大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・091『富岳百景・2』

2019-11-12 14:33:02 | ノベル

せやさかい・091

『富岳百景・2』 

 

 

 天下茶屋いうても大阪の阿倍野区やない。

 

 山梨県の川口湖畔は御坂峠にある土産物屋兼旅館。

 昭和十三年の秋いっぱい、太宰治は泊って原稿を書いてる。

 心機一転切り替えて、自分が目指す『単一表現』たらいうもんに挑んでたらしい。

 ときどき、甲府の街に行ってお見合いしたり、先輩の井伏鱒二さんといっしょに山登りしたり。

 そんな一秋の滞在記。

 

 お見合いに行った甲府からの帰り道……やったと思うねんけど。

 バスに乗って御坂峠に戻る途中、バスの窓から、ドバっと富士山が見えたんで、バスの乗客が一斉に富士山の方を向いて「ホーー!」とか「ヘーー!」とか感心してる。

 へそ曲がりの太宰治は、そんなヘーホー組には加わらず、座ったまま反対方向を向いてた。

 ほんなら、もう一人お婆ちゃんが座ってて、路傍に咲いてる可憐な花を見つけた。

「おや、月見草」

 このお婆ちゃんを気に入った太宰治。

 可憐な一輪の月見草が金剛力士像のように頼もしく見えたとかで、例の名文句を残した。

 

 富士には月見草が良く似合う

 

 世間は、この太宰の感性をステキやと思うらしい。

 カッコつけのへそ曲がりいうのが正直な感想。

 バスの乗客が口と首を揃えてヘーホーと感心してるんやったら、いっしょに感心したらええと思う。

 他のとこ読んだら、やっぱり太宰治は富士山をスゴイと思てる。

 思てるくせに「まるで布袋様の置物」みたいに俗の代表みたいに言う。

 お婆さんも、たぶん観光客であろう乗客がヘーホー言うてんねんから、ニコニコしてたらええと思う。「おや、月見草」なんて、ちょっと意地が悪い。まるでヘーホー組が、ものごっついアホに見えてくる。

 こんなやつは居る。

 仁徳天皇陵が世界遺産に決まったとき、春日先生が授業一時間潰して話してくれはった。

 あたしみたいな俄か堺市民でも誇らしい気持ちになれた。

 そんな時でも白けた顔してるやつがおった。そいつらと同質のもんを感じる……あかんやろか?

『けいおん』は大好きなアニメ。

 その『けいおん』の四人娘が修学旅行の新幹線の中で富士山が見えるいうんで大騒ぎになるとこがある。

 あのシーンを見ても『けいおん』四人娘が俗物やとは思えへん。

 

 ひょっとしたら、バスの中にお婆さんなんかは乗ってなかった。乗ってたとしても「おや月見草」なんてへそ曲がりは言うてないんちゃうかなあ。

 

 太宰治は自分のへそ曲がりを架空のお婆さんを仕立てて言わせたんとちゃうやろか。

 

「そうかもしれへんなあ」

 ダミアをモフモフしながらテイ兄ちゃんは緩く賛同してくれた。

「井伏鱒二と山に登るシーンがあるやろ」

「うんうん、ガスが出てて、富士山が見えんくて井伏鱒二が、つまらんそうにオナラするとこ」

「井伏鱒二は『放屁なんかしてない』いうて、論戦になったらしい。作家いうのは話を盛るからなあ。さくら、ちょっと、オレの人差し指引っ張ってくれへんか」

「え、あ、うん」

 引っぱると、派手にオナラをかまされた! ダミアがビックリして逃げて行った。

「もー、行儀の悪い!」

「そやけど、おもしろなったやろが」

 あたしも隣の部屋に逃げる。

 従兄の気安さやろねんけど、子どものころからテイ兄ちゃんのオナラはスカンク級。

 

 明日の部活では、面白い話ができそうです。

 

 

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真夏ダイアリー・69『今度はうまくいく!?』

2019-11-12 07:09:19 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・69
『今度はうまくいく!?』
    


 

