大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・099『サマンサ・レーガン』

2019-11-13 14:58:46 | 小説

魔法少女マヂカ・099  

 
『サマンサ・レーガン』語り手:マヂカ 

 

 

 えと……そういうのはしまってくれる?

 

 落ち着いた笑顔で、そいつが言った。

「そいつじゃなくって、サマンサ・レーガン。サムって呼んで」

「サマンサ・レーガン……レーガン司令(霊雁島の第七艦隊司令)と関係があるの?」

「遠い親類。でもって、カオスから送られたスパイ」

「な!?」

「おっと」

 サムはミニテレポして、わたしの目の前まで迫ってきた。

 ングググググググ!!

「脊髄反射になるのは無理もないんだけど、話は最後まで聞いてくれる」

 サムの右手は風切丸の柄頭を押えて抜けなくしている。こいつ、相当の使い手だ。

「仕事するつもりはないの。立場上、配置には付かなきゃならないから、敵対心が無いことを宣言しておこうというわけ」

「どういうことよ……」

「昨日までは霊雁島の艦隊司令部に居たの。あそこの司令はバカみたいに見えてるけど、なかなかのやり手でね」

 霊雁島にスパイがいることは、第七艦隊に出向する前に知っていた(説明の最後に股座開いて注意喚起していたでしょ)が、出撃し、今に至るまで気配も感じなかった。

「なんにもできなかった。あなたたち、わたしの気配さえ感じなかったでしょ。あそこまでやられると、スパイとして存在しないも同然。だから、日暮里の方に乗り換えたのよ」

「存在を宣言するスパイ?」

「ええ、存在するだけで充分。あなたたちに知ってもらえていたら、サマンサ・レーガンは敵に食い込んで仕事をしていると記録に残るわ。それで、わたしの顔が立つから。お願い、そう言うことにしておいて。ここでは、単なる交換留学生として振る舞うだけだから。部活も、あなたたちの調理研に入るからね。どうぞ、よろしくお願いしまーす(^▽^)/」

 そこまで言うと、やっと柄頭から手を放した。

 

「やあ、ごめん。とっ散らかってて、やっと……あ、マヂカ、来てくれてたんだ」

 

 やっと安倍先生がやってきた。

「入部届が見つからなくって、はい、じゃあ、サム、これに書いて出してね」

「OK、あ、ハンコ押すんだ」

「サインでいいわよ」

「でも、せっかくだから、ハンコ買って押します(^^♪」

「そう? でも、サマンサ・レーガンなんて、オーダーメイドしなきゃないわよ」

「じゃ、作ります。マヂカ、いや真智香、ハンコ屋さん付き合ってね」

「先生は知ってんですか、こいつのこと!?」

「うん、あの時は一大事と思ってマル秘連絡したけど、この子、力の割には害意が丸っきりないでしょ。カオスの事もいろいろ喋ってくれて、調べたら嘘も無いし。学校を戦場にするわけにもいかないしね……まあ、よろしく頼むわ」

「そういうことだから、よろしく!」

 

 完全にペースに載せられる。

 

 しかし、調理研の友里たちには、どう説明する? 学校での友里たちは特務の隊員だと言う意識はないんだぞ……。

 

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真夏ダイアリー・70『避けられたスネークアタック』

2019-11-13 08:23:51 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・70
『避けられたスネークアタック』
    


 

