大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・035『佐伯さんのお婆ちゃん・1』

2019-07-11 14:35:45 | ノベル
せやさかい・035
『佐伯さんのお婆ちゃん・1』    
 
 
 ウ!?
 
 糸こんにゃくを挟んだまま、お祖父ちゃんのお箸が止まった。
 脳みそか心臓の血管が切れたんかと、ドキッとする。
 歳の割に元気なお祖父ちゃんのことをお母さんはこない言う「きっと大好物のすき焼き食べてるときにポックリ逝くでぇ」と。
 わたしは、お祖父ちゃんの口をこじ開けて、口いっぱいに頬張った肉やら糸こんにゃくを掻き出して、マウストウーマウスの人工呼吸をしてあげならあかんと覚悟した。
 きのう学校で救急救命の講習会があった。夏休みを控えて各クラブから三名以上が出席して人工呼吸とか蘇生法とかの訓練。
 
 文芸部は全員参加! 部員全部で三人やけど。
 
 そんで、講師の救急隊員のおっちゃんから「あんた上手やなあ!」と褒められた。
 頼子さんも「さくらを合宿の救急隊長に任命します!」と大真面目な顔で宣言。
 その救命救急の初体験をお祖父ちゃん相手にやることになるとは思えへんかった(-_-;)。
 救命救急というと、人工呼吸!
 気道を確保して、直接口をつけて息を吹き込む。もう完全なディープキスやんかあああああああああ!
 13歳にして人生初のキス! その相手がお祖父ちゃん!?
 そやけど、救急車がやってくるまでの数分間が運命の分かれ道。
 うん、しゃあない! 任せといてお祖父ちゃん!

 ……お祖父ちゃんのお箸が止まった数秒で、これだけの妄想が湧いてきた。
 
「……救急車や」
 
 お祖父ちゃん、自分で救急車をよぶ?
 いやいや、それは妄想や。もう、ややこしい!
 ちゃう。遠くのほうからサイレンの音が聞こえてくる。サイレンというのはよう聞かんと、パトカーか消防車か救急車か分かれへん。
 しかし、七十年以上生きてると、その違いが瞬時に分かるみたい。
「近くやなあ」
 今度は伯父さんが箸を置いた。てい兄ちゃんは肉を咀嚼しながら次の肉に目を向けてる。伯母さんと詩(ことは)ちゃんはサイレンが聞こえてくるサッシのほうを向いてる。
 
 佐伯さんの家だよ!
 
 ちょうど帰ってきたお母さんが玄関のほうで声を上げる。
「しまった!」
 ひとこと言うと、糸こんにゃくの切れっぱしをまき散らして飛び出していった。
 血相を変えたお祖父ちゃんに続いて、食卓のみんなも飛び出す。わたしも、卓上コンロのガスが消えてるのを確認して飛び出す。
 佐伯さんは道路一本隔てたお隣さん。やさしげなお婆ちゃんが住んではる。
 つっかけ履いて、境内を突っ切って山門の外へ。
 ご近所の人らも集まりかける中、救急隊員の人らは空のストレッチャーをしまうと救急車を出してしもた。
 その代わりに、別のサイレンが近づいてくる。さっきとは違う、あれはパトカーや。
 
 お祖父ちゃんは、佐伯さんの家から出てきた男の人と向き合ってた……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
  • 佐伯さんのお祖母ちゃん
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・22〔お祖母ちゃんの骨折〕

2019-07-11 08:39:56 | 小説・2

高安女子高生物語・22
〔お祖母ちゃんの骨折〕       


 お祖母ちゃんのお見舞いに行った。

 お風呂でこけて、右肩を骨折。いつもは元気なお祖母ちゃんがしょんぼりしてた。
「もう一人暮らしはでけへんなあ……今日子、どこか施設探してくれへんか」
 ベッドに腰掛けて、腕吊って、情けなそうに言うお祖母ちゃんは、かわいそう言うよりは可笑しい。
 まあ、今年で八十五歳。で、人生初めての骨折。弱気になるのは分かるけど、今回の落ち込みは重傷。

「あんな落ち込んだら、一気に……弱ってしまわはるで」

 インフルエンザが流行ってるんで、十分しか面会でけへんかった。
 で、帰りにお祖母ちゃんの家に寄る途中で、お父さんがポツンと言うた。
「冷蔵庫整理せなあかんなあ」
 お母さんは現実的。入院は二か月。やっぱり冷蔵庫の整理からやろなあ。

 昼からは、伯母ちゃん夫婦も来た。もう病院の面会はでけへんかったみたい。
「ババンツ、野菜ようさん買うてからに……」
 伯母ちゃんとお母さんは、お祖母ちゃんのことババンツて言う。乱暴とかわいそうの真ん中へんの呼び方。
「うちも、大きなったら、お母さんのことババンツて呼ぶのん?」
 小さい頃、そない言うたらお母さんは怖い顔した。

「そうや、パーっとすき焼きしよ!」

 伯母ちゃんの一言で、にわかにすき焼きパーティーになった!