「OSS(CIAの前身)が訓電を傍受し始めた、こちらも急ごう。そっちのモニターに出てる訓電を、記録上のものと照合してくれないか」
「え……すごい、もう十四部全部がそろってる」
「ああ、外務省が暗号化する前のものだよ。外務省の書記官の頭に細工をしてある。彼が筆記した段階で、こっちに届くようになっている」
「わたしが、やったときより進歩している」
「そりゃ、こっちに半年もいるからね。いろいろと細工はしてある」
「……以前の訓電と中味はいっしょよ」
「よかった。単語一つちがっても、アウトだからね。じゃ、それをそのままプリントアウトして、大使に持っていってくれ。おれは、OSSの解読装置にブラフをかける」
「どんなブラフ?」
「解読したら、源氏物語の原文になる。まあ、日本の古典文学の勉強をしてもらうさ」
 コンビニのコピー並の早さで十四部の訓電が正式な書式の平文で出てきた。

「大使、訓電です。もう正式な外交文書の書式になっています」
「すごいね、暗号文を組み直して、文書にするのに、普通でも二時間はかかるよ」
「そのために、わたしと高野さんがいるんです」
「そうだったね。来栖さん、こりゃ祝勝会の準備だね」
「それは、国務長官に渡してからですね、大使館の周囲に怪しげな車が四台停まっています」
 ブラフをかけおえた高野(省吾)がやってきた。
「OSSかね?」
「いえ、もっと下っ端の警察です。大使館から出てくる車は、十二時までは足止めするようにだけ命じられています」
「最後通牒を間に合わなくさせるため……だね?」
「ダミーの公用車を先行させます」
 窓から、大使の専用車が一台出て行った。
「あんなもの、いつの間に用意したんだね!?」
「これが、わたしの仕事ですから。あの車は半日ワシントンDCを走り回ります……二台が付いていきましたね」
 それから、大使二人は本当にポーカーを始めた。どういうわけか、高野まで加わりだした。
「負けたら、祝勝会の費用は機密費から出させてもらいます。それぐらいの流用はいいでしょう」
 海軍出身の野村大使はニヤニヤし、生粋の外交官である来栖特命大使は苦い顔をした。

 真夏も苦い顔になった。大使が出発するまでの間、ダミーの操作と把握は、真夏まかせである。
「高野君、顔色が良くなってきたね」
「ええ、いいカモが二匹もいますからね」
――なによ、わたしが来たから、老化が止まったんじゃない――
「あ、ダミーが検問にかかりました」
「え、国務省には近寄らないようにしてあるのに」
「それが、かえって怪しまれたんじゃないですか」
「あの車には、誰が乗って居るんだね?」
「自分の部下です。真夏君ほど優秀じゃありませんが」
――なによ、ただのアバターじゃないのよ――
――アバターなんて概念は、このお二人には分からないからね。二台目を出して――
 真夏は、PCを使って二台目のダミーを出した。瞬間二台の車が動き出したが、二人が張り込みで残った。
 ポーカーが来栖大使の負けで勝負がついたときに時間がきた。
 前回と同様に、アメリカ人職員の車に大使二人と高野、そして運転は真夏だった。
「あれ、あの張り込みの二人、車に気づかないな」
「きっと週末のデートのことでも考えてるんでしょ」
 ほんとうは、光学的なステルスがかけてある。ツーブロック行って右折してから、ステルスを切った。ステルスのままでは、いつ事故をおこすか分からないからだ。

 そして二十分後には無事国務省に着き、これも前回同様、秘書官を煙に巻いて、時間通りハル国務長官に最後通牒を渡すことが出来た。
――このままだと、もみ消されてしまうわよ――
――そう、これからが勝負――
 
 高野(省吾)は腕時計のリュウズを押した……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・33『今年の秋も終わりが近い……』

2019-11-12 07:02:05 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・33   
『今年の秋も終わりが近い……』 


 
 一斉送信しおえ、ヨーグルトを半分食べて気がついた。

 クラブのことに触れたメールが一つもなかった。そいで、潤香先輩のことも。

 気になって、もう一度メールをチェックした……やはり無い。


 一つだけ発見があった。マリ先生のメールを読み落としていた。

 先生は、メールを寄こしてくるときは、いつも「貴崎」と苗字で打ってくる。今回のは「MARI」と書かれていて気づかなかったんだ。
――早く元気になって、乃木坂ダッシュの新記録を作ってね……と、書き出して、過不足のない、お見舞いの心温まる言葉が並んでいた。 
 
