大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・036『佐伯さんのお婆ちゃん・2』

2019-07-13 14:27:44 | ノベル
せやさかい・036
『佐伯さんのお婆ちゃん・2』 

 

 

 救急車が空で帰ったんは、もうすでのお婆ちゃんが亡くなってたから。

 てい兄ちゃんによると、心肺停止だけやったら搬送する——その後、病院で死亡が確認されました——ニュースで、よう言うてるあれ。死後硬直が始まってたり、死亡の様子が顕著な場合、救急車の仕事は、そこでおしまいになる。そのあとは警察が来て調べる。場合によっては自然死に見せかけた殺人やったりするさかいに。

 その後、パトカーとワンボックスの警察車両が来た。

 お巡りさんと鑑識の人が家に入って、十五分くらいで出てきた。お婆ちゃんはグレーの袋(シュラフと言うらしい)に入れられてワンボックスに積み込まれて行ってしもた。

 振り返ると、家のみんなが出てきて手を合わせてた。ご近所の人らも、それに倣って手を合わせて見送った。むろんわたしも。

 大阪市内におったときも似たようなことがあったけど、手を合わせる人はいてへんかったように思う。やっぱり、お寺の人間が手を合わせてると、自然にそれに倣える。お寺の存在意義が、ちょびっとだけ分かったような気ぃがした。

「晩ごはん食べてしもてちょうだい」

 伯母ちゃんのひとことで、ぞろぞろと食卓に戻る。

 すき焼きの続きやねんけど、ちょっとお肉は食べにくい。

「佐伯のおばちゃんには、よう怒られたなあ」

「ぼくらには優しいお婆ちゃんやったで」

 おっちゃんとてい兄ちゃんが思い出を肴にしてる。お祖父ちゃんが加わって、お婆ちゃんが『法子』いう名前で、セーラー服が似合う小町娘やったという。

「『ぼんさんやなかったら、お嫁にいったげたのに』て言いよってなあ、兄貴が戦死してなかったら『うん』て言うてたなあ」

「いやだ、佐伯のお婆ちゃんと、いい仲やったの!?」

「おばちゃん、よう振ってくれたなあ、お父さんがおばちゃんといっしょになってたら、ここにおるもんは全員おらへんとこや」

「いや、わたしは生まれてたわよ。嫁に来ただけやから」

「いや、俺がおれへんかったら、嫁にきてないやろが」

「あ、そうか」

 お婆ちゃんが亡くなったばっかりで不謹慎な気がせんでもなかったけど、こうやって話題にしたげんのもありかなあと思う。

 

 後片付けをしてると、お母さんが男の人二人連れて戻ってきた。一人は、お祖父ちゃんが話してた人、もう一人はダークスーツがように合うおっさん。

「佐伯さんの息子さんと、葬儀屋さんよ」

 詩(ことは)ちゃんが教えてくれる。三人は檀家さんらと寄り合いする部屋に入って、なにやら話を始める。

「花ちゃん、お茶持ってく? 偵察できるわよ」

 詩ちゃんにそそのかされてお茶を運ぶ。

「失礼します」

「ああ、歌ちゃんの娘さん?」

「さくらちゃん、佐伯さんの息子さんと籠国さんや」

「酒井さくらです、あ、この度は……」

 ついさっき親が亡くなったとは思えんくらいに、息子さんは落ち着いてた。わたしが一番しんみりしてるんでオタオタする。

 お通夜とお葬式の打ち合わせらしいねんけど、町内のお祭りの相談みたいに気楽にやってる。なんか、かえって畏まってるわたしに気ぃつこてもろてるみたいで、よけいにオタオタ。

 なんや、若いころのお母ちゃんの話が出たみたいやったけど、なんにも覚えてへんです。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
  • 佐伯さんのお祖母ちゃん
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・24〔それはないやろ〕

2019-07-13 06:33:46 | 小説・2

高安女子高生物語・24
〔それはないやろ〕
       


 それはないやろ!

