大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・086『マリーアントワネットの呪い・2』

2019-11-01 14:39:39 | ノベル

せやさかい・086

 

『マリーアントワネットの呪い・2』 

 

 

 ダミアの涙が止まらへん。

 

 パリオリンピックで、ご主人様のマリーアントワネットのお迎えがくるとか話したせいやろか。

 マリーアントワネットの飼い猫は、ダミアと同じメインクーン(ダミアはメインクーン系の雑種やけど)。

 伝説では、マリーアントワネットの亡命に備えてアメリカのメイン州に引っ越しさせられたネコが、マリーアントワネットを恋しがるあまり、その子孫のネコたちに思いが伝わるというか、生まれかわってというか、ご主人様の復活を二百年以上も待っている。

 はたまた、マリーアントワネットはギロチンに掛けられたあと、蝋人形にするために首が持ち去られたという話を聞いて、ネコの身ではありながら、ご主人様の不幸に涙が止まらんくなったか。

 とくに、蝋人形の話は、言い出しべえの留美ちゃんが、たいへん気にしてる。

 頼子さんも気にしてる。マリーアントワネットと飼い猫の話をし出したのは頼子さんやったから。

 ほんで、なによりもマリーアントワネットの夢みて騒ぎ出したんはあたしやし。

 

 これは、お祓いやろか!? 動物病院やろか?

 

 そら、動物病院やろ。お祖父ちゃんが、あっさりと決めた。

 

 さすがは、浄土真宗の坊主!

 浄土真宗では、生き物は死んだら阿弥陀さんのお迎えでお浄土に行くことになってる。せやから、マリーアントワネットがパリオリンピックで復活するなんてお笑い種。

 これが、テイ兄ちゃんとかやったら信じひん。同じ坊さん言うても大学出たてのエキストラみたいなんに言われたらありがたみが無い。

 というわけで、今日は文芸部の三人揃て動物病院を目指す。

 堺東の方の動物病院なんで、テイ兄ちゃんがダミアをケージに入れて、学校の前まで車を出してくれる。

 助手席には頼子さんが乗ってる。

 ほんまは、身内のあたしが助手席やねんけど、車がくる寸前に校内放送で呼び出されたんで、頼子さんが最後に乗り込むことになって、助手席というわけ。

「なんやったんですか(校内放送)?」

「お祖母ちゃんが、学校に電話かけてきたの。急いでるから、またあとでってことにした」

「「ああ」」

 留美ちゃんと声が揃う。頼子さんのお祖母ちゃんといえばヤマセンブルグの女王様。ま、テイ兄ちゃんは知らんでもええ話なんで、そのままスルーしとく。

 車でやったら目と鼻の先の堺東やねんけど、道路工事やら、ふだん通らへん一通の道やらで、けっこう時間がかかる。

「ちょっと、大阪市を経由するでえ」

 なんでか、いったん大和川を渡る。大丈夫なんかいなテイ兄ちゃんの運転。

 そうこうしてる間に、助手席の頼子さんがウトウトし始める。ほんで、テイ兄ちゃんの方に体が傾いて……むろんシートベルトしてるから、頼子さんの髪の毛がソヨソヨとテイ兄ちゃんに掛かったりする程度やねんけど、左折した時には、数秒間テイ兄ちゃんの肩にもたれかかってしもた。

 テイ兄ちゃんは、ポーカーフェイスで運転しとったけど、たぶん嬉しかったんやと思う。

 まあ、車も出してくれたことやし、このくらいの役得はええでしょ。

 

 三十分かかって動物病院へ。

 

「よう、酒井、ボンさんのナリが板についてきたなあ」

 開口一番、ドクターにからかわれるテイ兄ちゃん。学校の先輩かなんかやろか。

 流行ってるみたいで、待ってる人とペットが五組ほど居てた。普通の医院やったら待たされるんやろけど、予約制のためか、二番目に診てもらえる。

 連れてこられてるペットたちが大人しい待ってるのにもびっくり。

 診てもらった結果は、マリーアントワネットの呪いではなくて、アレルギーちゃうかいうことやった。アレルゲンの特定と薬の量を決めるのに、もう一度行くことになる。

「あ、そうですか」

 返事するテイ兄ちゃんは、かすかに嬉しそう。

 次回の助手席は、あたしが乗ると決心した。

 

