安幻想・1〉     


 有馬温泉から帰ってからはボンヤリしてる。

 なんせ、明菜のお父さんの殺人容疑を晴らして、離婚旅行やったんを家族再結束旅行にしたんやさかい、うちとしては、十年分のナケナシの運と正義感を使い果たしたようなもん。十六の女子高生には手に余る。ボンヤリもしゃあないと思う。

 しかし、三月も末。

 そろそろ新学年の準備っちゅうか、心構えをせんとあかん。中学でも高校でも二年生言うのは不安定でありながら、一番ダレる学年。お父さんの教え子の話聞いてもそうや。ちょっとは気合い入れなあかん。そう思て、教科書の整理にかかった。国・数・英の三教科と、将来受験科目になるかもしれへん社会、それに国語便覧なんか残して、あとはヒモで括ってほかす。
 で、空いた場所に新二年の教科書を入れる。二十四日に教科書買うて、そのまんまほっといた。包みを開けると、新しい本の匂い。たとえ教科書でも、うちには、ええ匂い。これは、親の遺伝かもしれへん。

 せやけど、手にとって眺めるとゲンナリ。教科書見て楽しかったんは、せいぜい小学校の二年生まで。あとは、なんで、こんな面白いことをつまらんように書けるなあと思う。

 日本史を見てタマゲタ。山川の詳説日本史や! 

 みんな知ってる? これて、日本史の教科書でいっちゃんムズイ。うちの先生らは何考えてんねやろ。わがOGHは偏差値6・0もあらへん。近所の天王寺やら高津とはワケが違う。ちなみに、うちが、こんなに日本史にうるさいかというと、お父さんが元日本史の先生いうこともあるけど、うち自身日本史は好きやから。

 で、ページをめくってみる。

 最初に索引を見て「楠木正成」を探す。

 正成は河内の英雄や! 

 で、読んでガックリきた。

――後醍醐天皇の皇子護良親王や楠木正成らは、悪党などの反幕勢力を結集して蜂起し……――

 114ページにそれだけ。ゴシック体ですらあれへん。

 とたんに、やる気無くした。

 ガサッと本立てにつっこむと、ようよう暖こなってきた気候に誘われて、気ぃのむくまま散歩に出かける。
 桜の季節やったら近鉄線を西に超えて玉串川やねんけど、まだちょっと早い。で、気ぃつくと東の恩地川沿いに歩いてた。
 最近は、川も整備されてきれいになって、鯉やら鮒やらが泳いで、浅瀬には白鷺がいてたりする。五月になったら川を跨いでぎょうさん鯉のぼりが吊されて壮観。そんな恩地川を遡って南へ……。

 気ぃついたら、高安の隣りの恩地まで来てしもた。

「おんろりゃ、ろこのガキじゃ!?」

 ビックリして川から目ぇ上げると一変した景色の中に、直垂(ひたたれ=相撲の行司さんの格好)姿のオッサンが目ぇ向いてた。あたりに住宅も近鉄電車ものうなって、一面の田んぼに村々が点在してた。どない見ても江戸時代以前の河内の景色や。
「おんろりゃ、耳聞こえへんのか!?」
 この二言目で分かった。これはえげつないほど昔の河内弁や。

 昔の河内弁は「ダ行」の発音がでけへん。

「淀川の水飲んで腹ダブダブ」は「よろ川のミルのんれ、はらラブラブ」になる。
「仏壇の修繕」は「ブツランのシュウレン」という具合。

 せやから、今のオッチャンの言葉は、こうなる。

「おんどりゃ、どこのガキじゃ!?」
「おんどりゃ、耳聞こえへんのか!?」

 現代語訳してる場合やない。オッサン、刀の柄に手ぇかけよった!

