わたしと同じ安泰中学の制服着た女の子が不機嫌な顔で座ってた。
「あ……えと……」
「佐伯法子」
「え?」
「佐伯法子ですぅ(*^^)v」
思わず、骨箱と仮位牌を見てしまう。
「えと……佐伯さんのお婆ちゃんと同じ名前?」
佐伯さんとこの親戚の子ぉか?
「ううん、その骨箱の本人の佐伯法子。桜ちゃんとおんなじ安泰中学。制服いっしょでしょ」
「え? え? 佐伯さんのお婆ちゃん?」
「うん、さくらちゃんは婆さんのわたし知らんでしょ?」
そういえば、亡くならはるまでご本人は見たことない。
「報恩講とかのお寺の寄り合いには来てたんやけど、さくらちゃんには、ただの婆さんの一人やから印象にも残ってへんねやわ」
ご近所のお婆さんで覚えてるのは米屋の米田さんだけや。
「そやね、お米屋の民ちゃんは個性的な子ぉやったからね……あ、ごめん、幽霊になったら心を読んでしまうわ」
「え、幽霊さん?」
「うん、婆さんの姿覚えてられたら、こんな中学生の生りでは出てこられへんかったんよ」
えと……頭がついてこーへんねんけど、とりあえず話聞こか。
「良袋はないと思うんよ。隆のやつ、お母ちゃんはええお袋やったいうんで、かんちゃん……桜ちゃんのお祖父さんに付けさせたんよ。ほんで、良袋(りょうたい)はないと思う!」
「えと……ほんなら、佐伯さん……?」
「のりちゃんて呼んで、かんちゃんも、そない呼んでたし」
「なんで、お祖父ちゃんがかんちゃん?」
お祖父ちゃんは諦観やから、ていちゃんになると思うねんけど。
「酒井の男はみんな諦がつくやんか、区別つかへんし、かんちゃんは諦は諦めるのテイやしとかで、下の観の字で呼んだわけ」
「なるほど……あの……それで?」
ご近所とはいえ、死んでお骨になったばっかりのお婆さんが、なんで女子中学生の姿で現れるんや?
「それはね、やり残したことが、ちょっとばかりあって、ちょっとだけさくらちゃんに手伝うてもらわれへんかと思て」
「手伝う?」
「えとね……」
のりちゃんが話を続けようとすると、動画がバグったみたいにカクカクし始めて、もう一回「えとね……」と言うてフリーズしたかと思たら、電源が切れたみたいに消えてしもた……。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
- 酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原留美 さくらの同級生
- 夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
- 瀬田と田中(男) クラスメート
- 田中さん(女) クラスメート フルネームは田中真子
- 菅井先生 担任
- 春日先生 学年主任
- 米屋のお婆ちゃん
- 佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)