大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・045『阿部晴美の仕事が増える・2』

2019-07-16 15:53:18 | 小説
魔法少女マヂカ・045  
 
『阿部晴美の仕事が増える・2』語り手:阿部晴美  

 

 

 自衛隊のことはよく知らない。

 先日、調理研の三人を連れて阿佐ヶ谷駐屯地で自衛隊メシをいただいたのが、唯一の自衛隊体験だ。

 そんなわたしでも、師団というのは大きな単位だということくらいは見当がつく。『レイテ戦記』や『真空地帯』とかの国語の教師としては必読の戦争や軍隊を扱った小説は読んでいるので、この程度の理解はできる。

 分隊⇒小隊⇒中隊⇒大隊⇒連隊⇒師団⇒軍  という順序で規模が大きくなる。

 軍というのは数個師団で構成され、国外での軍事行動を念頭に置いた単位で自衛隊には存在しない。だから師団というのは自衛隊最大の戦闘単位であるはず……。

「実働部隊の主力です」

 来栖一佐が手を広げた先三メートルのところにいるのは、新たに引き受けた二年B組の問題児・渡辺真智香と、日暮里高校とは山手線を挟んだ隣の千駄木女学院の交換留学生と思われる金髪の生徒だ。わたし、英語は苦手なんだけど。

「日本語でいいですよ、阿部先生」

 滑り台の上で来栖師団長が注釈。

「阿部先生が、なんで……?」

 真智香が金髪と目配せする。

 わたしが聞きたいところだ。吉野家で牛丼超特盛を奢ってもらったあと、タクシーで着いたのが、大塚駅から五分の大塚台公園なのだ。真智香も金髪も来栖一佐に呼び出されて、ここに来ている。

「先日の初出撃では二人の息が合わなかった。乙一の霊魔を退治するのに九州から広島まで移動してしまった。これでは、甲種の霊魔にはとても太刀打ちできない。それで、本日より特任臨時教官として阿部晴美先生のお世話になることになったのだよ」

「えと、阿部先生は……」

「師団主力たる二人との相性を確認して、最終決定とする」

「「「相性の確認?」」」

「一時間後に霊式によって再招集する。それまで、二人は自由行動していてくれ」

「霊式?」「自由行動?」意味不の二人だったが、おとなしく指示に従って、公園から出て行った。

「それでは、特務師団についての説明をします」

 ベンチに腰掛けてのレクチャーが始まった。

 深夜アニメのような内容に、頭はグルグルする。

 真智香と金髪(ブリンダという名前を教えてもらう)は魔法少女で、空を飛んだり魔法が使えたりするのだそうだ。霊魔という人類にとって宿敵から日本を守るために作られた自衛隊の秘密師団。真智香は魔法少女としてはマヂカという名前で、任務中はマヂカと呼ぶのだ。二人の力は優に一個師団のそれに匹敵するので特務師団と呼ぶらしい。二人が全力を発揮できるようにスタッフと施設があるらしいのだが、それは、二人との相性が確認された後ということという説明だ。

「で、霊式招集とは?」

「これです」

 来栖一佐は紙でできた人型を取り出した。

「式神……?」

「貴女が手にすることで式神になる。手に取って『招集』と囁いて」

「は、はい」

 恐る恐る手に取って、両手で挟むようにして「招集」とつぶやいた……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・27〔思い出した!〕

2019-07-16 06:55:24 | 小説・2

高安女子高生物語・27
〔思い出した!〕    
    


 なあ、頼むわ!

 もう朝から三回目や。
 南風先生に顔会わすたんびに言われる。
「地区の総会、行けるもんがおらへんねん」
「美咲先輩に言うたらよろしいでしょ!」
 三回目やさかい、つい言葉もきつなる。
「美咲は休みやから、言うてんねん。三年にも頼んだけど、もう卒業したのも同然やさかい、みんな断られた」
「美咲先輩、見越してたんとちゃいます。今日のこと?」

 そう、今日は連盟の第六地区の地区総会がある。四時半から平岡高校で。

 だれが好きこのんで、夕方の四時半に平高まで行かなあかんねん。春の総会にも行ったけど、偉い先生のつまらん話聞いておしまいやった。演劇部の顧問が、なんで、こんな話ヘタやねんやろと思ただけ。二度と御免や。
「明日香、あんたクラブに籍はあんねんで……」
 とうとう先生は、奥の手を出した。二年先の調査書が頭をよぎる。
「しゃあないなあ……」
「ごめん、ほな頼むわ。ほれ、交通費。余ったらタコ焼きでも食べ!」
 先生は、うちに千円札を握らせると、前期入試準備室の張り紙のある部屋へ入っていった。先生は入試の担当や、しゃあない言うたらしゃあないことではある。なんせ、試験は明日や。

