大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・165『散策部』

2020-08-25 12:37:28 | ノベル

せやさかい・165

『散策部』    

 

 

 散策部というのがあったの。

 

 ダージリンの紅茶を淹れながら院長先生が言う。

「サンサク……散歩と同義の散策ですか?」

「そうね、ほとんど散歩と同じなんだけど、言葉にするとね『散歩部』というのは、なんだか締まらないでしょ。「散策部」って言うと、なんだか高尚な響きがしない?」

「そうですね……作家や学者が思索しながら歩くって感じがしますね。散歩だったら犬でもやりますという響きがあります」

「最初は『探検部』という名前で部活の申請したんだけど、ちょっと女生徒がやるには過激な印象で却下になって、それで『散策部』で申請し直して認められたの。学校の近所から始めて、遠足のコースの下見に行ったり、夏休みには合宿の名目で泊りがけで出かけたり。まあ、歩き回ってお喋りして、面白そうなものに出会ったら写真に撮って、適当にコメントを付けて文化祭とかで発表するの。まあ、身内で好きなことで盛り上がる言い訳みたいなものだったけど、なかなか面白かった」

「ひょっとして、院長先生がおやりになっていたんですか?」

「まあね、後輩が引き継いでくれて、五年ほどは続いたんだけど、教育実習で戻ってきた時には廃部になってたわ……ほら、これが最初のメンバー」

「拝見します」

 机の上の写真たてには、今と同じ制服を着た五人の生徒が映っている。

 一見して文系の子たちだと思われて、真ん中で腕組みしたツインテールが院長先生のようだ。

「あ……似て……」

 似てると思ったけど、目上の人を軽々しく言ってはいけないと言葉を呑み込んだ。

「ひょっとして、この子に似てると思ったのかなあ?」

 院長先生が写真たてにタッチすると、写真が換わった。デジタルフォトスタンドなんだ。

 そして現れたのは、まさに思い浮かべたアニメのキャラ。

 角谷杏、大洗女子学園の生徒会長にしてガルパンの重要バイプレーヤーだ。

「わたしも一期だけ生徒会長やっていたんだけど、ミテクレもキャラもよく似ていて。散策部の仲間だった子が杏子の写真と一緒に送ってくれたの。それで、わたしもファンになって、夕陽丘さんも『ガルパン』は知っていたのかしら?」

「はい、小学生のころから観ています」

「あなたは誰のファン?」

「はい、五十鈴華です!」

「ああ、お花の家元の娘さんね」

「はい、おっとりして伸びやかな性格と、いくら食べても太らないところが好きです」

「そうね、彼女のご飯て、いつもビックリするくらい多いものねえ」

「最初は大食いなのに気が付かなかったんです。なんども繰り返し観ているうちに、食事シーンの時の彼女の分の多さにビックリして、あれにはあやかりたいって思いました」

「そうよね、だから低血圧の冷泉さんをオンブしたりできるのよね!」

「ええ、さりげなく凄いところに感動しますよね!」

 

 こうやって淹れ過ぎのダージリンを頂いたころ、わたしは散策部に入ることを決心した。

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ポナの季節・14『今日から中間テスト』

2020-08-25 06:20:05 | 小説6

・14
『今日から中間テスト』    



 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



 今日から中間テスト。

 だけどポナはガツガツ勉強なんかしない。

 学校の成績なんか適当でいい。ポナの人生訓である。
 

 中学のとき、お父さんと同じM大出の先生と東大出の先生がいた。東大が偉いのは世間の常識。M大が昔から落ちこぼれ大学であることも世間の常識。
 でも、お父さんもM大出の先生も普通以上の先生になっている。東大出の先生の授業はつまらなくて、ほとんどの生徒はろくに授業を聞いていなかった。この東大出の先生は、ポナの卒業と同時に都の教育委員会に「指導主事」という肩書で出て行った。

