大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・047『魔法少女におちょくられて原宿』

2019-07-20 13:54:01 | 小説
魔法少女マヂカ・047  
 
『魔法少女におちょくられて原宿』語り手:安部晴美  

 

 

 あれから二度出撃した。

 と言っても、まだまだ訓練の範疇だけど。

 東京タワーとレインボーブリッジの橋脚だ。わたしがライオン、マヂカが亀、ブリンダがアリゲーター、それぞれのオブジェに跨って、目標の周りを飛行する。それだけで、蟠っていた霊魔の幼体はボロボロと墜ちていく。

 これなら簡単だ。二人の魔法少女を霊魔が集中しているところへ誘導してやるだけでかたが付く。

「これなら毎日だって楽勝だね」

 明治神宮上空の霊魔をやっつけて、原宿でクレープを奢ってやる。なんだか、部活帰りのノリだ。

「あれは羽化して間もない幼体だからだ。もう少し成長すると、魔法を使わなければ退治できなくなる」

「そうなのか?」

「ああ、オレもマヂカも第二次大戦で経験済みだからな」

「あんたたち、歳はいくつなの?」

「「十七歳!」」

 きっぱりと声がそろう。

「だって、第二次大戦を戦ったってゆったろ?」

「それは前世みたいなものだ。十七歳でなきゃ、歩きクレープなんてしないよ」

「歩きながら食べると、美味しさ百倍よ」

「阿部ちゃんも、やればいいのに」

 いつの間にか、ブリンダも阿部ちゃん呼ばわりだ。

「いいのよ、わたしは」

「フフフ、歩きクレープが恥ずかしい年ごろ?」

「ち、ちがうわよ!」

「むきになってえ」

「「かっわいい~!」

「か、かわいいとか言うな!」

「「アハハハ」」

「それに、こんな混雑してるとこで、クレープとか食べてたら、ひとに付いちゃったりするでしょーが!」

 店によっては——混雑時の食べ歩きにはご注意ください——と張り紙をしているところもある。

「あーーたしかに」

「魔法少女は、そういうミスはしないもんだ」

「どっか、静かなとこ行こうか」

「神宮外苑とか?」

 原宿近くの静かなところと言えば神宮外苑だ。

 

「うわあ、こんなところがあったんだ!」

 

 それは神宮外苑よりも近かった。竹下通りを一本入ったところが森のようになっていて、鳥居が立っている。鳥居の横には『東郷神社』の石柱がそびえている。

「東郷神社?」

 原宿には何度も来ているが、東郷神社は初めてだ。

「ここは、池田侯爵の屋敷があったんだけどね、昭和十五年に神社ができたの」

「海軍大臣に働きかけたのマヂカだろ、アメリカでも評判だったぞ」

「戦後の再建をニミッツに勧めたのブリンダでしょーが」

「あんたたち、やっぱ、十七歳じゃないわよ(;'∀')」

「そういうとこに拘ったら、しわが増えるぞ、安倍ちゃ~ん」

 どうも、この二人は勘が狂う。

「あ、コイがいっぱい!」

「え、恋!?」

 注目した先には様子のいいアベックが居た!

「アベックの下」

 あ、なるほど、アベックは橋の上をゆっくり歩いていて、その橋の下は雰囲気のいい池になっている。先に行ったブリンダがおいでおいでをしている。

「鯉にエサをあげられるよ!」

「安倍ちゃん、やってみよ!」

「安倍ちゃん言うな!」

 自販機で鯉のエサを買って、童心に帰ってエサやりに興じる。興じながらも、視界に入るアベックが気になる。

「境内に結婚式場があるからねえ」

「あ、あ、そーなんだ(;^_^A」

「ちょっと目の毒だったりするぅ?」

「ん、んなことないわよ」

「アハハ、安部ちゃんかっわいい~」

「お、おちょくんじゃない」

 エサ袋を手に、足元の水面で口をパクパクする数百匹のコイに意識を集中する。

 すると……池の底からコイではない禍々しい気配を感じた……。

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・31〔今日は卒業式や〕

2019-07-20 06:19:45 | 小説・2

高安女子高生物語・31
〔今日は卒業式や〕       


 正式に言うと卒業証書授与式

 卒業式の方がしっくりくるし、正式名称なんか看板と、開会式の時の開会宣言のときぐらいで、先生も生徒も、ごく普通に「卒業式」とよんでる。
 入学式は、ただの入学式や。バランスからは、やっぱり「卒業式」の方がぴったりくる。