 なるほど、肉と糸コンニャク買うてきたら、すき焼きができるぐらいの材料やった。
 お祖母ちゃんしんどいのにええんか言うくらい盛り上がった。
「しんどいことは、楽しいやらならなあ」
 お母さんと伯母ちゃんの言うこともわかるけど、うちは、若干罪悪感。それが分かったんか、こない言う。
「明日香は、ババンツのええとこしか見てへんさかいなあ。そんなカイラシイ心配の仕方でけんねんで」
 そうかなあ……そない思たけど、すき焼き食べてるうちに、あたしもお祖母ちゃんのこと忘れてしもて、二階でマリオのゲームをみんなでやってるうちに、お祖母ちゃんのこと、それほどには思わんようになった。
 明日香は情が薄いと思う自分もおったけど、伯母ちゃんとお母さんの影響か、コレデイイノダと思うようになった。
 帰りは、掃除して、ファブリーズして、おっちゃんの自動車に乗せてもろて家まで帰った。

 途中布施で、クラスのS君を見た。

 ほら、エベッサンのとき、うちがお祖母ちゃんのために買うた破魔矢をあげて、それから学校に来るようになったS君。歩道をボンヤリ歩いてた。一目見て目的のある歩き方やないのんが分かった。

 そう言うたら、先週は学校で見かけへんかった。うち気ぃついてなかった。破魔矢あげたんも親切からやない。間ぁがもたへんから、おためごかしに、やっただけや。S君は、それでも嬉しかったんやろ。その明くる日からは、しばらく来てた。それから、うちはS君のことほったらかし。

 ヤサグレに見えるけど、S君は、うちよりもピュアや。

 おっちゃんの車は、あっという間にS君を置き去りにして走り出した。
 当たり前や。うち以外はS君のこと知らんもん。

「ちょっと、おっちゃん。車停めて」

 その一言が言われへんかった。うちは偽善者やなあ……なんやS君の視線が追いかけてくるような気ぃがした……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・21『エロゲに偏見はないけど……』

2019-07-11 08:33:37 | 小説3
里奈の物語・21
『エロゲに偏見はないけど……』


 エロゲに偏見はない……見たのは初めてだけど。

 一つのフレーズで人をカテゴライズするのは間違っていると思う。

 中二病、ツンデレ、マジキチ、ヤリマン、ネトウヨ、というようなネット言語のカテゴライズ。要は昔のレッテル貼り……それ以上に浅はかで罪が深い。
 でも、青春ドラマだと思って見せられたゲームが、いきなり女の子を凌辱するような展開になったらビックリで、理性的な反応ができない。


 きっと怖い顔をしていたんだろう、拓馬の表情も硬くなってしまった。
 互いに訳のわからないことをラインのフレーズみたく、千切るように言って沈黙。
「あたし、帰る」
「そっか」
 二人合わせて二秒にも満たないやりとりで別れる。お茶を持ってきたお祖父さんが、お盆を持ったままオロオロ。

 ランナーズハイはきれいさっぱり消えてしまった。今里までの帰り道でも蘇ってはこなかった。


 お店に戻ると。伯父さんとおばさんが、入試案内のようなものを袋詰めにしていた。

「手伝います」
 そう言って、店番用の前掛けをする。
「あ、これはええよ」
 伯父さんが、少し慌てたように言う。
「でも、数多そうだから」
 そう言って、A4ほどの茶封筒を持ち上げる。
「あ……!」
 あたしってば、封筒を逆さに持ったので、中身が床に落ちた。
「うわー……!」
 それは極彩色の錦絵だった。ザンギリ頭のオニイサンと日本髪のオネーサンが切なそうに半裸で絡んでいる。

 気まずい間があいた。

「これは春画いうてな、浮世絵やら錦絵では主流になってたもんや。長いこと日陰者扱いやったけど、最近は見直されて女の人が買いに来る」
「けど、里奈ちゃん、これは手伝わんでもええよ」
 おばさんが、落ちた春画を拾おうとした。
「あたし平気、ってか、面白い……これも、これも、イケてる!」

