大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・102『レパートリーが増えていく』

2019-11-19 15:06:31 | 小説

魔法少女マヂカ・102  

 
『レパートリーが増えていく』語り手:マヂカ 

 

 

 秋の深まりとともに調理研のレパートリーが増えていく。

 

 色気よりも食い気の女子高生だ、イワシ雲の崩れを見ただけでしらす丼を連想する。連想したのはスパイのくせに三日で馴染んだサムだけど、作って食べることに目の色が変わったのは友里たち三人だ。

 上げ出汁豆腐(友里の提案) トン汁(清美の提案) もんじゃ焼き(ノンコの提案)

 思いつくままに三日が過ぎた。

「今日はジャーマンポテトにしよう」

 調理室から連日いい香りがするので、徳川先生が見に来てくださって、北海道バターの差し入れをくださった。

 それで、サムが提案したのだ。

 ジャーマンポテトの材料は、ジャガイモ ベーコン 玉ねぎ にんにく そしてバター。

「バターが決め手なのよ、そのバターの良いのが手に入ったんだから、ジャーマンポテトしかないわね」

 玉ねぎはストックがあるので、ジャガイモ ベーコン ニンニクの三つで間に合う。

「よーし、今日は、あたしが買って来る!」

 ノンコが立候補。

 他のメンバーは、面談があったり委員会があったりで、揃うのを待って買いに行っては調理の時間が無くなる。

 

「と……これは男爵だよ」

 

 意気揚々とノンコが買ってきたものを開けると、ベーコンとにんにくは問題なかったが、肝心のジャガイモが男爵なのだ。

「え、ジャガイモだよ?」

「ジャガイモにはね、メークインと男爵があって、男爵は過熱すると、直ぐに崩れるのよ」

「「「??」」」

 三人娘は分かっていない。

「うん、チンしてから炒めるんだけど、炒めるときにマッシュポテトになってしまう」

「脂ぎったポテトサラダになっちゃうね」

「し、知らなかったああああ!」

「大丈夫よ、あたしたちも知らなかったんだから(^_^;)」

 友里と清美が慰める。

「じゃ、じゃがバターにしよう!」

「じゃがバターは男爵だもんね!」

「そうなんだ!」

 ノンコの笑顔が戻った。

「でも、真智香もサムも詳しいねえ」

「「うんうん」」

 

 アハハハ、何百年も生きてる魔法少女だとは言いにくい……。

 

 ジャーマンポテトも簡単だけどじゃがバターは、いっそう簡単!

 洗って、包丁で十字に切込みを入れ、ラップに包んだやつを五分間のチン!

 あとは、切りこんだところにバターを乗っけて出来上がり!

 調理研では食べきれない量なので、家庭科準備室の徳川先生や顧問の安倍先生におすそ分け。

 

 ああ、有意義な部活だったあ!

 

 四人揃って校門を出ると、ここのところ趣を増している夕陽が心地い。

 シャワシャワ シャワシャワ

 足元で落ち葉たちが陽気な音を立てる。

「今度は、なに作ろっかな~(o^―^o)」

 子どもっぽく落ち葉を踏みしだいていたノンコが振り返る。

「そうねえ、簡単に作れるってことが肝だと思う」

「うんうん、花嫁修業には、ちょっと早いしね」

「夜食にでも作れるようなのがいい」

 サムが誘導する。

 わたし的には松茸なのだが、戦前、湧くように松茸が採れた時代ではないんだ。

「真智香、松茸食べたいと思ったでしょ?」

 う、読まれてる。

「いや、さすがにそれは……」

「よし、簡単に食べられる松茸的なものを考えてみよう」

「「「うう~楽しみいい!」」」

 女子高生らしく、キャピキャピとしてみる。

 なんとも楽しい。

「「ん?」」

 サムと同時に気が付いた。

 日暮里の駅の方から馬の蹄の音が聞こえてくる。

 

 パカラパカラ パカラパカラ パカラパカラ パカラパカラ

 

 しだいに近づいてくるが、気が付いているのはわたしとサムだけだ。

 友里たちは気づいていない、いや、いっしょに下校している生徒や通行人の誰も意識していない。

 

 角を曲がって、そいつは現れた。

 

 それは、駅前で銅像になっている太田道灌であった!