 なんで、こんなしょーもないことにこだわってるかというと。うちら一年は式に出られへんから。
 うちは馬場先輩から絵ぇもらうんで、礼儀上式の間は学校に居てならあかんから。で、担任の毒島先生に式次第もろて、そのタイトル見て疑問に思たわけ。

 調べてみると、文科省では卒業式になってる。まあ、細かいことなんで、どない呼ぶかは、学校やら教育委員会任せらしい。

 ことは、明治の昔に遡る。

 当時は、小学校は年齢関係なく、試験(筆記と口述)の結果によって進級が決まるシステムやった。新しい時代になり、優れた人材を育てることが、日本を成長させると考えられたから。そんな中、子どもをがんばらせるために、試験は保護者や一般の人たちに公開されてた。
 ただ、試験を見てても一般の人には優劣がわからへん。そこで「誰がよくできる子なのか」が最もわかりやすい方法として、及第点を取って進級した子へ、試験後に証書の授与が行われるようになった。当時は進級が「卒業」と呼ばれてたから、これこそが卒業証書の授与やったってわけ(以上、お父さんから聞いた内容)

 おもしろいなあと思た。

 古い日本のことはなんでも否定しにかかってる先生らが、こともあろうに明治時代の否定すべき名称を平気で使うてる。
 それやったら、君が代やら日の丸やら仰げば尊しやらを否定してるのと矛盾する。そない思わへん?

 寒かったら、どないしょうかと思たけど、今日は三月中旬なみの暖かさ。式場の外で待ってても、そない気にはなれへんかった。

 気になったんは、先生ら。

 三年と二年の担任は生徒が式場に入ってるんで、自分らも式場に入ってる。

 わけ分からへんのは、それ以外の先生。

 誘導やら受付は分かるけども、何するでもなく、校内やら、どないかすると職員室でブラブラしてる先生が居てること。
「そういう先生ら、シャメ撮ってみい。きっとおもろい反応しよるで」
 で、式が始まってから、そういう先生らをシャメってみた。

 おもしろかった!

 式が始まるまでは、ニコニコ写ってた先生らが、式始まると、スマホ向けると顔を背けよる。
 うちは、やっとピンときた。この先生らは、式場で君が代歌うのがイヤやねんわ。
 最近は、府教委から参列したエライサンが、先生らの口元までチェックしてるらしい。なんやケチクサイ話やけど、君が代歌わんために、式場の外ブラブラしてる先生らもおかしい。
 ヒマやから、組合の分会長やってるA先生に聞いてみたった。
「なんで、卒業証書授与式ていうか知ってますか?」

「え……」

 完全に虚を突かれた顔になる。
 で、うちは、その由来を説明して、反応を見る。

「これて、明治絶対主義の残滓やと思うんですけど。なんで日の丸、君が代みたいに反対せえへんのですか?」
「そ、それはやな……」
「組合の上の方から言うてけえへんからですよね。民主集中制とかいうんですか」
「そ、そんなことは……」
「それて、戦時中に上の言いなりになってた教師と同じとちゃいますノン……なんちゃって」
 と、ニコニコ顔で、さらにシャメを撮る。
「佐藤、まさか、そのシャメ、ブログに使たりせえへんやろな!?」
「それは、うちの表現の自由です」

 そうやって、先生をおちょくってるうちに式が終わった。

「ほい、約束の絵だ。十年もしたら、すごい値段が付くかもしれないぜ」

 馬場先輩は、お茶目な顔で、大きな袋に入った肖像画を渡してくれた。
「ありがとうございます。うちの一生の宝物にしますよって……これ、ささやかやけど、お礼と、卒業のお祝いです」
 うちは、用意してた花束を渡した。
「いやあ、礼を言うのはオレの方だよ。いい勉強させてもらった」

 予感がしたんで、家に帰ってから、OGH卒業式で検索したら……やっぱりあった。

――麗しい卒業のお祝い。二人はラブラブ――
 キャプションが付きで写真が載ってた。
――第二ボタンをもらうような関係では、ありません。第一に肖像権の侵害や!――
 と、コメントを付けといた。

