大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・104『イイイイイイイイイイイッイライラする!!』

2019-11-23 14:20:44 | 小説

魔法少女マヂカ・104  

 
『イイイイイイイイイイイッイライラする!!』語り手:マヂカ 

 

 

 学校に戻るよ!

 

 出撃とあれば混乱していられない。有無を言わせぬ勢いで出てきたばかりの校門を指さした。

 なんで!? 待って! どこ行くのおおお!?

 黙って付いて来て!

 質問などを受けている場合じゃない、早く大塚台公園の秘密基地に三人を連れて行かなければ。

 基地に入れば出撃モードになって、隊員として行動してくれるはず。

 玄関から入って、転送室になっている階段横の倉庫を目指すが、早くも三人の姿が見えない。

「ちょっと、どっち行ってんのよ!」

 玄関出たところまで戻ると、昇降口に駆けていく背中が見えた。

「上履きに替えなきゃ!」

「緊急事態だから、土足でいい!」

「え、あ、そなの?」

「友里、もう履き替えてる、ちょっと友里ぃーーー!!」

「あ、かばんかばん!」

 一分遅れて、やっと倉庫前に揃う。

「いくよ!」

「なんで倉庫?」

「倉庫が基地への転送室なの!」

「あ、ちょっとトイレ行ってくる!」

「ちょ、ノンコ!」

「あ、あたしも!」

「家に電話いれとく……あ、お母さん? 実はね……あ、マヂカ、どこまで話していいの?」

「部活とでも言っといて!」

「一階の女子トイレ閉まってる!」

「じゃ、二階!」

「あ、やっぱ、わたしも……」

 

 ああ、もおおおおお!

 

 わたしが魔法少女であることを知って、おたつく三人! 基地に着けば隊員としての能力が目覚めて、力が発揮されるのだろうけど、基地に着くまでは、いつもの調理研の三人だ。どこから見ても普通の女子高生が。いきなり宇宙戦艦ヤマトの隊員になってガミラスを目指すようなもの、おたついて当たり前なんだけど、とにかく歯がゆい。

 イイイイイイイイイイイッイライラする!!

 五分遅れて、やっと倉庫のドアに手をかける。

「あ、サムは?」

 三人に気をとられて忘れていた……しかし、事は緊急を要する。

「探そうか!?」

「いいよ、ノンコ。行くよ!」

 

 五分三十秒遅れて転送を開始した……。

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乃木坂学院高校演劇部物語・44『お見舞い本番』

2019-11-23 06:10:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・44   
『第九章 お見舞い本番』 

 
 
「まあ、まどかちゃん! 里沙ちゃん! 夏鈴ちゃん!」

 予想に反して、お姉さんはモグラ叩きのテンションでわたし達を迎えて下さった。
 ちょっぴりカックン。
「オジャマします」
 三人の声がそろった。礼儀作法のレベルが同程度の証拠。
「アポ無しの、いきなりですみません」
 と、わたし。頭一つの差でおとなの感覚。
「クリスマスに相応しいお花ってことで見たててもらいました」
「わたしたち、お花のことなんて分からないもんで、お気にいっていただけるといいんですけど……」
「わたし達の気持ちばかりのお見舞いのしるしです」
 三人で、やっとイッチョマエのご挨拶。だれが、どの言葉を言ったか当たったら出版社から特別賞……なんてありません。
「まあ嬉しい、クリスマスロ-ズじゃない!」
「わあ、そういう名前だったんですか!?」
 ……この正直な反応は夏鈴です、はい。
「嬉しいわ。この花はね、キリストが生まれた時に立ち会った羊飼いの少女が、お祝いにキリストにあげるものが何も無くて困っていたの。そうしたら、天使が現れてね。馬小屋いっぱいに咲かせたのが、この花」
「わあ、すてき!」
 ……この声の大きいのも夏鈴です(汗)
「で、花言葉は……いたわり」
「ぴったしですね……」
 と、感動してメモってるのは里沙です(汗)
「お花に詳しいんですね」
 わたしは、ひたすら感心。
「フフフ。付いてるカードにそう書いてあるもの」
「え……」
 三人は、そろって声を上げた。だってお姉さんは、ずっと花束を観ていて、カードなんかどこにも見えない。
「ここよ」
 お姉さんは、クルリと花束を百八十度回した。花束に隠れていたカードが現れた。なるほど、これなら花を愛(め)でるふりして、カードが読める。しかし、いつのまにカードをそんなとこに回したんだろう?
「わたし、大学でマジックのサークルに入ってんの。これくらいのものは朝飯前……というか、もらったときには、カードこっち向いてたから……ね、潤香」

