せやさかい・087
二日でダミアの涙が止まった。
血液検査までしてアレルゲンの特定をしたんやけど、特定はでけへんかった。
ま、治ったんやから文句なし。
人間とちごて、ネコに健康保険はきかへんさかい、ちょっと出費やったけど、仕方がない。
「なんか、申し訳ないね」
留美ちゃんが気にする。
「まあ、無事やったんやさかい、ええやんか」
ようやく深まってきた秋風みたいな爽やかさで言っとく。
「血液検査だけど二万円はするよ」
「うん、でも、お寺は弱いもんの味方やから」
子供番組で正義の味方を讃えるような返事をする。
「ハハ、仮面ライダーとか出てきそう」
さすがに、吹きだす留美ちゃん。
ちょっと意識のずれがある。
留美ちゃんはダミアの事を文芸部のネコやと思てるフシがある。
そもそもダミアは、体育の授業のあと、留美ちゃんと二人で見つけた子ネコ。
さすがに、学校で飼うわけにはいかへんから、うちで引き取った。
うちの家族も喜んでくれた。名前は伯父さんが付けてくれたし、ダミアいう名前は、むかしお寺で飼ってたネコの名前やし。
せやさかい、あたしの意識の中では『うっとこのダミア』やねん。
でも、これはハッキリさせへんほうがええ。「うっとこのネコやから、留美ちゃんが気にすることないよ」なんて言うたら、角が立つ、隙間風が吹く。そういうことが分かるくらいには成長した。
仮面アミダーーーーーーやぞ!!
下段の上にジャンプして、テキトーな変身ポーズをとる。
「アハハハハ」
ますます留美ちゃんのツボにハマる。
「アミダさんの後光ビーム!」
背中から後光が指すように両手で表現する。手ぇだけでは足らんさかい、お相撲さんがしこを踏むようにドタドタ。過呼吸になりそうなくらいヒーヒー言いながら笑い転げる留美ちゃん。
アハハハハハハハ
留美ちゃんとはちがう笑い声。瀬田と田中が笑うとる。指ささんでもええやろ!
「パンツ見えるぞお」
「うっさいわ!」
怒りながら、自分でも笑てしまう。
二学期も半ばを過ぎて、クラスメートらとも、ええ感じの距離感。
「ごめーん、また待たせちゃった!」
昇降口から頼子さんが走って来る。
揃って学校を出ようとしたら、また校内放送があって、頼子さんは引き返した。
「また、おばあ様から電話ですか?」
留美ちゃんは勘がええ。
「うん……お祖母ちゃん、日本に来るんだって」
「「ええ!?」」
頼子さんのお祖母ちゃんはただもんやない。
ヤマセンブルグの女王陛下やし……。