大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・096『M資金・28 ラスボス・2』

2019-11-06 12:38:25 | 小説

魔法少女マヂカ・096  

『M資金・28 ラスボス・2』語り手:ブリンダ 

 

 

 

 スーパーマンというのは、こういう作り笑いだけで、本当に笑ったことなどないのではないかという気がした。

 

 しかし、考えている暇は無かった。

 シュビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズボボボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 シュビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズボボボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 アハハ アハハハハハハハハハハハハハハ

 シュビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズボボボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 シュビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズボボボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 アハハ アハハハハハハハハハハハハハハ

 

 交互にヒートビジョンとスーパーブレスが繰り出され、その合間に、狂気の哄笑が放たれる。いかに優秀な高機動車であっても、こいつを喰らってはもたないだろう。

 スーパーマンの身にまとい付くように飛べば、反撃のきっかけを掴まえられるかとアクロバット飛行を続けるが、攻撃姿勢をとる暇もない!

「なんとかしろ、アリス!」

「だめだ、鏡の中で目を回している!」

 アリスは、気絶してしまって、高機動車が揺れるたびに二つのサイドミラーとルームミラーの中で振り回されている。

「くそ! わたしが制御するから、隙を見てパルス砲を撃て!」

「この揺れの中でできるのか?」

 先のロデオでも、勝ったのはオレだ。しがみ付いているだけで、牛と癒着合体してしまったマヂカにできるのか?

「その癒着の勢いでやる!」

 何事か呪文を唱えたかと思うと、マヂカは背中と尻の部分でシートと合体した。

「これなら、いける!」

「Here we go!」

 マヂカは捻りこみながらスーパーマンの死角に回り込む!

 背中から腋の下! 首の下! 後頭部! 背中! 股間! 膝の裏! 足の裏!

 その間にヘッドライトのパルス砲を発射!

 グヌヌヌヌヌ……チャージが不十分だ。

 パルス砲は0・2秒ほどのチャージが必要なのだが、そのチャージが十分にはできない。

 ハーフチャージでトリガーを引くが、威力は半分。さらに、射撃時間も一瞬しかとれないので、威力は、さらに半分になる。 

 シュビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズボボボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 シュビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズボボボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 アハハ アハハハハハハハハハハハハハハ

 

 クジラに水鉄砲で向かっているようだ……しかし、諦めるわけにはいかない!

 

「マヂカ! 急所に向かえ!」

「ラジャー!」

 グィーーーン

 高機動車はスーパーマンの尻の方から股間に向かった!

 今だ!

 カキーーーーン!!

 なんとかフルチャージで発射、急所に命中、わずかに巨体が震えたような気がしたが、次の瞬間危機を迎えた。

 フン!!

 スーパーマンが勢いをつけて股を締めた!

 危うく股に挟み潰されるところを脱出。大きく背中に回り込もうとしたが、動きを読まれてしまって、敵の胸が迫って来る。

「まずい、叩き潰されるぞ!」

 アハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 哄笑とともにスーパーマンの両腕が広げられ、柏手を打つように両手が打ち合わされる気配! 

 薮蚊のように叩き潰されるううううううううううううううう!!

 思わず目をつぶった瞬間。

 

 パーーーン!

 ズゴーーーーーーーーーーーン!!

 

 手を打ち合わせる音と同時に、スーパーマンの顔のあたりで核ミサイルが落ちたような閃光が走った!

 我々を叩き潰そうとした両手が顔を覆い、敵の動きが乱れた。

「今だ!」

 高機動車は、捻りこみをかけてスーパーマンの巨体から離れた。

 

 スーパーマンの肩越しに、特務師団の高機動車北斗の姿が見えた……。

 

