大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・046『阿部晴美の仕事が増える・3』

2019-07-18 15:04:13 | 小説
魔法少女マヂカ・046  
 
『阿部晴美の仕事が増える・3』語り手:阿部晴美  

 

 

 バチバチ!

 静電気が爆ぜるような音がして、二人が帰ってきた。 

 ブリンダは、ポカン開けた口の先に、なにかを摘まんだような姿勢で、文字通りポカンとしている。

「ア、アイスを食べようとしていたんだけど……」

 マヂカは、ハンカチを咥え、ちょっと前かがみになって、両手を差し出している。トイレで手を洗っているところに招集がかかったようだ。

「ア、アハハ……ヤ、ヤバかったかも(n*´ω`*n)」

 二人ともタイミングが悪かったようだ。

「「これは無いと思う!」」

 二人の声がそろう。

「霊式は緊急の招集方法で、魔法少女との相性を試す手段でもある。二人ともコンマ五秒で現れたから、合格だ」

「前触れもなくコンマ五秒で呼びだされてはたまらん(-_-;)」

「そーだ、そーだ」

「これは、あくまでもテストだ。バチバチと衝撃も大きいしな。日頃はテディが呼びに行く」

「あの縫いぐるみも、しょっちゅうでは困る。クラスメートが目撃して都市伝説になりかけている」

「基地が完成すれば、定時に出頭してもらう」

 基地とはなんだろう?

「大塚台公園の地下が基地になっているんだが、まだ整備中です。完成の暁にはご案内しますよ。それまでは訓練に励んでもらう」

「えと……担任業務とかが入って、二人も引き受けてはいられないと思う」

 担任代行を言い渡されたばかりのところへ魔法少女の訓練なんて、正直冗談じゃない。

「大丈夫、週に一二度、訓練を兼ねた任務をこなしてもらいます。たいてい一時間以内でできることばかりです。まず、手始めに、あれに乗ってもらう」

 来栖一佐は、公園の三か所を指さした。

 

 あれに?

 

 それは、公園の三か所に置かれた遊具を兼ねたオブジェだ。

「先生にはライオン、亀にはマヂカ、アリゲーターにはブリンダ。乗ったら、スカイツリーを目指してもらいます」

「あれで、地上を?」

「いえ、空を飛んでもらいます」

 半信半疑で、指定されたオブジェに跨る。いい歳をした大人が恥ずかしいが、まあ、ライオン。亀よりはましか……オ?

 亀に跨ったマヂカがオブジェごと消えた……とたんに、高速エレベーターのような浮揚感がして、ライオンに跨ったまま大塚台公園数百メートルの上空に飛び上がった。

 え? え?

 ライオンは、しっかりしていて振り落とされるような気配はないのだが、唐突すぎる。

 キョロキョロしていると、左右に亀のマヂカとアリゲーターのブリンダが現れた。

「先生、とりあえずスカイツリー!」

「西南西!」

 上空はビョービョーと風が吹いているのだけど、二人の魔法少女の声ははっきり聞こえる。梅雨空かなたのスカイツリーに目をやると、ライオンは勝手に飛び出した。

 ウヒョーーー

 髪の乱れを気にしながらも、魔法少女二人の追随を確認する。三人一糸乱れぬ編隊飛行ができているので、ちょっと気分がいい。

「で、なにをすればいいのかなあ?」

——上下の展望台の周囲を編隊飛行させてください。先生は、離れたところで、いちばん効果が出るように指示を願います——

「指示?」

——いけば、分かります——

 飛行機並みの速度なので、あっという間にスカイツリーに着いた。

「下層展望台から行くよ! 速度五十! マヂカは時計回り、ブリンダは反時計回り、同速になるように気を配って、かかれ!」

「「ラジャー!」」

 え? え? なに、きちんと指示飛ばしてんの!? なんか寿飛行隊のノリじゃん!

