大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・038『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』

2019-07-17 13:15:49 | ノベル
せやさかい・038
『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』 

 

 

 わたしと同じ安泰中学の制服着た女の子が不機嫌な顔で座ってた。

 

「あ……えと……」

「佐伯法子」

「え?」

「佐伯法子ですぅ(*^^)v」

 思わず、骨箱と仮位牌を見てしまう。

「えと……佐伯さんのお婆ちゃんと同じ名前?」

 佐伯さんとこの親戚の子ぉか?

「ううん、その骨箱の本人の佐伯法子。桜ちゃんとおんなじ安泰中学。制服いっしょでしょ」

「え? え? 佐伯さんのお婆ちゃん?」

「うん、さくらちゃんは婆さんのわたし知らんでしょ?」

 そういえば、亡くならはるまでご本人は見たことない。

「報恩講とかのお寺の寄り合いには来てたんやけど、さくらちゃんには、ただの婆さんの一人やから印象にも残ってへんねやわ」

 ご近所のお婆さんで覚えてるのは米屋の米田さんだけや。

「そやね、お米屋の民ちゃんは個性的な子ぉやったからね……あ、ごめん、幽霊になったら心を読んでしまうわ」

「え、幽霊さん?」

「うん、婆さんの姿覚えてられたら、こんな中学生の生りでは出てこられへんかったんよ」

 えと……頭がついてこーへんねんけど、とりあえず話聞こか。

「良袋はないと思うんよ。隆のやつ、お母ちゃんはええお袋やったいうんで、かんちゃん……桜ちゃんのお祖父さんに付けさせたんよ。ほんで、良袋(りょうたい)はないと思う!」

「えと……ほんなら、佐伯さん……?」

「のりちゃんて呼んで、かんちゃんも、そない呼んでたし」

「なんで、お祖父ちゃんがかんちゃん?」

 お祖父ちゃんは諦観やから、ていちゃんになると思うねんけど。

「酒井の男はみんな諦がつくやんか、区別つかへんし、かんちゃんは諦は諦めるのテイやしとかで、下の観の字で呼んだわけ」

「なるほど……あの……それで?」

 ご近所とはいえ、死んでお骨になったばっかりのお婆さんが、なんで女子中学生の姿で現れるんや?

「それはね、やり残したことが、ちょっとばかりあって、ちょっとだけさくらちゃんに手伝うてもらわれへんかと思て」

「手伝う?」

「えとね……」

 のりちゃんが話を続けようとすると、動画がバグったみたいにカクカクし始めて、もう一回「えとね……」と言うてフリーズしたかと思たら、電源が切れたみたいに消えてしもた……。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
  • 佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・28〔そんなんちゃいます〕

2019-07-17 06:47:56 | 小説・2

高安女子高生物語・28
〔そんなんちゃいます〕
        


「そんなんちゃいます」

 思わず言うてしもた。
 国語の時間、中山先生が思わんことを言うた。

「佐藤さん、あんた黒木華に似てるね!」

 クラスのみんなが、うちのことを振り返った。中には「黒木華て、だれ?」言う子もおったけど、たいがいの子ぉは知ってる。
 銀熊賞を取って大河ドラマとか出てる大阪出身の女優さんや。『小さいおうち』で主演して、ほんで賞を取った。中山先生は、さっそく、その映画を観てきたらしい。授業の話が途中から映画の話に脱線して……脱線しても、この先生の話はショ-モナイ。だいたい日本の先生は、教職課程の中にディベートやらプレゼンテーションの単位がない。つまり、人に話や思いを伝えるテクニック無しで教師になってる。なんも中山先生だけが下手くそなわけやない。
 うちは、授業中は板書の要点だけ書いたら、虚空を見つめてる。それが時に控えめいう黒木さんと同じ属性で見られてしまう。中山先生は、その一点だけに共通点を見いだして、映画観た感動のまんま、うちのことを、そない言うただけや。