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真夏ダイアリー・62『潤のスキャンダル』

2019-11-06 06:36:04 | 真夏ダイアリー
 真夏ダイアリー・62 
『潤のスキャンダル』      


「真夏、たいへんよ!」

 朝、起きるなりお母さんが叫んだ。
「え……」
 
 お母さんの説明を聞くまでもなかった。朝ドバの女子アナウンサーが、スポーツ新聞の切り抜きをフリップに拡大したのを持って解説していた。
――スポミチのスクープです。人気アイドルグループAKR47の選抜メンバーの小野寺潤さんが、先月18日早朝、男性ヴォーカル&ダンス・ユニット「ハーネス」のボーカル鶴野正一さんのマンションから、正一さんといっしょに出てくるところを、スクープされました。潤さんには、同グル-プに姉妹で、容姿がそっくりな、鈴木真夏さんがいるために、特定に時間がかかったようです。しかし、前日の夜から、朝にかけての真夏さんの行動がはっきりしたため、スポミチは潤さんと断定。潤さんのお泊まりが発覚しました……。
「潤……」
「そういや、一昨日、スポミチの記者の人に、真夏のこと聞かれたわ……あれ、真夏のことじゃなく、潤ちゃんのウラをとって……」
 お母さんの話を半分に聞いて、ザックリ着替えて、家を飛び出した。黒羽さんから「いざというときに使え」と、主要選抜メンバーに渡されているカードを初めて使って、タクシーで潤の家に向かった。いざというときに潤のお隣とは仲良しになっている。お隣の裏口から入って、オバチャンに挨拶してから、ネコ道を通って、潤の家の裏庭に。給湯器の陰に隠れて、勝手口をノック。
「だれ?」
「真夏!」
 瞬間開いた勝手口に身を滑り込ませる。

「やらかしちゃったね」
「ちがうんだよ、真夏。前の晩に正一のとこ行ったのは確かだけど、何にもないのよ」
「何も無しで、泊まるか?」
「ほんとだってば、お互いアイドルのあり方について語っているうちに真夜中になっちゃって、少しウツラウツラしてたら朝になっちゃっただけなんだから」
「でも、結果的には、お泊まり。言い訳できないわよ」
「そりゃそうだけど、家の前に集まっちゃってるマスコミが思っているようなことは、断じてないんだから!」
「ほんとに、何にも無かったんでしょうね!?」
「正一んとこには、犬とネコが三匹もいるんだよ。真夏やマスコミが考えてるようなヤラシイことなんかできっこないわよ!」
「……わかった。わたしがなんとかする」
「え、真夏が……?」
「その前に、おトイレ拝借」
 トイレに入って、サイコロを出して、呟いた。
「先月18日、午前0時、正一のマンション」
 
 ピンポ~ン
 
「……だれ!?」
 インタホンを押すと、テンションの高い正一の声がした。
「わたし、真夏なんだけど」
 入ると、三匹のイヌとネコと、潤がいた。潤もテンションが高く、論じ合っていたことは確かなようだ。
「潤、今すぐに家に帰って、ここに入るとこスポミチに見られてる。あいつら朝まで張ってる。今帰ったらスキャンダルにならないから」
「え、ほんと!?」
 潤は、帰り支度を始めた。その間も議論は続いた。
「だからさ……」
「でもね……」
「もう、潤は、とにかく帰る!」
 で、潤は帰った。
 でも、この後がいけなかった。
 うっかり、正一の議論に乗って、気がつけば朝になっていた。
「やばい、わたし帰る」
「じゃ、オレ朝飯買いにコンビニに行く。食べてく?」
「議論が続いて、お互い遅刻するだけだから、このまま帰る」
 で、いっしょにマンションの玄関を出て、右と左に別れ、路地に入った。
「2月6日午前7時、わたしの家」

「ちょっと、真夏たいへんよ!」

 朝、起きるなりお母さんが叫んだ。
「え……」
 
 なんと、今度は、わたしが正一の家にお泊まりしていたということになってしまっていた……!
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・27『まどかーーーーーーーーっ!!』

2019-11-06 06:28:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・27   
まどかーーーーーーーーっ!!』 


 
 教頭からの指示ということで校門を出た。

 ニンマリするわけにもいかず、致し方なしという顔でいた。
 しかし、踏みしめるプラタナスの枯れ葉が陽気な音をたててしまうのは気のせいだろうか。
 潤香は、集中治療室から、一般の個室に移っていた。
 付き添いのお姉さんから、大人びたねぎらいの言葉をかけられ、少し戸惑った。
 しかし、潤香の意識が回復するのも近いと聞かされホッとした。
 まどかたち三人はショックなようで、夏鈴が泣き出し、里沙とまどかの目も潤んでいた。
 わたしは二度目だけど……やはりベッドの上の潤香の姿は痛ましい。
 そっと窓に目をやると、スカイツリーが見える。
 孤独に一人屹立した人格を感じさせるのは、抜きんでた六百三十四メートルという高さだけではないような気がした。


