大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・50『 罠 』

2019-11-29 07:10:16 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・50   
『 罠 』 

 
 
 罠だとは分かっていた。

 理事長に会った明くる日に、バーコードに呼び出された。
 放課後の校長室。
 校長室というのは、どこでもそうだけど校長の個人的なオフィスというだけではない。
 普通教室ならまる一つ分のスペースには、校長用の大きな机と、指導要録なんかの重要書類の入った金庫。それに、応接セットを置いても、半分のスペースが残る。そこには大きなテーブルが十数個の肘掛け付き椅子を従えて鎮座している。運営委員会など、学校の重要な小会議が開けるようになっている。
 校長や教頭が、保護者や教師に「折り入っての話し」をする時にも使われる。
 バーコードは、その折り入ってのカタチでわたしを呼び出した。

「失礼します」
 ノックと同時に声をかける。ややマナー違反だが構わないだろう。
「どうぞ」
 返事と同時にドアを開けた。
 バーコードは、わざとらしく観葉植物のゴムの木に水なんかやっていた。観葉植物の鉢の受け皿には、五分目ほども水が溜まっていた。 罠にかける緊張から、水をやりすぎていることにも気づかない。分かりやすい小心者だ。
「いやあ、お忙しいところすみませんなあ」
 バーコードは鷹揚に応接のソファーを示した。
 バーコードが座ったのは、いつも校長が座る東側のソファー。背後の壁には歴代校長のとりすました肖像画や写真が並んでいる。バーコードが、初代校長と同じポーズで座っているのがおかしかった。
「実は、この度の件、早く決着させておこうと思いましてね。いや、今回の度重なる事故は、先生の責任ではないことは重々承知しております。校長さんも気の毒に思っておいでです。今日は校長会で直接お話できないので、くれぐれも宜しくとのことでした」
「緊急の校長会なんですね。定例は奇数月の最終土曜……来週三十日が定例ですよね」
「え……あ、いや。なんか都合があったんでしょうな」
――そちらの都合でしょうが。
「申し上げにくいことですが、今回の件につきましては、残念ながら、くちさがない噂をする者もおります……」
――だれかしら、その先頭に立っているのは……。
「で、理不尽とお感じになるかもしれませんが、そういう者たちの気持ちもなだめにゃならんと……なんせ、職員だけでも百人近い大所帯ですからなあ……」
「みなまでおっしゃらないでください。間に入って苦労されている教頭先生のお気持ちも分かっているつもりです」
「貴崎先生……」
「わたしに非がないと思って庇ってくださる先生のお言葉は、身にしみてありがたいと思っています。しかし噂が立つこと自体わたしに甘えや、日頃の行いに問題があるからだと思います。生徒二人を命の危険に晒したことは、やはり教師としての資質の問題であると感じています」
「貴崎先生、そんなに思い詰められなくても……」
「いいえ、やはりこれはケジメをつけなければならないことだと思います。一義的には、生徒を命の危険に晒したこと。二義的には、学校の名誉を傷つけてしまったこと。そして、もう一つ。わたし自身のためにも……ここで、教頭先生のお言葉に甘えて自分を許してしまっては、ろくな教師……人間になりません。どうか、これをお受け取りください」
 わたしは懐から封筒を出して、そっとバーコードの前に差し出した……校長の机の上に不自然に置かれた万年筆形の隠しカメラのフレームに封筒の表が自然に見えるように気を配りながら。

