大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・037『佐伯さんのお婆ちゃん・3』

2019-07-15 13:12:10 | ノベル
せやさかい・037
『佐伯さんのお婆ちゃん・3』 

 

 

 パラレルワールドかと思た。

 

 必死のパッチで帰ったら、葬式の様子がまるであれへん。

 佐伯のお婆ちゃんは、付き合いの多い人やったんか、昨夜のお通夜は人でいっぱいやった。

 檀家さんやら町会の人らも手伝いに来てはったけど、わたしも、けっこう手伝うた。

 お茶を出したり、駐車場の案内に行ったり、履物をそろえたり、子守をしたり(参列者のお子さんやらお孫さん)。微力なわたしやけど、ちょっとは役に立ったかいう感じやった。

 お通夜でも、あれだけ忙しかったんやから、お葬式はもっと大変やろと思て、そやから必死のパッチやったわけ。

 ところが、角を曲がって山門が見えてくると、いつもの感じになってる。

 受付のテントもあれへんし、葬儀の看板も樒平(しきび)やら献花の列もあれへん。山門に入ると、境内はまったくの日常。

 葬儀の邪魔になるいうんでどけといた自転車も定位置に戻ってるし、うちの境内を休憩場所にしてるなんたらいう小鳥も自転車みたいに定位置の桜の枝に羽を休めてる。

 まるで、佐伯のお婆ちゃんが亡くなってないパラレルワールドに迷い込んでしもたみたい。本堂から出てきた伯母ちゃんも普通に「おかえり」言うし。

「あの……お葬式は?」

「え?」

 伯母ちゃんは——この子はなに言うてんのん?——いう顔になった。

 いよいよパラレルワールドか!?

 これは、手ごろな階段見つけてジャンプせなあかんか?

 ほら、アニメの『時をかける少女』で、主人公のまことが、そうやってタイムリープするやんか!

「とっくに終わったわよ」

 伯母ちゃんの返事はパラレルワールドを否定するもんやったけど、さらに分からへんようになった。

 あれだけのお葬式、道具やら人やらはどこに行ったんや?

「籠国さんはプロやからね、二十分もあったら完全に元通りにしていくんよ」

「はあ、そうなんや……」

「あ、ひょっとして、手伝おとか思て急いで帰ってきてくれたん?」

「あ、あははは……」

「お通夜では、ずいぶんがんばってくれたもんね。あ、本堂にお骨収めたあるから、よかったらお線香の一本もあげてくれる」

「は、はい!」

 

 本堂に上がると、ご内陣の前の経机に置かれた真新しい骨箱が目に入った。

 

 正座して手を合わせて、お線香をあげる。

 習うたお作法通り、線香は三つに折って、横向きに並べる。浄土真宗独特のお作法で、理由は倒れた線香が火事の原因にならんための火の用心からやとか。

 骨箱の横には真新しい白木の仮位牌。

 ちなみに、浄土真宗に位牌は無いんです。過去帳に法名を書いておしまい。お葬式なんかでは、無いと頼りないんで、白木の仮位牌に書いておく。まあ、会社で社員が首からぶら下げてるIDみたいなもんや……というのは、昨夜てい兄ちゃんが教えてくれたこと。

 で、その仮位牌には、お祖父ちゃんの筆で、こう書いたった。

 釈 良袋   俗名 佐伯 法子

 良袋……りょうふくろ? なんて読むんやろ?

「りょうたいて読むのんよ」

 はっきりと、でも、不機嫌そうな声が聞こえた。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
  • 佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・26〔あ、忘れてた〕

2019-07-15 06:41:56 | 小説・2

高安女子高生物語・26
〔あ、忘れてた〕
                       


 バレンタインデーを忘れてた!