 クラスのみんなが口々に言う。

 このクソ寒いのに体育館で緊急の全校集会やと副担任のショコタンが朝礼で言うたから。
 担任の副島(そえじま)先生やないことを誰も不思議には思てない。

 うちは知ってる。

 けども言われへん。

 体育館は予想以上に寒かった。けど防寒着の着用は認められへん。校長先生が前に立った。
「寒いけど、しばらく辛抱してください……実は、君たちに、悲しいお知らせがあります」
 ちょっと、みんながざわついた。
「こら、静かにせんか!」
 生指部長のガンダム(岩田 武 で、ガンダム)が叫んだ。叫ぶほどのざわつきやない。三年が登校してないんで人数的にもショボイもんや。ガンダムの雄叫びは、逆にみんなの関心をかき立てた。
「なにか、あったんか?」いうヒソヒソ声もしてきた。

「昨日、一年二組の佐渡泰三君が交通事故で亡くなりました」

 えーーーーーーーーーーーーー!

 ドヨメキがおこったけど、ガンダムは注意はせえへんかった。
「昨日、布施の駅前で、暴走車に跳ねられ、一時間後に病院で死亡が確認されました。跳ねた車はすぐに発見され、犯人は逮捕されました……しかし、逮捕されても佐渡君は戻ってきません。先生は、今さらながら命の大切さとはかなさを思いました。ええ……多くは語りません。皆で佐渡島君に一分間の黙祷を捧げます……黙祷!」

 黙祷しながら思た。校長先生は、佐渡君のこと個人的には何も知らへん。仕事柄とは言え、まるで自分が担任みたいに言える。これが管理職の能力や。

 裏のことはだいたい分かってる。お父さんも、お母さんも元学校の先生やった。

 学校に事故の一報が入ると、校長は管理職全員と担任を呼ぶ。そんで言うことは決まってる。
「安全指導は、してたんか!?」
 と、担任は聞かれる。慣れた担任は、学年始めやら懇談の時に必ず、イジメと交通安全の話をする。
 これが、学校のアリバイになる。やってたら、例え本人の過失でも、学校が責任を問われることは無い。
 で、佐渡君みたいに完全に相手に過失があった場合は、信じられへんけど、管理職は胸をなで下ろす。中には「ああ、これで良かった」ともろに安心するようなやつもおるらしい。
 佐渡君も、陰では、そない言われたんやろ。そんなことは毛ほどにも見せんと、それはないやろいうのんがうちの気持ち。
 別に前に出て、佐渡君の最後の様子を話したいことはないけど。ただ布施で当て逃げされて死んだ。それだけでは、佐渡君うかばれへん。改めて佐渡君の最後の姿が頭に浮かんで、限界が近こなってきた。

 せやけど、ここで泣き崩れるわけにはいかへん。きっと、みんな変な噂たてよる。こぼれる涙はどないしょもなかったけど、うちはかろうじて、泣き崩れることはせえへんかった。

 しらこい黙祷と、お決まりの「命の大切さ」の話。これも学校のアリバイ。辛抱して聞いて教室に戻った。

 佐渡君の机の上には、早手回しに花が花瓶に活けたった。

 うちは、もう崩れる寸前やった。誰かが泣いたら、いっしょに思い切り泣いたんねん。
 当てが外れた。みんな、いつになく沈みかえってたけど、泣くもんは誰もおらへん。
 担任の副島先生が入ってきて、なんや言うてはるけど、ちょっとも頭に入ってけえへん。

「なを、ご葬儀は、近親者のみで行うというお話で、残念ながら、ボクも君らもお通夜、ご葬儀には参列できません。それぞれの胸の中で、佐渡泰三のこと思たってくれ。この時間、クラスは……泰三を偲ぶ時間にする」
 そない言うと、副島先生は廊下に出てしもた。

「先生!」うちは、廊下に出て、先生を呼び止めた。

「なんや、佐藤?」
「あたし、佐渡君の救急車に乗ってたんです。佐渡君が息を引き取るときも側に居てました。あたし、せめてお線香の一本も供えてあげたいんです。葬儀場……教えてください」
「……ほんまか。そんな話知らんで!」

 予想はしてた。あのお母さんが、事情も説明せんと、葬式に来るのんも断ったんや……。

 それはないやろ。

 そう思たんが限界やった。廊下で泣くわけにはいかへん。トイレに駆け込んで、ハンカチくわえて、うちは過呼吸になりながら、ずっと泣いた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・23『拓馬の彼女・1』

2019-07-13 06:23:34 | 小説3

里奈の物語・23
『拓馬の彼女・1』

 
 

 どちらも骨董屋の孫だからかなあ?

