大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・041『不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった』

2019-07-23 13:06:21 | ノベル
せやさかい・041
不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった 

 

 

 檀家回りをしてくると、いろんなものをもらってくる。

 

 お饅頭とかの和菓子が多いねんけど、商品券とかビール券とか、手縫いの手袋、映画の優待券、宝くじ、とか色々。

 むろん、もろてくるのはお祖父ちゃん、伯父さん、てい兄ちゃんの親子三代坊主たち。

「こんなんもろてきた」

 てい兄ちゃんが衣の袖から出してきたんは、UFOキャッチャーの景品みたいな縫いぐるみ。

 二頭身半の男の子と女の子。着てるTシャツの前には、男の子が「1」、女の子が「2」とプリントしてある。

「てい兄ちゃんは、こんなんばっかりもろてくるなあ」

 こないだは、ラジコンのアブラムシをもろてきてリビングで見せびらかしてた。

「もーー、兄妹の縁切る!」

 詩(ことは)ちゃんは、それ以来てい兄ちゃんと口をきいてない。せやさかい、わたしに見せるんや。

「お腹押してみい」

「うん……」

「自分のお腹押してどうすんねん!」

「あ、そっちか」

「グホ! ちゃうちゃう、縫いぐるみのお腹や!」

 これくらいのボケはかまさんとおもしろない。

 で、で、反応とリアクションをを考えながら、大げさに手を振り上げる。

 きゃ~エッチ!……やったら、「よいではないか、よいではないか、グフフ……」

 プ~~やったら、「ウ! おぬし、なにを食ったあ!?」とかね。

 

 エイ!

 

 勢い付けて押したら……チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)/

 なんと、ラジオ体操第一が陽気に鳴り出した。

「なるほどお! ということは……」

「2」の方を押してみる。今度は予想通りラジオ体操第二が流れ出す。

「なるほどお……おもしろいねえ」

 アイデアやねんやろけど、びっくりするほどの面白さやない。

「タイミングがええと、ふたり揃てラジオ体操しよるらしいでえ」

「プ、ほんまあ?」

「ほんまほんま、あげるさかい、毎朝お腹押してみい」

 ということで、不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった。

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・5』

2019-07-23 06:28:18 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・5


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

赤ずきん: ひょっとして、その金八郎がいやで学校に来ないの?
かぐや: ほほほ、それほどヤワじゃございませんわよ。
マッチ: あの……わたし、かぐやさんにいろいろグチこぼしたじゃない。
かぐや: お互い、か弱い乙女ですもの、グチのひとつやふたつ。
マッチ: うん……かぐやさんとか、赤ちゃんとか、しゃべりやすくって……
赤ずきん: ほんとか?
かぐや: ほほほ……わたしの方こそいろいろ教えていただいて……それに、マッチさんのお話って、おっしゃるほどグチっぽくなくてよ。
マッチ: そう!?
かぐや: そうよ、いろんなことをおもしろおかしく話してくださって。赤ちゃんさんのこと、郵便ポストさんとかサンタさんのお嬢さんとか。
赤ずきん: え、あれマッチが。おまえなあ……!
マッチ: あの、それはね……
かぐや: 赤は情熱、ぬくもりの色よ。マッチさんの赤ちゃんさんへの好意がよくあらわれてますわ。

赤ずきん そ、そう?
マッチ: そ、そだよ。あの、これ、ケーキつくってきたの。みんなで食べようよ。
かぐや: まあ、かわいいケーキ。赤いサンゴの色のようね。
赤ずきん: それ、トンガラシクリーム。最初甘いけど、飲みこんでから、おなかの中でヒリヒリすんだぞ。
かぐや: まあ、ほんと!?
マッチ: うそ、普通のイチゴクリームだよ。
赤ずきん: うちのオオカミさんに食わしたら、胃ケイレンで、そく救急車。
マッチ: もう、赤ちゃんたら(ぶつかっこうをする)
赤ずきん: なんだ、やろうってのか?
マッチ: や、やるときゃ、やるわよ! いつも負けてばっかじゃないかんね!
かぐや: あらら……
赤ずきん: いくぞお……
マッチ: こっちこそ……
ふたり: さいしょはグー、じゃんけんポン!
マッチ: うう、三回しょうぶ!
赤ずきん: おうよ!
ふたり: じゃんけんポン! じゃんけんポン!
赤ずきん: あはは……
マッチ: おっかしいなあ、どうして負けるかなあ?
赤ずきん: おしおきだぞ~…… 
マッチ: え……?
赤ずきん: こちょこちょこちょ(くすぐりまくる)
マッチ: きゃははは……死ぬう!
赤ずきん: まいったか。
マッチ: まいった、まいったよ~。
かぐや: ほほほ、笑いは最高の調味料。おいしいわ……
赤ずきん: そのレターセットかわいいね。彼氏に?(コンビニの袋のレターセットに気をとめる)
かぐや: オオカミ男さんがね。時々おたよりをくださるので、お返事を出そうかなって思って……

