大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・050『主力艦アレクサンドル三世』

2019-07-26 16:34:41 | 小説
魔法少女マヂカ・050  
 
『主力艦アレクサンドル三世』語り手:マヂカ  

 

 

 「北斗機関出力120、発進準備完了」「発進準備完了」

 機関士のユリが発声し、機関助手のノンコが復唱する。

『北斗発進!』

 来栖司令の声がモニターから発せられる、ガクンと身震いして北斗が動き始めた。

 師団機動車北斗(大塚台公園に静態保存されているC58)は、始動と同時に降下し、空蝉橋のカタパルトへの軌道に向かう。

 十メートルほど降下して発進すると、大塚台公園の地下をSの字に助走したあと、空蝉橋通りの地下を直進。

 空蝉橋北詰の街路樹に似せた加速機でブーストをかけられ、時空転移カタパルトから射出される。

 ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

「ブースト完了、第二戦速で九州を目指します。ブースト閉鎖、赤黒なし」

「ブースト弁閉鎖、赤黒なし、機関オートに切り替え」

「上空にエニミーの痕跡を認めず」

「警戒レベル3、前方にシールドを張りつつ対空警戒」

「フロントシールド展開、対空スコープ異常なし」

 前回は、ここで回頭して九州を目指した。今回は進路はそのまま、直進すれば関東平野を北上し、東北地方を縦断して日本海に出るだろう。

「敵は、大和堆の上空に占位している」

 振り返ると、キャブに阿倍先生がいる。

「訓練を兼ねているんですか?」

「任務よ。本日付で機動車北斗の車長兼北斗隊の隊長を命ぜられた。よろしく頼むわ。祝賀会は順延よ」

 ちょっと心配だが、顔には出さない。ん……ブリンダは?

「前方一時の方向、アリゲーターの反応(ブリンダのことか?)、後方に駆逐艦、水雷艇8、突っ込んでくる」

 砲雷手の清美が落ち着いた声で言う。調理研の三人も訓練が進んでいるんだろう、機器の操作も状況報告も堂にいってる。

「マヂカも出撃して。ブリンダと共同して北斗量子パルス砲の射線に敵を誘導して」

「了解」

 清美が床のハッチを示した。ハッチの下に亀オブジェの戦闘艇があるのだろう。


 マヂカ発進!


 亜音速で秋田上空を目指す。

 前方の密雲の向こうにブリンダの反応、同時に思念が飛び込んでくる。

——三、二、一、テーー!——

 カウントし終わると二人同時にパルス弾を発射!

 同時に左右に散開、 二人のパルス弾は空中衝突し、直径百メートルほどの火球になり、その高エネルギーの火球に駆逐艦と水雷艇が突っ込んだ。

 最後尾の水雷艇一隻が、辛うじて転舵が間に合ったが、先頭の三隻は粉々に砕け散った。

 ほんのわずかでもタイミングと軸線がずれていれば、わたしかブリンダのいずれか、あるいは両方がパルス弾を食らっていただろう。三つカウントするという思念だけで、敵の大半を撃滅できたのだ。連携は合格点だ!

 小癪なああああああ!

 火球の残滓を裂ぱくの闘志が衝いてきた。

「あれは!?」

「あれが主敵だ!」

 それはアレクサンドル三世だ、アレクサンドル三世と憑依融合した霊魔だ、裂ぱくの魔法少女の姿だ!

 キングコングほどの魔法少女の体には二本の黄色い煙突、手には三十サンチの主砲、肘や肩に何門もの副砲と魚雷発射管を装備。前回のイズムルードよりもずっと憑依体として完成している。

「引き付けよう!」

 私の判断に、ブリンダは行動で応えた。

 アレクサンドル三世の鼻先を目指して接近離脱を繰り返す。二度目は背中、三度目は尻、四度目は胸先を掠める。

 照準している暇はないが、秘中の思いを籠めてパルス弾を連射!

 ドドーーン! ドドーーン! ズドドドーーン!!

 三割ほどが命中するが、さすがバルチック艦隊の主力艦、表情も変えずに射撃してくる。

 命中こそしないが、至近弾であちこちに傷ができる。

 目の前に赤い線が走ったかと思ったら、頬の切り傷から迸った自分の血だ。まずい目に入ったら見えなくなる!

 一瞬、次の行動に迷いが出る。

 

 ズゴーーーーン!