 お姉さんの視線に誘われて、わたしたちは自然に潤香先輩の顔を見た。

「あ、マスク取れたんですね」
「ええ、自発呼吸。これで意識さえ戻れば、点滴だって外せるんだけどね。あ、どうぞ椅子に掛けて」
「ありがとうございます……潤香先輩、色白になりましたね」
「もともと色白なの、この子。休みの日には、外出歩いたり、ジョギングしたりして焼けてたけどね。新陳代謝が早いのね、メラニン色素が抜けるのも早いみたい。この春に入院してた時にもね……」
「え、春にも入院されてたんですか?」
 夏鈴は、一学期の中間テスト開けに入部したから知らないってか、わたしも、あんまし記憶には無かったんだけど、潤香先輩は、春スキーに行って右脚を骨折した。連休前までは休んでいたんだけど、お医者さんのいうことも聞かずに登校し始め。当然部活にも精を出していた。ハルサイが近いんで、居ても立ってもいられなかったんだ。その無理がたたって、五月の終わり頃までは、午前中病院でリハビリのやり直し、午後からクラブだけやりに登校してた時期もあったみたい。だから色白に戻るヒマも無かったってわけ。そういや、コンクール前に階段から落ちて、救急で行った病院でも、お母さんとマリ先生が、そんな話をしていたっけ。
「小さい頃は、色の白いの気にして、パンツ一丁でベランダで日に焼いて、そのまんま居眠っちゃって、体半分の生焼けになったり。ほんと、せっかちで間が抜けてんのよね」
「いいえ、先輩って美白ですよ。羨ましいくらいの美肌美人……」
 里沙がため息ついた。
「見て、髪ももう二センチくらい伸びちゃった」
 お姉さんは、先輩の頭のネットを少しずらして見せてくれた。
「ネット全部とったら、腕白ボーズみたいなのよ。今、意識がもどったらショックでしょうね。せめて、里沙ちゃんぐらいのショートヘアーぐらいならって思うんだけど。それだと春までかかっちゃう」
「どっちがいいんでしょうね?」
 単細胞の夏鈴が、バカな質問をする。
「……そりゃ、意識が戻る方よ」
 お姉さんが、抑制した答えをした。
 とっさにフォローしようとしたけど、気の利いた台詞なんてアドリブじゃ、なかなか言えない。
「だって、『やーい、クソボーズ!』とか言って、からかう楽しみが無いじゃない」
 お姉さんが、話を上手くつくろった。妹が意識不明のままで平気なわけないよね……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファルコンZ:20『銀河連邦大使・1』 

2019-11-23 06:03:06 | 小説6
ファルコンZ 20 
『銀河連邦大使・1』          
 

☆………銀河連邦大使
 
 嫌なやつと出会いそうやな……
 
 チャートを見ながらマーク船長が呟いた。
「誰、嫌なやつって?」
「銀河連邦のオフィシャルシップ。無視してくれたらええねんけどな。バルス、不自然やない航路変更はでけへんかか?」
「1パーセクしか離れてません。航路変更は不自然です」
「無視してくれよな。こっちはイイ子にしてるさかいに……」
 直後、大使船がモニターに映し出された。緑の船体に連邦のマークが描かれている。
「カメラを強制指向させられました」
「ご挨拶で済んだら、ええんやけど……」
 やがて、モニターに絶世の美女が現れた。
「こんにちは、マーク船長。大使のアルルカンです。情報交換させていただければありがたいんですけど」
「敬意を持って……でも、ボロ船ですので、お越し頂くのは気が引けます」
「スキャンしているので、そちらの様子は分かっています。歴戦の勇者の船らしい風格です。ただ、手狭なようなので、私一人でお伺いします。いかがでしょう?」
「大使お一人でですか」
「ヤボなガードや秘書は連れて行きません。あと0・5パーセクで、そちらに行けます。よろしく」
「心より歓迎いたします」
 
