大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・040『北斗発進!』

2019-07-06 13:35:47 | 小説
魔法少女マヂカ・040  
 
『北斗発進!』語り手:マヂカ  

 

 

 ほんのひとっ飛びだった。

 オートマルタは上昇したと思ったらすぐに反転しながら下降して、地上数メートルのところでホバリングした。

「大塚台公園じゃないか」

 そこは、登校途中友里と待ち合わせする大塚台公園の東側だ。

 正面の西側と違って、都電通りは谷になっていて、公園の東は二メートルほどの高いコンクリートの切り落としになっている。

 テディが丸っこい手をかざすと、音もなく切り落としが口を開いた。

 オートマルタで乗り入れると、そのまま下降して、航空母艦の格納庫のようなところに着いた。

「ついて来て」 

 ノッソリ歩くテディ―の後に続く。格納庫には、他に四台のオートマルタが停車している。

「予備のオートマルタか?」

「クローンテディのだよ」

「クローン?」

 答えは直ぐに分かった。隔壁が開いたところで四体のテディ―が敬礼している。

「ごくろう」

 こっちのテディ―が敬礼を返す。どうやら、こっちのテディ―が上官のようだ。

「お互い、急な呼び出しだったな」

 驚いて振り返るとブリンダが立っている。

「懐かしいコスだな」

「誉めてくれよ、七十四年前と同じサイズでいけたぞ」

 星条旗をモチーフにしたコスはブリンダにピッタリなのだが、これを身につけられると、反射的にファイティングポーズをとってしまいそうになる。

「マヂカも着替えてください」

 テディ―がもう二度と着ることは無いだろうと思っていた魔法少女のコスを持っている。

「待ってくれ、この準備……特務師団なのか?」

 ブリンダが居ることで確定的なのだが、心の底で認めたくない自分が抗ってしまう。

 コスを手に戸惑っていると、隔壁が開いて、会いたくない奴が現れた。

「発進準備完了だ、早くしてくれ!」

「来栖一佐、了解した覚えはないぞ!」

「辞令は渡しただろ、歓迎会ならあとでやってやる。さっさと来い!」

 一佐が右手の人差し指をクルリと回した。

「や、やめろ、それは……(強制着脱)!」

 わずか一秒で、着ていた部屋着が魔法少女のコスに変わる。師団長だけが持っている強制準備行動の一つだ。一秒で着替えられるのだが、コンマ二秒ほど素っ裸にされてしまう。

「わたしは自分で着替えたがな」

「あ、いま写真に撮ったか!?」

「ウヘヘヘ」

「ブリンダあ!」

 掴みかかろうとしたら一佐の火花の出そうな視線、格納庫へ急いだ。

 格納庫に控えていたのは見覚えのある蒸気機関車だ……大塚台公園に静態保存されているC58が煙と蒸気を吐き出しながら控えている。

「師団機動車北斗だ、直ぐに乗り込んでくれ」

 制御卓にとりついた一佐がキャブを指差す。ラッタルを上がると、釜口が人が通れる大きさで口を開けていて、ブリンダ共々乗り込むとガチャリガチャリと釜口が閉鎖される。

 前方の釜口あたりが操縦席と乗員席になっていて、乗員が配置に着いている。一人が振り返ってサムズアップする。

「あ、カッパ!?」

 そいつは、千駄木女学院で見かけた須藤公園カッパだ。

 ほかに機関士、機関助手、砲雷手とおぼしき乗員が目につく。

「北斗機関出力120、発進準備完了」「発進準備完了」

 機関士が発声し、機関助手が復唱する。

『北斗発進!』

 一佐の声がモニターから発せられる、ガクンと身震い一つして北斗が動き始めた。

 乗員の各部点検の声……聞いて驚いた。

 機関士はユリ、機関助手がノンコ、砲雷手が清美だったのだ……。

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリー・ホッタと賢者の石・1』

2019-07-06 06:34:44 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石
ゼロからの出発
 大橋むつお
 ※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
      パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
      とりあえずコギャル風の少女
 
 のどかな住宅街の昼下がり。小鳥のさえずり。パリーがメモをたよりに家をさがしている。パリーは、魔法学校の制服を着ている。ややあって、下手から、キャリーバッグひきながら少女がやってくる。茶髪にピアスと厚化粧という三点セットの首の下は、超ミニのセーラー服の上下に膝丈のジャージと薄汚れのルーズソックスという一昔前のコギャルの出で立ち。 
 
