連載戯曲『梅さん⑧』
暗転、商店街の環境音して明るくなる。
物陰(ポストや電柱など)から、下手の袖奥にあると想定してある八百屋の店先を見まもる二人。
梅: あれが渚の彼氏?
渚: うん
梅: ……ねじり鉢巻に前垂れかけて、なかなかしぶいわね……真面目そう……でも、渚って意外にオジン趣味なのね?
渚: ち、ちがうよ、あれはお父さん。奥の方でしゃがんで背中見せてる方。
梅: 道理だ……あ、こっち向いた!
渚: (想いとは逆に背を向けて)進……
梅: 思ったよりいい男じゃない……でも、渚の情報の中に彼の事無いよ、進(しん)というのは……
渚: (桓間見ながら)進一……
梅: 進一……暴走族の遊び仲間に、そう言う名前があったようだけど……
渚: その進一。
梅: え?
渚: もう三ヶ月近くも話らしい話していない……
梅: どうして?
渚: 近寄りにくくて……三ヶ月前、デートのかえりにバイクで事故ちゃって……
梅: 頭でも打ったの?
渚: わからない、さよならして帰る途中だったから。
梅: でも、怪我したでしょう?
渚: 雨でスリップして転倒。バイクはグシャグシャ……でも、進は放り出されて、
生け垣がクッションになって怪我一つしなかったって……
それからだよ、族もやめちゃって、この春から、夜間大学にいくんだ……
梅: やっぱ、何処か打ったんだよ。
渚: CTとかも撮りに行ったんだけど、異常なしだったし……
梅: 話しに行ったら?
渚: だめ、仕事中に声をかけると叱られる。
梅: (ノートを見ながら)進一はただの遊び仲間の一人にすぎなかったのにね……渚、いつもこうやって見てるだけなの?
渚: 今日は梅さんがいっしょだから。ほんとうは、もうこれで別れようと思ってた。
五六人いるオトコの一人だったから……でも、こうなっちゃって、進一のこと愛してたの……初めてわかった。
梅: だったら、しばらくあっち行ってようか?
渚: だめ! 梅さんがいっしょにいてくれるから、ここから見ていることもできるの。チラ見が精一杯……
梅: 電話とかは?
渚: 進一、スマホもやめちゃった……時々手紙は出すの、返事はこないけど……
梅: 一度も?
渚: 一度だけ、年賀状「あけましておめでとう。元気でいますか?」そう書いたら「元気です。その時が来たら会います」
……それっきり。
梅: あ!? ひょっとしたら……わたし、会ってくる。
渚: 梅さん……
梅: 大丈夫、お客で行くの。大根でも買ってくるわ……チャンス! お父さんが裏にまわった。
梅、下手袖中へ、物陰からそっと見守る渚
渚: 梅さんいつの間にか買い物カゴ持って……進一が振り向いた……驚いた顔、どうして ……!?
なつかしそうな顔してる……笑った! 頭かいた! あんな顔あたしには見せたこともないのに……
何を話してんだろう……ヤバイ、こっち見た(身を隠す。ややあって、臆病そうに再びのぞく)
大根選んでる……場合じゃないでしょ……楽しそうに……笑った。
どーして? まるでずっと昔からのおなじみさんみたいじゃん……あ、進のやつ、ジャガイモでお手玉して、梅さん笑いころげてる。 どーして、どーしてあんなに親しげ?……あ、急に真面目な顔……なにかたずねあって……どうせあたしの悪口だ。
へそ出しルックにへそピアス。わがままで自分勝手で、めんどうくさがり屋の自己チューで軽薄でおしゃべりで、
きれやすいくせににぶい奴だとか、どうせコネでなきゃ就職もできないパッパラパーだとか……
想像しすぎて落ちこんじゃう……なにうなずいてんのよお、なに話してるのよゥ……あ、肩触った!
トントンて二回も気やすく触りやがった!……又々笑った……ほほえましいぞ、うらやましいぞ、グジョー……!
いつの間にか上手から梅がやってきて下手の様子にヤキモキしている渚を楽しげに見ている
梅: 済んだわよ。
渚: え! どうして……(梅が、側に立っているので驚く)だ、だって……今の今まで……
梅: あれは幻よ。
渚: ま、まぼろし?
梅: 進一の顔を見て、お互いびっくりしたところまでは二人とも実態……その後は幻を残して、別の次元で話していたのよ。
……大根と男爵芋まけてもらっちゃった。他にもおでんの材料買ったから、記念に梅さん特製明治時代のおでん作ってあげる。
渚: あの……
梅: さあ、詳しくは家へ帰って……ん、誰かいなかった?(気配を感じて、見回す)
渚: え?
