大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・45『四本のミサンガ』

2019-11-24 07:06:14 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・45   
『四本のミサンガ』 


 
「あの、これ持ってきたんです!」

 わたしは、やっと紙袋を差し出した。
「これは?」
「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」
「ああ、これ!? まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれたの!」
「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」
「丈だけ?」
 夏鈴が、また混ぜっ返す。
「丈だけよ!」
「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」
 里沙までも……。
「あんた達ね……!」
「アハハハ……」
 お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。
「こんなのも持ってきました……」
 里沙が写真を出した。
「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね」
 勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。

 部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。その下にタヨリナ三人娘。それが往年の名作映画『幸せの黄色いハンカチ』のオマージュだってことを。

 わたしは理事長先生の言葉に閃くものがあったけど、ネットで調べるまで分からなかった。
 伍代のおじさんが、大の映画ファンだと知っていたので、当たりを付けて聞いてみた。大当たり。おじさんは、そのDVDを持っていた。はるかちゃんもお気に入りだったそうだ。
 深夜、自分の部屋で一人で観た……使いかけだけど、ティッシュの箱が一つ空になっちゃった。
 それを、お姉さんは一発で理解。さすがだ。
「ティッシュ一箱使いました?」
 と聞きたい衝動はおさえました。
「これ、ちゃんと写真が入るように、写真立てです」
 里沙が写真立てを出した。あいかわらずダンドリのいい子だ。
 写真は、すぐにお姉さんが写真立てに入れ、部員一同の集合写真と並べられた。

「あ、雪……」

 写真立てを置いたお姉さんがつぶやくように言った。
 窓から見える景色は一変していた。スカイツリーはおろか、向かいのビルも見えないくらいの大雪になっていた。
「交通機関にも影響でるかもしれないよ……」
 里沙が気象予報士のように言った。
「いけない。じゃ、これで失礼します」
「そうね、この雪じゃね」
「また、年が明けたら、お伺いします」
「ありがとう、潤香も喜ぶわ」
「では、良いお年を……」
 ドアまで行きかけると……。
「あ、忘れるとこだった!」
 夏鈴、声が大きいってば……カバンから、何かごそごそ取り出した。
「ミサンガ作り直したんです」
 夏鈴の手には四本のミサンガが乗っていた。
「先輩のにはゴールドを混ぜときました。演劇部の最上級生ですから」
「……ありがとう、ありがとう!」
 お姉さんが、初めて涙声で言った。
「わたしたちこそ……ありがとうございました」
「あなたたちも良いお年を……そして、メリークリスマス」
 ナースステーションの角をまがるまで、お姉さんは見送ってくださった。

 結局トンチンカンの夏鈴が一番いいとこを持ってちゃった。ま、心温まるトンチンカン。芝居なら、ちょっとした中盤のヤマ。
 こういうのをお芝居ではチョイサラっていうんだ。ちょこっと出て、いいとこさらっていくって意味。

 わたし達は地下鉄の駅に向かった。そのわずか二三百メートルを歩いただけで、雪だるまになりかけた。駅の階段のところでキャーキャー言いながら雪の落としっこ。
 こんなことでじゃれ合えるのは、女子高生の特権なんだろうなと思いつつ楽しかった!

 里沙と夏鈴は、駅のコインロッカーから、お荷物を出した。
 今夜は、わたしんちで、クリスマスパーティーを兼ねて、あるタクラミがある。
 それは、合宿みたいなものなんだけど、タヨリナ三人組の……潤香先輩も入れて四人の演劇部のささやかな第二歩目。
 第一歩は部室の片づけをやって、黄色いハンカチ三枚の下で写真を撮ったこと。

 心温まる第二歩は、次の章でホカホカと湯気をたてて待っております……。
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ファルコンZ・21『銀河連邦大使・2』

2019-11-24 06:58:41 | 小説6
ファルコンZ・21 
『銀河連邦大使・2』         

 
☆………銀河連邦大使2
 
 大使の船は大したものだ……。
 
 最初はのんきにダジャレが出るほど、豪華なもてなしを受けた。
 
 船内には25メートルのバーチャルプールがあった。よほどの客船でもないかぎり、リアルな25メ-トルプールは無い。たいてい、5メートルのバーチャルプールで、水流を作って距離感を出している。実感は25メートルでも、ハタから見ていると5メートルしかないので、なんだかプールに泳がされてますって感じで、見ばのいいもんじゃない。うんと昔の感覚で言うと、下りのエスカレーターを登って、永遠の階段を上っているような錯覚をするのに似ている。
 それが、この船ではリアルに25メートル。設定の仕方では、カリブや地中海の海も再現できて、一時間のつもりが三時間も泳いでしまった。
 
 泳いだ後は、マッサージをしてもらった。ファルコン・Zは電子マッサージ機があって、一瞬で凝りをほぐすのだけど、なんとも味気ない。実際人にやってもらって、少しずつ凝りがほぐれていくのは快感だった。
 プールもマッサージも大使がいっしょだった。水着の大使はモデルのように均整のとれたからだつきをしていて、同性のミナコが見てもほれぼれした。
 
