大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・094『海老煎餅買って意外な人を見かける』

2019-11-18 12:50:00 | ノベル

せやさかい・094

『海老煎餅買って意外な人を見かける』 

 

 

 前にも書いたけど、堺の中学生が大和川を超えるのは、ちょっとした冒険。

 

 お使いも終わって帰るだけやねんけど、なんやもったいない。

 五千円のお小遣いももろたしね。

 お祖父ちゃんにお土産買うことを思いつく。

 千円くらいでお祖父ちゃんが喜んでくれそうなもの。

 食べ物がいい。「お祖父ちゃん、一緒に食べよ」と持って行って、しばし祖父と孫娘の会話……これでいこ!

 

 これは専光寺さんに着くまでに考えてたこと。

 

 で、なにがええやろと考えてるとこで着いてしもた。

 ご本尊の『見返り阿弥陀』さんに感心してると、坊守さんがお茶とお菓子を出してくれはった。

 出してくれはったんは海老煎餅! えびせんべいと平仮名で書くようなもんと違う、漢字が似つかわしい海老煎餅!

 個包装の袋を見ると『一枚に海老一匹をまるまる使ってます』とプリントしてある。

「お寺は、甘いものばっかりでしょ。くつろいでお話するときなんかは、お煎餅お出ししてますのん」

 なるほど、檀家周りでもろてくるのとか、法事の粗供養なんかは圧倒的にお饅頭的な和菓子が多い。あれを全部食べてたら、お寺のもんは全員糖尿病になる。

「いやあ、美味しいですねえ」

 言うと、坊守さんも喜んで、いっしょにお煎餅を齧りはった。

 郵便屋さんが来て、坊守さんが外しはった隙を狙ってスマホで検索。難波のデパートで売ってることを確認した。

 

 それで、難波の百貨店に寄って、十枚入り千百円のを買う。

 ニ三千円のもあるんやけど、もらった五千円からの無理のない金額と、年寄りに無理のない量。

 海老煎餅をゲットしてマクドに向かう。

 秋風が爽やかなんで、バリューセットの載ったトレーを持ってオープンデッキへ。

 ハンバーガーとポテトをほちくり食べてると、オープンデッキの向こうから聞き覚えのある声がしてくる。

 

「そんなこと言わんと、協力してくれよ」

「いやよ、預かったらズルズルになるのん目に見えてるもん!」

「声おおきい」

「おおきい声出させるのは兄ちゃんのほうよ!」

「せやから、声おとせ……」

「お母ちゃんの面倒は任せとけ言うたんは兄ちゃんやんか! それをいまになって!」

「声大きい!」

「わたしかって仕事があるねん!」

 男の人の声は担任の菅ちゃんや……今日は、昼からいてへんかって、終礼は春日先生がしてくれた。ときどきあることなんで、気にも留めてなかったんやけど、女の人……たぶん妹さんに会ってたんや。

 声を落としたんで全部は聞こえへんけど、お母さん、要介護3、手ぇいっぱい、介護施設、とかの単語が聞こえてくる。

「仕事との両立は、もう限界やねん!」

 菅ちゃんが切れ気味に言うと、妹らしい人はプイっと行ってしまう。菅ちゃんは、一瞬追いかけようとするけど、二三歩行ったとこで肩を落として地下鉄の方に行ってしもた。

 ひょっとして、ヤバいとこ見てしもた?

 振り返った菅ちゃんと目が合いそうになったので、亀みたいに首をすっこめるあたしでした。

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永遠女子高生:02《久美・1・先生はバー○ンですか?》

2019-11-18 07:01:09 | 時かける少女
永遠女子高生:02        
久美・1・先生はバー〇ンですか?》 




 結は、2003年藍本小百合という二の丸大学附属高校の女生徒になった。

 役割は分かっていた。多分あの大天使ガブリエルみたいなのがダウンロードしてくれたんだろう。
――久美を学校の先生にしないこと――
 これが命題だった。

 小百合が、まだ結だったころ、久美は高校の先生になることを夢見ていた。
 その久美が、大学の四回生になって、教育実習にやってくる。

「起立、礼、着席!」

 日直の安西君がかけ声をかける。指導教諭の藤田先生の横で、久美が緊張して、虫歯が痛いのを我慢しているような笑顔で立っている。
「えーー、今日から教育実習に来られる松原久美先生だ。今週は授業の見学。来週の三時間を実際に授業していただく。君らは、よそ行きにする必要はないが、必要以上に困らせるようなことがないように。じゃ、相原先生。一言ご挨拶を……」