パリー: あのう……(よく姿を見ずに声をかけてしまった後悔が声をつまらせる)
少女: なに?
パリー: いえ……
少女: ふん(鼻をならして行こうとする)
パリー: いえ、あの……
少女: 用があんならさっさと言えよ。こっちは魔法学校の生徒みたいにヒマじゃねえんだからよ。
パリー: あの……イマイチ先生のお宅知らないかしら?
少女: イマイチ……?
パリー: ええ、あの、魔法学校のイマイチ先生……
少女:  イマイチねえ…………ここだよ。
パリー: ありがとう!
少女: 留守だよ。
パリー: え……?
少女: 先生は留守だ。
パリー: どうして?
少女: 留守だから留守……
パリー: (無視して、呼び鈴を押しに行こうとする)
少女: 留守だって言ってっだろ!
パリー: いらっしゃるかもしれないわ。ものしずかな先生だから、留守のようにみえてるだけで……
少女: おめえなア……
パリー: とっても大事な用事で先生をたずねてきたの、留守ですよって言われて帰るわけにはいかないの!
少女: あのなア……
パリー: (何度も呼び鈴を鳴らす)先生! イマイチ先生! 二年B組のパリーです! 大事な相談があってうかがいました! 先生! イマイチ先生!…………先生……ハァー(ため息)
少女: だから留守だって言っただろう……
パリー: どうして留守って言いきれるのよ?
少女: あ、あたし……イマイチ先生の娘だもん。
パリー: え……!?
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・17〔志忠屋のリニューアル〕

2019-07-06 06:26:25 | 小説・2
高安女子高生物語・17
〔志忠屋のリニューアル〕
        


 メールを見てびっくりした!

 あたしのスマホとちがう。お父さんのパソコン。

 小山内先生が、うちのパソコンにメールを打ったから。演技についての長いダメやら注意をスマホで送るのは大変やから。うちで、パソコンのメールは、お父さんのパソコンでしか受けられへん。なんでか言うと、お父さんはケータイが嫌いで、今時スマホはおろかケータイも持たへん原始人。まあ、パソコン相手に仕事して、ほとんど家から出えへんので、必要性はあんまりないんやけど。

 で、小山内先生のメールの後に入ってたお父さんのメールを開いてしもた。

―― すみません、なんだかんだで思ったより手間取りましたが、2月3日 月曜日 17時30分よりリオープンいたします。チーフ中村の“ローマ風ピッツア”や小皿料理をラインナップに加え、ラストオーダー24時の夜型営業の店として再スタートします。ランチのお客様には、引き続き ご迷惑をおかけいたしますが、新しい志忠屋に 是非お越し下さい。チーフ中村共々、心よりお待ち申し上げます。尚、お越しのお客様全員、リオープン記念 10%サービスさせていただきます。 志忠屋店主 滝川浩一 ――

           

「ええ、そんなあ!」

 思わず声が出てしもた。
「なんや、ああ……志忠屋か。いよいよリニューアルやねんな。明日香、いきたかったんか?」
 お父さんに聞こえてしもた。
「あ……ランチタイムに行ってみたかったさかい」
「ま、しばらくしたらランチタイムもやるやろ。もうちょっとの辛抱や」
「うん……」

 志忠屋のオーナー滝川さんと、お父さんは四十年の腐れ縁らしい。二人の関係につぃては。いろいろあるけど、べつの機会に。

 志忠屋へ初めて行ったんは、中学に入ってちょっとしたころ。お父さんの退職の挨拶兼ねて、お母さんと三人で行った。志忠屋はシチューとパスタをメインにした南森町にある客席16のかいらしい店。
 出てくる料理は美味しかった。お母さんが逆立ちして百年たってもでけへんような料理ばっかし。文字通り味を占めたあたしは、何回かランチタイムのときに一人で行った。
 中三のとき、進学でお母さんともめてたときに相談に乗ってくれた。ランチタイム終わってアイドルタイム(準備中)になっても、相談は続いた。
「まあ、どっち行っても、似たり寄ったりやけどな」
 オーナーのタキさんは、そない言うてたけど、お父さん通じてお母さんを説得してくれて、今のOGH高校に行けた。
 入ってみたら、思てたほどの学校やなかったんで、タキさんの言うてたことは、大当たり。