「さ、あとはお食事にしましょう」
 
 食事は、流行りの古典日本料理。それも肩の凝らないバイキング式だったので、大使船のクルーといっしょになって、美味しくて楽しい食事ができた。
 
「あなたたちは、楽しむ天才ね」
 大使から、お褒めの言葉をいただいた。
「よかったら、お願いしてもいいかしら?」
「何でしょうか?」
「ベータ星に寄ってもらいたいの」
「ベータ星?」
「ええ、国王が亡くなられて、マリア王女が、とても気落ちしてらっしゃるの」
「そりゃ、お父さんでいらっしゃるんですものね」
 ミナコが庶民的な答をした。
「……女王になられるんですね」
 ミナホは、核心をつく答をした。
「そう、いろいろ難しい星だから、自信を無くして落ち込んでいらっしゃる。あなたたちが行って慰めてくれると嬉しいんだけど」
「それは……」
 ぜひ……と応えようとしたらミナホに先を越された。
「船長と相談してみます。航路については船長の権限ですから」
「ええ、もちろんそうでしょう。私からの願いとしてお伝えくださいな」
 どうやら、その話が目的であったらしく、そのあとはうまくあしらわれて、三十分ほどで、ファルコン・Zに帰ってきた。
「さよか、あのオバハン、そんなこと言うてきよったんか」
 
 マーク船長の目が光った……。
 
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永遠女子高生・8《瑠璃葉の場合・4》

2019-11-24 06:49:19 | 時かける少女
永遠女子高生・8
《瑠璃葉の場合・4》         





 現実は一歩先をいっていた。

「仲むつまじいカタキ同士の元アイドル」という見出しで、週刊誌に書かれてしまった。
 むろん瑠璃葉と楠葉のことである。

 人の不幸は密の味で、この特集は評判になった。
――二人はレズの関係か!?――
――複雑なカタキ同士の愛憎?――
 二人は、エキストラの仕事も無くなり、バイト先からも遠回しに辞めてくれと言われた。

 瑠璃葉は大人なので、プライドさえ捨てれば、キャバクラで働くこともできた。
 楠葉は現役高校生でもあったので、風当たりが強かった。『ラ・セーヌ』で主役に抜擢されたころは、学校の宣伝塔にもなり、チヤホヤされたが、悪い噂が立つと学校も友達も手のひらをかえしたように冷たくなった。

 瑠璃葉は楠葉に済まないと思ったが、どうしようもなかった。

 楠葉は、病気を理由に休学した。
「あたしのせいだ!」
 瑠璃葉は、そう思った。でも楠葉はサバサバしたものだった。
「あたし、瑠璃葉さんを前にしてなんだけど、本当に病気なの。舞台から落っこちて、神経やられて踊れなくなっちゃったでしょ」
「申し訳ない、それも、アタシの……ウワー!」
「「キャー!」」

 なんで、ここで悲鳴になるかというと、マスコミの目があるので、二人は考えて、浅草はなやしきローラーコースターに乗って肝心の話をした。営業開始から60年になる日本最古のコースターだけど、ほどよく絶叫し、ほどよく話をするのには最適だ。

「あたし、最新の神経再生治療うけるの。うまくいけば、また踊れるようになる……キャー!」
「そうだったの……ウワー!」
「これ降りたら別行動。治療が終わったら連絡するわ……ギョエー!」

 ほどよく悲鳴をあげたあと、二人はニコニコと別れた。つきまとっていた芸能記者や、レポーターは肩すかしをくらった。

 楠葉は「お金を貯めといて、とりあえず200万円」とメールを打った。
 瑠璃葉は、なりふり構わずバイトやパートをして、明くる年の春には200万円貯めた。
 楠葉は、その間神経細胞再生という最新の治療を実験台になることを条件に受けて成功していた。

――ニューヨークへ行くわよ。行き先は……――

 半年ぶりに楠葉からメールがきて、二人は別々にニューヨークを目指した。

「ニューヨークまできて、アルバイト?」
 瑠璃葉は驚いた。
「うん。ただし、次のステータスのためのステップに過ぎない!」
 楠葉は明るく答えた。
 二人は留学ビザの限度一杯バイトにいそしみ、お金よりも英語力を身につけた。

「え、ここが目的地だったの!?」

 瑠璃葉は目を見張った。二人の目の前には赤レンガのアクターズスタジオが屹立していた。

 アクターズスタジオと言えば、マリリンモンローやジェームスディーンなどを輩出した世界一の俳優学校である。
 むろん入学は難関ではあるが、日本での痛い経験が入学テストに幸いした。テストの内容は「人生で、もっとも辛かったことの再現」であったから。

