魔法少女マヂカ・105
大塚台公園の秘密基地に転送されたとたん、三人は変わった。
調理研ではなく、高機動車北斗のクルーになっていた。
―― 総員戦闘配置! 総員戦闘配置! ――
司令の声がスピーカーから響く、整備担当、カタパルト担当のテディーベアたちがキビキビと走り回る。
北斗に向けて駆けだした三人は、すでにポリ高の制服ではなく特務師団の戦闘服に変わっている。
転送台を離れる時に、一瞬自分のコスを気にしたが、大丈夫。
しっかり魔法少女のコスに切り替わっている。以前は、転送とコスチェンジは個別になっていたので、チェンジの瞬間、ほんの0・2秒ほど素っ裸にされた。M資金の回収の成果だろう、あちこち改善されている。
安倍先生!?
「すぐに発進するぞ」
すでに戦闘服でコマンダーシートに着いた安倍先生、テレポスキルを身につけたのか?
「倉庫の転送室よ、あんたたち時間かかり過ぎ」
三人がもたついたせいなんだが、出撃前だ、黙ってコンソールに目を向ける。発進までのチェックポイント、出撃地の双子玉川近辺の状況を0・5秒で確認。
「北斗機関出力120、発進準備完了」
「発進準備完了」
機関士のユリが発声し、機関助手のノンコが復唱する。
『北斗発進!』
来栖司令の声がモニターから発せられる、ガクンと身震いして北斗が動き始めた。
高機動車北斗(大塚台公園に静態保存されているC58)は、始動と同時に降下し、空蝉橋のカタパルトへの軌道に向かう。
十メートルほど降下して発進すると、大塚台公園の地下をSの字に助走したあと、空蝉橋通りの地下を直進。
空蝉橋北詰の街路樹に似せた加速機でブーストをかけられ、時空転移カタパルトから射出される。
ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「ブースト完了、第二戦速で双子玉川を目指します。ブースト閉鎖、赤黒なし」
「ブースト弁閉鎖、赤黒なし、機関オートに切り替え」
「上空にエネミーの痕跡を認めず」
「警戒レベル3、前方にシールドを張りつつ対空警戒」
「フロントシールド展開、対空スコープ異常なし」
数か月ぶりの北斗での出撃は順調だ、前回より七秒早くなっているのがコンソールのゲージで分かる。
「双子玉川上空に戦闘によるエネルギー残滓と時空穿孔残滓あり、敵影を認めず」
清美が冷静に状況を報告。
「穿孔残滓の裏に回頭、量子パルス砲、エネルギー充填、急げ!」
安倍先生、いや、コマンダーがとっさの判断。
ズボボーーーーーーーーーン!
回頭姿勢が完了する前に、穿孔残滓を貫いて飛び出す者がある。
ズタボロのブリンダと、ブリンダを追っている手負いの竜神が飛び出してきた!
「あんたら、遅いいいいいいいいい!」
ブリンダの叫びが響く。
「目標、竜神! 量子パルス砲、テーーー!」
ズビーーーーーーーン
エネルギー充填が不十分だったのだろう、空振りに似た音がした。
しかし、ブリンダによって痛みつけられていた竜神はもんどりうって身もだえしている。
「わたしが!」「マヂカ!」
安倍コマンダーと一致、一直線に北斗を離れ、引き抜いた風切り丸で、勢いのまま竜神に切りかかる。
セイ!
シュボボボ~~~~~~~~~ン!!
竜神は打ち上げ花火のように炸裂して消え去った。
魔法少女が絡む戦いは人間が視認することはできないが、この竜神の炸裂は双子玉川の周辺で視認された。
まるで、両国の花火のようであったと、超常現象の一種として記録された。