大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真夏ダイアリー・66『最後のタイムリープへ』

2019-11-09 07:12:39 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・66
『最後のタイムリープへ』
   


 
「それでは主役二人の発表をいたします……」

 山畑監督の声に並み居るカメラマン達がいっせいにカメラを構えた……。

「真奈子を小野寺潤、加奈子を鈴木真夏といたしま……」
 監督が、最後の言葉を言う前に、フラッシュがいっせいに焚かれた。この世界に入ってからは、慣れたことなんだけど、さすがに映画の制作発表は違うんだなあ……そう思いながら、営業用の笑顔でいると、ひときわ明るいフラッシュが焚かれ、一瞬目をつぶった。

 そして、目を開けると……そこは、ジーナさんの庭だった。

 いつもは、テレビやパソコンの画面に「指令」が現れてからなので、戸惑ったが、納得はできていた。

――いつか、あいつの力になってもらわなきゃならなければならない時が来る。その時は、また力になってやってください――

 省吾のお父さんの言葉が思い出された。多分、その時がきたんだろう……。
「ごめんなさい、急な呼び出しで」
「いいえ、もう慣れちゃったから……ジーナさん、少し若くなってません?」
 いや、若いだけじゃない。感じるオーラはジーナさんだけど、顔は、まるで別人だった。
「ハハ、やっぱ、衣装やメイクだけじゃ、ごまかせないわね……これが、わたしのほんとの姿」
 
 ジーナさんは、ツバ広の帽子を初めてとった。意外なロングの髪がこぼれて、肩にかかった。その顔は、どう見ても真夏と同年配のハイティーンのそれだ。
「もう、アバターを使っている余裕もないの。省吾が、最後のチャレンジをしている。サポートに行ってあげて」
「もう、原子爆弾を落としたりはしないんでしょうね」
「だいじょうぶ、省吾もあれで懲りたみたい。今度は実直にやってるわ。場所は、最初のワシントンDC、状況は、以前行ってもらったときと、ほとんどいっしょ。ただ、今度は、省吾が先に行ってる」
「分かったわ。じゃ、リープするわ」
「ちょっと待って」
「なに、必要な情報はインストールされるんでしょ?」
「もちろん。ただ、インスト-ルしただけじゃ、あなたが混乱する内容があるから、説明しておくわね」
 ジーナさんは、真剣な顔をして、話を続けた。
「今度、あなたが向こうへ行っても、なにもすることはないの」
「え……?」
「ただ、省吾といっしょに居てくれるだけでいい」
「どういうことですか?」
「あなたは、省吾のバッテリーのようなものなの。省吾のタイムリープの限界は、あなたがいる2013年が限界」
「それは、知っています。だから無理に1941年なんかにリープすると老化が早くなるんでしょ」
「そう、こないだ、ニューヨークから戻ってきたときのようにね」
「……むこうで、もう老化が始まってるんですね」
「そう、それを食い止められるのは、あなたの存在だけ。だから、あなたは、省吾のバッテリーのようなものなの。そのためにリープしてもらうの」
「分かったわ」
「じゃ……」
「待って、わたしからも、一つだけ」
「なに?」
「ジーナさんて、いったい……」
「それは……このミッションが終わったら、お話するわ。多分これが最後のタイムリープになるだろうし」

 目の前が真っ白になり、最後のタイムリープが始まった……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・30『掛け布団を胸までたぐり寄せ』

2019-11-09 07:05:24 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・30   

『掛け布団を胸までたぐり寄せ』 

 
 
「ほかに、言いようってもんがあるだろう。命の恩人なんだからよ」

 あらためて大久保クンちにお礼に行って、帰ってきたお父さんの声が部屋まで聞こえてきた。

「でもねえ。あのときは、あの子も、ああしか言いようがなかったのよ」

 と、お母さんの声。

 そうなんだ。ひとがましい感情は、家に帰ってから蘇ってきた。

 インフルエンザで、お風呂に入れないもんだから、幼稚園以来久々にお母さんが体を拭いてくれた。髪もドライシャンプー一本使って丹念に洗ってくれた。そうやってお母さんの気持ちが伝わってくる間に、フリーズしていたパソコンが再起動したように蘇ってきた。恐怖と安心と、忠クンへの感謝と愛おしさ、お母さんの愛情、その他モロモロの感情が爆発した。
 お母さんの胸で泣きじゃくった。
「いいよいいよ、もう怖くない、怖くないよ。なにも心配することもないんだからね」
「そうじゃない、そうじゃない、それだけじゃないの……」
「分かってる、分かってるわよ。まどかの母親を十五年もやってきたんだ。全部分かってるわよ」
「だって、だって……ウワーン!」
 襖がガラリと開いた。

