魔法少女マヂカ・094
ヤバくないか?
不可抗力とはいえ、宮殿の壁に穴を開けてしまったのだ。融通の利かない衛兵長や、まだ見たこともないお役人なんかに見つかったら、どんな災厄が降りかかるかしれない。
「なにか埋めるものは無いの?」
マヂカも同じ発想のようで、キョロキョロと探し始める。
「ロウソクばかりだな」
「無いよりましかも」
「ロウソクは柔らかいから、押し込めば馴染むかもしれない」
「「やるか!」」
意見が一致、マヂカと百本入りのパッケージを開けまくる。そして、両手に持った数十本のロウソクを穴にあてがおうとした。
ヒューーーーーースポン! ヒューーーーーーースポポン!
壁の外で風が吹いているようで、穴まで持って行ったロウソクはスポポポポンと吸い出されてしまった。
「低気圧が接近しているのかもしれない、早くやろう」
気を取り直して、次のロウソクに手を出そうとすると、ロウソクの箱が次々に開いて、ロウソクたちは次々と吸い出されていく!
スポポン スポポポポン スポポポポポポポポン スポポポポポポポポポポポポポポポポン
「どうしようもないわね」
「ん……なにか聞こえないか?」
「風の音しか……」
「いや、人の声……大勢いるぞ」
異変には気が付いたが、さっきの穴しか外に通じていない。穴は一階との境目なので、夕暮れの空と空の底の黒々とした木々のシルエットしか見えない。
しばらくすると、木々のシルエットが仄かに染まり始め、風に揺られているせいか、燃え盛る炎のように見え始めた。衛兵たちが、わらわらと駆け巡り、衛兵長の怒鳴り声がする。
「なにか異変があったんだ!」
「外に出てみる?」
「しかしなあ」
マヂカも同じ気持ちのようだ。あの無意味な上り下りを繰り返してみようという気にはならない。
ゴーーーゴーーーーーーーーー
風と人々のどよめきが大きくなって、なにか禍々しい魔物が咆哮しているようになってくる。
グゥアッシャーーーン!!
何かがぶつかって、穴が大きくなった。一人ずつなら通れる。
「行くぞ」
「うん」
マヂカを押し出して、そのあとにつづく。
宮殿の内庭は衛兵たちが右往左往している、かなりの人数がフェンスを乗り越えて敷地に侵入しようとしていて、それを防ごうとする衛兵たちとの間でもめているのだ。かれらは手に手に火のついたロウソクを握っている。フェンスの外には、その何百倍もの民衆が続いていて、彼らの持つロウソクが揺らめき、まるで始まったばかりのラグナロクの戦いを見ているようだ。
『こっちよ!』
声に振り返ると、穴の開いた壁の側にバンパーの歪んだT型フォードの高機動車。
どよめきのする方にばかり気をとられていたので、すぐ脇にいたT型フォードの高機動車には気が付かなかったのだ。
『早く乗って!』
声の主は、ルームミラーに映った鏡の国のアリスだ。どうやら無事に高機動車に戻れたようだ。
「どこに行っていたんだ!?」
『文句は後で! 穴を広げて救助してあげたのはわたしなんだからね!』
ブオーーーン!
高機動車は、数メートルの助走をつけただけで空中に舞い上がった。
舞い上がって凄さが分かった。
宮殿の周囲は、何百万人いるか見当もつかないデモ隊に取り囲まれ、彼らが手にしたロウソクは、低きに集まる溶岩の流れのようになっている。
「あのロウソクは……」
『そうよ、あんたたちがばら撒いたロウソクを持った民衆が百万人のロウソクデモを始めたのよ』
あれは不可抗力だったのに。
『もう、全てを打倒するまでは終わらないでしょうね。議会も女王も、これで終わりかもよ』
ニャハハハハハ!
あの高笑いがとどろいたかと思うと、茜の空に上り始めた三日月が口になり、目玉が二つ見えたかと思うと、チェシャネコになった。
―― いやあ、予想外の展開だったのニャ! おもしろいから、ベースアップするニャ! ――
チェシャネコの横に1000000000!!の数字が現れた。
「「十億円!?」」
―― まだまだM資金の1%にもならないのニャー! そんで、まだボス戦がのこっているのニャー! ――
賞金に驚いている間に、デモ隊は宮殿構内の侵入に成功、そして、だれかのろうそくの火が燃え移ったのだろう、宮殿は紅蓮の炎を上げて燃え始めていた。