 それから一年。
 
 近いうちに進路のこと相談しよ思てたんやけど、しゃあないなあ。ピッツァやら始めるらしいけど、あたしの好きなパスタは、またやってくれるんやろか……。

 タキさんに相談したかったんは、クラブ辞める決心付けさせてもらうことと、演劇科のある大学に進学すること。
 高校演劇は、もうあかんと思てる。一年やってよう分かった。本選で観たK高校も、OPFで観たO高校も学芸会や。見かけは立派やけど、芝居はヘタ。去年鳴り物入りで全国大会で優勝したT高校も小器用なだけ。今年だけかも知れへん。なんせ、近畿大会では大阪は全滅やった。で、うちのOGH高校は、その予選で落ちた。
 確かに、審査員の浦島太郎はドシガタイけど、あいつを納得させるだけの芝居がでけへんかったことも確か。
 で、来年クラブを担う美咲先輩も辞めてしまう。こんなショボイ大阪の高校演劇のクラブでアクセクしててもしゃあない。
 せやけど、将来はキチンとした役者にはなりたい。

「明日香、そんなに志忠屋のパスタ食いたかったんか?」
「うん……」
 半分はほんまやから、素直に頷く。
「ほんなら、また連れてったるわ」
 お父さん、まるで小学生に言うみたいに優しげに言うてくれた。せやから小学生レベルの肯き。
 本心見破られんのいややから、二階のリビングに。
 棚の上にケースに入った大阪城の天守閣。
 ちっちゃい頃に親子三人で、よう大坂城に行った。その記念に、お父さんがこさえたプラモ。その横に彦根城……この意味は、よう分からへん。分かる余裕も、今のうちには無い。

 あ、小山内先生のメール読むのん忘れてた。

「ごめん、お父さん、もっかい見せて」
 読んでみると、高度な要求が一杯。
 あたし、芸文祭は適当でええねん。

――分かりました、ご指導ありがとうございました――

 そう打って、おしまい。ああ、志忠屋に行きたいなあ!
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高校ライトノベル・里奈の物語・16『閉店大売出し』

2019-07-06 06:17:21 | 小説3
里奈の物語・16『閉店大売出し』


 お昼を過ぎても外に出ないと骨董品になったような気になる。

 骨董品は好きだけど、自分自身が骨董品になりたいわけではない。
――骨董品になりそうなあたし――
 そうコメントを付けて、店番の自分を自撮りした写真を添付、送信にタッチ。
――17歳の骨董品……意外に売れるかも――と、拓馬から返ってくる。
「ポジティブな奴はかなわないなあ……おばさん、ちょっと散歩してきていいですか?」
「うん、行っといで。今日は中国の団体さんもけえへんし」

 けっきょく拓馬のメールに後押しされるようにして外に出る。

 考えたら、拓馬も家に引きこもり。そいつに「17歳の骨董品」呼ばわりされるイワレはない。
 しかし、拓馬は挑戦的引きこもり。
 なにが挑戦的なのかは分からないけど、この三日で感じたオーラは看板どおり。

 アテのない散歩だけど、気が付けば、あのポストを目指している。

 まだ二回しか行ったことがないけど、八百メートルほどの道のりは覚えている。
 むろん道のりにある景色全てを覚えているわけじゃない、要所要所のお家や看板を覚えていてたどり着くんだ。

『一日一日の毎日を大切にして、豊かで充実した高校生活を送りましょう』
 クラス開きの日、担任は校長の挨拶をコピーして笑顔であたしたちに言った。
『毎日毎日大切になんかしてたら、緊張感でもちません』
 そう言ったのは、まだ担任や教師に期待してたからだろう。いまなら黙殺する。
 人生なんて散歩と同じ。要所要所の日に、あるいは時間に集中して取り組み、それ以外はなんとなくなんだ。
 そう言いながら、不登校、引きこもりになってしまったのは、一日一日のあれこれにこだわり過ぎたせい。

 そのポストが好きなのは、ただ古いからだけじゃなかった。     

 ようく見ると、ポストは右に少しだけ傾いている。最初は気づかなかった。
 この傾きが、なんだか「休め」をしているようで安心ができるんだ。
 この安心は骨董に通じる。
 骨董は時間というか時代を経て佇まいにマロミがある。
 どんな高級品でも新品は尖がっている。いわば姿勢として「気を付け」だ、人も物も「休め」がいい。