 バレンタインデーは、佐渡君が火葬場で焼かれた日やよって、完全に頭から飛んでた。
 もっとも覚えてても、うちは、誰にもチョコはあげへんかったやろ。
 うちは、お母さんがお父さんにウィスキーボンボンをやるのが恒例になってる。せやけど、ホワイトデーにお父さんがお母さんにお返ししたのは見たことない。
 うちに隠れて? それはありえへん。
 お父さんは、嬉しいことは隠し立てがでけへん。年賀葉書の切手が当たっても大騒ぎする。まして、自分が人になんかしたら言わんではすまへんタチや。結婚した最初のお母さんの誕生日にコート買うたったんを、今でも言うてるくらい。

 実は、ウィスキーボンボンの半分以上はお母さんが食べてしまうから、そう感謝することでもなかったりする。

 佐渡君には、チョコあげたらよかった思たけど、後の祭り。それに、うちが見た佐渡君は、おそらく……幻。
 幻にチョコは渡しようがない。

 あ、一人おった!

 昨日学校の帰りに思い出した。絵描いてもろた馬場さんにはしとかならあかん。
 で、帰り道駅前のコンビニに寄った。
 さすがに、バレンタインチョコは置いてへんかったんで、ガーナチョコを買う。
 包装紙はパソコンで、それらしいのんを選んでカラー印刷。A4でも、ガーナチョコやったら余裕で包める。

「こういうときて、手紙つけるんやろなあ……」

 けど、したことないよって、ええ言葉が浮かんでけえへん。べつに愛の告白やない、純粋のお礼の気持ちや……感謝……感激……雨あられ。アホやな、うちなに考えてんねやろ。

「マンマでええねん」
「わ、ビックリした!」
 お父さんが、後ろに立ってた。
「珍しいな、明日香が週遅れとは言え、バレンタインか……」
「もう、あっち行っといて!」

 ありがとうございました。人に絵描いてもらうなんて、初めてです。
 チョコは、ほんのおしるしです。
 これからも、絵の道、がんばってください。

             佐藤 明日香

 なんで手紙やったら、標準語になるんやろ……そう思いながら封をした。
「あ、アホやな! 便せんに書いたら、チョコより大きい。別の封筒に入れるのは大げさやし……」
「これに、書いとき」
 お父さんが、名刺大のカードをくれた。薄いピンクで、右の下にほんのりと花柄……。
「お父さん、なんで、こんなん持ってんのん!?」
「オレ、これでも作家のハシクレやで、こういうもんの一つや二つ持ってるわ」
「ふ~ん……て、おかしない?」
「おかしない。オレの書く小説て、女の子が、よう出てくるからな。ハハハ」
 そない言うて、下に降りていった。とりあえず、そのカードに、さっきの言葉を書き写す。
「あ……これ感熱紙や」
 パソコンでグリーティングカードで検索したら、同じのが出てた。
「まあ、とっさに、こんなことができるのも……才能? 娘への愛情? いいや、ただのイチビリや」

 で、今日は三年生の登校日。

 メール打つのんも苦労した。何回も考え直して「伝えたいことがあります」と書いて、待ち合わせは美術室にした。
「え、こんなのもらっていいの? オレの道楽に付き合わせて、それも、元々は人違いだったのに」
 嬉しそうに馬場さん。せやけど、最後の一言は余計……やと、思う。
「明日香……なにかあったな、人相に深みが出てきた」
「え、そんな、べつに……」
「これは、ちょっと手を加えなきゃ。そこ座って!」
「は、はい!」

 馬場先輩は、クロッキー帳になにやら描き始めた。

「ほら、これ!」
 あたしの目ぇと、口元が描かれてた。それだけで明日香と分かる。やっぱり腕やなあ。
「これは、なにか胸に思いのある顔だよ。好きな人がいるとか……」
 とっさに、関根先輩の顔が浮かぶ。
「違うなあ、いま表情が変わった。好きな人はいるようだけど、いま思い出したんだ」
 なんで、分かるのん!?
「なんだか、分からないけど、寂しさと充足感がいっしょになったような顔だ」

