大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・032『クリーン作戦』

2019-07-05 15:48:52 | ノベル
せやさかい・032
『クリーン作戦』 

 

 

 期末試験は三日間で終わり。

 三週間ほどで夏休み。そう思うと授業に身ぃはいらへんやろなあ……夏休みまでは試験あれへんし。

 これは、グータラとかダラダラとかの予感がする。

 そんな気持ちをぶっ飛ばすように、朝からクリーン作戦や!

 

 クリーン作戦とは、全校生がゴミ袋持ってご近所のお掃除をするという勤労奉仕。

 掃除当番仲間の瀬田と田中と留美ちゃんとあたし。田中は転校した田中さんとちごて男子の田中。

 四月ごろは瀬田とつるんで、よう掃除サボっとった。一発カマシテからは模範的とはいかんでも掃除はサボらんようになった。

 一時間かけて学校北側の道路の掃除。いちおうホウキと塵取りは持ってるけど、おもにゴミ拾い。

「ちょ、さくらちゃん」

「え、なに?」

 留美ちゃんの視線を追うと、瀬田と田中がめっちゃ真面目に掃除をやってる。そう、ゴミ拾いちごて、ホウキと塵取りで。

 よう見ると、二人の向こう側には五六人の外人さん。仁徳天皇陵が世界遺産になったんで、堺の街も微妙にインバウンドの増加。観光客の人やろか、ニコニコしながら掃除してる生徒の写真を撮ってる。

 欧米の学校には掃除当番てないんだよ。

 頼子さんが言うてた。

 学校の掃除は人を雇ってしているそうで、その人件費を足すとけっこうな額になる。そやから、生徒自身の手で学校の掃除をやるのは財政的にも教育的にもええ習慣らしい。学校を掃除しても珍しいのが、ご近所の掃除までやってるんやから、これは絶好の被写体になるんや。

「さあ、あの角曲がっておしまいよ!」

 リーダーに指名されてる留美ちゃんが宣言する。

「「「オーー!」」」

 みんなで雄たけびを上げる。

 角を曲がってフリーズしてしまう。

 灰色のアスファルトの上に黒々としたシミが付いてる。

「これは……」

 四人がそろって思い出した。

 きのう、学校の近所で交通事故があった。ほら、頼子さんとお茶してたら救急車の音がした……家でニュース見たら、高校生二人が事故に遭うて、一人は出血多量とかで亡くなったらしい。

 ということは、あのシミは……!?

「掃除しなきゃいけないのかなあ……」

 真面目な留美ちゃんが呟く。

 気持ちは分かる。そばがゴミの収集場所になってて、ゴミ袋がカラスにでもやられたようで、けっこうなゴミが散らばってる。むろん、血だまりは水を流してきれいにされてるんやけど、現場検証とかが終わったあとやったんで黒いしみになって残ってるんや。