 高校生の常套句で感嘆したけど、ほんとうに春画は新鮮だった……。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・55≪国変え物語・16・惜別なんだけど≫

2019-07-11 08:20:54 | 時かける少女
時かける少女BETA・55
≪国変え物語・16・惜別なんだけど≫ 


 鶴松は髄膜炎だった。

 幼児に多い病気で、二十一世紀でも子供の四人に一人が罹患するが、よほどの手遅れでない限り死ぬことは無い。
 が、この時代髄膜炎の治療法はない。よほど運のいい子が自然治癒するだけだ。

――この子の死が、秀吉を癒しがたいほどに狂わせて慶長の役を起こすんだ――

 しかし、美奈への通告が遅れた。美奈への秀吉の信頼は、他の御殿医師らの反発をかっていた。発病から四日がたっており、二十一世紀でも「よほどの手遅れ」の部類に属する。
「なぜ、もっと早くお知らせくださらなかったのですか!?」
「淀がの……そんなことはどうでもいい。なんとか鶴松を治してやってくれ!」
 秀吉の濁した言葉で、だいたいの察しはついた。

 美奈は、加藤、福島、黒田などの尾張閥の大名と仲がいいが、石田三成を筆頭とする近江閥の大名とは距離があった。淀君は近江閥の上に浮上している。そこに御殿医師らの反発である。これが四日の遅れになった。
「鶴松を死なせたら、そちの命は無いものと思え」
 淀君は、冷たく宣告した。

 鶴松を時間を超えて運べれば、あるいは助かったかもしれない。だが、時間を超えられるのは、美奈一人だけである。

「われら奥医師にも立場というものがある。そなたが治療にあたったということは内密じゃ、よいな」
 御殿医師の親玉の正玄に釘をさされた。
「絶対助けます。邪魔だけはしないでください。鶴松君には、この国の命運がかかっているのです!」
 正玄の顔も見ないで美奈は答えた。美奈は、とりあえず高くなった脳圧を下げた。このままでは治っても障害が残る。あとは脊髄注射をして、体力の維持である。
「御尊体に針を刺すとはなにごとか!」
 正玄が怒鳴る。これでは治療ができない。
――オッサン、それ以上言うと、ここで発作で死ぬことになるぜ――
 奥女中に化けた五右衛門が、正玄の背骨の間に針を突き刺している。
――これを、もう一寸打ち込めば、あんたは心の臓の発作そっくりに死ぬ――

 正玄は黙った。五右衛門は美奈に向かって闇語りで話しかけてきた。

――必要なことがあったら言ってくれ。俺は針で人は殺せるが、助けることはできないからな――
――邪魔が入るのだけ止めて。あとは、この子の運と、時間の問題――
 治療には丸二日かかった。途中邪魔が入ってはいけないので、美奈はずっと鶴松に付き添った。五右衛門は、時には淀君自身に化けて、美奈の治療を守った。

「かかさま……」

 三日目に鶴松は意識を取り戻し、日本は大きな歴史上の失敗をしなくてすんだ。

「美奈、おまえは……時の流れを超えてやってきたんだな」
「さあ……でも、わたしの役割は終わったわ。放っておくと、日本は明を手に入れようとして朝鮮に出兵するところだった」
「俺も釜茹でにならずにすんだしな。これは豊臣のためか?」
「豊臣なんてどうでもいいの。政権を維持できるだけの組織も人のつながりもない。秀吉さんが死ねば……あとは、五右衛門さんたちの問題……ね」
「美奈……」
「あたし、そこの角を曲がったら消える。道頓さんには五右衛門さんから、よろしく言っておいて」
「ああ……」

 美奈が築地塀の角を曲がった。五右衛門は、たまらなくなって反射的に後を追った。

 築地の向こうには秋の枯葉が渦巻いていた。そこに飛び込めば美奈の後を追えるような気になった。

「美奈ああああああああああああああああああああああ!!!!」

 五右衛門は枯葉まみれになって佇んだ。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・62』

2019-07-11 08:06:05 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・62 


『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない11』

 ファミレスで早めの夕食をとったあと、ホテルにチェックイン。
 
 高そうなホテルだったらと心配していたんだけど、真由さんがリザーブしてくれたのは、こぢんまりとしているけど品のいいビジネスホテル。
 先生の部屋とは向かい同士。このへんに真由さんの気配りを感じる。分かるでしょ、隣同士だと、こういうビジネスホテルって音が聞こえるんだよね。