 ああ、佐渡君のことか……ぼんやりと、そう思た。

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高校ライトノベル・里奈の物語・25『たこ焼きの縁・1』

2019-07-15 06:34:46 | 小説3

里奈の物語・25
『たこ焼きの縁・1』 



 桃子(ピンク色のパソコン)を立ち上げ、一瞬ためらってNINOMIYA KAHOと入力した。

 スペースキーを押す前に、もう一度ためらい、小さく息を吸いこんで押す。二宮果歩と変換される。
 エンターキーを押す。

 予想に反して、一発で出てくる。
 二宮果歩とあって、その下に五行ほどの見出し。「事故」「自殺」という単語が目に入る。
 頭の中でアラームが鳴る。すぐに×印を押してメニュー画面に戻る。
 拓馬が言わないんだ。あたしがフラィングして調べるのはフェアじゃない。
 でも目に飛び込んできた「事故」「自殺」の二つの言葉は普通じゃない。

 いやな想像力が翼を広げる予感。

 リュック担いで外に出る。

 ここに来て、初めて南の今里駅方向に歩き出す。
 

 今里駅は奈良に通じている。だから一回も、そっちの方には足を向けていない。無意識とはいえ足を向けたのは進歩なのかもしれない。
 そんなことを思いながら駅前に着いた。
 いい匂いがする……たこ焼きの匂いだ。
 先月初めて駅に着いたときも、この匂いがしていたはずなんだけど記憶にない。きっと余裕が無かったんだ。

「300円のください」

 そう言うと、黒シャツに赤い鉢巻のオニイサンが「はい、ただいま!」と言いながら、あたしの顔をチラッと見る。
 関西で標準語というか横浜言葉は目立つ。だから物を買ったりするときは関西訛で喋るようにしている。でも、久方ぶりだったので横浜言葉が出てしまった。
「テイクアウトかな?」と聞かれるので、「ここでいただきます」と答える。今さら変えても仕方ないので横浜言葉。
 二つあるベンチの遠い方に座る。近い方は制服姿の女の子。多分地元のK高校。
 関西に来て五年になるけど、タコ焼きは苦手。むろん美味しいんだけど、食べるのが遅い。関西の子は熱々のまま口に頬張り、器用に冷ましながら食べる。あたしはできないんで、端の方から齧る。今日は一人なんで、遠慮なくゆっくり食べる。

 カサっと音がした。

 隣の制服姿が立ち上がり際に冊子を落とした。気づくだろうと思ったら、そのまま歩き出す。
「あ、落としたわよ」と言うつもりが「ア、オロシラワォ」になる。口の中にたこ焼きが入ったままなんだ。
「え……?」
 と振り返った顔が可愛かった。形のいい目に大きめの瞳、きっと親知らずはないだろう小さなアゴと絶妙なバランスして、まるでラノベの表紙を飾るヒロインの実写版。
「演劇部なのね」
 落とし物の台本を渡しながら一言添えたのは、その子に自分と同じ属性を感じたせいかもしれない。

 これが安藤美姫との出会いであった。
 

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・59≪ビリケン攻略方・3≫

2019-07-15 06:28:59 | 時かける少女

時かける少女BETA・59
≪ビリケン攻略方・3≫


「モス・チャイルドの当主として話させていただきます」

 雪子は、名前を二つ持っている。ハーフであることの便利さと悲しさの両方があった。子供の頃はハーフであること、それもアメリカ有数のユダヤ系資本の総帥の子であるが故の苦労であった。一族は父が亡くなるまでアリス(雪子)の相続には反対であった。
 父は、そのことをよく理解し、同時に雪子の才覚を理解して後継ぎは雪子しかないと生前から身内に根回し、マスコミを通じてその意志も表明していた。
 実際、雪子が当主・総帥の地位に着いてから、モス・チャイルドの純益は年率換算で5%伸びていた。それでも、最初の年は、亡き父の余沢と言われたが、二年目からのさらなる純益の向上で、もう雪子に反対する者はいなくなった。