 平岡高校。

 去年、浦島太郎の変な審査で、うちらを抜かして本選に行った学校や。忘れかけてたケタクソ悪さが蘇る。
 まあ、終わったこっちゃ。
 大人しぃ一時間も座ってたら済む話。交通費をさっ引いた三百円でタコ焼き食べることだけを楽しみに席に着く。
 案の定、地区代表の先生のつまらん総括の話。いつもの集会と同じように、前だけ向いて虚空を見つめる。二百円自腹切ってタコ焼きの大盛りを食べよと考える。

「……というわけで、今年度のコンクールは実り多き成果を残して終えることができました」
 地区の先生の締めくくりの言葉あたりから、タコ焼きの影が薄なって、消えかかってた炎が大きなってきた。
「ほんなら、各学校さんから、去年を総括して、お話してもらいます。最初は……」
 このへんから、タコ焼きの姿は完全に消えてしもた。みんな模擬面接みたいな模範解答しか言わへん。
「え、次はOGH高校さん……」
 で、まず一本切れた。
「あんなショボイコンクールが、なんで成功やったのか、あたしには、よう分かりません。観客は少ないし、審査はええかげんやし……」
 会場の空気が一変したのが自分でも分かった。驚き、戸惑い、怒りへと空気が変わっていくのが、自分でも分かった。せやけど止まらへん。

「いまさら審査結果変えろとは言いません。せやけど、来年度は、なんとかしてください。ちゃんと審査基準持って、数値化した審査ができるように願います。あんな審査が続くようやったら、地区のモチベーションは下がる一方です」
「そら、無理な話やなあ。全国の高校演劇で審査基準持ってるトコなんかあらへんよ」
 連盟の役員を兼ねてる智開高校の先生がシャッターを閉めるみたいに言うた。
 うちは、ものには言いようがある思てる。一刀両断みたいな言い方したら、大人しい言葉を思てても、神経逆撫でされる。頭の中でタコ焼きが焦げだした。
「なんでですか。軽音にも吹部にも、ダンス部の大会でも審査基準があります。無いのんは演劇だけです。怠慢ちゃいますか!?」

 言葉いうのはおもしろいもんで、怠慢の音が自分のなかで「タイマン」に響いた。うちは、ますますエキサイトした。

「そんな言われ方したら、ボクらの芝居が認められてへんように聞こえるなあ……」
 平岡の根性無しが、目線を逃がしたまま言いよった。
「だれも、認めんなんか言うてへん! それなりの出来やったとは思う。ただ審査結果が正確に反映されてない言うてますねん!」
「そ、それは、ボクらの最優秀がおかしい言うことか!?」
「そうや、あれは絶対おかしい。終演後の観客の反応からして違うたでしょうが!」
「なんやて!」
「思い出してみいや! 審査結果が発表されたときの会場の空気、あんたらかって『ほんまかいな』いう顔してたでしょうが!」
「せやけど、ボクらは選ばれたんや!」
「あれのどこが最優秀や! 台詞は行動と状況の説明に終わって、生きた台詞になってへん。ドラマっちゅうのは生活や! 生きた人間の生活の言葉や! 悲しいときに『悲しい』て書いてしまうのは、情緒の説明や、落としたノート拾うときの一瞬のためらい。そういうとこにドラマがあるねん。あんたらのは、まだドラマのプロットに過ぎひん。自己解放も役の肉体化もできてへん学芸会や」

 うちは、お父さんが作家やさかい、語り出したら、専門用語が出てくるし、相手をボコボコにするまでおさまれへん。

「そんなに、人を誹謗するもんとちゃう!」
 司会の先生が、声を荒げた。
「なにを、シャーシャーと言うてはりますねん! もともとは、こんな審査をさせた連盟の責任でしょうが!?」
「き、きみなあ……!」
「さっさと、審査基準作って、公正な審査せんと、毎年こないなるのん目に見えてるやないですか!」
「あ、あんまりや、あんたの言い方は!」
 ○○高校の子が赤い顔して叫んだ。こいつは本気で怒ってない。ほんまに怒ったら、涙なんか出えへん。顔は蒼白になる。うちの頭のタコ焼きは爆発した。
「あんたなあ、この三月に、ここに居てる何校かと組んで合同公演やんねんてなあ。ネットに載ってた。嬉しそうに劇団名乗って、学校の施設使うて何が劇団や! 合同公演や! なんで自分のクラブを充実しよとせえへんねん! 演劇部員として技量を高めようとせえへんのんじゃ!」