「お、オレらがやるわ」

 瀬田が名乗りを上げる。よう見ると、さっきの外人さんらがまだいてる。瀬田はかっこつけたいだけや。付き合うんは堪忍してほしい。

「あ、おまえら、ここの通りはやらんでええ!」

 菅ちゃんが飛んできた。

 どうやら、最初から除外してあったんを菅ちゃんが言い忘れてたみたい。

 しっかりしてください、菅先生。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん⑪』

2019-07-05 06:53:44 | 戯曲
連載戯曲『梅さん⑪』       


: 彼はどうしたの? 本拾ってもらって「じゃ」でおしまい?
: それから帝大に入って、逓信省に二年勤めて、結核で死んじゃった。
: みんな早死に……でも、あたしの聞きたいのは……
: そういう時代。今日は九十九年ぶり……ちっとも変わってなかった、石頭の熱血漢。
 会話なんて、辞書を拾ってさしあげた、ほんの二言三言……だけど、わたしの殿方を見る目に狂いはなかったわ。
 元締めの剪定一本やりのやり方に反対し、これはという人にとりついて、立ち直らせる運動を進めている。
: ……やさしい人なんだね。
: 違うよ。人にとりついて立ち直らせるなんて、手間と時間ばかりかかって、成功率は二割もないんだよ。
: わかんない……
: 平四郎さん、生きてる人間のことは生きてる人間にまかせろって主義。
 戦争が起ころうと災害が起ころうと、生きてる人間にまかせ、これはと思う少数の人間にとりついて矯正……
 厳しく鍛え直すって意味ね。そうして鍛え直した人間の手で、世の中を良くしようって、
 まあ、遠回りで間接的なやり方……ある面、人間を突き放した愛情ね。
 だから数的には元締めの剪定方式にはかなわない。
: ……むずいよ。
: あけすけに言うと、筋向かいの池田君なんか、そのまま生かしといて、事故はおこさせない。
: それって……
: ね、優しさとか、愛情とか……とってもむづかしいことなんだ、人に対しても、世の中に対しても。
 平四郎さんの目を見ていると、渚のことにかぎっては、任せても良いような気になった……
 渚、平四郎さんは間接的に関わってくれるだけだからね。
 ぼんやり生きてると、子供を死なせて、自殺の巻き添えで大勢の人を死なせることになるからね……
: うん。
:  拙いけれど進一君への愛情は本物になるかもしれない……
 そのへんに賭けて、信じるわ、しっかり生きていきなさい。じゃあ……
: 梅さん……あの……おでんの作り方を……
: おでんのレシピは……
: 待って、書きとめるから……もう少しいっしょにいて。
: 大丈夫。サービスで頭の中にインプットしといたから、次から同じ味が出せるよ。
: 梅さん……
: うん……
: あの……(無理に話題をさぐる)あたしの渚って名前、源七じいちゃんがつけてくれたの。
  海と陸との境目をとりもち、人の心を和ませてくれる伊豆の浜辺の渚にちなんで……
:  ああ、それ……ふくさんと相談して、二十年前源七の耳元でささやいてやったの。
  源七自身、なんとか渚とかのファンだったから、ひっかけやすかった。
: ……梅さんがふくさんといっしょにつけてくれたんだ!
: それも源七の孫への愛情があって、はじめてできることなんだよ。
: うん、うん、大切にするね……
: そうしてちょうだい。
: 梅さん……
: 言っとくけど……わたしのことはすぐに忘れちゃうからね。
: ううん、忘れないよ!
: 無理だよ、夢といっしょだからすぐに忘れちゃう……
 でも、梅ってひいひい婆ちゃんいたことぐらい、心の片隅に残っていると嬉しいよ。
: 忘れないよ……きっと!
: あ、美智子さんが帰ってくる。ほら、もう玄関の方に……(渚、一瞬玄関に目をやる。そのすきに、梅消える)
: ただいまあ……あら、貸衣裳屋さんはもう帰ったんだね……うまく着付けてもらったじゃない。
 ね、母さんの選択はまちがってなかったね。やっぱり女学生はこうでなくっちゃ……せめて、最後ぐらいはね……
 あら、いい匂い、おでんつくっといてくれたの、たすかったわ……
 (台所へ、声)うわーおいしそう……(ハンペンをつまみ喰いしながら出てくる)
 あんた、お料理うまくなったわね、このハンペンのおいしいこと……どうしたのボンヤリして?
: え……あ、ああ……誰かと話してたような気がするんだけど……
: 変な子。そうだ、渚も帰ってきたことだし、お父さんも今日は定時だって言ってたから一本つけようよ。
 その姿とじいちゃんの梅を肴にさ! あ……お酒きれてるんだ。
: あ、あたし買ってくる。
: え、そのかっこうで?
: いいじゃん、すぐ近所だし。渚の御町内デビューってことで……ワインもいっしょに買っとくね。
 あ、その梅あたしんだからね、さわっちゃやだよ。じゃあ……だめだってさわっちゃ!(奪いとる)
: え、だって嫌がってたじゃない……
: 今は気にいってんの。名前までつけたんだからね。
: 梅に名前を?
: うん、梅さんていうの。
: ハハハ、まんまじゃない。
: ……ほんと、まんまだ。
: 思いつきでしょ、あたしが梅に構うもんだから?
: ち、ちがうよ……(と言いながら、自分でも不思議な感じがする)

   この時、かすかな爆音に、母、空に顔を向ける

: あ、飛行船! ニュースでやってたやつだ……
: ほんとだ、伊豆じゃじいちゃんしか気がつかなかったんだ……
: どうせ おしゃべりに夢中になってたんでしょ?
: あったりィ、朝シャンと朝風呂しながらね。
: 胴体に梅の模様が散らしてある。粋だねえ……
: 飛行船も、梅さんだ……
: (思いのほか、飛行船に見とれている娘を気づかい)買い物、あたしが行ってこようか?
: 待って、あの飛行船を見送ったら……いっしょに行こう……久しぶりに二人でさ……
: え、そうかい(チラと娘の横顔を見て、すぐに空に目をもどす)……そうだね、いっしょに行こうか……誰かさんの風むきが変わらないうちにね……