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高校ライトノベル・里奈の物語・41『鈴野宮悦子・1』

2019-07-31 06:32:56 | 小説3

里奈の物語・41
『鈴野宮悦子・1』



 三叉路の右手は、西に向かって下り坂になっている。

 彼方に海の気配。見えるわけじゃないけどスマホのナビが、浪速区、住之江区の向こうに海があることを示している。
 海って懐かしい……そう思わせたのは、昔住んでいた横浜が、あたしの原風景なせいかもしれない。
 坂からのビューに見とれていたあたしを咎めるように、ウズメが「ニャー」と鳴いた。

「あ、ごめん」

 ウズメは、右手の道から、人一人通るのが精いっぱいの生活道路に入っていく。入っていく曲がり角のところに恐ろしく古いレトルトカレーのホーローの看板。それから角を曲がるごとにホーローの看板。住居表示まで紺色のホーローになってきた。

 阿倍野區――町――丁目――番…………ん、區? 一瞬読み方が分からない。

 昔の「区」か……思い至ると、景色が開けた。
 開けた景色の真ん中に、レトロな洋館が立っている。ペンキの匂いがしそうな鉄門を開け、ウズメのお尻に着いていく。
 よく手入れされたバラ園を二つ曲がって車寄せのアプローチ。
「お待ちしておりました、悦子様は、中でお待ちでございます」
 メイドさんが、玄関のドアを開けて待っている。文化祭のコスプレ以外で初めて見るメイドさん……たぶん本物。
 あれ、ウズメの姿が見えない? 思っているうちにメイドさんが立ち止まり、観音開きのドアの前で、こちらを向いた。

「お嬢様、葛城さまが見えられました」

「どうぞ」の声がして、観音開きの中に入る。

 教室くらいの部屋は、外に面した側がガラス張りのテラスに続いていて、そのガラス張りに向かい、やわらかな陽を浴びながら、その人は座っていた。

「こんにちは、メールを頂いて参りました、葛城里奈です」
 
 振り返った悦子さんは、少し驚いたような、そして「よかった」というような表情をした。

 遠くで汽笛の音がした。ガラス張りの向こうを汽船がゆっくりと通っていく。
 
 阿倍野区の真ん中に汽船……その風景を不思議とも思わなかった……。

 

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高校ライトノベル・須之内写真館・14【美花の증조모(ジュンゾモ)・1】

2019-07-31 06:26:43 | 小説4

須之内写真館・14
【美花の증조모(ジュンゾモ)・1】  



「いらっしゃいませ、美花さんのジュンゾモ様」

「よしてくださいよ、ただのバアサンです。美花にとっては難儀なひい婆ちゃんですけど」
 九十六歳とは思えない軽さと明るさで美花のひい婆ちゃんは笑った。

 美花から聞いてひい婆ちゃんが写真を撮りに来たのだ。

 直美はもとより、ジイチャンの玄蔵までが緊張のしまくりだった。なんと言っても在日一世、バリバリの韓国文化を背負ったお年寄りを想像した。日本語がご不自由であってはと、タブレットに韓日翻訳機能を付けさせたり、持たなくてもいい民族的な引け目などでガチガチになっていた。そう、なにより美花の帰化を思いとどまらせた人物である。学校で習った知識やマスコミの情報を無意識に前提として、待ち受けていた。

「お供の方は……」

「わたし一人です……なにか?」
「ひいお祖母様とうけたまわっておりましたので……」
「ハハ、バカは歳をとらないって申しますでしょ。それに付いてこられた日には恥ずかしくって。住所さえ分かっていれば、もう70年も住んでいる東京。どこへだってまいります」

 そこへ、美花からメールが来た。

――そろそろ着きます。ひい婆ちゃん、名前は金美子です。元気そうだけど歳なんでよろしく――

 もう着いてるわよ……そう返事しようかと思ったが、「了解」とだけ打っておいた。
「美花ちゃんが、よろしくって、メール寄こしてきました」
 直美は、スマホの画面ごと見せた。すると美子ひいばあちゃんは、やにわに立ち上がって、ブラインドの隙間から外を窺った。
「どうかなさいましたか?」
「そのメールですよ」
「え……」
「そろそろ着きますで、丸を打ってますでしょ。うちの者がつけてきてるんじゃないかと……いないようですね」
「直美、念のため見にいきなさい。美花ちゃんも一回来ただけだから」
「うん、失礼します」

 大通りまで出たが、それらしい姿は見えなかった。念のためメールを打つと――ひい婆ちゃんだけが行きます――と、返ってきた。

「まあ、今の子は、句読点の打ち方も知らないんですね。これじゃ、打った本人が来る意味になります。お恥ずかしいかぎりです」
 で、孫やひ孫の棚卸しになり、お茶を飲み終わったところで撮影になった。
「ちょっと着替えたいと思いますので」
「あ、どうぞ、こちらで」
 直美は、更衣室へ案内した。