 あとは修羅場やった。

 これだけもめて、公式の記録には――第六地区地区総会無事終了――

 よう考えたら、うちも偉そうに言えた義理やないねんけど。タコ焼きは、しっかり食べて帰った。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・60≪コビナタのインターミッション≫

2019-07-16 06:37:27 | 時かける少女

時かける少女BETA・60
≪コビナタのインターミッション≫



 珍しくコビナタは四阿(あずまや)のカウチで横になっていた。

「あ、ごめんなさい。帰ってきていたのね……」
「寝てらっしゃったんですか」
「ちょっと、考え事をしていてね」

 視線も合わさないコビナタに戸惑って、ミナは、庭の歴史の樹に目をやった。
「あ、弱ってる……」
「そう、ミナの働きで、根本になるところは修正してもらったんだけどね。全体としては弱り始めてる」
「朝鮮の併合は中止になったんじゃないんですか?」
「ええ、あなたの働きは目覚ましい。伊藤博文とビリケンの寺内に的を絞ったのは大成功。秀吉の朝鮮侵略よりも短時間で修正ができた。付録も付いていて、あれで日本は、イギリス、アメリカとも上手くやっていけるようになってね、大東亜戦争そのものが無くなったわ」
「じゃ、大和と信濃の水上特攻も……」
「そう、しなくてすんだ。歴史の枝分かれを見極めるのはむつかしい。あ、ごめんなさい。お茶淹れるわね」

 コビナタが、お茶の用意をしているうちに、ミナは歴史の樹を近くまで見に行った。

「確かに弱ってる。わたしには変化の一つ一つは分からないけど、樹に力強さがないわ……」
「朝鮮併合。日本史最大の間違いを正したのにね」
 コビナタが、目でお茶が入ったことを知らせてくれた。
「日米英の三国で、朝鮮の独立を守った。でも、ソ連との戦争は避けられずに、やっぱり朝鮮戦争は起こってしまった。38度線で、南北に分かれることは避けられなかった」
「ソ連は、ナターシャを助けてことで、革命の初期で壊滅したんじゃ?」
「それが両立しないの。ソ連を叩くと、日本が出過ぎて世界中からヒンシュク。当然朝鮮の併合は避けられない。朝鮮併合を阻止したら、ソ連の台頭は避けられずに、違った形で第二次大戦が起こってしまう……」
「でも、朝鮮の併合が無くなれば、あんなに日本が悪く言われることは無くなったんじゃないんですか?」

 しばしの沈黙の後、コビナタは、ため息交じりに話を再開した。

「日本の介入が、もっと早ければ、半島は南北に分断されずにすんだ。日本は半島を踏み台にしただけだって……日本は、何をしても恨まれるみたい」
「そんな……」
「ちょっと打つ手がない……ミナ、ご苦労様でした。しばらく休んでちょうだい、また、あなたの力が借りられるように考えてみる」

 コビナタの声を聞くと、ミナの意識が遠くなっていった。

「お母さん、お父さん、手術は成功しました」

 三時間ほどの手術の後、美奈子はストレッチャーに載せられて病室に戻って来た。
「本当に、美奈子は治ったんですか!?」
「ええ、この小日向が受けあいます。再発の可能性は10%もありません。むろん、しばらくは経過観察しなくちゃいけませんから、通院はしていただきますけど」
 父も母も、しばらく言葉もなかった。
「本当に…本当に、ありがとうございました!」
 両親は小日向医師に深々と頭を下げた。

 あくる朝、美奈子は麻酔から目覚めた。どこからかハーブティーの香りがしたような気がした……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・26『たこ焼きの縁・2』

2019-07-16 06:30:04 | 小説3

里奈の物語・26
『たこ焼きの縁・2』 



 たこ焼きを食べている姿というのは、どこか緩い。

 ハンバーガーやクレープだと「同じもの食べてる」とは思うけど、それだけ。
 トレーに乗っかったたこ焼きを、爪楊枝刺して頬張っていると、どこか緩くなってしまう。熱さに目を白黒させて口の中でホロホロするとこなんか、とてもアットホームな表情になる。いっしょにベンチに座って食べていると、見知らぬ他人同士でもエヘラと笑ってしまいそうになる。
 