「ああ、そういうのは現場で使い物にならないやつらの吹き溜まりさ」

 お父さんは、事もなげにそう言った。

 ポナの兄姉もそうだ。がっついた勉強は、大ニイが防大を受けると決心した半年ぐらいのもので、あとは、みんな、その時の自分の身丈に合ったところに進学なり就職している。ただチイニイ一人が警視庁に入りながら数年で辞めて怪しげな商社に入ったのが例外。でも、本人はちっとも落ちこぼれたとは思っていないようだから、それはそれでいいと思う。

 だから、ポナはテスト期間中で早く帰ったからと言って、いきなり勉強なんかしない。

 家に帰って十一時前。丹後屋の半殺し饅頭を一個だけ、奈菜といっしょに買って食べたから、昼にはちょっと早い。
 で、ポチを連れてちょっと離れた大川の河川敷まで散歩にいく。

 途中、こないだ風邪をひいた時に世話になった薮医院の前を通る。

 ちょうど診察を終えたばかりの若い奥さん風が元気なく出てきた。まあ、お医者さんから出てくるのは病人と決まっているから、そうそう元気一杯で出てくる人はいない。
 藪先生が、追いかけるようにして出てきた。
「奥さん、もうちょっとの辛抱だ。な、いいね。心配なら毎日でも診てあげるから。ね」
 西田敏行に似た先生の、いつものお節介だ。ポナのときも「三社のお祭りは、来年もあるんだからな」と念を押された。

「お、ポナじゃねえか。ポチと散歩か?」
「うん、大川まで」
「そうか、無理するんじゃねえぞ」
「もう、風邪は完璧に直っているから」
「違う、ポチの方だ。ポナと同い年だから、人間で言やあ後期高齢者だ。ほどほどにな」

「後期高齢者だって」
 ポチは、きょとんとした顔でポナを見上げた。

 大川の河川敷に下りると、ポチとボールで遊んだ。リードを外すのは条例違反だから、リードを持った手の方を放す(文句ある?)。ボールを高く投げてやると、プロ野球のキャッチャーのようにジャンプして口でキャッチする。
 次は遠くに投げてやる。ポチは懸命に追いかけて、口で咥えて戻ってくる。子犬のころからポチが一番好きな遊びだ。

 でも。十五回ほどやると、咥えたボールを放して、リードの先を咥えた。
「なんだ、もう飽きた?」
 藪先生の「無理すんな」という言葉が蘇ってくる。
「そうか……」 

 ポチも歳なんだという言葉は飲み込んだ。

「ねえ、お母さん……」
 昼ご飯にチャーハン作って食べながら、藪先生の言葉をそのまま話した。
「先生のおっしゃる通りだろうね……」
 ポチの事は真っ正直に答えてくれたが、若い奥さんが「もうちょっとの辛抱だ」と言われたことには、曖昧に笑っただけだった。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補


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ぜっさん・09『神メイド その名は皇ルミカ』

2020-08-25 06:10:10 | 小説3

・09
『神メイド その名は皇ルミカ』    



 可愛いメイドさんがプラカードを持って立っていた……。

 で、メイドさんは「あ、敷島さんと加藤さん!」とピョンピョン跳ねながら手を振る。
 それが、同じクラスの毒島(ぶすじま)さんだと気づくには数秒かかった。

「いやー、ティッシュ配りのついでに迎えにいこかとしてたとこよ!」

 元気で可愛い笑顔をされると、これが、あの毒島さんかと、また思ってしまう。
 毒島さんは、学校ではドンヨリしてる。なんだか、学校に居るのが苦痛のようで、彼女に話しかける者も、あまりいないし、彼女から話しかけてくることもない。勉強は普通の成績のようだけど、授業中に当てられたりすると、俯いて何も答えらない。
 日本橋高校は、めったにいじめとかはないんだけど、彼女の場合、名前を呼んだだけで……ちょっとね。

