大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・100『札付きのハンコ屋』

2019-11-15 15:43:46 | 小説

魔法少女マヂカ・100  

 
『札付きのハンコ屋』語り手:マヂカ 

 

 

 六件ヒットした。

 

 サム(サマンサ・レーガン)のハンコを注文するために―― 日暮里のハンコ屋 ――で検索したのだ。

 別に入部届を出す前でも部活に来ていいよと言ってあるんだけど「やっぱりケジメでしょ」と笑顔で言う。

 スパイであることを隠しもしないくせにこだわるんだ。

 まったく変な奴だ。

 朝礼で紹介された時も、こんな感じ。

「ニューヨークから来た交換留学生のサマンサ・レーガンです、サムって呼んでください。日本語はアニメで勉強しました。えと……いろいろ自己紹介考えてきたんですけど、みなさんの前に立つと、あたま真っ白になりました、えと……よろしくお願いします!」

 かなり流ちょうな日本語で自己紹介。

 席は、わたしの右横。

 以前も言ったけど、前の席が友里だから、これは仕組まれてるね。

 自然な形で話しかけられるんで、ま、いいんだけど。

 

「メールに書いてた急用って、サムのことだったのね!」

 

 友里は美しい誤解をしてくれたので(ま、外れてもいないし)昼食にA定食を奢らなくても済んだんだけどね。

 放課後にはノンコや清美とも仲良くなって、自然に調理研の話にもなったんだけど、入部は書類を出してから、でもって、書類にはハンコがいる。

 

 じゃ、みんなで行こう!

 

 そう決まって、検索した中で、いちばん面白そうなハンコ屋を調理研全員で目指すことになった。

 日暮里界隈は、繊維関係を始めとしてお店や企業が多くあるので、思いのほかハンコ屋さんがあった。

 その中でサムが「ここにしよう!」と決めたのは山手線を超えた向こう、谷中銀座の中にある『札付きのハンコ屋』という店。

「札付きって、悪い意味だよね?」

 ノンコが不思議な顔をする。

 言うまでもなく、札付きの悪党とか札付きの泥棒とかばっかりで、札付きの善人とかの良い意味には使わない。

「そこが、面白いでしょ!」

 サムも、名前の面白さで決めている。

 

「アハハ、この名前なら一発で憶えてもらえるでしょ(^▽^)/」

 

 アラレちゃん似の女性店主も喜んでいた。

「それで、ハンコの字体はどうなさいます? 外人の方ですとカタカナにされる方が多いですけど、アルファベット、漢字も承ります。ただ字数には制限がありまして、普通は四文字、一寸角で十二文字になります」

「漢字がいいです! えと……こんなふうに」

 サムが差し出したスマホには『佐満佐霊雁』のデザインがあった。

「ああ、なるほど……」

 霊雁は予想できたが、サマンサを佐満佐にするとは思いつかなかった。

「でも、佐の字が二回出てきますね」

「嵯峨天皇の一字をいただいて、佐満嵯、いっそ、平仮名のさまんさとか、いろいろございますよ」

「う~ん、目移り(^_^;)」

「水を注すようだけど……」

「みんなは、どれがいいと思う?」

「「「そーーーねえ」」」

 みんなを押しのけて、注意してやった。

 

「これって特注品になるから、入部届には間に合わなくなると思うわよ」

 

「はい、特注ですので、お渡しするには一週間ほどちょうだいします」

「「「「一週間!?」」」」

「プリクラじゃないんだからね」

「う~~~ん」

 サムは調理研の三人といっしょに、認印の回転陳列棚を探し始めた。

 認印のところには無いだろう……と思いつつ、わたしも参加してみる。

「あ、そうだ」

 女性店主がポンと手を打った。

 

「これなんかいかがでしょう? 先代が作ったものなんですが……」

 差し出された小箱には数十本のハンコが入っていて、手際よく何本のハンコが選ばれた。

 礼願 霊眼 霊雁 麗願 鈴元 などがあった。

「レーガンがいっぱい!」

「レーガン大統領が来日された時に作ったものです」

「大統領が買ったんですか?」

「ハハ、まさか。でも、あやかって買っていった方もいらっしゃって、残りはこれだけなんですが」

「麗しい願いってのいいよね」

「う~ん、でも、字は決めてきたからね。霊雁を頂きます」

 めでたくサムの認印が手に入り、その場でハンコをつく交換留学生であった。

 

 店を出ると、秋の日は釣瓶落とし。

 東西に延びる谷中銀座は千駄木の方から伸びている夕陽に貫かれて茜色に染め上げられていた。

 

 うわあ、きれい!

