大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・042『霊魔襲来・2』

2019-07-10 14:10:03 | 小説
魔法少女マヂカ・042  
 
『霊魔襲来・2』語り手:マヂカ  

 

 

 ブリンダと二人で飛び出すのと煙室ドアに擬した主砲から量子パルスが発せられるのが同時だった。

 傀儡とはいえ、清美の砲手としての技量はなかなかのものだ。

 

 ズビーーーーーーン

 

 量子パルス空振りの音、もともとブリンダと二人飛び出して攻撃態勢をとるための時間稼ぎに撃ったのだ、空振りでいい。

 ブリンダは三時の方角へ、わたしは九時の方角へと正反対の方向に向かう。ドラゴンに一瞬の迷いを強いるフォーメーションだ。タイミングさえ合っていれば、コンマ二秒の遅れを敵に強いる。

 コンマ二秒先んずれば、先制の一撃を食らわせられるのはこちらだ。

 ドラゴンは、ブリンダを指向した。先制攻撃はこちらのもの!

 しかし違った!

 ここは、ドラゴンが巻き起こした低気圧のど真ん中。暴風雨はドラゴン自身の呼吸だ! 見えざるドラゴンの手足だ!

 暴風にのったドラゴンの前足が信じられないスピードで伸びていく!

 あっという間に数百メートルに伸びた前足がブリンダの足を弾く!

 アーーーーーーーーーーーー!!

 弾かれた勢いで、ブリンダはきりきり舞いしながら流されていく。

 このままでは、体勢を立て直す前にドラゴンの第二撃を受けてしまう。

 セイ!

 勢いをつけて、低気圧の中心に向かう。中心からの力を借りてドラゴンに立ち向かうためだ。

 トーーーー!

 流れに乗ってドラゴンを指向する!

 あ!?

 一瞬早くブリンダは体勢を立て直し、二旋して攻撃態勢を立て直しつつあり、それに沿ってドラゴンは進撃の方向を変えていた。いったん勢いをつけてしまったので、軸を戻すことができなくて、ドラゴンの尻尾を掠っただけに終わってしまう。

 制動を掛けて方向転換しようとすると、ドラゴンのかぎ爪が目の前に迫る!

 身をよじるが、コンマ一秒間に合わず左わき腹をかぎ爪が引っかける!

 痛い!

 かすり傷ではあったが、音速以上の高速運動をしているので、傷口からラインを引くように血が流れる。

 グオーー!たけり狂って追って来る。その後ろをブリンダが超高速のアタックをかけてくるが、さっきのわたしのように軸線がズレてドラゴンをとらえきれない。

 連携が出来ていない!

 ブリンダも同じ思いなのだ、一瞬見えた横顔は同じイラ立ちを宿している。

 ただ、わたしと違うのは、いら立って、なを美しいのだ。ほんの一瞬だけど、その美しさに感動してしまう。

 ドラゴンと二人の距離が開いた時に、清美の思念が飛び込んできた。

 避けて!

 ズゴーーーン!

 パルスがドラゴンの翼を貫いた。

「「今だ!」」

 ブリンダと思念が重なる。

 

 トゥラアアアアアアアアアアア!!

 

 二人の斬撃がドラゴンの胸のあたりで交差し、ドラゴンはバグったように低気圧の真ん中で静止!

 ドゴーーーーーーーン!

 衝撃と共にドラゴンは四散した。

 

 肩で息をしながら高度を下げる……いつのまにか瀬戸内海の上空、東の空が白み始めていた。

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・5』

2019-07-10 06:27:48 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石
ゼロからの出発
 
 
 