「あたし、ここでは皇ルミカ(すめらぎるみか)なの。あ、とりあえず制服に着替えてもらえる?」

 案内されたロッカールームでフリフリのメイド服を渡される。
「汗みずくで着ていいのかなあ?」
「ごめん、順序が逆よね。廊下出た突き当りがシャワールーム、狭いけど二人いっぺんに入れるわよ」
 シャワーを浴びてメイド服に着替える。サッパリしたんだけど、どうも気恥ずかしい。
 だってメイド服なんて初めてなんだもん。
「ま、文化祭だと思ったらヘッチャラだよ」
 毒島、いや皇ルミカさんは、そう言いながら、わたしの顔に薄くメークをしてくれる。瑠美奈はもう一人のメイドさんにやってもらっている。

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様あ~♪」」」」

 お店に入ると、フロアーに居た四人のメイドさんの声がハモった。ちょうどお客さんが入って来たところなのだ。
「お客さんじゃないわよ、ご主人様」
 ルミカさんに笑顔のまま注意された。
「「あ……」」
「今日は、ここで立っていて、雰囲気に慣れてくれるだけでいいから」
「「ハイ」」
「緊張しなくていいわよ、背中が丸くならないように。そして踵を揃えて、手はオヘソの所で右手が上ね……そそ」
 学校とは逆に毒島……皇さんが饒舌で、わたしたちは「あ」とか「はい」とかしか言えなくなっている。
「お、ラッキー、今日はルミカさんが居るんだ!」
 お客さん……ご主人様の一人が気づいて嬉しそうに手を挙げた。
「お帰りなさいませご主人様、今日はお買い物ですかあ」
 ニコニコ笑顔でテーブルに向かうルミカさん。
「……そなんですか、フフフ、ご主人様お上手です!」
「ハハ、ルミカさんこそ」
「そう言えば、ご主人様あ……あ、お帰りなさいませ~♪」
 ルミカさんは水を得た魚のように、フロアーを回遊している。こんなに明るく元気な彼女を見るのは初めて。
「ねえ、ルミカさん。あちらのメイドさんは?」
 ご主人様たちの視線が、わたしたちに向けられた。
「ご主人様ったらお目が高~い! あの二人は来週から入ってもらう新入メイドで~す」
「「「ほ~~~」」」
 瀬踏みの視線でなど見られたことが無いので、アセアセになってしまう。
「何曜日に来たら彼女たちに会えるのかなあ?」
「ウフフ、それはまだ神さましか御存じではありませんの~」
 
 そう、わたしたちは9月いっぱい、メイド喫茶で働くことになったのよ……。

 お店は、ホワイトピナフォー……だったよね、瑠美奈さん?
 


主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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かの世界この世界:51『自己紹介の前にバケツリレーだ』

2020-08-25 05:55:28 | 小説5

かの世界この世界:51     

『自己紹介の前にバケツリレーだ』   

 

 

 近づいてみると半分近くが焼け跡だった。

 

 残りは火事の後に住めなくなって放棄され、雨風に晒されて朽ち果てた様子だ。

 ムヘンで一番安全と言われるシュタインドルフが、こうなってしまうには事情があったんだろうけど、事情に思いいたす前に無残さに気持ちが萎えてしまう。

 S字の坂道を上れば入り口というところで子どもたちが駆けだしてきた。

 ウワー戦車だ! カッコイイ! 兵隊さんだ! ロキ乗ってる! フレイも! あたしも乗りた~い!

