「北斗機関出力120、発進準備完了」「発進準備完了」
機関士のユリが発声し、機関助手のノンコが復唱する。
『北斗発進!』
来栖司令の声がモニターから発せられる、ガクンと身震いして北斗が動き始めた。
師団機動車北斗(大塚台公園に静態保存されているC58)は、始動と同時に降下し、空蝉橋のカタパルトへの軌道に向かう。
十メートルほど降下して発進すると、大塚台公園の地下をSの字に助走したあと、空蝉橋通りの地下を直進。
空蝉橋北詰の街路樹に似せた加速機でブーストをかけられ、時空転移カタパルトから射出される。
ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「ブースト完了、第二戦速で九州を目指します。ブースト閉鎖、赤黒なし」
「ブースト弁閉鎖、赤黒なし、機関オートに切り替え」
「上空にエニミーの痕跡を認めず」
「警戒レベル3、前方にシールドを張りつつ対空警戒」
「フロントシールド展開、対空スコープ異常なし」
前回は、ここで回頭して九州を目指した。今回は進路はそのまま、直進すれば関東平野を北上し、東北地方を縦断して日本海に出るだろう。
「敵は、大和堆の上空に占位している」
振り返ると、キャブに阿倍先生がいる。
「訓練を兼ねているんですか?」
「任務よ。本日付で機動車北斗の車長兼北斗隊の隊長を命ぜられた。よろしく頼むわ。祝賀会は順延よ」
ちょっと心配だが、顔には出さない。ん……ブリンダは?
「前方一時の方向、アリゲーターの反応(ブリンダのことか?)、後方に駆逐艦、水雷艇8、突っ込んでくる」
砲雷手の清美が落ち着いた声で言う。調理研の三人も訓練が進んでいるんだろう、機器の操作も状況報告も堂にいってる。
「マヂカも出撃して。ブリンダと共同して北斗量子パルス砲の射線に敵を誘導して」
「了解」
清美が床のハッチを示した。ハッチの下に亀オブジェの戦闘艇があるのだろう。
マヂカ発進!
亜音速で秋田上空を目指す。
前方の密雲の向こうにブリンダの反応、同時に思念が飛び込んでくる。
——三、二、一、テーー!——
カウントし終わると二人同時にパルス弾を発射!
同時に左右に散開、 二人のパルス弾は空中衝突し、直径百メートルほどの火球になり、その高エネルギーの火球に駆逐艦と水雷艇が突っ込んだ。
最後尾の水雷艇一隻が、辛うじて転舵が間に合ったが、先頭の三隻は粉々に砕け散った。
ほんのわずかでもタイミングと軸線がずれていれば、わたしかブリンダのいずれか、あるいは両方がパルス弾を食らっていただろう。三つカウントするという思念だけで、敵の大半を撃滅できたのだ。連携は合格点だ!
小癪なああああああ!
火球の残滓を裂ぱくの闘志が衝いてきた。
「あれは!?」
「あれが主敵だ!」
それはアレクサンドル三世だ、アレクサンドル三世と憑依融合した霊魔だ、裂ぱくの魔法少女の姿だ!
キングコングほどの魔法少女の体には二本の黄色い煙突、手には三十サンチの主砲、肘や肩に何門もの副砲と魚雷発射管を装備。前回のイズムルードよりもずっと憑依体として完成している。
「引き付けよう!」
私の判断に、ブリンダは行動で応えた。
アレクサンドル三世の鼻先を目指して接近離脱を繰り返す。二度目は背中、三度目は尻、四度目は胸先を掠める。
照準している暇はないが、秘中の思いを籠めてパルス弾を連射!
ドドーーン! ドドーーン! ズドドドーーン!!
三割ほどが命中するが、さすがバルチック艦隊の主力艦、表情も変えずに射撃してくる。
命中こそしないが、至近弾であちこちに傷ができる。
目の前に赤い線が走ったかと思ったら、頬の切り傷から迸った自分の血だ。まずい目に入ったら見えなくなる!
一瞬、次の行動に迷いが出る。
ズゴーーーーン!
すごい衝撃に体がねじ切れるのではないかと思うほど振り回される。
亀の首にかじりついて、ようやく体勢を立て直すと、アレクサンドル三世のどてっぱらに大きな穴が開いた。
このマカーキ(猿)どもおおおおおお!
猿を意味するロシア語で罵りながら両手足をいっぱいに広げるアレクサンドル三世!
全砲門を主敵、私とブリンダの背後の北斗に指向させる。プラチナブロンドのロン毛が逆立った姿は戦の女神ヴェローナを彷彿とさせる。美しさと恐ろしさと猛々しさが魔法少女の指標であるとしたら、こいつは完成形だ。
感心している暇はない。企まずして、パルス弾を彼女の被弾孔に指向させる。
テーーーーーーーーー!!!
敵とこちらの吶喊が重なる!
ズゴゴゴゴゴーーーーーーーーン!!
射撃が一瞬遅れた…………積載武器や装備をまき散らしてアレクサンドル三世が四散して戦いは終わった。
大塚台公園秘密基地完成の祝賀会……どうする?
『いまからやるぞ!』
司令の元気な声がレシーバーに轟いた。