大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・033『京都へは3000円でいけるけど』

2019-07-07 14:55:36 | ノベル
せやさかい・033
『京都へは3000円でいけるけど』 

 

 

 京都とエディンバラは姉妹都市。

 京都には電車で行ける。エディンバラには電車では行けません、外国やさかい。

 外国に行くにはパスポートがいる!

 あたりまえのことに気ぃついたんは昨日のこと。

 パスポートは定期券なんかとちがうさかいに、取りに行ってすぐにもらえるもんとちゃうんですよ!

 

 パスポートならあるよ。

 

 お母さんは、自分の顔の横でヒラヒラさせて見せてくれる。

「え、なんで?」

「ほら、お父さんの事で、いつ海外に出なきゃ分からなかったからね」

 思い出した。お父さんが海外で失踪したんで、いつ連絡が入ってもええようにパスポートは用意してたんや。

「エディンバラは、お母さんも行くからね」

「え、なんで!?」

「スミスさんから連絡があった」

 スミス?

「頼子さんのお父さんよ。娘が無理を言って申し訳ないって、あと、旅行ってか、合宿についてのいろいろ。わたしが別口でエディンバラに行くこともご存知だったし、いやあ、さすがスミスさんだわ」

「あ、なんや、そうやったんか」

 納得するとお母さんは休日出勤のために玄関を出て行った。

 朝ごはんを食べてるうちに、ジワ~っと疑問が湧いてきた。

 なんで、頼子さんのお父さんがうちのお母さん知ってたんや?

 それと、パスポートはともかく、旅費とか宿泊費はどないするんやろ? 京都やったら三千円もあったら往復出来てご飯も食べられるけど、エディンバラは、そうはいけへんやろ。世間知らずの女子中学生でも三千円でエディンバラに行けるとは思えへんよ。

『ああ、大丈夫よ。アゴアシはうちで持つから。飛行機は、ちょっと小さいけど自家用ジェットだし。それよりもお願いがあるの……あ、電話かかってきた。くわしくは明日の部活で、そいじゃ!』

 そこで電話は切れてしもた。

 えと、頼子さんに確認の電話したんです。

 

 その夜、考えすぎたため、すごい夢をみてしもた。

 どんな夢か、それは次回のおたのしみ。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・18〔ああ、なんで雨!〕

2019-07-07 09:13:03 | 小説・2
 高安女子高生物語・18 〔ああ、なんで雨!〕           

 
 ああ、なんで雨!

 目が覚めて、直ぐに雨音に気ぃついた。
 なんで気ぃついたかというと、夕べ発作的に部屋の模様替えをしたから。

 え、わけ分からん?

 今から説明します。

 あたしの部屋は三階の六畳。両親の寝室とは引き戸のバリアーがあるけど、エアコンの都合で、夏と冬は開けっ放し。今までは部屋の東側にベッドを置いてた。ここやと、両親が隣の寝室に入ってきたときに、ベッドの4/5が丸見え。この位置は子どもの頃から変わってないんで気にせえへんかった。
 裸同然の姿でおっても、お父さんは男のカテゴリーの中に入ってないから、どういうこともなかった。

 一昨日の晩、ちょっとハズイ事件があった。

 芸文祭のことやら、最近会われへん関根先輩のことやらが頭の中でゴチャゴチャになってしもて、ボンヤリしてお風呂に入ってしもた。別に風呂で溺れたりせえへんかったけど、ベッドに潜り込んで違和感。
 なんと、パンツを後ろ前に穿いてた。

 で、仕方ないので、脱いで穿きかえた。不幸なことに、そこにお父さんが上がってきた。瞬間、お父さんに裸の下半身見られてしもた! 一瞬フリーズしたあと、お布団を被った。
「明日香も、女の子らしなってきたなあ~」
 なに、この言葉!? うちのお尻見たから? それとも布団被ったリアクション? ハンパな言葉ではよう分からへん。そやけど、こんなハズイ気になったんは初めてや。