 梅の鉢を手に、飛行船をなごやかに見送る二人。
 なごやかなエンディングテーマ、飛行船の爆音とクロスしつつフェードアップして幕


 
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・16〔明日香のナイショ話〕

2019-07-05 06:44:07 | 小説・2
高安女子高生物語・16
〔明日香のナイショ話〕       


 ここに書いたらナイショにならへん。

 そう思てる人は、大阪人の感覚が分からん人です。
 うそうそ、最後には分かる仕掛けになってるさかいに、最後まで読んでください。

 実は、演劇部辞めよか思い始めてます。

 一週間先には、芸文祭。ドコモ文化ホールいう400人も入る本格的なホール。難波から駅二つ。NN駅で降りて徒歩30秒。ごっつい条件はええんです。
 せやけど、観にくるお客さんが、ごっつい少ない……らしい。
 うちは一年やさかい去年のことは、よう分からへん。
「まあ、80人も入ったら御の字やろなあ」
 今日の稽古の休憩中に美咲先輩が他人事みたいに言う。
「そんなに少ないんですか!?」
「そうや。コンクールかて、そうや。予選ショボかったやろ」
「せやけど、本選はけっこう入ってたやないですか」
「さくら、あんた大阪になんぼ演劇部ある思てんのん?」
「連盟の加盟校は111校です……たしか」
「大阪て270から高校あんねんで。コンクールの参加校は80ちょっと。1/3もあらへん。本選も箕面なんちゅう遠いとこでやるさかい、ようよう客席半分いうとこや」
「うそ、もっと入ってたでしょ?」
「観客席いうのは、半分も入ったら一杯に見えるもんやねん。うちのお父ちゃん役者やさかい、そのへんの感覚は、あたしも鋭い」

 美咲先輩のお父さんが役者さんやいうのは、初めて聞いた。びっくりしたけど、顔には出さへんようにした。

 それから、美咲先輩は、いろいろ言うたけど、要は、三年になったら演劇部辞めるつもりらしい。
 それで分かった。元々冷めてるんや。盲腸かて、すぐ治るのん分かってて、うちにお鉢回してきたんや。
 馬場先輩に言われた「あこがれ」が稽古場の空気清浄機に吸われて消えてしまいそう。
「今は、目の前の芝居やることだけです!」
 そない言うて、まだ休憩時間やけど、一人で稽古始めた。
「えらい、熱入ってきたやんか!」
「午後の稽古で、化けそうやなあ」
 南風先生も小山内先生も誉めてくれた。一人美咲先輩には見透かされてるような気ぃがした。

――明るさは滅びの徴であろうか、人も家も暗いうちは滅びはせぬ――

 太宰治の名文が頭をよぎった。親が作家やと、いらんこと覚えてしまう。
 三年の先輩らは、気楽そうに道具の用意してる。うちは情熱ありげに一人稽古。
 このままいったら、四月には演劇部は、うち一人でやっていかならあかん。それが怖い。
 あたしは芝居は好きや。せやから、こないだスターの坂東はるかさんに会うてもドキドキウキウキやった。馬場先輩にも「アスカには憧れの輝きが目にある」言われた。
 せやけど、ドラマやラノベみたいなわけにはいかへん。
 新入生勧誘して、クラブのテンション一人で上げて、秋のコンクールまで持っていかなあかん。

 正直、そこまでのモチベーションはあらへん。

 それにしても、忌々しい美咲先輩。こんな時に言わんでもええやん!
 このナイショ話は、芸文祭が終わったら、頭に「ド」が付く。分かりました?

 アスカのドナイショ物語の始まりですわ……。

※ ドナイショは、標準語では「どうしよう」と言う意味です。 明日香
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高校ライトノベル・里奈の物語・15『挑戦的引きこもり・3』

2019-07-05 06:34:06 | 小説3
里奈の物語・15『挑戦的引きこもり・3』


 
 里奈の直観は当たってる

 天守閣を背にして拓馬が言う。
「いくら元気そうにしてても、不登校やら引きこもりはニオイがすんねんやろなあ」
「それは……平日の昼間に家にいて、ジャージ姿で……その、病気そうにも見えないから……消去法で……そう思っちゃう」
 ニオイなんてベタベタした言い方が嫌になったので、見え透いた一般論に逃げる。ニオイがすると言ったのはあたしなのに。
 言った尻から自己嫌悪、かけた言葉の尻尾が、我ながら不機嫌。
 その矛盾も不機嫌も気にしないで、拓馬は続ける。
「せっかくの引きこもりやから、挑戦的にいろいろやらなら損やと思う。思わへんか?」
「……挑戦的引きこもり?」
「お、そのフレーズええなあ。里奈、言葉の感覚ええで!」
 あまりの明るさに横を向く。拓馬の顔が真正面に!