 後ろから修道女めいた、たぶん先生が追いかけて、なにやら注意しているが、子どもたちの馬力は、その上を行く。

 孤児院の敷地に入って停めようと思っていたが、取り囲まれてしまったので、やむなくゲートの前で停車した。

 

「辺境警備隊のタングリス一等軍曹です、支援物資を搬送してきました、あ、危ないから、触っちゃダメだよ」

 履帯や転輪を触り、よじ登ろうとする子もいるので、大人たちはロクにあいさつも出来ない。

「これ、みんな。最初はご挨拶でしょ」

 遅れてやってきた年かさの女先生が声をかけて、やっと子どもたちが落ち着いた。

「じゃ、ご挨拶。ようこそヴァイゼンハオスへ」

「「「「「「「「「「「「「ようこそヴァイゼンハオスへ!」」」」」」」」」」」」」

 先生が音頭を取ると、子どもたちは揃って挨拶を返してくれる。

「オッス、みんな待たせたな」

 ロキが砲塔の上に立って偉そうにするが気にとめる者はいない。

「軍曹さん、先にお水を……」

 遅れてハッチから出てきたフレイがご注進。

「そうだな、水に困っておられるようでしたので少しばかり汲んできました」

「それは助かります」

「後ろの水槽に入れてありますので、リレーしましょうか?」

「はい、みんな、バケツを持ってきてちょうだい!」

 ハーーイ!

 先生の指示で、子どもたちはバケツを取りに戻った。

「じゃ、戦車を中に入れます。いいですか?」

「はい、左側のドアに寄せてください。キッチンですので」

 先生の指示で、戦車を指定の位置に持っていく。

「二号戦車でも大きく感じる」

「そこ、花壇が……」

「避けていると入らないなあ」

 二三度車体を動かしてみるが、安全を考えて花壇の手前で停車させる。

「じゃ、要所要所に大人が立ってリレーしましょう」

 戦車側に乗員、キッチン側に先生が立って、間を子どもたちが入ってバケツリレーが始まった。

 その間「ちょっと」とか「あのう」とかでは喋りにくいので、リレーをしながら自己紹介をやった。

 

 子どもたちはロキたちに似た年頃の男女合わせて十三人。 

 先生は院長のベストラさんと、去年赴任したばかりのフリッグさんだ。

 

 こちらは、四名の乗員がぜんぶ女なので驚かれたが、子どもたちは早くも発見してしまったゲペックカステンのお菓子に目を輝かせ、ろくに聞いてはいない。

 しかし、先生たちの指導が行き届いているんだろう、作業が終わったらお菓子を配ると分かると、チャッチャと自己紹介とバケツリレーに集中した。

「この村は、いったいどうしたんですか?」

 作業後、ダイニングで休憩。まず、わたしが切り出した。

「はい、シュタインドルフはオーディンシュタインのご加護で魔物は寄せ付けないんですが、オーディンシュタインというのは巨大な一枚岩でしてね……村は、その一枚岩の上に乗っかているようなものなんです」

「岩はとても硬くて水を通しませんし、井戸を掘ることもできません。それで、水はムヘン川へパイプを伸ばしポンプでくみ上げていました」

「去年、火事が起こったんです」

「シュタインドルフはオーディンシュタインの分だけ小高くなっていましてね、ムヘン川から吹く川風が駆けあがってくるんです。消火に使える水も乏しく、あっという間に燃え広がってしまいました」

「村人たちは孤児院を大事にして下さって、なんとか類焼は免れましたが、ポンプ小屋と水槽タンクをやられてしまいまして」

「その後の嵐で、残った家々も無残なことになってしまいまして、今では、この孤児院を残すだけとなってしまったんです」

「フリッグ先生が赴任される前は、暖かくなったら、聖府にお願いしてムヘンブルグに移ろうと思っていたところです」

「子どもたちは、このシュタインドルフが好きなんですけどもね」

「ね、いちどポンプとか水回りを点検してあげない? 必要とあらば、このブリが堕天使の力を使ってあげるわ」

「堕天使はともかく、点検はやっていいんじゃないかな。力仕事なら戦車の力も使えるだろうし」

「そうですね」

 ブリ提案し、グリが組んだ腕を解いたのがスタートになった。

 戦車の外装工具や、ゲペックカステンに残っていた少しの工具を使って点検作業が始まった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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