 目立たんことをモットーにしてるうちには、ちょっと迷惑なフリや。

「そない言うたら、明日香ちゃんて、演劇部やな」
 加奈子がいらんことを言う。
「ほんま!? うちの演劇部言うたら、毎年本選に出てる実力クラブやんか!」
「去年は落ちました……」
 こないだの地区総会のことが頭をよぎる。あれがうちの本性や。
「せやけど、評判は評判。佐藤さんもがんばってね」

 で、終わりかと思たら……。

「せや、いっちょう、その演劇部の実力で読んでもらおか。167ページ、読んでみて」
「は、はい……隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃たのむところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔よしとしなかった……」
 
 よりにもよって『山月記』や。自意識過剰な主人公が、その才能と境遇のギャップから、虎になってしまうという、青年期のプライドの高さと、脆さを書いた中島敦の短編、というか、中二病文学の元祖。
 うちは、読め言われたらヘタクソには読まれへん。まして、クラスで教科書読まされるのんは初めて。で、黒木華の話題のついで。

「お~」と、静かな歓声。

「やっぱり上手いもんやないの。OGH高校の黒木華やな!」
 クラスのアホが調子に乗って拍手しよる。ガチショーモナイ!

「明日香、やっぱりあんたは演劇部の子ぉやで」
 授業が終わって廊下に出ると、南風先生に会うなり言われてしもた。
 しもた、先生は隣のクラスで授業してたんや。
「一昨日の地区総会のことも聞いたで。大演説やってんてな。アハハ、先楽しみにしてるよって」

 トイレに行って、鏡を見る。なんや、うちの知らん自分が映ってた。

 うちは、女の子の割には鏡見いひん。家出るときに髪の毛の具合を見るときぐらい。こんな顔した明日香を見るのは初めてや……ちゅうことは、自分でもちゃう自分しか見せてなかったいうこと……。

 そんなんちゃいます!

 そない言うて、トイレを出た。個室に入ってた子ぉがびっくりして、小さな悲鳴をあげた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・27『たこ焼きの縁・3』

2019-07-17 06:34:25 | 小説3

里奈の物語・27
『たこ焼きの縁・3』



 
 作品に血が通っていない、思考回路や行動原理が高校生のものではない。

 美姫のスマホには、コンクールでの審査員の評が載っていた。出所は高校演劇連盟のオフィシャル。
「ひどい評だなあ……」
 そう思って、部屋に戻って、改めて桃子で検索してみた。
 美姫のK高校は『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』という既成の脚本でコンクールに参加し、本選まで勝ち進んで落ちている。
 で、審査員の講評が、最初の一行。

 作品に血が通っていない……というのは問答無用に首を切るのと同じだ。

 首を切るには、ちゃんとした理由がいる。
 なぜ「血が通っていない」ように思ったのか、どこを指して「思考回路や行動原理が高校生のものではない」と断じるのか。
――作品が読みたいな――
 美姫にメールすると――ネットに作品が出てる、動画サイトでも観られるよ――という答えが返ってきた。

 戦時中、宝塚に入りたいと願いながら、空襲で死んだ女の子の幽霊と現代の女子高生との切なくもコミカルなドラマだった。
 たった三人の舞台だったけど、美姫たちの演技は、ちゃんと観客にも届いていた。

 審査員は、どこを見て首を切るような評をしたんだろうと疑問に思った。

――あの講評は変だよ――
 そう送ると、美姫も同感だった。美姫は審査員長に質問状を送っていた。内容は、あたしが感じたことと同じだ。
――どこをもって「作品に血が通っていない」のか?「思考回路や行動原理が高校生のものではない」のか?――
 これに対する審査委員長の答えが続いている。
――審査を終えた帰り道、ふとK高校にも、なんらかの賞を出すべきかと思いました――