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乃木坂学院高校演劇部物語・40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

2019-11-19 05:53:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・40   

 『風雲急を告げる視聴覚教室!』 

 

 ガッシャーン!

 木枯らしに吹き飛ばされた何かが窓ガラスに当たり、ガラスと共に粉々に砕け散った。視聴覚室の中にまで木枯らしが吹き込んでくる。

 タギっていたものが、一気に沸点に達した!

「ジャンケンで決めましょう!」
 全員がズッコケた……。

「青春を賭けて、三本勝負! わたしが勝ったら演劇部を存続させる! 先輩が勝ったら演劇部は解散!」
「ようし、受けて立とうじゃないか!」
 風雲急を告げる視聴覚教室。わたしと、山埼先輩は弧を描いて向き合う!
 それを取り巻く群衆……と呼ぶには、いささか淋しい七人の演劇部員と、副顧問!

「いきますよぉ……!」
「おうさ……いつでも、どこからでもかかって来いよ!」
 木枯らしにたなびくセミロングの髪……額にかかる前髪が煩わしい……
 
 機は熟した!

「最初はグー……ジャンケン、ポン!」
 わたしはチョキ、先輩はパーでわたしの勝ち!
「二本目……!」
 峰岸先輩が叫ぶ!

「最初はグー……ジャンケン……ポン!」
 わたしも先輩もチョキのあいこ……。
「最初はグー……ジャンケン……ポン!!」
 わたしはチョキ、先輩は痛恨のパー……。
「勝った!!」
 バンザイのわたし。
「む……無念!」
 くずおれる山埼先輩。

 と、かくして演劇部は存続……の、はずだった。

「クラブへの残留は個人の自由意思……ですよね、柚木先生」
 ポーカーフェイスの峰岸先輩。
「え……ちょっと生徒手帳貸して」
 イトちゃんの生徒手帳をふんだくる柚木先生。
「三十二ページ、クラブ活動の第二章、第二項。乃木坂学院高校生はクラブ活動を行うことが望ましい。望ましいとは、自由意思と解することが自然でしょう」
「そ、そうね……じゃ、クラブに残る者はこれから部室に移動。抜ける者はここに留まり割れたガラスを片づけて、掃除。せめて、そのくらいはしてあげようよ。わたしは事務所に内線かけてガラスを入れてもらうように手配するわ。じゃ……かかって!」
 わたしは先頭を切って部屋を出た。着いてくる気配は意外に少ない……。
「ジャンケン大久保流……と、見た」
 すれ違いざまに峰岸先輩がつぶやいた。


 狭い部室が、広く感じられた。
 わたしと行動を共にした者は、たった二人。
 言わずと知れた、南夏鈴。武藤里沙。

 タヨリナ三人組の、乃木坂学院高校演劇部再生の物語はここに始まりました。
 木枯らしに波乱の兆しを感じつつ、奇しくも、その日は浅草酉の市、三の酉の良き日でありました……。
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ファルコンZ・16『SJK47』 

2019-11-19 05:45:51 | 小説6
ファルコンZ・16 
『SJK47』         

 
 
☆……三丁目の星・4

 警察だ、電波法並びに放送事業法違反で、家宅捜査する!
 
 銭形警部のような、トレンチコートの刑事が宣告した。同時に、何十人という鑑識……それにCIA(アメリカの秘密情報部)も混じっていた。
 電話、ラジオ、テレビと、そのアンテナ。電波の受信発信に関する物は全て押収され、事務所は水洗トイレのタンクの中まで調べられた。
 