 その雪子が、アリス・モスチャイルドの顔になった。ビリケン(寺内)は不覚にもたじろいでしまった。日露戦争で児玉源太郎に畏怖を感じて以来だった。その児玉からも言われた。
「儂ごときを畏怖してどうする。乃木の方が百倍も偉いぞ」
 寺内が、正直に怪訝な顔をしていると、重ねて言われた。
「本当に切れる刀は、鞘に収まっとるもんじゃ。寺内も、そういう目を持たにゃいかん」

 で、多少は分かるようになった。ビリケンと言われてもニコニコしていられるほどにはなった。

 目の前に居る二十歳そこそこのアリスの目が、世界屈指のユダヤ資本の総帥のそれになっていくのを。
「モスチャイルドは、まだ日本からご融資したお金を返していただいておりません」
「そんなことはない。ちゃんと契約通りの利息を付けて返済は済んでいるはずだ」
「それは、表の利息です。賢明な日本政府のことですから、お分かりいただけると思っておりましたが」
「満鉄の共同経営を断ったことかね?」
「さすがは、寺内閣下。でも、それは父の代の要求でしかありません」
「……この上、何があるというのかね」
「我々ユダヤ人は、世界中にちらばって、その国の経済に枢要な地位を占めてきましたが、けして、国そのものをユダヤのモノにすることはありません。わたしも、アメリカ人であるという顔で臨んでいます」
「……朝鮮の経営に一枚かませろということかね?」
「御明察。満州や朝鮮に対する資本参加を自由化すべきです。日本の方々は、そんなことをすれば、日本人の血で手に入れた土地や権益を失うように思っていらっしゃいますが、そんなことで駆逐されるほど日本はやわではありません。それに伊藤閣下も申されていますが、朝鮮は、開闢以来、名目上の独立を失ったことがありません。朝鮮から独立を取り上げるのは百害あって一利なしです」
「日本は、目先の利益だけで朝鮮の併合を考えているわけじゃない。ロシアの南下や、中国の影響を排除して、朝鮮の蒙を開くだけではなく、よって日本の安寧をはかろうとしている」
「朝鮮を併合すれば、その恨みは日本にだけ、数百年にわたって言われ続けます。確かに、今の朝鮮には自分の国を経営する能力はありません。かといって併合すれば千年の禍根になります。アメリカや、イギリスを加えてください。そして共同で、満州と朝鮮の経営に当たりましょう。ロシアは、数年で革命が起こり自滅していきます。我々は、今の帝政ロシアよりも、そのあとにできる共産主義政権を警戒しています。世界の力で立ち向かわなければなりません。日本一人が割を食うことはありませんし、我々も、それを望んではいません」

 突然の木枯らしが、ガラス窓を震わせた。

「さすがは、モス・チャイルドの御当主ではある」
「ハハ、ただのオチャッピーです。これは母譲りですね。父も母の、こういうところに惚れたんでしょう」
 寺内が話を理解した様子なので、雪子は江戸っ子の顔にもどった。
「今日は、良いことをおそわりました」
「はて、教えられたのは、わたしのほうですが?」
「いえ、教えていただきました。庭の木の菰巻……あれは優れた管理法です。満州や朝鮮が、日本の菰に……今年は冬が早そうですね」

 寺内は、返す言葉が無かった。やがて日本は伊藤の尽力により、朝鮮の併合を断念した。裏で雪子が動いていたことは記録には残っていない。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・66』

2019-07-15 06:20:35 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・66



『第七章 ヘビーローテーション 4』 


 手術が終わるころ、お母さんがやってきた。
 なんだか分からない医療機器のピコピコとか。となりのナースステーションの声や、物音が異様に響く。
 何分たったろう……。

