大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・167『西郷さんの真名』

2020-08-01 15:56:16 | 小説

魔法少女マヂカ・167

『西郷さんの真名』語り手:マヂカ    

 

 

 貴族や武士の名前は家名(苗字)と仮名(けみょう=通名)と諱(いみな=真名)の三つで構成される。

 

 日ごろは仮名を名乗るし、人も仮名でしか呼ばない。

 織田信長の仮名は三郎なので、日ごろは「三郎」と自称し人もそう呼んだ。長じて身分が高くなると官職名である「上総介」で呼ばれ、家臣たちからは「御屋形様」と呼ばれ、けして諱である「信長」や「信長様」では呼ばれない。

 諱は忌み名であり、使われるのは、ごく正式な場に限られる。

 西郷さんは、日ごろは「吉之介」を使っていた。自分でも「吉之介」を称し、人も「吉之介」とか「吉之介さあ」と親しく呼びならわしていた。

 その西郷さんの諱である「隆盛」が間違っていた。

「ご主人様の正しい真名が分かるんですね!」

 ツンは感激のあまり頬を染めて涙ぐんでさえいる。

「ツンでも西郷さんの真名を知らなかったのね」

「もちろんです。諱で呼んでいいのは島津の殿様ぐらいのもので、殿様も、日ごろは『吉之介』とか『西郷』と呼んでおられましたから、飼い犬であるわたしが諱を存じているわけがありません」

「そうか」

「はい、そうなんです。武士の諱とはそういうものなのです!」

「ツン、あなた、人の言葉が板に付いてきたわね」

 友里が感心しながらツンを見る。確かに、四つん這いにもならないし、舌を出して喋ることもしない。十四五歳のショートヘアが良く似合う活発な女子になっている。

「え、あ、そうですか、わん」

「あ、もう『わん』と付け加えるのがわざとらしく聞こえる」

「え、あ、じゃ、ありのままでいいですか!?」

「ああ、それが自然なら、そうしろ」

「はい!」

 

 西郷さんの真名を取り戻した我々は根岸まで戻って西郷さんが現れるのを待っているのだ。

 

「いやあ、おはんたち久しぶりじゃっで!」

「「わ!」」

 予想に反して西郷さんは後ろの川から上がってきた。ただでさえツンツルテンの着物を尻っぱしょりにして、釣り竿と大きな魚籠(びく)を抱えている。

「わはは、ウナギがよかひこ取れたんで、これからかば焼きとうな丼にしよっち、思うてなあ」

 ウナギと言われて、調理研の我々の頭には三十以上のうな丼が浮かんだ。

「これだけのウナギが獲れるとは、おはんら、解決したな?」

「はい、なんとか」

「苦労はしたがな、その甲斐はあった」

「ツンの姿が見えんが?」

「え?」

「今の今まで居たんだが……」

 どうやら、恥ずかしくなったか。

「なら、呼ぶまでじゃ」

 ピーーー!

 西郷さんは、人差し指と親指を輪っかにして指笛を吹いた。

 わ! あわわわ……

 条件反射で草叢からツンが現れるが、猟犬とし呼ばれたのに犬っぽさは無く、体育で集合を掛けられた生徒のように気を付けをしている。

「おほ、ツンは人になってしもうたか!?」

「はい、大活躍をしてくれました!」

「こんたこんた、活発そうな、よか娘になったもんじゃ!」

「は、はい! ツンは、ご主人様の真名を取り戻してまいりました!」

 ツンは真名が入っている封書を最敬礼で差し出した。

「ああ、おいの諱か?」

「はい!」

「うんうん、では、ツンわいが封を開けて読んでおっれ」

「わ、わたしが!?」

「いかにも、ツンが取り戻してきたもんじゃから」

「は、はい!」

 ツンは震える手で封を開けると、厳か西郷さんの真名を詠みあげた。

 

 西郷吉之介隆永(さいごうきちのすけたかなが)

 

「隆永……よいお名です! 隆盛も素敵でしたが、その素敵なご主人様のお名が永遠の光に輝いているようです! とっても素敵です!」

 ツンは、感激のあまりポロポロと涙と涎をこぼし、グチャグチャになってしまう。

 それを、ご主人様の西郷さんは大きな胸いっぱいに抱きしめ、ツンの髪をワシャワシャと撫でて「よくやったよくやった……」を繰り返し、わたしも友里ももらい泣きしてしまった。

「人になったツンを猟犬にはしておくわけにもいかんなあ」

「いえ、ツンは、いつまでもご主人様の猟犬です!」

「おめは、しばらくマヂカどんたちと一緒に暮らしやんせ。そう……マヂカ、おはんのいもっじょちゅうこっで面倒をみてはもれんか」

「うん、承知した」

「では、三人揃って神田明神さんに報告に行くといい。そうじゃ、このウナギを土産にするとよか!」

「ご主人様!」

「元気で暮らせよ、おはんたち魔法少女もなあ」

「「はい」」

 

 西郷さんに手を振られ、わたしたちは振り返り振り返りしながら日暮里の坂道を登って神田明神を目指すのだった。

 

 

 

 

 

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大阪ガールズコレクション:1『プール行こか! 浪速区』

2020-08-01 06:54:25 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:1

『プール行こか! 浪速区』  「プール イラス...」の画像検索結果

 

 

 学校休んでプール行こか思てた。

 

 カヨさんが「暑てたまらん!」言うたんがきっかけ。

 スカートめくって下から団扇でバサバサあおぐくらいに女捨ててるカヨさん。

 まあ、無理ないねんけど。

 なんせカヨさんのスカートは冬もんや。

 きのう食堂でラーメンの汁こぼしてしもてクリーニング中。

 クリーニングできるまで学校行かへん!

