大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・097『北斗に救助される』

2019-11-08 14:11:02 | 小説

魔法少女マヂカ・097  

『北斗に救助される』語り手:マヂカ 

 

 

 間に合ってよかった!

 

 懐かしい顔が微笑んでいる。

 ポリ高においては担任であり、特務師団北斗分隊長である晴美ちゃん、いや、安倍先生だ。

 前方のシートには友里とノンコと清美が配置に着いて、高機動車北斗の制御に余念がない。任務中の彼女たちはクラスメートとしての意識が無い。早く学校に戻って調理研の部活がやりたい。

 どうやら、北斗に救助されたようだが、記憶が飛んでいる。

 ブリンダも同じなんだろう、わたしが懐かしがっているうちに口を挟んだ。

「北斗のレストアは済んでいたのか?」

「うん、二人が取り返してくれたM資金の半分を使う許可が下りて、ついさっき再稼働したところよ」

「スーパマンは撃破できたの?」

「目つぶしを食らわせて怯ませた程度、ノンコ、モニターに出して」

「ラジャー」

 学校では見せたことのない頼もしさでコンソールを操作する三人娘。

 モニターには、両手で目をこすりながらわたしたちの行方を探しているスーパーマンが映っている。どうやら、索敵機能に影響が出たようで、見当違いの方角にキョロキョロしている。

「スーパーマンの頭部を中心にディフエンス機能低下、コア機能には損傷はない模様」

 エンジンの操作をしながらアナライズもこなしている。ノンコの潜在能力は見かけによらず高い。

「よし、この隙に、一気にパージポイントへ向かう。進路、霊雁島!」

「霊雁島パージポイント、ヨーソロ」

 うんうん、友里のオペレーションも板についている。

「キヨミ、うちの高機動車は無事なんだろうか?」

「大丈夫、炭水車の後ろに牽引している」

「こんな感じです」

 ノンコが、モニターを切り替えると、フロントガラスにヒビが入り、あちこち傷だらけのT型フォードが北斗に振り回されるようにして付いて来ている。

「アリスは無事なんだろうか?」

「位相変換して北斗に取り込んであります」

 清美が照準用モニターを点けると、レチクル(視野内に刻まれた十字線)に張り付けられたアリスが現れた。

『ちょっと、この待遇は無いでしょ! 仮にも鏡の国のアリスさまなのよ!』

「すまない、まだ鏡の国の住人を完璧に変換する術が無いのでねえ」

『それにしても、これは無いわよ! せめてベッドとか用意しなさいよ!』

「またあとで」

 プツン。

 無慈悲にもスイッチを切る晴美隊長。

「まもなく位相変換点、各自対ショック防御」

 友里の指示で、全員がシートベルトを締める。

 

 グガガガガ グガガガガ

 

 多少の軋み音が続いたかと思うと、最高速の新幹線ほどの落ち着いた走行感に変わって、北斗は抜け出した。

 眼下には霊雁島脇、隅田川の霊雁島水位観測所が見えた。あそこからパージしたようだ。

「第七艦隊とは独立した位相変換所を確保したの。これも、マヂカとブリンダのお蔭よ」

「ということは……」

「その分、余計に働けということなのね」

「高機能化と言ってちょうだい」

 

 北斗は、基地の大塚台公園を目指して降下し始めていた……。

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真夏ダイアリー・64『映画化決定 二本の桜』

2019-11-08 06:26:14 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・64
『映画化決定 二本の桜』
        



 タイムリープによる事件解決のむつかしさを痛感した……。

 スポミチの記者には気の毒だったけど、あんなスクープをやるほうもやるほう。もう放っておくことにした。
 
 でも、一抹の不安が頭をよぎる。

 あの戦争のことは、どうなるんだろう。いままで、いろんなことが試された。わたしも、リープして、日本の最後通牒が間に合うようにして、そのための証拠をいくつも残してきた。でも、やっぱり、真珠湾攻撃は日本のスネークアッタック(だまし討ち)ということにされ、証人のジョージは口封じに消されてしまった。
 省吾が、死を決して、ニューヨークに原爆を落とすというフライングゲットをやろうとしたが、これは、ジェシカが時空の狭間に行方不明になるという結果を生み出しただけ……おかげで、省吾は一気に老けてしまい(彼のタイムリープの能力は、2013年に遡ることが限界で、それ以上過去にリープすると、ひずみで老化が進行する)もう、高校生として、この2013年には戻れなくなってしまった……残ったのは、未来人である省吾への気持ちが、友情というレベルではなかったという、愛しく、悲しい自覚だけ。

