大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・041『霊魔襲来・1』

2019-07-08 14:14:12 | 小説
魔法少女マヂカ・041  
 
『霊魔襲来・1』語り手:マヂカ  

 

 

 師団機動車北斗(大塚台公園に静態保存されているC58)は、始動と同時に降下した。

 十メートルほど降下して発進すると、大塚台公園の地下をSの字に助走したあと、空蝉橋通りの地下を直進。

 空蝉橋北詰の街路樹に似せた加速機でブーストをかけられ、降りしきる雨の中を一気に東京の空に駆け上がった。

 発進中は次元転移が働いているので地上の交通の妨げになったり衝突したりすることは無い。

「ブースト完了、第二戦速で九州を目指します。ブースト閉鎖、赤黒なし」

「ブースト弁閉鎖、赤黒なし、機関オートに切り替え」

「上空にエニミーの痕跡を認めず」

「警戒レベル3、前方にシールドを張りつつ対空警戒」

「フロントシールド展開、対空スコープ異常なし」

 友里の発声をノンコと清美が復唱して、女子高生とは思えない手際で、キビキビと操作する。

「いつの間に三人を……」

「三人は傀儡だ」

「ウッ……」

 懐かしくも忌まわしいブリンダの言いざまに、体中の血液が沸騰しかける。

 傀儡とは技能抽出提供を意味する。

 大戦中に、官民を問わず潜在的技能が優れた者を意識を眠らせたまま特務師団に徴発したことで、技能徴用が正しい呼称だが、意識を眠らせているため、俗に『傀儡』と呼ばれる。

「師団長、いつの間に取り込んだ!?」

『阿佐ヶ谷に自衛隊メシを食べに来た時だよ。マヂカとの相性がいいのでな、技能徴用ではなく自発的に志願してもらうつもりでいたが、緊急事態だ、了解してくれ』

「しかし……」

『大塚台の基地も未完成なのだ。基地への出入りもテディ―がいなければできない状況だったのは分かっているだろう』

「三人を使うのは今回限りにしてほしい……」

「とりあえずはブリーフィングだな」

 ブリンダが現実的なことを言う。

『九州地方の梅雨前線に紛れて霊魔が侵入している』

「「霊魔だと?」」

 ブリンダと声が揃う。

『ああ、七十四年ぶりの復活だ』

「霊魔に間違いは無いのか?」

 霊魔というのは、魔法少女にとって宿縁の敵だ。七十四年前、裏大戦で辛うじて撃破したが、我々魔法少女も眠りにつかざるを得ず、休息するだけの健康を取り戻すのに七十四年を要したのだ。

「霊魔が相手なら、司令も乗っていなけりゃおかしいだろ」

 そうだ、指揮官先頭は軍隊の常で特務師団とて例外ではない。師団長が同行しないのは中隊規模の威力偵察か少数軽装備の敵の排除と決まったものだ。

『機動車も万全ではない。私が乗れば積載霊能力を超えてしまう』

「それなら、須藤公園の河童が居るのはどういう訳だ?」

『ブリンダのジェネレーターだ』

 先日、千駄木女学院でのことを思い出した。ブリンダが目をやられたのを河童が助けた……いや、目を痛めたことそのものが、ブリンダも万全ではない証拠でもある。横を見ると、ブリンダはソッポを向き、河童がバツの悪そうな顔をしている。ジェネレーターということは、ブリンダの魔力そのものも減衰しているのだろう。

「それで、霊魔の情報は」

『乙一の水ドラゴンだ。打撃力はそれほどでもないが、水性攻撃能力は相当だ。やつの影響で九州地方は最大の警戒態勢で百万人に避難勧告が出ている。かならず裏次元でせん滅し現次元に越境させないよう、二人共同して事にあたれ』

 事にあたれとは、なんともアバウト。文句の一つも言ってやろうと思ったら、清美の声が響いた。

 

「二時方向に次元断裂を確認、距離5000、水ドラゴン突っ込んでくる!」

 

 考える前に体が動いた……。

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・3』

2019-07-08 06:23:35 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・3
ゼロからの出発
大橋むつお
 
