大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・042『ラジオ体操第二!』

2019-07-25 15:43:46 | ノベル
せやさかい・042
『ラジオ体操第二!』 

 

 

 チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)♪


 ラジオ体操のイントロで目が覚める。

 あ…………枕元にラジオ体操人形。寝ぼけてお腹を押してしもたんや。

 ポチ

 もう一回押して停める。せっかくの夏休み、二度寝のまどろみを楽しむ……。

 チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)♪

 え? 切ったはずやのに…………え? ラジオ体操は外から聞こえてくる。

 ボーーっとしたまま上体を起こし、窓の外を見る。

 境内に小学生が集まってラジオ体操をやってる。首からカードをぶら下げて、六年ぐらいの子ぉが前で見本を見せながら、おおよそ、みんなでそろって、一二三 一二三……おお、伝説の夏休み朝のラジオ体操!

 わたしの小学校ではやってなかった。噂では、地方に行くと、お寺や神社の境内でやってるって聞いたことがある。それが灯台下暗し、自分の家でやってるとは思わんかった。

 I want be in that number~(^^♪ 

 ジャズの『聖者の行進』のフレーズが弾けた! つるんでやることは苦手やけど、あのラジオ体操は……せめて、そばで見てみたい!

 そう思うと、パジャマのまんま階段を下りて、スリッパをつっかけて境内に急いだ!


 境内に出てみると、蝉時雨と競うようなラジオ体操が陽気に鳴り響いてはいたけど、三年生くらいの女の子一人になってしもてた。

 ラジオ体操は第一が終わって、第二の整理運動いうんやろか、息を大きく吸い込んで腕を前で交差させて深呼吸……。

 女の子は、深呼吸をしながら、コマ落しのように大きくなっていく。

 ……四年生……五年生……六年生……中学一年生……中学二年生……女の子はのりちゃんの姿になった。

「のりちゃん……」

「アハハ、桜ちゃんのお人形でラジオ体操思い出して。いやあ、懐かしかった!」

「あ、ひょっとしたら、ラジオ体操の出席カード!]

「うん?」

「休んだ日があって、ハンコの数足らんから、その分稼ぎに現れたとか!?」

 のりちゃんは、やり残したことがあって、中学生の頃の姿で蘇ったんや。

「ハハ、家は、道挟んだ隣やったから、ずっと皆出席やったよ!」

「そうなんや」

「ごめんね、起こしてしもて」

「思い出されへん、やり残したこと?」

「アハハ、そのうち思い出すやろし」

 照れたように笑うと、空気に溶けるようにのりちゃんの姿が薄くなって……いや、薄なってんのは、わたし方や!

 あ! あ! 消えていくしいいいいいいいい…………!


 桜ちゃん、そろそろ朝ごはん。


 伯母ちゃんの声で目が覚めた。窓の外の境内は、やかましいくらいのセミの声で満ちておりました。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・7』