 リアルな現実では、嬉しい展開があった。

《二本の桜》が発表以来、ヒットチャートを駆け上り、三週連続のオリコン一位。卒業式に、この歌を歌うことに決めましたという学校が続出。山畑洋二監督が、このプロモーションビデオを観て「映画化させて欲しい」という申し出まで。詳しく言うと、それまで、山畑監督の中にあった「東京大空襲」にまつわるストーリーが、この曲にぴったり。山畑監督は、光会長の古い友だちでもあり、苦笑いしながらOKを出した。
「山畑、どうして、あの曲からインスピレーションなんか受けたんだよ」
「あのプロモには、お前の思いを超えたメッセージがあるよ。仁和さんの監修も見事だった」
「あれって、ただの感傷なんだけどなあ……」
「これからは、映画のイメージで、歌ってもらえるとありがたいんだけどな」
「乗りかかった舟だ。オーイ、黒羽、ちょっと山畑と相談ぶってくれよ」
 黒羽ディレクターが呼ばれ、歌の振りと演出に手が加えられることになった。
「そのかわり、うちの子達にもチャンスくれよ。むろん、ちゃんとオーディションやった上でいいから」

 その日のうちに、簡単な振りの変更が行われた。衣装も、それまでの、桜のイメージのものから、ひざ丈のセーラー服に替わった。

「いやあ、懐かしいわ。それって、あたしたちが女学生だったころの制服じゃない!」
 そう言って、そのオバアチャンは、光会長の肩を叩いた。
「別に、オフクロ喜ばせるためにやったんじゃねえんだから」
「素直じゃないね光は、死んだお父さんに似てきたね」
「よせやい!」
 光会長のお母さんは、メンバー全員の制服の着こなし、お下げや、オカッパというショートヘアの形まで口を出し、メイクやスタイリストさんを困らせた。
「まあ、好きなようにやらせてやって。後先短いバアサンだから」
「なんか言ったかい!?」
「いや、なんにも……」
 会長親子の会話にメンバーのみんなが笑った。気がついたら、楽屋の隅で仁和さんと会長のお母さんが、仲良くお茶をすすっていた。

《二本の桜》
 
 春色の空の下 ぼくたちが植えた桜 二本の桜
 ぼく達の卒業記念
 ぼく達は 涙こらえて植えたんだ その日が最後の日だったから 
 ぼく達の そして思い出が丘の学校の

 あれから 幾つの季節がめぐったことだろう
 
 どれだけ くじけそうになっただろう
 どれだけ 涙を流しただろう 
 
 ぼくがくじけそうになったとき キミが押してくれたぼくの背中
 キミが泣きだしそうになったとき ぎこちなく出したぼくの右手
 キミはつかんだ 遠慮がちに まるで寄り添う二本の桜

 それから何年たっただろう
 訪れた学校は 生徒のいない校舎は抜け殻のよう 校庭は一面の草原のよう 
 それはぼく達が積み重ねた年月のローテーション
 
 校庭の隅 二本の桜は寄り添い支え合い 友情の奇跡 愛の証(あかし)
 二本の桜は 互いにい抱き合い 一本の桜になっていた 咲いていた
 まるで ここにたどり着いたぼく達のよう 一本の桜になっていた

 空を見上げれば あの日と同じ 春色の空 ああ 春色の空 その下に精一杯広げた両手のように
 枝を広げた繋がり桜

 ああ 二本の桜 二本の桜 二本の桜 春色の空の下

 イメチェンの《二本の桜》は、若い人には新鮮に、年輩の方達からは、懐かしさだけじゃなく「力をもらった」というようなコメントが寄せられ、イメチェンの二日後には売り上げを50万枚も増やした。

