魔法少女マヂカ・102
秋の深まりとともに調理研のレパートリーが増えていく。
色気よりも食い気の女子高生だ、イワシ雲の崩れを見ただけでしらす丼を連想する。連想したのはスパイのくせに三日で馴染んだサムだけど、作って食べることに目の色が変わったのは友里たち三人だ。
上げ出汁豆腐(友里の提案) トン汁(清美の提案) もんじゃ焼き(ノンコの提案)
思いつくままに三日が過ぎた。
「今日はジャーマンポテトにしよう」
調理室から連日いい香りがするので、徳川先生が見に来てくださって、北海道バターの差し入れをくださった。
それで、サムが提案したのだ。
ジャーマンポテトの材料は、ジャガイモ ベーコン 玉ねぎ にんにく そしてバター。
「バターが決め手なのよ、そのバターの良いのが手に入ったんだから、ジャーマンポテトしかないわね」
玉ねぎはストックがあるので、ジャガイモ ベーコン ニンニクの三つで間に合う。
「よーし、今日は、あたしが買って来る!」
ノンコが立候補。
他のメンバーは、面談があったり委員会があったりで、揃うのを待って買いに行っては調理の時間が無くなる。
「と……これは男爵だよ」
意気揚々とノンコが買ってきたものを開けると、ベーコンとにんにくは問題なかったが、肝心のジャガイモが男爵なのだ。
「え、ジャガイモだよ?」
「ジャガイモにはね、メークインと男爵があって、男爵は過熱すると、直ぐに崩れるのよ」
「「「??」」」
三人娘は分かっていない。
「うん、チンしてから炒めるんだけど、炒めるときにマッシュポテトになってしまう」
「脂ぎったポテトサラダになっちゃうね」
「し、知らなかったああああ!」
「大丈夫よ、あたしたちも知らなかったんだから(^_^;)」
友里と清美が慰める。
「じゃ、じゃがバターにしよう!」
「じゃがバターは男爵だもんね!」
「そうなんだ!」
ノンコの笑顔が戻った。
「でも、真智香もサムも詳しいねえ」
「「うんうん」」
アハハハ、何百年も生きてる魔法少女だとは言いにくい……。
ジャーマンポテトも簡単だけどじゃがバターは、いっそう簡単!
洗って、包丁で十字に切込みを入れ、ラップに包んだやつを五分間のチン!
あとは、切りこんだところにバターを乗っけて出来上がり!
調理研では食べきれない量なので、家庭科準備室の徳川先生や顧問の安倍先生におすそ分け。
ああ、有意義な部活だったあ!
四人揃って校門を出ると、ここのところ趣を増している夕陽が心地い。
シャワシャワ シャワシャワ
足元で落ち葉たちが陽気な音を立てる。
「今度は、なに作ろっかな~(o^―^o)」
子どもっぽく落ち葉を踏みしだいていたノンコが振り返る。
「そうねえ、簡単に作れるってことが肝だと思う」
「うんうん、花嫁修業には、ちょっと早いしね」
「夜食にでも作れるようなのがいい」
サムが誘導する。
わたし的には松茸なのだが、戦前、湧くように松茸が採れた時代ではないんだ。
「真智香、松茸食べたいと思ったでしょ?」
う、読まれてる。
「いや、さすがにそれは……」
「よし、簡単に食べられる松茸的なものを考えてみよう」
「「「うう~楽しみいい!」」」
女子高生らしく、キャピキャピとしてみる。
なんとも楽しい。
「「ん?」」
サムと同時に気が付いた。
日暮里の駅の方から馬の蹄の音が聞こえてくる。
パカラパカラ パカラパカラ パカラパカラ パカラパカラ
しだいに近づいてくるが、気が付いているのはわたしとサムだけだ。
友里たちは気づいていない、いや、いっしょに下校している生徒や通行人の誰も意識していない。
角を曲がって、そいつは現れた。
それは、駅前で銅像になっている太田道灌であった!