大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・42『マッカーサーの机』

2019-11-21 05:25:53 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・42   

『マッカーサーの机』 


 
 
 で、この『竜頭蛇尾』は言うまでもなくクラブのことなんだ……。

 あの、窓ガラスを打ち破り、逆巻く木枯らしの中、セミロングの髪振り乱した戦い。
 大久保流ジャンケン術を駆使し、たった三人だけど勝ち取った『演劇部存続』の勝利。
 時あたかも浅草酉の市、三の酉の残り福。福娘三人よろしく、期末テストを挟んで一カ月はもった。
 公演そのものは、来年の城中地区のハルサイ(春の城中演劇祭)まで無い。
 とりあえずは、部室の模様替え。コンクールで取った賞状が壁一杯に並んでいたけど、それをみんな片づけて、ロッカーにしまった。
 三人だけの心機一転巻き返し、あえて過去の栄光は封印したのだ。
 テーブルに掛けられていた貴崎カラーのテーブルクロスも仕舞おうと思ってパッとめくった。

 息を呑んだ。クロスを取ったテーブルは予想以上に古いものだった……わたしが知っている形容詞では表現できない。

 わたし達って言葉を知らない。感動したときは、とりあえずカワイイ(わたしはカワユイと言う。たいした違いはない)と、イケテル、ヤバイ、ですましてしまう。たいへん感動したときは、それに「ガチ」を付ける。
 だから、わたし達的にはガチイケテル! という言葉になるんだけど、そんな風が吹いたら飛んでいきそうな言葉ではすまされないようなオモムキがあった……。
 隣の文芸部(たいていの学校では絶滅したクラブ。それが乃木高にはけっこうある。わたし達も絶滅危惧種……そんな言葉が一瞬頭をよぎった)のドアを修理していた技能員のおじさんが覗いて声をあげた。
「それ、マッカーサーの机だよ……こんなとこにあったんだ」
「マックのアーサー?」
 夏鈴がトンチンカンを言う。
「戦前からあるもんだよ……昔は理事長の机だったとか、戦時中は配属将校が使って、戦後マッカーサーが視察に来たときに座ったってシロモノだよ。俺も、ここに就職したてのころに一回だけお目にかかったことがあるんだけどさ、本館改築のどさくさで行方不明になってたんだけどね……」
 おじさんの説明は半分ちかく分からないけど、たいそうなモノだということは分かる。
「ほら、ここんとこに英語で書いてあるよ。おじさんには分かんねえけどさ」
「どれどれ……」里沙が首をつっこんだ。
「Johnson furniture factory……」
「ジョンソン家具工場……だね」
 わたし達にも、この程度の英語は分かる。

 技能員のおじさんが行ってしまったあと。そのテーブルはいっそう存在感を増した。
 テーブルは、乃木高の伝統そのものだ。貴崎先生は、その上に貴崎カラーのテーブルクロスを見事に掛けた。
――さあ、どんな色のテーブルクロスを掛けるんだい。それとも、いっそペンキで塗り替えるかい。貴崎ってオネーチャンもそこまでの度胸は無かったぜ。
 テーブルに言われたような気がした。

 結局、テーブルには何も掛けず、造花の花を百均で買ってきて、あり合わせの花瓶に入れて置いた。それが、殺風景な部室の唯一の華やぎになった。
――ヌフフ……百均演劇部の再出発だな。
 憎ったらしいテーブルが方頬で笑ったような気がした。

 貴崎先生のテーブルクロスは洗濯して中庭の木の間にロープを張って乾かした。
 たまたま通りかかった理事長先生が、こう言った。
「おお、大きな『幸せの黄色いハンカチ』だ、君たちは、いったい誰を待っているんだろうね」
「は……これテーブルクロスなんですけど」
 と、夏鈴がまたトンチンカン……て、わたしも里沙も分かんなかったんだけどね。
「ハハハ、その無垢なところがとてもいい……君たちは、乃木坂の希望だよ」
 理事長先生は、そう愉快そうに笑いながら後ろ姿で手を振って行ってしまわれた。