 

 

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真夏ダイアリー・57『ジェシカ!!』

2019-11-01 06:54:43 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・57
『ジェシカ!!』    



 一瞬光が走り、わたしとトニーは元の空港にテレポした……。

 わたしが、ミリーではなく真夏であったことと、自分の意思ではないテレポをさせられたことで、トニー(省吾のアバター)は気絶していた。

 彼方の空には、アメリカ軍の攻撃によって墜ちていったダグラスの煙が、染みのように残っていた。

「よかった、あの飛行機といっしょに撃墜されたかと思った」
 ジェシカは、親友が無事に帰還したように喜んでくれた。ジェシカは、簡単な説明をしただけで、未来人であるわたしと省吾のことは理解してくれた。そして、この省吾を騙す芝居にも付き合ってくれたのだ。
「で、このトニーは、もう元のトニーなの?」
「いいえ、まだよ。気が付いたら説得する。その前に……」
 わたしは、トランク型の原子爆弾に手を伸ばした。

 うかつだった。トランクとトニーの手はチェ-ンで繋がれていて、トニー、いえ、省吾が目を覚ました。

「触るんじゃない!」
 省吾は、トランクを抱えると、わたしたちから距離を取り始めた。
「省吾、お願い、バカな真似は止めて!」
「真夏、おまえは分かってないんだ。この戦争をやめなければ、真夏にも言えない怖ろしいことがおこるんだ」
「他に方法が……」
「ない。もう、あらゆる手段を尽くしてきた。真夏自身、こないだワシントンで失敗したばかりじゃないか」
「だからって……」
「きみたちには悪いが、ここで原爆を起爆させてもらうよ。予定より遙かに多い人が犠牲になるが、仕方がない……真夏がタイマーを壊したから、ちょっと手間だけどね」
 省吾は、チェ-ンを外し、トランクのロックを解除した。
「省吾……!」
「君たちは、殺したくない。今すぐ車で、ここを離れるんだ。10分待つ。10マイルも離れれば大丈夫だ」
 体の中を熱い血と冷たい血が、同時に流れたような気がした。
「そう……じゃ、さっさと、そうさせてもらうわ。こんな気の狂ったやつと話しても無駄だわ。あんたたちも早く!」
 そう言うと、ジェシカは、銃を投げ捨てて走り出した。
「ねえ、あなたは、元々はトニーなんでしょ。今は省吾に乗っ取られてるけど、トニーは目覚めているんでしょ。そうでなきゃ、たった今、説明なんかしなかったわよ。あっさりボタン押して爆発させているわ。わたしたちに10分の猶予をくれたのは……あなたの中のトニーがさせたことでしょ」
「ミリー、早く逃げるんだ。ぼ、ぼくには……それしかできない」
「トニーが目覚めかけてる……」
「トニー、そんなもの捨てて。こっちに来て!」
「ダメ、省吾の呪縛は、そんなに甘いもんじゃない。それに……」
 言葉を続けようとすると、滑走路を横切って、一台のクーペがヘッドライトを点けたまま走ってきた。省吾は一瞬ヘッドライトのまぶしさにたじろいだ。
 その瞬間、クーペは省吾の真横を通り、運転席から飛び出したジェシカがトランクを奪い取り、滑走路を転げた。

「ジェシカ!!」

 三人の言葉が重なり、わたしは……しかたなく指を動かした。

 同時に、ジェシカの姿は、トランクと共にかき消えてしまった。無人のクーペは、滑走路を横切り、土手に乗り上げ横転していた。
「ジェシカ……」
「テレポさせた」
「どうして、どこに!?」
「あの原子爆弾は、あいつの手を離れると、三秒で爆発する……ああするしか仕方がなかった」

 どこか時空の彼方から、アレが爆発した気配が伝わってきた。
「ミリー、十秒だけ息を止めて」
「え……?」
「早く!」
 直後、弱かったが、時空の閉じきれない裂け目から、放射能を含んだ風が吹いてきた。
「あ、トニー!」
 ジェシカが消えたのと反対の方向。そこに呪縛の解けたトニーと、元の姿に戻った省吾が横たわっていた。
「トニー、トニー!」
 ミリーは、トニーを抱き上げた。
「大丈夫。ショックで気絶してるだけ。すぐに目が覚めるわ」
 わたしは、その横に芋虫のように転がっている省吾から目が離せなかった。
 