 それで、模様替えになったわけ。で、頭がベランダのサッシのすぐ側なんで、カーテンを通して、雨音が聞こえてきたわけ。

「え、近鉄電車値上げ!」

 雨の中高安駅に着いて、電車の吊り広告で気ぃついた。
 前も言うたけど、うちの家には定期収入が無い。お母さんは「大学までは大丈夫」言うてるけど、娘としては気ぃ遣う。
 知ってんねん。お父さんが、あんまり家出えへんのは、ひつこい鬱病のせいもあるけど、お金を使わんため……やと、思てる。
 お父さんは、毎月銀行から生活費の自己負担分を下ろしてくる。十三万円。八万円はお母さんに渡して、自分は五万円。こないだまでは三万円やった。それをお父さんは、ほとんど使えへん。
 なんで分かるかというと、時々お父さん、お小遣い入れた封筒からお金出しては数えてる。チラ見してるだけやけど、残額は月四万くらいのペースで増えてる。
 知ってんねん。お父さんのお小遣いは名目で、家の非常持ちだしになってんのん。去年お婆ちゃんが死んだ時に、小遣い袋は薄なった。四十九日でも薄なった。
 今年は、お婆ちゃんの納骨と一周忌、それに下水工事がある。高安のこのへんもやっと公共下水道になる。それはええことやけど、家の敷地に入る部分の工事と、浄化槽の埋め立ては自己負担。それがお父さんの負担になる。お父さんは他にも光熱水道、ネット代、電話代、固定資産税、都市計画税、なんかも払うてる。大型家電が壊れたときも、この非常持ちだし。辞めとうて辞めた仕事やない。うちは基本的には、お父さん可哀想や思てる。せやから、近鉄の値上げでもムカツク。

 布施についたころに暖房で雨に濡れた制服が臭い出す。ファブリーズしてくんのん忘れてた。
 制服て、めったにクリーニング出せへんよって、けっこう汚れてる。うかつなことに、冬休みにクリーニング出すのん忘れてた。まあ、三学期は短いよって、ファブリーズで、なんとかしのいでる。
――しかし、よう臭うなあ――
 思たら、うちの前に居てるT高校の生徒の制服からも臭てる。
 まあ、お互い様やと辛抱。

 七時半、学校に着く。

 なんで、こんな早いかというと、明日の芸文祭の朝練。
「お早うございます」
 文字通りの挨拶。南風先生は来てたけど、美咲先輩はまだ。

 まあ、ええわ。この演劇部とも、明日でオサラバや!
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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・2』

2019-07-07 09:05:13 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・2
ゼロからの出発
 