大橋むつお
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 
パリー: 教えてください。わたしにはどうしても、あれが、賢者の石が必要なんです!
少女: どういうことかな?
パリー: 調べたんです、図書室の本を全部ひっくりかえして。どうやったら失われた魔力がもどってくるのか!? 最後はステルスマントをかぶって閲覧禁止の本まで調べました。
少女: その閲覧禁止の本に賢者の石とでも書いてあったのかい。それなら駄目だ、みんな賢者の石がくだかれる前に書かれた本だ。
パリー: ちがうんです。二〇××年度版の魔法大全に、こう書いてあったんです。「校内に置ける魔力の管理は校長が行い、その情報は、魔法政府のコンピューターに集約され、その端末は校長室のみに設置されるものとする」
少女: 校長の権限は強くなる一方だからなあ。
パリー: それって悪いことですか?
少女: 必ずしもそうとは言えんが、ひげもぐらが校長でいるかぎり最悪だろうな。
パリー: わたし、ひげもぐらの部屋に忍びこんだんです。
少女: え、校長室に?
パリー: そして、端末のパソコンを開いてみたんです……
少女: やったぁ……
パリー: 「失われた魔力をとりもどすには」そう打ちこむと……パリー・ホッタの失われた魔力をとりもどすのに必要なものは賢者の石……」と、ディスプレーに……そこまで確認すると、ひげもぐらがもどってくる気配がしたので、あわててスイッチを切って先生のところへ来たんです。
少女: そうだったのか……(パリーに背をむけて立ち上がる)
パリー: やっぱり、わたしには魔力をとりもどす資格はありませんか?
少女: そうじゃない。
パリー: それとも、賢者の石は……
少女: 賢者の石はある……
パリー: やっぱり……
少女: 今はもう、ごく一部の者にしかその存在を知られてはおらん。
パリー: それほどすごい石なんですね。
少女: あれはその名の如く文化財だ、本当に効き目があるのかどうか、それを知るものはだれもおらん。
パリー: でも、ひげもぐらのパソコンにははっきりと……
少女: たとえ効き目があるとしても、今はとても手が出せん。
パリー: どこにあるんですか?
少女: 魔法博物館地下百階の大金庫の中、百の呪いと百の魔法に守られて眠っている。いつものわしの力をもってしてもたどりつけるかどうか。まして魔力を失った今のわしではとてもなあ……
パリー: だめですか?
少女: すまんな。
パリー: ……
 
  やや近く暴走族の爆音
 
少女: またバカが走りはじめた……思うんだよ。つくづく魔力の無力さを。
パリー: 魔法さえつかえれば、あんな暴走族の百や二百、いつでもカボチャにしてやります。
少女: だから無力だと言うんだ。カボチャにかえて何の解決になる。それではカボチャの数だけ、この地上から人間を抹殺したことにしかならんだろう。
パリー: え……?
少女: 奴らを人間のままでバカをやめさせなければ解決にならん……魔法ばかりやっていると、そういうところの感受性が鈍くなる。
パリー: 放っときゃいいんです、ああいうバカは!
少女: おや、またなにかやってきた……
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・21〔まどか 乃木坂学院高校演劇部物語〕

2019-07-10 06:22:59 | 小説・2
高安女子高生物語・21
〔まどか 乃木坂学院高校演劇部物語〕     


 朝から雪……積もったらええのになあ。

 保育所のころ雪が降って園庭にいっぱい積もったことがある。保育所のみんなで遊んだ。雪合戦したり、雪だるまこさえたり。関根先輩も、ただのマナブくんやった。美保先輩はミポリンやった。
 今やから言えるけど、マナブくんやった関根先輩と、その雪でファーストキスしてしもた!

 雪合戦してたら、こけてしもてマナブくんに覆い被さるように倒れた。ほんならモロに唇が重なってしもて、あどけなかったマナブくんは真顔で、こない言うた。
「赤ちゃんできたらどないしょ!?」
「え、赤ちゃんできんのん!?」
「キスしたら、できるて、レッドカーペットで言うてた」

 うちは、マナブくんの赤ちゃんやったら生んでもええと思た。いや、シメタと喜んだ。

「そないなったら、ぼく責任とって、アスカのことお嫁さんにするからな!」
 もう天にも昇る気持ちやった。そやけど、夢は一晩で消えてしもた。明くる日マナブくんは、こう言うた。
「キスだけやったら、赤ちゃんでけへんねんて。なんや、他にもせなあかんらしいけど、大きならんと神さまが教えてくれへんねんて」
「それて、いつ教えてもらえんのん?」
「さあ、いつかやて……」
 そこまで言うたら、マナブくんはトシくんによばれて、園庭に走りにいった。
 昨日の雪は溶けてしもて、雪だるまが半分ぐらいの大きさになってしもてた。

 あれからや、マナブくん……関根先輩のこと好きになったん。うちは一途な女やなあと思う。

 今は、もう赤ちゃんの作り方は、しっかり知ってる。関根先輩、美保先輩と……あかんあかん、妄想してしまう。
 気を取り直して本を読む。で、雪が積もるようやったら、雪だるまこさえよ。

「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」の最初のページを開く。

 ドンガラガッシャン、ガッシャーン……!!