 そこで、いったんモニターは切れた。
 
「切れましたね」
「あ きれましたかもな。みんな、ドレスアップしてこい」
 みんな交代で着替えに行った。
「ミナコのも用意してあるから、着替えてくれ。ポチもな」
「めんどくさいなあ」
 そう言いながら、ポチもキャビンに向かった。
 やがて、みんなタキシードに似たボディスーツに着替えた。体の線がピッチリ出るのでミナコはちょっと恥ずかしかった。
「でも、大使ってきれいな人なんだ……」
「あれは、擬態や。赴く星によって、外交儀礼上替えてるそうやけど、オレはあいつの個人的趣味やと思てる」
「本来の姿は?」
「解放されたら教えたる。予備知識を持つとミナコは態度に出そう……」
 
 また、モニターに大使が現れた。
 
「ただ今より、そちらに移ります。タラップの横に現れますのでよろしく」
「お待ち申し上げております」
 全員がタラップに注目する中、大使が現れた。モニターに映る倍ほど美しかった。
「こんにちは、みなさん。連邦大使のアルルカンです。ベータ星からの葬儀の帰りなので、喪服で失礼します」
 大使は帽子を被れば、まるでメーテルのようだった。長いブロンドの髪と切れ長の黒い瞳が印象的だった。
「いっそう艶やかになられましたな、大使」
「ありがとう船長。でも擬態だから……あなたにはオリジナルを見られてるから、ちょっと恥ずかしいですね」
「航海日誌、ダウンロードされますか?」
「いいえ、直接船から話を聞きます」
 大使は、ハンベから直接ラインを伸ばし、船のCPUの端末に繋いだ。
「……そう、苦労なさったのね。マクダラと戦って、クリミアに……この情報は戦歴だけコピーさせていただきます。惜別の星……また墓標が増えていますね……三丁目じゃ、ホホ、いいことなさったわね……コスモス、あなた体を奪われたのね……」
「ええ、でもバックアップで、復元してもらいましたから」
「かわいそうなコスモス!」
 大使は、コスモスをハグした。とても悪い人には見えない。
「ありがとうございます、大使」
「ロイド保護法の改正を連邦に願ってみるわ。もっとも、連邦といっても、まだまだ名ばかり。少なくとも地球での地位向上には努力します」
 それから、大使は再び船との会話を再開した。
「船も、はっきりした目的地を知らないのね……クライアントの情報も無いわ」
「そういう契約なので」
「……このお二人を、私の船にご招待してもいいかしら」
 
 大使は、ミナコとミナホに目を付けた……。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

永遠女子高生・7《瑠璃葉の場合・3》

2019-11-23 05:48:21 | 時かける少女
永遠女子高生・7
《瑠璃葉の場合・3》         



2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


『ラ・セーヌ』は竜頭蛇尾だった。

 代役の矢頭萌の印象も良く、第一週目の観客動員も、『限界のゼロ』に次いで二位だった。
 ところが、二週目に入って失速した。

 原因は二つ考えられた。

 一つは、本来主役であった楠葉が事実上芸能界から引退をせざるを得なかったこと。
 もう一つは、楠葉の事故の原因が瑠璃葉ではないかと、一部のファンが言い始めたことである。
 舞台挨拶のビデオを克明に観察したファンがいた。ファンはT大の行動心理学の助手で、専門の行動心理から、目立たないが、瑠璃葉の舞台上での動きを解析して結論を出した。

――瑠璃葉は、舞台上で、一度も主演の楠葉さんを見ていません。この無関心さは不自然で、逆に負の感情、つまり、不快感や強い反発を持っていたように思われます。第一原因者である三島純子さんは、袖のマネージャーに声をかけられ、その注意は完全に舞台袖にあり、三島さんの視線からも足許が見えていないことが分かります。で、ここで注目してください。三島さんのマネージャが声をかけた時、瑠璃葉さんは、一瞬袖を見ています。事態を正確に把握していたといえるでしょう。そして袖にハケる時に、瑠璃葉さんが三島さんの前に足を出す必然性は、人間行動学上ありえません。あるとしたら……故意に三島さんを転ばせ、その前を歩いていた楠葉さんにぶつからせ、怪我をさせようとしか考えられません――