 これはダメだろう。

 K高校に、なんらかの賞を出すべきと思った時点で、審査は無効だ。だって、自分が出した審査結果を否定しているんだもん。
「大阪って、こんなことがまかり通っているんだ!」
 たこ焼きが焼きあがる前に、あたしは自分の事のようにまくし立てた。
「それは、もうええねん」
「よくないわよ、こんなデタラメやられちゃって!」
「うん、里奈が、そうやって腹立ててくれたことで十分」
「そんな……」
「あたし、自信がなかってん。うちの演劇部で腹立ててたんは、あたしだけやし。審査委員長に楯突いたんで、大阪中からボロクソに言われて凹んでたから。里奈に、そう言うてもろて救われた」
「美姫……」
「うちの演劇部、コンクール終わったら、みんな辞めてしもて、あたし一人。あたしもバイト第一の生活になってしもたし……」
 俯いた美姫にかける言葉を探しているうちに「おまたせ!」の声がかかって、焼き立てのたこ焼きを受け取る。

 ホロホロとたこ焼きを食べながら、お互い友だちになれた温もりが染み渡る。

 年末かお正月、美姫とどこかに出かけようと思った。遠くの商店街からクリスマスソングが聞こえてくるんだもん。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『蜘蛛の糸』

2019-07-17 06:34:02 | ライトノベルベスト


ライトノベルベスト『蜘蛛の糸』 
   


 ある日の事でございます。

 御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでごしごし掃除なさっていました。
 
 極楽も、経費節減のため、人件費を削らざるをえなくなりました。お釈迦様は率先垂範(そっせんすいはん)のため、ご自分の散歩道は、ご自分で掃除されることになりました。
 昨日は、沙羅双樹(さらそうじゅ)の林の落ち葉を掃き集め須弥山(しゅみせん)のふもとでお焼きになられました。そのとき、須弥山の荒れようも気になられたのですが、須弥山はとてつもなく大きな山だったので、こう呟かれました。

「まあ、あれは趣味の問題だから、後回しにしよう……ちと、おやじギャグであったか……」

 寒いギャグに、お仕えの天人がクシャミをしました。
 そこで、今日は、おやじギャグをとばしても、誰の迷惑にもならぬように、独り極楽の蓮池のふちを掃除なさっていたのです。
 池のふちを掃除し終えると、ワッサカと茂りすぎた蓮を間引きにかかられました。
「うんしょ……!」
 一抱えの蓮の葉の固まりを取り除くと、そこに開いた水面から地獄の様子が見えます。
「そうだ、この池は、地獄に通じていたんだった……」
 お釈迦様は、百年ほど前にカンダタという男を蜘蛛の糸で救おうとしたことを思い出されました。
「あの時は、意地悪をして、助けてやらなかったなあ……」
 そうお思いになって、百年ぶりに池の底を覗いてごらんになられました。

 極楽の池は、今では教員地獄というところに繋がっておりました。

 教員地獄には、現役の教師であったころ、ろくな事をしなかった者達が、地獄の年季が明けるまで出ることができない学校に閉じこめられています。
 地獄そのものも廃校になった学校が使われています。
 その地獄の学校は、夜になることも、昼になることもなく、永遠のたそがれ時でした。

 チャラ~ンポラ~ン、チャランポラ~ン……と、チャイムが鳴るたびに、教師の亡者たちは、教室に行っては授業をします。

 教室は様々ですが、鬼の子達が生徒に化けて授業を受けています。その教室の様子は筆舌に尽くせません。お読みになっている貴方が、ご自身の学校を思い出して想像してみてください。
 授業が終わると、教師の亡者たちは職員室にもどり、吹き出した汗のような血や、血のような涙で、えんま帳の整理をやります。席に戻れば、パソコンに終わりのない書類の打ち込みをやりながら、聞き取れないような声で、だれに言うでもない不満を呟き、他の亡者たちは、みんな自分の悪口を言われているのではないかと思い、疑心暗鬼地獄になります。
 少し離れた会議室では、職員会議地獄があります。そこは、主に管理職だった亡者が、永遠に終わらない職員会議に出ています。平の亡者たちが、ときどき、ここに来ては、喧噪の中、しかめっ面をして息を抜いています。
 でも、本当に息を抜くと、議長に指名され、発言を求められ、質問地獄になります。
 そして、チャランポラ~ン……と、チャイムが鳴ると、授業地獄に行かなければなりません。
 そして、管理職だった亡者は、永遠に職員会議地獄からは抜けられません。