2019-07-25 05:43:17 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・7

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

かぐや: 先生がまだほんのお子様のころ、お母さまが内職のミシンをふみながらよく歌ってらっしゃったんですって。お母さまが、この歌を口ずさまれるとそれだけでね、六畳一間のお部屋が月の砂漠になったんですって。ほほほ、おわかり?
赤ずきん: わかったような……
マッチ: わからないような……
かぐや: 先生はね、月の光に照らされた砂漠じゃなくて。そのまんま月の砂漠とお思いになったんだって。
赤ずきん: え?
マッチ: ん?
かぐや: で、どうして空気のない月の砂漠を王子さまとお姫さまが、ラクダに乗っていけたんだろうって…… 
二人: あははは……
かぐや: でも、すてきじゃございませんこと……お母さまのお歌一つで六畳のお部屋が月の砂漠になって、畳のへりを、小さな王子さまとお姫さまがラクダにのっていかれるなんて。
赤ずきん: でも、それがどうして鳥取砂丘?
かぐや: 学生のころに鳥取砂丘でラクダのりのアルバイトをなさってたの。それで、月の砂漠はここだってお思いになった。はじめて砂丘をごらんになったとき、ミシンをふむお母さまのお背中と、月の砂漠がパーっとスリーディーの映画のように、よみがえったとおっしゃってました。
マッチ: ふうん……いい話だよね。
赤ずきん: でも、この家は金八郎にがてなんだろ?
かぐや: せっかちのエンジン全開でいらっしゃいますから。
マッチ: だよね。
かぐや: 一時間……いいえ、正味四十八分で、問題を解決しなきゃいけませんでしょ。スポンサーやディレクターのご意見もございます。ムリもございませんわ。
赤ずきん: だろうね…… 
マッチ: 波の音がする……
赤ずきん: ほんとだ。
かぐや: そりゃ海岸ですもの……海と、月と、砂丘と……ぜいたくでしょ、ここ。
マッチ: あ、うさぎさんだ!
赤ずきん: え、どこ?
マッチ: ほら、あそこ。あの砂丘のかげ。
赤ずきん: ……ほんと!
マッチ: おっこっちゃったのかな?
赤ずきん: 月から?
かぐや: ほほほ、わたしもそう思って、思わず月を見上げましたわ(三人月を見上げる)ほら、ちゃんと月ではうさぎさんが、おもちをついていらっしゃるわ。
赤ずきん: ……ということは、ただのうさぎ?
かぐや: いいえ……あの方は由緒正しいうさぎさんなのです。
マッチ: ほんとだ、腰に手をあてて胸をはっている。
赤ずきん: セーラームーンか!?
マッチ: ちょっち古いよ。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・36〈有馬離婚旅行随伴記・1〉

2019-07-25 05:35:58 | 小説・2

高安女子高生物語・36
〈有馬離婚旅行随伴記・1〉        


「ちょっと冷えそうだな」

 明菜のお父さんは、ブルッと身震いし、ジャケットを掴んで助手席から車を降りた。
 仲居さんや番頭さんたちが、案内や荷物運びのために車の周りに集まった。

「あ、タバコ切らしたから買ってくるわ」
「タバコやったら、うちのフロントに言うてもろたら……」
「ありがとう。おれのは、特別の銘柄だから。なあに、店はとっくに調べてあるから。じゃ、ちょっと」
「すみませんね、お寒い中、お待たせしちゃって」
 お母さんが恐縮する。
「お日さん出て温いよって、ちょっと庭とか見ててよろしい?」
「ええ、いいわよ。この玉美屋さんの庭はちょっと見ものよ。そうだ、あたしもいっしょに行こう」
「ほなら、お荷物ロビーに運ばせてもろときます」
 仲居さん達は甲斐甲斐しく荷物を運ぶだけとちごて、何人かは、お父さんとあたしらを玄関前で待ってくれてる。客商売とは言え、なかなかの気配りや。
「やあ、ほんま、きれいなお庭」
「回遊式庭園では有馬で一番よ」

 梅が満開。寒椿なんかも咲いてて、ほんまにきれい。まだ春浅いのに庭の苔は青々としてた。
 ほんのりと温泉の匂い。

「そこの芝垣の向こうが露天風呂になってます」
「じゃ、そこの岩の上に上ったら覗けるかもね」
「ホホ、身長三メートルぐらいないと、岩に上っても見えしまへんやろな」
 と、お付きの仲居さん。
「見えそうで見えないところが、情緒あっていいのよね」
 明菜のお母さんは面白がっていた。

 パン パン パン

 わりと近くで、車がパンクするような音がした……おかしい、三回も。こんな立て続けにパンクが起こる訳がない。

「えらいこっちゃ、人が撃たれた!」

 どこかのオッサンの声がして、あたしらも、声のする旅館前の道路に行ってみた。

「キャー! お、お父さん!」
 明菜が悲鳴をあげた。明菜のお父さんが胸を朱に染めて倒れていた。
「え、えらいこっちゃ。さ、殺人事件や。け、警察! 救急車!」
 旅館の人たちも出てきて大騒ぎになった。