 それは、習慣歌謡曲の収録のときだった。仁和さんが、スタジオの隅に目をやって呟いた。
「あら、あの子たちが見に来てる」
「あの子たちって?」
「プロモ撮ったときに出てきた、乃木坂女学校の子たち」
「え……幽霊さん!?」
「これは、もうお供養だわね。しっかりお勤めしてらっしゃい!」

 仁和さんに背中を押され、程よい緊張感で歌うことができた……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・29『阿弥陀さま?』

2019-11-08 06:20:57 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・29   
『阿弥陀さま?』 

 
 
 
「おーい」

 という声で目が覚めた。


 ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。
 十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。
 中央に、大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。
 でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?

 ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。

「気がついた、まどか!?」
 ドアップが叫んだ。
「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」
 阿弥陀さまが文句を言った。
「すみません」
 ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。

 そして、ようやく気づいた。

――わたしってば、助かったんだ……。

 頭の中が、ジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。
 これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。
 阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は、看護師のオネエサンだった。
 その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。
――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?

「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」

 阿弥陀……お医者さんが言った。
 わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。
 手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。
 それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。
「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」
 お医者さんが笑顔で言った。
――よかった。
「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」
 さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。
「ちょっとチクってするよ……」
 チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。
 お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。

 やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。
「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。
「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」
 お父さんが、そいつを押し出した。
「ども、無事でなによりだった……」
 ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。
「ども、ありがとう」
 マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。
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ファルコンZ・5《リハーサル》

2019-11-08 06:11:49 | 小説6
ファルコンZ・5 
《リハーサル》  

 
 
 さすが、火星で有数のマースアリーナだった。
 2万人収容の会場前は長蛇の列!
 
 リハは、開場2時間前にデジタルリハを簡単にやった。火星のAKBファン1000万人の内から2万人のファンをモニタリングした情報で、デジタル観客を可視的に再現。その2万人分のホログラム相手に、曲やベシャリの反応をモニタリング。とくにベシャリはMCだけでなく、他のメンバーや観客との息の合方まで試した。ハンベに取り込んだ火星の時事ネタや、芸能界の情報まで、うまく絡めることができた。曲は30曲。『あ いたかった』から『永遠のAKB』まで、念入りにやった。特に心配した地球との感覚のズレは少なかった。というか、火星の若者たちの方が熱く、AKBを古典芸能バイブルとしてではなく。今の自分たちのエモーションとしてとらえていて、それだけ、ダイレクトに反応してくれることが分かった。
 
 デジリハなので、圧縮し3時間の公演にもかかわらず30分で終わった。むろんミナコの自信があればこそであったが。
 残りの本番まで、ミナコは開場待ちの観客の中に混じってみた。モニタリングのデジ観客ではなく、部分的にでも、今日の生の観客のエモーションを知っておきたかったのだ。
 
 筋骨タクマシイ男たちのグループの中に入ってみた。ここは、他のグループと違ってガタイや風貌のわりに大人しい。
「お待たせしております。開場まで30分です。いましばらくお待ちください」
 スタッフのユニホームを着たミナコは丁寧に声を掛けた。ハンベが「極フロンティアからの観客」と、教えてくれた。北極の開拓団の人たちだ。地球の40%の引力しかない火星なので、大気形成のためや、人間に適した環境を作るために、赤道周辺は地球と同じ重力にしてある。しかし、それ以外は40%の引力のままである。ここの重力は堪えるはずだ。
「重力疲れなさいませんか?」ミナコは聞いてみた。
「あんた、地球からきたアルバイトだろ」
「あ、はい」
 バイトとは認めても、総合ディレクターだとは言えない。こんな小娘がオペレートしてるんじゃ、申し訳ないほど苦労して見に来てくれているんだ。
「極地は、確かに重力は、ここの40%だけどね、その分重労働に耐えている。日頃から200マースキロぐらいの重さのものを扱ってるんだ。並の赤道人よりは丈夫さ」
「いちおう、重力シンパサイザーはつけてきてるけどね」
「試しに、そこの車持ち上げてみようか」
「おい、よせ」
 年輩の仲間の言うことも聞かず、若者二人が、路駐している高そうなスポーツカーを持ち上げ、焼き鳥を焼くように、クルクルと回し始めた。スポーツカーとは言え、800マースキログラムはある。周囲の人たちが目を丸くしている。
 