 神田という亡者が、職員会議を終えて、授業地獄にいくところが、お釈迦様の目に留まりました。
「ああ、これも何かの縁だろう……」
 お釈迦様は、思い出されました。

 この神田という亡者は、現職のころ「蜘蛛の糸」と呼ばれていました。神田は困難校ばかり渡り歩いてきた教師で、退学の名人でした。担任になると、めぼしい生徒に目を付けます。
 めぼしいとは、成績や出席状況から進級、卒業ができそうにないもの。問題行動が多く、懲戒を繰り返し、いずれは辞めさせなければならない者。
 そういう生徒には、四月から家庭訪問や面談をくりかえし、生徒や保護者と人間関係を作り、その「信頼関係」を作った上で、学年途中や、学年末に自主退学させていました。
 学校では、この退学のことを「進路変更」という言葉で呼んでいました。なんとなく美しい響きでしたが、要は首切りで、たいがいの教師は退学届をもらえば、それでしまいでした。
 多田は、本当に変更先の学校や、職場、ハローワークまで付いていってやりました。だから、大方の退学生は「ありがとうございました」と言って去っていきました。

 でも、神田は思っていました。これは学校のため……自分のためであることを。

 退学は、いざ、その場になればもめることが多くありました。こじれたときは弁護士が来ることも、裁判になったことさえありました。神田は、それが嫌だったのです。ただでも忙しい学年末に、そんなことに時間を取られることも、神経がささくれ立つのもごめんでした。
 でも、神田の蜘蛛の糸ぶりは徹底していました。
 保護者が来校したときは、玄関まで迎えに行って、スリッパを揃えました。退学が決まって、親子が学校を去るときは、玄関に立ち、親子が校門を出て、姿が見えなくなるまで見送りました。二分の一の確率で、校門を出るときに、親子は学校を振り返ります。その時には、深々と頭を下げてやります。そうすれば、親子が地元に戻ったとき、学校や担任の悪口を言いません。
 
 これは偽善です。だから神田は地獄に墜ちたのです。

「神田の心には、僅かだが、善意があった……」
 神田自身、高校生のとき、不登校になったり落第した経験があります。そして、何度か退学を勧められたことがあります。
「その孤独さは、分かっていたんだね……」
 そう呟くと、お釈迦様は、百年前と同じように蜘蛛の糸を一本垂らしてやりました。
「今度は、意地悪しないからね……」

「あ……これは?」

 神田は、一本の糸に気づきました。
 雲の先は、永遠のタソガレの空に、一点だけ青空になっていました。
「これは……蜘蛛の糸だ!」
 神田は、えんま帳も教材もみんな放り出して、蜘蛛の糸を昇り始めました。