大橋むつお
 
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 

パリー: え……!?
少女: 親父になにか用?
パリー: ……うん。
少女: あいにくだな……早くもどった方がいい、午後の授業が始まっちまう。
パリー: もう間にあわない。
少女: 箒に乗れば、あっと言う間じゃないか。
パリー: ……
少女: 二年生だったら、箒ぐらいスイスイ乗れるだろ?
パリー: ……魔法つかえないの。
少女: え……?
パリー: 急に魔法が使えなくなってしまって……だから先生に相談しようと……
少女: どうして親父に? 親父に習ってんのか?
パリー: 習ってる先生には相談できない。魔法が使えなくなったことがわかったら退学だもの。
少女: それで親父か?
パリー: 学校では誰に聞かれるかわからないから、ここしばらく学校に来ていないイマイチ先生に……
少女: それだけ?
パリー: 入学式の時、ズラッと並んだ先生の中で、イマイチ先生が一番優しそうだったし。わたし、この先生が担任だったらって思ったの……
少女: その日は宝くじの当選発表があった日。五等の一万円であれだけ喜んじまうんだ、人間的には、かなりチンケなおっさんだぞ。
パリー: そんな……
少女: 他の先生も中味は似たりよったり。あんたもいいタイミングじゃん、やめちゃえば学校なんて。
パリー: わたし……
少女: 魔法なんて、社会に出たら何の役にもたたないよ。妙なプライドだけが残って、いいことなんて一つもない。
パリー: …………
少女: 錯覚してんだよ、何十倍という入試をくぐりぬけて入った学校だから、何かとってもいいことがあって、とっても素敵で立派な魔法使いになれるんじゃないかってな。ロクなもんじゃねーよ魔法なんて。空を飛んだり、いろんなものに化けたり、呪いをかけたり。ひところは世界の半分が魔法の国になっちまったけど、二十世紀の終わりにバタバタつぶれて、今はほとんど残ってない。人間というのはやっぱり自分の手足をつかって働くようにできてんだ。魔法なんかやってると、普通にものを見たり聞いたり、考えたりってことがだんだんおっくうになってバカになっちまうんだ。あんた、名前は……パリーだったよな。
パリー: パリー。パリー・ホッタ。
少女: ハリー・ポッター!?
パリー: パリー・ホッタ。
少女: まぎらわしいなあ、パリー・ホッター。
パリー: ううん。ホッターじゃなくてホッタ。
少女: ホッタ……?
パリー: ほんとは、漢字で書くの。お城の堀に田んぼの田と書いて「堀田」 
少女: ……この国の人間じゃないな。
パリー: うん、留学生。東の国からの。
少女: でも。パリーってのは東の国にしちゃあ、めずらしいじゃん。
パリー: わたし、フランスで生まれたの。お父さん外交官だから。
少女: それで、よけい魔法にこだわるんだ。
パリー: ちがう。
少女: あんまり魔法にこだわらない方がいい。しばらく休学して、他の仕事とか趣味とかしてみるのもいいんじゃないか?
パリー: ……やるって決めたことだから。
少女: そういうのは流行らない。
パリー: 悪いけど、わたし、お父さんとお話がしたいの。イマイチ先生と。
少女: イマイチってのは失礼だぞ。
パリー: わたしはちゃんとイマイチ先生って呼んでるじゃない。
少女: イマイチという呼び方には軽蔑の響きがある。
パリー: 上級生の中には、先生を苗字で呼捨てにする人もいるけど、わたしはちゃんとイマイチ先生って……
少女: イマイチというのは名前だ、苗字じゃない。
パリー: え……?
少女: ん? ずっと苗字だと思ってたのか?

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高校ライトノベル・里奈の物語・17『けったい』

2019-07-07 09:00:56 | 小説3
里奈の物語・17『けったい』

 
 
 
 けったいな天気やなあ
 
 店先から空を見上げて伯父さんが呟く。
 雲一つない晴天なのに雨が降っているんだ。
 
 先日仕入れた浮世絵や古文書を虫干ししようと準備したのだけど、たとえ屋内の虫干しとはいえ雨が降ってはまずい。
 伯母さんも半分開いた段ボール箱を持て余して「ほんま、けったいな空や」とこぼしている。
 
 けったいおんな!
 
 急に蘇った……フラッシュバックだ。
 
 いちど蘇ると、虫の羽音がまとわりつくように止まない。
 
 けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんなけったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな けったいおんな……
 
 去年の春、転校生がやってきた。
 岐阜県からやってきたAさん。
 岐阜県は、ざっくりいって関西に含まれるんで、東京弁のわたしほどの違和感はない。
 Aさんは笑顔のいい子で、二日ほどでクラスに溶け込んだ。席が隣りだったので、わたしも友だちになれそうな気になった。
 
 Aさんの言葉は、ほとんど関西弁なんだけど、わずかに方言がある。
 相手の言葉に同意するとき「なら、なら」という。
 大阪あたりだと「せやろ、せやろ」とか「そうやろ、そうやろ」だ。わたしは「でしょ、でしょ」とか「だろ、だろ」だ。
 Aさんの「なら、なら」というのは、ちょっと異質。
 異質なんだけど、明るく可愛い子なので、みんなからは「Aちゃん、おもしろーい」と喜ばれる。本人も「奈良の学校やから、『なら』よ!」とか返して笑っている。
 