 晩秋のそよ風は涙を乾かすのには優しすぎたけど、木枯らし混じりの冬の風は、お日さまといっしょになって、テーブルクロスを二時間ほどで乾かしてしまった。
 それをたたんで、ロッカーに仕舞っていると、生徒会の文化部長がやってきた。
「あの……」
 文化部長は気の毒そうに声を掛けてきた。
「なんですか?」
 里沙が事務的に聞き返した。
「部室のことなんだけど……」
「部室が……」
 そこまで言って、里沙は、ガチャンとロッカーを閉めた。気のよさそうな文化部長は、その音に気後れしてしまった。
「部室が、どうかしました?」
 いちおう相手は上級生。穏やかに間に入った。夏鈴はご丁寧に紙コップにお茶まで出した。
「生徒会の規約で、年度末に五人以上部員がいないと……」
「部室使えなくなるんですよね」
 里沙は紙コップのお茶をつかんだ。
「あ……」
 わたしと夏鈴が同時に声をあげた。
「ゲフ」
 里沙は一気に飲み干した。
「あ、分かってたらいいの。じゃ、がんばって部員増やしてね……」
 文化部長は、ソソクサと行ってしまった。
「里沙、知ってたのね」
「マニュアルには強いから……ね、稽古とかしようよ」
 八畳あるかないかの部室。テーブルクロスが乾くうちにあらかた片づいてしまった。
 
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ファルコンZ 18『☆………コスモス星・1』 

2019-11-21 05:19:00 | 小説6
ファルコンZ 18
『☆………コスモス星・1』         
 
 
 
 三丁目星を出て一週間、コスモスに元気がなくなってきた。
 
「コスモス、しばらく寝てるか?」
「コスモスさん、具合悪いんですか?」
「……寝ても無駄かもしれません」
「大丈夫や、シールド張っとくよってに」
「シールドも無駄かもしれません……」
「起きてたら確実に危ないで」
「ですよね……では失礼します」
 コスモスは、ため息一つつくと、キャビンの一つに入っていった。
「バルス、コスモスのキャビンを封鎖しとけ」
「了解……封鎖」
 一階下のキャビンブロックで、重々しくキャビンを封鎖する音がした。むかし検索して知った火葬場の二重の扉をしめる音に似ていた。
「ミナホ、コスモスの代わりにシートについてくれるか」
「はい、準備はしておきました」
「次の星まではオートやさかい、特別にすることは無いと思うねんけどな」
「一応、コスモスさんのスキルとメモリーはコピーしてあります」
「いつの間に?」
「船長が、悩み始めてから……」
「見透かされてたか。ほな二日前からやな」
「いいえ、五日前から……」
「そんな前からか……」
「船長は、自覚なさっている以上に、クルーの心配してるんですよ」
「さいでっか……」
「言っておきますけど、コスモスさんが過去にやった判断や行動はとれますけど、それを超える事態には対応できないかも……」
 