――マークプロ、ソ連のスパイか!――
 
 夕刊のトップ記事に、デカデカと出た。
 
――マークプロからは、何も出ず。警察の勇み足!?――
 
 朝刊では、早くも、当局の捜査を疑う記事に変わった。
 
 明くる日にはアメリカの国家航空宇宙諮問委員会(NASAの前身)の実験失敗の影響と、陰謀説が流された。前者はアメリカの、後者はソ連の噂と疑心暗鬼であった。
 とにかく、世界中のラジオやテレビからは、毎日周波数(チャンネル)を変えて、マークプロの陽子やザ・チェリーズの映像や歌が流れてくるのである。
 少しずつではあるが、世界中にファンが増え始め、Jポップという言葉で呼ばれ出した。
 JにはJAPANとJACKの両方の意味がある。
 
「音楽で、世界が変わるかもしれないんですね!」
 アメリカとソ連の記者のインタビューを受けた後で、陽子が感動して言った。
「まだ、まだ序の口、これからが本番だ。それから、今の記者の半分はCIAとKGBだ。コスモス、あいつらが仕掛けていった盗聴機を全部回収しといてくれ」
「わかりました」
 コスモスは、そう言うと一枚のメモを陽子に見せた。
――記者からもらったカメオを見せて。喋らずに――
 陽子が、黙って差し出したカメオの中に盗聴機が組み込まれていた。そして、事務所からは二十個の盗聴機が発見された。
 マーク船長は涼しい顔をしている。
「バルス、この企画、実行に移してくれ」
 企画書は、陽子やミナコにも回された。
「SJK47!?」
「うん、新宿47のこと」
「これって……そう、AKBのパクリ。ただ違うのは、インターナショナルを目指すとこ。将来的には世界の女の子でアイドルユニットを作ろうと思う」
「アイドル……ハンドルなら分かるんですけど」
 陽子が江戸っ子らしい聞き方をした。
「そう、ハンドルだよ。世界を平和の方向に向けるためのね」
 
 それは、マークプロ最初の後楽園球場ライブで、発表された。
 
「今日は、こんなにたくさんの人たちに集まっていただいて、ありがとうございます。最後に、みなさんに、お知らせがあります。ミナコちゃん、ミナホちゃん、どうぞ」
「マークプロは、新人を発掘することになりました。一人や二人じゃありません……」
「47人です!」
 三人の声が揃い、後楽園球場にどよめきが起こった。
 
「これは、まったく新しい歌手のグループです。英語でユニットと表現すれば分かっていただけるかもしれません」
「例えれば、宝塚歌劇団に近いものがありますが、わたしたちが目指すのは、誰もが歌えてフリが覚えられて……うまく言えませんけど、ミナホお願い」
「世界中がハッピーになれるような歌を、みんなで歌っていこうと思います。歌がうまくなくても、ダンスが苦手でもいいんです。なにか光る物を持っている人を求めています」
「いわば、根拠のない自信と夢を持っている人たち。そこから始めます」
「年齢は12歳から25歳の女性。一応です。光っているひとなら大歓迎!」
 
 そうやって、SJK47が始まった。
 
 一年のうちに三期生まで入り、総勢141人の大所帯になった。二期生からは外国人もチラホラいる。選抜メンバーの15人程をマスコミに売り出し、Jポップはあっと言う間にインターナショナルになった。
 中には、CIAやKGBのスパイも混じっていたが、ことエンタメに関して優秀であれば、お構いなし。
「実は、このミーシャはKGBのスパイなんですよ!」
 そんなことを、ミナコなどのリーダーは平気で言う。言われた本人はビックリするが。観客はジョークだと受け止める。
 マークプロには、政治的な秘密なんて何にもない。自分たちも観客のみんなも楽しくやっているだけだ。スパイは三人公表された。アメリカのジェシカ、中国のミレイ。でも、みんな和気アイアイだった。
 そんなある日、新宿のSJK劇場公演のあとの握手会で悲劇がおこった。
 
 ズドーーーーーーン!
 
 ミーシャが狙撃されてしまった……!
 