 その姿は、まるで、九十歳のおじいさんのようだった。
 ぐっとせき上げてくるものがあったけど、ミリーの気持ちを思うと、表情には出せない。
「まるで、魔法使いのおじいさん!」
 ミリーが吐き捨てるように言った。
「ごめんね、ミリー。ジェシカのこともごめん……とりあえず、こいつを連れて帰る。どうしていいか分からないけど……分からないけど、出来る限りのことはする」
「ジェシカは、親友だったんだから。ジェシカだって、ほんとはトニーのこと好きだったんだから!」
「……分かってる」
 そう言うのが精一杯だった。

 ジーナが、わたし達を呼び戻していた……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・22『大阪に転校したはるかちゃん』

2019-11-01 06:44:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・22   
『大阪に転校したはるかちゃん』 


 
 
 まあ、帰ってから聞いてみよう……ぐらいの気持ちで家を出た。

 で、あとは、みなさんご存じのような波瀾万丈な一日。
 帰ったら、お風呂だけ入って、バタンキュー。
 で、今日は朝からスカートひらり、ひらめかせっぱなし。

 お父さんの「も」にかすかなインスピレーション感じながら、中味はタイトルに『大阪に転校したはるかちゃん』と、あるだけで、あとははるかちゃんとの思い出ばっかし。
 提出すると、プッと吹きだして、先生はわたしの目を見た。
「あ……いけませんでした?」
「いいわよ、文章が生きてる。仲さん、あなた、はるかちゃんて子とスカートめくって遊んでたの?」
 先生はは地声が大きい。クラス中に笑い声が満ちた。
「違います!」
「だって」
「次の行を読んでください!」
「アハハ……」
 声大きいって! クラスのみんなの手が止まってしまった。
「な~る……みんな、続きがあるからね。そうやって、いかにスカートをカッコヨクひらめかせるか研究してたんだって。はい、名誉回復」
 ……してないって。席にもどるわたしを、みんなは珍獣を見るような目で見てるよ。

 そうやって、恥かきの一時間目が終わって、わたしは携帯のメールをチェックした。昨日からのドタバタで、丸一日携帯を見ていなっかたんだ。
「あ!」
 思わず声が出て、わたしは自分の口を押さえた。運良く、教室の喧噪にかき消されて、だれも気づかなかった。

 アイツからメールがきていた。

 一年ぶりに……。

 そこには、二つのメッセージがあった。
――ありがとう、勇気と元気。潤香さんお大事に。
 二十字きっかりの短いメッセの中に、わたしへの思いやりと、潤香先輩への気遣いがあった。
 万感の思いがこみ上げてきた……そうだ、潤香先輩。

 そこに、里沙と夏鈴が割り込んできて、わたしは慌てて携帯をオフにした。
「今日、三四時間目も自習だよ!」
 夏鈴が嬉しそうに言った。
「音楽の先生、インフルエンザだって」
 里沙が続けた。
「で、わたし考えたの……!」
 夏鈴が隣の席を引き寄せて腰を下ろした。
「な、なによ?」
 思わず、のけぞった。
「音楽の自習って、ミュージカルのDVD観るだけらしいからさ」
 そりゃ、急場のことだからそんなとこだろう。
「で、考えたの。自習時間と昼休み利用して潤香先輩のお見舞いにいけないかなって!」
「そんなことできんの?」
「生徒だけじゃ無理だけど、先生が引率ってことなら」
 里沙が携帯をいじりだした。
「そんな都合のいい先生っている?」
「……いるのよね。マリ先生空いてる」
「里沙、先生の時間割知ってんの?」
「うん、担任とマリ先生のだけだけどね。なんかあったときのために。今日は放課後部室と倉庫の整理じゃん。それからお見舞いに行ったら夜になっちゃう」
「三日続けて深夜帰宅って、親がね……」
「でも、そんなお願い通ると思う? マリ先生、そのへんのケジメきびしいよ」
「うう……問題は、そこなのよね」
 里沙が爪をかんだ。
「……さっき、マリ先生に言ったらニベもなかった」
 二人とも、アイデアとか情報管理はいいんだけどね……。
「……わたしに、いい考えがある!」