「みなさん、落ち着いてください!」

 お母さんは、つかつかとお父さんに近寄ると、お父さんの横腹を蹴り上げた。
「痛いなあ、怪我するやろ」
 ぶつぶつ言いながら、血染めのお父さんが立ち上がった。

「え……」

 女子高生二人を含める周りの者が、あっけにとられた。

「こんな弾着の仕掛けで、あたしがおたつくとでも思ったの。しかし、あなたもマメね。いまどき潤滑剤の付いてないコンドームなんて、なかなか手に入らないわよ」
 お母さんがめくると、お父さんの上着の裏には、破裂したコンドームがジャケットを真っ赤にしてぶら下がっていた。
「おーい、失敗。カミサンに見抜かれてた」

 向こうの自販機の横から、いかにも業界人らしいオッサンがカメラを抱えて現れた。

「これ、年末のドッキリ失敗ビデオに使わせてもらえるかなあ」
「やっぱ、杉下さん。あなたの弾着って、クセがあるのよね」
「アキちゃんにかかっちゃ、かなわないなあ」

 そのときの、お母さんの横顔で思い出した。梅竹映画によう出てる稲垣明子や!

 当惑を通り越して、憮然としてる明菜には悪いけど、うちはワクワクしてきた。

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高校ライトノベル・里奈の物語・35『岸田先生がやってきた』

2019-07-25 05:30:01 | 小説3

里奈の物語・35

『岸田先生がやってきた』
 
 

 予想はしてたけど、ウズメが来なくなった。

 公園にも姿を現さない。
 

 のらくろも、なんだか寂しそうにエサを食べている。エサを食べながら、時々あたりを窺う。ウズメを探しているみたい。
 ウズメが居なくても、のらくろは他の猫に意地悪されたりはしないようだ。ウズメは、自分が居なくても、のらくろが困らないように手を打っていたみたい。
 どんな手か? 分からないけど、エサ場が平和なのが証拠だと思う。
「ここが平和になったんで、もう来えへんかもしれんなあ」猫田の小母さんが言う。
 もう来ないという判断はいっしょだけど、来なくなった理由は違うと思う。でも来ないという判断はいっしょ。
「そうですねえ……」
 空になったエサ皿を片付けながら頷く。あたしも、すっかり猫愛護の一員になったようだ。
 こんな自然にグループの一員になったのは生まれて初めてかもしれない。ひょっとして、引きこもりが直ったんじゃないかとさえ思う。

 小母さんたちといっしょに公園を掃除して、お店に帰る。

「あ……!」

 叫びそうになって、手で口を塞いだ。
 お店の中に女の人の後姿……担任の岸本先生だ!

 とたんに怖気が走る。

 逃げ出したくなるけど、もうこれ以上逃げるところも無い。それに……考えるの止めてお店に入る。
「お久しぶり、葛城さん」
 先生は、とびきりの笑顔で挨拶してくれる。援交のエロゲに出てくる教師に似ている。失礼になるので、イメージを振り払う。
「まあ、上がって話してやってください」
 伯父さんがリビングを勧めてくれる。

「お店の手伝いとかもしてるみたいね」

 その一言で、伯父さんから、あたしのいろいろを聞いていることが分かる。
 先生を前にすると口が重くなる、居心地が悪い。
「街猫の世話とかもしてるのね、先生も、猫たち見てみたいな」
「それは……」
「里奈の新しい友だちなんだろうからさ」
 フレンドリーさが煩わしい。仕入れたばかりのあたしの近況を並べて距離を詰めたい気持ちが脂っこくて胸にもたれる。
 先生は話しの空白を恐れるように間を空けずに喋る。けして早口じゃない。早く学校においでというようなプレッシャーになるようなことも言わない。
 でも、これって、不登校生徒家庭訪問のマニュアル通りなんだろうなって勘繰ってしまう。
 一応笑顔で聞いてるけど、目尻や口の端がこわばってるのが自分でも分かる。

 先生、喋らなくてもいいよ、黙って座ってるだけでいい。どうしていいか分からないという顔でいい。そうしたら、あたしエロゲの話とかするから。えー、こんなのやってるんだ!? 驚いて戸惑ってくれればいい。そうしたら、あたしはエロゲのウンチクを少しだけ語る。ひょっとしたら春画との相似性について語るかもしれない。そいで、そういう世界もあって「そうなのかなあ」ぐらいの困り顔をしてくれればいい。
 