 描かれた馬場さんの絵を部屋に飾る……ため息一つついて何にも言えへん明日香でした。

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高校ライトノベル・里奈の物語・30『猫の恩返し・1』

2019-07-20 06:10:15 | 小説3

里奈の物語・30
『猫の恩返し・1』
 
 
 

 今里に来て身に付く垢が増えた。

 垢が増えたと言っても、お風呂に入らないわけじゃないよ。
 いつの間にか増えた身の回りのモノや人間関係。

 机の上には「はてなの鉄瓶」「パソコンの桃子」「拓馬が持ってきたエロゲ」「春画のパンフ」「美姫が貸してくれた脚本」などが並んでいる。机の下にはピンクのハイカットスニーカー。
 知り合い以上になった人たち……年中閉店セール「ボストン靴店」のおじさん、引きこもり仲間の拓馬、K高演劇部の安藤美姫。

 一か月ちょっとで、これだけ増えた。

 これらを、なんで垢と呼ぶか?
 

 垢というのは、普通に生活していれば、自然に身に付くものだ。度を越したお風呂は体に悪い……知ってた?
 乾燥肌になって肌がカサカサになる、体温を保持する力が弱ってしまう、病気にかかりやすくなるとかの弊害があるんだって。
 度を越した除菌も常在菌まで殺してしまって抵抗力のない体にしてしまう。
 知ってた? 海外旅行に行って一番さきに体調を崩すのは日本人なんだって。
 衛生に気をつけすぎて抵抗力がないからなんだってさ。

 だから、人間は程よい垢が付いていなきゃいけない。

 むろん垢の付きすぎは良くない。

 この三年ほどで、あたしには耐えがたい垢が付いた。
 腹違いの弟の出現、親の離婚、学校でのあれこれ、友だちの裏切り……などなど。
 そういう垢のために死にそうになった。大げさな例えじゃなく、本当に死にそうだった。
 だから身の皮一枚を剥ぎ取るようにして今里に来たんだ。

 中国の団体さんがハケたあと、お店はガランとした。

「今日は、もういいわよ」

 おばさんに言われたけど、特に当てもないのでカウンター横の丸椅子に座っていた。
 オフになったので、頭はアイドリングに、目は節穴になっていく。
 ボンヤリ表通りに節穴になった目を向けていると、フト視界を横切るものがあった。

―― 猫だ! ――

 銀色の猫がラッピングした小箱を咥えて、店の前を横切った。
 一瞬だったけど、銀色の毛並み、咥えた小箱、そしてなによりも気品のあるプロポーションと走りかた。
 

 気が付いたら、お店を飛び出して猫を追いかけている。
 

 猫は、二つ向こうの赤信号で止まっていた。どうやら信号が分かるらしい。
「待って!」と声を掛けたかったけど、恥ずかしくってできない。

 お魚咥えたドラ猫、追っかけて~♪ サザエさんの一節が浮かぶ。

 でも、あたしはサザエさんみたくピュアじゃない。
 猫もドラ猫なんかじゃなくって銀色、口に咥えているのはお魚じゃなくて小箱。

 これって「猫の恩返し」?

 あたしの垢が、また増えそうな予感がした。

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高校ライトノベル・須之内写真館・3【杏奈の告白・1】

2019-07-20 06:01:55 | 小説4

須之内写真館・3
【杏奈の告白・1】        


「花園さん……」直美は杏奈を苗字で声をかけた。

 杏奈はビックリして、斜め後ろを見た。
「前向いたままでいいわ」
 斜め後ろに回った直美を一瞬見たが、直美の言葉に従い前を向いて、ティッシュを配り始めた。
「今夜、何時でもいい。うちの写真館に来て」
 それだけ言うと、直美は、暮れなずむ渋谷の空と人々の喧噪のコントラストを何枚か撮って家路についた。

「らしくない、名前ね……」

 そう呟きながら直美はティッシュにプリントされていたガールズバー『ボヘミアン』を検索した。
――落ち着いた雰囲気の中で、ひとときのボヘミアンになってみませんか――
 ガールズバーらしくないキャッチコピー、店内も東ヨーロッパの田舎のパブを連想させるような作りになっており、バーテンの女の子たちはハーフと思われるような笑顔で並んでいた。
 一人一人、拡大してみたが杏奈と思われるような子はいなかった。
「ティッシュ配ってるだけ……?」
 直美には、杏奈の店でのポジションがよく分からなかった。
 裏サイトも見てみた。この店に限っては、お持ち帰りなどの風俗に流れているような情報は無かった。