 匿名の動画サイトへの投稿だったが、波紋は大きく広がり、テレビのワイドショーでも取り上げられ、専門の心理学者などが「この分析は正確で、楠葉さんのファンであることを差し引いても、ほとんど信用してもいいと思います」と、分析した。

 収まらない瑠璃葉は、進んでワイドショーに出て釈明した。

「青天の霹靂です。ビデオがこの通りだとしても、わたしに、そんな意識はありませんでした」
「瑠璃葉さん。そういうのを心理学では未必の故意って、言うんですよ」
 瑠璃葉は墓穴を掘ってしまった。ワイドショーでは、ただの話題作りのために嘘発見器まで用意していたが、瑠璃葉は、それを断った。ますます疑惑は深まり、瑠璃葉は出演が決まっていた映画の役を降ろされた。

「瑠璃葉さん、だめよ、こういうことしちゃ」

 楠葉が、大部屋の楽屋のゴミ箱に捨てられていた映画の台本を手にして、瑠璃葉に小声で注意した。
「あの大部屋で、あの映画に関連してたのは瑠璃葉さんだけだし、通し番号で持ち主は直ぐに分かるわ」
「あ、記憶になかった。ついよ、つい」
「その言葉もダメだわ。また未必の故意って言われるわ」
「……ふん」
 瑠璃葉は、台本をふんだくった。

 二人は、仲良く……はなかったが、いっしょに連ドラのエキストラをやっていた。

 互いに一からの出直しであった。ただ、新旧の違いはあるが、元アイドル同士で、先日の事件があったところなので、マスコミは直ぐに嗅ぎつけて、記事にした。
「瑠璃葉さん、道玄坂で、美味しいラーメン屋さん発見したんです!」
「原宿で、かわいいアクセサリーのお店ありますよ!」
 楠葉は、すすんで瑠璃葉と仲良くし、マスコミのウワサを打ち消して行った。

 瑠璃葉は、たまらなくなって、渋谷のラーメン屋で聞いた。

「どうして、楠葉は、こんなに優しいのよ!?」
「あたし、瑠璃葉さんのこと好きだから。これじゃ、だめ?」
「あ、あたし、楠葉に嫉妬してたんだよ」
「ありがたいことだと思ってます。それほど関心持ってもらってたってことだもの。あの件だって、あたしが舞台から落ちることまでは考えてなかったでしょ? あれは、あくまでも、あたしのドジが原因なんです」
「楠葉ちゃん……」

 瑠璃葉は大粒の涙を流した。

「ラーメン、塩味になってしまいますよ」

 この一言で、瑠璃葉の心は救われた。だが、現実は、その一歩先をいっていた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小悪魔マユの魔法日記・103『オモクロ居残りグミ・3』

2019-11-23 05:39:16 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・103
『オモクロ居残りグミ・3』    



 女教師役の仁和明宏さんが呟いた。

「なにか、変なものが混ざり込んできた……」

 マユも、香奈のアバターの中で感じていた。

――なんだろう、死霊でもなく、生き霊でもなく、天使のようなものでない。レミのような妖精のたぐいでもない。

 仁和さんは、霊感が強いタレントさんとして有名で、一時は、自分でスピリチュアルな番組も持っていたが、便乗商法が横行し、自分も本来の歌手や、俳優としての仕事に差し障るので、表だっては、そういうことに触れないようにしてきた。
「……あなたも、なにか感じてるでしょう?」
 仁和さんは、スタッフが打ち合わせている間に、香奈(まゆ)に、こっそり話しかけてきた。
「え……いいえ、特に、なにも」
 仁和さんには、このボケは通用しなかった。
「分かってるわよ、香奈ちゃんが人間じゃないことぐらい。でも、悪さをするようなものじゃないことも分かっているから……かわいい顔して、案外小悪魔かもね」
 ドッキリしたが、仁和さんが比喩的な意味で言っていることは分かった。仁和さんと言えど人間。悪魔や、小悪魔が、どんなものであるかは、正確には分からない。「悪」という字が付いているだけで、もっと、危ない目で見て、まして話しかけてきたりはしないだろう。
「あなたのオーラはとても強くてピュアよ、いっしょに探しましょ。このままじゃ、なにか災いが起こるわ」
 仁和さんは、出番が終わると、グラウンドの端に行って、学校全体を眺めはじめた。
「始まりは、あの体育館……でも、今は、そこにはいない」

 ハーックション!!