「うん、うん、いまボストン靴店の前」

 そう言うオバチャンの声が聞こえた。オバチャンはガラケーに話しかけている。
 以前の以前住んでいた東京は、人の声は小さい。奈良の人も、そんなに声は大きくない。
 大阪の人間、とくにオバチャンの声は大きい。
 こういうアケスケナところは好きだ。ま、景色としてはね。
 現実に、こういうノリで迫ってこられたら引いてしまうんだろうけどね、毎日をなんとなく生きていて、こんなテンションでやっていけることは、正直羨ましい。
「うん、焦って買いにくることないよ。値段は春と変われへん。来年の閉店大売出しにはもっと安なってるんとちゃうか、アハハ、そらそうやな、毎日閉店大売出しやねんもんな!」

「え……?」

 店に帰っておばさんに聞いてみた。
「ああ、大阪ではようやってるよ。閉店大売出して言うたら、なんや元気出るし、安いいう感じするよってにな……どないかした、里奈ちゃん?」
「あ、いえ……」

 明るさは滅びのしるしであろうか……そう思い込んでいた。

 あたしは、まだまだ甘ちゃんだ。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・50≪国変え物語・11・立ちション国替え・1≫

2019-07-06 06:08:43 | 時かける少女
時かける少女BETA・50 
≪国変え物語・11・立ちション国替え・1≫ 


 1590年(天正18年)になると、小田原の北条氏との対立は抜きがたいところまで来た。

 北条氏には家康が娘を嫁がせるなどして、縁戚関係が深かったので、秀吉は家康を通じて北条氏に再三の上洛と臣従を求めた。
「もはや万策尽き申した」
 大坂にきた家康は、実直な顔で講じ果ててた顔を見せた。


 実直者で通った家康の反応は、直ぐに諸大名の知るところとなり、北条討伐の世論が形成された。
 上は大名から庶民に至るまで、秀吉の温情主義は知れ渡っている。
 家康には東海と甲斐、信濃を任せ、あれだけ抵抗した島津や長曾我部も本領は安堵してやっている。北条にも伊豆と相模の二国は安堵してやるつもりでたが、これで、天下の形成を大きく変える機会になると秀吉はほくそ笑んだ。

 小田原城の支城は子飼いの若い武将たちに次々に落とさせ、力試しの場としてやった。福島正則や加藤清正などは、なかなかのもので、全てを戦に持ち込まず、半ば以上は、和睦で事を済ませた。

 この時代、秀吉の家来は二派に分かれつつあった。

 尾張の足軽大将に過ぎなかったころから秀吉や妻の寧々(ねね)の薫陶と世話を受けて育った福島や加藤などの尾張閥と、秀吉が近江の長浜で大名になって以来、秀吉の官僚になった石田三成を筆頭にする近江閥である。
 秀吉は、そのことを気にして、官僚である三成にも武功をたてさせてやり、なんとか両者の溝を埋めようとした。

 そこで、関東の東北部にある忍城攻略を三成に任せた。誰にでも落とせる田舎の小城であった。ところが、三成は、調略にも、秀吉のやり方を真似た水攻めにも失敗した。秀吉が小田原を攻めて唯一落とせなかった城となり、四百年後に小説と映画の材料になる。

 秀吉は、もう半年近く小田原を包囲していたが、兵たちは倦むことがなかった。小田原城の周囲は陣というよりは街であった。上方から商人や遊女たちを集め、商売や娯楽の種を尽きぬようにしたので、陣……いや、街は賑わうばかりであった。

 そして、秀吉は、小田原の落城を見せてやろうと淀君さえ呼んだ。去年生まれたばかりの鶴松は、さすがに大坂に留め置かれたが、美奈を中心とする医師とも乳母ともつかぬ集団が、幼子の世話を焼いている。

「五右衛門さん、かなり儲けているようじゃない?」
 五右衛門は、珍しく若い商人のナリであらわれた。

「今は、唐物の商いで、ちょっとした御大尽さまよ」
「あら、海外貿易やってんの?」
「カイガイボウエキ?」
「あ、こんな字を書くの」
 美奈は料紙に、サラリと書いてやった。
「なるほど、いい字面だ……今の言葉じゃねえな」
「三百年ほどしたら、日本でできる言葉よ」
「やっぱ、美奈は、先の時代からやってきた人間……?」
「ハハ、そういうことにしとこうか、お互い秘密を持ち合っているのは面白いわ」
「そうさな。一つだけ教えてくれ」
「なあに?」
「この先、貿易で儲かりそうな国はどこだ?」
「イスパニア。でも、この国は、あわよくば国を乗っ取ってしまう。その野心は秀吉さんや家康さんなら気づいている……その中継ぎをやっている国がいいわ。琉球やシャム」
「気持ち悪いな。オレの読みと同じだぜ!」
「明は半分国を閉ざしているし、朝鮮は商いそのものを卑しいものだって否定してる国だしね」
「ようし、大船は博多でイスパニアの図面をもとに作っているところだ。できたらすぐにでかける。で、手っ取り早く儲かる品はなんだ?」