「さぞご立派なチマチョゴリなんだろうな……」
「直美、ライトとレフ板を、心持ち下げてくれ。裾が広がるだろうから」
「うん……OK」

 そして、意外な早さで現れた美子ひい婆ちゃんは、チマチョゴリではなかった……。 

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・82』

2019-07-31 06:19:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・82
『第八章 はるかの決意5』 


 目が覚めると、きちんと課題ができていた。

 ちゃんとわたしの字。わたしは、お母さんと違って、わりに整理整頓するほう。しかし、机の上の課題は、わたし以上。きちんと行儀良く教科別に耳をそろえて積んであった。

 金曜日、晴れて停学が明けた。

 細川先生は、ちょっと不満げな顔をしていた。
 乙女先生は、大喜び。
「さあ、本番は明後日や、きばっていかなあかんで!」

 一回通しただけで勘がもどってきた。
「はるか。なんや、らしなってきたな。停学になって、よかったんちゃうか」
 と、大橋先生。みんなが笑った。
「アハハ」
 わたしも笑ったが、マサカドさんとやったとは言えない。
「しかし、コンクールはシビアや、腹くくっていきや」
 と、乙女先生はくぎを刺す。


 いよいよ、予選本番。

 わたしたちの出番は、幸か不幸か、二日目の一番最後。
 初日と、二日目の午前中は稽古で、他の学校を観ることができなかった。
 大橋先生は、初日の芝居を観たあと、学校に戻って一本通すだけでいいと言ったが、
「万全を期しましょう」という乙女先生の説に従うことになった。

 本番の一時間前には控え室で衣装に着替え、スタッフ(といっても、音響の栄恵ちゃんとギターの山中先輩。そして照明の乙女先生)との最終チェックを兼ねて、台詞だけで一本通した。
 大橋先生は、お気楽に観客席で、お母さんといっしょ(NHKの子ども番組みたい)に観劇しておられました。

 本ベルが鳴って、客電がおちる。

――ただ今より、真田山学院高校演劇部によります、大橋むつお作『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』を上演いたします。なお、スマホ、携帯電話など……と、場内アナウンス。
 一呼吸おいて、山中先輩にピンがシュートされたんだろう、うららかなギターが、舞台袖まで聞こえてきた。
 そして十五秒、舞監のタロくん先輩のキューで、緞帳が十二秒きっちりかけて上がった。

 あとは夢の中だった。

 舞台に立っているうちは、演じている自分。それを冷静に見つめ、コントロールしている自分がいたはずなんだけど。
 あとで思い出すと、マサカドさんから受け止めたものがヒョイとカオルの気持ちとなって蘇ってきていた。

 わたしは、あの時間、カオルとして生きた。

 新しく増えて六曲になった歌。自然な気持ちが昇華したエモーションとして唄うことができた。
『おわかれだけど、さよならじゃない』ここは、新大阪でのお父さんとの別れ。それが蘇り、辛いけど爽やかな心で唄えた。
 そして観客の人たちの拍手。
 全てが夢の中。

 ハッと、自分に戻ったのは、フィナーレが終わって、唄いながら上手に入る。
 顔を客席に向けたままハケて衝撃が来た。

 ドスン!

 収納されていた可動壁(元来チャペルなので、そのとき用のやつ)に、思い切りぶつかってしまった。
 痛さという物理的な記憶があるので、そこのところだけは鮮明だ。

 そして、講評と審査結果の発表。

 わたしたちは、他の学校のお芝居をまるで観ていない(わたしの停学というアクシデントがあったせいなんだけど……)
 ひたすら演りきったという爽快感に停学の疲れさえここ地いい。

 審査員というのは偉いものだと思った。

 けなす。ということをしない。
 まず誉める。それもどの学校もほぼ同じ時間。
 最後に「……なんだけども、どこそこがね」と本題に入る。
「あそこさえ、どうこうなったら、かくかくしかじか……」と、いう具合。

 いよいよ、わたしたちの番がまわってきた。
 他の学校と同じ時間、同じように誉められた。
 しかし「……なんだけれども」がない。

 各賞の発表になった……。
 個人演技賞に三人とも選ばれた。
――やったー! と思った。
 タロくん先輩が、ヒソヒソ声で水を差した。
「最優秀とちゃうとこは各賞が多いねん……」

 わたしは、それでもいいと思った。精いっぱいやったんだから……。

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