 宣言したけど、お母さんに頭はられて、しょーことなしに来とーる。

 運の悪いことに、一時間目の担任の授業で急きょ席替えをやった。

 席替えになったんは、担任のミヨちゃんが授業の準備できてへんから。

 まあ、ほんの四日前までは夏休みやったことを思うと無理はない。たとえ先生にでも、そのくらいの同情心を持つくらいには、ようできた生徒やという自負はある。

 

 その席替えの結果、カヨさんは窓側のいっちゃん後ろから二番目。

 わたしは、その隣の列の最後尾。

 せやから、カヨさんの生態はよう分かる。

 

 むろん教室は冷房してるねんけど、窓際はカーテン閉めてても、冬寒ーて、夏は暑い。

 そこへもってきて、つまらん日本史の授業や。

 この春に北浜高校から転勤してきたオッサン。

 北浜高校は進学校やさかい、オッサンは、どこかうちらをバカにしとーる。

「北浜じゃ、山川の詳説やったけど、ここは〇〇の日本史Aや。気楽にいきましょ」

 なんやムカついたけど、言い返せるほどの頭もないし。

 なんちゃら民主党の選挙演説みたいに、よう喋る先生やけど、選挙演説と同じくらい誰も聞いてへん。

 選挙演説やったら通り過ぎたらええだけやねんけど、五十分座ってなあかんのは拷問に近い。

 まあ、その分やかましいことは言わへんさかい、カヨさんもスカートの中を団扇でバサバサなんかやってられる。

 

 ま、それで「プール行こか!」になったわけ。

 

 浪速区には大きなプールが二つある。

 行こ思たんは民営の方。公立の方は水泳教室とかで、ガチで泳ぐ勉強するとこ。

 気合い入れよと思て、カヨさんと二人クリアランスセールの水着まで買うた!

「去年買うた水着は、ちょっときついねん」

 そない言うたら、お父さんが諭吉を一枚くれた。

 

 せやけど「今日はやめとき」

 

 お母さんが一言言う。

 きのう、行こ思てたプールでオッサンが女の子の尻触って逮捕されよったらしい。

「逮捕されてんやったら大丈夫なんちゃうん」

 異議を唱えると、お母さんは、こない言うた。

「御堂筋線の痴漢といっしょや。一人捕まった言うことは、まだ捕まってへんのが十倍は居る!」

 なるほど。

「それに、あんたはお母ちゃんの娘や、まっさきに狙われるしい! お母ちゃんかて若いころにはなあ……」

 そこまで言うと、後ろでお父ちゃんがお茶にムセた。

「真由はお母さんの娘やさかいなあ」

「「どういう意味ぃ?」」

「あ、いや。そういう事件があった後は警戒も強いやろし、痴漢も警戒しとるんちゃうか」

「あ、そうかも(^▽^)/」

 それで、やっぱり行くことにした。

 

 むろん痴漢に遭うことは無かった。

 けど、カヨさんが一瞬だけ痴漢に間違われる。

 カヨさんの手が、前を泳いでた女の子のお尻に当った。けども女同士やったんで双方「アハハ」と笑ってお終い。

「エヘヘ、気持ちのええお尻やったなあ(n*´ω`*n)」

 あたしにすり寄ってお尻触った手ぇワキワキさせるカヨさんは、なんかカミングアウトしたみたいやった。

 

 

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かの世界この世界:27『ペギーの店・1』

2020-08-01 06:22:16 | 小説5

かの世界この世界:27     

『ペギーの店・1』  

 

 

 しばらく行くと一本道は分岐していた。

 

 いずれも畦道ほどのものでしかないけど、左側の方は、少し進んだところに宝箱がある。

「あ、宝箱!」

 健人は跳び上がって宝箱を開けようとした。

「ちょっと待って」

「え、なんでえ?」

「序盤でミミック(宝箱に化けた魔物)ってことは無いだろうけど、大事な選択肢だと思う」

 

 ウィンドウを開いて調べてみる。

 

――開ける前に難易度を選択すること、選択肢はA・イージー B・レギュラー C・ハード D・オニ ――

「どれにする?」

「むろん、イージー。サクサク進みたいからね♪」

 わたしの意見も聞かずにA・イージーをクリックする健人。ま、いいけど。

 

 パッカーーーン 

 

 のどかなエフェクトと共に宝箱が開く。

――メンバー全員にポーション五つずつ――

 レジのような音がして、ウィンドウのアイテム欄に五個のポーションが加えられた。

 

 HP:200 MP:100 属性:?

 持ち物:ポーション・10 マップ:1 所持金:1000ギル

 装備:始りの制服

 

「なんかショボイ」

「かわりに何かあるよ、きっと……」

 首を巡らせると、いままで来た道が消えていて、右側の道はいばらの道に変わってしまって、左側の道は、分かりやすく虹がかかっていたりする。

 

 左の道をしばらく行くと、造りは中世ヨーロッパの田舎風の小屋が見えてきた。

 

 小屋ではあるんだけど、屋根やら軒やら脇やらに「激安の殿堂!」「ビギナーの味方!」「なんでもあります!」「毎日特売!」などドギツイ看板のネオンサインにキラキラしい。

「どうやら、ここで初期装備を整えるみたいね」

「でも、肝心の店の名前が書いてない」

 女装が板についてきた健人が可愛く口を尖らせる。

 すると、看板の全てが『ペギーの店』という店名を表示して、矢印が入り口を示した。

 

 ジャ~ン! ようこそペギーの店に!

 

 ドアをくぐると、店内いっぱいに声が響いた。

 声がするからには、店のオーナーとかスタッフが居るんだろうけど、わたしも健人も店内の広さと品数の多さにぶったまげた!

 屋根も含めて四メートルほどしかないはずが、まるで東京ビッグサイトほどの空間になっていて、雑多なグッズが本来の意味でのアマゾンみたく湧き出している。

 

 ボワ~ン……☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆!!

 

「ルーキーの味方! ペギーが初期装備の全てを見立ててさしあげま~す(^^♪」

 

 カーネルサンダースをオバサンにしたようなのが魔法使い出現みたいなエフェクトとともに現れた。

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

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あたしのあした・71『急性過食症で検索してみる』

2020-08-01 06:05:38 | ノベル2

・71
『急性過食症で検索してみる』     




 食べても太らない……検索してみた。

 世間では羨ましがられているようで、どうやったら食べても太らないか、どの食品なら食べても太らないか、そんなことばかり出てくる。

 ウーーーーン

 一声唸って、急性過食症で検索してみる。


 過食症では山ほど出てくるが、頭に急性を付けると、該当するものは出てこない。
 過食は、最低でも一か月くらいやらなければ基礎体重に影響はしないようなのだ。
 でもね……検索しながらでも、あたしは食べている。クラッカーに奈良漬などを載せながら。

 で、閃いた。

 奈良漬といっしょにカマンベールチーズなどを載せてみたらメチャクチャおいしんじゃないだろーーか!?
 
 お財布を掴むと、半纏いちまい引っかけただけでコンビニを目指した。
 おりからの大寒波で、深々と粉雪が降っていたけども、雪⇒寒いに気が付いたのは、レジで精算してコンビニを出ようとしたとき。
 ガラスが真っ白に曇っているので、チョー寒いんだ! と思い至った時。

 でも、寒い⇒きっとオデンが美味しい!

 という思考になってしまい。回れ右してトングを掴むと、カウンター前の四角いお鍋の中の玉子、ジャガイモ、シラタキ、大根をカップに入れて、天晴オッサンの晩酌のノリになってしまう。

 次の角を曲がったら自分の家というところで気配を感じた。

 サクサクサクと、あたしの歩調に合わせて気配が着いてくる。
 普通の女の子なら、ビビって早足になるだろう。
 あたしも早足になっているんだけど、理由は早く帰ってオデンとカマンベールチーズと奈良漬を頂いてホッコリしたいということなんだ。

 フフフ……

 気配が笑ったような気がした。
 ムッときて、初めて振り返る。
 降りしきる雪の中に人影はない。

 これ、ふつう怖がるよね?

 でも怖いと言う気持ちが湧かないものだから、白い息を三つほど吐いて家を目指す。

「これなら、話しても大丈夫だな」

 はっきり聞こえて、あたしの前に人影が現れた。
「あ……」
「御無沙汰」
 その人は、ゆっくりと振り返った。
「風間さん……」

 そう、風間さんだった。

 去年の秋、駅のホームから電車に飛び込んだあたしを救けた議員秘書の風間寛一さんだ。もう遠い記憶になっているけれど、春風さやか議員の目を覚まさせるために、風間さんは、あたしに憑依って大活躍だった。その後、昏睡状態が続いて、秋の終わりごろに亡くなってからは、意識に昇ることも無かった。

「もう一度、恵子さんの力を借りたいんだ」

「わたしの力?」

「うん、実はね……」

 風間さんは、とても長い話をしたようなんだけど、家まで歩いたのは電柱二本分ほどだ。

「大食いになった理由が分かりました……あたし、風間さんの分まで食べていたんですよね」

 風間さんは、ちょっと恥ずかしそうにしたけども、嬉しそうに微笑むと、降りしきる雪の中、静かに消えていった。
 声にしなくても分かるんだ、あたしは風間さんの願いを聞いてあげることにした。

 今夜は、オデンとカマンベールチーズと奈良漬がいっそう美味しくなりそうだ。

       第一部 完 

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