 三人は、エサをばらまかれて首を寄せた鳩のように、ヒソヒソ話をしだした……。
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宇宙戦艦三笠・48[小惑星ピレウスの秘密]

2019-11-01 06:36:38 | 小説6
宇宙戦艦三笠・48
[小惑星ピレウスの秘密] 


 
 三笠のクルーはみんな同じ思いだった。

「ピレウスに来て三日たつけど、オレたちなんともない……」
「スキャンしても、みなさん健康そのものです」
 クレアが、トシの言葉を裏付けた。三笠のクルーはレイマ姫とジェーンの顔を交互に見た。

「んだす。地球人は、このピレウスでも影響を受けないんだす……」

「レイマ姫、君の狙いは……」
「寒冷化防止装置を、あんだたちに渡して、地球を救うことだす」
「それだけかい……?」
 修一の問いかけに、レイマ姫は黙ってしまった。

「あたしが代わりに言うわ」
「……なんで、ジェーンが」
「これは、レイマ姫のお願いで、交換条件じゃないの。ただ、自分から言いだすと、気のいいあんたたちに……なにか強制するようで言えなかったのよ」
「言えないことって?」
「ジェーン、もういいだす。三笠の人たちに、寒冷化防止装置を……」
「言うだけ言ってみようよ。あとは……みんなで考えればいいことよ」

 いつも賑やかなジェーンが真剣な顔になった。

「あんたたちの中で、男女一組がピレウスに残ること……意味は分かるわね?」
「……ひょっとして、オレたちに、ピレウスのアダムとイブになれって……ことか?」
「あ、もういいんだす。忘れてちょうだい」
 
 レイマ姫は、手でイラナイイラナイをした。

「あたし……なってあげてもいい。助けられるだけじゃ地球人として恥ずかしいことだと思う」

 樟葉が真っ直ぐに顔をあげて言った。
 
「このピレウスへの遠征で、いろんなことを経験し、あたしは仲間をかけがえのないものだと思えるようになった。それって、広げて考えたら、人類みんなを大切な仲間と思うことと同じ。だから、あたしは残ってもいい」
「オ、オレも残ってもいいです。地球じゃ何の役にもたたない引きこもりだけど、こんなことで役に立つんなら、オレは喜んで残ります」
「トシ、お前が残ったら宇宙規模の引きこもりになっちまわないか……すまん、茶化す話じゃないな」
「アダムとイブになるってことは、その……夫婦になって、子供を作るってことなんだよ。一時の感情で決めていいことじゃないよ」
「ジェーン、焚きつけてんだか、思いとどまらせてんだか……」
 樟葉に先を越された美奈穂が、戸惑ったように言う。
「も、もちろん樟葉さんの意見も聞かなきゃならないけど」
「あたしは……」
「待っで!」

 樟葉が言いだしたのを、レイマ姫が遮った。

「トシ君は使えねえんだす」
「どうして、答えるのは樟葉さんでしょ!?」
 トシは珍しく色を成した。
「トシ君はクローンなんだす。クローンには生殖能力がないんだす……」
「オ、オレ、クローン!?」
「ダルの虚無宇宙域で三笠のエネルギーが無くなったとき、あんだたちは救命カプセルで20年冬眠しでいたんだす。で、トシ君のカプセルは具合悪くで、トシ君は死んでまったんだす。で、三笠の船霊のみかさんが、残っていたDNAで、再生したのが今のトシ君なんだす。これについての記憶はアクアリンドのクリスタルの力で封印してあったのす」
「そ、そんな……オレがクローン……そんなの信じられねえ!」
 普段は大人しいトシだが、そう叫んだあと、トシはテキサスを飛び出してしまった。
「トシ、待て!」

 いつもならトシに後れを取るような修一だったが、トシを見つけることはできなかった……。
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小悪魔マユの魔法日記・81『期間限定の恋人・13』

2019-11-01 06:08:48 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・82
『期間限定の恋人・13』     