 久美は、ますます虫歯痛の笑顔になって挨拶した。

「この二週間、勉強させていただく松原久美です。よろしく。大学は、想像が付くと思いますが、二の丸大学です。将来……いえ、来年は採用試験に通って、必ず地歴公民の先生になります。どうぞよろしく。さっそくですが、みんなと仲良くなりたいのと、あとの自己評価の資料にしたいので、わたしへの質問や印象を書いて下さい。名前は書いても書かなくってもいいです」

 緊張はしているが、さすがに高校時代から演劇部だったので、声量と発声は、とてもいい。まず結はひっかけてみることにした……。

 アンケートを五分ほどで取り終えると、久美は藤田先生の授業を熱心に聞き、メモをとって、ときどき頷いたりして、いかにも初々しい教育実習生になった。首からぶら下げているIDが、まるでバーゲンの印のように思えて可笑しかった。しかし、小百合という子は、そんなことは、まるで表情に出ない、一見優等生のお嬢さんである。

「え……」

 昼休みに、実習生ばかりの控え室で、お弁当を食べながら、アンケートを読んで息が止まりそうになった。
 ほとんどのものは、「がんばってください」「よろしくお願いします」「うちのクラブ見に来てください」など。変わったところでも「先生はモームスのダレソレに似てますね」と、いったところで、実習生としての久美そのものに踏み込んだものは無かった。そして、そのほとんどが無記名だった。

 その中に、ただ一つ奇妙と言うよりショックなものがあった。

――先生は、バー〇ンですか?――

 というものがあった。そして、きちんと名前が書いてあった。

 藍本 小百合。

 久美は顔を赤くしながらも、対応を考えた……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・39『なにかがタギリはじめた……』

2019-11-18 07:00:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・39   
『なにかがタギリはじめた……』 


 
 
 ガタガタガタ……気の早い木枯らしが、立て付けの悪い窓を揺すった。

 二三人が、そちらに目をやったが、すぐに机の上のメモリーカードを見つめる視線の中に戻った。
「再生してみますか……」
 加藤先輩が小型の再生機を出した……ほんとは気の利いたカタカナの名前がついてんだけど、こういうのは携帯とパソコンの一部の機能しか分からないわたしには、そう表現するしかない。
「マリ先生が再生するなって……」
「じゃ、マリ先生……」
 わたしは持って行き場のない怒りに拳を握って立ち上がった。
「そう……じゃ、マリ先生は、全てを知った上で辞めていかれたのね」
 柚木先生が腰を下ろした。木枯らしはまだ窓を揺すっていたが、もう振り返る者はいなかった。

「あとは山埼、おまえががやれ」
 峰岸先輩は山埼先輩にふった。
「……今日は結論を出そうと思う」
 山埼先輩が立ちながら言った。

――結論……なんの結論?

「部員も、この一週間で半分以上減った。このままでは演劇部は自滅してしまう。倉庫も、機材ごと丸焼けになってしまった。今さらながら乃木坂学院高校演劇部の名前の重さとマリ先生の力を思い知った」

――思い知って、だからどうだと言うんですか……。

「忍びがたいことだが、まだオレたちが乃木坂学院高校演劇部である今のうちに、我々の手で演劇部に幕を降ろしたい」
 みんなウツムイテしまった……。

「……いやです。こんなところで、こんなカタチで演劇部止めるなんて」
「気持ちは分かるけどよ、もうマリ先生もいない、倉庫も機材もない、人だって、こんなに減っちまって、どうやって今までの乃木坂の芝居が続けられるんだよ!」
「でも、いや……絶対にいや」
「まどか……」
「わたしたちの夢って……演劇部ってこんなヤワなもんだったんですか」
「あのな、まどか……」
「わたし、インフルエンザで一週間学校休みました。そしたら、たった一週間でこんなになっちゃって……駅前のちょっと行ったところが更地になっていました。いつもパン買ってるお店のすぐ近く。もう半年以上もあの道通っていたのに、なにがあったのか思い出せないんです」
 なにを言い出すんだ、わたしってば……。
「ああ、あそこ?」
「なんだったけ?」
「そんなのあった?」
 などの声が続いた。外はあいかわらずの木枯らし。
「今朝、グラウンドに立ってみました。倉庫のあったとこが、あっさり更地になっちゃって。他の生徒の人たちはもう慣れっこ。体育の時間、ボールが転がっていっても平気でボールを取りにいきます。あたりまえっちゃ、あたりまえなんですけど。わたしには、わたしたちには永遠の思い出の場所です」
「なにが言いたいんだ、まどか」
「今、ここで演劇部止めちゃったら……青春のこの時期、この時が、駅前のちょっと行ったところの更地みたく、何があったか分からない心の更地になっちゃうような気がするんです。たとえ燃え尽きてもいい。今のこの時期を、この時間を、あの更地のようにはしたくないんです……」
「まどか……」
 里沙と夏鈴が心細げに引き留めるように言った。
「それは感傷だな……」
 峰岸先輩が呟いた。