 さすがマリ先生。

 時間は、ちょうど五時間目が終わったところ。里沙にメールを送った。

 すぐに返事が返ってきた。
――クラブ、潤香先輩、順調に回復中。心配無用。
 横で見ていたおじいちゃんが呟いた。
「なんだか、昔の電報みたいだな」
 里沙のメールって、いつもこんなだけど、おじいちゃんの一言がひっかかり、思い切って潤香先輩にメールしてみた。
 これも二三分で返事が返ってきた!
――潤香の意識は、まだ戻らないけど。体調に異常はありません。まどかさんこそ大変でしたね。お大事になさってくださいね。紀香
 返事はお姉さんからだった……潤香先輩、大丈夫なんだろうか……。


 はるかちゃんの大阪でのあらましは、さっき伍代のおじさんから聞いた。

 なんと、転校した大阪の高校で演劇部に入ったそうだ!
『すみれの花さくころ』って、タイトルだけでもカワユゲなお芝居やって、地区のコンクールで最優秀(乃木坂が取り損ねたやつ!)
 で、大阪の中央発表会に出たんだけど、惜しくも落っこちた。南千住の駅で、いっしょになったとき、伍代のおじさんにかかってきた電話がその知らせであったらしい……と、時間だ。電話、電話……携帯代をケチってお家電話を使う。

 プルル~ プルル~ ポシャ

――はい、はるか……もしもし……もしもし(わたしってば五ヶ月ぶりの幼なじみの声に感激がウルってきちゃって、言葉も出ない)
「……はるかちゃん……はるかちゃんなんだ」
――……て、その声。もしかして、まどかちゃん!?
「そう、まどかだわよ! どうして、黙って行っちゃうのよ!」
「おひさ~」
 お気楽に言うつもりがこうなっちゃった。
――……ごめんね、いろいろ事情あってさ。わたしも、それなりの覚悟してお母さんと家出ちゃったから、携帯の番号も変えちゃったし、大阪のことは誰にも言ってなくて。

「夏に、一回戻ってきたんだって?」
――うん。生意気にも、お父さんとお母さんのヨリもどそうなんてね……タクランじゃったんだけど、大人の世界ってフクザツカイキでさ。そんときゃ、頭の中スクランブルエッグだったけど、今はきれいにオムレツになってるよ。
「そうなんだ。で、はるかちゃん演劇部なんだって!?」
――イチオーね。まだ正式部員にはさせてもらえないの。
「どうして。地区予選で一等賞だったんでしょ?」
――わたし、最初は東京に未練たっぷりだったから、わたしの方から保留にしちゃったんだけどね。今は修行のためだって、顧問の先生とコーチから保留にされてんの。まどかちゃん、あんた演劇部なんでしょ?
「いいえ。ちがいます」
――だって、まどか、四月に入学早々、演劇部に入ったんじゃなかったっけ?
「そんじょそこらの演劇部じゃないの。この仲まどかは栄えある乃木坂学院高校演劇部の部員なのよ!」
――ハハ、そうだったわね。演劇部のスター芹沢潤香に憧れて入ったんだもんね。
「その潤香先輩がね……」

 潤香先輩のことには、はるかちゃんもビックリしたようだ。
 最後に、なにか話したげだったんだけど部活が始まっちゃうみたい。
「またゆっくり話そうね」
 ということで電話を切った。と、同時に……。
「よ、南千山!」
 びっくりした!……おじいちゃんが地元出身の力士に声をかけた。
 テレビが、幕内力士の取り組みになった九州場所を映していた。
 今年の秋も終わりが近い……。
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ファルコンZ:9『クリミアのマグダラ』

2019-11-12 06:52:25 | 小説6
ファルコンZ:9 
『クリミアのマグダラ』         

 
 
 
 1/3ほどを撃破すると敵は後退しはじめた。
 
「勝ったあー!」
 ミナコは無邪気に喜んだが、だれも反応しない。
「バルス、船尾にシールドを集中。コスモス、コスモ砲を船尾下方30度に照準や!」
「そんな大ざっぱな照準でいいんですか!?」
「ミナホのCPUとシンクロさせて、照準を早よせえ!」
「了解!」
 二人は返事、もうシンクロしていた。
「万一、前に現れたら、どうすんだよ!?」
 ポチが緊張した声で言ってきた。
「まあ、オレの勘を信じろよ……それから、コスモ砲のパワーは30%で」
「船尾方向に……」
 
 ズゴーーーーーン!!
 