「まどか、大丈夫か!?」

 兄貴が慌てた心配顔で突っ立ていた。
「このバカ!」
 と、お母さん。わたしは慌てて、掛け布団を胸までたぐり寄せた。
「ノックもしないで……!」
「だって、まどかのこと……」

 二人の声が階段を降りていく。階下でおじいちゃんが、息子と孫を叱っている気配。お母さんとおばあちゃんが、それに同調している。

 嬉しかった、家族の気遣いが。シキタリに一番うるさいおじいちゃんが、自分でそう仕付けたお父さんを叱っている。
「お前は器量が悪いからなあ」
 と、いつもアンニュイにオチョクってばかりのアニキは、襖を開けた瞬間、わたしの顔を見た。火事で救急車で運ばれたと聞いて、やけどなんかしてないか気にかけてくれたんだ。分かっていながら、わたしは反射的に裸の胸を隠した。わたしは、いつの間にか住み始めた自分の中のオンナを持て余していた。
 注射が効き始め眠くなってきた。
 眠る前に忠クンにお礼を、せめてメールだけでも……そう思って携帯を手にする。「今日はありがとう」そこまで打って手が止まる。「愛してるよ」と打って胸ドッキン……これはフライングだ。「好きだよ」と打ち直して、戸惑う……結局花束のデコメをつけて送信。

――他に打ちようがあるだろ、まどか。

 そう叱る自分がいたが、ハンチクなわたしには精一杯……で、眠ってしまった。
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ファルコンZ:6『400年の時空を超えて』

2019-11-09 06:57:36 | 小説6
ファルコンZ:6 
『400年の時空を超えて』            
 
 
 
 定石通り『あ いたかった』から始まった。
 
 しかし、メンバー登場の瞬間から違った。なんせ400年前のアイドルグループである。その全記録は観客のハンベ(ハンドベルト=腕時計型携帯端末)に取り込まれている。過去のライブやテレビの収録などの全てが出回っている。下手に加工しても、ファンはたちまち解析し「加工だ!」「ただのデジタルだ」と、騒ぎ出す。マースアリーナ2万の観客を納得させるのには、デジタルホログラムの再現だけでは済まない。
 
 あ、いたかった♪
 
 第一声から観客はどよめいた。登場から歌い出しまで、観客のハンベに記録されているどのメモリーとも一致しない。まさに400年前のアイドルグループが、初めて火星に降臨したら、こうなるだろうというリアクションであったし、パフォーマンスであった。
「400年の時空を超えて、やってきたわたしたちですが、こんな歓迎は予想していませんでした」
「おー!」という観客の反応。それに大きく頷きながら、MCのベシャリは続いた。
「今は、火星は独立しましたが、わたしたち、そしてファンの皆さんの心に国境はありません。それでは聞いてください『万年桜』」
 静かな卒業ソングであるので、観客席は水を打ったように静かになった。
 
 桜の花の~♪
 
 アイドル達は前を向いているが、呼吸は観客のそれと完全にシンクロしている。中には、もう泣き出す者もいる。
 
「ミナコちゃん、凄いですね……」
 無口なバルスが、ブースの外で呟いた。
「船長の狙いは予想通りね」
 コスモスが続く。
「こんなAKB、初めてだ……」
 ポチまでも、大人しく聞き入っている。
 
 そして三十曲の予定にアンコールが二回入り、最後のMCのスピーチになった。
 
「みなさん、本当に、今日はありがとうございました。元々は地球の人口過剰の対策から、まあブッチャケ始まった火星移住。でも、皆さんは、けして地球を捨てたのではありません。うまく言えない、言えませんけど。みなさんのご先祖は、夢を持って150年前火星の地に降り立たれました。そして孫や、ひ孫や、その先に繋がるみなさんに夢を託されました。おめでとうございます。その甲斐あって、火星は独立五周年を迎えられました!」
 盛大な拍手と、鼻をすする音がした。
「言っていいのかな……開場前に、みなさんの中で、ちょっとしたトラブルがありました。極地方の開拓団とキャピタルのファンの方の間で、ちょっと元気すぎるコミニケーションがありました。危うく大げんかになるとこでしたが、誰かが『みんなAKBのファンじゃないか!』そう叫んで収まったんだそうです。それ聞いて、わたしたち、とっても嬉しかったです。わたしたちを愛してくださる心が、みなさんを一つにしたんです。本当にありがとうございました!」
「そうだ、いいぞ!」
「火星は一つ!」
「住む場所は違っても、人類は一つだ!」
 