 笑顔が痙攣しそうになったとき、先生は話すのを止めた。
 

「じゃ、これ終業式に配った諸々。いちおう置いとくね。元気そうでなによりやった。じゃ、先生つぎの家庭訪問に行くから」
「他にも行くんですか?」
「うん、いろいろいるからね」
「大変ですね」
「里奈のことも、他の子も、あたしの生徒やもん」
 達成感を滲ませた返事にくたびれる。奈良の学校の先生がそうそう大阪の家庭訪問なんてあるわけがない。知ってるよ、学年初め、ホームルームで自己紹介やったけど、大阪から通ってる子なんていなかったもん。次の家庭訪問というのは、うちを早く切り上げるためと、先生は忙しいんだという言い訳に使っている。
 
 伯父さんは、拓馬や美姫のことは話さなかったみたい。伯父さんは分かってくれているようだ。

「駅まで送りましょうか?」
 断られることが分かりながら言ってみる。
「いいよ、気持ちだけで。じゃ、また来るから、いい年を!」

 先生は元気に帰って行った。先生が去っていった歩道は、師走とは思えない生温さだった。
 

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高校ライトノベル・須之内写真館・8【古写真の復元・1】

2019-07-25 05:21:11 | 小説4

須之内写真館・8
【古写真の復元・1】        


 杏奈は『社会問題研究同好会』という古色蒼然とした同好会の代表になった。

 これは、ガールズバーのオーナー松岡のアイデアである。
 U高校の規則では、バイトは原則禁止で、ガールズバーなどという風俗まがいのバイトなどもってのほかである。
「じゃ、部活にしちゃいましょう」
 直子が相談にいくと、開店前に孫の様子を見に来た松岡の祖父・和秀の助言で、そうなった。

 昔の高校には『社会問題研究部=社研』がたいていの学校にあった。60年安保の頃が全盛期で、70年安保を境に急速に激減。今世紀に入って絶滅してしまった。
 島本理事長は、大学こそノンポリを決め込んでいたが、高校時代は社研の部長で、高校生集会の幹部をやったり、ときには、他校に赴きオルグ(政治的宣伝)まがいのことをやっていた。
 バイト先のデパートの配送センターでは仲間を募り組合まで作ろうとした。松岡の祖父は、そのころの仲間の一人なのである。

「いやあ、あのころはカブレていましたから。いっぱしのナロードニキのつもりでしたよ」
「ナロードニキ……祖父ちゃん、なんだよ、それ?」
「ロシア革命の用語でな『人民の中へ』ってな意味がある。革命化したインテリが農村や、都市の労働者階級の中に入って共に働き、革命を宣伝することだよ。まあ、その二番煎じ……いや、三番煎じかな」
「……あの、も一つ見えてこないんですけど」
「戦後、左翼の連中が農村に入っていって『農民組合』を作ろうとしたんだけどね。まあ、邪魔者扱いで大失敗。そういうやつらが教師になって生徒をたきつけた。で、たきつけられたのが、ワシや島本理事長の世代だ」
「あ、分かった。杏奈に、そのカタチをとらせようっていうんだね」

 で、「部活にしちゃいましょう」ということになったのである。

 島本理事長は、あっさりとこれを認めた。認めざるを得なかった。
 そして、ナロードニキですということで、ガールズバーのバイトは『社会探訪』という、今の先生達にも分かり易い言葉に意訳されて許可が下りた。
 先だって元の文科省事務次官が「貧困女性の調査」ですと言って出会い系バー通いが通用している。

「ありがとうございます!」

 杏奈は、数日たってお礼を言いに来た。
「お礼だったらメールでいいのに」
「いや、それじゃ失礼ですから」
 と言ってペコリと頭を下げた。で、上げた時にはオチャメでイタズラっぽい女子高生の顔に戻っていた。
「あの、見ていただきたい写真があるんですけど」
 そう言って、スマホを出して、一枚の写真を、直子に見せた。
「な……なに、これ!?」
 いろんな写真を見てきた直子だが、それは思わず目を背けたくなるようなシロモノだった。