 ※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します 
 
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 
 小鳥のさえずり。そよ風に吹かれる二人。
 
パリー: ……ちがったの?
少女: 苗字はロックウェル。イマイッチ・ロックウェルが正しい。そこの表札にもちゃんと書いてあるだろーが。
パリー: ……あ、ほんと……(落ち込む)
少女: だからロクなもんじゃないっていうんだ。
パリー: ……そうね。
少女: そういうデリケートで大事なものをすっとばして、派手な魔術や魔法にばかり目をうばわれる。そして、ちょっと魔力を失ったら、尻尾に火のついた猿みたいにうろたえて……今度は、塩をかけられたナメクジかい?
パリー: ……ごめんなさい(背をむける)
少女: 待てよ。そのままもどっても何の解決にもならないだろ?
パリー: だって……
少女: あたしでよけりゃ相談にのるよ。最終電車にゃ、まだ間があるから。
パリー: あなたが……?
 
この時、ふくろうが運んできた五、六通の郵便物と新聞が落ちてくる。
 
パリー: わっ!
少女: 郵便と新聞停めるのを忘れていた……ダイレクトメールばっか……何か飲み物でもとってくる。それ、そこのゴミ箱に捨てといてくれ。
   
少女、家の中へ。パリーは手渡された新聞とダイレクトメールを何気なく見る。
 
パリー: ほんと、あて名はみんな、ちゃんとロックウェルだ……新装開店、ジュンプ書店、求むパート、アルバイト……宅配ピザ半額……不動産に、車の広告……アイボにアシモ……ロボペット……先日おたずねのありました単身者用家事ロボットとロボット犬のカタログを送ります……単身、一人住まいのことだよね……?(少女が飲み物を手にもどってくる)
少女 おまちどう……あ、それロボットのカタログ……
パリー: イマ……ロックウェル先生って、一人住まい……?
少女: そうだよ。
パリー: 家族とかは?
少女: いない。完全無欠の一人暮らしさ。
パリー: ……え、じゃ、あなたは?
少女: ……まだ気がつかないのかい?
パリー: ……!?
少女: フフフフ、フハハハ……!(不敵な笑いに耐えられず、パリーが駆け出す)フリーズ!
 
氷りついたようにパリーが停まる。
 
少女: この程度の力は残っているようだな。魔法などというほどのものじゃないが……ホイ(指をひとふりすると、パリーの氷づけが解ける)
パリー: あ、あなた……?
少女: イマイチだよ。イマイッチ・ロックウェル。こんなナリはしておるがな。
パリー: せ、先生……!?
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・19〔ああ 辞めたった!〕

2019-07-08 06:17:16 | 小説・2
高安女子高生物語・19
〔ああ 辞めたった!〕       


 さすがに当日切り出すのは気が引けた。

 なにがて? クラブ辞めることやんか。

 芸文祭は、意外にいけた。『ドリーム カム トゥルー』は、女子高生の恋心を描いたラブコメ。で、主役のうちは、登場せえへん彼氏に恋心を抱いてならあかん。それも、相手に伝えられへん片思い。
 そのリリカルな描写が良かったて、講師の先生からも誉められた。瞬間、ええ気持ち。

 この芸文祭、ちょっと気になることがあった。

 なにか言うと、お客さんの入りが良かったこと。ええことなんやけど、気になる。誰に聞いても、こんなに入ったことはないそう。ドコモホールはキャパ434やけど、いつもはせいぜい80人ぐらいしか入れへん。それが倍近くの150人ほど入ってた。
 あの美咲先輩でさえ、嬉しそうにしてた。もちろん役者のあたしとしては、ええこっちゃ。

 ところが、この奇跡は、T高校のお陰や言うことが、よう分かった。

 T高校は、一昨年大阪で一等賞になり、関西大会でも一等賞、で、全国大会でも一等賞。審査委員長の平多オリダのオッサンも大激賞! 旭新聞が文化欄三段記事で誉め倒してた。ちなみに他の新聞は、どこも書いてへん。去年の本選の審査員に来たのが旭新聞の文芸部のオバチャン。その繋がりやろなあ。

 しかし考えたら、あれだけ大騒ぎして、434のキャパが一杯にはなれへん。まあ、世間の高校演劇のとらまえかたいうか関心はこの程度。やっぱり部活としてはトレンドやない。