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永遠女子高生・3《久美・2・友ゆえの試練》

2019-11-19 05:36:12 | 時かける少女
永遠女子高生・3
《久美・2・友ゆえの試練》       




 
「これ、本当に藍本さんが書いたの?」

 久美は放課後、小百合を相談室に呼び出した。
 どうも、印象が合わない。小百合は豊かな髪の毛を、今時珍しいお下げにして両肩に垂らしている。前髪もほどほどで、制服は、そのまま学校紹介の見本に使えそうなくらいキチンとしている。
 顔つき、特に目は親しみと慈愛と言って良いほどの親近感に満ちている。
 だから、暫定的に、この「先生は、バー〇ンですか?」は、誰かが小百合の名を騙ってイタズラしたと考えたのだ。

「はい、わたしが書きました」

 期待を裏切る答が返ってきた。用意していた次の質問をする。
「じゃ、どういう意味かしら?」
「読んで頂いたとおりです」
 小百合は、しごく冷静に答えた。
「伏せ字になっているから分からないわ。こういう聞き方をするのは失礼じゃないかしら」
「わたしは、マニュアルみたいな質問をしては失礼だと思ったんです。それをお読みになって、頭に浮かんだお答えがいただけたらと……そう思ったんです」

 久美の頭には〇の中に入る字がフラッシュし、表情が固くなった。

「こんな質問に……」
「こんな質問に?」
「答える義務はありません」
「分かりました。そして松原先生が答える義務はありません。じゃ、失礼します」
 小百合の早い反応に久美は着いていけなかった。
「藍本さん」
「いいんです。先生がバージンじゃないことは分かりました」
「藍本さん!」

 久美は、顔を赤くして立ち上がった。

「わたしが聞きたかったのは、別の言葉です。失礼ですけど、先生にはトラウマがあるように思いました。失礼します」
 久美には、とっさにかける言葉が無かった。

 夕方を待って、小百合は学校を出た。久美が出てくる寸前を狙った。電柱三つ分後ろの久美には、下校する生徒の一人にしか見えていない。目立つお下げは下ろしてある。
 駅近くの公園まで来たとき、S高校の男子生徒たちがたむろしている気配を感じた。S高校は二の丸高校に比べれば、いささか品が落ちるが、ワルというほどの者は少ない。
 小百合は、S高の男子たちのリビドーを少しばかり刺激してやった。公園の入り口あたりに来ると、S高の男子たちの視線が突き刺さってきた。
「よう、二の丸のおじょうちゃんよ」
「シカトしないで、お話してくんないかなあ」

 怯えたフリをしていると、公園の入り口まで来て、小百合を取り巻き始めた。さすがに胸やお尻を触る者はいなかったが、気安く髪や腕に触れてくる。嫌がり怯える風を装って男子生徒たちの欲望はかき立てるが、ちらほら通りかかる通行人は見て見ぬふりである。

 久美は揺れていた。小百合が絡まれているのは分かっているが、足がすくんで動かない。小百合は、もう少し男子生徒たちを刺激した……直接心に入り込んで、男たちの自制心を緩めてやった。
 一人が、ぎこちなく腕を掴むと、公園の中に引きずり込もうとした。小百合は声を出さずに抗った。

「う、うちの生徒に、何をするの!」

 久美が、思い切って声を上げた。そして公園の入り口まで駆けた。
「なんだ、おめえセンコーかよ」
「……いや、そのリクルート姿は教育実習だな」
「いい度胸してんじゃん」
「痛い目に遭うぜ、ネーチャン」

 久美は、襟元を掴まれそうになり、反射的にのけ反った。高校生の時の体験がフラッシュバックする。ちょっとした段差に引っかかって尻餅をついてしまった。
「オネーチャンの太ももも、なかなかそそるじゃんかよ」
「一人じゃ足んないから、二人いっぺんにいくか。おい、真部のアニキに車で来てもらえよ」
「おお、まかしとけ!」
 一人の男子が、スマホを取りだした。
「もしもし……」
 と、一声言ったところで、スマホは男子もろとも吹き飛んでしまった。他の男子たちはあっけにとられた。
「今の、あたしの回し蹴りだから。今なら、その子だけで勘弁してあげる。それとも自分でやってみなきゃ分からないオバカさんかしら」
 そう言いながら、小百合は手早く髪をヒッツメにした。
「なめたマネしやがって」
「そうよ、今のはほんのマネだから。これから本気でいくからね……」