 旧日本軍の軍人が、人の首を切った瞬間を捉えた写真だった……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・76』

2019-07-25 05:03:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

るか 真田山学院高校演劇部物語・76
『第七章 ヘビーローテーション 14』 


 テスト開けの日曜日にリハーサルの日がやってきた。

 会場校は、うちの学校から、そう遠くないOJ学院。私学の女子校だ。
 設備は、我が真田山学院と比べて雲泥の差。
 キャンパスや校舎はもちろんのこと、講堂を兼ねたチャペルは、ちょっとした小劇場並の設備を持っていた。
 真田山学院は、乙女先生の努力で、公立としては良くできた舞台設備を持っている。調光もきくし、放送設備もいい。乙女先生はこのために放送部と演劇部の両方の顧問を兼ている。
 しかし箱としての舞台まではさわれない。間口こそは十三メートルあるが、奥行きはたったの四メートル。そのくせ、舞台の高さは一メートル三十五センチもある。舞台鼻に立つと、目の高さは二メートル五十センチを超えてしまい、ちょっとおっかないぐらい。
 舞台の下にパイプ椅子や、シートなどを格納する構造になっているので、大阪の公立高校はみな似たり寄ったり。体育館を兼ねているので、普段はフロアーで、バレーとかバスケが練習していてステージは使えない。
 とてもお芝居ができるしろものではなく、どこの地区でも予選は、私学や、地区のホールに頼っている……というグチを、道具を搬入しながら、乙女、大橋の両先生から聞かされた。

 ピノキオでもそうだったけど、かなりの学校の道具がゴツイ。たいてい二トンぐらいのトラックで持ってくる。
 照明や音響も凝っていて、道具立てやシュートだけで、時間を潰してしまっている。わたしたちは通そうと思えば通せたんだけど、六曲の歌を中心に部分練習をした。
『おわかれだけど、さよならじゃない』は、リハだったけど気持ちよくやれた。


「はるか、そんなのが来てるよ」

 リハを終えて家に帰ると、お母さんがパソコンを打ちながらアゴをしゃくった。
 テーブルの上にA4の封筒が置かれていた。
 おもてには右肩に「NOZOMI PRODUCTION」のロゴ。下のほうにアドレスがキザったらしく横文字で並んでいた。
 開けてみると、A4のパンフと、ワープロの手紙。

 突然の手紙で失礼いたします。先輩の吉川宏氏から、お写真と、ピノキオホールでの映像を送っていただきました。本来、吉川氏にあてられたものでしたが、あまりのすばらしさに回送してこられました。裕也君とのお約束を破ることになるとは思いますが。あなたをこのままにしておくのは、もったいなくて仕方がありません。ぜひ、下記のアドレスまでご一報くださいますようお願いいたします。 
 
 坂東はるか様
 
 NOZOMI PURODUCTION 白羽研一(署名はインクの自筆だった)

「なによ、これは!」
「なに怒ってんの……?」
「お母さんに関係ない!」
 わたしはそのまま部屋にこもった。悔しくってしかたがない。
 吉川先輩……もうただの裕也だ。なにが流用しないだ。最初から流れるの分かってやったんだ。あのスットコドッコイのヒョウロクダマ!
 それにホイホイいっしょになってる由香も情けない。由香だけは分かってくれていると思ったのに。あの新大阪の写メは、わたしの苦悩の果ての姿なのに。だから、だから親友だと思ったから送ったのに。
 悔し涙が、鼻水といっしょに流れてきた。

 ティッシュ……が無かった。

 リビングまで行って鼻をかんだ。
「すごいよ、はるか。ノゾミプロもすごいけど、この白羽さんて、チーフプロデューサーだよ、チーフ!」
 パソコンを検索して、お母さんがときめいた。
「いま必要なのは、ハンカチーフなの!」
「はるかぁ……」
 襖をピシャリと閉めて、わたしはメールを打った。

――明日、八時十分、グー像前にきてください!

 宛は、むろん裕也、クソッタレの裕也!

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