 珍しく、オーナーの写真が載っていた。

 松岡秀一……ひいき目に見ても、普通の顔で、港区あたりの大企業に間違って入社し、若くして定年まで平社員の地位を不動にしたアンチャンのように見えた。
「こりゃ、松岡秀のセガレじゃねえか」
 いつのまにか、後ろに来たジイチャンが言った。
「松岡秀?」
「ああ、秀の父親。この秀一てやつのジイサンだが、戦後、政界の裏で、いろいろあったやつさ。たしか嫁さんはアメリカ人だから、この秀一はクォーターだと思う」
 そう言われれば、目鼻立ちにそれらしい感じがしないでもない。
「ああ……だから、港区の大企業想像しちゃったんだ」
「まだ、寝ないのか?」
「うん、人が来るの待ってるの」
「寝不足は目のレンズを曇らせちまうからな、適当なところでな……」
「うん」
「じゃ、お先……」
 ジイチャンが背中で言って奥にひっこんだ。

 それから、十分ほどして、店の戸が静かに開いた。

「あ、あなたは……」
 杏奈が、オーナーの松岡といっしょに入ってきた。杏奈はU高の制服を着ていた。
「どうも、ご迷惑をおかけしました」
 バリトンのいい声で松岡が口を開いた。
「あの写真のミステリーは、わたしなんです」
 二言目で、直美は混乱した。

「杏奈は、修学旅行の旅費を稼ぐために、うちでバイトしていたんです」
 ほうじ茶をおいしそうに飲みながら松岡が続けた。
「チェコ……どうしても行きたかったんです。プラハは母の古里だし」
 杏奈は、ほうじ茶の湯飲みで手と心を温めるようにしながら言った。

 話の中身は驚くものばかりだった。

 あの写真は、松岡の合成写真だった。
 
 夕方になると、松岡の娘に杏奈の制服を着せ、写真を合成したものと張り替えていた。写真には、特殊な加工がされていて、照明が蛍光灯だけになると、杏奈の姿が浮かび上がるしかけになっている。
 印画紙は、あらかじめ下調べをして、直美の写真館と同じものを使用。感度のいいカメラで写真を写したので、チョット目には直美でも分からない。

「でも、なんで、こんな事を……」
「杏奈をU高校に戻してやりたいんです」

 それから、松岡と杏奈の話は、もっと驚きに満ちたものになっていった……。
 

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・71』

2019-07-20 05:52:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・71



『第七章 ヘビーローテーション 9』

 しかし、わたしのカオルと、タマちゃん先輩のスミレの絡みは難産だった。
 
 最初は、通じた喜び(利用できる人間として)。 スミレは、ただ薄気味悪く嫌っている。それが互いの違いに気づき、関心を持ち、価値観の違いからケンカをしたり、おもしろく思ったり、そして友情が生まれ、お別れの時がやってくる。その別れの痛みと切なさ……。
 字で書くと簡単そうなんですけどねぇ……。


 その翌週の木曜に、秀美さんは病院に来た。

 正確には、来ていた。
 九月に入り、短縮授業。部活の無い日だったので、学校から直行したんだけど、秀美さんの方が先に来ていたのだ。
「お父さん……」
 ノックもせずに病室に入った。

 ほんの一瞬、フリ-ズした……三人とも。

 秀美さんは、ベッドの脇に腰掛けて、お父さんと話していた。
 仕事の話らしいことは、その場の空気でわかった。
 ただ、距離の取り方が、二人の心の近さとして、チクッとした痛みをともなって、わたしには感じられた。

 距離には人間関係が反映される。かねがね大橋先生から言われていることだ。
 物理的距離が心理的距離を超えると、人は落ち着かなくなる。
 
「新しい商品、はるかちゃんも見てくれる」

 わたしがホンワカ顔をつくろう前に、秀美さんに先を越された。
「うわー、かわいい!」
 女子高生の常套句しか出てこなかった。
 しかし、その商品見本たちは、ほんとうにイイ線いってた。
 シュシュ(ポニーテールみたく髪をまとめるときの飾りみたいなの)のシリーズだ。
「次の春ものにね、ちょっとチャレンジしてみようと思って」
 水玉、花柄、ハート、チェック柄、といろいろ。
「今の子って、はるかちゃんみたいにセミロングとかが多いじゃない。それって、表情隠れちゃうのよね。あ、悪いってことじゃないのよ。時にはオープンマインドなイメチェンしてもいいんじゃないかって、そういうネライ」
「わたしも、ヒッツメにすることもあるんですよ。稽古のある日はお下げにしてますし」
「そうなんだ。でもさ、そういうのをさ、もっとポジティブにさ……」