 二人は、展望台の周囲を一定の速度と高度で旋回し始めた。梅雨空の雲のせいか、魔法少女の魔力か、展望台の観光客からは見えていない様子だ。これは、いけると思って「マヂカ、ちょい上に」とか「きもちふくらんで」とか調整指示を飛ばす余裕だ。

 ポロリ ポロリ ポロポロリ……

 五周目あたりから、目には見えないなにかが展望台の周囲から落ちていく気配がする。目を凝らすと、人の形に滲んだシミのようなものがポロポロと落ちていくのがわかる。

「……なんだ、あれは?」

「先生、上に逃げていく!」

「ブリンダ、最上展望台へ! マヂカ、周回して取りこぼしを確認!」

「「ラジャー!」」

 

 そうやって、十分ばかり飛び回ると清々しい感じになり、三人そろって帰投した。

 

 来栖一佐に確認すると、あれは霊魔の幼体で、放置しておくと関東一円に飛散して災いをもたらすものになるらしかった。

 本格的な夏を前にして、ボウフラの退治をやったようなものらしい。

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・29〔月曜はしょーもない〕

2019-07-18 06:56:32 | 小説・2

高安女子高生物語・29
〔月曜はしょーもない〕        


 月曜はしょーもない。

 保育所で物心ついたころから、いつも思てた。
 しょーもないのは、学校がおもんないから。

 言わんでも分かってる?
 

 みんなもそうやねんね。うちは、このしょうーもない月曜を、大学を入れたら六年も辛抱せなあかん。
 え、働いたらもっと……ごもっとも。
 そのへん、うちの親は羨ましい。お父さんも、お母さんも早う退職して、このしょーもない月曜からは、とうに解放されてる。
 せやから、月曜の「いってきまーす」「いってらっしゃーい」は複雑な心境。お父さんなんか、自称作家やさかいに、時に曜日感覚が飛んでしもてる。今朝の「いってらっしゃーい」は、完全に愛娘が痛々しくも悲劇の月曜を迎えたいうシンパシーが無かった。

 お父さんが、仕事してたころはちごた。

 保育所の年長さんになったころには分かってた。

 お父さんは、うちを保育所に送ってから職場に行ってた。職場がたいがいやいうのも分かってた。府立高校でも有数のシンドイ学校。子供心にも大変やなあて思てた。
 小学校に行くようになってから、お父さんが先に出た。七時過ぎには家を出てた。仕事熱心やいうこともあったけど、半分は通勤途中に生徒と出会わせへんため。登校途中の生徒といっしょになるとろくな事がない。タバコ見つけたり、近所の人とトラブってるとこに出くわしたり。せやから、そのころのお父さんは可哀想やと思てた。
 それが、うちが中学に入ると同時に退職。可哀想は逆転した。
 お父さんは、早よから起きて「仕事」。で、うちは小学校よりもしょーもない中学校に登校。

 今日は、いつもより一分早よ出た。

 ほんで、近鉄が四分延着してて、いつもより一本早い準急に乗ってしもた。
 大阪人の悲しさ。たとえしょーもない学校行くんでも、一本早い電車に間に合いそうやと、走ってしまう。

 で、電車に飛び込んで気いついた。

「あ、先輩!」
「お、明日香!?」

 なんと、早朝の電車に関根先輩と美保先輩が私服で乗ってるのに出くわしてしもた。二人ともなんや落ち着きがない。ほんでから、あきらかに一泊二日程度の旅行の荷物と姿。

 卒業旅行? 

 せやけど学校は二人とも違う……こういうバージョンの卒業旅行は特別やろ……バッグの中味が妄想される。コンドーさん一ダースに勝負パンツ……うう、鼻血が出る!

 鶴橋で、先輩二人は環状線の内回り。学校行くんやったら外回りのはずや。
「どうぞ、楽しんできてください!」
 思わん言葉が口をついて出てくる。
「あ、ありがとう」
 美保先輩がうわずった声で返事を返してきた。こら、もう確実や……。

 桃谷の駅に着いたら、女子トイレから鈴木美咲先輩が出てくるのが見えた。なんや髪の毛いじって、右手で制服伸ばしてる……スカートが、真ん中へんで横に線が入ってる。今の今までたたんでましたいう感じ。
 で、紙袋から、私服らしきものが覗いてる。