 タソガレ色の枯れ葉を盛大に巻き上げ大道具は転げ落ちた。一瞬みんながフリ-ズした。
「あっ!」
 講堂「乃木坂ホール」の外。中庭側十三段の外階段を転げ落ちた大道具の下から、三色のミサンガを付けた形のいい手がはみ出ていた。
「潤香先輩!」
 わたしは思わず駆け寄って、大道具を持ち上げようとした。頑丈に作った大道具はビクともしない。
「何やってんの、みんな手伝って!」
 フリ-ズの解けたみんなが寄って、大道具をどけはじめた……。

 ドラマチックな描写から物語は始まる!

 主人公まどかの乃木坂学院高校演劇部は27人も居てる大規模常勝演劇部。それが、コンクールで破れたことやら、クラブの倉庫が火事になったりで部員がゴッソリ減り、顧問の貴崎マリ先生も責任を問われ学校を去っていく。クラブは存亡の危機にたたされ、ほとんど廃部になりかける。
 あくまで、演劇部を続けたいまどかと夏鈴と里沙は、廃部組とジャンケン勝負で勝って、たった三人で演劇部を再興して、春の演劇祭で、見事に芝居をやりとげる。ほんで、大久保クンいう彼氏もゲット!

 文章のテンポがええし、どんでん返しやら、筋の運び方が面白いんで、昼過ぎには読み終えてしもた。

 演劇部を辞めたばっかしのあたしには、ちょっと胸が痛い。そやけど、まどかには、頼りないけど夏鈴と里沙いう仲間がおった。うちは残ってもまるっきりの一人や。やっぱし、うちの決断は正しいと思う。まだ二年ある高校生活無駄にはしたないよって……。

 読み終えて、ベランダから外を見ると、雪はすっかり止んでピカピカの天気……にはなってなかったけど、ドンヨリの曇り空。雪だるまはオアズケ。
「お母さん、お昼なんかあったかなあ……」
 そう言いながら階段を降りたら、お父さんが一人で生協のラーメン食べてる。
「お母さんは?」
「なんや、今里のお婆ちゃんが骨折して入院やいうて出かけていった……明日香にも声かけてたやろ」

 思い出した。乃木坂の演劇部が潰れそうになったあたりで、なんやお母さんの声がした。うち、適当に返事してたような……。

 乃木坂のまどかが、すごい偉い子ぉに思えてきた……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・20『オッス、拓馬!』

2019-07-10 06:15:18 | 小説3
里奈の物語・20『オッス、拓馬!』

 
『アンティーク葛城』から拓馬の『骨董吉村』へは角を二つ曲がるだけ。

 そういうと、ほんの近所みたいだけど、地下鉄二駅と環状線一駅分ある。
 大阪の都心は碁盤目状に道が走っているので、あそことあそこの角を曲がってという具合に簡単になる。
 グーグルアースでシュミレートしてみるとあっけないくらい直ぐにつく。

 だから、自転車を借りて走ってみた。

 環状線のガードを潜って三菱UFJ銀行のとこで南に折れる、玉造筋からは真南。
 お日様が真正面で暖かい……夏だったらカンカン照りだろうから、自転車で出かけようなんて絶対思わない。
 だから、思い付きで拓馬んちに行くなんてありえない。
 拓馬んちが見えてきたころには、自分が引きこもりだなんて信じられないくらいハイになった。
 一過性のランナーズハイだろうとは分かってる、でも久々のハイなので素直に身を任せる。

 オッス、拓馬!