 美優の命は、あと六日と三十分……にしてはいけない。
 
 美優の体の中でマユは決心した。

 美優のガン細胞は、一万個ほど壊した。予想よりも早い速度だ。しかし、ガン細胞は眠っているとはいえ、数億個……間に合うだろうか。

 黒羽が、美優の家に下宿することが決まると、食事をすませ、二人で病院に向かった。
「すまない、美優ちゃん……」
「なにが……?」
「こんな親不孝なオッサンのために、婚約者の真似事させて」
「また……真似事なんかじゃないわ」
 その時、後ろから強引に追い越しをかけてきた車をよけるため、黒羽はハンドルを左にきった。
「あっぶねええなあ……!」
 ハンドルをきった勢いで、美優の頭が、黒羽の肩にぶつかってしまった。
「ごめん、急にハンドルきって」
 美優は、黒羽の肩に寄り添ったまま、体を動かさなかった。
「……英二さんの温もりを感じる」
「……美優ちゃん」
「この温もりを、自然に感じるぐらいでなきゃ、本物の婚約者には見えないわよ」
「そ、そうだな……」
 黒羽は、自分でも意外な自然さで、美優の肩を抱いた……。

「親父、婚約者なんだけど……」
「ハハ、やっぱりハッタリ……そんなもん、いやしないだろう」
「兄さん……」
 妹の由美子が困ったような顔をした。
「それが、その……」
「いいよ、ハナから期待なんかしてねえから」
「……廊下に待たせてある。いいかい入れても?」
「……英二」
「入ってもらっていいかい?」
「もちろんよ!」
 由美子がドアを開けると……真っ正面に美優が立っていた。
「「わ……!」」
 あまりの近さに、由美子と美優は同時に驚いた。
「し、失礼します……」
「あ、あんたが……」
「よ、吉永美優と申します。英二さんと結婚します…………………………………………よろしいですか?」
 美優の緊張した間の空き方に、父と妹はクスクスと笑った。
「あ、ごめんなさい。わたし妹の由美子です。美優さんこそ、いいんですか、こんなオッサンで?」
「そうだよ、歳が離れすぎとる。それに英二には可愛すぎる」
「わたしバカだから、若く見られますけど、英二さんとは十歳しか離れてないんです」
「あ……十一歳。オレ、先月誕生日だったから」

 それから、四人の楽しい語らいになった。

 由美子は年下の義姉ができることを面白がり、その語らいの間は父の死が間近であることも、自分自身、最近こうむった心の痛手を忘れることができた。英二は、父にせがまれるまま、二人の成り染めを話した。ただ婚約した時期は二か月ほどサバを読んだが。
「え、じゃあ、美優さんの方から、その……プロポーズしたの!?」
「口ではね。態度では、英二さんの方が先でした」
「そりゃ、そうだろう。こんな可愛くて、歳の離れた子なんだもんな」
「親父も、母さんとは八つも開いていたじゃないか」
「確かにな。しかし母さんは、こんなに可愛くはなかったからな」
「え、じゃあ、こういう偏屈オヤジと可愛くない母さんの間に生まれたわたしは、可愛くないってこと?」
「いや、由美子は可愛いぞ。由美子を製造したときは、俺、キャンディーズの蘭ちゃん思いながらだったもんなあ。由美子が生まれる前の晩なんか水谷豊の写真付けたわら人形に五寸釘打ち込んでたからなあ、アハハ!」
 黒羽の父も、死が間近に迫った病人とは思えないぐらいの陽気さだった。
 
「さあ、これで親父も納得しただろう」
「うん。したした」
「そろそろ帰る。明日も早いから。じゃ、美優ちゃん……」
「はい」
「なんだ、もう帰んのか……」
「また、明日も来ますから……ん?」
 
 黒羽の父が、美優のスカートの端をつかんでいた。

「ちょっと、美優ちゃんと二人にしてくれんか」
「親父……」
「いや、黒羽家の嫁として話しておきたいことがあるんでなあ」
 仕方なく、由美子と黒羽は廊下に出た。

「美優ちゃん……すまんなあ。婚約者のフリをしてくれて」
「お父さん……」
「本物かどうかは、この歳になりゃ分かるよ。俺の命が長くないから……引き受けてくれたんだろう」
「違います。わたし、本当に英二さんのこと愛しているんです」
「……だとしたら、それは錯覚だよ。婚約者の役を引き受けたのは、俺の命が長くない……そう聞いてからだろう。二人を見ていれば分かるよ……二人は、まだ清いままだ」
「え、あ、わたしたち……」

 そこまで言って、言葉につまる美優であった……。
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