 高野(省吾)は腕時計のリュウズを押した……。

 とたんに、国務省の中の全てのラジオが鳴りだした。
――NBC、臨時ニュースです。ニューヨーク時間12時50分、国務省において日本政府から我が国政府に対し最後通牒が野村大使からハル国務長官に手渡されました……これを受け、国防省は、ハワイの太平洋艦隊のキンメル司令長官に、警戒電を発するもようで……。
「すごい、もうスクープされている!」
 野村・来栖両大使は驚いた。
――省吾、あなたのしわざね――
――ああ、アメリカの三大ネットに仕掛けをしておいた。このあと、国務長官と大統領との電話のやりとりなんかも、ライブで流れる。この仕掛けに半年かかった――
 四人が国務省を出て公用車にむかうと、ルーズベルト大統領の罵声が、国務省のスピーカーからも流れてきた。
――これじゃ、日本のスネークアタック(だまし討ち)にならんじゃないか、OSSや国防省はなにをやっていたんだ!――
――大統領、この会話は、ラジオで流れています!――
「これで、前のようなもみ消しはできないわね」
「ああ、やつらも我々を無事に帰すつもりもないようだ……大使、急いで車に乗ってください!」
「運転はわたしがやるわ!」
「大丈夫か?」
「まかせて、グランツーリスモ・5で鍛えた腕だから」
「後ろから、OSS、その横の道からはパトカーが通せんぼをしにきてる」
 わたしは、絶妙のタイミングで、シフトチェンジし、後ろのOSSの車を離し、横の道からきたパトカーは、ドリフトさせてかわした。直後、後ろでクラッシュするする様子がバックミラーに写った。交差点に進入してきたパトカーにOSSの車が激突、消火栓にぶつかり、盛大な水柱が吹き上がった。
「あれは、消火栓の老朽化で処理されるはずよ」
 わたしは、前回の経験から、そう踏んだ。
「……いま、我々を捕まえないように指令が出たようだ。ハル長官が叫んでる」
「高野君、軍人なら功一級の金鵄勲章ものだよ」
「ハハ、だいぶ寿命が縮む思いをしましたからね」
「そりゃ、わたしたちも一緒だ。真夏君、もう曲芸運転もいいだろう」
 わたしってば、まだグランツーリスモのノリでハンドルを握っていた……。
 大使館にもどると、大使館員の全員が集まっていた。
「大使、いま真珠湾攻撃成功の放送があったところです!」
「そうか……スネークアタックにならずにすんだ。これで任務終了……じきに日本に送還されるだろう。荷物を整理しておきたまえ。機密書類は、すぐに処分を」
 野村大使はテキパキと指示を出した。来栖大使はネクタイを緩め、ソファーに座り込むと目を押さえた。
「わたしと真夏君は通信室を処理して、独自のルートで姿を消します。祝勝会は貸しということで」
「そうかい……高野君、真夏君、世話になった。日本で会えたら、いずれ……」
「はい」
 わたしたちは二人の大使に挨拶をして、通信室に向かった。

「この資料を、暗号化して日本に送ってくれ」
 それは、現時点でのアメリカ軍の情報のほとんどだった。
「こんな圧縮した情報、受信できるだけの装置が日本にあるんですか?」
「オレが作った。アナログで、解凍に三日はかかるが、この時代じゃ十分な早さだよ。項目別に送ってやらなきゃならないから、一時間近くかかるがね。その間、オレは日本の飛行機を誘導する」
「え、そんなので移動するつもり?」
「ちがうよ。アメリカの空母、エンタープライズ・ヨークタウン・ホーネットを発見させるんだ。空母を叩かなきゃ完全試合にはならないからね」
 そうやって、わたしと省吾は、仕事に熱中した。

「できた!」
「終わった!」
 同時に、最後の任務を終了。わたしは笑顔を省吾に向けたが、省吾の顔は暗かった。
「どうかした?」
「ジョージ・ルインスキが死んだ……」
「え……」
「国務省の角でクラッシュしたパトカーに乗っていた……重症だったけど、いま息を引き取った」
「そんな……」
 
 潤と同じように、どういじろうと、変わらないことがあるんだと胸が痛んだ……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・34『ここからやり直してみようと思ったのだ』

2019-11-13 08:16:44 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・34   
『ここからやり直してみようと思ったのだ』 


 