 店の前を掃除してた拓馬に爽やかに声を掛ける。
「おう、やっぱ来たか」
 やっぱとは言うけど、意外そうなのは分かる。スカイプで「うちに来いや!」と言われた時は腰が引けていたもん。
「いつもお祖父さんと二人なんだね?」
 店番のお祖父さんに挨拶したあと、ちょっと不躾な質問をしてしまった。
「うん、オレ一人っ子やし、親は両方ともいてへんからな」
 ちょっと鈍そうな顔で拓馬が答えた。
 傷に直に触れるような質問をされたとき、人は鈍そうな表情になる。自分を含め、この一年近くで覚えたこと。

 拓馬んちに親がいないことは、何回か来たことや、家の様子からは察していた。

 親がかたっぽ居ないだけでも相当な理由がある。うちが第一そうだし。
 だから親が居ない理由なんて、相手が言わない限り不躾に聞いていいことじゃない。
「せっかく来てくれたんやから、オレの挑戦の一端を見せよか?」
「うん、見せて!」
 思いがけない申し出に、元気いっぱいの返事をした。
「このヘッドフォンして」
 拓馬が差し出したヘッドフォンをかける。拓馬は分配器から別れた小さいほうのヘッドフォンをかける。
 パソコンの画面が明るくなって、CGで描かれた学校の教室が現れる。

 拓馬がクリックすると、イケメンの男子とファニーな女子が現れた。

 友だち以上恋人未満という感じの二人は、共通の友だちカップルのことを心配している。
――ああ、友だちのことを心配しながら、実はお互いの心を探ってるんだ――
 ラノベと言うよりは、青春ドラマ。基本的には目パチ口パクの二次元なんだけど、微妙に揺らめいたりして、動画的になっていた。
 なによりデッサンが良くできていて、ラノベの挿絵なんかと違うグレードの高さ。
 友だちの話をしながら、しだいに自分たちの想いにも灯りが灯り始めたところで下校を促す放送が入る。
『あ、ゴミ捨て当番だったんだ!』
 女子は、足元のゴミ袋に気づく。
『付いてってやろうか?』
 男子が提案。そこで分岐が出てきた。

 A:いいよ、一人でいってくる。正門のとこで待ってて。
 B:えと……じゃ、いっしょしてくれる?

「里奈、どっちにする?」
「あ……さっさと済ませて、ゆっくり二人で帰りたいかな?」
「じゃ、Aだな」
 拓馬がAをクリックすると、校舎裏に替わった。

 そしてファニー女子がゴミ捨て場にやってくると、BGがサスペンス風になった。
 ファニー女子は、いきなり後ろから口を塞がれ、ゴミ袋の山に押し倒される。女子は顔の分からない二人の男子に襲われてしまったのだ!
――え、青春ドラマなんじゃ?――
 
 危うく暴行されそうになったとき、虫の知らせか男子が戻ってきて女子を乱暴しようとしていた不良生徒をぶちのめし、他の二人が怯んだところを、女子の手を取って走り出す。
 追って来る不良たち!
 
 再び選択肢。
 
 ①:そのまま校門を出て逃走  ②:目についた体育倉庫に逃げる
 
 ①を選択すると、不良たちに追いつかれ、男子はぶちのめされた後、女子は凌辱される。②を選択すると、からくも不良たちをやり過ごせる。すると、さらに選択肢。
 
 ①:危機を脱した安堵感から二人で初体験してしまう ②:人気が無くなるのを確認して裏門から帰る
 
 最後の②以外の選択肢を選ぶと、全部十八禁の展開になってしまった……。

 
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・54≪国変え物語15・武士輸出計画≫

2019-07-10 06:04:58 | 時かける少女
時かける少女BETA・54
≪国変え物語15・武士輸出計画≫ 


 1595年(文禄3年)になっていた。本来なら文禄の役の終盤戦である。

 ところが、この後世まで秀吉の名を落とし、隣の半島国家から数百年後まで恨まれる戦は起こっていなかった。
 全て信長が死に、秀吉が大坂に築城し始めたころからの、美奈の長期的な企みの成果であった。