 教室のシーンのカメリハが終わって、本番に入る直前に香奈(マユ)は、大きなクシャミをしてみた。
「カット、カット!」
 監督の声が飛び、キャストも緊張を緩めた。と、同時に、大きなスポットライトが倒れ込んできて、席を立ちかけた加奈子目がけて倒れ込んできた。
「危ない!」
 香奈(マユ)は、何事か予感していたので、動きが速かった。中腰になっていた加奈子の腕を思い切り引っ張って、加奈子は、危うくスポットライトの下敷きになることから免れた。
 瞬間のことで、教室のみんなは悲鳴をあげたきり、しばらく動けなかった。
「大丈夫か、二人とも!?」
 別所が駆け寄って、二人に声をかけた。
「わたしは大丈夫です」
「わたしも……」
「よかった。でも、これで二度目だなあ」
 別所の指摘は、現象的には、正しい。オーディション会場でも、ライトが香奈の上に落ちてきて、それを庇った美紀がケガをした。しかし、あれは、美川エルのアバターに入り込んだオチコボレ天使の雅部利恵が調子にのって、とんでもない声量と音域で歌ったために、ライトを吊ったクランクのネジが緩んで起きた事故である(まあ、間接的には利恵のせいではあるが、悪意はない)。しかし、今回は、あきらかに、何者かの悪意が働いている。

「その子を掴まえて!」

 仁和さんが、一人のエキストラの子を指差した。その子自身は、なんの自覚もなく、仁和さんに指差され、ただオロオロ。香奈は、ゆっくりと、そのこの額に手を当てた。香奈は、教室中にわだかまっていた悪意が、その子に集中するのを感じた。その子はユラリと揺れたかと思うと、口を開いた。

「……わたしたちの学校で……こんなことはしないで……わたしたちダンス部は、ようやく都の大会で優勝して、全国大会に出られるところだった……でも、学校が廃校になって……なって、それが果たせなかった。とっても悔しい……悔しい……だから、ここで歌ったり、踊ったりしないで……わたしたち、やっと我慢して、やっと自分たちの気持ちを押し殺した……殺したところなんだから」

「あなた、潰れたダンス部みんなの残留思念……」
「それだけじゃない。その残留思念に隠れて、もう一つなにかがいる」
 仁和さんが、印を結び、マユは心の中で呪文を唱えた。
――エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……。
 その子は、男の表情になって喋り始めた。
「加奈子……だから、オレは反対したんだ。この世界は伏魔殿だ。スターダムに上り詰めるのは難しい。そして、そのスターダムに上り詰めるまでに、何人の仲間をけ落とさなければならないか、また、何度け落とされるか。今度、おまえはけ落とされ、また這い上がろうとしている。もういい、もう十分だ。ボロボロになる前に……戻っておいで」
「お父さん……」
 加奈子の目から涙がこぼれた。
「その声は……高峯純一さんね」
 仁和さんに見抜かれた高峯純一の生き霊は、ギクっとした表情になった、思うとすぐに抜けていき、その子は眠るようにくずおれた。
 
 仁和さんは、それ以上のことは言わず。体育館の舞台の隅で見つけてきた楽譜と振り付けのコンテをみんなに見せた。ダンス部が、都大会で優勝したときのそれで、曲は、オモクロが、やっとマスコミに取り上げられるようになったころの、その名も『おもしろクローバー』であった。

「この振り付けで一回やってみよう。ここのダンス部の子たちのために」
「それがいいわ、お父さんのことは、あとで、わたしが……」
 仁和さんの賛同で決まり。オモクロ居残りグミのみんなで、歌って踊った。なんとも懐かしく新鮮。
 別所は、それを『居残りグミ』のプロモの一部に取り入れることにした。

 それから、ロケは夕方近くまでかかって、無事に終えることができた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする