大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・097『カラオケ修業』

2019-11-25 11:32:21 | ノベル

せやさかい・097

『カラオケ修業』 

 

 

 

 テイ兄ちゃんの車で堺東の某スナックに向かってる。

 

 車には運転のテイ兄ちゃんの他に、あたしと、頼子さんと留美ちゃん。

 なんでスナックかと言うと、留美ちゃんの音楽のテストに対する頼子さんの意見。

「じゃ、カラオケで慣れておこうよ!」

 ほんで、テイ兄ちゃんに言うたら、友だちが堺東でカラオケスナックやってるから、開店前に使わせてもらえるようになった。

 

  スナック……はんしょう?

 

 反正と書かれた看板を小さく口にしたら、ううん『はんぜい』って読むんだよ。留美ちゃんに訂正された。

「十八代目の天皇で『反正天皇』、駅の東側に御陵があるの」

 中一とは思えん知識、まだ半年ちょっとにしかならへん堺市民のあたしは、御陵というと仁徳天皇陵しか知らない。

「へー、秘密基地みたい」

 看板だけが地上にあって、お店へは人一人がやっと通れるくらいの階段を下りて入っていく。

「こういう雰囲気っていいよね!」

 エディンバラのパブも地下がすごかった。頼子さんは似た雰囲気を感じたのか楽しそう。

 

 真っ黒なドアが開けられる。お店の名前で話してるうちにテイ兄ちゃんが、サッサと行って待ってくれてた。

 

「いらっしゃーい、六時まで自由に使ってくれていいからね」

 テイ兄ちゃんと同い年ぐらいの女の人が笑顔で迎えてくれる。

「チイママの里佳子さん」

「「「おじゃまします」」」

「じゃあ、あたしは用事済ませに出てるから、テイ君よろしくね」

「ああ、ゆっくり行っといで。ほんなら奥のテーブルに」

 里佳子さんが出ていくのを見送って、カラオケセットのある奥のテーブルへ。テイ兄ちゃんは勝手知ったるお店なんで、カウンターに入ってゴソゴソやり始める。

 スナックなんて言うし、入るまでは秘密基地めいてたけど、店内は以外に明るい。

「カラオケ触っていいですか?」

「ああ、やり方分かるんやったら適当に始めて、ボクは、おつまみとか作ってるから」

 慣れた手つきで操作する頼子さん。なにをやらせてもこなしてしまう。

「最初は思い出の曲からやってみよう」

 イントロを聞いて、テイ兄ちゃんが呆れる。

「いきなり『蛍の光』なんかいな」

「うん、この夏の思い出の曲やねん」

 

 そうなんや、エディンバラ城のミリタリータトゥーで、観光客や地元のイギリスの人らと感動で歌った曲。

 言葉は通じひんかったけど、歌を唄ったら、なんや人類みな兄弟! ちゅう感じになれた。

 歌うことに臆病になってる留美ちゃんのテンションを上げるにはもってこい! 頼子さんは分かってる。

 それから乃木坂の曲とか三曲、留美ちゃん口は開けてるけど声が出てない。

「まあ、これでもつまみながら、ゆっくりやろうや」

 テイ兄ちゃんは、サンドイッチや唐揚げやらを出してくれる。ソフトドリンクも出てきて、なんやパーティーの雰囲気になってくる。

「ほんなら、ボクも参加や」

 ドリンクを持ったまま、片手で器用にタブレットを操作。Jポップをホイホイと入力。わたしらも知ってる曲が多いんで盛り上がる。

「留美ちゃん、歌いたい曲とかない?」

「ううん、みんなに付いて歌ってるから」

 言うわりには、だんだん声が小さなる。

 せやけど、こういう時に―― がんばって ――とか言うのは逆効果。

 できるだけプレッシャーにならんように……というて、こっちのテンション下げてしもたもあかんし、視界の端に留美ちゃんを入れながら次々とモニターに出てくる曲を歌う。

 五曲目になって、グラス片手に俯いてしまう留美ちゃん、これは、もうあかんか?

 そんな留美ちゃんが、七曲目にあたしのマイクを奪った!

「この曲、独唱します!」

 大丈夫かいなと思たけど、留美ちゃんはテイ兄ちゃんが入力した曲を、めっちゃうまく歌った!

 それは中島みゆきの『麦の唄』 バグパイプから始まる曲を、ちょっと力強く歌う。

 たぶん、エディンバラの『蛍の光』の延長でのれるんやろ……と思たら、次々と中島みゆきの歌を、コーラ片手に五曲歌いあげた!

「スゴイよ留美ちゃん!」「ブラボー!」「めっちゃうまいやんか!」

 さんにん、正直に拍手を送る。

「ありがとう、じゃ、次は……」

 そこまで言うと、留美ちゃんは白目をむいてシートに倒れてしもた!

「ちょ、留美ちゃん!」

「あ、留美ちゃん飲んでたん、コークハイや!」

「え、あ、ボクのん飲んでしもたんか!?」

「「留美ちゃーーん!!」」

 

 このあと、ちょっと大変やったんやけど……それは、またいずれ。 

 

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乃木坂学院高校演劇部物語・46『雪の三丁目』

2019-11-25 06:37:12 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・46   
『雪の三丁目』 

 
 
 
 また雪だるまになった。

 駅でビニール傘を買おうかと思ったんだけど、里沙も夏鈴も両手に荷物。女の子のお泊まりって大変なんだ。
 で、わたし一人傘ってのも気が引けるので、三人そろって「エイヤ!」ってノリで駅から駆け出した。
 大ざっぱに言って、駅から四つ角を曲がると我が家。再開発の進んだ南千住の中でこの一角だけが、昭和の下町の匂いを残している。
 キャーキャー言いながら四つ目の角を曲がった。すぐそこが家なんだけど、立ち止まってしまった。
「「わあ、三丁目の夕日だ!」」
 里沙と夏鈴が感動して立ち止まる。
 で、わたしも二人の感動がむず痒くって立ち止まる。
 ちなみに、ここも三丁目なんだ。フンイキ~!
「何やってんだ、そこの雪だるま。さっさと入れよ」
 兄貴が顔を出した。
「はーい!」
 小学生みたく返事して、三人揃って工場の入り口兼玄関前の庇の下に。
「あれ、兄ちゃんお出かけ……あ、クリスマスイブだもんね。香里さんとデート!」
「わあ、クリスマスデート!?」
 夏鈴が正直に驚く。
「雪はらってから入ってね。うち工場だから湿気嫌うの。機械多いから」
「そっちは年に一度の機会だから。がんばれ、兄ちゃん!」
「ばか」
 と、一言残し、ダッフルコートの肩を揺すっていく兄貴。

 ドサドサっと、玄関前で雪を落として家の中に入った。
「ただいま~」
「おじゃましま~す」
 トリオで挨拶すると――ハハハハと、みんなに笑われた。
 カシャッ……とデジカメの音。あとでその写真を五十二型のテレビで映してみた。
 ホッペと鼻の頭を赤くして、体中から湯気をたてているタヨリナ三人組が真抜けた顔で突っ立ている。
「そのまんまじゃ風邪ひいちゃうぞ、早く風呂入っちまいな」
 お父さんがデジカメを構えながら言った。
「もうー」
 と、わたしは牛のような返事をした。


「フー、ゴクラク、ゴクラク……」
 夏鈴が幸せそうに、お湯につかっている。
「こんな~に、キミを好きでいるのに……♪」
 その横で、里沙が、やっと覚えた曲を口ずさんでいる。
 里沙は、たいていのことは一度で覚えてしまうのに、こと音楽に関しては例外。
 そんな二人がおかしくて、つい含み笑いしながら、わたしは体を洗っている。
「なにがおかしいのよ?」
 里沙が、あやしくなった歌詞の途中で言った。
「ううん、なんでも……」
 シャワーでボディーソープを流してごまかす。
「でも、まどかんちのお風呂すごいね……」
「うん。昔は従業員の人とか多かったからね」
「それに……この湯船、ヒノキじゃないの……いい香り」
「うん、家ボロだけど、お風呂だけはね。おじいちゃんのこだわり……ごめん、詰めて」
 タオルを絞って、湯船に漬かろうとした……視線を感じる。
「やっぱ……」
「寄せて、上げたのかなあ……」
「こらあ、どこ見てんのよ!」