 大坂で開いた大物産会は大成功で、諸国の大名や商人たちが、国の名産品を商うようになり、日本は一大商業国家になりつつあった。
 美奈の献策で、取引に五分の税を掛けた。その税を元に一大水軍を作った。
 このころになると、国内の交易だけでなく、シャムや琉球マニラとの貿易も盛んになり、この水軍は、普段は貿易船団の護衛にあたっていた。
「貿易の護衛だけでは、つまらのうございましょう」
 美奈は小西行長らの、商人上がりの大名を焚きつけた。

 天下が統一されてからは、武士が余った。戦によって改易された者やら、刀狩は行われたものの、まだまだ農民の中には半ば武士的な気風から抜けきれない者が多く居た。
 土佐の方言に「いごっそう」というのがある。元気な者、一徹な者を指して使う褒め言葉である。

 語源は「一領具足」で、田畑の仕事の傍ら、畦道に一領の具足(鎧兜)を槍とともに掛けておき、いざ陣ぶれの太鼓が鳴れば、急いで具足姿(武士の戦闘装備)になり、そのまま戦場に駆けだす者が大勢いた。
 美奈は、この戦国の熱から覚めない連中を、海外に輸出することを考えた。
 朝鮮は鎖国している。明と呼ばれた中国は、国として貿易には不熱心で、貿易相手としても旨みが薄い。
 そこで、すでに日本人町などがあって、進出の足場が出来ている、ベトナム、マニラ、シャムに目を付けた。これらの国々はイスパニアやポルトガルの進出で、国を蚕食され始めていた。

 そこへ傭兵として、日本の元気の余った武士や一領具足たちを送り込む。彼らの半分は、行った国で土着したが、半分は帰国して、貿易や、商業に従事するものが多かった。

「これで、五右衛門さんを釜茹でにしなくてすむわ」

 美奈は、少女のように口を開けて桜餅を食べながら言った。
「オレが、言うのもなんだけど、これだけいい女を秀吉は、よく手を出さなかったなあ」
 五右衛門は、オレが口説いても無駄だろうという謎を掛けながら、美奈に言った。傍らで七十台の半ばになった千利休が笑っている。
「あたし、釜茹での話をしたのよ」
「よせよ。オレは大泥棒になっていたかはしらないが、捕まるようなへまはしないって」
 五右衛門は、利休に教えてもらった通りの作法で、茶を喫した。言葉遣いは昔のままだが、文禄の時代には一大海運王になっていた。通り一遍の行儀作法は心得ている。
「これで、天下が治まればよろしゅうございますがなあ……」
 利休が茶をたてながら呟いた。
「可能性は五分五分でしょうね。豊臣の政権は組織が未熟。そこへもってきて、尾張出身の者と近江出身の者たちの対立の根がつみとれない……」

 そこに、伏見から急な使いがやってきた。

「鶴松さま、にわかのご発病! 美奈殿には至急伏見城にこられよとの殿下のお言葉にござります!」

 来るものが来たと美奈は思った……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・61』

2019-07-10 05:55:53 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・61 



『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない10』


 川風が涙を乾かしたころ、わたしは問わず語りをし始めた。

「荒川区には荒川は無いんです。もう一つ西の隅田川が荒川だったんです。千住大橋から川下が隅田川、川上が荒川。いま目の前にあるのはただの放水路。昭和の初めに付け替えて、何年だったかにここを荒川ってことにして、荒川区の荒川は、全部隅田川ってことになったんです。でも、それを知ったのは、小学校の高学年になってから。だから、ただの知識です。おじいちゃんなんかはそのこと知ってるから、千住大橋から北の隅田川(元荒川)には思い入れがあるみたい……」