暗転、商店街の環境音して明るくなる。
物陰(ポストや電柱など)から、下手の袖奥にあると想定してある八百屋の店先を見まもる二人。
梅: あれが渚の彼氏?
渚: うん
梅: ……ねじり鉢巻に前垂れかけて、なかなかしぶいわね……真面目そう……でも、渚って意外にオジン趣味なのね?
渚: ち、ちがうよ、あれはお父さん。奥の方でしゃがんで背中見せてる方。
梅: 道理だ……あ、こっち向いた!
渚: (想いとは逆に背を向けて)進……
梅: 思ったよりいい男じゃない……でも、渚の情報の中に彼の事無いよ、進(しん)というのは……
渚: (桓間見ながら)進一……
梅: 進一……暴走族の遊び仲間に、そう言う名前があったようだけど……
渚: その進一。
梅: え?
渚: もう三ヶ月近くも話らしい話していない……
梅: どうして?
渚: 近寄りにくくて……三ヶ月前、デートのかえりにバイクで事故ちゃって……
梅: 頭でも打ったの?
渚: わからない、さよならして帰る途中だったから。
梅: でも、怪我したでしょう?
渚: 雨でスリップして転倒。バイクはグシャグシャ……でも、進は放り出されて、
生け垣がクッションになって怪我一つしなかったって……
それからだよ、族もやめちゃって、この春から、夜間大学にいくんだ……
梅: やっぱ、何処か打ったんだよ。
渚: CTとかも撮りに行ったんだけど、異常なしだったし……
梅: 話しに行ったら?
渚: だめ、仕事中に声をかけると叱られる。
梅: (ノートを見ながら)進一はただの遊び仲間の一人にすぎなかったのにね……渚、いつもこうやって見てるだけなの?
渚: 今日は梅さんがいっしょだから。ほんとうは、もうこれで別れようと思ってた。
五六人いるオトコの一人だったから……でも、こうなっちゃって、進一のこと愛してたの……初めてわかった。
梅: だったら、しばらくあっち行ってようか?
渚: だめ! 梅さんがいっしょにいてくれるから、ここから見ていることもできるの。チラ見が精一杯……
梅: 電話とかは?
渚: 進一、スマホもやめちゃった……時々手紙は出すの、返事はこないけど……
梅: 一度も?
渚: 一度だけ、年賀状「あけましておめでとう。元気でいますか?」そう書いたら「元気です。その時が来たら会います」
……それっきり。
梅: あ!? ひょっとしたら……わたし、会ってくる。
渚: 梅さん……
梅: 大丈夫、お客で行くの。大根でも買ってくるわ……チャンス! お父さんが裏にまわった。
梅、下手袖中へ、物陰からそっと見守る渚
渚: 梅さんいつの間にか買い物カゴ持って……進一が振り向いた……驚いた顔、どうして ……!?
なつかしそうな顔してる……笑った! 頭かいた! あんな顔あたしには見せたこともないのに……
何を話してんだろう……ヤバイ、こっち見た(身を隠す。ややあって、臆病そうに再びのぞく)
大根選んでる……場合じゃないでしょ……楽しそうに……笑った。
どーして? まるでずっと昔からのおなじみさんみたいじゃん……あ、進のやつ、ジャガイモでお手玉して、梅さん笑いころげてる。 どーして、どーしてあんなに親しげ?……あ、急に真面目な顔……なにかたずねあって……どうせあたしの悪口だ。
へそ出しルックにへそピアス。わがままで自分勝手で、めんどうくさがり屋の自己チューで軽薄でおしゃべりで、
きれやすいくせににぶい奴だとか、どうせコネでなきゃ就職もできないパッパラパーだとか……
想像しすぎて落ちこんじゃう……なにうなずいてんのよお、なに話してるのよゥ……あ、肩触った!
トントンて二回も気やすく触りやがった!……又々笑った……ほほえましいぞ、うらやましいぞ、グジョー……!
いつの間にか上手から梅がやってきて下手の様子にヤキモキしている渚を楽しげに見ている
梅: 済んだわよ。
渚: え! どうして……(梅が、側に立っているので驚く)だ、だって……今の今まで……
梅: あれは幻よ。
渚: ま、まぼろし?
梅: 進一の顔を見て、お互いびっくりしたところまでは二人とも実態……その後は幻を残して、別の次元で話していたのよ。
……大根と男爵芋まけてもらっちゃった。他にもおでんの材料買ったから、記念に梅さん特製明治時代のおでん作ってあげる。
渚: あの……
梅: さあ、詳しくは家へ帰って……ん、誰かいなかった?(気配を感じて、見回す)
渚: え?