 明くる日、かかりつけのお医者さんに行った。

「もう大丈夫だ、明日……は、土曜か。月曜から学校行っていいよ」
 先生が、狸のような体をねじ曲げ、カレンダーを見ながら言った。

「あの……」
 と、カーディガンを着ながらわたし。

「うん?」
 カルテに書き込みしながら、横顔で先生がお返事。

「明日、外出してもいいですか?」
「デートかい?」
 と、カルテをナースのオネエサンに渡しながら先生。
「そ、そんなんじゃないですよ!」
 ナースのオネエサンが笑っている。
「ま、あらかわ遊園ぐらいにしときな……日が落ちるころには帰ること。で……」
「手洗いとウガイ!」
「まどかも、そんな歳になったんだ……」
 わたしの方に向き直った拍子にハデにオナラをした。
「ハハハ、歳くうと緩んできちまってな……窓開けようか。昼に食った芋がよくなかったかな」
 狸先生は、お尻を掻きながら窓を開けた。思わず笑ってしまう。
 このユーモラスなカワユサに騙されて、ガキンチョのころ、よく注射をされた。
「アハハ」
 と、笑っているうちに、ブスリとやられる。油断のならない狸先生だ。
「あらかわ遊園に行くんだったら、一つ教えおいてやろう。まどかもジンちゃん(うちのお父さん)に似て雰囲気と行きがかりってのに弱えからな……」
 老眼鏡をずらして、おまじないを教えてくれた。
 思わず吹きだした。
 狸先生は、いつもこんな調子。昔ケンカ別れしかけたお父さんとお母さんを、こんなノリでヨリを戻したこともあるそうだ。
 ま、そのお陰で、わたしがこの世に生まれたってことでもあるんだけど。
 帰りに、しみじみと古ぼけたなじみの看板を見た。
――内科、小児科。薮医院……と、診療室の開けた窓からハデなくしゃみが聞こえた。


 狸先生に言われたからじゃない。
 ここからやり直してみようと思ったのだ。

 床上げ祝いにもらったシュシュでポニーテール。ピンクのネールカラー、サロペットスカートの胸元には紙ヒコーキのブロ-チ。そんなファッションへの気遣いにあいつは気づきもしない。
「思ったより元気そうじゃん」
 と……間接話法ながら一応の成果はある。病み上がりと思われるのヤだったから。
 あらかわ遊園、観覧車の前。むろんあのときのクソガキはいない。
「ここで、まどかが『キミ』なんて言うから」
 ヤツ……忠クンが口を尖らせた。
「忠クンの言葉、あのときはとても飛躍してるように感じたから……」
「観覧車が回り終えるまでに言わなきゃと思っちゃってさ……」
「で、精一杯アタマ回転させて出てきたのが、あのストレートなんだよね」
「言ってくれんなよ……」
「わたしもゴンドラが着くまでに答えなきゃって……この観覧車、速いのよね。お返事考えるのには」
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ファルコンZ・10 『麦畑』

2019-11-13 07:10:17 | 小説6
ファルコンZ 10 
『麦畑』           
 
 
☆……惜別の星 その一
 
「なんで、この星に寄らんとあかんのかね……」
「ファルコンZの意思です」
「クライアントの注文か?」
「区別がつきません。船長のチューンがデリケートなんで。それにしても、何もない星」
 
 珍しくコスモスの機嫌が悪い。 
 
「ここって、なんの星なんですか?」
 タバコをふかしだした船長と、機嫌の悪いコスモスの代わりにバルスが言った。
「百年ほど前は、人類が到達できる最も遠い星だったんだ。だから、ここから先に行く奴は命の保証がない。それでも宇宙の魅力に取り憑かれたやつらは、ここから旅立って、その大半は帰ってこなかった」
 
 それで、この星は寂しいんだ。西部劇のゴ-ストタウンみたい。ミナコは思った。
 
「取りあえず、宿へ行こか……」
「ここに泊まるの?」
「ああ、そういうシキタリでな……」
 
 二階建ての酒場と宿を兼ねたような建物だった。
 
「おーい、だれか、おらへんか!」
「船長、そこのボードに……」
 フロントのボードに色あせた紙が貼ってあった。
―― 下の畑にいます ――
 不思議なメモで、日本語にも英語にも中国語にも、ミナコには分からない言語にも見えた。まるで宇宙港のインフォメーションボードのようだったけど、なんの仕掛けもない。ただの日に焼けた紙きれだった。
「船長みたいな男は、他にもいるってことさ」
 バルスは、そう言いながら出口に向かった。嫌がっている船長以下を促すように。
 