 放課後、部室と倉庫の整理をやった。

 部室はクラブハウスの一角なので、規模も小さく、しれたものだけど。倉庫が大変だった。夕べひととおりやってはいたんだけど、予選で落ちたショックが大きかったのだろう。
 あらためて見ると乱雑なものだ。あらゆるものが、ただ所定の場所にあるだけ。道具や衣装の箱の中は、地震のあとの小間物屋のような状態。
 この有り様を予想したわけでは無いだろうが、四人がクラブを休んでいた。
 衣装係のイトちゃんがぼやいていたが、みんな黙々と、それぞれの仕事をこなしてくれた。

 それは、部長の峰岸クンたちと「新しい倉庫が欲しい」と冗談めかしく話しているときに起こった。

 火事だ!

 誰かが叫んだ。
 驚いて振り返ると、倉庫の軒端から白い煙が吹き出している。
「だれか火災報知器を鳴らして。消火器を集めて!」
 白い煙は、わたしの叫び声をあざ笑うかのように炎に変わった。

 そして、信じられないことが起こった。まどかが、燃え始めた倉庫の中に飛び込んだのだ!

 まどかーーーーーーーーっ!!

 みんなが口々に叫んだ!

 炎は、もう倉庫の屋根全体に広がりかけている。みんな、まどかの名前を叫ぶだけで助けにに行こうとはしない。いや、できないのだ。勢いを増した炎に臆して足が出ない。輻射熱が、倉庫を遠巻きにしたわたしたちのところまで伝わってくる……。

 ドボンという音がした、わたしの中で何かが落ちるような音だった。

 潤香に続いて、まどかまで……グっと苦い思いがせき上げてきた。
 そして次の瞬間、わたしは倉庫に向かって走り出した。
「マリ先生!」
 峰岸クンが、わたしを引き留めた。
「放して!」
「先生は、先生の身は、先生だけのものじゃないんですよ! 先生は……」
 峰岸クンは、ほとんどわたしの秘密を喋りかけていた。だれにも知られてはいけない秘密を……。
「わたしの生徒が! いやだ! 放せ! 放して!!」
 わたしは渾身の力で抗った。
 ビリっと、チュニックが裂ける音がして、わたしは峰岸クンの羽交い締めから抜け出した。
 その刹那、黒い影が、わたしを追い越して、炎が吹きだしはじめた倉庫の入り口に飛び込んでいった……。


 この一週間で、病院に来るのは四度目だ。

 まどかは、すんでのところで助けられた。あのとき倉庫に飛び込んだ黒い影に。
 燃えさかる倉庫から、その影は、まどかを抱いて現れた。直後、倉庫の屋根が焼け落ちた……。
 黒い影は、用意されていた担架の上に、まどかを横たえた。
 わたしは、すぐに、まどかの呼吸と鼓動を確かめた。異常はない。
 そして、目視で、やけどをしていないか確認した。
「大丈夫ですか……?」
 黒い影が口をきいた。
「大丈夫、気を失っているだけのよう」
「よかった……」
 初めて黒い影の姿を見た……全身から湯気をたて、煤けた姿は、近所の青山にある修学院高校の制服を着ていた。
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ファルコンZ・3《見れば見るほど》 

2019-11-06 06:20:06 | 小説6
ファルコンZ 
3《見れば見るほど》  
 
 
 
 
 
 ファルコン・Zは、はっきり言って小汚い。
 
 直径30メートル、高さ12メートルの三層構造の小型貨客船。船体の下半分が貨物室。いくつかの隔壁で仕切られていて、火星に持っていったら「売れる……かもしれない」ジャンク品で一杯。この「売れるかもしれない」ものを「売らなければ」船のメンテナンス費用も出ないそうだ。
 
 で、ミナコのデジタルショーもそのジャンクの一つと言ってよく。向こうのプロモーターも「ギャラクシープロ」と名前だけはイッチョマエだが、興業法違反で二回も営業停止を食らっている怪しげなもの。それ以前は「マースプロ」と名乗っていた。道理で事前に検索しても経歴はきれいなモノ。だって、今回が初めての企画なのだからきれいも汚いもない。
 