 先生は電車の中でも、ファミレスでも、芝居やバカな話はしてくれた。
 しかし、午前中の千住でのことは、なにも聞こうとはしなかった。
 わたしが話せば聞いてくれたんだろうけど、わたしも整理はついていなかった。
 でも、わたしの心の痛みは十分に分かってくれている。無関心のいたわりが嬉しかった。
「ほんなら、明日の朝飯で会おか……ま、なんかあったらいつでもノック……部屋に電話してこいや」
 そう言って、先生は向かいの部屋へ。

 ドサッ! ベッドにひっくり返ってみた。

 …………なにも湧いてこない。

 胸がなんかしびれている。
 本当はとても痛いのかもしれない。でも麻酔がかかっているようにしびれている。
 午前中のできごとが、とても遠いことのように思われた。ほんの数時間前のことなのに。
 荒川の土手で泣いたことも覚えている、もちろん。
 でも、あのとき爆発したわたしの心……大きな穴が開いている。
 その穴は空虚なんだけど、爆発したときの衝撃は不思議に蘇ってこない。
 時間がたてば、それはまたやってくるかもしれない。
 だから、いまのうちに考えよう、決着のつけ方を。
「おわかれだけどさよならじゃない」にするために。

 わたしは、あの群青のポロシャツを渡しそこねていた。

「……そうだ!」

 わたしは思いついて、小さなテーブルにホテルの便せんを載せて思い浮かんだ言葉を書き始めた。
 一枚書きそこねて、二枚目でスマホが鳴った。
「はい、はるかです……」
「あ、わたし真由。ごめんね遅くに」
「いいえ、すっかりお世話になっちゃって」
「どうだった、お父さん」
「ええ、元気でした。突然だからびっくりしてました」
「はるかちゃん、あなた自身は?」
「大丈夫です、気持ちにケリがつきました。先生には少し面倒かけましたけど」
「そう、声も元気そうだしね」
「はい、いつものわたしです!」
「みたいね。よかった。場合によっちゃ、そこまで行こうかと思った。もう大丈夫だと思うけどなにかあったら電話してね」

「ありがとございます……おやすみなさい」
 簡潔な電話だった。真由さんの性格と、ケリのついたわたしの気持ちが簡潔にさせたんだ。
 振り返って、手紙の続きを書こうかとテーブルに目をやるとマサカドクンがいた。
――ウ。
 便せんを指してなにか言いたげ。
「大丈夫、クダクダ書かないわよ。今の電話みたく簡潔にね」
 書きかけの二枚目もバッサリ捨てて、三枚目。一分足らずで書き上げた。
――ウウ……。
 マサカドクンはなにか言いたげであったが「大丈夫」と心の中でつぶやくと、フっといなくなった。
「さ、テレビでも観よっか!」
 しばらく観てないなあ。と、時計を見ると……。
「え、もうこんな時間!?」
 なんと日付が変わりかけていた。

 明くる日は、ノックの音で目が覚めた。

「はい……」
「ネボスケ、先に朝飯いってるぞ」
 慌ててダイニングに下りると、先生は食後のコーヒーを飲んでいた。
「すみませーん……」
 そして朝食をとりながら、互いの一日の行動を確認した。
 先生は横浜の出版社に、わたしは由香と会ってアリバイの資料をもらうために、スカイツリーにだけ寄ってすぐに帰ることにした(ほんとはスカイツリーじゃなくて、もう一度南千住に寄るんだけどね。そのことはナイショにしておいた)

 と、かくして、十二時半には新幹線に乗ることができた。待ち時間の間に真由さんにお礼のメールを打っておいた。
 ポロシャツは仲鉄工のおじさんにあずけた、あの手紙とともに。
 手紙に書いたのは、けっきょく一行だけ。

 ――おわかれだけど、さよならじゃないよ。はるかなる梅若丸
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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・6』

2019-07-11 07:01:01 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・6
ゼロからの出発
 
 
大橋むつお
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 
 空から宅配便が降ってくる。
 
少女: あ、青色耳なしネコからだ!
パリー: 青色耳なしネコ!?
少女: ああ、もつべきものは友だちだ。
パリー: 先生、それってドラ……のことですか!?
少女: 名前は言えんが、ドラやきがとりもつ縁でな……やったア! 異次元ポケットのスペアだ! (彼方にむかって)ありがとうドラ……いや、青色耳なしネコく―ん!
パリー: あ、手紙がついてます。
少女: なになに……(友人の声で)「こんにちは、ぼく青色耳なしネコです。けして青ダヌキではありません。御依頼のあった道具、いちいち荷づくりしては大変なので、スペアのポケットごと送ります。フォグワーツまでは魔法が使えないのですから、ひげもぐら校長のいやがらせや妨害があるかもしれません。お役にたてればさいわいです。なお、ポケットの中の道具は種類は多いですが、その分おためし品や体験版がほとんどです。使用回数や機能に制限がありますので御注意ください。おちついたら、またいっしょにドラ焼を食べにいきましょう。ウフフフ、二〇××年、イマイッチ・ロックウェル先生へ、青色耳なしネコ。」
パリー: すごい、ドラ……いえ、青色耳なしネコって字が書けるんですね。でもあの丸い手でどうやってペンを持つんだろう?
少女: そりゃあ、二十二世紀のロボットだからね。
パリー: ひげもぐらの妨害ってありそうなんですか?
少女: わしは、妨害されるほど値打ちのある魔法使いじゃないがね。それでも妨害はしてくるだろう、奴は反対されるだけで、相手の存在が許せなくなる心のせまい男だ。
パリー: ひげもぐらの何に反対されていたんですか?
少女: すべて! しかし、わしも自他共に認める事なかれ主義のイマイチ先生じゃ、九十九パーセントは我慢した、ニッコリと微笑さえうかべてな。しかし、最後の一つだけは許せん!
パリー: あ、勤務評定の実施!
少女: うんにゃ。
パリー: 魔法の国の歌と旗の強制!
少女: うんにゃ。
パリー: 食堂のカレーライスの十円値上げ!
少女: あれは二十円あげろと言うとる。ただし肉を二十グラム増量したうえだがな。
パリー: それじゃあ……
少女: わからんか?わしが奴の何に反対しておるか?
パリー: ……はい。
少女: 「三べんまわってワン!」じゃ
パリー: え……?
少女: この春から奴が実施しようとしとる、新しい挨拶のスタイル「三べんまわってワン!」じゃ。
パリー: ああ、ピロティーの掲示板に大きなポスターが貼ってある、あれですか?「スリーターン・エンド・ワンバウワウ」 あれ、評判ですよ。
少女: なんだと?
パリー: だって、かわいいでしょ。しゃっちょこばった起立・礼よりソフトだし、土下座しろってわけでもなし。頭下げたり、腰まげたりしないところがいいってみんな言ってますよ。両手を胸のところへもってきて、ぐるぐる回って……ワン! 自治会じゃ、この「ワン」というところで首を傾げるって修正案を考えてるみたいなんですが、右に傾げるか左に傾げるかで対立が続いているそうです。
少女: あのなあ……
パリー: ワン!……やっぱ右かなあ、ね、先生はどっちがかわいいと……あ、先生は反対なんですね。
少女: かわいいだけでものごとをかたづけちゃいかん。ものごとの本質を見なさい、「三べん回ってワン!」が、どれだけいいかげんで人を馬鹿にしたものか。我々はけして犬ではないんだぞ!
パリー: ……それって、犬を差別していませんか?
少女: なに?
パリー: 有史以来、犬は人間にとって最上のパートナーです。そのパートナーの挨拶をとりいれることを否定するのは、人として傲慢ではありませんか?
少女: じゃ、なにか、「お手」とか「おあずけ」とかやるのかい? 「ハウス!」と指をさされたらしっぽをまいて家に帰るのかい? これはな、犬にえさを「やる」と言うのを、えさを「あげる」という、ささやかな文法上の間違いを許したことに遠因があると思うぞ。
パリー: それは……
少女: 君は多少もののわかる子のようだから……こう言おう、「三べんまわってワン!」をやることで、ゆるみはじめた学校がひきしまると思うのかい? 君がなぜ魔法がつかえなくなったのかその理由がわかるのか? そしてパリー、君の失った魔力がもどってくると言うのか?
パリー: はい……(落ち込む)
少女: すまん、イマイチともあろう者が、ムキになりすぎたようだな……そうだ、いい考えがうかんだ! このポケットの道具で魔法博物館にいこう。「どこもでもドア」を使えばあっという間だ(スペアポケットに手をいれる)おっと、ここでは人目につく、家の裏側へいこう。
パリー: は、はい!
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