 目の前をなにかがよぎった。

「あ、トンボ……もう秋が始まりかけてるんだ」
「そうなんやな、川にも人にも物語があるんやな……」
 先生がトンボを目で追いながらつぶやいた。
「物語はいつか忘れられるってか、漂白されてただの知識になってしまうんですね」
「はるか、『隅田川』いう能の物語知ってるか?」
「いいえ」
「昔、京の都で梅若丸いう子ぉがおってな、それが人さらいにさらわれて行方不明になりよる。ほんで、梅若丸のお母ちゃんが捜しに捜して、隅田川のほとりまで来て渡し船に乗りよるんや。ほんなら船頭のオッチャンが向こう岸で、去年行き倒れになって死んだ子ぉの供養があるて言いよる。ほんで、なんかの縁やと思て、その供養に出よる……ほんなら、供養の途中でその子の霊が現れてなあ。『ぼくがその梅若丸や』言いよる。そやけど、それは一瞬の幻みたいなことで、気ぃついたら、草ぼうぼうの中にお墓があるだけ……」

「悲しいお話……」

「オレは、この話は『おわかれだけど、さよならじゃない』やと思てる」
「それって『すみれ』の……」
「そや、おわかれが人の想いを昇華しよる。『隅田川』は、芥川龍之介が小説にしとるし、なんちゃらいうイギリスのオッチャンがオペラにもしとる……おわかれにはカタルシスがあるものもあるんやなあ……ハハ、あかんあかん。どうもオッサンになるといらん知識をひけらかしてしまうなあ。かんにんやで。はるかの事情もよう分かってへんのに」
 先生には、さっきのことはなにも話していない……でも、核心はついている。
「おわかれが人の想いを昇華する……」
 ふっと、絡んだ糸がほぐれる兆しのようなものを感じた。


 昼からは、先生のお供をして、練馬の出版社に行った。

 この出版社はS書房といって、わたしも何冊かここの本は読んだことがある。お芝居の本ばかりだけど。
 少人数の出版社だとは思っていたが、おじいさんの社長さんが一人でやっているので驚いた。

「いや、わざわざすみませんなあ」社長さんは恐縮していた。
「いや、こちらこそ、長年お世話になった作品を事後承諾みたいなかたちで、M出版で出すことになってしもて」
「いえいえ、作品は人に読んでもらってこその作品です。それに、ハードこそ休業ですが、ストックもあるし、オンラインでは、我が社はまだまだこれからですよ。ま、冷めないうちにどうぞ」
 社長さんは熱いお茶と、先生がお土産に持ってきたヨウカンを切って勧めてくれた。
「羊羹には、熱い番茶が一番です」
 ほんとうだ、朝のシフォンケーキよりよっぽどホッコリする。
 それに、オフィスというよりは事務所。パソコンと、その周辺機器を取り除けば、そのまま昭和のセットに使えそう。エアコンも年代物のようだけど、手入れがいいんだろう、番茶を飲んでも頃合いの冷気を穏やかに吐き出している。
「お嬢さんは、演劇部?」
「あ、申し遅れました。わたし、坂東はるかと申します。大阪の真田山学院高校で、大橋先生のお世話になっています。あ、演劇部です。いちおう」
「……きれいな東京弁だ」
「はい、この五月まで荒川に住んでいました」
「ハハ、道理で……で、イチオウの演劇部?」
「まだ、入部届を出さないんですわ。な、はるか」
「大阪に帰ったら出します!」
「ハハ、早まったらあかん。入部届出さんとこが、はるかの値打ちやねんから」
「出しますったら! だいいち、真剣な顔で演劇部勧めたのは先生ですよ」
「そうや」
「だったら……」
「はるかは、もっと泣き笑いしてからのほうがおもしろい」
「なんですか、それって!?」
「ハハハ、なかなかおもしろい師弟関係ですなあ」

 それから先生と社長さんはオンラインで残す作品についての意見交換に入った。
 わたしには難しい言葉が交わされたが、少人数で、道具や照明、音響などに手のかからない本に絞り込んでいるように思われた。
 ときどきわたしにも話題がふられたが、東京での生活にあまり触れられたくないことに気づくと、いままで読んだ戯曲の中味などに自然に話題が切り替えられた。
「ギャビギャビな面白さや、特殊な状況を設定して、さもこれが高校生の問題ですよってのは引いちゃいますね。さりげない自然な日常の生活や、ちょっとファンタジーな展開の中に人生を、それもできたら青春に夢や希望をもたせてくれるものがいいですね」
 なんて生意気を口走った。
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