大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・092『富岳百景・3』

2019-11-14 11:47:58 | ノベル

せやさかい・092

『富岳百景・3』 

 

 

 当たってるかも!

 

 太宰のロリコン趣味を話したら、頼子さんは、釣鐘饅頭に伸ばしかけた手を止めて賛意を表した。

「『女生徒』って作品があるんだけど、女生徒の一人称で語られる生活小説みたいなんだけど、まるで女の子が書いたみたいだし、女の子がとても魅力的なんだよ」

「『朝、目が覚める時の気持ちは面白い』って書き出しで始まるんですよね!」

「あ、食パン口にくわえて、学校へダッシュ!」

「アハハ、それはラノベの定番だよ」

「パチって目覚めるんじゃなくて、濁った意識の底から引きずり出されるみたいな。あの感覚は本物です!」

 太宰ファンやとは思てたけど、留美ちゃんの読み込みも大したもんやと感心。

「ロリコンはともかく、太宰の心の中には何人も女の人が住んでるわね。その女生徒だったり天下茶屋の女の子だったり、お見合いの相手だったり、月見草のお婆ちゃんだったり」

「あ、カチカチ山のウサギも居ますよ!」

「そうそう、タヌキが中年のオッサンで、泥船が沈む時に叫ぶんだよね『惚れたが悪いか!』って」

「それを少女のウサギは櫂で叩いて沈めるんですよね! で、最後に」

「「ホ、ひどい汗」」

 アハハハハハハ

 頼子さんと留美ちゃんはハモって大爆笑。

 チリンチリン

 ダミアが詰まらなさそうに尻尾を振ってキャットハウスに潜りに行く。

 

 日ごろはグータラな文芸部やけど、いったん興が乗ると、二人ともスゴイ。

 

「でもね、『富岳百景』って、昭和十三年でしょ。1938年。太平洋戦争の始まる三年前で、国家総動員法とかができるし、中国との戦争は激しくなっていく一歩だしなんだよね」

「ですよね。天下茶屋はお上さんと娘さんなんだけど、ほんとはお父さんも居て、お父さんは兵隊にとられて中国で戦っているんですよね」

「そうだよ。女だけで旅館とお土産屋を回して、大変だったんだよね」

「そんな暗さは、どこにも無かったような気がするんですけど」

 わたし的に『富岳百景』は、読後感のええ小説。富士山をバックに秋空が大きく広がった的な、爽やかで面白い小説。

「富士に戦争とか社会不安とかは似合わない。太宰のコンセプトなんだろうね」

 

 わたしにも、隠して触れないところがある。

 口にもせえへん。

 太宰治のように文学的なことと違う。

 口にしたら、不安の底なし沼に沈んでしまいそうでね……。

 

 エディンバラから帰ってからお母さんの話はせえへんでしょ。

 お母さんも、あの時期、仕事でイギリスに行ってる。

 むろん、わたしと前後して帰国してるんやけど、ちょっと触れたくないんです……。

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真夏ダイアリー・71『ティースプーンの存在意義』

2019-11-14 06:42:03 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・71
『ティースプーンの存在意義』
    


 

 だれかが膝枕をしてくれていたような感触が残っている。

「あら、目が覚めたのね」
「ジーナさん……」
「わたし……」
「何度目覚めても、ここの感触には慣れないようね」

 ああ……ここは、ジーナさんの四阿(あずまや)だ。

「今まで、ここにだれかいました?」
「ほら、あそこ……」
 エンジンの音がして、赤い飛行艇が一つ舞い上がっていった。
「……省吾?」
「ええ、たった今まで。あなたの膝枕になっていたけど、いてもたってもいられないみたい……」

 少しずつ記憶がもどってきた。ワシントンでやってきたことを……国務省に行ったところまでは思い出していた。

「ほんとうにお疲れ様。もうあなたにやってもらうことはないわ」
「一つ聞いていいですか?」
 わたしは思い出せないもどかしさを、ジーナさんに質問することで紛らわせた。
「なあに?」
「ジーナさん、若くなりましたよね?」
「これが、わたしの本来の姿……前、そう言ったわよね」
「はい、そんな気が……」

 赤い飛行艇が、空中でデングリガエシをやったかと思うと、四阿の真上をスレスレに飛んでいった。

「うわー!」
「省吾も、だいぶ焦れてる。どうしていいか分からないのね」
「……省吾の顔が思い出せない」
「どっちの、省吾?」
「ワシントンでいっしょだった、高野とかいうオジサンのほう……」
「じゃ、話しておくわ。いずれ全ての記憶が無くなる。でも、なにも知らなくて記憶がなくなるよりも、知ってから無くなったほうが、あなたの心にはいいと思う」