 久美には、何が起こっているのか、よく分からなかった。小百合が二三度体を捻ると、男たちは、放り出されたサンマのように転がった。
「まあ、骨が折れるようなことはしてないから。一週間も痛めば治るわ。松原先生いきましょう」

 少しは大変だと思い始めたようだ。二週間じっくりかけて、考え直させよう。

 小百合は、腹をくくった。
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小悪魔マユの魔法日記・99『オモクロヒットの裏側・4』

2019-11-19 05:21:52 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・99
『オモクロヒットの裏側・4』    



 長い横断歩道を渡る間に、マユは加奈子の心に魔法をかけた。

 いや、魔法と言えるほどのものでもない。
 おもしろクロ-バー時代の曲をちょっと元気よくハミングしてみたのだ。
 横断歩道を渡りきるころには、加奈子の心には、あるアイデアと共に、小さな勇気が湧いていた……。

 事務所に着くと、加奈子はオーディション担当のところにマユを連れて行き、マユの書類を無事に受理させた。

 そして、加奈子は、真っ直ぐにプロデユーサーのオフィスのドアを叩いた。
「上杉さん、ちょっと、お話いいですか」
「ちょっと待ってくれ。で、問題はだな……」
 上杉は、ルリ子担当のマネージャーと話をしていた。
「そう、曲のイメージですよね。ソロってことになると……」
 その言葉で分かった。上杉はルリ子のソロデビューを考えているのだ。加奈子は聞こえないふりをした。
「あ、すまん。加奈子、少し廊下で待っていてくれないか」
「あ、はい」

 廊下に出てきた加奈子は能面のように無表情だった。

「あら、まだいたの?」
 加奈子は、能面からベテランアイドルの顔に戻って香奈(マユ)に聞いた。
「あ、これから、制服の採寸やらグループ分けとかあって……」
 香奈(マユ)の言うとおり。ロビーから、スタジオへ上がる階段、廊下まで、合格者とその付き添いで一杯だった。
「大変ね……この中から選抜メンバーに残るのは……香奈(マユ)ちゃん、付き添いの人は?」
「あ……家は、両親そろって反対されて……」
「そっか……わたしも、そうだったな」
「加奈子さんも、そうだったんですか」
「うん、こうやってブレイクするまではね。今は親も喜んでる。メジャーになれたし、一応選抜メンバーだし」
「そ、そうですよ」
「最後尾のね……」
「加奈子さん……」
「わたし、ポジティブよ。病院じゃ少しヘコンデたけど、さっき横断歩道渡ってたら、なんだか昔のオモクロのころの曲が、ローテーションしてきちゃって、元気出てきたの。最後尾ってことは、もう、これ以上後ろはない」
「ですよね!」
「でも、努力とかで、前列に出られるほど、今のオモクロは甘くない。ちょっと考えてんの」

 そのとき、ルリ子のマネージャーが出てきた。

 香奈(マユ)は、ぺこんとお辞儀をしたが、マネージャーは空気がそよいだほどにも感じていなかった。マユの香奈も、加奈子のことさえ。加奈子は、すかさず入れ違いにオフィスに入った。
「なんだ、加奈子、呼んだ覚えはないぞ」
「廊下で待ってろって、いったじゃないですか」
「え、そうだっけ……あ、もしもしオモクロの上杉です。先ほどアポとった……」
 上杉は、加奈子に構うこともなく、スマホを構えた。
「わたしの話を聞いてよ、上杉さん」
「あ、うちの吉良ルリ子のことで……あ、AKRさんと打ち合わせ中……じゃ、はい、十分後ってことで」
 どうやら相手は放送局のエライサンのよう。アポを取りながら、ソデにされたようだ。
「アハ」
 思わず加奈子は笑ってしまった。ソデにした上杉がソデにされた。
「笑うな。じゃ、五分だけ」
「十分じゃないの?」
「オレにだって、五分くらい休憩する権利はある」
「あ、そ」
「手短に言え」
 上杉は、タバコに火を付けながら言った。
「わたしユニット組みたいんです」
「ゲホ……なんだと!?」

 オフィスのみんなの視線が集まった……。
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