「汚い手で、オレの車を触るんじゃない!」
 前列の方から、いいとこのボッチャン風が駆け寄ってきた。
「ここは路上駐車は御法度だぜ、ニイチャン」
「ナンバーをよく見ろ、政府の公用車だぞ!」
 ボッチャンが、鼻息を荒くした。
「公用車にスポーツタイプなんてのがあんのかい?」
「オレはな……」
 ボッチャンは瞬間ハンベの個人情報の一部を解放した。
「これは、とんだVIPだ」
「あなた、国務長官の息子!?」
 ミナコも驚いた。
「あ、ついムキになっちゃった。ま、そういうことだから……」
「待ちな、ボンボン。国務長官の息子だからって、路駐していいのかい」
「だから、公用車だって!」
「こんなガキのオモチャが公用車だなんて、ふざけんな!」
「なんだと!」
 ボッチャンが、へっぴり腰でスゴムと、取り巻きの若者が7人ほどやってきた。
「この、北極の野蛮人に、キャピタルの礼儀を教えてやって!」
「こっちも教えてやらあ、赤道がヌクヌクしてられんのは、極地のお陰だってな!」
「あ、あの、みなさん……」
 ミナコのか細い声など聞こえもしないで、もしくはシカトして、大乱闘になった。
 これじゃ、ショーが……いいえ、コンサートがムチャクチャになる。
 
 ミナコは切れた。
 
「いいかげんにしなさい、みんなAKBのファンなんでしょう!!」
 その一言で、みんなが静かになった。あまりのインパクトにミナコ自身驚いた。
「そうだよ……おれ達、なにやってんだ?」
「そうだな、同じファンなんだ。オレ、車パーキングに持っていく」
 ビックリするような素直さで、大乱闘は収まり、みんな大人しく列に戻り始めた。さすがにAKBの威力だと思った。
「あんた、似ている……」
 極地組の年輩のおじさんが言った。ミナコは、あたりを振り向き、自分であると分かってドッキリした。
「あたしが……誰に?」
「あ、いや……その、名前は忘れたがAKBの選抜メンバーのだれかだったかに」
 ミナコはいぶかった……AKBのメンバーは、選抜はおろか、研究生の全員まで知っている……ま、オジイチャンと言ってもいいくらいの年輩。きっと何かの思い違い。
「おっと、開場の時間だ」
 
 ミナコは、開演にそなえ、オペレーションルームに急いだ……。
 
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スーパソコン バグ・1 『運命の雷』

2019-11-08 05:57:28 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・1
『運命の雷』      



 また雨かよ……オデコに感じた雨粒を疎ましく思った。
 
 次の瞬間、突然の閃光があたしを貫いた……そして、気づいたのはベッドの上だった。

 最初はなにがなにか分からなかった。なんで病院のベッドにいるのか、自分になにがおこったのか……。

「ま、麻衣子!」
「あ、峯岸さん!」
 お母さんの声がひっくり返り、ナースのオネエサンはびっくりすると、二人同時にナースコールを力一杯押してドクターを呼んだ。そして、外したばかりのセンサーの端子やら、点滴やら、酸素吸入マスクをされた。
「そんなバカな、いま死亡診断書……ほんとだ!?」

 気づくと、わたしの両手は胸の上で組まれ、顔の横にはハンカチを少し大きくしたような白い布がずり落ちていた。その様子と、みんなの騒ぎよう、言うことを聞かない体……あたしはいったん死んだんじゃないかと思った。

 検査の結果、どこにも異常がないことが分かった。
 
 ただ、救急車で運ばれた時に心肺停止状態だったので、身ぐるみ剥がれて、AEDを何度もかけられ、人工呼吸のため肋骨を圧迫されて、あちこち痛かったことは確か。で、当然恥ずかしかった。

 だって、素っ裸だったんだよ! 大勢のドクターとナースの前で!