「今からでも店番が務まりそうやね」
 お茶を置きながら、おばさんが言う。
「なんでですか?」
「お店に入ってきたときの感じがね、シックリいってる。若いのに着物が似合うてるよみたいで、オバチャンとしては親近感やな」
「あたしは?」
「シックリいってなかったら、店番させたりせえへんよ。二人とも、こっち見て」
 そう言って、おばさんはスマホを構えた。三枚撮ってもらって転送してもらった。
 撮り方がうまいのか、おばさんが言う通りなのか、あたしも拓馬も、ここで生まれたように店に溶け込んで写っていた。

「春画のレプリカ置いてんねんな」

 写メを撮ってもらった直後に女のお客さんが来て、伯父さんオリジナルのセットを買っていったのだ。
「うん、アイデアだと思う。本物は明治の錦絵でも高いし、いつも同じグレードのものを置いておくこともできないもんね。おばさん、お店いいですか?」
「うん、もうピークは過ぎたし。あ、お茶は入れ直して持ってたげるわ」
 部屋に入った拓馬は、ちょっとよそよそしい。
「女の子の部屋に入るの、初めてやから……」
 先手を取って言い訳をする。
「とりあえず、ごめんね。あんな帰り方して」
 あたしも先手をとる。
「ううん、いきなりあんなゲームやったらビックリするよな」
「それは……」

 とつないでみたものの、理由は言えない。

「付き合ってた子が、ああいうゲーム好きでなあ」
「え、女の子?」
「せや。カードとかゲームをやってるうちにエロゲにたどり着きよった」
「女の子が……」
「エロゲいうのは、春画と同じアート……ひょっとしたら、それ以上なんかもしれへんねん」
「そうなの?」
 分かっていながら疑問形で返す。
「エロの表現だけとちがって、そこへ行くまでのドラマに工夫がある。ただエロいだけやったら、行きずりのエッチみたいで敬遠されるからな」
「拓馬も好きなんだ」
「うん、オレには挑戦やからな」
 期せずして、拓馬の挑戦が分かった。
「彼女とは、いっしょにゲームしたりすんの?」
「ハハ、エロゲいうのは基本一人でやるもんや。それに彼女のことは過去形で言うたやろ」
「別れちゃったの?」

「うん……この春に死によった」

「え……」

 また拓馬に飛躍されてしまった。
 

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・57≪ビリケン攻略方・1≫

2019-07-13 06:15:06 | 時かける少女

時かける少女BETA・57
≪ビリケン攻略方・1≫ 



 1909年(明治42年)10月26日、ハルピンは季節外れの豪雪に覆われた。

 転轍機の凍結と信号機の故障が重なり、ハルピン駅を発着する列車のダイヤは大きく乱れた。
「なあに、六年前の冬に比べれば、こんな寒さは屁でもないわ」
 朝鮮統監伊藤博文は、列車の中のスチームに手をかざしながら、秘書の雪子にぼそりと言った。

 雪子は、さる男爵家の令嬢で、アメリカのモスチャイルド家の家庭教師をやっていたという触れ込みで、先月から伊藤の個人秘書をやっている。
 しかし、その美貌は、かえって雪子の経歴を周囲に怪しませた。なんせ鹿鳴館時代から女好きで名の通った爺さんだ。そういうことにして、どこかのいい女を侍らせているものと、当初は思われた。しかし、このひと月余りの働きは外務省のキャリアよりも切れ、国際情勢に基づいた伊藤へのアドバイスは、適格であると、一部の政治家や軍人には再認識された。

