ほんのひとっ飛びだった。
オートマルタは上昇したと思ったらすぐに反転しながら下降して、地上数メートルのところでホバリングした。
「大塚台公園じゃないか」
そこは、登校途中友里と待ち合わせする大塚台公園の東側だ。
正面の西側と違って、都電通りは谷になっていて、公園の東は二メートルほどの高いコンクリートの切り落としになっている。
テディが丸っこい手をかざすと、音もなく切り落としが口を開いた。
オートマルタで乗り入れると、そのまま下降して、航空母艦の格納庫のようなところに着いた。
「ついて来て」
ノッソリ歩くテディ―の後に続く。格納庫には、他に四台のオートマルタが停車している。
「予備のオートマルタか?」
「クローンテディのだよ」
「クローン?」
答えは直ぐに分かった。隔壁が開いたところで四体のテディ―が敬礼している。
「ごくろう」
こっちのテディ―が敬礼を返す。どうやら、こっちのテディ―が上官のようだ。
「お互い、急な呼び出しだったな」
驚いて振り返るとブリンダが立っている。
「懐かしいコスだな」
「誉めてくれよ、七十四年前と同じサイズでいけたぞ」
星条旗をモチーフにしたコスはブリンダにピッタリなのだが、これを身につけられると、反射的にファイティングポーズをとってしまいそうになる。
「マヂカも着替えてください」
テディ―がもう二度と着ることは無いだろうと思っていた魔法少女のコスを持っている。
「待ってくれ、この準備……特務師団なのか?」
ブリンダが居ることで確定的なのだが、心の底で認めたくない自分が抗ってしまう。
コスを手に戸惑っていると、隔壁が開いて、会いたくない奴が現れた。
「発進準備完了だ、早くしてくれ!」
「来栖一佐、了解した覚えはないぞ!」
「辞令は渡しただろ、歓迎会ならあとでやってやる。さっさと来い!」
一佐が右手の人差し指をクルリと回した。
「や、やめろ、それは……(強制着脱)!」
わずか一秒で、着ていた部屋着が魔法少女のコスに変わる。師団長だけが持っている強制準備行動の一つだ。一秒で着替えられるのだが、コンマ二秒ほど素っ裸にされてしまう。
「わたしは自分で着替えたがな」
「あ、いま写真に撮ったか!?」
「ウヘヘヘ」
「ブリンダあ!」
掴みかかろうとしたら一佐の火花の出そうな視線、格納庫へ急いだ。
格納庫に控えていたのは見覚えのある蒸気機関車だ……大塚台公園に静態保存されているC58が煙と蒸気を吐き出しながら控えている。
「師団機動車北斗だ、直ぐに乗り込んでくれ」
制御卓にとりついた一佐がキャブを指差す。ラッタルを上がると、釜口が人が通れる大きさで口を開けていて、ブリンダ共々乗り込むとガチャリガチャリと釜口が閉鎖される。
前方の釜口あたりが操縦席と乗員席になっていて、乗員が配置に着いている。一人が振り返ってサムズアップする。
「あ、カッパ!?」
そいつは、千駄木女学院で見かけた須藤公園カッパだ。
ほかに機関士、機関助手、砲雷手とおぼしき乗員が目につく。
「北斗機関出力120、発進準備完了」「発進準備完了」
機関士が発声し、機関助手が復唱する。
『北斗発進!』
一佐の声がモニターから発せられる、ガクンと身震い一つして北斗が動き始めた。
乗員の各部点検の声……聞いて驚いた。
機関士はユリ、機関助手がノンコ、砲雷手が清美だったのだ……。