 バルスが言い終わる前に衝撃が来た。なんだか分からないけど、後ろから攻撃されたことは確かなようだ。衝撃でミナコは舌を噛みそうになる。直後、かすかなショックがして船尾のコスモエンジンから強烈な光が放たれ、ミナコの目はホワイトアウトしてしまった。
 
「敵の母船大破。生命反応あり」
「ちょっとやりすぎたかな……ミナコとミナホは同行、コスモスもガードでついてこい」
「ミナコ、これを持って」
 コスモスは、ミナコに銃を渡した。
「スライダーを10に。これでディフェンサーが90になる」
「敵を見つけたら撃っていいわよ。パンチをかましたほどのショックにはなるわ。ほとんどパーソナルシールドにエネルギーが集中する設定よ」
「あの、みんなの顔が見えない。視野の真ん中が真っ白で」
「コスモ砲の発射見ちゃったでしょ。船長もヘルメット付けるぐらい言ってください。あれにはオートゴーグルが付いてんのに」
「すまん、時間がのうてなあ。まあ、ちょっとしたら治るわ。行くぞ!」
 
 ミナコの視野の白い光が全体にひろがり、すぐに、視界が別世界になった。
 
「ここは……?」
「敵船の中、ブリッジに行く通路よ。これからブリッジに行くから気を付けて」
 ブリッジの手前5メートルほどのところで右半身がむず痒くなった。反射的に銃を撃った。視野の端に、ミナコが見ても分かる古典的なロボットが転がっていた。
「船長。この船には旧式なコンバットがずいぶんいるようです」
「ミナホ、壁の端末にリンクして、船のCPUとコンバットのリンクを切れ!」
 この短い会話の間に、敵のコンバットの攻撃を五度ほど受け、三体を倒した。ミナコは二度ほど衝撃を感じた。敵の弾が当たったのである。
「リンク解除しました」
 
 ドシャ 
 
 とたんに天井から、リンクが切れたコンバットが落ちてきた。目の前だったので、びっくりしたミナコは、立て続けに銃でコンバットを撃ちまくった。
「もう止めとけ、リンクが切れてるから死んだも同然や」
 
 ブリッジに入ると、あちこちに人間とも宇宙人ともアンドロイドともつかないのが転がっていた。あらかたは死んでいるか、完全に壊れているかしていた。
 数体の生命反応と稼動反応があったが、弱いもので、そのうちの三つはすぐに消えてしまった。
 
『おい、大丈夫か』
 翻訳機を通して聞こえる船長の声は標準語のバリトンで、割にかっこいい。コスモスが抱き上げたのは指揮官だろうと思われたが、体は女性だった。
『どうやら、銀河のあちこちからの寄り合い所帯のようだが?』
『あんたの船の主砲はすごいな。それに後ろに回ったのもよくわかったわね……』
『ジャンクだけど、威力は凄い。あれでも出力は30だ。あんたが近寄り過ぎたんだ』
『あんた、ひょっとしてマーク……』
『ああ、久しぶりだなクリミアのマグダラ』
『同じ稼業なのに……』
『ちょいとばかり、あんたよりヘソが曲がってるんでね。真っ当な海賊にはなれねえ』
『わざわざ、あたしの負け面見にきたってか……』
『そうじゃない、見てもらいたいモノがあるんだ。この二人に見覚えはないかい?』
 船長は、ミナコとミナホを指した。
『……双子……いや、片方はガイノイド……パルスが、とても似てる』
『このパルスに覚えはないかい?』
『ごめん、銀河は広いからね』
『いや、いいんだ。ひょっとしたらと思ってな』
『それより、銀河連邦には気をつけな。あたしもあんたもただの宇宙の屑扱いしかしないから』
『ありがとう、気をつけるよ。じゃ、ナビゲーターにクリミアを入力しとくわ。コスモス……』
「はい」
『トドメをささないのかい?』
『またいつか、いっしょに飲もうや』
『……マーク』
 