「いえ、全て伊藤閣下のご努力の賜物です」

 人に褒められると、雪子はかならず、そう答えた。この時代、女が正面に出ることは、ことの善悪に関わらず誉められはしない時代であった。
「おじいちゃん、焼き芋いかが?」
 雪子は、どこで調達したのか、薄いアルミ箔にくるんだ焼き芋を差し出した。
「こんなもの、どこで調達してきたんだ」
「ちょっと機関手のおじさんと仲良くなって、缶の傍で焼いてもらったの」
「オニイサンじゃないのか?」
「あら、お餅焼いてっらしゃるの?」
「ばか言うな。恩人の娘に、そんな気持ちを持つもんか。一時間半も居なかったから、何をしていたのかと思ってな。雪子が、ただのんべんだらりと時間をすごすわけがないじゃないか。なにか企んでおるだろ。一時間半も芋を焼いたら炭になってしまう」
「ちょっとハルピンの駅まで、橇に乗って下見してきました」
「雪子は、転轍機や信号のことまで分かるのかい?」

 伊藤は、芋を皮ごと美味そうに頬張った。

「おじいちゃんを暗殺するなら、どこらへんがいいか下見してきたの」
 雪子は、チマチマと皮をむいて食べる。伊藤が雪子を傍に置いているのは、いろんな理由があるが、存外、この芋を皮ごと食べるような安堵感があるのからかもしれなかった。
「朝鮮のオニイチャンと仲良くなっちゃった」
「おもしろそうなオニイチャンだったのかい」
「君は、百済の出身だろうって言われた」
「お、雪子は朝鮮語もいけるのかい?」
「方言もいけるよ。オニイチャンは北の訛だったから、百済あたりの言葉の方が気楽に話せると思って」
 たしかに、朝鮮は旧新羅や高句麗地方の方が、伝統的にも上という感じがあった。百済は国内的にも征服ばかりされてきた地方で、北の地方のオニイチャンには話しやすいかもしれない。雪子侮りがたしと、伊藤は思った。

「これ、お土産」

 雪子は、ジャラリと数発の銃弾をテーブルに置いた。
「なんだ、ぶっそうだな」
「オニイチャンの懐の拳銃から抜いてきた。あの面魂は説得できるタイプじゃないから」
「今ごろ慌てとるだろう。いや、警備が厳重と思って……玄人なら逃げとるな」
「ところでさ、六年前の冬が寒かったのは、どうして?」

 伊藤は、爆発するように笑った。これだけ切れる雪子が、六年前の日露戦争を忘れている……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・64』

2019-07-13 06:03:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・64



『第七章 ヘビーローテーション 2』

 大正解。この日は、お母さん締め切りに追われて、早めに帰ってパソコンを叩いていた。

 チラッと、お母さんの一瞥。
「あら、そのキャミ……?」
「え、なに?」
 何食わぬ顔でバッグを部屋に。
「洗濯して取り込んだつもりだったんだけど」
「あ、お気にだから二着持ってんの」
「あのね……」
「え……」
 バレたか……!?
「お気にはいいけど、タグぐらい取っときなさいよ。こんなの付けたまま、神戸の街うろついてたの?」
「え、ああ……由香のやつ、なんかニヤついてると思ったら!?」
 と、由香を悪者にして、シャワーを浴びに行った。

 夕食後パソコンを使ってスライドショーをやった。
 アリバイづくりのため、ガイドブックとか読み込んでいたので、スラスラと解説ができた。特にお母さんが喜びそうな、人間的なエピソードには力を入れて……。
「うん、この話いいよ。うん、使えそうだ!」
 ある異人館の元の住人のドイツ人の話をしたら、お母さんの創作意欲をかき立てた。

 このドイツ人はお医者さんで、戦時中も神戸に踏みとどまり、神戸の空襲のときも、すすんで被災者を引き受け、治療にあたった。ドイツ降伏後は、ほとんど自宅軟禁。終戦後は、二人のお嬢さんと奥さんを連れ、なんとかドイツにもどったそうだが、詳しいことは分からない。