 楽しく、賑やかで、少し……ハラダタシイ三人のお風呂だった。

 脱衣所で服を着ていると、いい匂いがしてきた。
「すき焼き……だね」
「ん……なんだか、もう一つ別の匂いが……」
「これは……?」
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ファルコンZ:22『ベータ星の秘密』 

2019-11-25 06:28:39 | 小説6
ファルコンZ 22 
『ベータ星の秘密』          
 
☆………突然の攻撃
 
「ガンマ星なんかには行かへんぞ」
 マーク船長の答は簡単だった。
「なぜなの、船長?」
「ベータ星は、母星のガンマ星と係争中や。連邦の外交船でもないのに、行く義務はない」
「でも、王女様が困ってるって」
「バルス、代わりに説明したってくれ。オレは寝る!」
「なんで、ふて寝……」
 
 キャビンデッキに降りる船長に一言言おうとしたら、バルスが話し始めた。
 
「係争中の星に儀礼ではなくて、王女の慰めなんかに行ったら、係争に巻き込まれてしまう」
「母星のガンマ星の支配宙域も広いわ。うまく行っても、その後、進路妨害されるかもしれない」
 コスモスが、あとを続けた。
「わたしも悪い予感がする……」
 ミナホがミナコの肩に手を置いて言った。
「どうも、あのアルルカン大使には裏があるような気がする」
「それにベータ星には、水銀の海がある」
「水銀の海?」
「星のあちこちに散らばっているけど、合わせると地中海ほどの広さになる。ベータ星人は水銀に耐性があるが、地球人には毒だ」
「水銀中毒になるのね」
「ああ、大気中の水銀濃度は、地球の95倍だ。地球人の滞在時間は一週間が限度だ。そんな星の王女様を慰めにいったら……分かるだろ、ミナコ」
 
「パルスキャノン反応。シールド展開!」
 
 コスモスが忙しく、パネルを操作する。バルスは、右舷のキャノン砲をオートにした。パルスキャノンをパルスキャノンで相殺するのだ。
「だめだ、30秒後に飽和攻撃になる。全弾はよけきれない。衝撃に備えろ!」
 そのとき、船長がパジャマ姿で駆け上がってきた。
「おい、船の識別コードがガンマ船になってるぞ!」
「こっちのモニターでは、地球船です!」
「コントロールをオレによこせ!」
 スタビライザーの限界を超えて、船長は曲芸のような操縦をしてパルス弾をかわしていく。ミナコはコックピットの中を転げ回った。
「だめだ、次の三発ははよけきれない!」
 
 直後に大きな衝撃がきて、ミナコは気を失った……。
 
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永遠女子高生・9・《京橋高校2年渡良瀬野乃・1》

2019-11-25 06:21:59 | 時かける少女
 永遠女子高生・9
《京橋高校2年渡良瀬野乃・1》        




 ぼんやり目覚めると、結衣は渡良瀬野乃になっていた。

 目覚め切らない頭の中には「樟葉」という言葉があって、とても懐かしく、名残惜しい気持ちだったが、母の一言で吹っ飛んだ。
「もう『あさが来た』!」
 母の一言にAKBの『365日の紙飛行機』が被さってきた。

 朝の空を見上げて 今日という一日が 笑顔でいられるように……♪

 もっと早よ起こして!……という一言を飲み込んだ。
 言えば、朝からケンカになる。ケンカになれば、一日ブス顔でいなければならない。
「それはごめんだ!」 
「なにがごめんやの?」という母の声をトイレのドアを開けながら聞く。
「ワ! 入ってるんやったら鍵しときいや!」
「いま、野乃がこわしたんや!」便座に座ったまま妹の菜々が赤い顔で言う。
「くっさー!」叫びながらパジャマの上を脱ぐ、部屋に戻った時はパンツ一丁。30秒で制服を着る。
 水を流す音がして、再びトイレへ。
「奈菜、臭いくらい消しとけ!」
「寝坊助の野乃が悪い!」
 むかつくが、ケンカはだめだ、ブス顔になる。
 出すものを出し、通学カバンを抱え、食卓のおにぎりを掴む。
「もう、手えも洗わんとからに!」
「行ってきまーす!」