 一昨日の事故は、とっさのことだったけど、昨日の実況見分と合わせて三日連続の至近距離。

「あ、あたし帰る」

 病気が出る。
 
 心のキャパを超えて対応できなくなると、人でも物事でも張り倒すような勢いで逃げてしまう。
 追いかけてこられたら、本当に張り倒してしまいそう……分かっているのか、拓馬は追いかけてこない。

 ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ……。

 鼓動に合わせて四文字のカタカナがループする。

「ア!!」

 声が出て天地がひっくり返る、足が何かに引っかかって地面に激突!……その寸前に抱き留められる。
「危ないなあ……」
 あたしの身体の下になって、拓馬がノンビリと言う。
「な……なんで!?」
「帰りは北の方からや」
 発症した病気が引っ込んでしまった。
 拓馬は一メートルほど距離を置いて駅までエスコートしてくれた。それまでのお喋りは止めて、要所要所の曲がり角だけナビみたく言う。
「山里丸……極楽橋……青屋門……大阪城ホール……あれがJRの駅」
「なんで、いちいちナビするの?」
「今度来た時、迷わんように」
「もう来ないかも」
「かも……やろ? 来るかもしれへん。うん、里奈はちょっと足弱ってるみたいやし、大阪城くらい来て練習したほうがええで」
「弱ってないし」
「ハハ、今さっきもこけたとこやんか」
「たまたまだし」
「里奈かて歩こうと思うてんねんやろ?」
「思ってないし」
「そやかて、ハイカットスニーカー、おニューやろ?」
「こ、これは……拓馬はなんで引きこもりになっちゃったのよ!?」
 悔し紛れにタブーを聞く。自分が聞かれても答えられないことを聞くのは反則。まして引きこもってる奴に聞くのはタブーだ。
「知りたかったら、また付き合ってよ。話すと長いから」

 鶴橋で降りて伯父さんちまで歩く。運動不足は自覚している。

「あれ……まだ閉店大売出しやってんだ」

 ハイカットスニーカーの故郷は元気に売りまくっていた。店員さんたちの明るい呼び声が痛々しい。

――明るさは滅びのしるしであろうか――

 太宰治の一節が蘇った……。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・49≪国変え物語・10・五右衛門オネエになる!?≫

2019-07-05 06:24:49 | 時かける少女
時かける少女BETA・49 
≪国変え物語・10・五右衛門オネエになる!?≫


 また女の子のかっこうしてるの!?

 大坂城の美奈の医師としての控室に現れた奥女中が五右衛門であることは、直ぐに分かった。
「つまんねえな。こんなに簡単に見破られちゃ」
 言葉遣いは伝法であったが、所作や表情は若い奥女中そのものであった。
「どうして、娘のなりばかりしてんの?」
 城中は病人も少ないので、持て余した時間つぶしに、五右衛門をもってこいだと思った。
「第一に、美奈に近づくのは、これが一番いい」
「どうして?」
「美奈は分かってねえだろうが、お前は、かなりイケた女だ。男のナリで近づいては皆が警戒する。第二に女子のナリは気持ちがいい」
「この変態!」
「怒るな怒るな。オレも美奈ほどじゃねえが、人の心が読める。もっぱら、所作や表情から読み取るんだがな。男のナリでは読めないものが読める。諜報だ。それに一つ発見した」
「なにを?」
 そう言いながら麦焦がし(麦茶)を入れてやった。
「男と言うのは、袴や股引を穿いている。脚の内側が直接擦れあうことがない。ところが女子は内股が絶えず触れ合っている」
「それが何か?」
「自分というものの感じようが違う。自分を愛おしく思う。これは新発見だ。ここから人に対しても肌の感覚で人を見るようになる……女子の直観の優れたところだ!」
「なるほど」