 

 すごい衝撃に体がねじ切れるのではないかと思うほど振り回される。

 亀の首にかじりついて、ようやく体勢を立て直すと、アレクサンドル三世のどてっぱらに大きな穴が開いた。

 このマカーキ(猿)どもおおおおおお!

 猿を意味するロシア語で罵りながら両手足をいっぱいに広げるアレクサンドル三世!

 全砲門を主敵、私とブリンダの背後の北斗に指向させる。プラチナブロンドのロン毛が逆立った姿は戦の女神ヴェローナを彷彿とさせる。美しさと恐ろしさと猛々しさが魔法少女の指標であるとしたら、こいつは完成形だ。

 感心している暇はない。企まずして、パルス弾を彼女の被弾孔に指向させる。

 

 テーーーーーーーーー!!!

 

 敵とこちらの吶喊が重なる!

 

 ズゴゴゴゴゴーーーーーーーーン!!

 射撃が一瞬遅れた…………積載武器や装備をまき散らしてアレクサンドル三世が四散して戦いは終わった。

 大塚台公園秘密基地完成の祝賀会……どうする?

『いまからやるぞ!』

 司令の元気な声がレシーバーに轟いた。


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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・8』

2019-07-26 06:29:50 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・8

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

 

「エッヘン」とうさぎの声聞こえる

赤ずきん: ほんとだ「エッヘン」て言った。
マッチ: ……で、どなたなんですか、かぐやさん?
かぐや: あの方はイナバの白うさぎさんです。近所の白兎海岸から遊びにくるの。人間の女の子のかっこうをなさってる時もあるわ。
マッチ: イナバの白うさぎって、女の子だったんだ!?
赤ずきん: セーラームーン(^▽^)/!?
マッチ : 古いんじゃ! で、イナバの白うさぎって?(ふたり、ずっこける)
赤ずきん: なんだ知らねえのかよ?
マッチ: 赤ちゃんは知ってんの?
赤ずきん: アキバの地下アイドかなんかじゃないの(^▽^)?
かぐや: ううん。沖の島からね、サメさんたちをだまして並ばせてね、その背中をピョンピョン渡ってイナバ、って、鳥取県の東のほうにきたうさぎさん。
マッチ: 好奇心つよいのね。
かぐや: で、だまされたったってわかったサメさんたちに身ぐるみはがされちゃって。
赤ずきん: やられちゃったの!?
マッチ: ……集団暴行!?
かぐや: そういう表現はヤラシイ想像をさせてしまうわ。ほらあの方なんて、身をのりだしていらっしゃいますわ。
マッチ: 赤ちゃんの目もヤラシイ~。
赤ずきん: マッチの四文字熟語だって三流新聞の見出しみたいだろうが!
かぐや: シバキたおされておしまいになっただけ。ジェンダーフリーのおしおき。そこになんともいえないくやしさを感じて泣いてらっしゃったの。由緒正しいうさぎさんだから。
マッチ: あ、サンタクロース!
かぐや: いいえ、あの方はオオクニヌシノミコトさま。
マッチ: オオクニヌシ?
かぐや: そのとき、うさぎさんをおたすけになったえらい神さま。
マッチ: へえ……
赤ずきん: そうなんだ……
かぐや: こんにちは! お仕事帰りですか?(何やら、声にならぬ声がする)あ、研修中ですか。こちらが赤ずきんちゃんさんと、マッチ売りの少女さん。(二人、ペコリと頭を下げる) 今日は……? ああ、松江の水郷祭に花火をご覧に。よろしゅうございますわねえ。わたしも行きたいなあ……小泉さんによろしくね。
赤ずきん: 元総理大臣の息子?
かぐや: ううん、小泉八雲さん。耳なし芳一とかお書きになった。ラフカディオ・ハーンともおっしゃるの。
赤ずきん: ああ……
マッチ: でも、どうしてサンタさんみたいなの?
かぐや: むかしは羽振りがよかったんだけどね、ここんとこ、ずっとリストラされてらっしゃるの。自前の袋をお持ちなので、今度サンタクロースのアルバイトをなさるのよ。
マッチ: アルバイト!?
赤ずきん: そういや。星の王子さまなんかも、近ごろ宅配便のアルバイトしてるらしい ね。ほら、あの流れ星(キンキラキーンと星の流れる音)……あれ、星の王子さまだ。
マッチ: みんな生活苦しいのかな……
かぐや: 星の王子さまは、著作権がきれたんで趣味でやってらしゃるの。でもオオクニヌシさんはやっと教科書にのりはじめたばかりだから。あなたは?
マッチ: わたし?
かぐや: マッチ売り。
赤ずきん: そうだよ。必要ないバイトならよした方がいいよ。友だちと約束して遅刻することもないだろ。 
マッチ: でも、マッチ売りをしていないマッチ売りの少女なんて……ただの漢字二文字の「少女」になってしまう。
かぐや: ほほほ……
マッチ: ね、そうでしょ。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・37〈有馬離婚旅行随伴記・2〉