 二階がキャビンになっている。
 
 H型の通路が走っていて、16のキャビンがある。しかし、どのキャビンも汚く、今回の航海に乗客はいない。Hの真ん中は広いスペースになっていて、ダイニングを兼ねたラウンジ。この二階もラウンジを含め、ほとんどのキャビンにガラクタが詰め込まれている。
 
 そして最上階の三階がコクピットとエンジンルーム。
 
 クルーのキャビンが5つ、十人分。そして船長室。
 あとは非常戦闘用のパルスキャノンが6基。コクピットの後方に冷蔵庫ほどのマザーコンピューター。
 この情報はファルコン・Zにホンダで着くまでに、ポチがミナコに教えてくれたことだ。
「さあ、今言ったの、もっかい言ってみな」
「え、ハンベ(ハンドベルト端末)に送ってくれてないの?」
「ミナコの知能を知っておこうと思って、アナログ情報だけ。ほら、言ってみそ」
「小汚いだけで十分ね!」
 
 近づいて見れば見るほど小がとれていく。
 
 はっきりキタナイ船だ。素人のミナコが見てもいろんなメーカーの、それもジャンクパーツのツギハギだった。エンジンは三菱だけど二世代前のストックパーツも無いようなモノとホンダの型オチというチグハグだった。
「この船、保険もかかってないんじゃない?」
「いいえ、マーク船長って、最大の保険がかかってるわ。その点だけは安心して」
 コスモスが、ホンダを運転しながら言ってくれたことが、か細いけど、唯一の保証で、ミナコはドタキャンせずに済んだ。
 ファルコンの下部ハッチにホンダごと入ってタマゲタ。   
 
 ミナコたちより先に乗船した船長の車があった。なんとタイヤ付き!
 ハンベが、すぐに答を教えてくれた。
――ホンダN360Z、400年前の軽自動車――
 そして、この船と、このバイトに関する情報が、不必要に詳細なデータとして送られてきた。ミナコは驚きも呆れも通り越してムッと無言になった。
「コスモス、ミナコの能力と忍耐力は予想以上だよ」
「嬉しいわ、逃げ出すんじゃないかとヒヤヒヤしていたのよ」
「コスモスさん。あなただけが頼りだったのよ……」
 ロイドリングを消して、コスモスとポチがエレベーターに乗った。ミナコはホンダN360Zをマジマジと見た。良く言えば「地に足の着いた」。現実的には、大昔の葉書4枚分で地面に接し、その一枚分が外れただけで身動きの出来ない頼りない乗り物。古典的なカーナビさえ付いていない。もう博物館の陳列品そのもの。
「いつまでも、そうやってると貨物と同じ扱いにしちゃうぞ!」
 ポチがコスモスに抱かれながら、ニクソイことを言う。
 
 二階をパスして、最上階のコクピットに着いた。
 
 バルスが目だけで挨拶して、発進準備に余念がない。コスモスがすぐに手伝い始め、コスモスの手を離れたポチは、奥の部屋に駆け出した。
 ポチが入ったのは、船長室。どうやらドアの開け方も心得ているらしい。
「ポチ……」
 ポチは、奥のカーテンをくわえて開けた。で、びっくりした!
 ミナコと同年代の女の子が裸で膝を抱えて座っていた……ガイノイド、エッチ系の!?
「長い航海、寂しい夜もあるさかいな」
 マーク船長が、入り口を通せんぼするように、ニヤニヤ笑いながら立っていた……。
 
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小悪魔マユの魔法日記・86『期間限定の恋人・18』

2019-11-06 06:00:26 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・86
『期間限定の恋人・18』     



