大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・48『大雪のクリスマス』

2019-11-27 06:08:38 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・48   
『大雪のクリスマス』 


 

 松竹の富士山がド-ンと出て映画が始まった。やっぱ五十二型は迫力が違う。

 網走刑務所の朝から幕が開く。
 健さん演じる島勇作。彼の葛藤の旅路がここから始まるのだ。
 網走駅前で、ナンパし、されている欣也と朱美に出会い、旅は三人連れになる。
 互いに、助け、助けられ。あきれ、あきれられ。泣いて、笑って。そうしているうちに三人の距離は縮まっていく。
 そして、勇作を待っている……待っているはずの(いつか、欣也と朱美という二人の若者の、観客の願望になる)妻との距離が……。
 そして、見えてきた……夕張の炭住にはためく何十枚もの黄色いハンカチが!
 それは約束のしるし、あなたを待ち続けているという妻の心にいっぱいの愛情のしるし!
 エンドロールは、涙でにじんでよく見えない……。
 バスタオルがあってよかった、ティッシュだったら何箱あっても足りないもん。


 そのあと、二階のわたしの部屋でクリスマスパーティーを開いた。
 むろん、はるかちゃんも一緒。
 六畳の部屋に四人は窮屈なんだけど、その窮屈さがいいのだ。
 あらためて、はるかちゃんに二人を、二人にはるかちゃんを紹介した。もう互いに初対面という感じはしないようだ。同じ映画を観て感動したってこともあるけど、わたし自身が双方のことを話したり、メールに書いていたりしていた……。
 クラブのことはあまり話さなかった。いま観たばかりの映画の話や大阪の話に花が咲いた。
 同じ日本なのに文化がまるで違う。例えば、日本橋という字にしたら同じ地名になる所があるんだけど、東京じゃニホンバシと読み、大阪ではニッポンバシ。むろんアクセントも違う。
 タコ焼きの食べ方の違いも愉快だった。東京の人間は、フーフー吹いて冷ましながら端っこの方からかじっていくように食べる。大阪の人間は熱いまま口に放り込み、器用に口の中でホロホロさせながら食べるらしい。それでさっき、はるかちゃん食べるの早かったんだ。はるかちゃんは、すっかり大阪の文化が身に付いたようだ。
 それから、例の『スカートひらり』の話になった。このへんから里沙と夏鈴は聞き役、わたしと、はるかちゃんは懐かしい共通の思い出話になった。

「あ、寝ちゃった……」
 小学校のシマッタンこと島田先生の話で盛り上がっている最中に、里沙と夏鈴が眠っていることに気がついた……。


 二人にそっと毛布を掛けて、わたし達は下に降りた。
 茶の間では、さっきの宴会の跡はすっかり片づけられ、おばあちゃんとお母さんがお正月の話の真っ最中。お父さんは、その横で鼾をかいていた。おじいちゃんは早々に寝てしまったようだ。
「遅くまですみません」
「ううん、まだ宵の口だわよ。あんたたちもこっちいらっしゃいよ」
 お母さんが、炬燵に変わった座卓の半分を開けてくれた。
「あの、よかったら工場で話してもいいですか?」
「構わないけど、冷えるわよ」
「わたし、工場の匂いが好きなんです。わたしんち、工場やめて事務所になっちゃったでしょ。まどかちゃんいい?」
「うん、じゃ工場のストーブつけるね」
 わたしは工場の奥から、石油ストーブを持ってきて火をつけた。
「あいよ……」
 おばあちゃんが、ミカンと膝掛けを持ってきて、そっとガラス戸を閉めてくれた。

「懐かしいね……この機械と油の匂い」
「……はるかちゃん、ほんとに懐かしいのね?」
「そうだよ。なんで?」
「なんか、内緒話があるのかと思っちゃった」
「……それもあるんだけどね」
 はるかちゃんは、両手でミカンを慈しむように揉んだ。これもはるかちゃんの懐かしいクセの一つ。このおまじないをやるとミカンが甘くなるそうだ。
「……う、酸っぱい」
 おまじないは効かなかったようだ。
「フフ……」
「その、笑うと鼻がひくひくするとこ、ガキンチョのときのまんまだね」

 半年のおわかれが淡雪のように溶けていった。溶けすぎてガキンチョの頃に戻りそう……。
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ファルコンZ:24『ベータ星滞在記・2』