 食パンを咥えながら走っている女子高生は、ラノベとかドラマの中にしかいない。だがおにぎりは居るのだ。

「ハハ、野乃ちゃん、またかいな!」

 タバコ屋のお婆ちゃんに笑われる。
「おはひょう、おはぁひゃん!」
 駅前に着いたころには、おにぎりはお腹に収まっている。
 抱えた通学カバンにペットボトルの手応え……お茶は飲みたいが、これには手を付けたくない。
 改札を抜け、階段を駆け上がると環状線の内回りのホーム。
 向かいの外回りに、爆発頭の女子高生「ブサイクなやつ!」と思ったら、鏡に映る自分の姿。
 慌てて手櫛で整える。素直な髪質なので、これでも格好はつく……と思う。
 隣から視線を感じる……向かいホームの鏡に大学生風のニイチャンが自分を見ているのが写っている。
 きっとシャンプーの香りがしているんだ。むろんあたしが可愛いのが前提。と己惚れる。だけど、ゆうべ替えたシャンプーの効用もあるに違いない。
 できる範囲だが、このところ野乃は女を磨いている。
 環状線の車内で呼吸を整え、清楚な女子高生になった……と自己暗示をかけていく。
「よし……」

 京橋に着くと、いつもの時間になっていた。これなら校門までダッシュというような不細工なことにはならない。

 野乃は歩き方まで気を配った。きのう頭の上に本を載せて訓練した通り、真っ直ぐに立って顎を引く。
 地面に一本の線を想定して、その上を踏んで歩くようにする。足で歩くんじゃなくて腰で歩く。
――うん、いけてるかも!――
 そう思ったら手と足が同時に出ていた。

 なんとか自然な美しさで歩けてる……と実感できたころに、京橋高校の校門に着く。

「え……?」
 遅刻カウントの5分前。当たり前なら登校時間のピーク、校門前はラッシュの時間だ。
「あれ、ノノッチ早いやんか!?」
 クラスメートの愛華が驚いている。愛華はリア充なので、人よりも登校時間が早い。
「なんで……?」
「ノノッチ、今日からテストやのん……忘れてた?」
「あ……そやったあ!」

 今度の渡良瀬野乃という女子高生は……どうやら一本外れているようだ。
 
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小悪魔マユの魔法日記・105『オモクロ居残りグミ・5』

2019-11-25 06:14:10 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・105
『オモクロ居残りグミ・5』    



「お父さん、いいかげんにしてよね!」

 加奈子が切れた……オモクロ・E残りグミの名物になりつつある、加奈子と父の親子ゲンカである。

『居残りグミ』はPVのできもよく、動画サイトのアクセスも、発表の一週間で百万件。オリコンチャートも、AKRの『コスモストルネード』オモクロの『秋色ララバイ』に続きベストスリーに入ってきた。
 別所プロディューサーは、一気に攻勢をかけることにした。
『居残りグミ』は成功したとは言え、やはりオモクロの二軍というイメージを払拭できない。そこで、短期に巻き返しを計るため、新曲をあいついでリリースすることにした。とりあえず想いをストレートに表現しようということで、みんなで知恵を絞ったが、電動車椅子で稽古場にしている会議室(スタジオは、本体のオモクロが使っている)にやってきた加奈子の父高峯純一が、一言口を挟んだことで、一気に話がまとまった。

「東京タワーで、どうですか?」

 加奈子は正直ギクっとした。オモクロのセンターを外されてから、なにかと自分と東京タワーを引き比べるようになってきた。美紀のケガで選抜復帰することになったら、新人の真央にあっさり入れ替えられ、病院のロビーで腐っていたとき、目に入っていたのがスカイツリーと東京タワーであった。
 病院のロビーのガラス張りから見える東京タワーは、周りの高層ビルに囲まれて威勢がない。そんな東京タワーにネガティブなシンパシーを感じていたことが思い出され、加奈子は父の提案に真っ先に反対した。

 それ、いけるかも!