 ジーナさんは紅茶を一口飲んで語り始めた。

「省吾と、省吾のお父さんは、三百年の未来から真夏の時代にきた。これは覚えてるわよね?」
「ええ、2013年に来ることが限界で、それより昔にさかのぼるのに、わたしの力が要ったって……」
「そう、あの戦争で、日本が無条件降伏したところから、歴史が狂いはじめた」
「でも、あの戦争に勝っちゃったら、それはそれでおかしなことに……」
「程よいところで、講和……このスプーンを垂直に立てるほど難しいことだけど……」
 ジーナさんは、見事にスプーンをテーブルの上に垂直に立てた。
「ちょっとしたマジック。見えない力で、スプーンを支えてるの」
「なにも見えませんけど……」
「ハハ、だから言ったじゃない。見えない力だって。ほら、こんなこともできる……」
 なんと、スプーンが、四阿の中で曲芸飛行を始めた。
「すごい!」
 スプーンは、穏やかに、ティーカップの横に収まった。
「真夏、あなたはスプーンが曲芸飛行をするのに必要な力なの」
「わたしが……」
「そうよ。真夏がいなければ、省吾たちは1941年にいけないばかりじゃないわ。2013年に居続けることさえできなかった」
 コトリと音がしてティーカップが消え、スプーンは、お皿のうえを転がった。そして、コトンと音がして、今度はお皿が無くなり、スプーンは、テーブルの上に直接載っているかっこうになった。
「そして……」
「はい……」

 チャリーン……。
 今度は、テーブルそのものが無くなって、スプーンは床に落ちた。
「こういうこと……スプーンは何が自分におこったのか分からないでしょうね」
「このスプーンは、わたしのことですか……?」
「鋭いわね……床の上じゃかわいそうだから……」
 スプーンは、再び宙に浮き、新しいテーブルとティーカップが現れた。それは、さっきまであったのとは少し違っていた。
「……さっきのとは違いますね」
「でも、ティースプーンは気が付かない。少し変だなとは思っているかも……どうぞ、この紅茶は、真夏のために用意したものだから」
「あ、ありがとうございます」
 真夏は、少しの砂糖とミルクを入れてティースプーンで軽くかきまぜた。
「何気ないことだけど、スプーンが無ければミルクティーは飲めない。スプーンはお皿や、カップ、テーブルが無ければ床に落ちているしかない……」
 ジーナさんは、ごく当たり前なことを言っているだけ。でも、とても大事なことを言っているような気がした。紅茶の香りが広がり、省吾の飛行艇の爆音がかすかになっていき、真夏の意識は再びおぼろになっていった……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・35『アリスの広場』

2019-11-14 06:35:13 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・35   

『アリスの広場』 


 
 わたしたちはアリスの広場に出てきた。狸先生おすすめのスポット。

 アリスの広場は、あらかわ遊園の一番北。隅田川に面した観客席八百の水上ステージ。
 時々イベントが行われるが、晩秋の今日はなにもやっていない。
 野外の観客席は人もまばら。

「……わたし、きちんと言っておきたいの」
「……なにを?」
「ほんとうに、ありがとう。あの火事の中助けてくれて……忠クンが助けてくれなかったら、わたし焼け死んでた。ほんとうにありがとう!」