「ウ……!」
 お父さんが痛みと共に目覚めた。
「あなた」
 朝起こすときのようにレギュラーな調子でお母さん。
「お父さん……」
 意に反して、蚊の鳴くような声しかかけられなかった。
 すぐに看護師のオネエサンが来て、いろいろチェックしたり、質問をしたり。
「あとで先生が来ますけど、たぶん明日には一般病棟に移れると思いますよ」
 看護師さんの質問にも、お父さんはしっかりと答えていた。
 もともとお父さんは痛みには強いというか鈍感。
 会社を潰して、離婚して、実家の仕事も変えて……そして生活も。
 そこにはわたしの想像を超えた痛みがあったんだろう。
 麻酔が切れたときだけ、顔をしかめたけど、あとは涼しげといっていいほどの穏やかさだった。
「二人とも、すまんなあ……」
 わたしたちへの最初の言葉だった。
「早く良くなって、東京へ帰りましょうね」
 と、お母さん。
「見送りぐらいには来てくれるんだろう」
「土日ならね。わたしパートだから、平日はそんなに休めない」
「わたし、平日でも行く。授業抜けてでも……」
「はるか……」
 まぶしげにわたしを見てお父さんが言った。
「はるか、もっと顔を……こっちに」
「お父さん……」
 泣きそうになった。
「ああ、それでいい……そこのライトがまぶしくってな」
 ライトかよ……。

 その直後、あの人が入ってきた。

「奥様、ご無沙汰いたしております」
 完ぺきな秘書の物腰で、秀美さんはあいさつした。
「もう奥様じゃないわよ。大変だったでしょ、東京からじゃ」
「ええ、でも事が事ですから」
「……高峯くん、すまなかったね」
「いいえ、社長がお怪我なさったんですから、当然のことです。はるかちゃん昨日と一昨日はどうも」
「え?」
 と……お母さん。
「お、お父さん、さっき手術が終わって、今麻酔が切れたとこなんです。えと右大腿顆上骨折(合ってたよね?)です。バイクとぶつかったんです。術後の経過はいいようです。事故の様子は、実況見分とかで、まだ詳しくは分かりませんけど。あ、手続きとかはこれから……」
「はるか、なにあせってんのよ?」
「あ、あの……その……」

 全部バレてしまった……。

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高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・10』

2019-07-15 06:10:47 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石

10『ひげもぐらのパソコン』

大橋むつお

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

暗転、明るくなって、ひげもぐらの校長室。どこもでもドアが開いて二人が入ってくる。上手に校長用の机、その上にパソコンが見える。

少女: 奴はおらんようだな……
パリー: 今日は、あれから出張に出ているみたいです。
少女: この時期に?
パリー: 明かりはつけないでください、外に漏れます。
少女: そうじゃったな。しかし、ここはまるでもぐらの穴だ。この暗さで操作できるか?
パリー: なんとかやってみます。
少女: 暗くてよくわからんが、いろいろ貯め込んでおるな。博物館の金庫室のように魔法はかかっておらんようだが、このコレクションは、心の中が貧弱な証拠だ……スフィンクスの鼻……お岩さんの足……狼男の毛皮……ん、これは?
パリー: 先生、立ちあがりました。ほら、このデータです。
少女: 魔力減退の処方……パリー・ホッタの場合、魔力回復の必要条件は、賢者の石……
パリー: ここで、ひげもぐらがやってきたんです……では、次のページにいきます……
少女: ……井の指導であり、その指導は……これは……?
パリー: え……魔力回復の必要条件は、賢者の石、井の指導……賢者の石井の指導? これは石ではなくて、石井という人の名前なんですかね……
少女: そのようだな……
パリー: どなたでしょう、この石井という賢者は……

間、ディスプレーの画面を見つめる二人。と、突然アラームが鳴りはじめる。

少女: 時間をかけすぎた。アラームだ! すぐにもどるぞ!
パリー: はい!

アラーム、けたたましく鳴る内に暗転。明るくなると、最初のロックウェルの家の前の路上。どこもでもドアを背に、へたりこむ二人。

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