 そこまではよかった。
 
 チャーミングなAさんは、クラスの多くの子から好意的に受け入れられ、友だちの少ないわたしも人間関係の輪が広がった。
 
 そんなAさんが「けった!」と叫んでおかしくなった。
 
 なにかの話題で、通学手段の話になったんだ。徒歩! 電車! と続いて「けった!」とAさんは言った。
「けった?」
 視線がAさんに集まる。
「けった、けったよ……あ、自転車のことやで」
 それで、みんなは理解したんだけど、一部の者が囃し立てた。
「けったいなやつ!」とか「けった、けたけた」とか。
 最初は、Aさんいっしょになって笑ってた。だけど、しつこく「けたけたけたけた」「けったちがいの面白さ!」と続くので、Aさんは真顔で言った。
「方言で、人を笑うたらあかんやろ!」
「冗談やんけ」
「なに、マジ切れしとんじゃ」
「きっしょいやつ」
「きしょい言うな! このたーけ!!」
 
 この「たーけ!」が、また分からない。
 
 分からないことが、また笑いを増幅する。
 
 方言で苦労したわたしは「いいかげんにしなさいよ!」とカマシテしまった。
 
 そして、いろいろあって矛先は岐阜弁のAさんよりもわたしに集中するようになった。
 けったから始まったことなんで「けったいおんな」と呼ばれるようになった。
 Aさんは家庭事情からひと月後には転校。矛先が集中したわたしは学校に行けなくなってしまった。
 
 
 いやなことを思い出したので外に出てみる。
 お店の中からは見えなかった西の空に雨雲が湧き出ていた。午後からは本降りの気配。
   
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・51≪国変え物語・12・立ちション国替え・2≫

2019-07-07 06:47:07 | 時かける少女
時かける少女BETA・51
≪国変え物語・12・立ちション国替え・2≫ 


 秀吉は、喧騒と言っていいほどの賑わいを好む男である。

 戦の評定でも、秀吉は居並ぶ大名や武将に勝手に喋らせておく。そうして自分は半分寝ているようにしていながら、きちんと話は耳に入っている。
「某、今言うたこと、もう一度申してみよ!」
 あてられた本人は目を白黒させている。時には周囲から、さんざんバカにされたり、反対されての後であることもあるからだ。
「よう言うた。某のいうこと、もっともじゃ。儂も思いつかんかった。そのようにいたせ!」
 言われた本人は大感激し、その思案の実行に全力を注ぐ。まことに人使いの名人であった。

 その秀吉が、小田原の陣所の一室にこもり、じっと碁盤を見つめている。

「殿下、宜しゅうございますか?」
 部屋の外で女の声がし、秀吉は珍しくうろたえた。
 一つには考えていることが見透かされたような気がしたから。もう一つは、その声が紛れもなく、大坂に居るはずの美奈だったからである。

「美奈、いつのまに小田原にまいった!?」
「夕べ、ふと思い立ちまして。今夜には、また大坂に戻ります。鶴松君のお世話がありますから」
 一晩で大坂から来て、その日のうちにもどるという美奈の言葉を、秀吉は疑いもしなかった。美奈という道頓の手元から引き抜いた、お伽衆とも医師ともつかぬ美奈を、秀吉は、そのまま受け入れていた。役に立つ者であれば、多少の不思議さや胡散臭さは気にしなかった。秀吉自身、この胡散臭さの大親玉でもあるからだ。
「家康様の処遇で案じておられますね」
「分かるか?」
「分からなければ、こうして大坂から参ったりはいたしません。殿下のお腹は、徳川さまの国替え……ただ、切り出し方が、難しい。実直者の三河衆。やり方を間違えれば恨みを買います。そこが殿下の悩みの種……で、ございましょう?」
「さすが、美奈よのう……近こう寄って存念を申せ」