2019-07-26 06:23:13 | 小説・2

高安女子高生物語・37
〈有馬離婚旅行随伴記・2〉        


「明菜のお母さんて、稲垣明子やってんなあ!」

 そう言いながら露天風呂に飛び込んだ。
 一つは寒いので、早うお湯に浸かりたかった。
 もう一つは、人気(ひとけ)のない露天風呂で、明菜からいろいろ聞きたかったさかい。

「キャ! もう、明日香は!」

 悠長に掛かり湯をしていた明菜に盛大にしぶきがかかって、明菜は悲鳴と非難の声を同時にあげた。
「明菜、プロポーション、ようなったなあ!」
 もう他のことに興味がいってしもてる。我ながらアホ。
「そんなことないよ。明日香かて……」
 そう言いながら、明菜の視線は一瞬で、うちの裸を値踏みしよった。
「……捨てたもん、ちゃうよ」
「あ、いま自分の裸と比べたやろ!?」
「あ……うん」
 なんとも憎めない正直さやった。
「まあ、浸かり。温もったら鏡で比べあいっこしよや!」
「アハハ、中学の修学旅行以来やね」
 このへんのクッタクの無さも、明菜のええとこ。
「せや、お母さん、女優やってんなあ!」
「知らんかった?」
「うん。さっきのお父さんのドッキリのリアクションで分かった」
「まあ、オンとオフの使い分けのうまい人やから」
「ひょっとして、そのへんのことが離婚の理由やったりする?」
「ちょっと、そんな近寄ってきたら熱いて」

 あたしは、興味津々やったんで、思わず肌が触れあうとこまで接近した。

「あ、ごめん(うちは熱い風呂は平気)。なんちゅうのん、仮面夫婦いうんかなあ……お互い、相手の前では、ええ夫や妻を演じてしまう。それに疲れてしもた……みたいな?」
「うん……飽きてきたんやと思う」
「飽きてきた?」
「十八年も夫婦やってたら、もうパターン使い尽くして刺激が無くなってきたんちゃうかと思う」
 字面では平気そうやけど、声には娘としての寂しさと不安が現れてる。よう見たら、お湯の中でも明菜は膝をくっつけ、手をトスを上げるときのようにその上で組んでる。
「明菜、辛いんやろなあ……」
「うん……気持ち分かってくれるのは嬉しいけど、その姿勢はないんちゃう」
「え……」
 あたしは、明菜に寄り添いながら、大股開きでお湯に浸かっている自分に気が付いた。どうも、物事に熱中すると、行儀もヘッタクレものうなってしまう。
「明日香みたいな自然体になれたら、お父さんもお母さんも問題ないねんやろけどなあ」
 そう言われると、開いた足を閉じかねる。
「さっきみたいな刺激的なドッキリを、お互いにやっても冷めてるしなあ……」

 しばしの沈黙になった。

「あたしは、ドラマの娘役ちごて、ほんまもんの娘や……ここでエンドマーク出されたらかなわんわ」
「よーし、温もってきたし、一回あがって比べあいっこしよか!」
「うん!」

 中学生に戻ったように、二人は脱衣場の鏡の前に立った。

「あんた、ムダに発育してるなあ」
 うちは、遠慮無しに言うた。どう見ても明菜の体は、もう立派な大人の女や。
「明日香て、遠慮無いなあ……うちは、持て余してんねん。呑気に体だけが先いってるようで……明日香のスリーサイズ言うたろか」
「見て分かんのん?」
「バスト 80cm ウエスト 62cm ヒップ 85cm 。どないや?」
「胸は、もうちょっとある……」
「ハハ、あかん息吸うたら」
「明菜、下の毛え濃いなあ……」
「そ、そんなことないよ。明日香の変態!」

 明日香は、そそくさと前を隠して露天風呂に戻った。今の今まで素っ裸で鏡に映しっこしてスリーサイズまで言っておきながら、あの恥ずかしがりよう。ちょっと置いてけぼり的な気いになった。中学の時も同じようなことを言ってじゃれあってたんで、戸惑うてしもた。