 
「あ……そうだったんだ」

 美優は、目覚めると黒羽のベッドなので、瞬間とまどった。
 夕べは、自分から望んで、黒羽の部屋を訪れ、本当の恋人に成れたのだ。

 にしては……黒羽の姿が無い。

 「いつまで寝てんの。英二さんとっくにいっちゃったわよ!」

 階下から母の声がした。
――お母さん、夕べのこと知ってんのかなあ……?
 階下のキッチンに降りると、母が美優以外の朝食の後かたづけをしていた。
「英二さんも、忙しいわね。今朝は、早くから記者会見なんだって?」
「ああ、うん。Pホテルでね。わたしは事務所のスタジオ。予備のコスできてる?」
「お店のカウンターの中に置いといた。しかし、今度の新曲は、動き激しいのね、発表前に予備を八着も作るなんて初めてよ」
「なんたって、今度はオモクロとの対決だからね。振り付けの春まゆみさんも熱が入っちゃって、動きが激しいの。対決に勝ったら、ステージ増えるから、もう一揃え予備作るって。大もうけだね、このローザンヌも」
「そのときは、担当は美優ね。今度の曲は、美優の方が詳しいもの」
「……お母さん」
「世の中、いつ奇跡がおこるかも知れないもの……」
「うん。わたしも信じてみる。だって、あと一日ちょっとで死ぬなんて、ぜんぜん、そんな気しないもん」
「そうよね、快調そのものだもんね」
「……うん」
 お互いの目が潤んできたので、美優は大あわてで、トーストにスクランブルエッグを乗っけ、トトロのような大口を開けて、かぶりついた……で、その瞬間を、母がスマホで写メった。
「あ、お母さん!」
「うん、美優の自然な感じがとてもいいよ。あとで英二さんに送っとくね!」
「母子の縁きるよ!」

 賑やかに、じゃれ合いながら朝食をすませた。こんなふうにじゃれ合えるのも、あと一日……その思いは、ちょうど出勤してきたバイトのサエちゃんに向けた笑顔で忘れた。

 通りに出て気づいた。

――お母さん、黒羽さんじゃなく、英二さんて言ったよね……。

 母には、分かっていたのかもしれない。ショ-ウィンドウに映る自分の姿が、なんだか昨日までの自分と違ったような気がした……というか、髪に寝癖がついたまま。
 あわてて手櫛で整えた。ほのかに黒羽の香りがした……こりゃ、お母さん気づくはずだ。
 恥ずかしさと、爽やかさが一度にやってきた。

 事務所に入ると、大柄な外人さんとぶつかりそうになった。外人さんは「ゴメンナサイ」とカタコトの日本語で言うと、ウィンクして行ってしまった。

 若いスタイリストに予備のコスを渡すと、一着多かった。まあ、急な数の変更などしょっちゅう。母が数を言い違えたんだだろう。衣装チーフの篠崎さんは伝票を確認するとあっさりサインしたんだから、間違いなし。
 それから、美優は、会長室のモニターでレッスンの様子を見ていた。
 今朝は、記者会見のため、選抜メンバーはいない。研究生のアンダーの子たちが春まゆみにしぼられている。アンダー(アンダースタディー=万一の場合にそなえた代役)だけど真剣だ。
――わたしも、こんな風に燃焼……そんな時間は、もう無い。英二さんとの時間だけを大事にしよう……ああ、だめ、ネガティブになっちゃ。頭を切り換えると、自然に『コスモストルネード』に合わせてリズムをとっていた。

「やっぱり、高校生のときにスカウトしとけばよかったな」

 いつのまにか、会長が並んで座っていた。

「あ、失礼しました!」
「いいよ、いつでも見ていいって言ったのは、オレなんだから。しかし、ほんとに美優ちゃん、いけてたよ」
「そんな、わたしなんか、とんでもない」
「いいや、美優ちゃんは、ミス乃木坂に選ばれたじゃないか」
「文化祭のお祭ですよ。それも何年も前の話です」
「二年前に準ミス乃木坂に選ばれた坂東はるかは、今や新進気鋭の女優だよ」
「それは、たまたま坂東はるかって子に才能があったからです」
「あの子のディレクターは白羽ってんだけどね、ずいぶん食い下がってモノにしたみたいだ」
「黒羽さんだって……」
「あいつは、せっかくのスターのタマゴを自分一人だけのモノにしやがった」
「え……?」
「なんでも」
 会長は身に付いたキザで、ルパン三世のように肩をすくめた。
「あの、スタジオの奥にシートでかけてあるのは、なんですか。無かったですよね、今まで」
「オレのアイデアで、道具ふやしたの。まだ企業秘密」

 そのとき、会長室をノックして、衣装コ-ディネーターの篠崎さんが入ってきた。
「ちょっと、美優ちゃん。衣装のことで」
 顔つきが怖い……やっぱり、なにかミスでもあったのだろうか。

 美優は、職業的緊張感の顔になり、篠崎のあとに続き楽屋を兼ねた会議室へと向かった……。
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