 そういうエヘラの中で安藤美姫に会った。

 だから、落とした台本拾って渡すだけなのに「あなた演劇部なのね」と、踏み込んでしまえる。

「うん、そう」

 美姫は、短いけど温もりの有る笑顔で返してくれた。
 昨日はそれっきり別れたけど、もう一度同じ時間にたこ焼きを食べていれば会えるような気がした……。

「アハ、また会えた!」

 闊達に声を掛けてくれたのは美姫の方だった。
「あたし、この近所なの」
「ひょっとして、アンティーク葛城?」
「え、どうして?」
「ときどき店番してるやんか」
「分かっちゃってたんだ」
「そら、おっちゃんオバちゃんらで店番してたんが、いきなり女の子になってんねんもん。葛城さんとこの子ぉ?」
「うん、てか姪。伯父さんがお母さんのお兄さん」
「そか。あたし、安藤美姫。あんたは?」
「葛城里奈、十七歳」
「あたしといっしょ! なんか縁やね!」

 当たり前なら学校に行っている十七という歳、そして大阪弁ではない言葉。普通なら事情を聞いてくるとこだけど、美姫は「縁」であることを喜んで、美味しそうにたこ焼きを食べる。

「一つ訂正ね。あたしは演劇部やのうて、演劇部やったの」
 たこ焼き食べ終わり、そろって歩いた橋の上で美姫が言った。
「ひょっとして、クラブ潰れた?」
 自分の経験から聞いてみた。美姫のオーラは「自分から辞めた」とは言っていない。
「里奈ちゃんも演劇部やった?」
「あ、どうして?」
「ハハ、そら、台本拾うてくれたとき『演劇部なのね』て聞くのは同類でしょ」
「そうなんだ……てか、あたしはね……」
「ま、仲ようなったとこやねんから、発散しようよ。バイトの給料出たとこやから、カラオケでも行こ!」
 

 たこ焼仲間とはいえ、いきなりのカラオケは飛躍だったけど、自然な発展に感じられた。
 その足でカラオケで九十分、喉がひりつくまで歌った。喉の鍛え方が違うのか、美姫は平気だった。

「聞いてくれる、こんなんやってんよ」

 うっすらと汗に滲んだ顔で、美姫はスマホを見せた。第五十回大阪ハイスクール・ドラマコンクールの表題が出てきた。

 そこには、とってもシビアなことが書かれていたけど、カラオケでハイになっていたので心をささくれにせずに読むことができる。

 美姫には、状況をたこ焼きモードにする才能があると思った。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・67』

2019-07-16 06:22:30 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・67



『第七章 ヘビーローテーション 5』 




「よくまあ、そこまで手の込んだことを……」
 異口同音に三人からあきれられた。

「ディズニーリゾートに行く途中だと伺ったもので、ご承知だったかと……」
 秀美さんは当惑しながら、わたしとお母さんの顔を交互に窺った。
「わたし、最初はお父さんに会って、なんとか元の家族に戻れないかなって願ってた……でも、東京でお父さんと秀美さんに会って分かったの……」
「なにが……イテテテ」
 お父さんが身を乗り出しかけて、顔をしかめた。
「だめですよ」
「じっとしていなくっちゃ」
 お母さんと秀美さんが同時にたしなめる。
「この状況……」

「「「え?」」」

「お父さんと秀美さんは、仕事のパートナーとしても……生活上のパートナーとしてもできあがっちゃってる……東京のことは、お母さんの中ではもうケリのついたことなんだ。で……甘ちゃんのはるかは荒川の土手で視界没にしてきた。そういう状況だってことが分かった」
 不思議なくらい穏やかに言えた。嵐の前の静けさ……。
「おわかれだけど、さよならじゃない……いい言葉だったわ。はるかなる梅若丸というのがトドメだったわね」
「オレには分からなかったけど……秀美くんは分かったみたいでね」
「それで、わたしから勧めたんです。一度きちんとはるかちゃんに会って話して来て下さいって……でも、事前に連絡ぐらいはするって思ったんですけどね」
「あなたも、あなたね……」
「なんか、気後れしてな……はるか、もうちょっとオレのそばに来てくれないか」
「やだ、まぶしいんなら、スイッチ切ってやる!」
 わたしは、照明のリモコンを手にした。
「はるかの後ろにライトなんかないわよ……」
「え?」
「照れかくしですよ、お父さんの」
「え……も、もうやだ!」
 わたしは病院の中であることも忘れて廊下を走り、階段を駆け上がり、屋上に出た。

 せっかく、せっかく、荒川の土手でケリをつけたのに……!