「あの時といっしょだな……」
 
 お釈迦様は、呟きは続きました。
「わたしの悲願は……衆生済度なんだからね……」

 神田は、自分のあとから沢山の亡者たちが続いて糸をよじ登ってくるのが見え戦慄しました。

――来るな。これは、オレの糸だ。オレが救われるための糸だ――

 そう、思いましたが、国語の教師であった神田は思い直しました。
――カンダタはこれで失敗したんだ。みんな登ってくればいい。みんなで極楽に行こう……そうだ、おれんちは浄土真宗だ「善人なおもて往生す、いわんや悪人をおいてをや」だ……でも、組合の奴らが真っ先てのはムカツクなあ……まあ、いいか。
 神田が、目をこらして下の方を見ると、糸を登らずに、ぼんやり見上げている一群がいました。
「おーい、お前らも来いよ!……え、意味わかんねえだと……そうか、あんたら再任用で、定年超えてもやってたんだ……そこが地獄だってことも分からないか……いいようにしな……」
 そう言って、手を伸ばした先に糸がありません。
「え……うそだろ!?」
 極楽の池の水面は、もう、そこまで見えていました。あと五寸というところで、蜘蛛の糸は切れています。それでも、お釈迦様の悲願なのでしょう、糸は直立しています。
「なんで、五寸なんだ……そうか、オレって演劇部の顧問だったから尺貫法なんだ!」
 妙なところで納得しかけた神田でした。
「でも、なんで、あと五寸……!」
 神田の手は、虚しく空を掴むばかりでした。
 やがて、亡者たちは力尽き、ハラハラと学校地獄に墜ちていきます。
 神田は、最後までがんばりました。もう慈悲深いお釈迦様のお顔さえ見えます。

「残念だ……神田。お前は五年早く早期退職した。その分、糸の長さが足りないんだよ」
 
 お釈迦様は、涙を浮かべて、そうおっしゃいました。
「そうか……おれって、堪え性がないもんで……」
 神田は、悲しそうに……でも、納得して墜ちていきました。

「南無阿弥陀仏……」

 最後の、神田の一言が、お釈迦様の耳に残りました。
「これは、阿弥陀さんの仕事……だな」
 そう呟くと、お釈迦様は、たすきを外して、歩いていかれました。

 極楽には、何事もなかったように、かぐわしい風が吹き渡っていきました……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・68』

2019-07-17 06:20:06 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・68


『第七章 ヘビーローテーション 6』


 秀美さんは、明くる日の夕方までいて、病院やら警察との事務的な処理をしていった。

 さすがに元秘書。てきぱきと話をつけていく。
 その間、いろんな話をした。
 ネット通販の仕事が軌道に乗り始めていること。それまでの苦労。

 そして……この秋には正式に入籍すること。

 そして、お父さんが東京の病院に転院できるようになるまでは、わたしが看護すると。

「たいへんよ、こういう怪我人さんの看護は。なんせ脚以外は健康だから、ワガママ。リハビリ始まったら、いっそうね。わたしもはるかちゃんぐらいの頃に、兄貴が事故って看病したんだけど、いらだちとか不満とかが全部わたしにくるの。フフ、ヘビーローテーションだわよ」
 お母さんも、秀美さんもアニキが、若い頃事故ってる。で、今度は、お父さん。
「オレは、我慢強いから大丈夫さ」
 と、身体を拭きながらの仮免夫婦の会話。

「ヘビーローテーションって、なんですか?」

「同じ事を何度も繰り返すって意味。元は、放送局の用語。同じ曲を繰り返し流すこと。オリコンで上位の曲とか、独自のお勧めとかね。好きな曲でも三日もやってりゃ耳にタコ。怪我人さんの看護もいっしょよ」
「詳しいんですね」
「うん、学生のころラジオ局でバイトしてたから。ジョッキーのアシスタントしてたの」
「うちの社に採用するとき、最終選考で、それが決めてになった」
「え、そうだったの?」
「専務の平岡が、聴いてたんだって」
「まあ、それでかな。平岡さんには二度ばかり誘われましたけど」
「あいつ、手出してたのか!?」
「出していただく前に会社つぶれちゃいましたけど。あら妬いてるんですか?」
「ばか、はるかの前だぞ」
「あ、わたしタオル替えてきます」
 抑制のきいたじゃれ合いだった。わたしに気を使っているのが分かる。変によそよそしくされるより気が楽だ。