 検査が終わるころになって、いろんなことを思い出した。
 あたしは、部活が終わると、チャッチャと着替えて晩ご飯を買いに栄商店街に向かった。出来合いのトンカツなんかの総菜を買うと、ちょうど商店街のクーポンカードが満タンになった。

「オーシ、これで福引き一回!」

 くじ引きには弱い。ジュ-スの自販機のスロットルも当たったことがないし、年賀状のクジもサイテーの切手しか当たったことが無かった。
 でも、今日の部活はついていた。フェリペのソフボ部との練習試合。七回裏、わが神楽坂高の攻撃、4:1満塁のチャンスというか、サディスティックな神さまのイタズラか、惨敗とさよならホームランの境目……境目と思っているのは、この小説を読み始めたあなただけ。
 あたしを含め、メンバー、いや、試合会場にいたみんなが、この世の終わりと感じていた。

 なんせ、バッターボックスに入ったのは、入部以来、守備だけ人並み。試合と名の付くものでヒットを一本も打ったことがない、峯岸麻衣子……つまり、あたし。

 フェリペの守備も、キンチョーしまくりだったピッチャーも、明らかにリラックス。まあ、打順は運命……ってか、他の子が三振なんかしたら、もう傷ついちゃって、クラブどころか学校さえ辞めかねない状況だけど、あたしが討ち取られるのは、リンゴが木から落ちるように当然、あたしも含め誰も傷つかずに済む。
 ちょっちシニカルだけど、それが現実。

 しかし、ここで奇跡が起こった。

 フェリペのピッチャーが投球姿勢に入ったとたんに、とんでもない雷の音がした。ピッチャーは調子を崩され、そのまま力の入らないボールを、ストライクゾーンの真ん中に投げてきた。「しまった!」という顔と「しめた!」という顔が18.29m離れて交わされた。

 カキーン!

 バットは、ボールのど真ん中に当たり、セカンドをはるかに越えて、ホームランになった……!

 直後、三十分ほどのゲリラ豪雨。あたしは、人生で初めて「ツイテイル!」と、感じた。

 で、さっきの福引き。なんとあたしは一等賞を当ててしまった。一等の上に特等ってのがあって、バリ島旅行なんだけど、あたしは一等がよかった。
 一等は、最新型のパソコンだった。あたしは専用のパソコンを持っていない。

 福引きのオジサンに鐘を鳴らしてもらって、少々テレテレだったけど、チョー嬉しかった。で、そのあと、なんの前触れもなく太平洋ををひっくり返したような雨になった。あたしは、大きいレジ袋に入れてもらったパソコンを頭に載っけ、家まで100メートルあまりの道を急いだ。

 そして、運命の雷の直撃を受けてしまったのだった……。


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小悪魔マユの魔法日記・88『期間限定の恋人・20』

2019-11-08 05:30:20 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・88
『期間限定の恋人・20』   



 その日は一日黒羽といっしょだった。
 
 でも二人きりではない。

 黒羽はディレクターとして、美優は衣装制作者としてフジヤマテレビで特番に出演する。

――AKRをでっちあげる人たち――というタイトルで、ディレクターから、振り付け、メイク、衣装、果ては事務所の食堂のおばちゃんにいたるまで、総出演で、裏話や、とっておきの話のト-クショ-。その間メンバーは言われ役で、笑ったり、顔を真っ赤にしたり。そして要所要所でライブでAKRのヒット曲が挟まれる。

 企画は、光ミツル会長であるが、仕掛け人本人は、そのままの姿では出てこない。
 会長の狙いは、黒羽と美優をできるだけいっしょにしてやることであった。しかし仕事から外して二人きりにしても、黒羽も美優も断ることは目に見えていたので、こういうカタチにしたのである。
 そして、明日に迫ったオモクロとの対決番組の番宣にもなるし、メンバーのモチベーションをあげることにもなる。『コスモストルネード』は、新曲そのものとしては、昨日の段階でできあがっている。事務所のスタジオやシアターでストイックに稽古するよりは、よっぽど効果がある。
 会長の頭には、黒羽から美優のことを相談された時には、もうこの企画ができあがっていた。
 
