自衛隊のことはよく知らない。
先日、調理研の三人を連れて阿佐ヶ谷駐屯地で自衛隊メシをいただいたのが、唯一の自衛隊体験だ。
そんなわたしでも、師団というのは大きな単位だということくらいは見当がつく。『レイテ戦記』や『真空地帯』とかの国語の教師としては必読の戦争や軍隊を扱った小説は読んでいるので、この程度の理解はできる。
分隊⇒小隊⇒中隊⇒大隊⇒連隊⇒師団⇒軍 という順序で規模が大きくなる。
軍というのは数個師団で構成され、国外での軍事行動を念頭に置いた単位で自衛隊には存在しない。だから師団というのは自衛隊最大の戦闘単位であるはず……。
「実働部隊の主力です」
来栖一佐が手を広げた先三メートルのところにいるのは、新たに引き受けた二年B組の問題児・渡辺真智香と、日暮里高校とは山手線を挟んだ隣の千駄木女学院の交換留学生と思われる金髪の生徒だ。わたし、英語は苦手なんだけど。
「日本語でいいですよ、阿部先生」
滑り台の上で来栖師団長が注釈。
「阿部先生が、なんで……?」
真智香が金髪と目配せする。
わたしが聞きたいところだ。吉野家で牛丼超特盛を奢ってもらったあと、タクシーで着いたのが、大塚駅から五分の大塚台公園なのだ。真智香も金髪も来栖一佐に呼び出されて、ここに来ている。
「先日の初出撃では二人の息が合わなかった。乙一の霊魔を退治するのに九州から広島まで移動してしまった。これでは、甲種の霊魔にはとても太刀打ちできない。それで、本日より特任臨時教官として阿部晴美先生のお世話になることになったのだよ」
「えと、阿部先生は……」
「師団主力たる二人との相性を確認して、最終決定とする」
「「「相性の確認?」」」
「一時間後に霊式によって再招集する。それまで、二人は自由行動していてくれ」
「霊式?」「自由行動?」意味不の二人だったが、おとなしく指示に従って、公園から出て行った。
「それでは、特務師団についての説明をします」
ベンチに腰掛けてのレクチャーが始まった。
深夜アニメのような内容に、頭はグルグルする。
真智香と金髪(ブリンダという名前を教えてもらう)は魔法少女で、空を飛んだり魔法が使えたりするのだそうだ。霊魔という人類にとって宿敵から日本を守るために作られた自衛隊の秘密師団。真智香は魔法少女としてはマヂカという名前で、任務中はマヂカと呼ぶのだ。二人の力は優に一個師団のそれに匹敵するので特務師団と呼ぶらしい。二人が全力を発揮できるようにスタッフと施設があるらしいのだが、それは、二人との相性が確認された後ということという説明だ。
「で、霊式招集とは?」
「これです」
来栖一佐は紙でできた人型を取り出した。
「式神……?」
「貴女が手にすることで式神になる。手に取って『招集』と囁いて」
「は、はい」
恐る恐る手に取って、両手で挟むようにして「招集」とつぶやいた……。