 封筒の表には「辞表」の二文字が書かれている。

 バーコードは、一呼吸おいて静かに、しかし熱意をこめてこう言った。
「いや、これは。あ、あくまでもくちさがない者どもの気を静める為だけの方便でありますから、理事会のみなさんにお見せして、そのあと直ぐに却下という運びになろうかと、どうかご安心して、ご自宅で待機なさっていてください」
「ご高配、ありがとうございます……」
 と言って、わたしも一呼吸置く……バーコードが演技過剰で、カメラに被ってしまう。
 わたしは、腰半分窓ぎわに寄り、臭いアドリブをカマした。
「こうやって、わたしの心は、やっとあの青空のように晴れやかになれるんです……」
「貴崎先生……貴女のお気持ちはけして忘れはしませんぞ!」
 感極まったバーコードはわたしの手を取った(気持ち悪いんだってば、オッサン)
「では、これで失礼します」
 カメラ目線にならないように気をつけながら、わたしは程よく頭を下げた。
 カメラのアングルの中に入っているので、部屋を出るまで気が抜けない。
 ドアのところで振り返り、トドメの一礼をしようとしたら、バーコードが、またゴムの木に水をやっているのが目に入った。
「教頭先生……水が溢れます」
「ワ、アワワワ……」
 と、バーコードが泡を食ったところでドアを閉めた。

 あれだけ、台詞の間を開けてやればビデオの編集もやりやすいだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファルコンZ:26『さよならアルルカン・2』

2019-11-29 07:00:31 | 小説6
ファルコンZ 26
『さよならアルルカン・2』     
 
 
 
 アルルカンの特技は、心の先を読むことである。
 人の心も、アンドロイドの行動予測も読めた。
 そして……自分の心さえ。
 
 だから、街角の占い師から、十年の歳月をかけて、地球の銀河連邦大使の地位まで上り詰めた。
 
 そのことは問題ではない。
 
 問題は、アルルカンの欲である。
 
 地球や銀河宇宙のために使おうというのであれば、多少のことは許される。宇宙に完全な善などは存在しない。みな自己保全と、自分だけの成長が……煎じ詰めれば存在目的である。しかし、たいていの者は自己保全と成長が目的であるとしても、表面は銀河宇宙の安定と平和を願っている。いわば擬態である「善」の顔で付き合っているのが銀河連邦である。
 その中で、アルルカンは違った。アルルカンは銀河連邦の覇権を握ろうとしていた。大使というのは、そのための最後の擬態であった。
 
「感じる……アルルカンの心を」
「アルルカンの船には、まだ100パーセクもあるねんで。それで読めるか?」
 クルーのみんなも同じ気持ちだった。
「わたしの、ほとんど唯一の特技です。読むことと隠すこと。ただアルルカンのように先は読めません。今が見えるだけ」
「で、あいつの今の心は……?」
 ファルコン・Zのクルーは、マリア王女……マリア近衛中尉に注目した。
「危険です……ベータ星の水銀還元プラントは設計が盗まれています。設計は、すでに地球に送られ作られ初めています」
「地球の水銀を金に還元するんやな」
「しかし船長。水銀は還元の過程で1/100になります。地球中の水銀を金に還元しても、ロックフェラー級の金持ちになれる程度です」
「……投機に回したら、一時的やけど、地球の経済は大混乱やろな」
「それが、アルルカンの狙いです。その隙に地球の指導者になり、その先は……銀河連邦の支配です」
「銀河連邦の支配!?」
 
 一同が驚いた。
 
「連邦を支配できれば、わがベータ星の水銀もアルルカンの手に金として、盗られてしまいます」
「銀河連邦と言っても、その範囲は半径100光年の球状に過ぎないわ。たかが銀河の10%。その先は未知の宇宙同然。たとえハンパでも連合していなければ、これからやってくる危機には耐えられないわ」
 ミナホが、啓示を受けたように言った。
「ミナホちゃんも、なにか担わされているようね。その洞察力には、すごいオーラがあるわ」
「それより、どないすんねん、アルルカンは!?」
「破壊しましょう、船ごと」
「でも、あの船のバリアーは、コスモ砲でも打ち抜けません」
 コスモスが冷静に言った。
「わたしのソウルを同期させます」
「下手したら、死ぬで!」
「皇位の継承は妹を指名してあります」
「マリア……」
 船長以外のクルーは言葉も無かった。
「わたしも、同期します」
「ミナホ……」
「バリアーは破壊できても、シールドがあります。瞬時に破壊しないと反撃……アルルカン自身が、この船に乗り込んできます」
「ミナホ、お前には重要な任務が……よう分からんけどある!」
「わたしにも、うっすらと分かってきてます。ミナコちゃん、力を貸して」
「え、あたしが!?」
 ミナコが、素っ頓狂な声をあげた。
 マリアと、ミナホ、ミナコが手を繋ぎ、ファルコン・Zをバージョンアップした。
「反重力砲コンタクト、コスモ砲に転換……完了!」
「照準完了まで、5秒、4,3,2,1,ファイア!」
 