 わたしの中で、なにかがタギリはじめた……。
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ファルコンZ・15『マークプロの宣伝ロケット』

2019-11-18 06:52:14 | 小説6
ファルコンZ 15
『マークプロの宣伝ロケット』        

 
☆……三丁目の星・3
 
 マークプロの向かいの空き地からロケットが打ち上げられた。
 
 ロケットと言っても長さ二メートルほどのミサイルのようなものだが、先端に二つのカプセルが仕込まれている。
 一番上のカプセルには、二千枚のビラが仕込まれていて、このビラを拾って事務所に持っていくと、陽子やザ・チェリーズと握手ができて、賞金一万円がもらえる仕組みになっている。
 一番目のカプセルは高度一万でハジケ、二千枚のビラは、東京、千葉方面に舞い落ちていった。あらかじめ、マスメディアに連絡してあったので、事務所前には、新聞、週刊誌、ラジオにテレビ、当時全盛だった、映画のニュース会社まで押し寄せた。
 マーク船長は、事務所の両隣と向かいの空き地を借り上げていたので、野次馬を含むマスコミは、余裕で来ることが出来た。
 
『奇想天外、マークプロの宣伝ロケット!』
 
 おおむね、こういう見出しで、ラジオとテレビは中継された。新聞は夕刊のトップに、週刊誌は翌週のトップ記事にした。
 後日談ではあるが、科学雑誌、それも専門家が読むような『航空宇宙』が取り上げた。当時としても、国産ロケットで高度一万まで飛ばせるものがなかったからだ。
「なあに、素人のまぐれですよ」
 そう言いながら、ロケットの設計図を配った。その後日本の得意になる簡単な固体燃料によるエンジンに、ドイツが戦時中飛ばしていたV2ロケットの姿勢制御装置のコピーで、当時の米ソの技術から見ればオモチャみたいなもので、当然米ソは関心を示さなかった。
 
 握手会と賞金の引き替えは、その日の午後から明くる日の夕方まで行われた。ビラには細工がしてあり、36時間後には印刷は消えるようになっていた。こういうイベントは短期勝負である。
 結果的には、48枚のビラが持ち込まれた。握手は、ビラがなくてもできるので、約一万ちょっとの人が集まった。
「社長の考えることって、すごいわね。たった三日で、ほとんどスターの扱いよ!」
 陽子は感激した。ミナコとミナホも、表面上それに合わせた。400年も進んだ文明の全てを、三丁目星の代表である陽子にも明かすわけにはいかない。
 
 ロケット打ち上げの二日後から、世界的な異変が起こった。
 
 陽子と、ザ・チェリーズのプロモーションビデオや音声が、全世界で視聴できるようになったのである。
 これは、高度な人工衛星がなければできないことである。
 そう、マーク船長のロケットの本当の推進力は、小型の反重力エンジンなのだ。二段目のバレ-ボールほどのカプセルが、衛星軌道の高さにまで達すると、中から八個の超小型人工衛星が周回軌道に乗り、陽子やザ・チェリーズの動画や、曲を流し始めた。
 これは世界中のテレビやラジオで視聴できた。
 共産圏ではテレビやラジオのバンドは固定されていたが、マークプロのプロモは、あらゆる周波数帯で流している、当時の技術では阻止できなかった。
 
「マーク社長、警察が来ました!」
 
 急遽増員した人間のスタッフが、顔色を変えて社長室に飛び込んできた……!
 