「金ね」
「金?」

「日本と異国じゃ金と銀の交換比率が違うの。簡単に言えば金の相場が、日本は異国よりも安いの。換金するだけで数倍の儲けになる。シャムには鉄砲ね。むろん普及させてからじゃなきゃ儲けにならないけど」
「そういうのって血が沸くな。こういうのって女の頭の方が、謎めいて面白い。ちょいと着物借りるぜ」
 五右衛門はクルリと裸になると、裸のまま女に変身して、ほんの二秒ほどで着替え終わった。
「オレの変身見せるのは美奈ぐらいのもんだけどよ。どっちのオレがいい。男? 女?」
「両方!」
「お、いいってか?」
「気持ち悪い!」
「アハハハ」
「着物代に、一つ教えてよ」
「なんだい? つまらねえ質問なら答えねえぜ」
「小田原が落ちたら、天下は一応秀吉さんのものになる。でも家康さんという大物が残ってしまう。二人がぶつかり合わないような工夫ないかしらね?」
「なんだ、つまんねえ。そんなこたあ、ションベンのついででも考えるんだな」
 そう言って、五右衛門は行ってしまった。

「ションベンのついで……やっぱ史実かもしれないなあ……」

 美奈は、久宝寺の鐘の音を聞きながら独り言ちた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・57』

2019-07-06 05:58:09 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・57 




『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない6』


 東京駅に着いてさらにびっくりした!

 ホームに、伝法のオネエサンが立っていた。
「坂東はるかちゃんね?」
「は、はい」
 張り込みの刑事に発見された犯人て、こんな気持ち……。

「で、あなたは?」
 伝法さんは先生を見とがめた。
「あ、わたしは……」
 先生も気圧され気味のご返答。
「ちょっと確認させていただきます」
 伝法さんはスマホを手にした。
「もしもし、タキさん。仕込みの最中にごめん。いま東京駅。うん、はるかちゃんはメッケ。でも、それにさ……」
 話の最後に大爆笑して、伝法さんはスマホを切った。
「さ、行きましょうか、大橋先生、はるかちゃん」
 伝法さんは、さっさと歩き出した。
 
 五分後、スマホのアドレスを交換して、わたしたちは伝法さんの車の中。

「大橋先生も、新幹線、タキさんに頼んだんでしょ?」
「ええ、昨日電話がありまして『明日、東京の出版社行く予定あったよなあ』て……」
「さすがに、となりの席ってわけにはいかなかったようですけど、同じ車両にしたんですね」
「あいつ……」
 同感です、はい。でも、このおかげで楽になったんだけどもね。
「まあ、半分お遊びの賭け。半分は……フフ、そういうタキさんてかわいいですね」
 大人の関係ってムズイよ。
「申し遅れました、わたし渡辺真由って言います。編集の仕事やってます。トモ……はるかちゃんのお母さんとも古いつき合いです」
 アクセルを踏み込んだ。うしろの車の追い越しを阻止。二十キロオーバー、負けん気つよそー……。
「荒川についたら、お任せしていいんですよね」
「そのつもりです。故郷とはいえ事情が事情ですから」
「よかった。わたし午後から編集会議だから……先生、今夜はお泊まりなんですよね?」
「ええ、そのつもりですが」
「じゃ、はるかちゃんと同じホテルにしときますね」
「でも、予約してありますから」
「キャンセルしときます。同じ系列だから」
「え……?」
 タイヤをきしませて交差点を曲がった。
「あ、父が経営してるんです。大橋先生、こういうのって苦手だから、いつも人任せでしょ」
……でしょうね、今時ガラケーすら持たない原始人だから。
「はるかちゃん、どのへんに着けようか。いきなり家の前ってのもなんでしょう?」
「わがまま言ってすみません。南千住の図書館に行ってもらえます」
「あら、返し忘れた本でもあるの?」
「いいえ、借りにいくんです。南千住の空気を」
「ハハ、さすがトモちゃんの子ね。表現が文学的だ」
「いえ、文字通りなんです。荒川の子に戻るには、新幹線速すぎましたから」
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