2019-11-27 06:01:21 | 小説6
ファルコンZ 24
『ベータ星滞在記・2』       
  
 
 監視されている様子はなかった。
 
 幽閉という言葉が似つかわしいが、ミナコたちも、あまり外へ出てみようとも思わなかったので、ファルコン・Zのクルーは、とても中途半端だった。
 
 外へ出てはいけないと言われているが、建物ではない。首都ベータポリスから出てはいけないということだけだったので、ほとんど自由と言ってもよかった。
 
「今朝は、納豆定食にしてみました」
 まかないのメグさんが、ワゴンで朝ご飯を運んできた。
「うわー、なつかしの水戸の納豆だ!」
 ミナコが一番喜んだ。あとのみんなもそこそこメグさんの料理は気に入っていた。
「ゲ、納豆!?」
「嬉しい、メグさんのアイデア?」
「いいえ、ファルコン・Zに相談して料理は作っています。今朝の納豆は難しいんで、ファルコン・Zが合成してくれたものですけど、明日からお出しするお味噌やお醤油はレシピを教えてもらって、あたしが作ったものが使えそうです」
「船の中じゃ、こんなの食べたことないわ!」
「ファルコン・Zも、ここに来てから余裕みたいですね」
 ミナホが、楽しそうに納豆をかき混ぜている。
「船のCPUは航行中は、運行と警戒で手一杯ですからね。遊び心が出てきたんでしょうね」
「で、オレの嫌いな納豆か?」
 船長がボヤく。
「マーク船長にファルコン・Zから、メッセージです」
「なになに……この際、嫌いなネバネバ系を克服しましょう。おせっかいなやっちゃ」
「ねえ、AKBのフリ覚えたの。見て!」
 メグさんの娘メルとパルがやってきて、上手に歌って踊って見せた。
「あ、『恋するフォーチュンクッキー』じゃん!」
「うん、街で流行りかけてるの!」
「なんで、そんなん知ってんねん?」
「ファルコン・Zがネットで流してるわよ。他にもいろんなこと教えてくれる」
「あたし、今度は『大声ダイアモンド』マスターしたいな」
「『フライングゲット』が、いいな」
「ね、キンタローバージョンてのあったけど、なあに?」
「あ、あれAKBの準構成員。あんまり真似すると首とか腰いわすわよ」
「うん、じゃあ、オリジナルをマスターしてくるね!」
 
 フォーチュンクッキーを口ずさみながら行ってしまった。
 
「可愛いお子さんですね」
「ほんとは、片方男の子だったらよかったんですけどね」
「メグさん、お若いから、まだまだでしょう」
 早くも食べ終わったコスモスが親しげに言った。
「三人目は……とても難しいんです。この星じゃね」
 メグさんは、軽くため息ついてお茶を注いでいった。
「どうしてなんですか?」
 ミナコは、大昔の中国の一人っ子政策を思い出した。
「水銀のせいなんです……」
「水銀……?」
 そこに、メイドのメナが急ぎ足でやってきた。
 
「みなさま、王女殿下のお越しです!」
 
 そして、ラフなチノパンにシャツジャケットの姿で王女が現れた……。
 
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永遠女子高生・11・《京橋高校2年渡良瀬野乃・3・ひょっとして・1》

2019-11-27 05:50:15 | 時かける少女
永遠女子高生・11
《渡良瀬野乃・3・ひょっとして・1》         




 どうして、あたしなんやろ?

 野乃は思った。
 
 昨日の『少女像事件』は、京橋高校一のイケメン3年生一之宮秀一に「この少女像は、きみがモデルなんだ」と言われて舞い上がった。
 でも、一日たって思うのだ。

 そやかて、なんで、あたしがモデル?

 あの少女像は、半ば祈るように胸の前で手を組み、少し顔を上げた姿。清楚で、とても乙女チック。

 捨てろと言われたから、最初はゴミとしか見ていなかったけど、秀一が手にした時に目に焼き付いた姿は芸術品だった。
 惜しいことをした、あのままもらっておけばよかった。と思った。

 で、思いは飛躍した。

 あんな風に造ってくれるんは、あたしのことを……!? などと思って胸がときめいた。
 まさか、このまま秀一が自分に告白したりするなどとは考えてはいないが、自分にも清楚で乙女チックなところがあるのではと、図書室に行った。

 図書室入り口の鏡に映すと、制服を着ているという一点だけが女子高生。
 ロクに手入れしないショートヘアで外股に立った姿など、女装コンテストでファニー賞を取った男の子のようだ。
「オーシ!」
 図書室のパソコンで「理想的女子高生」を検索して、女の磨き方を調べた。
「なるほどね……」
 で、さっそく頭に本を載せて歩いてみたら、図書委員に怒られた。
 鏡の前で姿勢をチェック……「おお、脚を閉じたら女の子やんか!」。で、女の子ウォークを維持したまま駅前のドラッグストア。
「これやこれや!」
 ネットで見た「コスパと香り」のノンシリコンシャンプーを買って、その日のお風呂で試してみた。その効果は、今朝のプラットフォームで、男子大学生の視線を釘付けにしたことで実証済み。
 もらったビグビタは、もったいないので、まだ開けずにカバンの中。

 テストが終わって、下足室。

「せや、靴の履き方!」
 昨日までは、ロッカーからローファーを取り出すと、ドサッと床に放り出し、蟹を彷彿とさせる脚遣いでツッカケていた。
 昨日は、思ったところで、いつもの履き方をしてしまっていた。
 今日こそは……ローファーの後ろを持って、ソロリと揃えて床に置く。でもって、膝を付けたまま、ソロリと履いてみる。

「ノノッチ……パンツのゴム切れたとか?」

 愛華が真顔のヒソヒソ声で囁く。
「ちゃいます!」
 一声叫ぶと、元の木阿弥の外股歩き。
 こらあかん……と思うと、今まさに校門を出ようとしていた秀一を発見。ただし、その横にはお邪魔虫。

「やっぱりなあ……」と、愛華が寄り添う。

 秀一の横には、野乃でも知っているミス京橋・里中あやめ……フワリとなびいたロンゲが同性の野乃が見てもイカシテいる。
 ちょっとショックだったが、秀一ほどの男なら、こういうこともあるだろう。
 愛華といいしょに校門を出る。
「ノノッチ、シャンプーとか変えた?」
「え、ああ……妹がね買うてきよったの」
 親友の愛華にも、素直に「女を磨いている」とは言えない。
 モデルさん歩きをどうしようかと思ったら、スマホがかかってきた。
――野乃? お母さん。まだ電車乗ってへんやろ?――
「うん、校門出たとこ」
――帰りにホムセン寄って、ドアノブ買うてきて――
「えー、なんでえ!?」
――そやかて、トイレのドア壊したん、野乃やろ?――
「あ……」
「ハハ、ノノッチ、トイレ壊したん!?」
 
 あらぬ誤解をした愛華と共に、トイレのドアノブを買いに行く野乃であった。
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小悪魔マユの魔法日記・107『その後のAKR47・1』

2019-11-27 05:38:07 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・107
『その後のAKR47・1』    



 AKRの『コスモストルネード』は、十週連続でオリコンのトップを維持していた。

 大石クララをリーダーとするAKRはグル-プとして頂点に達しつつあった。
 メンバー全員のがんばりは、黒羽ディレクターの新妻美優の本番中の死から、なにか憑き物がついたようなものになってきた。実際、選抜メンバーの前列にいるマユのアバターには浅野拓美という幽霊が憑いているのだが。
 拓美は、自分が死んだことも知らずに、AKRの最終オーディションを受け、小悪魔のマユに指摘され、自分が幽霊であることを自覚。一時は成仏を覚悟したが、その才能と情熱に、小悪魔のマユは自分のアバターを貸し、自分は仁科香奈としてオモクロの研究生、そして、今は神楽坂24のメンバーとして活躍している。

 黒羽は、『コスモストルネード』のヒットに磨きをかけるだけでなく、新しい曲にチャレンジすべきだと思った。
「会長、そろそろ新曲を……」
「あいよ」
 黒羽が、全部言い切る前に、会長の光ミツルは、新曲のスコアを机の上に広げた。

 
 《GACHI》

 キミはいつでもGACHI ボクのことなど頭の隅にもない
 やるだけやったそのあとで キミの瞳の残像になれればいい……

 分かっていても 分からなくても
 キミに気づかれなくてもいい by the way

 まっすぐ まっすぐ進んでいけ
 想いを溢れさせよう Go a hed!
 顔を風上に向けろ 倒れるぐらいに前のめりになれ

 戦いの力と愛 自分一人が進むんじゃないけど
 戦いの力をわかっているのか? とにかく自分が前に進め

 みんなの為にジャなんかじゃなく
 キミが進んでいくことで やがてみんな気が付くんだ You see?

 そしてキミが進んだ道 それをだれかが乗り越える Any way!
 走りすぎるキミの瞳
 その瞳の奥の残像になれればいい
 キミもボクも いつかは誰かの残像になるんだ

 Gachi… Gachi…Gachi!

 今度の曲は、トルネードがそよ風に思えるほど、歌も振りもきつかった。
 研究生からメンバーになったばかりの小野寺潤が、過呼吸で倒れてしまった。
「しばらく寝かせておきなさい」
 振り付けの春まゆみは、スタッフに指示すると、レッスンを続けた。
 ベテラン最年長の服部八重も汗みずくになった。
 知井子も、矢頭萌も気力だけで持っていた。
 マユのアバターに入っている拓美だけが、春まゆみの動きに完全について行けていた。

「潤の呼吸が止まりました!」

 潤の世話をしていたスタッフが叫んだ。
「CPR(心肺蘇生法)だ! 救急車を呼んで!」
 黒羽が叫んだ。
「わたしがやります!」
 マユの姿をした拓美が駆け寄った。
 拓美は、潤の気道を確保すると人工呼吸と、心臓マッサージを始めた。
 そして、拓美には見えてしまった。潤の魂が体から離れ始めているのが……。
「ダメ、AEDはないんですか!?」
「たしか、一階の警備員室に……」
 そう口にすると、黒羽はスタジオを飛び出し、階段を三段飛ばしで降りていった。黒羽の目には、潤が美優の姿と重なっていたのだ。

――もう、美優のように死なせはしないから!
 
 もう、潤の魂は、体から三十センチほど浮き上がっていた。

「潤、あんたは始まったばかりじゃない。わたしみたいに死んじゃだめ、死なせやしないから!」
 AEDの力で、やっと潤の心拍が戻って救急車も到着した。
「わたし、付いていきます!」
 有無を言わせぬ力で拓美は宣言した。
 
 潤の魂と体は、まだ完全には重ならず、二重にぼけて見えた。予断を許さない状況であった……。
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