 別所がプロデューサーの感覚で反応した。そしてネットで検索したり、実際メンバーで、東京タワーにも行ってみた。電動車椅子のバッテリーが切れていたので、父の予備の車椅子を加奈子が押した。メンバー十二名、スタッフ四名、そして加奈子の父十七名は目立った。加奈子親子の親密感(実際はケンカばかりしているが、車椅子を押していたりすると、絵としては甲斐甲斐しく見える)
「バッテリーの残量、どうして確かめなかったのよ!」
「それだけ、加奈子のことを心配してやってたんだよ」
「もう、それが余計なことだって言うの!」
 こういう遣り取りも、遠目には、仲の良い親子に見える。その姿をスマホで撮っていた年輩の夫婦が気づいた。
「あ、あれ、高峯純一さんだわよ!」
 若い人には知られていないが、年輩の人たちの記憶には、前世紀のバブルのころの高峯の活躍ぶりは、自分たちの良き時代の記憶とともに美しく雄々しいイメージとして残っていた。
「ウワー、高峯純一さんだ!!」
 シルバーツアーのご一統さんが周りに集まった。

 シルバーツアーのご一統さんは、オモクロ・E残グミはおろか、オモクロにもAKRにも疎い。往年の大スター高峯純一の世話をするスク-ルメイツかなんかのように思っている。
 あっと言う間に、高峯純一のサイン会、握手会になってしまった。
「あんたたち偉いわね、ちゃんと大先輩のお世話なんかしちゃって。あなたなんか、大先輩とはいえ、他人とは思えない甲斐甲斐しさよ!」
「いやあ、これは、わたしの娘ですから」

 高峯純一がクチバシッテしまった。

 さすがに、ガイドのオネエサンはオモクロもオモクロ・E残グミのことも知っていた。
「あ、あなた、オモクロの桃畑加奈子ちゃんじゃないの!?」
「そういや、大正製菓のグミのCMやってたわよね」
 と、シルバーの方々の思考回路がつながった。

 大騒ぎになってしまった!

 シルバーツアーのご一統さんたちと、修学旅行と敬老会の団体さんの合同見学のようになってしまった。そのうちに、だれがたれ込んだのか、芸能レポーターや放送局までやってきた。
 別所は、プロディユーサーとして、この偶然の機会を逃さなかった。

「今度、東京タワーをテーマにして新曲を発表します」と、ぶちかました。

 で、ゆっくりと東京タワーを見学しているうちに、新曲のイメージが膨らんできた。

 《東京タワー》

 キミと登った東京タワー スカイツリーもいいけれど キミとボクには程よい高さだよ
 二人そろって 高所恐怖症 二人に程よい距離だった
 神保町駅徒歩7分 見上げた姿は333メーター 赤白姿のストライプ
 ボクの心もストライプ 告白しようか止めようか

 太陽背にした東京タワー 焦らすねボクの心を 神保町から7分に高まるテンションさ
 キミはスキップ、一歩先 それがとても遠く愛おしく
 やっと踏んだキミの影 はじけた笑顔眩しくて、赤白姿のストライプ
 ボクをせかせてストライプ やっと追いつき照れ笑い

 ああ 東京タワー ああ 東京タワー ああ ああ 東京タワー

 展望台を一周する間に、一番の歌詞ができてしまった。
 事務所に帰って、みんなにご披露。すぐに二番も三番も出来たが、父の高峯が、こう口を挟んだ。
「東京タワーなら、御成門から徒歩6分だろうが!」
 これが、親子ゲンカの始まりであり、芸能人高峯純一の再生でもあった。

 そして、オモクロ・E残りグミの飛躍へと繋がっていった……。
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