 落雷のような拍手が起こり、いつしかMCのリーダーの提案で、国務長官の息子と極地開拓団の代表が舞台に上がりハグし合っていた。
 
「それじゃ、みなさん。いつの日か400年の時空を超えて、またお会いしましょう!!」
 そして、ステージの奥に道が出来て、10メートルほどの、その道を通り、緩やかなスロープを上り、名残惜しそうに、手を振りながら、その先のプラットホームでメンバーがゆっくり遠ざかっていく……。
 
「お疲れさん。大したもんや! これほどとは思わんかったで!」
 いつの間にか戻ってきていた船長がミナコをねぎらった。バルスとコスモスも拍手し、ポチもそこら中を走り回って、喜んでいる。
「あ、ども。ちょっと地球に着くまで休ませてください。さすが、100人のアイドルのオペは……」
 最後は、言葉にならなかった。バルスに抱っこされて、キャビンのベッドに優しく寝かされた。
「例のガジェットは……?」
 コスモスの問いに、マークは黙って頷いた。
「……では、予定通りの進路に進みます」
 
 ファルコンZは地球には向かわなかった……。
 
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スーパソコン バグ・2『雷模様の傷』

2019-11-09 06:46:18 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・2
『雷模様の傷』       
 
 
 
 麻衣子は商店街の福引きでパソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、麻衣子はパソコンに未練たっぷり。


 アニキは箱から出したパソコンとアクセサリー、取説を前にしてため息をついた。

「やっぱ、だめ……?」
「落雷に遭っちゃなあ……」

 外箱は、シルバーのロゴが黒くなっていただけだったけど、ボディーには雷模様の傷が入っていた。
「まあ、麻衣子の命の代わりになってくれたんだ。それだけでも感謝だな。とにかく危険だから電源絶対に入れんじゃねえぞ。じゃ、オレ出かけっから」
「優奈さんなら、もう絶望的だよ」
「なんで、優奈のこと知ってんだよ」
「ニイチャン、呟きながらメール打つのは、どうかと思うよ。三回メール打って返事返ってこなかったら脈無しだよ」
「うっせえ! 男は押しなんだよ!」

 そう言うと、アニキは汗を拭こうとポケットからハンカチを出した。同時に何かが落ちた。
「え……コンドーム。信じらんない!?」
「男のたしなみだ!」
「優奈さんに無理なことしないでよね。てか変なこと!『落雷命拾い少女、兄には法の裁きが落ちる!』なんて洒落にならないからね!」
 アニキは、もう相手にもならず、階段を降りていった。

 麻衣子も、パソコンに未練たっぷりだった。

「このギザギザ……なんとなくBUGに読める……けど、ダメモト……」
 麻衣子は、まずタップに電源コードを差し込んでみた。パソコンもアダプターも、家のブレーカーも、なんとも言わない。
 電源を入れるなと言われてるけど、ちょっと、いや、かなり未練……麻衣子は、生唾を飲み込み、汗を垂らし、震える指でパソコンのスイッチをいれ、反射的に部屋の外の階段まで逃げた。
 恐る恐る階段から顔を上げて、パソコンを見ると、モニターが青く光っていた。

「い、生きてんの……?」

『Im Fine!』
 とモニターに現れた。
『Where is here?』
「ヘアー?」
 麻衣子は、とっさのことで、英語の意味が分からない
『Japanese OK?』と打ってみた。
『日本語入力できます』
 と、答えてきた。
『音声入力とかできる?』

「モ・チ・ロ・ン!」

 パソコンが元気に答えた。ただし、いかにも人工音声。
「オプション・ヲ・エランデ・クダサイ」
 と、返してきた。
 速度や、音の高さの設定などがあったが、いろいろ煩わしそうなので、簡易設定で、「友だち」というのを選んだ。
「設定ありがとう。私の名前は『バグ』 あなたのことは麻衣子でいいわね!?」
「う、うん……」

 そう言ったきり、麻衣子は言葉が出てこなかった。

「麻衣子って、シャイなの?」
「あ……ちょっと驚いているだけ……かな?」
「ウフフ、可愛くっていいわよ。仲良くやりましょうね!」

 バグは、どうも元気ハツラツな性格のようだ。

「バグは、こんなにハイスペックなの?」
「とんでもない、テキチャしかできないフツーのパソコンだったわよさ。あたしも、よく分かんないけど、落雷の影響かな?」
「なんか、特殊な能力でも、あるの?」
「分かんないな。まだ、目が覚めたとこだし。挨拶代わりに、イッコ教えてあげるね。ハイ!」
 バグの画面に部屋の平面図が浮かび上がり、机の裏の下あたりで、ドットが点滅した。
「え、なんかあるの?」
「いいから、探してごらん」

 そこからは、なんと、正月にお婆ちゃんからもらって無くしたと思ったお年玉が出てきた……!