 うちは、ゆっくりと湯船に戻った。今度は明菜のほうから寄り添うてきた。

「ごめん明日香。あたし、心も体も持て余してんねん……あたしの親は、見かけだけであたしが大人になった思てんねん。うまいこと言われへんけど、寂しいて、もどかしい……」
「なあ、明菜……」

 そこまで言いかけて、芝垣の向こうの木の上から覗き見している男に気づいた。

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高校ライトノベル・里奈の物語・36『気の早い初詣』

2019-07-26 06:16:05 | 小説3

里奈の物語・36
『気の早い初詣』

 
 

 岸田先生にもらった学校のあれこれをゴミ袋に入れて口を縛ると着メロが鳴った。

――気が早いけど、初詣に行かないか? 拓馬――

 あれこれをゴミ袋に入れた➡せいせいした➡新たかな気持ち➡気の早い初詣もありか?

 という具合に繋がって、お誘いに乗ることにした。

 拓馬は鶴橋から電車だという。で、あたしも鶴橋で乗り込んで合流することにした。

「彼女、美姫ちゃん。安藤美姫、今里に来てできた数少ないお友だち」
 

 あたしは思い立って美姫をお誘いしておいた。

 拓馬は一瞬ビックリしたけど、海外旅行で日本人に会ったような笑顔になった。
 

「オレ吉村拓馬。里奈とは家が骨董屋同士で親しくなって、エ(うっかりエロゲと言いそうになっている)……エー、よろしく」
「あたしはたこ焼き仲間。それと元演劇部ってとこで、里奈と親しくなったの」
 美姫は、ごく自然に右手を出して握手。引きこもりと現役の違いはあるけど、同類同士だと分かったみたい。あたしはいい勘をしている。
「それで、山本八幡宮って、どんな神社?」

 拓馬は、今里から各停で七つ目の河内山本ってとこにある山本八幡宮に行くと言っていた。八幡宮というから鶴岡八幡とか宇佐八幡とかの大神社を想像していた。

「これが山本八幡宮」          

 言われるまでもない、河内山本で降りると、ロータリーを挟んで玉垣があり、その上に『山本八幡宮』という清々しい看板が出ていた。神社の前は幅三メートルほどの遊歩道を挟んで清げな小川が流れて、鮒だか鯉だかが群れて泳いでいる。なんだか、鉄道模型のジオラマを原寸大に拡大したような秩序がある。
「ひい爺ちゃんの代まで、この辺に住んでて、この八幡様がうちの氏神様。小ぢんまりした神社やけど、正月は駅まで初詣の列ができる」
 拓馬が、ここを選んだ理由と、可愛い神社であることが分かった。
「ホー……一幕もののええドラマが書けそうな神社やね……境内には、お宮参りの家族連れが似つかわしい」
 美姫は、長いため息に感想を載せて吐き出した。クラブは辞めたけど、感度のいい演劇少女ではある。鳥居をくぐると、本当にお宮参りの若夫婦と赤ちゃんを抱いた姑さんらしき一組が居た。
「お参りの仕方知ってる?」
「お辞儀して手を合わせる?」
「それでもええねんけど、正式なやつ教えたるわ」
 拓馬は、手水所で手を洗うところから、お賽銭を入れ、鈴を鳴らし二礼二拍手一礼をするところまで丁寧に教えてくれた。
 こういうことは大混雑する正月の初詣ではできない。

「なにをお祈りしたの?」

 お百度石のところで美姫が聞いた。

「うん……三人が、いい友だちでいられますように……かな?」
 自分で言って照れてしまう。でも本音。あたしの人間関係は、どんどんピュアじゃなくなってきたから、拓馬と美姫は大事にしたい。
「美姫は?」
「あたしは……感謝」
「感謝? お願いとかじゃなくて?」
「うん、あたしの振る舞いとか運次第では、もっと状況悪なってたと思うねん。それが、里奈と知り合えたし、今日は拓馬君とも出会えたから、それを感謝」
「そっか……てか、ありがとう。あたしのことを、そんな風に……その……大事に思ってくれて」
「ううん、そんなん。あたしのほうこそ」
「ハハハ、お願いと感謝の違いはあるけど、二人ともいっしょやな」
「ハハ、そうやね」
 美姫の目がへの字になった。
「そういう拓馬は、どうなのよ?」
「そら、オレは、ええエロゲに……」
「え、エロゲ!?」

