大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・089『お米屋さんの焼き芋』

2019-11-07 13:24:26 | ノベル

せやさかい・089

 

『お米屋さんの焼き芋』 

 

 

 160円でも安い!

 

 それが、たったの80円やった!

 えと……焼き芋です。

 おとつい、頼子さんがこけそうになりながら教えてくれた新装開店の焼き芋屋さん。

 行ってみてビックリ!

 焼き芋屋さんは田中米穀店、ほら、うちの檀家の婦人会長・田中米子おばあちゃん。

「米屋はフェードアウトしよ思てねえ」

 焼き芋三本を袋に入れながら米子お婆ちゃん。

「もう、米屋で米買う時代やないしねえ。けど、閉めてしもたら寂しいし。そんで、焼き芋屋はじめたん(o^―^o)」

 

 これが、また美味しい!

 

 本堂裏の部室で食べてると、お祖父ちゃんがダミアを抱っこしてやってきた。

「ダミアが、奥で美味しいもん食べてる言うさかいなあ」

「これは、ちょっとハズイ(*ノωノ)」

「すみません、匂いしましたか?」

「…………」

 留美ちゃんは、恥ずかしがり屋さんやから、顔を赤くして言葉もない。

「いやいや、ほんまは知っててん。なんちゅうても檀家の婦人部長やしなあ。さっそく、あんたらが買うてきたんが嬉しいから、ちょっとお邪魔しただけ」

「すみません、わたし達だけ食べてて(*´ω`*)」

「いやいや、わたしこそ無粋に覗きに来てしもてからに、どうぞごゆっくり」

「もう、お米屋さんはやられないんですか? 定価で買っても160円のお芋で?」

 留美ちゃんが、腰を浮かせかけたお祖父ちゃんに聞く。

「息子さんらもしっかり働いてるし、年金も貰てはるから十分やねんけど、なんかお商売やってんと頼りない言わはってね」

「そうなんですか……」

「わたしも、寺の事は息子と孫で間に合うんやけど、檀家周りしてんと老け込むようでね。いやいや、お客が付くかどうかが心配やったんやけど、あんたらの顔見てたら大丈夫」

 お祖父ちゃんはダミアを抱っこしたまま行ってしもた。

「あれ? 留美ちゃんのお芋、ちょっと違うんじゃない?」

「え、あ、そういえば……」

「どれどれ……」

 わたしも食べかけのお芋を持って比べてみる。齧りかけの断面が微妙に違う。

 

「見た感じ、ちゃうねえ」

「わたしのはホクホク。留美ちゃんのは……シットリかな? 頼子さんはネットリ系?」

 

「食べくらしよう!」

 頼子さんの発案で、三人で食べかけを比べっこ。

「「「どれも美味しい!」」」

 

 それで、値段も安いことやし(定価でも160円)、なんちゅうても美味しいから三日連続で焼き芋を食べております。

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真夏ダイアリー・63『タイムリープ リスク』

2019-11-07 07:10:54 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・63
『タイムリープ リスク』
    


 
 今度は、わたしが正一の家にお泊まりしていたということになってしまった……!

 わたしは、もう一度正一のマンションにタイムリープした。で、今度は正一の議論ににものっからず、さっさと帰ろうとしたら。正一が、リビングで転倒。拍子で、ローテーブルをひっくり返し、テーブルの上に載っていた果物ナイフが正一の手首を切った。で、救急車を呼ぶハメになり、事態はさらに悪くなる。

――真夏、ハーネスの正一とお泊まり! 口論の果てに正一手首を切る! 愛憎の果てか!?

 で、その次は、転びそうになった正一を抱き留めるが、今度は、なぜか裏のビルにカメラマンが張り付いていて、その瞬間を望遠で激写される。

――真夏、ハーネスの正一と熱い抱擁。禁断のアイドル同士の恋!

 で、その次は、もっと早めに行き、カーテンを閉め、転ばないように正一に注意。正一は「オット……!」と転びかけただけで済んだが、ガスストーブのホースを引っかけていた。二人がマンションを出た後、ハンパに抜けかけたゴムホースがガスの圧力でスッポリ抜けてガス漏れ。冷蔵庫のサーモスタットの火花で引火。

――ハーネスの正一のマンションで大爆発。巻き添えで住人三人が重軽傷!

 やるたびに状況は悪くなる。

 最後の手段。わたしは潤のアバターを作り、事務所の前で、タクシーを拾った。
「へえ、君たち、AKRの潤と真夏なんだ。こんな時間まで仕事なんだね。おじさんファンでさ、スマホ撮ってもいいかなあ」
「いいですよ、どうぞ!」
 運ちゃんの期待に応え、狙い通りアリバイができた。明くる日スポミチのスクープが載ったが、運ちゃんがスマホで撮った三十秒の映像が動画サイトに投稿されていた。で、わたしや運ちゃんの証言もあり、スポミチのスクープは画像を加工したガセと言われ(むろん、本物の潤と正一には口裏を合わせてもらった)明くる日の紙面で、お詫びと訂正の記事が出た。

「オーシ、メデタシメデタシ!」
 ベッドにひっくり返ると、エリカがささやいてきた。

――あのスポミチの記者、クビになっちゃって、恋人にもふられちゃったんだよ……。

 わたしは、タイムリープによる事件解決のむつかしさを痛感した……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・28『凛然とした禿頭』

2019-11-07 07:05:31 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・28   
『凛然とした禿頭』 


 
「ありがとう……」

 言い尽くせない感謝の気持ち、それが、ありきたりの言葉でしか出てこないことがもどかしかった。
 修学院高校の制服は、問わず語りに、あらましのことを語ってくれた。
 彼は、グラウンドに面した道路を自転車で通りかかり、倉庫の火事に出くわした。だれか人が取り残された様子に、開け放たれた通用門から一気に自転車でグラウンドを駆け抜け、中庭の池に飛び込み、全身を水浸しにして倉庫に突入。すんでのところでまどかを助けたようだ。

 ただの通りすがりがここまでやるか……?
「ところで……」
 と、聞きかけたところで救急車が消防車といっしょにやってきた。

 検査の結果、まどかは、かすり傷。修学院男子も無事と分かった。
 ただ、まどかはインフルエンザにかか罹っていることが分かり、注射一本うたれて、そのまんま駆けつけたご両親に付き添われ、タクシーで自宅に直行した。
 
 それを見送って振り返ると、教頭先生が怖い顔をして立っている。

 一週間に二度も、生徒を危険な目にあわせ、火事まで出してしまった。

 ただでは済まない。とにかく校長……下手をすれば、理事長の呼び出しと覚悟した。
「今から学校に戻って、お話を……」
「それには及びません。こちらから連絡するまで、自宅待機……なさっていてください」
 手回しのいいこと。さっそくの自宅謹慎か。


 三日は謹慎させられるかと思った。その間にわたしに関する悪い資料が集められ、理事会で、わたしのクビが決定……と、思いきや、明くる朝には呼び出された。

 職員室にいくと、「気の毒に」と「ざまあ見ろ」というオーラを等量に感じた。
「貴崎さん、理事長室に直行してください」
 教頭が頭を叩きながら背中で言った。早手回しに「先生」という敬称も外している。
 理事長室には、来年には白寿という理事長が一人で待っていた。

「大変でしたな、貴崎先生」
 来客用のソファーにわたしを誘って、理事長が言った。東向きの窓から差し込む朝日がまぶしい。
「不徳の致すところで……」
 頭を下げかけると、テーブルの上にスポーツ新聞が四つ折りになっているのが目に入ってきた。