 あっという間にポニーテールにされた。

 シュシュは群青に紙ヒコーキのチェック柄。
「お、いけてるじゃないか。実際身につけてもらうとよく分かるなあ」
「このシュシュ……」
「そう、あのポロシャツがヒント。商標登録されてないの確認できたから作ってみたの。そうだ、はるかちゃんモニターになってくれないかなあ」

 というわけで、二十個ほどのシュシュをもらった。もちろんモニターとして。

 ポニーテールというと、あの二人だ……。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・2』

2019-07-20 05:43:28 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)

大橋むつお

 

 

時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

赤ずきん: で、そのかぐやさんになんの用?
マッチ: ようす見にいこうかな……とか思ってえ。
赤ずきん: ……ようすか。
マッチ: わたしも、どっちかっていうと、不登校になりやすい方でしょ。だから人ごとと思えなくて……
赤ずきん: ……一人では行く勇気がない?
マッチ: うん。ついてきてくれないかなあ……赤ずきんちゃんだったら、オオカミさんのいる森でも平気で行けちゃったりするでしょ。メルヘン界一番のかくれマッチョだもん。
赤ずきん: わたしは和田アキ子か!?
マッチ: ……で、ついてきてくれないかな? 手作りケーキとかも持ってきたんだ。
赤ずきん: あたしは食わないぞ。
マッチ: ええ!? 赤ずきんちゃんにも食べてもらおうと思って、赤いイチゴクリームいっぱい使ってつくったのに……
赤ずきん: 泣くな! ちょっとだけなら食ってやるからさ。
マッチ: ありがとう、やっぱり赤ずきんちゃんだ。根は優しいんだよね。やっぱり赤ずきんちゃんにお願いしてよかった。赤ずきんちゃんだったら、きっときいてくれると思っていたんだ。わたし昔から赤ずきんちゃんのこと大好きだったから。
赤ずきん: あのな、とってもうれしいんだよ。頼りにしてくれて。そいで、不登校のかぐや姫に気を配ってくれるのも嬉しいよ。クラスで、かぐやのこと気にかけてんの、マッチ売りの少女、おまえだけだもんな。
マッチ: ありがとう、赤ずきんちゃん……
赤ずきん: その「赤ずきんちゃん」てのなんとかならないか。
マッチ: え……?
赤ずきん: おまえのアクセントだと、赤どきんちゃんて聞こえるんだよ。あたし、アンパンマンのキャラクターじゃないんだからな。
マッチ: ……わたし、地方の出身だから、まだアクセントおかしいのね……
赤ずきん: 傷つくなよ、こんなことで。それにさ、少し長いんだよ、微妙に「赤ずきんちゃん」てのは。もっと気安く、フランクにさ……
マッチ: じゃ……赤ちゃん。
赤ずきん: ズコ……!
マッチ: だめ?
赤ずきん: ま、いいか、赤どきんちゃんより……
マッチ: あの……わたしの呼び方も……「おまえ」って呼ばれると、ちょっと言葉がきついの……
赤ずきん: かもな、いちいち「マッチ売りの少女」ってのも長いしな……じゃ、マッチだ。どうだ、かっこいいだろ?
マッチ: マッチ……うん。気にいっちゃった。さすが生徒会長!
赤ずきん: じゃ、そろそろ行くぞ。
マッチ: うん。あ、こっち。こっちだよ……
赤ずきん: たしか月ヶ丘の方だよな。
マッチ: うん、こっちの路地から行くんだ。
赤ずきん: 行ったことあんの?
マッチ: おう、担任の先生と。
赤ずきん: 金八郎と?
マッチ: うん、家の前まで行ったんだけど……
赤ずきん: 閉じこもって出てこなかった……とか。
マッチ: うん……二回行ったけど、二回とも留守だった。
赤ずきん: そっか、留守じゃしょうがないわね。
マッチ: ……っていうか、家がなかった。

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