 

 サムを加え、調理研五人の声が揃った。 

 

 

 

 

 

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真夏ダイアリー・72『ダイアリー最終章』

2019-11-15 06:40:15 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・72
『ダイアリー最終章』
   


 気が付くとベッドの中だった。

 天井が……違う。
 部屋の中を見渡す……。
 まだ夢を見て居るんだろう、もう一度目をつぶって開けてみる。
「……なに、これ!?」
 雰囲気は自分の部屋だが、自分の部屋ではなかった。つまり、部屋の家具や、いろんな小物たちは自分の趣味なんだけど。見覚えがない。いや、見覚えのあるものはいくつかあったが、それは雑誌やウェブで欲しいと思ったが、諦めたものたち。PS4の最新バージョン。お気に入りのグランツーリスモのハンドルコントローラーもロジクールの最高級品。クローゼットを開けると、ポップティーンなんか見て、ため息ついておしまいになっていた服たちが並んでいた。
 壁にかかっている制服は、都立乃木坂高校ではなく、グレードの高い、坂の上の乃木坂学院高校のそれだった。
 ドアの向こうで気配がするので、ドアを開けて、恐る恐る廊下を進んだ。
「あら、早起きなのね。今日は学校休みなのに」
「休み?」
「そう、入試の発表で休み……うん、休み」
 お母さんは、リビングのカレンダーを見て確認した。
「ここ、わたしの家……?」
「どこかで、頭うった?」
 わたしは、頭のあちこちを触ってみた。とくにタンコブなんかはできていない。
「留美子、そろそろ行くよ」

 え……お父さんが、スーツ姿で現れた!

「なんだ真夏、親の顔がそんなに珍しいか?」
「な、なんでいっしょに居るの……?」
「え、あてつけか。このごろ帰りが遅いから」
「だって、二人は離婚して……」
「おいおい、かってに親を離婚させるなよ。じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
 お母さんは、そのままキッチンへ行ったが、わたしはお父さんの後をついていった。
「なんだ、真夏。パジャマのままで」
 わたしは、自分がパジャマにカーディガンを羽織っているだけなのに気づいた。玄関のドアを開けても寒いとも思わなかった。わたしは事態が飲み込めない。
「お父さん……潤は?」
「潤……だれだ、それ?」
 わたしは、お父さんの袖を引いた。
「お父さんの娘、わたしの腹違いの姉妹!」
「真夏、ほんとに可笑しいぞ。おれの娘は真夏一人だ。だから、多少の贅沢もさせてやれるんだぞ」
「う、うん……」
 納得はしなかったけど、勢いで返事をしてしまった。お父さんは、そのまま歩いて行ってしまった。
 そこで、初めて寒さを感じて身震い一つ。そして門扉の表札を見て驚いた。
 そこには鈴木と大きく書いてあり、その脇に真一、留美子、真夏と親子の名前が書かれていた。
 わたしは、慌てて自分の部屋に戻り、カバンからスマホを取りだした。今まで使っていたのとは違う高級機種だったけど、もうこの程度では驚かない。潤のアドレスを探した……無かった。
 記憶を頼りにかけてみた。
―― お客様のお掛けになった、電話番号は現在使用されて…… ――
 最後まで聞かずに切った。AKRの事務所や、マネージャーの吉岡さんのアドレスも消えていた。事務所の電話番号……急には出てこなかった。悪い予感がして、PCを点けてAKR47を検索してみた。事務所の電話番号はすぐに分かったけど、少しためらわれ、メンバーを確認した。
 リーダーの服部八重さんも、仲良しだった矢頭萌ちゃんの名前、他のメンバーの名前もあったけど。小野寺潤と鈴木真夏の名前は無かった。

 わたし……ちがう世界にリープしたんだ。そう思った。

「真夏、朝ご飯!」
「あとで……!」
 わたしは思いついて、第二次大戦を検索してみた。

――電撃的な真珠湾攻撃に成功した日本は、湾内の戦艦群のみならず、運良く発見した空母4隻も撃沈。主導権を握り、翌1942年(昭和17年)6月ハワイ諸島を占領。アメリカ側から講和の申し出を受けるが、これを拒否……――
 そこまで、読んだところでスマホの着メロがした。
「はい、真夏」
「わたし……」
「ジーナさん!」
「ビックリしてるでしょうね……」
「はい、しっかりビックリしてます」
「あなたと省吾がやったことは成功したわ。パソコンの画面にも出ているでしょう。講和の話にもなったんだけど、国民が納得しなくて講和は決裂。そしてやっぱり日本は戦争に負けて、歴史は変わらなかった。で、このプロジェクトに関わったものは、それぞれの時代にもどったわ。だから、真夏、あなたも本来あなたの居るべき世界に戻ったの」
「でも、でも、潤が居ないの、存在しないの!」
「ティースプーンの存在意義よ」
「ティースプーン……」
「さっき、四阿(あずまや)で話したでしょ。紅茶を飲むためにはティースプーンが必要で、そのためにはカップやお皿、さらにそれを置くテーブルが必要だって。真夏、あなたというティースプーンが存在するために、潤という子は、テーブルのように必要な子だった。だから、プロジェクトそのものが無くなった今、潤も、その存在の前提になった真一さんと留美子の離婚もなかった」
「そんな……そんな都合のために」
「ごめんなさいね、真夏」

 最後の言葉はステレオになった。振り返ると、そこに居た……。
「お婆ちゃん……!?」
「少し馴染みはじめたようね」
「どうして、ジーナさんのこと、お婆ちゃんだなんて……でも、お婆ちゃん。ああ、分かんない!」
「最初は、わたしが適合者だった。でも力が不十分なんで、孫の真夏が大きくなるのを待ったのよ」
「……思い出した。お婆ちゃんは十八歳でお母さんを産んで、そのあと行方不明になったのよね」
「真夏が、以前いた世界ではね」
「潤にも、省吾にも……もう会えないんだね」
「もう少しすれば、真夏の記憶からも消えるわ。わたしも真夏に事実を伝えるために、時間を限ってインスト-ルされたことを話しているの」
「イヤだ。潤のことも省吾のことも、他のことも、みんな忘れたくない!」
「忘れるわ、だって存在しない世界のことなんだもん」
「どうして、こんなことにわたしを巻き込んだのよ!」
「このプロジェクトが失敗したから、三百年後、日本という国が無くなるのよ……それを知って、わたしは協力することにしたの」
「そんな……」
「最後に、省吾のお父さんが言ってた。過去をいじるんじゃない。未来を変えていくんだって……」

―― 真夏も、お母さんも、朝ご飯。片づかないわ! ――

「はーい、いま行くわ!」
 お婆ちゃんが、見かけより大きな声で返事して、わたしとお婆ちゃんはダイニングキッチンに急いだ。
「お母さん、今夜も泊まっていくんでしょ?」
「ううん、今夜は高校の同窓会」
「ハハ、お母さんは人気者だものね」
「そうよ、あなたをお腹に入れたまま卒業式に出たんだもん」
「それを、わざわざ卒業式の日に、クラスで告白するんだもんね。わたし、お腹の中で恥ずかしかったわよ」
 そのとき、テレビで『ニホンのサクラ』の制作発表をやっていた。主要メンバーはAKRだけど、主役の一人をオーディションで公募すると出ていた。

 わたしは、瞬間で応募することに決めた……。

 真夏ダイアリー 完
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乃木坂学院高校演劇部物語・36『ジャンケン必勝法』

2019-11-15 06:29:37 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・36   

『ジャンケン必勝法』 


 
 愛おしさがマックスになってきた……。

 まどか……

 忠クンの手が、わたしの肩に伸びてきた……引き寄せられるわたし……去年のクチビルの感覚が蘇ってくる……観覧車のときのようにドギマギはしない。ごく自然な感覚……これなんだ!

「ね、なんで、ここ『アリスの広場』って言うか知ってる?」

 薮先生のおまじないが口をついて出てきた。
「……え、なんで……」
「アリスの『ア』は荒川のア。『リ』はリバーサイドのリ。『ス』はステージのス。ね、ダジャレ。笑っちゃうけど、ほんとの話なんだよ」
「へえ、そうなんだ!」
 二段下の観客席でクソガキ三人が感心して声を上げた。
「どうよ、勉強になったでしょう?」
 怖い顔でにらみつけてやる。
「は、はい……」
 クソガキ三人が頭をペコリと下げて、川べりに駆けていった。

「まどか……」

 忠クンが夢から覚めたようにつぶやいた。マックスな想いは、表面張力ギリギリのところで溢れずにすんだ。
 出場を間違えて舞台に立った役者みたく突っ立て居る忠クン……これじゃあんまり。
「これ……」
 わたしは、ポシェットから花柄の紙の小袋に入れたそれを渡した。
 忠クンは、スパイが秘密の情報の入ったUSBを取り出すように。それを出した。
「これは……」
「リハの日にフェリペの切り通しで見つけたの」
 わたしは、台本の間で押し花になったコスモスを兄貴に頼んで、アクリルの板の間に封印してもらった。以前、香里さんとのカワユイ写真をそうやって永久保存版にしていたのを見ていたから。兄貴はニヤッと方頬で笑ってやってくれた。
「オレも、持ってるんだ」
 忠クンは、定期入れから同じようにアクリルに封印したコスモスを出した。
「友だちに頼んでやってもらった。理由聞かれてごまかすのに苦労した」
「これ……あのときの?」
「うん。花言葉だって調べたんだぜ」
「え……?」
――よしてよ、また雰囲気になっちゃうじゃない。
「赤いコスモスだから……調和。友だちでいようって意味だったんだよな」
――違うって、わたしそこまで詳しく知らないよ、コスモスの花言葉。
「今度のは白だな。また、帰って調べるよ」
「う、うん。そうして」
――白のコスモスって……わたしも帰って調べよう(汗)

 川面を水上バスがゆっくり通っていく。西の空には冬の訪れを予感させる重そうな雲。でも、わたしの冬は熱くなりそうな予感……。

「オレも、まどかにささやかなプレゼント」
「なに……」
 すこしトキメイタ。
「大久保家伝来のジャンケン必勝法!」
「アハハ……!」
 思わずズッコケ笑いになっちゃった。
「一子相伝の秘方なんだぜ。ご先祖の大久保彦左衛門が戦の最中に退屈しのぎに仲間と『あっち向いてホイ』をやって全勝。家康公からご褒美までもらったって秘伝の技なんだぞ」
「そりゃ、たいへんなシロモノね」
「いいか、ジャンケンてのは、『最初はグー!』で始まるだろ」
「うん」
「そこで秘伝の技!」
「はい!」
「次には、必ずチョキを出す……」
 忠クンは胸を張った。
「……そいで?」
「……それだけ」
 わたしは本格的にズッコケた。
「これはな、人間の心理を利用してんだよ。いいか、最初にグーを出すと、次は人間自然に違うものを出すんだよ。違うものって言うと?」
「チョキかパー」
「で、そこでパーを出すとアイコになるかチョキを出されて負けになる……だろ?」
「……だよね」
「ところが、チョキを出すと、アイコか勝つしかないんだ」
「なるほど……さすが大久保彦左衛門!」
「でも、人には喋るなよ!」
「大久保家の秘伝だもんね……でも、これを教えてくれたってことは……」
「あ、そんな深い意味ないから。まどかだからさ、つい……アハハハ」
「アハハハ、だよね」
 笑ってごまかす二人の影は、たそがれの夕陽に長く伸びていった。