 マーク船長は沈黙してしまった。
 
「どうしても寄らなきゃならない星なの?」
 沈黙を破って、ミナコが咎めるように聞いた。
「次のコスモス星で、エネルギーを補充しないと、目的地に着けねえんだよ」
 ポチが、人の言葉で喋った。
「じゃ、その目的地ってのは……?」
「分かんねえんだよ。1000光年や、そこいらは飛べるけど、おいらの予感も、船長の勘も、もっと先だって言っている」
「この先、800光年は、燃料を補給する星はあらへんよってな」
「じゃ、なぜコスモスさん、閉じこめちゃうの?」
「あいつの素材はコスモス星の鉱石からでけてる。着いたら出て行って帰ってけえへんからな」
「コスモス星の勢力圏に入ります」
「シールド、全周展開」
 バルスがシールドをマックスに張った。
「シールド言うのんは、外からの影響は防げるけど、中から外に出て行くのは阻止でけへんよってにな」
「見ろよ、ミナコ。コスモス星の部分拡大だ」
 ポチがアゴをしゃくった。モニターには、何百隻という宇宙船が着地しているのが分かった。中には、相当古い船もいて、半ば朽ち果てていた。
「十分後周回軌道に入ります」
「よし、全パッシブ閉鎖、各自のCPUも全てのアクセスを切れ、みなこ、ハンベも落としとけ……」
「え、ハンベまで……」
「これだけの人数や、必要もないやろ」
 ハンベはハンドベルト型携帯端末で、昔のスパコンの十倍の能力がある。この時代の人間にはケ-タイのような必需品である。ミナコは不承不承ハンベを外した。
「コスモスの機能はスリープしてるやろな?」
「動力ごと落としています。再起動には丸一日はかかりますね」
 周回軌道に入り、ファルコン・Zの着陸に向けてのチェックが行われる。みなパッシブ閉鎖しているので、チェックはいちいち口頭で行われた。
 
 そして、ファルコン・Zは着陸態勢に入った……。
 
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永遠女子高生・5《瑠璃葉の場合・1》

2019-11-21 05:09:45 | 時かける少女
永遠女子高生・5
《瑠璃葉の場合・1》        




 久々のスポットライトは眩しすぎた。

 目の前が一瞬ホワイトアウトし、舞台も観客席も見えなくなった。
 しかし、わき起こる拍手で、自分は、まだアイドルなんじゃないかと、一瞬錯覚した。
 錯覚は、直ぐに覚めた。拍手の対象が微妙に違う。

 意地を張るんじゃなかった。後悔したが後の祭りだ。

 2001年から二年間大ヒットした『ラ・セーヌ』実写版の制作発表に呼ばれ、瑠璃葉は大先輩のつもりでいた。だから、舞台挨拶は実写版リメークの主役秋園楠葉(あきぞのくずは)といっしょにという条件を出した。
 そして、舞台に出る寸前に、ごく自然に楠葉の前に進み、先頭を切って舞台に出た。

 観客の拍手は、瑠璃葉のすぐ後ろに控えめに現れた楠葉に対するものだった。屈辱感が増しただけだ。

 瑠璃葉は、高三の秋に新作アニメ『ラ・セーヌ』の声優のオーディションに応募して、あまたのプロを押しのけて主役ロゼットの役を射止めた。
『ラ・セーヌ』は、19世紀のパリが舞台で、ムーランルージュの踊り子たちが時代に翻弄されながらもたくましく生きていくという『ベルばら』の再来と言われたほど流行ったアニメだった。

 それが十三年の後、時代を現代に置き換え、主人公も日本から来た留学生が、アルバイトからスターになっていくストーリーになっている。
 その主役が、AKR48から抜擢された秋園楠葉である。まだ17歳で、瑠璃葉の半分ほどにしかならない現役の女子高生でもあった。
 これが結(ゆい)の新しい姿でもある。

 楠葉は、なかば結の意識で、往年のアイドル声優であった瑠璃葉に、もう一度自身を取り戻してもらって、一流の俳優になってもらいたいと願っていた。
 だからプロデューサーに頼んで、瑠璃葉にも役を付けてもらった。多少の無理はあったが楠葉が演ずる主人公のエミの姉という設定で、最初は妹のエミが留学を捨てて役者になることに反対するが、最後は、その情熱と才能に気づき、応援する側に回るというものであった。