 灌木の坂道を下ると、広い麦畑に出てきた。
 
 弁髪の老人が、よちよちと蟹歩きをしていた。ミナコたちに気づくと、ウロンゲに見つめたが、何かに気づいたようで、パッと明るい表情になり「こっちへ来い」というサインをした。
「いやー、マークのボウズじゃねえか。その稼業でここに寄っちゃ、足がつくぜ」
「それがなあ……」
「今回は、正式なクライアントからの輸送業務なんです。これが依頼状です。ちゃんと連邦政府の認可が下りてます」
 コスモスが、空中にバーチャルモニターを出して見せた。
「こんな畳みたいな大きさにせんでも見えるよ。コスモスは気を遣いすぎる」
「わたしのこと、分かるんですか!?」
「以前とはボディーが違うが、個性はコスモスだ。このボーズがイジリ倒しても、ワシには分かる。以前は、もっとコケティッシュなガイノイドだったが」
「このバルスとコスモスは化けもんや。このごろは自分で勝手にバージョンアップしよる。今はうるさいカミサンと、親類のオッサンみたいなもんや」
「いいトリオだ。しかし、この依頼状は正式だが、こんなクライアントは存在せんぞ」
「一部上場企業だぜ。運輸局の審査も通ってる」
「壮大なダミーだ。運輸局の審査を通ったってことは、地球規模のイカサマだ。マークほどのボウズが知らんわけじゃないだろう」
 船長は苦笑いするだけだった。コスモスの機嫌はいつのまにか直っていた。
「そのお嬢ちゃんたちは? 一人はガイノイドのようだが」
「今度の積み荷の一つさ。もっとも届け先は、ずっと先に行かなきゃ分からんが」
「ということは、輸送目的も分かってないな」
「ああ……」
 ミナコは、その言葉に不安になった。
「ちょっと、ちゃんと約束通り帰してくれるんでしょうね!」
「そりゃあ間違いない。依頼状にもミナコは帰すように書かれてる」
「こういう書類は、読み方次第なんだが……まあ、マークの読みは間違いなかろう、大きなところではな。そうでなきゃ、ここに無事に立っているわけがないからな。まあ、つもる話は麦踏みをやりながらやろう。あの畑の端まで手伝ってくれ」
「ああ、いいよ」
 畑は、歴史遺産の東京ドームの倍ほどあった。ミナコはゲンナリした。
 オジイサンの名前が李赤ということは、そのあとの自己紹介で分かった。
 で、「昔はなあ……」という枕詞が付く話を百ほど聞いて、やっと、麦畑の端まで来た。
 
 そして、息を呑んだ。麦畑の端は崖になっている。
 
 崖の下は地平線までもあろうかという墓標の群れが広がっていた……。
 
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スーパソコン バグ・6

2019-11-13 06:50:42 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・6
『兄の病室』        

 
 
 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメと思ったパソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。でもって、アニキの龍太にもバグの存在を知られてしまい、そのアニキが事故で入院してしまった!


 なにか物言いたげな彼女の気配が気になり、麻衣子はもう一度部屋に戻った。

「なにか言い残してる?」
「あ……お願いしていいかな?」
 1/4サイズのバグは、本体であるパソコンの上に座ってモジモジしている。
「病院の行き帰りで、できることなら」
「病院の複雑ゴミのところに、壊れた『お掃除ロボット』が捨ててあるの。それを拾ってきてくれないかなあ……」
 恥ずかしそうにバグが言った。
「なんに使うの?」
「その子も、雷で故障して捨てられたんだけどね、あ、病院のコンピューターの記録から拾ったの……」
「ははあ……バグのお仲間なんだ。いいよ」
「あ、麻衣子が思ってるようなことじゃないから!」
「いいって、いいって、一人で居るときはバグだって寂しいだろうからね」
 気の良い麻衣子は、手のひらに、メモして忘れないようにした。