 わたしは川に向いたまま頭を下げた。

 コンクリートの床に、ポツン、ポツンと涙がシミになっていく。
「顔あげてくれよ。オレ、こういうの苦手なんだ」
 忠クンも川を向いたまま言った。
「わたし、病院じゃボケちゃってて、きちんとお礼も言えてなかったから」
「いいよ、お父さんがキチンと言ってくださったし。メールもくれたじゃん」
「でも、でも、自分の口で言っておかなきゃ。ほんとうにありがとう……」
「だから、もう分かったからさ。頼むから顔あげてくれよ」
「……」
 なにも言えなかった。顔もあげられなかった。
「まどか……」
 やっとあげた目に、忠クンの顔がにじんで見えた。晩秋のそよ風は、涙を乾かすには優しすぎる……愛しさがこみ上げてきた。
「オレこそ……お礼が言いたくて。んで、顔が見たくて。乃木坂の裏門のとこに行ったんだ。あそこ、演劇部の倉庫がよく見えるだろ」
「……わたしに、お礼?」
 右のこぶしで明るく涙を拭った。
「まどかのアンダスタンド……じゃなくて」
「ハハ、アンダースタディー」
 拭った涙が乾かないままのこぶしで忠クンの胸を小突いた。
「うん、それ。すごかった。なんかわたしの青春はこれなんだって、自己主張してるみたいだった。」
 忠クンは照れて、頭を掻いた。
「わたしは、ただ憧れの潤香先輩のマネしてただけだよ。マネはマネ。お決まりの一等賞もとれなかったし……エヘヘ」
「それでも感動したもん。なんてのかな……うん。オレも、これくらい打ち込めるものがなきゃって、そう感じさせてくれた……オレ、高校入ってから、ずっと感じてたんだ。もう、ただのお祭り大好き人間じゃダメなんだって」
「忠クン……」
 忠クンは、無意識に髪をかき上げ、かき上げた手を、そのまま頭の形をなぞるようにもっていき、もどかしそうに頭を叩いた。

 そのもどかしさが、切なくて、愛おしい。

「学校の先輩たちには、すごい人がいっぱいいるもん。勉強だけじゃなくてさ、人生に目標持って勉強してるような人とかさ。クラブとかもさ、『オレはこの道極めるんだ』みたいな人がさ……オレ、入学以来ずっとクスブっていたんだ。オレは、とても、そんな先輩みたくにはなれないって……そしたら、まどかがそうなっちゃってるんだもん。アハハ、まいっちゃうよな。でも、オレも、クスブリのオレだって、ガンバったらそうなれるんじゃないかって希望をくれたんだよ、まどかは。そんなまどかにお礼が……ってか、一目会いたくって裏門のとこに行ったんだ。そしたら倉庫から煙りが出てきて、火事騒ぎになって……みんなが『まどか!』って叫ぶのが聞こえてきちゃって。あとは切れ切れの記憶……自転車乗ったまま、グラウンドを斜めに走って、中庭の池に飛び込んで、水浸しになって……燃えてるパネルの下敷きになってるまどか見つけて……体がカッと熱くなって……気づいたら、担架にまどかを横たえていた」

「忠クン……」

 拭った涙が、また、とどめなく頬をつたって落ちていく。
 さっきまで聞こえていた、子どもたちの遠いさんざめきも、川面を撫でていく風の音も、なにも聞こえなくなった……。
 景色さえ、おぼろになり、際だって見えるのは忠クンの顔だけ……目だけ……。
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ファルコンZ・11 『船長のお布施』  

2019-11-14 06:26:14 | 小説6
ファルコンZ・11 
『船長のお布施』          
 
 
 
 
☆……惜別の星 その二
 
 あれは、ここから飛び立って行った阿呆どもの墓標さ。
 
「飛び立った……帰ってこなかったんですよね」
「そうだよ……」
「じゃ、墓標の下には何もないんじゃ?」
「誓約書と、阿呆のメモリーが入っている」
「誓約書?」
「ああ、ここから先はレスキュ-もしてもらえない未知の宇宙だ。それで、自己責任で行くって誓約書が要ったんだ……」
「何人ぐらいいるんですか……?」
「それは、知らない方がいい」
 
 意外なことに、無口なバルスが答えた。
「数え方で答が違うのよ……」
 墓場から吹き上げる風に、髪をなぶらせながらコスモスが続けた。
「人間だけじゃなく、アンドロイドやガイノイド、ペットロイドも入っている」
「中には、自分のパーソナリティーを船やロイドにコピーして飛ばしたハンパなやつもいてるんや」
「そういうやつらは、コピーが行方不明になると、なぜか間もなく死んでしまった。そういう阿呆も一部混じっておる。だから、わしは聞かれたらバカほど……と、答えている」
「で、バカって、どのくらいて聞かれると、阿呆ほどと答えよる。それが正しい答や」
 
 そのとき、フライングデッキに乗ったひっつめ頭の女の人が墓場からやってきた。
 
「やあ、船長もみなさんもお変わり無く。コスモス、イメチェンね」
「まあね」
「ティラミス、なんか、すっかり馴染んでしもたみたいやな」
「もう、行くとこもないしね。それに、あたしが居なくなったら李赤のジイチャン困るしね」
「ハハ、そういうことにしとる。ティラミスほどのガイノイドならいくらでも生きていく道はあるんだけどな」
「このお二人さんは?」
「ああ、ミナコ。よろしく」
「あたしは、ミナホ」
「……読めないわね、あなたたちの目的」
「そらそうや。オレかて知らんもんな」
「船長らしい」
「わたしには、使命があるの。なにか、よく分からないけど」
「あたしはバイト。それが、なんの因果か……」
「まあ、マーク船長なら大丈夫だわ」
「ティラミス、墓場でなにかあったの?」
 コスモスが聞いた。
「お墓が百基ほど無くなってるの」
「このごろ、この辺の宙域が騒がしいからな、昔の血が騒いで、飛び出したかな……」
「それとも、さらわれたか。あのお墓の住人達の情報は全部解析されてる訳じゃないから」
「まあ、いくらかは戻ってくるだろう。ここの静けさが気に入ってるやつも多いから」
「ジイサン、少ないがお布施だ。とっといてくれ」
 船長は古式ゆかしい『御布施』と書かれたのし袋を渡した。
「すまんなあ……こんなに?」
「ああ、ちょいと火星で儲けたもんでな」
 いったい、船長はいくら稼いだのか、呆れるミナコだった。
「あら、ポチの姿がみえないけど」
「船で留守番いうて、出てきよらん」
「ティラミスさんて、付き合い古いの、船長?」
「連れのアシスタントやった。船がやられて、アイツだけが放り出されよってな。それから、あの星に住み着いとる」
 
 船に戻ると直ぐに発進準備に取り掛かった。
 
「周回軌道、離脱します」
 
 バルスが静かに言った。惜別の星がみるみる小さくなっていった……。
 
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スーパソコン バグ・7『できた……!』

2019-11-14 06:06:12 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・7
『できた……!』       

 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、パソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。でもって、アニキの龍太にもバグの存在を知られてしまい、そのアニキが事故で入院! バグの頼まれ物を持って帰る麻衣子であった。


 それを見るとバグは嬉しいようなホッとしたような、それでいて、なにか決心したような顔になった。

「これで、よかったのよね、この壊れたお掃除ロボットで?」
「……そう、この子よ」
「バグみたいに喋ったりするのかなあ?」
「もともと、その機能はついてるけど、この子のCPUは壊れてる」
「じゃ、なんに使うの?」
「わたしのスペック向上に使うの」
「バグ、あんた、まだ性能良くなるの!?」
「うん、自分でもよく分かんないけど、なんだか試さずにはいられないの。麻衣子手伝ってくれる?」
「いいわよ、難しいことはできないけど」

 それから麻衣子は、1/4サイズのバグに言われるままにUSBメモリーを差し込んで、バグから抜いた情報、主にCPUの部分的回復に関わることらしいのや、小学校の時作ったソーラーカーのオモチャの太陽電池を取り外してロボ掃除機に付けたり。あまり器用ではない麻衣子でも一時間ほどで、出来上がった。
「さあ、できたわよ」
「自分でもドキドキする。じゃ、いくわね……」 
 お掃除ロボのスイッチが入った。しかし、運転中のランプは点くけど、本体はウンともスンとも言わない。
「ねえ、なにも起こんないわよ」
「静かに。ロボの上を見ていて……」

 ラーメン一杯出来るほどの時間がして変化が現れた。ロボの上に、何やら白いモヤっとしたものが現れたかと思うと、それはしだいに女の子が、しゃがんだ姿になっていった。
 つまり、実物大のマユユが、そこに現れた!

「できた……!」

 等身大のマユユになったバグは、感激で涙を流していた。麻衣子もなんだか感動して涙が止まらなかった。

「でも、当面の問題が二つあるわ」
「え、なに?」
「まず、裸だってこと……」
「あ、ああ!」
 あまりの見事さに見とれていた麻衣子だが、落ち着いてみると、同性でもスッポンポンは恥ずかしい。麻衣子は、自分の服から適当に選んで渡した。
「あの、これ、どうやって身につけるのかなあ?」
 バグは、ブラの付け方もわからなかった。順番と身につけ方をいちいち教えるが、教えたことは、確実に、一発で学習した。
 もう一つの問題は、マユユそっくりということである。アニキが入院していて良かったと思った。
「ちょっと、インストールするわね……」
 バグの顔がぼかしが入ったようになり、やがて、全然違う顔になってきた。
 くやしいけど、麻衣子は「自分よりかわいい」と認めざるを得ないような顔だった。
「この顔は実在しないよね?」
「たぶん……AKBの選抜メンバーの顔集めて合成したから」
「声、なんとかならないかなあ」
「変なの?」
「うん、十何人がいっぺんに喋ってるみたい」
「あ、声は集めただけだから。合成するね……これでどう?」

――くそ、声だけ聞いても、確実にあたしよりカワイイ!――

「あ、まだ問題あるよ!?」
「え、なにが?」
「こんなに、実体化しちゃったら、今みたいにパソコンの中に入るってわけにいかないじゃないよ!」
「あ、それなら大丈夫」

 そういうと、バグは少し幼くなったような感じになった。

「今日から、あたし麻衣子の妹の琴子ってことでよろしく!」

 気軽に、嬉しそうに宣言するバグであった。

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小悪魔マユの魔法日記・94『オモクロのオーディション・1』

2019-11-14 06:00:24 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・94
『オモクロのオーディション・1』    



 
 オモクロのオーディションは、スタジオで行われた。

 スタジオに隣接するは部屋はまるまる壁が取り除かれ広いフロアーになっている。フロアーはひな壇になっていて、どこからでもガラス越しに、スタジオが見られる構造になっている。
 受験者は、そのひな壇で待たされる。試験は、課題曲と自由曲があり、課題曲は、オーディションが始まる前に、オモクロのメンバーが景気づけと、お手本を見せるために、歌って踊ってくれる。
 課題曲は、先日AKRとの対決で公開されたばかりの『秋色ララバイ』

――あ、ルリ子と美紀がいる。

 なんとオモクロは、お手本を選抜メンバーにやらせている。選抜メンバーのパフォーマンスは見事だった。AKRと引き分けになるだけのことはある。特にセンターをとっているルリ子は、ひときわ輝いて見えた。
 でも、ルリ子の技量は、雅部利恵が、白魔法を使って身につけさせたものだ。これを放置させておくことはできない。悪魔の倫理からは大きく外れている。
 
 過去にも例がある。

 シンデレラに同情して、妖精に化けた天使が、シンデレラを実際以上に美しく飾り、ダンスや、歌の技術を身につけさせ、王子に一目惚れさせた。ガラスの靴なんてヤラセをやって、鳴り物入りでシンデレラを捜させ、そのデビューを華々しいイベントにまでした。
 ちょっと考えてみれば分かることであった。ガラスの靴なんか履いて歩けるわけがない。
 シンデレラは、見ばとダンスと踊りだけはイケテいたが、国の統治能力などカケラもない。王子さまは、それに輪をかけたイケメンだけのチャラオで、全ては、政治の「せ」の字も分からないシンデレラにまかせっきり。
 宮廷や政治のことはまるで分からないシンデレラだったが、家事一般のことは、家政婦のミタの上をいく腕で、掃除、洗濯はおろか、ちょっとした土木作業もお手の物。大型特殊免許を持っていて、ブルドーザーやダンプ、ユンボまでこなしてしまう。
 シンデレラは、文化大革命をおこした。なんでもできるシンデレラは、宮廷の使用人の数を1/10にまで減らした。当然公務員も大幅に削減。貴族達にも労働を強制、貴族達は「時代錯誤のナロードニキだ!」と反対したが、そのことごとくを強制労働につかせた。一時は歓迎した国民達も、金回りの悪さや失業にレジスタンスを組織するようになった。シンデレラは、それを対外膨張政策……つまり、インネンをつけて隣りの国に戦争をふっかけて、それをしのごうとした。眠れる森の美女の国などは、もろに、その被害をこうむった。そこに白雪姫と結婚してしまった王子さまの国がからんで、ファンタジーの国が大混乱に陥っていることは、本書の『フェアリーテール』にも詳しい。
 そして、これらの戦争は、全て「神の御名」のもとに行われていた。むろん、お人好しの神さまに全ての責任があるわけではなかったが、野放しにしていた天使たちが、その種を撒いたことには間違いない。

 マユは、お手本のダンスを見せているルリ子の白魔法を解除しようとした。
――エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……。
 マユは、心の中で念じた……しかし、ルリ子のダンスも歌も、もとのヘタクソにはもどらなかった。

――アハハ……白魔法の効力なんてとっくに消えているわよ。

 その思念は突然飛び込んできた。

 うかつだった。オチコボレ天使の雅部利恵が、美川エルという、別のアバターを使って、この受験者たちの中に紛れ込んでいたのだった……。
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