 美姫の目はへの字から点になった。          

「「うわー、きれいな川!」」

 お昼を食べようということになり、踏切を渡って駅の南側に出た。で、美姫と二人で歓声を上げた。
「これは玉櫛川。南北に四キロほど続いてる。昼食べたら、ちょっと歩いてみよか」
 玉櫛川沿いを少し行って、焼き立てパン食べ放題のお店でランチ。
 それから、駅一つ分を玉櫛川沿いに散策。

 書きたいことは、まだまだあるんだけど。またいずれね……。

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高校ライトノベル・須之内写真館・9【古写真の復元・2】

2019-07-26 06:04:04 | 小説4

須之内写真館・9
【古写真の復元・2】        


 それは、旧日本軍の軍人が、人の首を切った瞬間を捉えた写真だった……。

「なに、この写真!」
 おぞけの隠せない声で、直子は叫んでしまった。
「ごめんなさい。ちょっと注釈して見せるべきだったな」
「その注釈、今から聞かせてもらえる?」
「うん……それ、お客さんが見せてくれたってか、お客さん同士で話してるところを見ちゃって。で、今の直子さんみたく驚いたんです」
「なんで、こんなグロな写真……」
「それ、お客さんのひい婆ちゃんのものなんです。その首を切り落としている後ろ姿が旦那さんだそうで……」
「え……」
「で、そのお客さんにとってはひい祖父ちゃんにあたる人は戦後戦犯で死刑になったんだって」
「そりゃ、なるわね……」
「でも、ひい婆ちゃんは、それは旦那さんじゃないって。それを証明したいために、ずっと持ち続けていて、あと病院で一週間ほどの命なんです」

 杏奈は、この古写真を鮮明に復元して、お婆ちゃんに「ひい祖父ちゃんは無実だったよ」と伝えてあげられたらと、スマホに取り込んできたのだ。
 直子は、自分の手には負えないので、お祖父ちゃんに頼んだ。

「う~ん……この写真じゃ、なんとも言えないな」
 プロジェクターに大写しにした写真をみて、お祖父ちゃんは唸った。
「傷みがひどいわね」
「そりゃ、七十年以上昔の写真だからな。原版があれば、復元もできるんだが……」
「原版なら、これです」
 杏奈は、手札サイズのセピア色になった写真を取りだした。
「よし、復元してみよう。二日ほどくれるかい?」
「はい、できるだけ早くお願いします」
「そうね、ひい婆ちゃんに、いい答を言えるといいんだけど」
「わしの勘だが、これは、そのひい祖父ちゃんじゃないと思う」
「どうして、お祖父ちゃん?」
「写真の裏の字だよ。昭和十五年五月十五日……筆跡がな。それと写真全体からくる違和感だ……」

 直子のお祖父ちゃんは、一日半かかりっきりで、写真を修復した。洗浄やら、薬品処理やら、直子はデジタルではできない職人芸に舌をまいた。

「さあて、これからだ……」
 祖父ちゃんは、ほとんど徹夜だったが、いきいきと作業に没頭した。
「どう、お祖父ちゃん?」
「この写真は矛盾が多い」
「え、どんなとこ?」
 直子は鮮明になった写真を凝視したが、切られた首が血圧で吹き飛ぶところが鮮明すぎて、カラーでなくてよかったと思うばかりだった。
「日本軍の軍服は、昭和十三年に更新されとる。むろん更新直後なら新旧の軍服が混在しとるが、十五年なら、完全に十三年式になっている」
 直子には、祖父ちゃんが見せてくれた新旧の軍服の違いは言われなければ素人には分からないものであった。
「パソコンに取り込んで、デジタル処理してみる」
 直子は、直子のやり方でやってみた。後ろで見ていたお祖父ちゃんは、もう一つのパソコンでなにやらやっている。
「むつかしいことは、出来んがな。友だち二人に鑑定を依頼した」
「お祖父ちゃん、この後ろに並んでいる兵隊、ちょっと違和感……」
 直子はデジタルで拡大した。
「これは……日本の軍服じゃない」

 やがて、祖父ちゃんの友だちからも答が返ってきた。

「やっぱりな」
「どうなの?」
「この筆跡は九十パーセント日本人の筆跡じゃない……そして、もう一つは、軍刀の使い方。姿勢から、剣道や居合い切りなどではない、力任せの切り方であることが分かるそうだ」

「あのひい婆ちゃん、喜んでいたそうです」
 杏奈が報告に来た。ひい婆ちゃんは、その数時間後に亡くなった。

 お祖父ちゃんと、その友だちは、その結果を新聞社に送った。S新聞だけが取り上げてくれたが、七十五年も昔の写真にまつわるエピソードに、関心を示す読者は少なかった……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・77』