 そいで……このジャンケン必勝法は、始まりかけた熱い冬の決戦兵器になるんだぞ。
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ファルコンZ・12 『パト船』

2019-11-15 06:22:03 | 小説6
ファルコンZ 12 
『パト船』        
 
 
 
☆……パト船との遭遇 

 型式不明の宇宙船、左へ寄せて停船しなさい。
 
「どうします。振り切りましょうか?」
 バルスが、ニヤニヤしながら船長に聞いた。
「法令遵守。おれ達はまっとうな交易船やからな」
「では、そのように。ポチ、お巡りさんに噛みつかないようにね」
「退屈だから、警察犬にでもしてもらおうかな」
「ミナホとミナコは、二流のアイドル。情報はポチからもらってくれ」
 パト船にバレないように、ミナホはコネクターで、ミナコはハンベをポチの首輪に繋いで情報をダウンロードした。
 
 男女二人ずつの警官が乗船してきた。
「船籍証、積み荷の明細、乗員の身元証明」
 最上級の警部補がエラソーに言って。部下三人に船内の捜索を命じた。
「ファルコン・Z……といいうことは、あんたが有名なマーク船長?」
「あんたの息子がサインを欲しがるほど有名やないけどな」
「あいにくうちは娘なんでな」
「ほんで、おれみたいな個人営業になんの用だい?」
「……この船は、火星ツアーの飛行許可だけで、太陽系から出ることは許可されておらんようだが?」
「その、銀河連邦の航行証明、よう見てみい。圧縮変換したあるけど」
「まさか、こんなモグリが……」
「な、文句あるか?」
「本物のようだが……目的地と航行目的が記載されとらんが?」
「失礼やけど。あんたらみたいな立場のお巡りさんには言えんほどの重要任務やねん」
「ちょっと、管制本部に問い合わせるぞ。おい、この航行証明の照合!」
 女性警官が、警察用のハンベで照合した。
「……本物です。クラスAの機密で、私たちでは閲覧できません」
「な、言うたやろ」
「なら、なんで冥王星で停まらなかった?」
「あそこの司令は、こんなものじゃ通してくれへん。ちょっとでも、不明なとこがあると罰金や……でや、それが、ここ一年の司令の記録や。保存してくれてもええで」
「いや、閲覧で十分だ。これは見なかったことにする」
「とりあえずの行き先は、三丁目星や。この二人は、ヒヨコやけどアイドルや。で、営業。なんやったら、二人に確かめ」
 ミナコは、警部補がやってくるまでに情報を送った。近寄られるのもいやなタイプだ。
「双子でも、個性がちがうんだな。ミナホの方は気にしないようだな」
 そう言って、ハンベ同士を接続した。
 ハンベの直接接続は、警察でも令状がなければできない。個人情報が全部分かってしまうからだ。
「間違いない。興業ライセンスも本物だ。まあ、励むんだな」
「おたく、娘さんやろ。なんやったらサインさせたげよか。人気が出たら、ちょっともらいにくなるで」
「いいよ、おれ達は仕事でやってるんだからな」
 そう言いながら、言葉のうらには「売れないアイドル」という侮蔑の気持ちが隠れていた。
「キャップ、積み荷はジャンクばかりです。違法な積み荷はありません」
 部下が報告にきた。
「名前の程には、地味な仕事をやってるようだな。ま、ぼちぼちやんな」
 クラスAの機密は、見たこと自体記憶から消している。いいかげんな警察だとミナコは思った。
「それからなあ、太陽系出たとこで海賊に襲われたで。そういう取り締まりもやってくれよな」
「船は無事なようだが……」
「我々が撃退しました」
 コスモスが無機質に応えた。
「戦闘詳報送りましょうか?」
「それには及ばん。被害が無いのなら、なにも無かったのと同じだからな」
 ミナコはあきれた。
「まあ、気いつけて帰りいや。海賊はマグダラや。パト船でも容赦ないで」
「マグダラ……情報をよこせ!」
「すまんなあ。そっちが、いらん言うた時に削除してしもた」
「ゴミ箱に残ってるだろう!?」
「清潔好きなんで、ゴミ箱はいつも空にしてます」
「くそ……」
「船長、0・2パーセクにマグダラの船。接近してきます」
「え、さっさとひきあげるぞ!」
 
 パト船は、慌てていなくなった。
 
「バルスも芝居うまいなあ」
「ダミーの情報つくっただけです。ちょっと凝りましたが」
「ようでけたダミーや。しばらくパト船追いかけさせとき」
「了解」
「船長、ミナホちゃん、どうしてガイノイドってばれなかったんですか?」
「簡単に言うで……惜別の星に寄ったからや」
 ミナホが、かすかに笑った。ミナコに似ているが、ミナコは、こんな笑顔はできないと思った。
「では、三丁目星に向けワープします」
 
 ファルコンZは三丁目星を目指した……。
 
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スーパソコン バグ・8

2019-11-15 06:09:24 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・8
『琴子』        

 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、パソコンが喋り始め、実体化したパソコン「バグ」は、自分は、麻衣子の妹で琴子だと言い出した!


 琴子といっしょに晩ご飯の買い物に出かけた。

 時間も無いので、あり合わせの総菜で間に合わせたが、メンチカツだけは止めてトンカツとお刺身が夕方の特売シールが貼られたところだったので、五人前買った。
「ねえ、オネエチャン。シーザーサラダ作ろう!」
 バグは気安くオネエチャンと呼ぶ。
「じゃ、ドレッシングいるね」
「ううん、一から作んの!」
「え、できんの、そんなこと!?」
「まかしてよ。ニンニク、塩、コショウ、レモン汁、オリーブオイルでシーザードレッシングこさえて、削りおろしたパルメザンチーズとクルトンをトッピングして仕上げる……今日は、その上にトンカツのトッピングにしよう」
「いいけど、大丈夫かな……」

 心配は無用だった。あたしより上手い手際で、シーザーサラダを作り、冷蔵庫の買い置きのタマゴを発見。
「だし巻きタマゴ作るぞ!」
 お出汁こそ、インスタントだったけど、タマゴを割ってカラザを取るとこや、四回に分けてネタのタマゴ汁を入れて、返し焼きするところなんか見事だった。
「なんで、こんなにうまく作れんのよ!?」
「さあ……インスピレーション!」
 くったくなく笑うバグを見ていると、なんだか本当の妹のような気がしてきた。

「ただいま……」
「あ、お母さん帰ってきた、琴子、いやバグ、隠れなきゃ!」
「いいの……お帰り、お母さん!」
「ちょ、ちょっと!」

 かくして、玄関の狭いホールで、琴子、いや、バグとお母さんは鉢合わせしてしまった。

「あ……」

 バグを見て、お母さんは一瞬、まさにバグったようにフリーズした!

「アニキの具合どう?」
「ああ、病院の食事が不味いとか、文句ばっかしよ。家のこと任せて、ありがとうね、麻衣子も琴子も……」
「あ、お父さん、残業で遅くなるって」
「え、電話とかあったっけ……」
「琴子が聞いといた」
「ウワー、本格的なシーザーサラダじゃない。どれどれ……あ、むかしクッキングスクールで習ったのと同じ味! ドレッシングも作ったのね。お母さん、いまは、とても作れないなあ。これ、麻衣子? 琴子?」

 お母さんの対応にびっくりした麻衣子は、バグを連れて自分の部屋に行った。

「いったいどういうこと? バグのこと、本当の娘みたいに思ってるよ!?」
「本当の娘だもん」
 バグは、パソコンのキーを押した。
「なに?」
「お母さん、十五年前、パソコンの練習のために、日記つけてたのよ……ほら、ここ」
 麻衣子は、画面の文章を読んだ。字はパソコン文字だけど、文章は母のそれであった。

『今日、羊水検査の結果もらう。掛かり付けの下鳥先生に見せると言って、ドクター用ももらっちゃった! 思っていたとおりの女の子。生まれたら琴子にしよう。今度はしっかり紙に書いてパパにわたそ。麻衣子の時のようなドジやられちゃ、たまんない!』

「これ……」
「そう、琴子は、もともと生まれるはずの子だったんだよ……オネエチャン!」
 バグ、いや琴子の目は潤んで、涙が、かわいい頬の線を伝って落ちてきた。麻衣子も、涙で、目がぼやけてきた。
「琴子……て、そんなわけ!」
「目の前にあるじゃん……」

 麻衣子は、嬉しいのか怖ろしいのか分からない夢を見ている気になった……。
 
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小悪魔マユの魔法日記・95『オモクロのオーディション・2』

2019-11-15 06:00:53 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・95
『オモクロのオーディション・2』     


 
 その思念は突然飛び込んできた。

 うかつだった。
 
 オチコボレ天使の雅部利恵が、別のアバターを使って受験者たちの中に紛れ込んでいたのだった……。

 マユが、オチコボレ天使の白魔法を解いても、ルリ子たちは受験生たちの前で明るく元気に踊っていた。けして学校にいるときの、いじめっ子の上から目線ではなく、新しい仲間を迎える喜びと励まし、自分たちがリーダーであることの、良い意味での誇りさえ見えた。

――どう、人間は、キッカケさえ与えてやれば、こんなにも良い方向に変わるのよ。

 美川エルの姿をした利恵の思念が、効き過ぎた暖房のように身にまとわりついた。

 正しそうだけども、何かが間違っている。それを考えている内に、美川エルたちといっしょに、スタジオの中に呼ばれた。五人一組の流れになっているようだ。
 エルの歌も踊りも群を抜いていた。踊りは振りも独創で力強く、かつ優雅だった。今のオモクロには無い気品と言っていい魅力があった。
 歌も透明感のあるメゾソプラノで、サビで声を張るところなど、審査員たちが思わずヘッドホンを外すほどの迫力。実際、スタジオと観覧席の境になっている大きなガラスがビリビリと振動するほどだった。
 
 エルの演技が終わると、スタジオは一瞬シーンとしてしまい、それから満場の拍手になり、それは観覧席の受験者たちの中からも、わき起こった。
 エルは満ち足りた顔で、ていねいにお辞儀をした。
 輝く瞳、ほの赤く染まった頬……まさに天使の笑顔って、こういうモノなんだろうと、マユは仁科美香のアバターの中で思った。

――いいわ、これから小悪魔の力を見せてやる。

「では、13番、仁科香奈さん」
 声がかかって、マユは審査員の前に出た。
「じゃ、ダンスから……」
 ダンスは即興である。最初の二小節だけ聞いて、あとはアドリブである。
 仁科香奈というアバターは、AKRの選抜メンバーである大石クララと、浅野拓美が乗り移ったマユ本来のアバターの合成である。利恵のアバターであるエルにも勝るとも劣らない。

 それは、課題曲の『秋色ララバイ』が終わり、自由曲を歌っている最中に起こった。

 歌は、他の受験生と違って、渋い曲を選んだ。『埴生の宿』である。
「たのしと~もぉ、たのもしや~♪」
 そう、思いをこめて歌い上げた声は、怪しげなまでの蠱惑的(こわくてき)な響きで、エル同様に、スタジオも観覧席の受験者たちの心も揺るがした。
 そして……スタジオの天井のスノコのライトのネジも揺るがした。
 前のエルの声で緩んだネジが、香奈の歌の響きに耐えきれずに緩み、スタッフがうっかり甘くかけたチェ-ンで振り子のように振れて力を増して、香奈めがけて落ちてきた。

「危ない!」

 そう叫びつつ、身を投げ出して香奈を庇いに出たのは、ルリ子の妹分の美紀であった……。
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