 心の傷の薄皮がはがれ、血がにじみ出してきた。
「なんとかしてよ、目玉オヤジ……」
 目玉オヤジは、夏の西日に際だって、飄々とアグラをかいていた。
「はるか」
 後ろで、お母さんの声がした。
「……わたしと、あの人は、もうとっくにケリがついてるんだけど、はるかはそうじゃなかったんだ」
「……」
「はるかって、何も言わないんだもん。はるかもそうかなって……思いこんでた。物書きなのに、実の娘の気持ちも分からなくって……これじゃ、スランプにもなるわよね」
 お母さんが横に並んできた。
 
 ヤバイ。ウルっとしてきた。

 西日がまぶしい……ふりをした。
「わたしもいっぱしの演劇部なんだから。フンだ!」
「フ……なんで、このシュチュエーションで演劇部が出てくるわけ?」
「鈍感ね。それだけ青春賭けてるの、いつまでもメソメソしてらんないつーの!」
 手すりにかけた腕にアゴををのっけて強がった。
「わたしはもう切れちゃったけど、はるかにはお父さんなんだからね。わたしに遠慮なんかしなくっていいのよ……無理しなくっていい」
 同じ姿勢でお母さんが、精いっぱい寄り添ってきた。
「わたし気にいってんの。『おわかれだけど、さよならじゃない』ってフレーズ」
「そうか……」
「そうだよ。あんまり突然のドッキリばっかだから、ナーバスになっただけ。もう大丈夫だよ」
「そうなんだ……じゃ、お母さん、お店にもどるね。そろそろディナータイムだから」
 西日を受けて屋上を降りるお母さんの靴音を背中で聞いて見送った。

 代わりに秀美さんの気配がしてきた……。

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・11』

2019-07-16 06:02:35 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・11
ゼロからの出発

大橋むつお

 

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

間、遠く暴走族の爆音。

パリー: ……わたし、ゼロなんですね。
少女: ハハハ……
パリー: 笑わないでください……
少女: とんでもない勘違いだ。ゼロなのはこのわしだよ。
パリー: 先生……?
少女: 自信を持ちたまえ、パリー。君は100だよ。その証拠にこれだけ喋ったり行動を共にしても君の魔力は少しも回復してはおらん。わしの方がゼロだからだよ。
パリー: そんなことありません。こんなに不安で自信のない者が100であるわけがありません。
少女: 100であるからこその不安と自信のなさなんだよ。だって、もとがゼロなら、不安もゼロ。自信の失いようもないだろう。
パリー: いいえ、それはちがいます。
少女: 君も頑固だな。そうだ、これを持つといい(一本の杖を差し出す)
パリー: これは?
少女: 国宝の杖だよ。ひげもぐらが取り込んでいたんだ。あのどさくさでうっかり持ってきてしまった。そいつを振ってごらん。君がつまらん魔法使いなら、そいつは大暴れする。家の二三軒もふっとぶかもしれない。そして、君が本物ならば……本物で、ただのスランプならば。何事もなく大人しくしているだろう。それほどプライドが高く、力のある杖だ。さあ、やってごらん……
パリー: はい……  

パリーは、呪文を唱えおそるおそる杖を振る。何事もおこらない。もう一度、しっかり振る。やはり何もおこらない。

少女: ほらね。杖も君を100だと認めている。その杖は君が持っているがいい。
パリー: でも……
少女: 杖も君を選んだんだ、たとえ君に魔力がもどらなくても、そいつは文句を言わん。相性がいいんだ。大事にしてやりたまえ。
パリー: はい……(彼方で汽車の走る音がする)先生、ファグワーツ行きの最終が……
少女: こりゃ、ドラ屋経由どこもでもドアの直行便だな。ゼロの気楽さ、イージーに行こうか。パリー、君にはこれから100の苦悩が待っている。そして100の成長が。けして、こういうイージーな道をえらぶんじゃないぞ。人と人とは掛け算だが、人一人に関しては足し算だ。一つ一つ確実に積み重ねること。基本中の基本だ。そうでないと……(暴走族の爆音)ああいう馬鹿になるか、ひげもぐらのようなイカレた魔法使いに……

爆発音。フォグワーツ行きの列車が行ったあたりから。

パリー: 先生、フォグワーツ行きの列車が……
少女: ひげもぐらのしわざだな……
パリー: でも魔法使いなら、あの程度の爆発で死ぬことはないでしょう。
少女: 今のわしは生身の人間と同じだよ。
パリー: あ、そうでしたね……
少女: くれぐれも、イカレた魔法使いにはならんようにな。
パリー: わたしには、これがついています(杖を示す)
少女: いい子だ。じゃ、そろそろ行くよ(「どこもでもドア」にむかう)ドラ屋経由、ファグワーツ正面玄関へ!
パリー: い、行ってらっしゃい!

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