 ほんで、T高校の芝居が終わったら、だんだん観客が減っていく。最後のうちらの芝居の時は100人おるかおらへんか。それでも例年の三割り増しぐらいにはなってるらしい。

 もう一つ分かったこと。

 うちらの『ドリーム カム トゥルー』は井上むさしさんの作品やねんけど、この作品に教育委員会は書き直しを言うてきたらしい。
 別に差別的な表現があった訳や無い。Hな表現があったわけでもない。なんでも「死を連想させるような表現はアカン」いうことで、連絡を受けた井上むさしさんは激怒したらしい。教育委員会は「死なさんと、海外留学に行ったいうようなことで」と言うたらしい。それまでは「チャコの一周忌」いう言葉が「チャコが眠り姫(植物状態)になってから一年」に変わった。ちょっとした言葉の変更やから気にもとめへんかった。
 井上さんのツイートで初めて分かった。大阪はS高校で、生徒が自殺するいう事件があった。あれからいうか、あれを過剰に意識してんのんかと思た。

 今日は、反省会と後かたづけ。

 まず、後かたづけ。これは真面目にやった。立つ鳥跡を濁さずですわ。
 で、美咲先輩が言う前に言うたった。

「あたし、今日で演劇部辞めさせてもらいます!」

 先輩らも南風先生もびっくりしてた。しばらく沈黙が続いたあと、先生が口を開いた。
「美咲も辞める言うてる。明日香も辞めたら、四月から部員ゼロになる」
 承知の上です。
「ま、それはええねん」
 え、なんでサラリと言えるわけ?
「新入生を二三人入れて鍛えたら、いまぐらいの演劇部はなんとかなる」
 え、え、そうなん?
「しかし、クラブ辞めたら、三年なったときに調査書のクラブの欄は空白になる。損するでえ」
 ほんま!? そんなことぜんぜん考えてへんかった。
「せやから、籍だけは置いとき。部活に来る来えへんは勝手にしたらええ。ほんなら反省してもしゃあないな。今日はこれで解散!」
 まるで、急な出張が入って授業中断するような気楽さで、南風先生は言うた……。

 ま、ええわ。辞めることに違いは無い。

 ああ、辞めたった!

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高校ライトノベル・里奈の物語・18『スカトモ』

2019-07-08 06:09:39 | 小説3
里奈の物語・18『スカトモ』


 
 今日も朝から雨。

「雨か~~~~」

 カウンターで、ため息つきながらも、ホッとしている。
 雨ならば、外に出なくてもいい。
 今里の伯父さんちに来てからは、少しは出るようになったけど、ほんのちょっとだ。
 雨の日には出かけない。今里に来て早々に決めた。
 奈良に居るころは、晴れの日でも外には出なかった。だから雨の日には外に出ないくらいは大進歩。

 だけど、それが言い訳なのはよく分かっているんだ。

 引きこもっていても「人は、こうあるべき」というのが頭の中にある。ってか、引きこもる前のあたしは、当たり前に出かけていた。
 奈良町や奈良公園は、あたしの庭みたいなもんだった。奈良公園で出会う鹿にも友だちがいて、友だちの鹿は、ちゃんと区別がついた。
 横浜に居たころも、桜木町界隈が縄張りだった。
『コクリコ坂から』を観た時には、主人公の海は自分だと思っていた。
 横浜のどこかに、自分が知らない兄が居て、それを兄とは知らずに恋心。兄と分かって、ショック。ショックを乗り越えて「死んだお父さんの代わりに、神さまが、あなたに会わせてくれたんだと思う。たとえ血がつながっていても、好き!」ってなラストシーンを思い浮かべ、一学年上の男の子を、勝手にお兄ちゃんと決めて時めいていた。
 でも、お父さんは死んでなんかいないし、お母さんとも、うまくいっていて、毎日元気に会社に行っていた。

 コクリコ坂ごっこをしなくなったころ、お父さんが居なくなった。

 ダメだ、この問題は、まだ整理が付いていない。
 お店のガラス戸越しに、ボンヤリ雨を見ていると、余計なことが浮かんでくる。

 こんなあたしを、拓馬は三日も続けて連れ出した。同じ引きこもりのくせに元気過ぎ。
 挑戦的引きこもりと納得はしているけど、拓馬が具体的に何に挑戦しているのかは分からない。
 いまは、これ以上に距離を詰めたくないので連絡はしない。拓馬も連絡してこない。