「え……!」

 思わず声が出るとこやった。美咲先輩は、その紙袋をコインロッカーに入れた! 気ぃつかれんように直ぐ後ろに近寄る。明らかに朝シャンやった匂いがした。

 美咲先輩お泊まりか……また、頭の中で妄想劇場の幕が上がる。

 しょ しょ 処女じゃない 
 処女じゃない証拠には 
 つんつん 月のモノが三月も ないないない♪


 父親譲りの春歌が思わず口をついて出てくる。
「こら、アスカ!」
 後ろ歩いてた南風先生におこられた。

 なんで、今日はこんな人らに会うんやろ。これも近鉄のダイヤがくるたから。と、近鉄にあてこする。

 教室についたら、一番やった。で……違和感。

 直ぐに気いついた。金曜日まで花といっしょに置いたった佐渡君の机が無くなってた。

 朝からのしょうもないことが、いっぺんに吹き飛んで、心の閉じかけててた傷が開いて血が滲み出してきた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・28『母からの送金』

2019-07-18 06:49:49 | 小説3

里奈の物語・28
『母からの送金』



 これでいいんだろうけど……やっぱ心が折れそうになる。

「このままがんばったら、肺炎になるよ」

 一年前お医者さんに言われたとときに似ている。

 去年、県の高校演劇のコンクールに出る寸前。あたしは風邪をこじらせて三十八℃の熱を出した。
「無理しないで」「今年が最後じゃないから」「頑張ってきたことで十分」などなど言われた。
「あの審査員なら、結果は見えてるし」真央は、そんなことまで言った。どうせY高校は落とされるという意味。
 うちの地区は某小劇場の某さんと芸術大学のM先生が交代で審査員をやっている。順番ではM先生なんだけど、大学の都合で某さんが二年連続でやると、直前になって変更された。
 某さんは、創作劇でないと評価しない。あたしたちは『クララ ハイジを待ちながら』という既成脚本。M先生が審査員であることを前提に選んだ。

 あたしは点滴を打ち、解熱のための座薬まで入れて本番に臨んだ。

 落とされると分かっていた。でも「Y高校も楽しみにしていたんですが」とオタメゴカシ言われるの嫌で頑張った。あの時の気持ちと、みんなが見る目が、今と相似形。
 ちなみに、某さんは、講評でこう言った。
「いい出来でした。でも主役の葛城さん、風邪で全力出せませんでしたね、惜しかったです」
 頭に血が上った。風邪の事は仲間しか知らない。点滴と座薬のおかげで、いつも通りの演技が出来た。
「え、風邪だったんだ!」そんな声も観客席から聞こえた。体調不良を悟られない出来にはなっていた、絶対なっていた。
 某さんは、うちの学校を落とすために(葛城は風邪だ)ということを利用した。「里奈、風邪なのに頑張ったね!」という仲間の声を聞いていたと真央が言ってくれた。

 今はコンクールじゃない。お母さんからの仕送りをMS銀行まで下ろしに行くんだ。

 伯父さんちに来て一か月ちょっと。お母さんは――里奈はすぐに帰ってくる――と願っていたようだ。

 だから荷物も送ってこなかったし、月々の送金も考えてはいなかった。
――今日送金しました。毎月17日に振り込むことにします――昨日メールがきた。
 当分奈良には帰らない、帰れない、そう思っていた。
 だから、これでいいんだろう。でも、メールの裏に感じてしまう「里奈は立ち直れないんだ」という思い込み。
 審査員の某さんと違って、その責任は自分と別れた亭主にあると思い込んでいる。

 でも、決めつけられていることは同じ。

 このお金下ろしたら、お母さんの思い込みを認めたことになる。
 下ろさなくたって、自分でも、今の状態はしばらく続くと思っている。
 でも、自分以外の人間が、そう思ってしまうのはヤダ。なんちゅう自己矛盾。

 自己嫌悪しながらATMの前に立つ。

 ATMの操作は簡単で無機質。自己嫌悪も心の折れもどこかに行って、まるで天気予報をパソコンで調べるくらいの気楽さ。
 吐き出されたお札をざっと調べ、備え付けの封筒に収めてリュックに入れる。