 フジヤマテレビのディレクターに直接会って、すでに録画撮りの終わっている歌謡番組を一週遅らせ、緊急特番ということで実現させた。オモクロの上杉ディレクターは、放送局に派遣しているスタッフからの連絡があるまで、このことに気づかなかった。オモクロは、関係者以外締め出しで、ひたすら明日のAKRとの対決に備え、最後の稽古に余念がなかったのだ。

 番組の途中で事務所の清掃担当のオジサンが光ミツルであることを自身でバラし、スタジオのスタッフ始め、視聴者を驚かせる仕組みにした。
 放送自体は、その日の夜八時のゴールデンタイムであり、オンエアまでは数時間ある。
「HIKARIプロ会長の光ミツルです」とはいうものの、雰囲気としてはニセモノの雰囲気を残しておく。
 すると、ネットのツイッターなどで、「フジヤマテレビAKR特番で、伝説の会長光ミツル登場。果たして本物か!?」などと騒がれる。オモクロのスタッフは、スクープのつもりでスタジオに潜り込み、こっそりビデオを撮り、動画サイトに「ここまでやるか、ニセモノ光ミツル!」と、投稿したもので、効果的には逆のスクープになり、オンエアの視聴率を上げてしまうことになった。

 光ミツルは、怪しげな掃除のオジサンの姿のまま、怪しげな話をした。

「実は、このAKRのオーディション。最初は四十八人いたような気がするんだよね。だってオレね、最初に受験者きたときにオモシロ半分で、自販機の空き缶人数分だけ別にしといたの。そいで、全員合格でやろうってことになって、書類見たら四十七人。オレもそう思いこんじゃてて、そのままいったんだけどね、あとで空き缶数えたら四十八個あるんだよね。いや不思議……」
 もちろん言った会長本人も数え間違いだと思っている。スタジオはミステリーじみた話に湧いたが、言った本人が笑っているもので、話どころか、喋っている本人が、本物の会長であるかどうかも怪しくなってきた。

 メイクさんが、念入りに特殊メイクをしたもので、メンバーの中でも「あれー?」という者まで出てきた。
 会長オハコのギャグではあるが、マユと拓美は、冷や汗ものだった。
 最初からの読者ならお分かりだろうが、マユの体の中にいるのは幽霊受験者の拓美である。トップの成績でオーディションに合格したときに、小悪魔のマユが気づき、拓美自身幽霊である自覚がなかったので、やむなく自分の体を貸してやり、マユ自身は末期のガンで、今夜命が尽きる美優の体を、なんとか支えている。

 拓美に体を貸したときに、拓美がオーディションを受けた形跡や、人々の記憶は全て消したつもりでいたが、会長が、オモシロ半分で空き缶を別にしていたことまでは気が回らなかった。記憶を消したとき、会長は、人数分空き缶を集めていたことなど忘れていたのだから消しようもないことではあるのだが、この話題が出たとき、拓美が借りているマユの頭のカチュ-シャが一瞬きつくなり、拓美は声をあげるところだった。地獄のサタン先生もすぐに気が付いたが、マユが美優の命を支えていることや、会長の話がヨタ話と思われたことで、お構いなしということにした。

 その夜、黒羽と美優は夫婦として最初の、そして最後の時間を美優の部屋で過ごした。

「あと……一時間だね」
 美優が、ポツンと言った。
「そんなことは、分からない。オレは奇跡を信じる……」
 黒羽は、美優の肩を抱きながら、静かに言った。

 二人は、次第に無口になっていくことを予感していたので、テレビをつけて、昼間収録した『AKRをでっちあげる人たち』を流していた。いっしょに出た番組を観て、二人笑いながら、美優は逝きたかった。
「アハハハ……」
 会長のヨタ話のところでは、一瞬自分の、新妻の死が、そこまで迫っていることを忘れた。CMになって思い出した。
「あ……時間だ」
「美優……!」
「しっかり抱きしめて。わたし英二の胸の中で逝きたい……」
 二人は、そうやって、その瞬間を覚悟して待った。

 一時間ほどすると、美優の胸の中からまゆの息絶え絶えの声がした。

――ガン細胞……みんなやっつけた……。
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