――午後から、大阪の天気は回復の見込み――

 スマホを弄っていたら天気予報が目につく。回復なんかしたら、出かけないことに言い訳がいる。

「里奈ちゃん、よかったら、これ使い」
 お昼を食べていたら、伯父さんがパソコンを持ってきた。
「型落ちやけど、新品や」
「わー、いいの?」
「知り合いの古物商が、十台も引き受けて、持て余しとったんや。タダ同然やから気いつかわんで」
「あ、ありがとう! 開けていい?」
「ああ、ええよ。セッティングもしたげるさかいな」
「……お、ピンク!」
「人気のない色でな、十台ともピンクやさかい、困っとったんや」
 学校の先生には、女性だからと言ってピンクなんて決めるのは女性差別なんて言う人がいる。
 子どものころから「ピンクはかわいい」と言われるので、ピンクが好きと思い込んでるだけ。そういうところから自由にならなきゃいけない! という屁理屈。

「ピンクはかわいい」なんて言われたことはないけど、あたしはピンクが好きだ。

 こないだ買ったハイカットスニーカーもピンク。
 どんな経緯で、古物商さんが持て余したのかは分からないけど。あたしは、この可哀そうなピンクのパソコンを子分にすることにした。
 名前はピン子……これは、オバサンタレントにいるので却下。
 素直に桃子にする。

 セッティングされた桃子にはスカイプがインストールされた。
 桃子のピンク色は、それだけでポジティブ。朝には、しばらく連絡なんかしないと決心していた拓馬にメール。
 スカトモ(スカイプ友だち)第一号として、拓馬がエントリーされた。


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高校ライトノベル・時かける少女BETA・52≪国変え物語・13・緊急秀吉改造作戦≫

2019-07-08 06:01:22 | 時かける少女
時かける少女BETA・52
≪国変え物語・13・緊急秀吉改造作戦≫ 


 立ちションで家康の国替えが決まった話は有名になった。

 気楽さ、人を喰ったところ、そして、何よりも秀吉に次ぐ勢力である家康を明るく有無を言わせず承知させたところに人は感心した。
「こんな芸当は、関白様やないとでけへんこっちゃなあ!」
 道頓などは感心しきりで、元々の秀吉好きが、さらに高じて、頼まれもしないのに大坂の民生安定に努め、かねがね計画していた道頓堀の掘削計画を、一から練り直した。
「関白殿下の大坂や、もっとごっついこと考えならな!」
 道頓は、大坂の主だった町人と相談し、浪速改造計画に没頭した。

 美奈は、立ちション国替えが自分のプランであったことは誰にも言わなかったが、一人の例外がいた。
 石川五右衛門である。

「目出度い話じゃないか。これで秀吉の元に天下が統一された。天下は平和になる。オレの商売も繁盛する。良いことずくめだ」
「それがね、その時の小便を、ちょっと検査してみたんだけどね……秀吉さんにボケの兆候が出ているの」
「どういうボケだ。ボケようによっちゃ、周りが固めてやれば済む話だ。長い目で見れば、天下の乱になりかねねえが」
「誇大妄想型……自分を実際以上にえらく思って、感情の抑制が効かなくなる」
「無用の死人や戦が起こりかねないぜ」

 歴史通りいけば、この1591年に、千利休が切腹させられ、あくる年には、なんの名分もない朝鮮への侵略が始まる。そして、そのあくる年には鶴松が死に、秀吉の誇大妄想と猜疑心は病的に進行する。美奈の正念場になってきた。
「大坂大祭りをやろ!」
 秀吉の精神的な疾病は伏せたまま、天下統一の記念行事をやればと、美奈は道頓に持ち込んだ。道頓も秀吉も喜び、大坂や天下の人々の役に立つことを考えた。