2019-07-26 05:55:36 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・77
『第七章 ヘビーローテーション 15』 


 いつの間に眠ったんだろう。

 気がついたら、ベッドに寄りかかるようにして眠っていた。
 肩に毛布がかけてある……お母さんだ。

 わたしは、ついさっきの夢を思い出していた。

 夢の中にカオル姿のマサカドクンが出てきた。
 グー像の前で、気を付けの姿勢でじっと前の方を見つめていた。
 まるで、これから教育勅語が奉読されるのを待っているように。
 マサカドクンは、等身大で、その映像はカメラが回るように、マサカドクンの周りを回っていた。
 よく見ると、マサカドクンのセーラー服は太い白線と、二本の細い白線。ネクタイも、カオルは白だが、彼女(?)は赤だ。
 なにか思い詰めたような顔をしている。どうしていいか分かっているのに、なにか大きなものに邪魔されて、それでもなんとかしたいというような……。
 今の女子高生はこんな表情はしない。
 と、思ったら、突然声も立てずに笑い出した。
 これって……心の底からの、本物のホンワカだ。
 今の女子高生は、この表情もしない、わたしも含めて。
 こないだ、見たときよりも、はっきりと女学生の有りようを受け取った。
 そして、最後に、彼女は拳を突き出して消えた。突然だったので表情は分からなかった。

 いったいあれは……マサカドクンて、いったい…………?

「はるか、冷めちゃうわよ!」
「あ、おでんだ」
 わたしは、食卓に着いてボンヤリとしていた。
「大阪に来て、最初のおでんだよ」
 おでんは、お母さんお得意の手抜き料理。なんせ、最初作っておけば具を足すだけで、何日も食べられる。
ま、いいけど。でも、大好きな竹輪麩(ちくわぶ)が無かった。
 久々に東西文化の違いを思い知った。


 八時過ぎには学校に着いた。

 グー像の前で立っていると、竹内先生がやってきた。
「なんや、だれかと待ち合わせか?」
「はい、ちょっと」
「ちょっと、顔が怖いで」
「ですか」
「まあ、アメチャンでも食べえや」

 わたしはもらったアメチャンを握ったまま待った。
 それから五分して、ヤツは現れた。予想はしていたが由香が横にくっついている。
「先輩とだけ話がしたいんだけど」
 そう言うと、由香は二三歩後ずさった。
「いったい、なんだよ。怖い顔して」
「これ」
 例のA4の封筒を差し出した。
「あ、きたのか! いやあ、まさかとは思ったんだけどな」
「他の人には見せない人だって言ったじゃない!」
「伯父さん、リタイアした人だけど、元は名プロディユーサー。はるかがプロの目から見てどう映るのか、それが知りたっくってサ」
「約束を破った!」
「そう怒るなよ。オレ、はるかの魅力はプロで通用するって思ったんだ。はるかは、こんな演劇部でたそがれてるやつじゃないって。でも、プロの世界はキビシイからさ。おれ自分の目の確かさも試したかったんだ。あんまし自信はなかったけど、オレにとっても、はるかにとっても、いい結果が出たじゃないか」
――こいつ、なんにも分かってない……怒りでうつむいてしまった。
「でも、よかったよ。はるかが認められて。白羽さんて、日本で五本の指に入るプロディユーサーだからさ、それが、こんなに早くリアクション起こしてくれたんだから、やっぱり本物だよ、はるかは!」

 プツって音がして、わたしは切れてしまった。

 不幸が三つ重なった。

 まずタマちゃん先輩が側にいなかったこと。いたらルリちゃんの時のように止めてもらえただろう。
 次に、アメチャンを握っていたこと。アメチャンを握っていなければ平手ですんだだろう。
 もう一つは、わたしが手を挙げたとき、そこに由香の顔があったこと。

 気がついたら、生活指導の部屋にいた。

 由香は、わたしの手が出そうになって、間に入った瞬間だったらしい。
 わたしの横で、くちびるを切って、ホッペを腫らして座っていた。
 わたしは、正直に全てを話した。一方的暴力である。
 吉川先輩は「自分が余計なことをしたからだ」と弁護してくれた。

 慌てたのは、乙女先生と竹内先生。
 暴力行為は最低でも一週間の停学だ。

 どうしよう、コンクールに出られなくなってしまう……。

 足許から、後悔が這いのぼってきた。
 後悔は深まる秋の冷気に似ていた……。

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