マッチ そうか~、満月のたんびに月に吠えていたのは、かぐやさんへのラブコール!
かぐや: さあ……どうでしょう……もう少し複雑なお気持ちなの
かも……

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・34〔ナポレオンの結婚記念日〕

2019-07-23 06:21:56 | 小説・2

高安女子高生物語・34
〔ナポレオンの結婚記念日〕        


 今日は、ナポレオンの結婚記念日。

 なんで、そんなこと知ってるか……明菜が電話してきたから。
 なんで、明菜が電話してきたら、ナポレオンの結婚記念日と分かるか。

「ナポレオンの結婚記念日やさかいに、会わへん?」

 と、明菜が言うたから。
 なんで、明菜が、こんなケッタイナ誘いかたしてきたか言うと、明菜とは、しばらく疎遠やったからかなあ。

 明菜は中学の同級生。

  高校はうちと同じOGHやった。で、ほどほどの友達やった……けど、明菜は一学期で、学校辞めてしもた。

 ウワサでは、先生(誰とは分からへんけど)と適わへんかったから。高校では、クラスも違うたし、話す機会も無かったんで、それっきり。絵に描いたような『去る者は日々に疎し』やった。
 その明菜が電話してきて「会うて話がしたいねんけど……」うちは、なんの気なしに「なんで?」と聞いた。ほんなら、その答が「ナポレオンの結婚記念日やさかい」やった。
 ネットで調べたら、ホンマにナポレオンの結婚記念日やったからビックリした。もともと勉強できる子ぉやったけど、とっさに、そんなんが出てくるのは、さすが明菜やと思た。

「なあ、なんで明菜会いたがってんねやろ?」

 馬場さんの明日香に聞いても、お雛さんに聞いても、本のアンネに聞いても答えてくれへん。やっぱり、この三人が、喋ったり動いたりするのんは、特別の日いだけみたいや。

 明菜の家は、近鉄挟んだ反対の西側にある。

 近鉄の西側は、むかし近鉄が百坪分譲やってたときのお屋敷が多い。明菜の家も、その一つ。一回だけ遊びに行ったことがあるけど、敷地だけでうちの四倍以上。お家も、それに見合うた豪勢さ。庭だけでもうちの家の敷地ぐらいあった。

 明菜との疎遠は、この豪勢さにある。

 うちとこは、もうそのころは両親共々仕事辞めて、定期収入が無くなってた。お父さんは「明日香は作家の娘やねんぞ」なんて言うけど。収入が無かったら、経済的には無職と同じ。
 そんなんで気後れして、うちの方から連絡することは無かった。

 せやさかい、明菜が学校をOGHに決めたときは、ビックリした。あの子の内申と偏差値やったら、もっとええ高校行けたはずや……。

「ボチボチの天気やなあ」
「せやなあ」

 ほぼ一年ぶりの会話としては、なんともたよんない。
 しばらくは、黙って玉串川のほとりをを黙って歩いた。

「もう、半月もしたら、桜も咲いてええのになあ」

 うちの何気ない一言が明菜を傷つけた。           
 明菜は、唇を噛みしめたかと思うとポロポロと涙を流した。

「ごめん。うち、なんか悪いこと言うたかな……」
「ううん、明日香は、なんにも悪ない。うちが、よう切り出せへんよって……」
「……ちょっと、座ろか」

 山本球場あたりの川辺の四阿(あずまや)に入った。

「うちの親、離婚するねん」
「え……」
「事情は、うちにもよう分かれへん。ケンカしたわけでもないし、浮気でもあれへん。なんや、発展的な離婚やいうて、お父さんも、お母さんも涼しい顔してる。そんで、気楽に『明菜はどっちに付いていく?』ごっついケッタイで、あたしのこと置き去りにして……バカにしてるわ!」

 最後の一言が大きい声やったんで、川の鯉がビックリしてポチャンと跳ねた。

「どっちに付いていっても、あの家は出ていかならあけへんねん……うち、せっかく天王寺高校とおったのに」

 うちは、複雑に驚いた。明菜は、天王寺行けるほど頭良かったんや。ほんで、羨ましいことに関根先輩と同じ学校。なんで、去年は格下のOGHなんか受けたんやろ。ほんで、なんで、学校辞めたんやろ。なんで、うちなんかに相談するんやろ……。

「うち、一番気い合うたんは明日香やねん。うち友達少ないよって、相談できるんは明日香しかおらへんねん」

 うちは、もっかいビックリした。こんなに恵まれて、ベッピンで、勉強もでけて、ほんで友達がうち?

 うちは、自分のことが、よう分からへん。馬場さんが、うちをモデルに絵ぇ描いたんよりもびっくりや。

「明日から、うちの家族……もう家族て言えるようなもんやないけど。離婚旅行に行くねん」
「り、離婚旅行!?」

 頭のテッペンから声が出てしもた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・33『猫の恩返し・4』

2019-07-23 06:13:25 | 小説3

里奈の物語・33
『猫の恩返し・4』 



 来た!

 その瞬間に顔を上げれば、そこにいる。ここ一週間続いているウズメの訪問。

「あれ……?」

 ところが、店先にウズメの姿は無かった。

「でも、確かにウズメ……わっ!?」
 自販機の上から何かが降りてきて、思わず目をつぶってしまう。
 ニャー。
 目を開けると、足元に居るのはのらくろ。
「え……あんたの気配じゃなかったんだけどな」
 でも、とりあえず可愛いので顎の下をモフモフしてやる。気持ちよさそうにのらくろは目を細める。

「あれ、この小箱?」

 伯父さんの声がして振り返る。お店に出てきた伯父さんの手の上に、ウズメの小箱が載っている。

「やっぱ、来てたんだ」

 あたしの大きな独り言は、伯父さんには聞こえていない。
 伯父さんは小箱を開けて、中から指輪のケースを取り出していた。
「これは、うちで扱うた品物みたいやな……ちゃうかな?」
「開けてみたら分かるんじゃない?」
「これは特別なやつでな、鍵がかかってる……無理に開けたら壊してしまうなあ。でも、なんでこれが?」
「ウズメっていう野良猫が、いつも咥えてるの」
「猫が?」
 あたしは、ウズメの写メを伯父さんに見せた。
「野良猫には見えへんなあ……」
 たしかに、ウズメの毛並みや風格は野良猫っぽくはない。
「まあ、とりあえずは箱の中やなあ」
「鍵が無いと開けられないんでしょ?」
「必ずしも、そうとは限らへん。まあ、夕方まで待つか」
 なんで夕方なのか? 聞いてみたかったけど、電話がかかってきた。

「忘れてるかと思たわ」

 顔を合わせたとたんに、笑顔で言われた。
 昼から拓馬の「骨董吉村」に出かけた。今日はクリスマスイブなんだ。
 当たり前なら、プレゼントの交換とかやるんだけど、拓馬とは、そういう雰囲気じゃない。

――クリスマスには、お互いの秘密を一つだけ話そう――ということにしていた。

「これが……果歩」
 拓馬がクリックしたパソコンの画面には陸上でもやっていそうなハツラツ女子が写っていた。
「……素敵な子」
「ありがとう」
「とても前向きな子って感じ……どっちか迷ったら前に進もうって目をしてる」
「さすが里奈。可愛いなんちゅう常套句で済ますようなら、この写真で終わらせるとこやった」
「じゃ、話してくれるんだ」
「……果歩は陸上やってたんやけどね」
 直観が当たった。
「ひざを痛めてでけへんようになった。前向きな奴やから、別に熱中できるもんを探しよった」
「それがエロゲ?」
「結果的にはそうやねんけどな……ま、今は、その結果でええか」
「エロゲじゃ、辛い目にあったんだよね」
「うん、前に話したよな……ラブホの前通ってるとこ写メられて学校からも指導された……で、ある日……」
「苦しかったら、言わなくてもいいよ」
「いや、ここまで言うたんやから……後ろから来た車に撥ねられそうになって……いや、ほんま、あのままやったら撥ねられてた。先に気いついた果歩が押し倒してくれて助かった」
「……その時に?」
「うん……果歩は助からんかった」
 最初に拓馬に会った日、拓馬に助けられたことを思い出した。
「あたしを助けてくれたの……果歩さんへの恩返し?」
「分からん……ただ、とっさに危ない思て……うん、里奈が助かるんやったら死んでもええと思たかな」

 それって、あたしをどうこう思っているわけじゃなく、贖罪の気持ちだったんだろうことは想像できた。

「ま、細かいとこはおいおいと……さ、里奈の番やで」
「う、うん……」
 あたしは学校でいじめられたことを思い出した。人をかばったらターゲットにされて、でも穏やかに昔話として話せると思ってたんだけどね。話終わったら、拓馬がタオルを渡してくれた。
「それで、あのゲーム見せた時……その……ナーバスになってんな」
「ハハ、今は平気だよ。あ、そだ、こないだ借りたのクリアしたから、次の貸してよ」
 借りたエロゲを返しながら言った。
「ほんなら、次はこれ。俺が二番目に好きなやつ。ま、とりあえず一回やってみい」
「うん、ありが……」
 そこで電話がかかってきた。

――里奈ちゃん、あの小箱開いたで――

 伯父さんからの電話だった。
「え、どうやって開けたんですか!?」
「うちのオバハン」
「え、オバサン!?」

 いろんなことが、一歩深まるクリスマスイブだった。 

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高校ライトノベル・須之内写真館・6【チェコストーンのドレス・1】

2019-07-23 06:01:17 | 小説4

須之内写真館・6
【チェコストーンのドレス・1】       


 それはチェコストーンの胸飾りの付いた青いドレスだった。

 杏奈のお父さんは、恥ずかしそうにドレスを広げた。
「まあ、なんて素敵なドレス!」
「……ネットで偶然見つけたんです」
 お父さんは、顔を上気させながら、この青いドレスについて語り始めた。

 1992年に、チェコがスロバキアと分離したときに、お父さんはアパレルの仕事でチェコに居た。
 当時「ビロード離婚」と言われた、チェコとスロバキアとの分離は、その名の通り、ほぼ平穏に終わった。そして、ささやかではあるが独立のセレモニーが、あちこちで行われ、その一つが杏奈の母エミーリアがモデルとして出ていたクラシックドレスのファッションショ-だった。

 そこで、エミーリアが着ていたのが、この青いセミクラシックなドレスだ。

 買い付けようとしたが、とても手の出せる品物ではなく、せめてレプリカが作れないかと主催者に頼んだ。しかし、それも許可されず、廊下で佇んでいると、ドレスを着たエミーリアが廊下に出てきて、こう言った。
「いまチャンスよ。写真撮りまくって!」
 エミーリアは、ステージの印象とはまるっきり違ってお茶目な子であった。
「もし、レプリカを作るんなら、わたしにも一着作ってくれない?」
 
 これが縁で二人の中は、次第に近くなり、杏奈の父もプラハでアパートを借りて、仕事と勉強をするようになった。
 レプリカの話は、商売敵から話が漏れてしまい、デザインを替えざるを得なかった。
「こんなものしか出来なかった」
 ストーンの色も胸のあたりのデザインも変えざるを得なかった。
「いいわよ、ジュンが、心をこめて作ってくれたんだから」
 
 あとで、モデル仲間から聞いて分かった。あのドレスは、エミーリアの祖母が着ていたもので、家族を早くに亡くしたエミーリアには特別な思いがあるものだった。
 そこで父の順は、1/2のレプリカを作り、友だちの人形師に写真をもとにエミーリアの祖母の人形を作ってもらい、それを着せてエミーリアに送った。

 そして、二人は半年の後に結婚し、一年後には杏奈が生まれた。

 その後、杏奈が、ようやく歩けるようになったころ、移動中のバスの事故でエミーリアは亡くなってしまった。そして、杏奈は父に連れられて日本にやってきて、母によく似た娘に成長した……。

「杏奈、もうちょっと顎ひいて」
「こうですか……」
「そう、ちょっと微笑んでみて。バカ、口開けんじゃないの。微笑んで……それじゃ、まるで歯痛を我慢してるみたいよ!」
「難しいなあ~」
 杏奈にドレスを着せて写真を撮っている。
 自然な表情が欲しいので、杏奈にはドレスの由来は伝えていない。父の順も仕事でいない。リラックスした雰囲気で撮影している。

 そして、その瞬間が訪れた。絶好のシャッターチャンス!

「そう、そのままフワリと回って!」
 すると、連写のカメラが停まってしまった。
「あれ……」

 カメラのファインダーに映っているのは、写真のエミーリアそのものだった……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・74』

2019-07-23 05:51:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・74
『第七章 ヘビーローテーション 12』 


 文化祭がやってきた。
 
 出し物について一悶着あった。
 乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
 大橋先生は、文化祭で本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂って、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
 と、アドバイスってか、決めちゃった。
 わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。

 出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
 こんなもの一日でマスター……できなかった。

 コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
 物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がった。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
 振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
 パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
 一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。

 当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。

 校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
 と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開き、軽音の諸君がスタンバイしていた。

 ホリゾントを七色に染め、ピンスポが先輩にシュート。

 先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
 軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
 わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
 みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
 でも、わたしには違和感があった。

――まるで自分のコンサートじゃないよ、軽音がかすんじゃってる。

 会議室で簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
 中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
 綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」

 さすがに先輩はひっかかったようだ。

「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
 由香は綿アメの芯の割り箸を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
 由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
 由香にだけは、あの写真を送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日はハレの文化祭だ。

「あれ、人に送ってもいいか?」

「それはカンベンしてください」

「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「困ったな、もう送っちゃった」
「え……?」
「「アハハハ……」」

 と、お気楽に笑うカップルでありました。

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