 アルルカンが、コスモ砲の発射に気づいた瞬間に、着弾。バリアーもシールドも船ごと一瞬に吹き飛ばされ、蒸発してしまった。
「やったー!」
「しまった!」
 ポチの歓声と、マリアの傷みの声が同時にした。
 
「やってくれたわね……」
 
 コクピットに、アルルカンが実体化していた……。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

永遠女子高生・13・《京橋高校2年渡良瀬野乃・4・ひょっとして・3》

2019-11-29 06:50:05 | 時かける少女
 永遠女子高生・13
《渡良瀬野乃・4・ひょっとして・3》         



 
 日曜というのはお日様のイメージだ。

 平日だってお日様には当たる。でも平日は、ほとんど教室の中だ。通学路やグラウンドで浴びるお日様には力が無い。
 日曜日のお日様は、たとえ自分の部屋のカーテン越しに入ってくる日差しでも、明るさと温もりが違う。

 野乃は日曜日に、よく散歩をする。

 たいてい近所の大阪城とその周辺。

 外国や地方の人は、わざわざ時間とお金をかけて大阪城に来る。野乃は近所なので、当然タダ。ちょっと得した気分になる。
 姫路城などに比べると、大阪城はつまらないという人がいる。
 父に連れられて、子どものころから馴染んでいる野乃には素晴らしいお城だ。
 なんといっても、お堀と石垣がいい。その深さ、大きさ、高さ、そして戦災や火災によって刻まれた時間が、他の城にはない凄みになっている。緑の深さが凄みに潤いをもたらしている。その凄みと潤いを浮き立たせているのが、お日様の明るさと温もりなのだ。

 でも、今日の野乃は違う。

 本丸のトイレに入ったら、同年配の女の子がギクリとした。
 ギクリとされたのは、ほんの一瞬だけど、野乃には分かった。
――男の子に間違われた……――
 子どものころからパンツルックのショートヘアで男の子に間違われた。高校に入って間違われたのは、これが初めてだ。
――あ~あ――
 凹んだ気持ちで歩いていたら、今度は自分でギクリとした。
 近道しようとして、駐車場を横切った。観光バスが何台も並んでいたので、避けながら歩く。
 一台のバスのお尻から回ってフロントに出た時に、大きなフロントガラスに男の子が映った。
――くそ、自分で自分を男と間違えた!――
 
「でも、一之宮さんは、そこらへんの犬とか猫とかモデルにしたような感じとちゃうかなあ」

 愛華には、そう言ったが、秀一が自分をモデルに少女像を造ったのは、少しは女の子として魅力があるから……かも、と思っていた。
 日曜のお日様は残酷だ。そんな思い込みを、あっさりと蒸発させてしまった。
 野乃は、初めて日曜のお日様を恨めしく思った。

――あたしは、トイレのドア修理がお似合いのオトコオンナやねんな……――

 法円坂を東に下って、森ノ宮につくまで、野乃は何回もため息をついた。
 けたたましくクラクションを鳴らされた。
「あ、すんません……!」
 赤信号に気づかずに横断歩道に踏み込んでしまったのだ。交差点にいる人たちみんなの視線が突き刺さるような気がした。
 居たたまれなくなって、法円坂を逆に上っていく。
 上ってすぐの角を曲がったところで、スマホが鳴った。多分愛華かお母さん……。
「もしもし……」
 ひどいブス声で電話に出る。

――あ、ぼく、一之宮秀一……――

 口から心臓が飛び出しそうになった。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小悪魔マユの魔法日記・109『その後のAKR47・3』

2019-11-29 06:41:21 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・109
『その後のAKR47・3』     