 かくして、二人は無事に卒業し、アメリカの俳優として頭角を現し、名優として日本に戻ってきた。

 楠葉の結(ゆい)は、瑠璃葉を幸せにすることに成功した。瑠璃葉が、人の幸せ(この場合楠葉)が自分の幸せになるところまで心が成長していたことが嬉しかった。

 結の時空を超えた試練は、さらに高度なものになっていく気配であった……。
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小悪魔マユの魔法日記・104『オモクロ居残りグミ・4』

2019-11-24 06:40:51 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・104
『オモクロ居残りグミ・4』     



「そう、あなたは高峯純一さんの、娘さんなのね」

「はい……オモクロ始めるときは母の苗字使ってました」

 ロケの撤収の間、旧保健室を借りて仁和さんと加奈子と香奈の三人で話していた。
 教室の撮影で、ライトが倒れて、危うく加奈子が下敷きになりそうになった。
 それは、複合的な霊障で、廃校になった学校のダンス部の子たちの残留思念と、加奈子の父の高峯純一の生き霊のせいだと分かった。で、仁和さんは、香奈(マユのアバター)だけを同席させて、加奈子から事情を聞いていたのだ。

「父が、この世界に入ることに反対していたことは、なんとなく分かっていました。最初は、むろん反対だったし、わたしが押し切ったあとも、積極的には賛成してはくれませんでした。わたしも親の七光りだって言われるのやだったから……でも、お父さん、あんなに心配してくれていたんだ」
「カナちゃんには悪いけど、それは違うわ」
「え……でも父は、あのエキストラの子の口を借りて、心配してくれていました」
「心配な我が子に、ケガをさせようとするかしら」
「あれは、ダンス部の子たちの残留思念じゃ……」
「そういうことにしておけば、高峯さん自身は傷つかずにすむでしょう?」
「じゃ、あれは……」
「お父さんは、あなたに嫉妬してるのよ」

 一瞬、保健室がグラリと揺れた。

「図星のようね、カナちゃん……」
「「はい」」
 加奈子と香奈が一度に返事した。
「ああ、二人ともカナちゃんだったわね。仁科さん、カーテン閉めてくれる。カナちゃんはスマホを出して」
 二人とも言われたとおりにし、仁和さんは、ロッカーから白衣を取りだして着た。
「カーテンは結界……」
 香奈が独り言のように言った。
「で、この白衣が浄衣のかわり」
 仁和も独り言のように言うと、なにやら呪文を唱え、印を結んだ。加奈子は緊張してきたが、香奈(マユ)にはよく分かった。仁和さんの霊能力は、見抜くという点ではマユよりも優れているが、霊障を取り除くのは、マユの方が上手い。しかし、仁和さんの真摯なやり方にマユは任せてみようと思った。

「……えい!……これでいいわ、カナちゃん。お父さんに電話してごらんなさい」

「はい……でも、なにを話したら……お父さんとは、あまり話したことがないんです」
「ホホ、それがいけないの。正直に今度のこと自慢すればいいわ。お父さんは捌け口がないの。だから無意識に、こんな霊障をおこすのよ。正直に嫉妬させてあげれば収まる。いえ、収まるどころか、カナちゃんのいいアドバイザーになってもらえるわ」

 加奈子は言われるままに電話をした。父の高峯は、朝方から熱が出て、寝込んでいたようだった。
 電話の向こうで、こう言った。
――なんだか夢をみていた。
「どんな夢?」
――くそなまいきな女優が、へたくそな芝居をしやがるんで、意見をしようとしたら、無視しやがる。そこで、カッとしてスポットライトを蹴倒すんだ。
「ほんと……!?」
――そしたら、顔は分からないけど、監督みたいなのが出てきて意見しやがる。なんだか分が悪くなって、逃げ出したら、意識がとんじまって。なんだか胸苦しくって、冷や汗かいていたら、お前からの電話だ。で、なんだ。加奈子から電話してくるなんて、雨が……ほんとに降ってきたぞ。おい母さん、洗濯物とりこめよ!

 それから、加奈子は、ここ最近の自慢話をしてやった。
 
 すると高峯は、なにかとケチをつけはじめた。仕事のことで父と話などしたことのなかった加奈子には、とても新鮮だった。最後の方では、涙を流しながら父を罵っていた。
 むろん憎さからではない。初めて父と、心が通い合ったのである。
「そんなに文句あるんなら、東京出てきて、わたしの仕事っぷり観てからにしてよ!」
――そんなこと言ったって、こんな体じゃなあ。
「今は、いい電動車椅子がある。それ送ってあげるから来なさいよ!」

 そう、加奈子の父、高峯純一は、撮影中の事故で下半身マヒになり、引きこもりっぱなしだったようだ。
 加奈子の電話は、その父の心を開かせ、火を付けたようだ。
 仁和さんは、そんな電話の遣り取りを、ニンマリ笑って聞いていた。
 
 マユは、また一つ勉強できたことを嬉しく感じていた……。
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