「単なる祭りではのうて、天下が関白殿下の元に統一されましたること、また、これから天下発展の目標を指し示すドンチャン騒ぎをやってみたいとぞんじまする」
 道頓は千利休を筆頭人として、大坂の商人たちが秀吉に申し入れた。
 美奈は、その半月ほど前から、認知症の進行を抑える薬を秀吉に処方するとともに、国の内外の珍しいものを見せて刺激を与えておいた。これにはヒントがあった。長曾我部元親が土佐で獲れた鯨を秀吉に見せたところ、秀吉は大そう喜んだ。

 その珍しがりに目を付けたのである。で、秀吉は閃いた。

「よし、期間を半年といたし、天下の物産会を兼ねた大祭りにいたそう!」
 秀吉は、これに熱中した。
 物産会は月ごとに十か国ほどにまとめ、日によって日本六十余州の日を決め、後世の万博のようなことを計画した。

 千利休の切腹も、文禄の役も起こらなかった。

 秀吉改造計画は、とりあえずは成功した。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・59』

2019-07-08 05:52:47 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・59 




『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない8』

 工場に入った……機械が一つもなく、五つほどの机にはパソコンが並び、知らない女の人が五人、パソコンとか電話に忙しげだった。
 みんなチラッと一瞥(いちべつ)はくれるが、空気のように無視された。
 わたしはシカトと無視の違いを体感した。
 シカトには、反感や侮蔑といった人間的な感情が潜んでいる。
 しかし無視はちがう。完全な無関心……。

「はるかちゃん!」

 懐かしい声が段ボールの箱を抱えて下りてきた。
「シゲちゃん!」
 工場で一番若かった茂田さんだ。
「いったいどうなっちゃったの? 森さんは? 田村さんは? 機械はどこへ行っちゃったの? この人たちはなんなの!?」
「そ、それはな……」
「……わたし、自分の部屋見てくる!」
「はるかちゃん!」
 シゲちゃんの声を背中に、わたしは自分の部屋のドアを開けた……。

 わたしの部屋だった痕跡は何もなかった。
 部屋の三方の壁にはスチールのラック。そして装身具や小間物がビッシリと区分けして積まれていた。部屋の中央は段ボールに入った未整理の商品がいくつも……。

「はるかちゃん、覚えてる?」

「え……?」
 その女の人は、メガネを外して慇懃にお辞儀をした。まるで社長秘書のように……。
「あ……!?」
「思い出してくれたようね」

 古いのやら、新しいのやら、この人に関する記憶が、バグっていたパソコンが急に再起動したように思い出された。

 高峯秀美さん…………………………!

 前の会社で最後まで残って残務処理とかしてくれた、お父さんの秘書。
 南千住に来てからも、何度か会社の再建の話をしにきていた。
 そして、いつのまにか、お父さんとお母さんの間に割り込んできた人。

「連絡してくれたら、迎えにいったのに」

 転校した日に竹内先生が言ったのと同じ台詞を、お父さんが口にした。
 笑顔の蔭に隠しきれない戸惑いが見えた。
 アメチャンの代わりにシフォンケーキとミルクティーが出てきた。
「わたしの手作りだけど、シフォンケーキって、カロリー控えめでアレンジしやすいから、みんなのお八つ用につくってるの。お昼になったら三人でお蕎麦でも食べに行きましょ、A工高の近くに新しい蕎麦屋さんができたの」
「わたし、大阪の友だちといっしょにディズニーリゾートに行く途中だから」
「あら、お友だち待たせてるの。呼んでくりゃいいのに」
「図書館で待ってもらってます。昼前の電車に乗るから」
「ここもずいぶん変わっただろ」
「印刷屋はやめたんだね……………………これ、レーズンがいいアクセントになってますね」
 シフォンケーキで話題をそらす。
「お褒めいただいいて、どうも……この六月から、お父さんといっしょにこんなこと始めたの」
 出された名刺には、ネット通販「NOTION」vice-president高峯ヒデミとあった。
「あ、オレは……」
 お父さんの名刺はpresident伍代英樹。
「森さんと田代さんは?」
「お引き留めはしたんだけどね、印刷のこと以外は分からないって、おっしゃって……」
 身に付いた優雅さでミルクティーを飲む秀美さん。
「いや、シゲちゃん通して話はしてんだよ。なんたって、親父の代から働いてもらってるんだから」

 なんで汗を拭くの……。
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