「それは、わたしが……」
 
 拓美は、言い淀んでしまった……。

 潤が、困ったような、すがりつくような目で見ている……拓美は、一呼吸すると決心して語り始めた。
「わたし……マユじゃないの」
「え……?」
 
 あとの言葉が続かなかった。

 これを言ったら拓美は、もうマユのアバターの中には居られないような気がした。ドアの通風口のスリットを通して、病院の微かな日常音が聞こえてくる。患者や病院関係者の足音、密やかな話し声、ストレッチャーや車椅子の音、それは現実の時間が確実に流れていることを拓美に教える。

「わたしは、浅野拓美。幽霊よ……」

「え……」
「わたし、AKRの最終オーディションの前に、交通事故で死んだの。でも、死んだことに気づかなくて、最終選考のオーディションまで来てしまって……そこで、マユちゃんに見破られてしまって、やっと自分が死んでいることに気づいたの……まだ、驚かないでね、話は、まだまだなんだから」
 潤は、どう受け止めていいか分からずに、動揺した目で、拓美を見ている。
「マユって子は……特殊な能力があって、それに気づいて見破った。で……一度は諦めたんだけど……諦めるって、あの世に逝くってことだけどね。わたし、どうしてもアイドルになりたかった。自分の力と運を試したかった。そうしたらマユは、自分の……この体を貸してくれたの」
「し、信じられません。マユさんは、クララさんなんかと同じ一期生で、わたしたちの憧れでした。急に別人だなんて……」
「わたしの本当の姿を見せてあげる」
 拓美が、部屋の姿見を指差した……そこには、マユのアバターではなく、拓美本来の姿が映っていた。
「こ、これが拓美さん……」
「そう、AKRは、本当は48人。わたしに関する記憶は、マユが全て消し去って、わたしに、この体を貸してくれた。だからAKRは47なのよ」
 潤は、マジマジと、姿見の拓美本来の姿と、マユのアバターに入った拓美の姿を見比べた。
「拓美さん、本来の姿の方が可愛い……」

 遠く離れた神楽坂のスタジオで、マユの今のアバターである仁科香奈がクシャミをした。さすがの小悪魔も、このクシャミの理由までは分からなかった。

「ありがとう潤」
「……でも、マユ……拓美さん、どうして、こんな話してくれたんですか?」
「なにか刺激的な話をして引き留めておかないと、潤は、向こうへ逝ってしまうから」
 
 潤は、初めて気がついた。自分の頭の上に、かすかな光の渦が来ていて、自然に自分が、そこに引き込まれつつあることに……放っていれば、階段を上り、屋上に出て、その渦の中にまきこまれていったであろうことを。

「わたし、死ぬところだったんですね」

「そう……あの光の渦に飲み込まれてね。そうでなきゃ、わたしみたいに、死んだことも自覚しないで、この世をさまよっていたわ」
「ありがとうございます」
「いいの、これで潤は、死なずにすむ。念のため、このマユのアバターの力を少し分けてあげるわね……」
 
 拓美は、自分の胸に手をやると、握り拳ほどの光の玉を潤の胸に押し当てた。潤はホワっと体が温まるのを感じた。頭の上の光の渦は、小さく、遠くなっていってしまった。

「もうこれで潤は生き返る。さあ、自分の体に戻りなさい」
「はい」
「それと……わたしが拓美だってことは、しばらく黙っていてね。人に知られてしまったら、わたしは、もう、このアバターに憑いていることができなくなるから」
「絶対言いません。だって、拓美さんが、命がけで助けてくださったんですから」
「ほらほら、わたしは拓美じゃなくてマユ。AKR創立以来の選抜メンバー出昼マユなのよ」
「は、はい。マユさん!」
 元気よく返事をすると、潤はゴムひもで引っ張られたように、自分の体に戻っていった。

――人に話してしまった。もう、このマユのアバターにも長くは居られないだろう。
 拓美は、そう思ったが、「これでいいんだ」と言う自分が芽生え始めていることに、初めて気づいた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする