せやさかい・095
要介護3か……
二枚目の海老煎餅に手を伸ばしながらお祖父ちゃんが呟く。
マクドで菅ちゃんの兄妹喧嘩を聞いてしもた。
お母さんが要介護3になって、菅ちゃん一人では手が回らんようになった。菅ちゃんは、午後から休みを取って妹さんと相談してたんや。
菅ちゃんが泣きごと言うてるようにも、妹さんが薄情なようにも聞こえた。
人が感情的に言い合いしてるのは嫌いや。そばで聞いてるだけでも心がささくれ立ってしまう。
うちの両親もたいがいやと思う。なんせ父親が失踪して、お母さんの実家に転がり込んでるんやさかい。
けども、ここに至るまでお父さんとお母さんがケンカしてるとこなんか見たことない。せやさかい、お祖父ちゃんがお母さんをたしなめてるとこを見ただけで足がすくんでしもた……て、言うたよね。
「要介護3言うたら、二十四時間の介護が必要な状態で、特養の入所を考えるレベルやなあ」
「とくよう?」
「特別養護老人ホーム、ベッドから起きたりトイレに行ったり食事をしたり風呂に入ったり、日常生活全てに介護が必要なレベルや。言うても、特養なんて、すごい順番待ちや……菅井先生も大変なんやろなあ」
菅ちゃんはポカと休みの多い先生や。大事な連絡忘れたり、いらんこと言うてしもたり、言わなあかんこと言わへんかったり。
せやけど、お母さんの介護があったことを知ると、ちょっと可哀そう。
「特養のアキもなかなかないし、妹さんに助けを求めて逆ギレされてしまいはったんかもなあ……檀家さんにも、そういうお家があるで」
「みんな、どないしてはるのん?」
「いろいろや、市役所に相談したり、家族でもめたり、金策に走りはったり……介護には時間とお金がかかるよってなあ」
「そうなんや……」
あたしも、しんみりしてしもて、海老煎餅のおかわりに手ぇ出そ思たら、お煎餅入れた菓子皿が空になってた。
ああ……。
よっぽど残念そうな顔してたんやろね、「ああ、すまん、好物やから、つい食べてしもた」 お祖父ちゃんが申し訳なさそうに頭を掻いた。