 マグダラの船団はゆっくりとクリミア星に向かって去っていった。
 
「あたし、視野の真ん中が真っ白になってて、マグダラさんの顔見えなかったんだけど」
「こんな顔さ」
「きゃ!」
 体はコンバットスーツを着ていても分かるほど若かったけど、顔は何百歳というオバアチャンだった。
「もう、人のメモリー勝手に転送しないの!」
 コスモスがポチを叱って、代わりの情報をくれた。それは小顔で切れ長な目の美人だった。
「コスモ砲の影響。クリミアに着く頃には元に戻ってるわ」
「船長、次は『惜別の星』ですね……」
「あかんで、男心を裸にしたら。裸はベッドの上だけでよろしい」
 
 船長がミナホのヌードのイメージを浮かべそうになったので、ミナホは船長の頭に一発食らわした……。
 
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スーパソコン バグ・5『兄貴の事故』

2019-11-12 06:30:52 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・5
『兄貴の事故』       


 
 麻衣子は、商店街の福引きでパソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメと思ったパソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。でもって、アニキの龍太にもバグの存在を知られてしまった。


 しょんぼりと見学だけの部活の帰り道、珍しくお母さんからスマホがかかってきた。

――麻衣子大変よ、お兄ちゃんが入院しちゃった!――
「入院って、事故かなんか!?」
――くわしくは分からないけど交通事故。いま警察から連絡があったとこ――
「で、あたしは、どうしよう。病院行こうか!?」
――病院は、お母さんが行く。麻衣子はとりあえず帰ってきて待機してくれる?――

「あっぶねえ! 歩きながら、スマホ使うんじゃねえ!」

 通りすがりの自転車にぶつかりかけ、オッサンに怒られたが、麻衣子は意識もせずに家へ帰るため、駅へと急いだ。またスマホがかかってきた。
「お母さん!?」
――あたし、バグよ――
「なんだ、あんたか?」
――あんたかはないでしょ! 心配して電話したげたのに!――
「ごめん、で、なにか情報!?」
――病院のコンピューターとリンクしたの。右肩と右足の骨折。命に別状なし。詳しくは……――
「良かった、命には別状ないのね。じゃ、とりあえず家に帰るね」

 電車に乗って気づいた。バグの奴電話できるようになったんだ……それに、病院のコンピューターって、並以上のセキュリティーかかってるよね。あいつ、どうやって?

 と、あれこれ考えているうちに家に着いた。

「おかえりー!」
 バグがマユユの姿で声をかけてきた……ん?
「バグ、あんた3Dになってんじゃん……いや、それ以上だよ」
「ああ、ホログラムって言うの。3Dの究極進化系よ」
「それはいいんだけどさ、首だけってのは……」
「あ、ごめん気持ち悪いよね。じゃ、こんくらいで……」
 バグは、実物の1/4ぐらいの全身像になった。
「バグ、電話もできるようになったのね」
「うん、軽いもんよ。それより病院のコンピューターのセキュリティーの方が大変だった。がんこなコンピューターでね」
「で、どうやって?」
「病院の経理上のミスを見つけてね、税務署のコンピューターに言いつけるわよ、って言ったら教えてくれちゃった。アハハハ」
 
 少しバグが怖ろしく感じられた。まさにカワイイ顔してやるもんである。

「あ、もうじきお母さんから連絡有るだろうけど、これだけのもの用意しといて」
 バグは、入院について必要なものの一覧表を出してくれた。で、家のあちこちから用意したところでお母さんから電話があった。
「必要なもの言うからメモしてね」
「うん」
 麻衣子は、目の前にある用意のモノを見ながら、チェックした。
「以上、よろしく」
「あ、お母さん、印鑑ぬけてるよ」
「あ、ほんとだ。でも麻衣子、よく気がついたわね!?」
「あ、なんとなくいるんじゃないかなって……」
「ハハハ、麻衣子、案外いいお嫁さんになれるかもね。じゃ」
 電話の様子からも、アニキは大したことはないだろうと感じられた。
「じゃ、ちょっと行ってくるわね」
「うん、また、なんかあったら連絡するからね。あ、歩きスマホはするんじゃないわよ」