 MCに続いて、楠葉のスピーチが始まった。楠葉がマイクを持っただけで歓声があがる。

「こんにちは、みなさん。正直楠葉はビビッています。研究生からチームRになって半年。総選挙でも47番目だったわたしに、こんな大きなチャンスを頂いて、ほんと足が震えてます」
 可愛いよー! 大丈夫! 観客席から声援と拍手があがる。
「ありがとうございます。えと、この『ラ・セーヌ』は、瑠璃葉さんが声優をされて一世風靡した作品で、『ベルばら』の再来とまで言われた名作です。今度設定は変わりますが、前作。そして、前作の主役でいらっしゃった瑠璃葉さんの名を汚さないよう頑張りますので、よろしくお願いします。あ、それから瑠璃葉さんには、今回特別出演していただくことになっています。どの役かは内緒ですけど、みなさん、どうぞ楽しみになさってください。では、瑠璃葉さん、どうぞ」

 楠葉は、瑠璃葉にマイクを渡した。拍手はきたが楠葉ほどではない。
 なにか二分ほど話したが、瑠璃葉は、その間も観客の注目の大半が楠葉に向いているのがいたたまれなかった。

 プロディユーサー、監督の話が続き、全員の挨拶が終わって舞台袖に引き上げるとき、自分の前を歩いた助演女優の三島純子に敵意を覚えた。そして体をよけるフリをして、その女優に足をかけた。
 三島純子は「ア」っと声を上げて、前を歩く楠葉に倒れかかり、楠葉は、はずみで舞台から転げ落ちた。

 会場は騒然とし、瑠璃葉も心配顔をつくろったが、胸にはどす黒い快感が湧いていた……。
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小悪魔マユの魔法日記・101『オモクロ居残りグミ・1』

2019-11-21 04:59:58 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・101
『オモクロ居残りグミ・1』    



 そこの研究生にしてください!

 香奈(マユ)はクチバシッテしまった……。

 と、かくして、オモクロ初のユニット「オモクロ居残りグミ」が生まれた。
 担当プロデューサーは別所。メンバーは加奈子を中心とした六人。他にクチバシッテしまった香奈を含め、研究生六名のバックで始まった。デビュー曲『居残りグミ』は加奈子自身が作詞、作曲は、なんとHIKARIプロの専属作曲家の大久保の弟子塩田が、敵に塩を送るの精神で引き受けた。会長の光ミツルが、業界全体の活性化のために応援してくれたのだ。週刊誌は「光ミツル、素敵に塩を送る」と特集を組んだ。当然オモクロのチーフプロディユ-サー上杉は面白くはない。

 《居残りグミ》
 今日のテストも赤点で、予想通りの居残り学習、居残り組。
 夕陽差す中庭のベンチ、待ってるキミが大あくび、その口目がけて投げるグミ。
 見事に決まってストライク……とはいかずに、キャッチする手は左利き。

 ニッコリ笑ってグミを噛む。ゼリーより硬く、キャンディーよりは柔らかく。
 その食感に、キミが戸惑う。まるで、ボクが初めてコクった時のよう。
 あの、ハナミズキの花の下、左手だけを半袖まくり、ソフトボールの汗滲ませて、ボクをにらんでいたね。
 あとの言葉困って、ボクが差し出すグミ、キャンディーと勘違い。グニュっと噛んでキミが笑う。
 歯ごたえハンパなグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、だけど心に残る愛おしさ。
 居残りグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、青春の歯ごたえさ~♪

 加奈子の詞を読んだとき、香奈(マユのアバター)は笑ってしまった。まるで四コママンガのようなコミカルさ。歌詞の中味は、加奈子自身の体験。学校じゃ、いつも居残り組。オモクロでも居残りみたくなって、開き直っての作詞。これに塩田の曲が付くと、コミカルな中にイカシたノリがあり。別所は、この曲を大手製菓会社に持ち込み、その会社で売り上げ不振になっていた、グミのCMソングにしてもらった。

 最初は、スーパーの前や駐車場。おもクロの原点に立ち返っての出発だったが、発売三週目にはオリコンの五位に食い込み、タマリのMCで有名な習慣歌謡曲に出演。急遽、プロモーションビデオを作ることになった。

 そして、波紋は意外なところから広がってきた。ほんとうに、オチコボレ天使の後始末は大変だ。

 香奈のアバターの中でぼやくマユであった……。
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