「あ、里奈!?」

 顔を上げるとタコトモ(たこ焼き友だち)の美姫が通帳を持って立っていた。

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高校ライトノベル・須之内写真館・1【修学旅行の写真】

2019-07-18 06:43:06 | 小説4

須之内写真館・1
【修学旅行の写真】 
      



 写真屋も味気ないものになったもんだと直美は思った。

 U高校は、父の代からのお得意さんで、クラス写真や学級写真のほか、文化祭や体育祭、修学旅行の写真まで、一手に引き受けていた。それが数年前から入札制度になり、そこから漏れると付き合いそのものが無くなる。
 やっぱりいい写真というのは、先生や子供たちと知り合い、学校の個性が分かって初めて撮れると思う。それが行事毎に写真屋が入れ替わっては、卒業アルバムに使うときなど、写真の個性がバラバラで、けしていいものが出来ない。

 三年前に担当の先生が替わって、やっと三年間ワンクールにして、一つの学年の入学から卒業アルバムまでを任せてもらえるようになった。
 で、わが須之内写真館は、今の二年生が入学したときから三年間任された。

 写真屋というのは因果なもので、ファインダーを通して写してしまうと、名前は忘れても顔は覚えてしまう。
 今年、新学年のクラス写真を撮っていて、四人の子がいないことに気が付いた。一人は病欠だったけど、あとの三人は違う。留年したか退学したかだ。

 その中の一人、花園杏奈(はなぞのあんな)は名前ごと覚えている数少ない子だ。

「おめでとう!」「ありがとう!」この短い会話が、杏奈との出会いだった。

 合格発表のとき、あんまり嬉しそうにしている子がいたので、思わず「おめでとう!」と声を掛けてしまった。で、「ありがとう!」と振り返った瞬間ビビッときて、反射的にシャッターを切った。
「ごめん、あたし写真屋だから、あんまり嬉しそうなもんで、撮っちゃった。まずかったら削除するけど」
「一度見せてもらえます?」
「いいわよ……これ、わあ、いい表情だ!」
「ほんと、あたしじゃないみたい!」
 で、名前を聞いて、入学式の時に渡してあげたら、むちゃくちゃ喜んでくれた。

 クラス写真を撮っても、杏奈は栄えた。集合写真でも、杏奈の所だけスポットライトが当たったように明るくなる。
「あたし、お母さんがチェコ人なんです」
「あ、やっぱハーフなんだ」
「この学校、修学旅行でドイツのついでにチェコも行くんで、とっても楽しみなんです!」
 写真のひな壇から降りて、次のクラスに替わる短い間の会話だった。
 合格発表の写真は評判がよく、次年度の学校案内の表紙に使われた。むろん本人と保護者の承諾を得て。
 写真を掲載したホームページのアクセスも多くなり、ある芸能プロから紹介の依頼が来たほどだ。むろん個人情報なんでお断り。

 その杏奈がいない。

「花園杏奈って子は?」
 担当の佐伯先生に聞いた。
「ああ、学年末で辞めました」
「あ、そうですか……」
 写真屋としては、それ以上聞くわけにはいかない。

 杏奈は「アンナ」と読む。チェコではANNA、どちらの国でも通じるようにと、両親がつけたんだろう。

 それから、杏奈のことは、時間と共に記憶の中でかすんでしまった。

 なんせ、一学年八百人もいる。遠足、体育祭、文化祭と、数万枚の写真を撮っているうちに意識にものぼらなくなった。
 学校の注文がうるさくなったこともある。
 個人が特定できる写真は、なるべく撮らないように、背景に、それと分かるように撮られた個人の顔はぼかすかモザイク。女の子のローアングルの写真はNG。下着が見えるような撮り方は絶対しない。それにローアングルは、足が太く見えたり、下半身が大きく写り、気にする子がいるのでむつかしいテクニックではある。でも時におもしろい写真が撮れる。やるなと言われてやってみたくなるのは写真家の性かもしれない。
 開き直って体育祭のゴール寸前の脚だけの写真を撮った。でも、ジェンダーの保護者や教職員から苦情が来た。
 正直、保護者はないと思う。担当の佐伯先生の誇張だろうと思った。

 で、今度の修学旅行である。三班に分かれるので、大学の写真科にいた仲間を臨時の社員にして、あたしは、一番厳しい佐伯先生の班に同行した。

 バックやロングの写真ばかり。真っ正面から写せるのは集合写真くらいのものだ。
 あたしは、工夫して鏡に映っている斜め後ろや、花瓶の花、彫刻と並んで映る姿を焦点をモノに合わせ、自然なぼけになるように取り込んだ。
 そして、日本に帰ってから、撮り貯めた写真をサービスサイズにして、一覧にし会議室に張り出した。
 そんでもって、先生、特に佐伯先生に許可をもらった写真を生徒に見せて販売する。
 昔は、たくさんの注文が取れたが、今は、もうただの習慣だ。携帯やスマホが一般化した時代、ポートレートは自分たちで撮る。正直手間ばかりかかり、ほとんど儲けにはならない。

「杏奈が写っている!」

 夜中に佐伯先生から電話があった。
「そんな、先生達にもご確認いただきましたし……」
「それが、写ってるんだよ。制服着て真っ正面から。あんた、あとから追加しただろう?」
「追加はしましたけど、先生達には見ていただいています」
「オレが見たあとに追加したんだ、いくらなんでも気が付かないわけがない!」
「分かりました、明日朝一番で点検にまいります」

 で、明くる朝。

 指定写真はおろか、どの写真にも杏奈は写っていなかった。他の先生にも確認して頂き、指定の写真をシャメって添付して送った。
 一応、お詫びのメールが来たが、その夜、再び電話がかかった。
「やっぱり、映ってる!」
「分かりました、今すぐまいります!」

 で…………映っていた。

 天使みたいな笑顔で彫刻と並んで映っていた。
「先生、杏奈は、どうして辞めたんですか?」
「健康上の理由。それ以上は個人情報」
「先生、プラハと日本の時差は、約八時間ですね。今プラハは午前十時くらいです。逆にこちらの朝や昼は、まだ夜中です」
「杏奈は……」
「それ以上は個人情報なんでしょ。専門的な立場で言いますと。杏奈の写真は、どれも影がありません」
「え……ほんとだ」
「あとは、ご自分でお考えください。写真屋風情が口を出すことではありませんから」

 呆然と写真を見つめる佐伯……先生を残して、常識と学校の結界である校門を後にした。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・69』

2019-07-18 06:26:41 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・69



『第七章 ヘビーローテーション 7』

 稽古が再開された。

 わたしは三十分早く来て、通用門の前で大橋先生を待った。
 
「先生、これ受け取ってください」
 コンニャク顔で、のらくらやってきた先生をつかまえて、ピンク色の封筒(この色のしかなかったんで)を突き出した。
「ラブレターか?」
「入部届です! 東京で言ったでしょ、大阪に帰ったら出しますって」
「うーん、また今度にしょ」
「わたし、もう荒川の土手でケリをつけたんです。それまでは、東京に帰ることが頭の片隅にあって、踏み切れなかったけど、今度のことで、ふっきれたんです。正式に演劇部員になります」
「その気持ちは嬉しいねんけどな、はるかにはもうちょっといろんなこと経験してもろてからにしたいんや」
「なんですか、それって?」
「演劇の三要素……」
「観客、戯曲、役者、ですよね」
「まあ、先回りせんと、話聞けよ」
「わたしじゃ、まだ力不足だって言うんですか!」
 顔が火照ってきたのは、日差しを増してきたお日さまのせいばかりではなかった。
「その顔や。聞いたこと、見たことが、すぐに増幅されて顔に出る。磨きすぎの鏡みたいや」
 わたしは、いそいでホンワカ顔になる。
「そない言うたら、すぐに、そのホンワカや」

――どうしろってのよ!?――

「実際、演劇部やってると、この三要素だけでは間に合わんことがけっこうあるんや」
「具体的に、言ってください」
「東京で、経験したとこやろ。人生は思たようには転がっていかへん。自分自身の心も含めてな。芝居にも同じことがある」
 汗がこめかみを伝った……。
「はるかの鏡は、よう光る。オレの予想以上や。役者としてもそれは、ものごっつい役に立つ」
「それって……」
「ええ役者になると思てる。そのためには、もうちょっとの間、演劇部とは微妙な距離残しておいたほうがええと思うんや。鏡は、時には曇ったほうがええ。光りすぎる鏡は割れやすいで」
「先生の話って……」
「ん?」
「なんでもないです」
 コンニャクだと言おうと思った。でも、この五ヶ月あまりで、かみしめたら、後で「そうなんだ」ってことも何度かあった。とりあえず頭にセーブしておくことにした。
「稽古いきましょうか」
 
 出てきたホンワカは、意外に素直ではあった。

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・13』

2019-07-18 06:16:33 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・13

ゼロからの出発

大橋むつお

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

少女、先ほどとも違う場所からあらわれる。姿はそのまま。

少女: ほらね。
パリー: ほんと……  
少女: あせりは禁物、ゆっくり、じっくりやっていけばいいわ。
パリー: ……先生、自然ですね。とても、さっきまでのコギャルとか、こないだまでのイマイチのオヤジ先生に見えません。
少女: 二百年前までは魔女だった。
パリー: え?
少女: 男性優位の時代だったから、男に鞍替えして魔法使い。そして百年もすると賢者の石井とよばれて、いい気になって……
パリー: 本物の女だったんですね!
少女: その前は男、ひげもぐら風の魔導師。アーサー王のもとで働いていた。あのひげもぐらは、その時のわたしの劣化コピー。本人は忘れちゃってるでしょうけどね。
パリー: ひげもぐら風だったんですか……(;゚Д゚)
少女: そんなバイ菌見るような目で見ないでくれる。もっと凛凛しくてキリっとしていたし。
パリー: やっぱり男だったんですね。
少女: さあ……男だったり女だったり、子供だったり年寄りだったり……年古びた魔女や魔法使いは、たいてい性別も年令もない。というよりは忘れてしまうのね、魔法の恐ろしいところ……わたしがおぼえている一番古い自分の姿は……なんだと思う?
パリー: さあ……
少女: 十五六才の少女だった。何か懸命に魔法をおぼえ、何かとんでもない敵を倒そうとしていた……そしてその前は……もう思い出せない。その少女の姿が最初だったのかもしれない。ひょっとしたら狐とか狸とか、人間以外のものだったのかもしれない……  
パリー: まさか……  
少女: パリー、だから今を大事に生きなきゃいけないのよ。何百年か先に、自分がパリー・ホッタであったことをおぼえているために。わたしが、いまゼロであることの、もともとの理由は、このへんにあると思うの。
パリー: ……
少女: わたしが、少女だったころに会えたらよかったね。
パリー: 先生……
少女: さあ、そろそろ行くわ。あなたは学校にもどりなさい。魔力がもどりかけてるから退学にはならないわ。
パリー: はい……先生!
少女: なに?
パリー: 「三べんまわって、わん!」には反対します。
少女: なぜ?
パリー: その……
少女: その……?
パリー: その……人も自分も、学校も粗末にしているように思えるから……じゃないでしょうか?
少女: そうか、百分の一ほどはわかってきたかもしれないわね。
パリー: 百分の一ですか……
少女: 今はそれで十分。あとの九十九は……
パリー: 自分でやります。自分でつかんで見せます!
少女: その意気込みよ、残りは九十七。
パリー: 九十七? 残りの二つは?
少女: それは……その意気込みを、ずっと持ち続けること。そして、静かにわたしを見送ること。
パリー: はい!
少女: 日が傾いてきた。そろそろ……
パリー: 先生。
少女: ん?
パリー: 先生は、けしてゼロではありませんでした。今も、そしてきっと、これからも……
少女: ありがとう……今夜は、星がきれいに出そうね。ほら、あそこに一番星。
パリー: え、あ、ほんと。
少女: もうすぐ二番星が出る。二番星は魔法使いの願い星。待ちかまえていれば、願いが叶うっていうわよ。
パリー: どこに出るんですか?
少女: 九と四分の三番星座……(希望を思わせる曲、フェードイン)
パリー: 九……と、四分の三番星座。
少女: じゃ、行くね。(花道を歩みはじめる)
パリー: 先生!
少女: しっかり空を見ていないと。見逃しちゃうぞ、しっかり見ていないと……!
パリー: 先生……先生……!

 歩みを速め、花道をいく少女。懸命に手を振るパリー。希望を思わせる曲フェードアップするうちに幕。


 ※ この作品を上演される時は、下記までご連絡ください。 

《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2

 

 

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