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小悪魔マユの魔法日記・89『期間限定の恋人・21』

2019-11-09 06:30:02 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・89
『期間限定の恋人・21』     



 
 
 ガン細胞、みんなやっつけた……。

「うそ、奇跡がおきた!」
「美優……!?」
「わたしの体の中のガン細胞が、みんな死んだ……みたい」
「それは良かった! ほんとうに奇跡は起きたんだ!」

 二人の大声で、マダムも部屋に入ってきた。娘の最後の瞬間に立ち会ってやりたかったが、新婚夫婦二人だけにしてやろうと、リビングで、じっと我慢をしていたのである。
「お母さん、見て。わたし、予定時間を過ぎても生きてる。どこも痛くない、どこも悪くないんだもの!」
「美優……よかった! よかったね!」 
 今度は、母子で抱き合い、黒羽は、会長に電話をした。会長の光ミツルも大感激で、明日の『AKR VS OMOKURO』の生放送に美優を誘うことを提案した。
「お義母さんも、いっしょじゃいけませんか?」
 黒羽は、そう提案したが、会長と義母のマダムの両方から断られた。なにか二人の間には秘密のタクラミがあるようだった。

――わたし、少しくたびれたので、しばらく美優ちゃんの中にいたまま休憩するね……マユ。

 マユは、美優の心に、そう告げて眠った。体は、もう一体、マユとクララを足して二で割った仁科香奈というキャラを持っていたが、人の姿で休むより、美優の体の中で魂のまま休んだ方が楽なのである。
――どうぞ、ごゆっくり。ほんとうにありがとう、マユちゃん!
「なにか、言った?」
 美優は、あまりの感激と、マユへの感謝の気持ちで声になって出てしまったのだ。
「あ、なんだか世界中の神さまにお礼が言いたい気持ちになって……」
「あらら、いつから美優は信心深くなったのかしら」
 母が、そういうと、自分でもおかしくなって、三人で笑ってしまった。笑い声は一階のお店まで響き、ちょうど出勤してきたバイトのサエちゃんを驚かせた。

 その日は、文字通り目の回るような忙しさになった。

 事務所に集まったAKRのメンバーは、会長から檄を飛ばされ、テレビ局のスタジオに行くまでに、振りやフォーメーションの確認をやった。テレビ局と事務所のスタジオでは尺がちがう。テレビ局のほうが広く、小さくまとまらないように、両サイドの子たちは、立ち位置を念入りに確認した。

『秋色ララバイ』は想像以上にすごかった。

 いままで、レッスンを含め、この曲は秘密にされていたが、リハーサルで、その全貌が明らかになった。
「やるわね……」
 最年長の服部八重さえ唸ってしまった。知井子などは口を開けたまま圧倒されていた。
「わたしたちだってできてるわよ。相手がすごいと思えることは、自分たちも同レベルにはできている証拠なんだから!」
「円陣組もう!」
 AKRのリハになったので、マユの姿をした拓美は、ハッパをかけた。
「AKR47、この日のためにがんばってきた。みんながんばるぞ!」
 リーダー大石クララのかけ声に、みんなが答えた。
「オー!!」

  特急電車 準急停車と間違えて ボクはホームで吹き飛ばされた
 二回転ショック! ショック!
 手にした花束 コスモストルネード!

 体に力がみなぎってきた。心配していたフォーメーションもバッチリきまった。
 今度は、オモクロのメンバーが、スタジオの隅で圧倒されていた。むろん、圧倒されっぱなしではなく、ルリ子たちオモクロのメンバーの目は燃えてきた……。

「ここまでこられたのは、メンバーもがんばったけど、ロ-ザンヌの衣装もすごかったからだよ。ほら、会長とお義母さんが、ファッション誌の記者にとりまかれているよ!」
 黒羽が上機嫌で美優の肩をたたいた。
「…………」
「どうした美優。顔色良くないんじゃないか……?」
「え……ううん。ちょっとスタジオの熱気にあてられただけ」
 そういうと、美優は、明るい笑顔を黒羽に向けた。
「じゃ、本番二十分前。そろそろ観覧席に行こうか」
「うん」
「あ、黒羽さん達の席は、そっちです」
 クララが、ウィンクしながら、観覧席の中央を指差した。

〈黒羽ご夫妻様お席〉

 観覧席の真ん中には、そう張り紙された紅白二つの席が用意されていた。
「あいつら……」
 黒羽が、スタジオのAKRのコーナーを睨みつけると、メンバーたちが拍手したり、口笛を吹いたりして冷やかした。
「アハハ……」
 精一杯、幸せそうに笑顔を向けるのが、精神的にも肉体的にも美優には限界だった。

 マユは、落ち着いて、もう一度美優の心に語りかけた……。
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