 なんだか、バグには見透かされているような気がする麻衣子であった。


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小悪魔マユの魔法日記・92『黒羽美優の葬儀・2』

2019-11-12 06:22:43 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・92
『黒羽美優の葬儀・2』    


 
「はわわ……」

 ライトノベルの三枚目みたいな声が出てしまった。ライターを差し出したのは、三年ぶりに顔を合わせた、アイツだった……。

「真田さん……」
「こんなことで再会するとはね。式が始まったら、お焼香だけでもさせてもらうよ」
「どうも……」
「……じゃ」
 
 由美子は、真田に教わったたばこを、一口だけくゆらせて控え室にもどった。こんなかたちで五年ぶりに真田にあうとは思いもしなかった。五年ぶりの再会の言葉が、あれで適切なのかどうかは計りかねたが、あれ以上の会話は、思いもしない感情を心の底から呼び戻してしまっただろう。
 真田は、左手を、ずっとポケットに入れたままだった。

 予想以上に参会者が多く、葬儀の時間は長かったが、苦にはならなかった。今までの父の介護や看護のことを思えばなにほどのことでもない。一般焼香のときに真田の気配を感じたが、あえて、その手に指輪がされているかどうかも見ることはしなかった……。

 マユは、美優の命の灯が消えてからは、仁科香奈の姿になっていた。
 
 仁科香奈とは、マユとクララの姿を足して二で割ったアバターである。自分の本来のアバターは拓美に貸してあるので、これ以外はケルベロスのポチの姿しかない。
 マユは由美子と真田のことは気づいていた。あの清純で献身的な看護を続けてきた由美子に、こんな過去があるとは思いもしなかった。駐車場で二人が再会した時に、由美子の過去が、思念といっしょに分かってしまったが、二人の心が、きちんとケジメをもったものなので、安心した。
 焼香の間、二人は意識の片隅でお互いを捉えていたが、それ以上になることは無かった。ただ、会葬者の中に四歳ぐらいの子どもを連れた女性を見たときに、一瞬由美子の心が揺らめいた。真田との間にできた子を産んでいたら、ちょうどその子と同じくらいの年格好になっていたからだ。

 出棺の直前、棺を花で満たしてやるときに、いろんな思念がいっぱい飛び込んできて、マユは一瞬クラッとしてしまった。

 美優の母親のローザンヌのマダム美智子の悲しみが一番大きかった。その美智子をいたわる気持ちは、ポーカーフェイスの光ミツルが一番だった。
 黒羽の心を一番気遣ったが、美優の顔を見て、美優と、ちゃんと通うところがあったのだろう。小さくうなづいて、黒羽自身の手で棺の蓋をした。
 小悪魔の悲しさ、人間や、幽霊、妖精のたぐいの姿や思いは分かるが、天国に行く魂は見ることも感じることもできない。
 
 スタジオで美優の命の灯はオチコボレ天使の雅部利恵の手の中でエメラルドグリーンに輝いていた。それが、美優の魂が見えた最後だった。その美優と黒羽は、最後になにか語り合ったのだろう。棺の蓋をしたとき、黒羽の心は温もっていた。

 パアーーーーーーーーーーーーーーン

 二台の霊柩車のクラクションが長く響いた。

 あとは大丈夫だろう。人間たちは、苦悩を乗り越え支えながら生きていく。マユの仁科香奈は乃木坂学院高校の制服を着ている。明日には退学届けが受理され、週末にひかえたオモクロの研究生のオーディションを受ける。
 なんせ、サタン先生がオチコボレ用に用意してくれたアバターではない。人々の記憶や記録を、一から用意などできない。簡単に乃木坂学院の退学生としての仁科香奈しか用意ができていない。
 とにかく、これで脳天気なオチコボレ天使の雅部利恵が作った、想色クロ-バー、オモクロをなんとかしなければ。そう思い定めた、仁科香奈姿のマユであった。
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