 頭に血が上った。

『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』

 一昨日の晩、あのホテルの前で、伸びをしている小田先輩と大あくびをしているわたしの写真が大写しで出ていた。わたしは目こそ隠されていたが、知り合いが見れば一見してわたしと分かる。記事も、学校名は伏せられていたが、二三行も読めば乃木高と知れる。
 わたしは、ほんの一二秒でそれを読み取った。
「いやあ、つまらんものをお見せしましたな」
「これは……?」
「さっき、教頭の識別子が持ってきましてね。いや、つまらんガセネタであることは分かっています。電算機で確認もしましたが、その高橋さんのプロダクションが明確に否定しておりましたよ。なんせ、あなたたちの前を通ったお巡りさんの証言も得ていることですから」
 そう言えば、あのとき二人の前をお巡りさんが通っていったっけ……。
「識別子も、つまらんものを持ってくるもんだ」
 理事長は、見事に禿げあがった頭を撫でた。
 その手を見て思い出した。「識別子」とは「バーコード」の和名である。思わず吹きだしかけた。どうも、このお気楽さは、我ながら女子高生であったころから変わりがない。

「芹沢潤香さんのことなんですが」

「はい」

 わたしは緩んだ表情を引き締めた。
「今朝早く、お父さんが来られましてね。職員室で、ご心配のあまりなんでしょう、識別子に詰め寄られていらっしゃいました。潤香さんの意識が戻らんようです」
「え、お医者さまが直に意識は戻るだろうって……」
「ええ、だからこそのご心配なんでしょう。もって行き場のない不安を学校に持ち込んでこられたんです。いや、戦時中にもあったもんです。戦闘中に意識不明になり、半年たって意識が戻ったら、終戦になっていた奴もおりました。無論、医学上の問題はよく分かりません。しかし、ここで学校が直ちに責任をとらねばならない問題ではないと認識いたしております。そこのところは場所を、ここに移して、校長さんにも立ち会って頂いて了解はして頂きました」
「……わたしの責任です」
「思い詰めないでください。貴崎先生、潤香さんのことは、お気の毒ではありますが事故であったと、認識しております。最初に見たてた医師が大丈夫と判断したんです。MRIでも異常は認められなかった。それに基づいて医師は判断したんです。倉庫の火災も、昨年先生から、配線の垂れ下がりを指摘されていました。これを放置していたのは学校の責任であります」
「でも、わたしも、それを忘れてしまっていました」
「貴崎先生。無理かもしれませんが、ご自分をお責めにならないようにしてください。学校も組織ですので、一応理事会にはかけねばなりませんが。わたしの考えは、今申し上げた通りです」
「ご配慮ありがとうございます。でも……では、失礼します」
 わたしは席を立った。朝日はもうまぶしくないところまで上っていた。
「貴崎先生」
「はい」
「あなたは、淳之介……お祖父さんの若い頃にそっくりだ。熱くて、一徹者で、不器用なくらい真っ直ぐだ」
「……祖父をご存じなんですか!?」
「こりゃいかん……こいつは内緒事でしたな」

 上りきった朝日が、窓ぎわに立つ理事長の凛然とした禿頭をまぶしく照らしだした……。
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ファルコンZ・4《なに赤い顔してんだ?》  

2019-11-07 06:33:43 | 小説6
ファルコンZ・4 
《なに赤い顔してんだ?》  
        
 
 
 火星は近日点距離なので早く着くとは思っていたが、2時間で着いたのでびっくりした。
 並の反重力船なら5時間余り。そのつもりでミナコは、このファルコンZを探検しようと思っていた。
 
 この船は怪しい。
 
 船内いっぱいのガラクタ。400年前の軽自動車。誠実そうだが、なにか隠しているコスモスとバルス。ハンベ(ハンドベルト型情報端末)にポチから送られてきた膨大な情報。そして船長室で見つけたH系ガイノイド。
 ハンベは、ミナコが一番知りたがっている圧縮情報から解凍していく。
 
 なんと、最初に出てきたのは、例のH系ガイノイド。
 
 思わず顔が赤くなる。身長・体重・3サイズから始まり、マーク船長がセッティングした、その……H系のスペック。もういい……そう思うのだが、深層心理のところで知りたがっているのか、情報は具体的なイメージでミナコを刺激する。
 
「なに赤い顔してんだ?」
 コクピットの補助席から動けずにいるミナコを、船長が冷やかす。
「なんでも!」
「ポチ、大事なショーのオペレーターなんだ。イタズラはするなよ」
「ワン!」
「ち、都合が悪くなると犬になりやがる」
 最後にガイノイドの名前がミナホと分かって、むかついた。自分と一字違いの名前。そう言えばスペックの最初に出てきた身長・体重・3サイズはミナコのそれといっしょであった。合成骨格も95%ミナコと同じである。
 ミナコは決めた。このバイトのあいだ、船長の2メートル以内には近づかないでおこう!
「その心配ならいらん。おれはデジタルショーの間は、他の仕事をやってるから」
 まるで、自分の気持ちを見透かされたように言われ、ミナコは息が止まりそうになった。
「ボス、間もなく火星の周回軌道に入ります」
「もう、着いたの!?」
「こいつは並のジャンクシップとちゃうねん……そやけど、バルス。デリケートにチューンしすぎやな。大気圏突入時のショックが大きそうや!」
「その分、早く着きます」
「半周分早く着いたって仕方ないやろが!」
「先々のために、いろいろ試してるんです」
「嫌なこと思い出させてくれるやおまへんか……ミナコ、揺れるぞ。舌を噛むなよ!」
「……気絶してます、船長」
 
 気づくと、一番マシなキャビンに寝かされていた。
 
「ここは……」
「マースキャピタル宇宙港よ。よかった、宇宙酔いにもなっていないようね」
 コスモスが、ずっと付いていてくれたようだ。
「船長、ミナコちゃんが目覚めました……ええ、大丈夫です。いま船長が来るわ」
 ミナコは、目を三角にしてブランケットを目の下まで引き寄せた。
「嫌われたもんやな。ほなら、お互いさっさと仕事にかかろか。おれ、2メートル以内には近づけないんで。コスモス、あとはよろしく」
 船長は、コクピットに戻っていった。
「さあ、ミナコちゃん。わたしたちも行きましょうか」
 火星の地球化は、六分の仕上がりといったところである。
 地球並みの大気があるのは赤道から南北に20度ぐらいまで。海は数か所の凹部を利用して、やっと地中海程度の広さで、まだ大気循環させるほどの力は無い。水は地球からの輸入と、地中の岩石に含まれるものや、南北の極にある二酸化炭素の氷に水素を反応させ合成したものをパイプで赤道方面に送っている。ここ10年でやっと自給できる水が輸入を上回ろうとしている。 
 そんな火星の中心がマースキャピタルで、人口は1000万人ほどである。火星移住が始まって150年。ほんの5年前に地球から独立したばかりだ。
 
 その独立5周年行事の一つが、このデジタルアイドルショー……だということは、ファルコンZが飛び立つのを見送りながらコスモスが教えてくれた。
 
「え、そんなビッグイベントだったの!?」
「そうよ、それだけのギャラは、支度金名目で振り込んであるでしょ」
「え……3の下にゼロが……6個も付いてる!」
「じゃ、行きましょう。あと5時間でマースアリ-ナが、2万人の観客で一杯になるわ」
 
――こいつら、いったい……!?――
 
 喜びとも怒りともつかない感情で、体が震えるミナコであった。
 
 
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小悪魔マユの魔法日記・87『期間限定の恋人・19』

2019-11-07 06:19:49 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・87
『期間限定の恋人・19』    



 美優は、職業的緊張感の顔で会議室へと向かった……。 

 廊下に出ると、メガネの外人のおじさん。目が合うと、英語でなんだか言って、握手。側にいた通訳とおぼしき女性は英語で一言いうと、笑顔を残していってしまった。
 会議室に入って、美優は驚いた。
「美優ちゃん、これに着替えて」
 衣装の篠崎がウェディングドレスを持って待ちかまえていた。ヘアーやメイクさんも揃っていた。

「こ、これって……」

 五十分ほどかけて、美優は花嫁姿にされてしまった。プロ達の手際としては時間がかかりすぎているが、それは、美優が朝寝坊で、顔もろくに洗っていなかったからだ。
 シャワーから始まり、シャンプー、スキンケア……そして、着付け、ヘアセットとメイクの同時進行。
 そのころになって、届けた衣装が一着多かったことに気づいた。

 ウェデイングのリカちゃん人形が仕上がって廊下に出ると、AKRの研究生の子たちが廊下に並び、拍手で連れていかれ、スタジオに入った……。

 スタジオが教会に変わっていた!

 真ん中に真っ赤なバージンロ-ド。左右の席には、AKRのメンバーや研究生、スタッフのみなさん。前の方には、留め袖姿の母と、ブル-のドレスの由美子が立っていた。
 そして、一段高くなったところには神父さん。そして、そして……その前にはタキシードの花婿の姿で黒羽が緊張した顔で立っていた!

――そうか、みんなで仕組んだんだ。道理で、衣装が一着多いはずだ。スタジオのシートにくるまれていた秘密の道具は、このためだったんだ。

 呆然と立ちつくしていると、脇を小突かれた。会長がタキシードに白手袋で腕を差し出した。美優は、そっと、その会長に腕をからませた。するとキーボードがパイプオルガンになり、メンデルスゾーンの結婚行進曲を奏で始めた。
 美優は、感覚がマヒしていた。
 まるで全てが分かっていたように、堂々とバージンロ-ドを歩くことができた。最初の一歩は、危うくつまずきそうになったが、それで会場のみんなが一瞬クスっときたが、動揺することもなかった。

――わたし、英二さんのお嫁さんになるんだ――

 その思いさえ、ひどく冷静に、パソコンのそっけない書体のように思い浮かんだだけだった。
 神父さんの前で、黒羽と並んだ。神父さんは、廊下ですれ違った外人さんだった。おごそかな顔で分からなかったが、ウィンクされて、そうだと気づいた。

 それから、神父さんは型どおりに式をを進行させ、いよいよエンゲージリング……そこで、感動が湧き上がってきた。婚約指輪を外されていたことも、花嫁用の白い手袋をさせられたことも覚えてはいなかった。そして、黒羽が、エンゲージリングをはめるため、そっと美優の左手をとったときの手の温もりが、感覚をよびさまさせた。夕べと同じ黒羽の手の温もり……。

「一言ごあいさつを」

 会長が、スマートに立ち上がった。
「本来なら、きちんと仲人をたて、吉日を選び、わたしのようなインチキ野郎が、新婦の父の代役をすることもなく結婚式をやらねばならんのですが、新郎黒羽英二は、明後日の新曲発表後、AKRホンコンの立ち上げのため、当分日本から離れます。黒羽君は自分で思っているほどには、女にモテやしません。その黒羽君と結婚の約束をしてくれた、美優ちゃんが心変わりしてはいけませんので、不肖わたくし光ミツルのグッドアイデアで、スケジュールの合間を縫って、ささやかながら、わがHIKARIプロのスタジオで、強引でインチキクサイ結婚式を執り行うことになりました。まあ、変人オヤジの酔狂とお許しください。しかし、式とわたしはインチキくさくはありますが、ここに集まった、みなさんの、二人の門出を祝福する気持ちは本物であります。そして二人の気持ちも……そうだよな?」
 新郎と新婦は、頬を染めてうなづいた。
「それが確認とれたら結構、これから直ぐに区役所に行って婚姻届を出してこい。披露宴その他は、黒羽が帰国後ドハデにやろう。まあ、よかったら、美優ちゃんがホンコンにいっしょにくっついていくってのもありだけどな!」
 くだけて、話す会長の目は全てを承知しているような光があった。ありがたいと美優は思った。
「さ、とりあえず区役所だ」
「はい、直ぐに着替えます!」
「ばか、着替えてる時間なんかねえの!」

 美優と黒羽は、式のウェディングドレスとタキシードのまま、事務所のバンに乗せられ、区役所に行くハメになった。婚姻届の証人になったクララが、どうしても付いていくときかず。そのまま放送局に行くことを条件に認められた。
 ロビーに突然現れたウェディングドレスとタキシード+AKRのクララに、区役所は、一時騒然とし、その様子は複数の人たちによって、その数十分後にはYou tube等の動画サイトに流れてしまった。

 マユは、もうすぐ一億個目のガン細胞を壊すところだった……。
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