 その分からないところが、イメージを喚起させたようだ。
「神戸を舞台にした小説って、どんなのがあったっけ?」
 わたしに聞くか?
「『火垂るの墓』とか『少年H』……」
「『ノルウェイの森』も、たしか神戸が絡んでたよね」
 お母さんは、動物園のある種の動物(どんな動物かは想像して下さい。はっきり書くと母子の縁を切られそうなので)のように、狭いリビングを歩き出した。
「オーシ、これでいくぞ!」
 スランプのお母さんは、図書館に出撃した。
 メデタシ、メデタシ……。
 これでわたしの長いタクラミは、アリバイのめでたい成立に、お母さんのスランプからの脱出(本人がその気になったので)というオマケまで付いて、タキさんからの借金だけを残し、『はるかの生傷だらけの成長』というタイトルを付けて終わり!

 というはずだった……。

 でも、これは、これから秋一杯かけての『ヘビーローテーション』の序章に過ぎなかったのだ。
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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・8』

2019-07-13 05:52:44 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・8
ゼロからの出発 

 

大橋むつお

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

 先ほどとは違う電子音して暗転。明るくなると大金庫の中。

 

パリー: ……今度は本物だ、いろんな宝物が……ソロモン王の指輪…… 

少女:フェロモン王の栓抜き……

パリー: バチカン美術館のラオコーン……
少女: シリコーン、クレオパトラの鼻の……
パリー: ジョンレノンのイマジンのサイン入楽譜……
少女: なわのれんのヒマ人のサイン入サイフ……
パリー: そっち側は変なお宝ばっかりですね。
少女: じゃ、かわろう……
パリー: クイーン・エリザベスが被った王冠……全面豪華!
少女: クイーン・エリザベスが読んだ朝刊……全面広告!
パリー: 阿倍清明のお番茶……
少女: 日本生命のおばちゃん……
パリー: やっぱ、先生おかしいですよ。
少女: そうかい。お……パリー・ホッタの魔法ビン!(パリーが肩から下げたポットを指す)
パリー: え……ああ、君のお茶が飲みたいっておっしゃればいいのに(お茶をついでやる)
少女: すまんなあ。でも、なんかギャグとばさないとつまんないだろう。
パリー: あ、国宝の魔法の杖……
少女: 貸し出し中になってんな。
パリー: あ、貸し出し期限がとっくに過ぎてる。誰が借りてるんだろう。
少女: 過ぎてるって言やあ、我々も通り過ぎてしまったんじゃないかな?
パリー: え、どこを?
少女: 何をさがしにきたんだよな、ここに……?
パリー: 何をさがしに……?
少女: いかん、入口にもどろう! 早く!(パリーの手をひいて入口までもどる)……思い出したかい、さがしものは?
パリー: ……思い出した! 賢者の石です! でも、どうして忘れてしまったんでしょう?
少女: 魔法がかかっているんだよ、ここのお宝には……いろいろ気をとられているうちに、本来の目的を忘れるようにできているんだ。いいかい、今度は他のものには目をくれないように、まっすぐ前だけを見ていくんだ……いいか、走るぞ!
パリー: はい!

   二人、目を真正面に向けて駆け出す。いくつか角を曲がって、賢者の石を見つける。

少女: あった! 見つけた! 賢者の石だ!
パリー: これが……!?
少女: おっと、それに手を触れる前に念をおしておく。たとえその石に効き目がなくても、けっして落胆しないこと。駄目なら駄目で、きっと別の道がひらける。そう信じること。約束できるか?
パリー: はい……行きます!
少女: うむ……と、その前に……
パリー: ズコ(ずっこける)
少女: すまんが、もし、魔力がもどったら、真っ先にこのわしを元の姿にもどしてくれんか。このなりでファグワーツに行くのはきまりが悪い。
パリー: はい……では!(石を手にし、高くかかげる)
少女: ……どうだ?
パリー: なにか全身に力がみなぎってきたような……!
少女: 試してみるか?
パリー: 全知全能の魔王の名にかけて、再び我にその力を与えたまえ。そして、ロックウェル先生を元のお姿にもどしたまえ!!
少女: へーーーーーーーーんしん……!!

   間、二人とも目をつぶっている。

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