 美奈は、秀吉の三尺手前まで寄った。これが秀吉と二人きりの時の絶妙な距離であることを、双方が知っている。


 小田原城を見下ろす丘の上に、数十の馬蹄の音が轟いた。

 前もって黒鍬の者たちが、草を刈り、地ならしを程よくやっている。美奈に教えられた丘なのだが、秀吉は、自分の見回りのお定まりを偽装した。
「敵ながら、小田原は美しいところでござる。落城も間近。徳川殿と一番の名所を見ておきたいと思い立ちましてな」
「なるほど、ここならば、城が見下ろせるだけではなく、海と、はるか坂東の地が見渡せて絶景でござるな」
 家康は、景色などには無頓着な男ではあるが、この景色には感動した。ただ美しいだけでなく、北条以降の坂東の経営が考えられる。そういう眺望であった。
「坂東が一望でござろう。どうれ、坂東を見下ろしながら、立ちションいたすか。徳川殿もごいっしょに」
「ハハ、豪儀でござるな」

 この戦国末期の二大英雄が、揃って立ちション。当人たち以外の伴の者も、思わず頬が弛んでしまった。

「小田原平定の後、この坂東の地は八か国もろとも徳川殿に進ぜよう」
「え……!?」
 放尿の最中、とっさには言葉が出ない。
「東海は、儂がお預かりする。城は小田原では、西に偏りすぎる。江戸に本城を構えられよ」
 そう言いのけたころには、秀吉の放尿は止まっていた。家康は、まだ続いている。なんとも呑気に国替えが決まってしまった。

 美奈は、そのあたりに検尿の試薬を噴霧しておいた。秀吉は、おのれの企みをこえて検尿検査をやらされたのである……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・58』

2019-07-07 06:38:29 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・58 




『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない7』

 五ヶ月ぶりの南千住図書館。

 高安の図書館にもなじんだけど、ここの図書館は特別だ。
 五歳で越してきてから、十二年間。何百冊の本を借りただろう。休日はたいていこの図書館。たまにお父さんが荒川に紙ヒコ-キを飛ばすのについて行くこともあったけど、まあ、どっちもどっち。あとはガキンチョのころ遊んだスサノオ神社(字が難しくて、いまだに書けません)くらいのもの。
「高安の図書館よりすごいなあ」
 先生も嬉しそうだ。
「じゃあ、行ってきます。お昼までには戻るつもりですけど、十二時まわるようなら、スマホに電話してください」
「はるかの番号知らんで」
 もう、この原始人!
「はい、これです」
 メモに書いて渡すと、いそいそと(我が家)を目指した。


 図書館から四つ角を曲がると(我が家)だ。
 
 角を曲がるたびに懐かしさがこみ上げてくる。
「よう、はるかじゃねえか!?」
 四つ目の角を曲がってすぐ、ご近所の仲鉄工のおじさんが声をかけてきた。
「あいかわらず四人でやってるんですか?」
「ハハ、今は一人で二人分働いて四人前だけどよ。ま、心意気だよ。心意気」
 やっぱ、厳しいんだ……。
「まどかちゃん、元気ですか?」
 つい、幼なじみのことを聞いてしまう。まどかゃんのアドレスは、悩みに悩んで、引っ越しの朝、新幹線の中で消去した。四つ目の角を曲がって、わたしはほとんど南千住の子に戻っていた。
「あ、さっきまでいたんだけどよ、部活とかで出てちまったとこだよ。分かってたら、言っといたのによ」
「ううんいいの、半分出来心で寄っちゃったから」
 半分は残念で、半分ホッとした。ここで幼なじみに会ったら、ここまで突っ張っていたものが一度に崩れてしまう。
「ところではるか、おまえんちだけどよ……」
 そこで、おじさんの肩越しにお父さんの姿が見えた。
「お父さーん!」
「はるか……」
「「「あ……」」」
 三人同時に声をあげていた。

 一瞬、時間が止まったような気がした……?

 それは刹那のことで、次の瞬間にはお父さんに抱きついていた。
 お父さんが、手にした段ボール箱を落とした。

 え……インクの匂いがしない。
 
 輪転機の音がしない。
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