 ヘビーローテーションは当たっていた。
 
 三日目から始まったリハビリ。
「なんで、健常な左足からやるんだよ!」
 から始まって、あそこが痛い。どこがむず痒いとか、きりがありませんでした、はい。

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・12』

2019-07-17 06:11:58 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・12
ゼロからの出発

大橋むつお

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

少女: あれ……?(ドアを開けて、くぐっただけで何もかわらない)
パリー: まちがえたんじゃないですか、「こどもでもドア」と。
少女: ……いいや、これはおためし品で四回しか使えんようだ。
パリー: あう……すみません。わたしのために……あ、あの、他に道具があるかもしれません。
少女: そうだな……ええと(スペアポケットをさぐり、タケノコプターを出す)
パリー: あ、タケノコプター! それ、使えますよ。どこもでもドアより時間はかかるけど。
少女: これは、首に全体重がかかって、見かけほど楽じゃないんだよ。それに、ファグワーツまではとてもバッテリーが持たんだろう。
パリー: かしてください。(自分でポケットをまさぐる)代役コンニャク、ヒラリスカート、ジャイアンツトンネル、金太郎印のきびだんご、タイムレジ袋……
少女: もういいよ。君のせいじゃない。
パリー: すみません……
少女: さあて、魔法と行き場所のない魔法使いは何をすべきか……そうだ、今朝の新聞……あった、これだ!……ふむふむ、よし、条件はピッタリだ……このなりをのぞいてな……(下手袖に入り込む)
パリー: どうしたんですか?
少女: 着替えと化粧なおしだよ。
パリー: どこか行くんですか?
少女: 駅前の書店だよ、アルバイトを募集している。
パリー: え、先生、アルバイトするんですか!?
少女: 働かざるもの、食うべからず。人間のアイデンティティーは働くことだ。
パリー: 働くって、先生、人間の女の子として生きていく気ですか?
少女: そうだ、仕方あるまい。
パリー: 先生が女の子に……(#´0`#)
少女: 君が照れてどうする!
パリー: はい……手伝いましょうか。女の子の着がえとか、慣れてないでしょう?
少女: バカモン! 姿かたちはコギャルでも中味はオヤジだ。若い女が、オヤジの着がえを見てどうする!
パリー: じゃなくて、手伝いを……魔法がつかえたら、先生のイメチェンの着かえなんてチョイのチョイって……(杖を軽くふる)。先生、アルバイトは、本屋さんとか、スーパーのレジとかぐらいにしておいてくださいね。ファミレスとかファストフードは誘惑が多いっていいますからね。あ、それから、言葉使いも、そのオヤジ風じゃなくて、おだやかに。それから、先生って、オヤジっていうオーラが溢れ出てますから一時間に一度は鏡を見てくださいね。オヤジっぽいコギャルならそれでいいかもしれませんけど。書店は気品第一、茶髪とかピアスもなし。お風呂は毎日入って、バイトの日はちゃんと朝シャンやって……ねえ、聞いてます!?
少女: ちゃんと聞いて……あら?
パリー: あれ?

少女、入った袖とは、まるで違うところからあらわれる(たとえば上手袖)それまでとは全然違った清楚な制服姿。

少女: パリー、なにかやった?
パリー: いえ……あ、ちょっと杖をふった、イメチェンの着替えぐらいチョイチョイって……
少女: 少し魔法がもどってきたみたいだね。こんなところから出てきた。テレポテーションだ!
パリー: ……いいえ、完全にもどって……だって、先生、こんなに清楚できれい!
少女: 馬鹿、これはわしの……いえ、これはわたしの今の普通の姿よ。メイクおとして、ちゃんと服を着ただけ。
パリー: だって……
少女: じゃ、もう一度、そっちへ入るから、もう一度魔法かけてくれる?
パリー: はい、先生をもとの先生の姿にもどしてあげます!(少女下手袖へ)いっきますよ……先生を先生の、もとのあるべき姿にもどせ……!

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