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小悪魔マユの魔法日記・98『オモクロヒットの裏側・3』

2019-11-18 06:41:29 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・98
『オモクロヒットの裏側・3』 



 加奈子の濁った思念の中に東京タワーとスカイツリーが見えた。

 たしかに、このガラス張りからは、その両方が見える。でも、それは何かの象徴のように思えた……。

「あの時、あなたの一番近くにいたのはわたしなの」

 一昔前の人口音声のような無機質さで、加奈子は言った。視線はガラス張りに向けられたまま。
「助けなきゃ。そう思った……ほんとよ。でもその前に美紀ちゃんが動いていた。で、わたしは動けなくなってしまったの」
「どういうことですか?」
 マユは、加奈子の横顔に聞いた。
「美紀ちゃんは、心からオモクロを愛している。だから、とっさに、仁科さんを助けようとしたの」
 マユは、仁科香奈の顔で当惑した。
「美紀ちゃんたちは、あとからやってきて、おもしろクローバーを想色クローバーに変えてしまった。そしてAKRに肩を並べるほどのアイドルグル-プにしたわ。力とオモクロへの愛情がなきゃできないことよ。だから、たとえオーディションの受験生でも、仲間が危険だと思ったら自然に体が動くのよ……それに圧倒されて、わたしは体が動かなかった……でも、これって言い訳よね」
「どうしてですか……」
「だって、わたしが飛び込んでいったら、おそらく、だれも怪我せずに、あなたを助けられたわ……あのとき体が動かなかったのは、わたしの心がオモクロから離れ始めている証拠」
「そんなこと、とっさのことだったんだから、いま思い悩んでもしかたないですよ」

 マユの言葉に、加奈子の答えは返ってこなかった。

 ロビーの小さな声や物音が騒音に聞こえるほど、加奈子の沈黙は長かった。

「でも、やっぱり、わたしが飛び込むべきだった……もともと、オモクロってアクション系だから、気持ちさえシャンとしていたらできたはず……それに、わたしだったら万一ケガをしても、グループに影響は何もない」
「考えすぎですよ、美紀さんの代わりに加奈子さんがアンダーやることになって、で……」
「それなら、もうない」
「え……?」
「ついさっき、アンダーは、真央ちゃんに変わった。たった今メールがきたとこ」
「そんな……」
「もとのオモクロのセンターじゃ、昔のイメージ引きずっちゃう。研究生あがりだけど、真央ちゃんなら、まだなんの色も付いていないし、実力もあるものね……ここから見える景色って……ごめん、なんでもない」
 そう言って、加奈子は立ち上がった、事務所に戻るつもりのようだ。

 マユには、加奈子が言い淀んだ言葉が分かった。

 ここのガラス張りからは、東京タワーとスカイツリーの両方が見える。スカイツリーができてからは、東京タワーはかすんでいる。実際、東京タワーのまわりには超高層ビルが建ち並び、東京タワーは陰が薄い。加奈子はその姿が今の自分の姿に重なってしまったのだ。
「加奈ちゃんも事務所?」
「ええ、書類とか、いろいろあって。わたし、こういうの苦手だから間違ってないか心配で」
「貸してごらん」
 加奈子は親切に、書類を見てくれた。
「ああ、名前のフリガナは片仮名だよ。うちの担当意地悪だから、チェックかもね」
「どうしよう……」
「わたしが付いていってあげるよ。さすがに、わたしが一緒なら文句も言わないだろうから」
「すみません」
「ドンマイ、ドンマイ」
「あ、信号赤です」
「チ、タイミング悪いね」
 ……ここの信号は長い。二人は見るともなく、空を見上げた。
「ここからだと、スカイツリーっきゃ見えないんだよね」
「見えますよ、東京タワーも。ほら、あのビルの横っちょに先っぽが」
「ほんとだ。まるでバックコーラスだね」
「でも、見えることは見えます。まだ東京タワーを愛している人もたくさんいるんですから」
「だよね、お客さんはそんなに減ってないってネットに出てた……て、香奈ちゃん、なんで、わたしが東京タワー気にしてるってわかったのよ?」
「そりゃあ、会話の流れで……」
「そっか、偲ぶれど色に出にけりだね。よし、青になった。いくよ!」

 長い横断歩道を渡る間に、マユは、加奈子の心に、ちょっとだけ魔法をかけた。いや、魔法と言えるほどのものでもない。おもしろクロ-バー時代の曲をちょっと元気よくハミングしてみたのだ。
 
 横断歩道を渡りきるころには、加奈子の心にはアイデアと共に小さな勇気が湧いていた……。
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