 病院は、バグがスマホにリンクしてナビしてくれるので、直ぐに分かった。

 そして、アニキの秘密も直ぐに分かった。
 病院に優奈さんが来てくれていたのである。ドアを開けて直ぐに分かった。明らかにお母さんがオジャマ虫であるが、お母さんは、そのことにちっとも気づいていない。そのもどかしさで、直ぐに優奈さんだと知れた。
「優奈さんですよね? 妹の麻衣子です。兄がお世話かけます。あ、お母さん頼まれた物、このバッグに一式入ってるから」
「ごくろうさん。でね……」
 お母さんの長話を、優奈さんはうまくかわした。
「噂はリョウタからも聞いてたわ。落雷じゃ大変だったのよね」
「奇跡的にピンピンしてます。まあ、普段のこころがけでしょうね、アニキ、どんなぶつかり方したのよ? 当てた車とか分かってるんでしょ、警察とかきてないの?」

「それがね」

 お母さんと優奈さんの言葉が重なった。一瞬間があって、年の功で、お母さんがしゃべり出した。
「停まってる車に自分でぶつかったのよ。スマホ見ながら、で、その拍子に十センチの路肩踏み外して、この通り」 
「アハハ、ばっかじゃネ。ふだん、あたしに歩きスマホ注意してるくせに」
 麻衣子は、つい数時間前オッサンに同じ注意をされたのを棚に上げて笑ってしまった。
「おまえが笑うんじゃねえよ!」
「それがね……こないだ、リョウタに冷たくして、それが気になってスマホとにらめっこしていたって。なんだか申し訳なくて」
「申し訳なんか悪くないですよ。だいたいアニキは、その……バカだから」
 さすがに、コンドームの件は口にはしなかった。龍太も、後ろめたさがあるのだろう、言い返してはこなかった。
 アニキの男としての値打ちはよく分かっているので、優奈の女の値打ちが際だって見えた。
 要するに釣り合わないのだ。
 優奈さんはちょっと崩したフェミニンボブで、細身のジーパンがよく似合う行動派に見えるが、話し方などから、落ち着いてオクユカシイ、イッパシの女性を感じさせた。
 麻衣子はちょこっとだけ雑談して失礼した。お母さんも入院の手続きのために、やっと腰を上げた。
「お母さん、手続き済んだら、さっさと帰るのよ」
「どうして?」
「オジャマ虫なの!」
「あ、そういうこと。じゃ、いっそう居なくっちゃ。ありゃ、基本的に龍太の片思いだからね。こんなことで負担に思ってもらっちゃ、気の毒だからね」
「まあ、そこは年の功に任せるけどね」
「ませたこと言ってんじゃないよ。これでも龍太の親なんだから、責任持たなくちゃね。あ、帰りに晩ご飯買っといて」
「へいへい、メンチカツはやめとくね。もう雷はこりごりだから」
 
 お母さんとは、一階のロビーで別れた。

 さあ、バグの頼まれごとやらなくっちゃ。と、ゴミ置き場に向かう麻衣子であった。




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小悪魔マユの魔法日記・93『乃木坂学院高校』

2019-11-13 06:39:03 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・93
『乃木坂学院高校』    



 
「ねえ、ちょっと日向ぼっこしていかない」

 相談室の鍵をかけながら柚木先生が言った。
「あ、はい……」
 仁科香奈の姿をしたマユが応えた。
 退学の手続きにきたら、担任に設定してあった柚木先生に最後の説得をされた。

 意外だった。

 この仁科香奈の姿は、とっさに目の前にいた大石クララと拓美に貸してあるマユ自身の姿を足して二で割った姿で、正式に地獄の小悪魔補習規定にのっとて作られたアバターでは無い。だからNPC同然で、経歴も関係者の記憶もかなりいい加減な設定にしかできなていないのだ。
 乃木坂学院の生徒になったのも、美優が乃木坂の出身で、美優の記憶がそのまま使えるからという便宜上の理由からだけだった。
 従って友だちもおらず、担任の香奈の記憶もそうとう粗っぽいもので、平均的で目立たない生徒という認識でしかないはずだ。
 だから、退学については、ごく簡単な事務処理で済むと香奈の姿をしたマユは思っていた。
 それが、退学届けを持ってくると、柚木先生に相談室に呼ばれ、一時間ちょっと説得された。