 そういいながら、五右衛門にはオネエの才能と好みがあると確信した。嫌悪感と仲間意識が同時に感じられ、おかしくなった。

「なにかおかしいか?」

「いいえ、去年は九州の平定が終わり、あとは坂東の小田原……でも、それは今年はないでしょう。戦が無いのは良いことです」
「海の方じゃやってる。秀吉が朝鮮に頼まれて倭寇の取り締まりにかかった。五島や対馬の船乗りは、これに忙しい」
「え、五島や対馬って言えば、倭寇の本拠地じゃない」
「そりゃ、誤解だ。倭寇の八割は、朝鮮や明国の偽物だ。日本の倭寇は元来は商人だ。相手が無法な時に多少手荒くなる。倭寇征伐は長い目で見れば、商いを盛んにして、双方の国も仲良くなれる。結構なことだ」
 多少同業者への身びいきがあるだろうが、五右衛門の感想は合っていると思う美奈だった。
「倭寇の大糞ってのを知ってるかい?」
「フフ、ううん」
「倭寇ってのは、仲間の糞を集めて太い竹に入れて、並の十倍はあろうかという大糞を港なんかに残していくんだ。明や朝鮮の連中は、最初は大蛇がとぐろを巻いているのかと、寄って見ると……」

 美奈は五右衛門といっしょに大笑いした。

「来年は、坂東の北条と大戦になる……でも、今の秀吉を見ていると、あまり人死にが出ない戦に思える」
「五右衛門さんだから、教えてあげる。この夏には秀吉さんに子供が生まれるわ」
「ほんとか!?」
「男の子。知っているのは、淀君と老女だけ。秀吉さんも知らないわ。五右衛門さんに言えば、広めてくれそうだから」
「広める広める。いい噂は広がったほうがいい!」

 それだけ言うと、五右衛門はあっさりと部屋を出て行った。廊下を曲がったところで五右衛門が慌てる気配がした。
「効いてきた……」
 美奈は、麦焦がしに下剤を混ぜておいた。オネエになった五右衛門の話は長くなりそうな気配がしたから……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・56』

2019-07-05 06:13:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・56 




『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない5』  

 東側に席をとったのは失敗だった。

 お日さまの光がまともに入ってきて、窓ぎわに晒したした二の腕が、チリチリと音をたてて焼けていくような気さえする。
 ブラインドを閉めりゃいいんだけど、わたしは新幹線の二百七十キロのスピードで、この四ヶ月に近い時間をを巻き戻している。
 玉串川沿いの八幡さまにお賽銭に託して捨ててきたはずの東京のはるかを、たぐり寄せ、巻き戻していた。
 捨てた東京での十七年間の人生の重さを感じたのは、新大阪の駅を車両がスーって感じで動き出したとき。わたしの身体からホンワカもスーっと消えていった。
 基礎練習でやった「悲しみのメソード」に似ていた。
上顎洞の中の液体が急速に冷えていき、喉、胸、お腹、脚を伝って床に流れ出していく。思わず、前の席のステップに足を乗せるくらいのショックだった。
 そして気がついた。東京のはるかを巻き戻さないと、とてもお父さんには会えない。東京のホンワカはるかに戻らなければ。
 これほどの違いがあるとは考えもしなかった。
 怖かった、だれか側に付いていて欲しい……。

 そのだれかの視線を感じたのは、怖さが限界に達しかけていた浜松あたり。

「はるか……か?」
「あ、先生……!?」
 なんと……大橋先生が通路に立っていた。

「「なんで?」」

 互いに説明し終えたのは静岡のあたりだった。
 先生は、わたしのタクラミを。わたしは先生が東京と横浜の出版社に行く途中であることを理解した。
 先生はトイレに行って、席に戻る途中でわたしを見つけたそうだ。
 最初はタキさんのタクラミかと思った。
 だって、同じ日、同じ時間の新幹線。そして同じ車両だなんて。
 でも、最初から知っていたら、もっと早めに声をかけていただろうし、ズボンのチャックを閉め忘れることなんて、なかったと思う。
「先生、チャックが……」
 と、言ったときの慌てようは、演技ならアカデミー賞もの。あわてて前を隠した手には男性向け週刊誌。セミヌードのオネエサンが、わたしにウィンクしていらっしゃいました……。

 先生には冷静に話すことができた。

 三回目だっていうこともあったし、玉串川からこっち見透かされていたようなこともあった。
 そして、なにより、わたしの方がしゃべりたかった。タクラミへの自信が揺らぎに揺らいでいたから。
「さっきの顔は、玉串川の倍は深刻やったで。最初はよう似た別人やと思た」
「今は、もう大丈夫でしょ?」
「……最初にプレゼンで会うたときの顔やなあ」
「またスポットライト当てます?」
「いいや、ピンフォローする」
「え……ピンスポットがずっと付いてくるやつですか!?」

 というわけで、急きょ出版社の用事を後回しにした先生に荒川までピンフォローされることになった。

 我が人生の最大のやぶ蛇だ……。
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