 意外にも、柚木先生は、自分自身を責めていた。

――わたしは、この仁科香奈のことについて何も知らない。面談や懇談をやった記憶はある。でも、可もなく不可もない子だったので、ほとんど意識に留めることもなかった。その仁科香奈が、密かにこの乃木坂学院に見切りをつけ、こともあろうに……と、言っちゃいけないんだろうが、アイドルグル-プのオモクロのオーディションをうけるという。そんなに乃木坂学院は、いや、この柚木学級、柚木という教師には力も魅力もないのだろうか……。

「わたしね、演劇部の顧問やってるの。仁科さんに、そんな気持ちがあるんだったら、入学したときに勧誘しとくんだったなあ……」
「あ、わたしがやりたいのは、演劇じゃなくて、オモクロやAKRみたいなエンタメですから」
「そうよね……今の高校演劇は、あなた達みたいな子を引きつける力がないのよね」
「そんなことないです。ただ、わたしがやりたいことが違うだけで……」
「うちの演劇部は、もともと、そういうエンタメ的な力ももっていたわ。もうお辞めになったけど、貴崎マリって先生が、グイグイ引っ張ってらっしゃって、部員も三十人ほどいてね、歌って踊ってお芝居もできるって、東京でもトップクラスの演劇部だったのよ。それが、ちょっと事故が重なって、貴崎先生はお辞めになるは、部員は三人にまで減ってしまうわで、一時は廃部寸前までいった。でも、生徒の力ってすごいのよ。そんな演劇部を復活させて、秋の予選じゃ最優秀。二年生の仲まどかって子が中心にがんばって、その奮闘ぶりが凄くって、本にまでなったのよ」

 柚木先生は、一冊の本を取り出した。

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』

 一見ラノベの形式だけど、半年にわたる仲まどかたち、演劇部の子たちの奮闘ぶりが書かれていた。
「それ、あげるわ。なんかの参考になったら嬉しい」
「ありがとうございます」
「それから、仁科さんと同じように中退した子だけど、坂東はるかって子が、女優になってがんばっているわ」
「え、坂東はるかって、乃木坂の中退だったんですか!?」
 マユも人間界に来て半年あまり。並の女子高生としての知識はある。坂東はるかは、いま売り出し中の若手女優である。たしか、大阪で現役高校生をやりながら、新幹線で通いながら女優の仕事をこなしている。ネットで自伝的なノンフィクションを書いていた。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語』

 そんなタイトルだった。
「坂東はるかって子のことだったら、その『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』にも出てくるわ。仲まどかとは幼なじみだから」
 柚木先生は、マユの心を読んだように答えた。人間は、時に悪魔か天使のように心を読んだり、勘を働かせたりする。それは、ついこないだ亡くなった吉永美優も同じだった。
 マユは、少し人間界に補習に出された意味が分かってきたような気がした。

 いつの間にか、理事長先生が後ろに立っていた。もう九十を超えているのに、髪の毛以外はカクシャクとしていた。
「仁科さん、わたしの目を見てくれんかね」
「あ、はい……」
 優しいが深みのある目をした先生だ。仁科香奈の心で、マユは、そう感じた。
「いい目をしている。できたら、うちの学校でまっとうして欲しかったが、きちんと決心したんだね」
「……はい」
 理事長先生は、自分の目を見ろと言って、マユの目を観察していたのだ。
「もう、今さら、わたしから言うことはない。柚木先生といっしょに見送らせてくれんかね」

 プラタナスの枯れ葉を踏みしめ、仁科香奈の姿のマユは、乃木坂を下る、背中に二人の先生の視線を感じながら。

 たまらずに振り返ると、先生は二人で小さく手を振ってくださっていた……。


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